第743話 彼の願い
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全長三百万光年サイズの紅蓮翼機神レドディスのコアにいるディオス。
レドディスの額にある第三の眼のようなコアでディオスは、自分と繋がるヘオスポロスの通信から、桜花がオメガデウス・ノーヴァに乗っているのを知り
「桜花!」
と、レドディスの背中に広がる光輪と世界を破壊して再構成する力を使って、桜花がいる惑星まで瞬間移動する。
その惑星からレドディスでは、大海の一滴よりも小さな光が昇る。
桜花とラハンが乗ったオメガデウス・ノーヴァだ。
その後を六つの光が追跡する。
ネオデウス・ウェポンの彼らだ。
オメガデウス・ノーヴァが双極超越存在となるシステムを発動させる。
桜花とラハンが、超越存在の元へ繋がる極天の次元へ接続を開始する。
超高次元へ向かう、桜花とラハンだが…極天達は二人に触れようとしない。
いや、見守っている極天はいる。
全ての対である極天、陰陽の大父母だ。
それ以外は、誰も見守っていない。
ラハンは項垂れる。
自分達は、それに値しないのだ。
強い決意と思っていた感情は、何処にでもある有り触れた程度。
何かの怒りでもなく、悲しみでもなく、願いでもなく、祈りでもない。
よくある事。
ラハンの悲しみが桜花に伝わる。
ラハンに接続するゾディファール・セフィールのコアにいる桜花が、ラハンの肩に手を置いて
「いいよ。私が力を貸すわ」
桜花は自分の中にある超越存在の力にアクセスして、超越存在の元、かつての祖先の超越存在と繋がった、誉れある光と繋がる。
自分を基点としてラハンに超越存在としての力を与える。
ラハンは、自分が情けなかった。
あの時もそうだった。
ゲイオルとレイシュンがいなくなった原因も、自分の愚かな考えからだ。
自分は、所詮…赤王家と碧王家の神輿に乗っているだけの小さな存在なのだ。
絶対に守ると誓った彼女を守れもしないで、その恩恵を与えられるだけ。
無力、無意味
それを噛みしめるも、双極の指輪と繋がる桜花が
「いいじゃない。人は誰だって弱いのよ」
オメガデウス・ノーヴァに超越存在の力が降臨する。
光が広がる。
その光は百万光年サイズ、そこから白銀に輝く機神が出現する。
白光と輝く蝶の如き鎧巨人、人工超越存在…エヴォルドが出現する。
そのエヴォルドの額のコアにいるのは、己の無力さに涙するラハンと、その後ろで女神のように輝く桜花だった。
それをディオスが知った時
ヴォオオオオオオオ!
怒りを噴火させる。
三百万光年サイズのレドディスの光輪から更なる力が噴出する。
それは、一つの時空、セレソウム時空を覆い尽くす程の世界改変力を発揮する。
ディオスは激怒を超えて嚇怒していた。
娘の桜花をここまで追い込んだセレソウム時空が許せなかった。
それに対して桜花とラハンがいる人工超越存在エヴォルドは、その拡大を防ぐ為に抑える力を発揮する。
レドディスの周囲に押さえ込む七色の防壁を展開するが、超越存在としての階位は、圧倒的にディオスのレドディスが上だった。
セレソウム時空が変貌する。
セレソウム時空の三次元に広がる宇宙が、レドディスの力によって平面のように変換されていく。
三次元の広がりを持つ宇宙が、一枚の板のようになり、その上に高次元が出現する。
それは球体の地球を平面に変える程のムチャクチャだ。
だが、その無茶を止める為に出現する者がいた。
「ディオスさん! 止めてください!」
北斗だった。
三次元を平面、二次元に変えた所で、高次元から北斗が出現した。
北斗は、高次元で自身の神越存在の力エクスドラグナーを発動する。
白と黒の龍の顎門達を持つ白光の鎧巨人エクスドラグナー。
北斗の超高次元での神越存在の力が、ディオスの行動を止める為に動く。
高次元からエクスドラグナーの龍の顎門達が伸びて、ディオスのレドディスを掴もうとするが掴めない。
ディオスの力が強すぎる。
ディオスの怒りが極天まで届く。
普遍的ではない、己の強い意志。桜花という娘を大切に思う父として、ディオスとしての愛情が、極天に届き、幾つもの極天がディオスに魅入られる。
進化の果て、誉れの女神、抱擁の女神と魔導天、陰陽の大父母、創造の光
終わりの黄昏、意己決已
七つの極天がディオスに魅入られて、更なる力をディオスは発揮する。
超越存在・極地顕現
ディオス達、生命が存在できる次元と、極天がある超高次元との回廊が形成される。
ディオスのレドディスを柱として、セレソウム時空が強制的に高次元へ押し上げられる。
高次元へ時空が突入するという事は、全ての存在が神格化するという事だ。
それは、かつて北斗を神越存在まで神化させたアヌンナキ・ホモデウスであるベルダ・バルタザールが成し遂げられなかった事をディオスが成し遂げようとしている。
だが、全ての存在が神格化できるはずもない。
神格化できない者は、神格化できる者に合一、吸収される。
いわゆる、デウスへの補完だ。
ディオスの発動させた超越存在・極地顕現を北斗は止められない。
「う、ぐぐぐ…」
と、北斗はディオスの力の強さに苦しむ。
それは、人工超越存在エヴォルドである桜花とラハンも同じだった。
抑えられない。それ程にディオスが持っている力の深化と神化が強すぎる。
自分達では…。
そこへ空間転移してくる一隻の四千メートル級の時空戦艦が出現する。
十字架型の四千メートル級の時空戦艦。
それは、セレソウム時空の為に神越存在を創造しようとしていたゲイオルとレイシュンの時空戦艦だ。
その時空戦艦にルビードラゴンとアズサワも乗っていて、現状にルビードラゴンが青ざめ
「全く、これ程の力を引き出すか…」
と、驚愕を口にする。
アズサワが自分の端末と時空戦艦の端末を接続させ
「これでは、セレソウム時空が神格域へ引き込まれる」
ゲイオルが自分と繋がる555と刻まれた結晶の棺を見て
「この事態を…何とかする為に、コレを使うしかありません」
ルビードラゴンが
「良いのか? 当初の目的が…」
ゲイオルの隣にいるレイシュンが
「セレソウム時空が無くなっては、意味がありません」
アズサワが
「このまま、ディオスがやろうとしている事の影響で、どれ程のセレソウム時空の民が犠牲になるか…分からん。それを防ぐなら、今しかない」
ルビードラゴンも装置に触れて自分の力を貸して
「全く、何時も事態は最悪に転がっていくのは、世の常か…」
ディオスのレドディスによる超越存在・極地顕現を防ぐ為に
桜花とラハンの人工超越存在エヴォルド
北斗の神越存在の力
ゲイオルやレイシュンの神越存在の創造
この三つをディオスの力にぶつけた。
レドディスの黄金の柱を前に、三つの光の波動が向かっていく。
桜花とラハンの力、北斗の力、ゲイオル達の力
その三つがレドディスの超越存在・極地顕現に接触して混ざり合う。
セレソウム時空全体を包み混む程の光の雨。
その中心で
「止めて、お父さん」
と、桜花が怒る父ディオスに叫ぶ。
だが、届かない。
怒りの権現となっているディオス。
そこへ
「おい、いい加減にしろ」
と、ディオスの頬を軽く叩く人物がいた。
ディオスがハッとして意識を戻すと、目の前に顔が見えない人影がいて、そいつが笑み
「娘が…止めてくれって言っているぜ」
ディオスが再び怒りの顔で
「だが…娘は、桜花は…」
そう、桜花はラハンを超越存在とさせる基点になってしまったので、元には戻れない。
ディオスに呼びかけた人影が呆れて
「だが、死んでいない。魂は輪廻の輪へ向かっていない。維持されているなら…」
と、桜花の元へ彼が飛び。
「おい、良いのかコレで?」
と、ラハンに呼びかける。
ラハンは、目の前に現れた人影に
「そんな筈ないだろう」
無力な自分が許せない。
人影が
「なら、どうしたい?」
ラハンが苦しそうな顔で
「彼女を、シュンカ様を…救いたい」
本心からの願いだ。彼女を…桜花を救いたい。
それは、純粋な愛であり、ラハンの望みだ。
誰かの為に、自分以外の大切な他人に幸せになって欲しい。
人だけが持つ人としての意思。
それに意己決己と魔導天が魅入られる。
人影だったそれに実態が現れる。
微笑む男性の胸に555と数字が刻まれている鎧があった。
その彼が
「どうする? お前の存在と引き換えに…助けられるなら…」
ラハンを超越存在とさせている桜花が、ラハンの意思を知り
「ダメ、そんな…ダメ」
ラハンは涙して
「ああ…そうだな。それで守れるなら」
と、555の彼に手を伸ばす。
555の彼はラハンの手を握り
「後悔はないか…」
それを遠くでゲイオルやレイシュン、ルビードラゴンが視ていた。
ラハンが後ろを向いて、桜花に優しく微笑み
「生きて、幸せになってください」
ラハンと555の彼は合一して、全ての力を呑み込んだ。
超越存在・極地顕現という事象と、桜花を人に戻す事、そして、それを引き金に桜花を新たな超越存在、宇宙王級にして。
セレソウム時空の二つの超越存在が出現する。
ゲイオルに繋がる元の超越存在。
桜花から始まる超越存在。
二体の超越存在が共存する二柱の超越存在が出現する。
その存在は、白き結晶で作られた星系サイズの花弁だった。
そして、他の余った力をラハンと合一した555の彼が別世界へ持って行く。
555の彼がいるゲイオルと繋がる結晶の棺が時空戦艦から飛び出して別の世界、別時空へ跳躍していった。
ディオスは、デウスマギウス・ゼウスヘパイトスの姿に戻り、星系サイズの花弁型の超越存在の力の大地に立ち、その頭上から光に包まれる桜花が降り立ち、それをディオスは両腕に抱き留める。
桜花が星空を見上げて、別時空へ消える555の結晶の棺を見つめて涙する。
その上に、ゲイオル達の時空戦艦が来て、ディオス達の周囲に保護する為にネオデウス・ウェポン達が来て、エピオンが
「ご無事ですか?」
ディオスは、抱えている桜花を見る。
桜花は
「私は大丈夫だよ。父さん」
ディオスは頷き
「だ、そうだが…後で私と娘のメディカルチェックを頼む」
エピオンは頷くそこへ、ゲイオルとレイシュンも頭上の時空戦艦から下りてきて
「シュンカ!」
と、ディオスが抱える桜花の元へ走ってきた。
そして、北斗も現れて
「ディオスさん。アヌビス様達が話をしたい…と。分かっていますよね」
ディオスは渋い顔で
「ああ…分かっている。どんな罰だろうと受ける」
北斗が呆れ気味に
「そうなって欲しくなかったですよ」
ディオスが頭を北斗にさげ
「すまない」
復讐の災厄、讐怨は…こうして終焉した。
555の彼を乗せた結晶の棺は消えて、その先をルビードラゴンは思う。
「かつて、己だけを突き詰めた災神の亡骸は、どこへ向かうのだろうなぁ…」
その隣にいるアズサワが
「もしかしたら…自分だけしかいない虚無の海に飽きて…。いや…もう、一人でいる事に飽きたのだろう」
ルビードラゴンが
「そんな存在だった元を放置して、大丈夫なのか?」
アズサワが
「問題ないだろう。なにせ、他者を受け入れて消えたのだから…」
ルビードラゴンが呆れ気味に
「自分以外は全て滅殺の災神が、他者を受け入れて進むか…」
アズサワが遠くを見るように
「怨みは消えないが…憎しみを維持するなんて出来ないからね」
ルビードラゴンが
「シンイラが探し出すかもしれないぞ。系統的には同じだからな」
アズサワが
「その時は、聖帝ディオス様に頼るさ。なんせ、全てを救う権現だからね」
終焉を迎えた事態、様々な波乱を残しつつも時は前に進む。
次回より、新章、再会一会 編が始まります。
次回、後始末