第739話 求める先 後編
次話を読んでいただきありがとうございます。
その日は、普通だった。
ティリアと桜花も他の子供達と一緒に学校へ行き、ディオスは何時もの会長職と魔導研究に開発、ルビードラゴンは別の時空へ行ってヘオスポロスの調べ物で数日は帰ってこない。
何時ものアースガイヤでの日常が過ぎていく。
ティリアと桜花に、上のティリオとゼティア、リリーシャが一緒に帰宅している。
他の子達は、先に帰っていた。
ほんの数メートルの距離だ。
オルディナイト邸宅の門が見えてきた。
ティリオが立ち止まる。
「どうしたの?」
と、リリーシャが聞く。
ティリオが右の方へ、道路の向こう側を睨んでいる。
ゼティアが
「ティリオ。何、立ち止まっているの?」
と、誰もいないはずのそこを睨むティリオの顔を見つめる。
ティリオが手を回して魔導収納から魔導剣を取り出して握り
「いる。姿をステルスに偽装している」
『え?』とゼティアとリリーシャがティリオの見ている方を向いて魔力の波、シンギラリティの力を放つ。
それの反応で、何かがいるのを察知した瞬間、見えない者が斬りかかる。
ティリオはリリーシャとゼティアの前に出て魔導剣で斬りつける。
火花が飛ぶ。
ぶつかったそれと、ティリオは切り結ぶ。
リリーシャとゼティアも急いで魔導収納から魔導武器を取り出し、リリーシャは両手剣、ゼティアは槍を握り、ゼティアが
「ティリア! 桜花!」
と、向かう。
だが、桜花の口が見えない何かに塞がれ
「桜花!」
と、ティリアが手を伸ばしたが、桜花が見えない何かに包まれて消えた。
ゼティアが鋭い槍の突きを見えない何かに放つが防がれる。
ゼティアの魔力の波、シンギラリティの力はまだ、連れ去る桜花を捉えていて、間に合う!と向かうも、ゼティアを防いだ見えない人物が足下に爆弾を落とした。
ゼティアはティリアを守る為に抱えた瞬間に爆発、ゼティアの発動した魔法防壁でティリアとゼティアは守られるも、桜花が攫われた。
ティリオとリリーシャの眼が怒りで赤く輝き、聖帝の血族が持つシンギラリティの力で身体能力が超絶に増幅され、襲ってきた者達を殴り飛ばした。
ぼろ切れのごとく飛んでいく襲撃者達、その姿は…。
ステルスの外装が剥がれたそこには、セレソウム時空のクガイ装甲が現れた。
紅蓮のように燃えるシンギラリティの力を纏うティリオが、クガイの者の鎧仮面を剥がすと、そこには機械のシステムが広がっていた。
無人機達だ。
おそらくだが、桜花を攫った人物だけに人が乗り、他は無人機だったのだ。
「アイツら…」
と、ティリオは鎧仮面を握りつぶす程に怒り狂っていた。
誘拐された桜花は、近くにステルスで隠れていた時空戦艦にいた。
桜花の首には、桜花に宿った聖帝ディオスのシンギラリティの力を封印する装置の輪がハマり、両手を背中の後ろで拘束されている。
桜花が誘拐したクガイを睨み
「アナタ達…」
クガイの者が鎧仮面を外すと…
「申し訳ありません。こうするしか…なかったのです」
と、赤王家のラハンだった。
その隣に
「いやいや、成功だね」
と、ゼキスが来た。
ラハンが苦しそうな顔で
「これで…全ては…」
ゼキスは怪しげな笑みを浮かべて
「ええ…アナタ達の王が誕生しますよ。いや、女王かな…」
桜花が二人を見て
「どういう事…?」
ラハンが拘束される桜花に跪き
「どうか…我らの新たな王に…なって頂きたい」
ゼキスがラハンの肩に手を置いて
「彼と君を繋げて、双極超越存在にするんだよ」
桜花が困惑を浮かべて
「ええ…どういう…?」
ゼキスが道化師のように両手を広げ
「昨今、聖帝ディオスには、とある義弟がいてね。その義弟は…ルーナとセレーメという二つの時空で、対となった女性と共に双極超越存在となったんだよ。その技術を使って、君と彼を…新たなセレソウム時空の超越存在にするんだよ」
桜花が唖然となってしまう。
ルビードラゴンは、とある場所へ来る。
そこは、超巨大な時空戦艦だ。
全長が四千メートルもある十字架のような時空戦艦だが、攻撃システムは少ない。
必要な最低限しか装備されていない。
その大半は、中心になっている結晶のようなコア部分、十字架型の交差点にある存在の為に動いている。
その中心では、ゲイオルとレイシュンが作業をしていた。
ゲイオルと両手、背中に接続された端末とパイプ達、その隣にレイシュンが超越存在の力で様々な装置を動かしていた。
レイシュンが作業を続けて…
「兄さん。ぼくは…」
ゲイオルは微笑み
「気にするな。オレには何も後悔はない。お前達や娘達、レイシャ達を幸せに出来るなら…幾らでも犠牲になる覚悟がある」
と、二人の目の前にある結晶の棺を見つめると、そこには両手を交差した人物がいる。
結晶の棺には、555と刻まれている。
何かを二人は創造していた。
そこにアズサワが来て
「順調かい?」
レイシュンが影から影に瞬間移動する力でアズサワの元へ来て
「はい。色々と…ありがとうございます」
アズサワが笑み
「気にするな。君には、あの時に助けて貰った恩がある」
レイシュンが
「ワザとでしょう。アナタなら…幾らでもあの状況を抜ける方法を持っているはずだ」
アズサワが肩をすくめて
「聖帝ディオスの力を過小評価しない方がいい。それよりも…君達の…いや、ゲイオルくん。本当にそれでいいんだね」
動けないゲイオルが微笑み
「死ぬわけじゃあない。ちょっと歩行が…歩けなくなくなるかもしれません。そして…」
と、ゲイオルは自分の手を見て
「これが最良だと思います。これでしか…悲劇を止められない。そして、これが代々と続くセレソウム時空の超越存在の命題でもありますから…」
アズサワが腕を組んで
「我々としては、良い実験データが取れるから協力する価値はある。お代は気にしなくていいぞ」
ゲイオルがお辞儀して
「ありがとうございます」
アズサワが少し横へ動き
「それと…すまん。誤魔化し切れなかった」
と、避けた後ろの扉からルビードラゴンが現れた。
「あ…」とゲイオルは驚き、レイシュンが困惑する。
現れたルビードラゴンが
「探したよ。色々と偽装していたようだが…まあ、見つかったから良いか…」
レイシュンが
「何のつもりですか?」
と構える。
ルビードラゴンが
「オレには止める権利はないが…桜花が…シュンカは、お前達が何をやろうとしているのか?という事を知る権利はある」
レイシュンが悲しげな顔で
「知ったら止めるだろう…」
ルビードラゴンも渋い顔で
「そうだろうな。だが…」
と、次を言おうとした瞬間、アースガイヤと繋がる通信にコールがかかる。
相手はティリアだ。
「どうした?」
と、ルビードラゴンは通信の立体映像端末を開く。
その画面には泣いているティリアがいて
「おじちゃん! 桜花が! 桜花が攫われたよ!」
それを聞いたアズサワが急いでヘオスポロス内にある情報を探る為に立体映像端末で検索を始める。
ルビードラゴンが泣いているティリアに
「落ち着け。どういう状況なんだ?」
ティリアが
「アタシ達が帰っている途中に、セレソウム時空のクガイっていう兵器が襲ってきて、それで桜花が…」
その通信画面にティリオが現れて
「ルビードラゴン。ぼく達が学校から帰ってくる途中にステルス偽装した部隊が襲撃してきて、防戦している合間にティリアが誘拐された。襲ってきた部隊の数人を捕まえて調べたら、セレソウム時空のクガイをベースにした人型ゴーレムで、おそらく…誘拐した人物だけに人が乗っていたと思う」
アズサワが検索を終えて
「ヘオスポロスから…とあるデータが持ち出されている。聖帝ディオスの義弟、崎島 信長とその伴侶であり対のユイ・ルーナとの対存在の超越存在のデータ、双極超越存在のデータと、聖帝ディオスが構築した超越存在への覚醒のデータだ」
ルビードラゴンがアズサワを凝視して
「持ち出したヤツは…まさか…」
アズサワが鋭い視線で
「活動停止中のゼキス・アーダスだ」
それを聞いたゲイオルとレイシュンは青ざめる。
かつて、自分達の両親を殺したヤツに資材を提供した疑いがある人物だ。
そして、ルビードラゴンと繋がるティリアの通信にディオスが顔を見せ
「ルビードラゴン、今…ヘオスポロスにいるな」
と、その顔は怒りに染まっている。
ルビードラゴンが頷き
「ああ…まあ、そうだが…」
通信の向こうで鬼神となっているディオスが
「アズサワも隣にいるな…」
その鬼迫に飲まれたルビードラゴンが頷き
「ああ…」
ディオスは重く鋭い声で
「ヘオスポロスに依頼をしたい。報酬は何がいい? アズサワ…」
アズサワがルビードラゴンの通信に顔を見せ
「何の依頼だね?」
と、訪ねる声はどこか震えていた。
娘を奪われた鬼神の聖帝ディオスが
「お前等の中で最高の索敵と戦闘が出来る兵器人を寄越せ! 娘を今すぐに奪還する!」
アズサワが冷や汗を流し
「それでは、色々と他の時空の宇宙王や超越存在との」
「知った事かぁぁぁぁぁぁ!」
と、ディオスはぶち切れて声を荒げた。
別の通信がアズサワとルビードラゴンに入り、ルビードラゴンがそれに出ると
「ディオス、ヘオスポロスの統括であるエグゼクティブ達が通信を求めている」
ディオスの元へティリオがルビードラゴンと繋がる通信からエグゼクティブ達が出て
「聖帝ディオス様。この度の失態、我らが原因です。申し訳ありません」
と、エグゼクティブ達の謝罪から始まる。
怒るディオスが
「で、どうするんだ?」
エグゼクティブ達が
「今回の件、ディオス様の望み通りに、誘拐された桜花様の奪還の為に、ヘオスポロスで最大最強の成果を果たすネオデウス・ウェポン達と部隊の派遣をお約束します。それは、その成果が果たされるまで、どうぞ…ご自由にお使いください。全ての費用は、全額、ヘオスポロスで持ちますので…ご心配は無用です」
誘拐された桜花。
それに激怒する父ディオス。
全てに最悪な結果を連鎖させて
次回、激怒する父親