第736話 兄弟の意思 前編
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それはゲイオルの長男、二人目の子供をレイシャが懐妊した時の事だ。
レイシャとゲイオルの間に産まれる二人目は、検査の結果、男児で…そして、ゲイオルと同じ素養を持っていた。
長女のユエも同じ素養を持っているも、二人目の子の方が強かった。
ゲイオルは、その日…何時ものように皇帝宮にある超越存在のセレソウム時空全体を支えるエネルギーシステムの調節を弟レイシュンと共に行っていた。
巨大な龍の結晶。
その全長は、数千メートルと巨大で数キロサイズの都市級の皇帝宮の地下全域がそのシステムで埋まっている。
ゲイオルがイメージ伝達端末の台座に乗って、セレソウム時空とそれと隣り合う時空へのエネルギー分配を調節していた。
ゲイオルは、作業している間…厳しい顔だった。
そこへ、同じく別場所で調節しているレイシュンの通信が開き
「兄さん、終わったよ」
「ああ…」と答えるゲイオルの口調に覇気がない。
それにレイシュンが
「どうしたの? 兄さん…」
ゲイオルが
「いくら、隣接する時空との戦争回避の為にセレソウム時空が使う超越存在のエネルギーを分配するとはいえ…限界はある」
レイシュンが乗る台座がゲイオルがいる台座に近づき、レイシュンが飛び乗って
「でも…争いになるよりは、マシでしょう」
ゲイオルは頷き
「そうだな…今後、エネルギーを増幅する方法を考えるとしてだ」
レイシュンが微笑み
「兄さん、レイシャさんとの間に二人目だよね。頑張らないと…」
ゲイオルが
「二人目は、オレと同じ強さの資質を持っているようだ」
レイシュンが少し悲しげに俯き
「そうか…どうするの? 兄さんは、その息子に…」
ゲイオルが遠くを見つめて
「分からない。でも…子供達の未来だけは守りたい…それだけは、譲れない」
と、告げて台座を元の位置へ戻す。
ゲイオルとレイシュンは降りて歩き出し
「兄さん、変わったね」
と、レイシュンが
ゲイオルは
「色々とあった。そして、レイシャには本当に迷惑を掛けた。だから、レイシャやユエ、産まれるヨアには…自分とは違う未来を歩んで欲しい」
レイシュンが
「きっと出来るよ。こうやって頑張っているんだもん」
ゲイオルがレイシュンを連れてエレベーターで登り
「時間は掛かるが、何時かは…」
そうして、二人は地上に戻ると、レイシュンは備品の確認へ向かい、ゲイオルは今日の作業誌を作成に向かう。
事務室に入り、作業誌を記載している立体映像端末とにらめっこしていると
「はかどっていますか?」
と、アルシャナス女王が来た。
ゲイオルは立ち上がり
「ああ…女王陛下。ようこそ…」
と、告げた後に周囲を見て
「護衛の方は?」
アルシャナス女王は微笑み
「ばっくれて来ました。今頃、大慌てでしょう」
ゲイオルが呆れた顔で
「勘弁してくださいよ。ここにいて見つかれば怒られるのは自分なんですから…」
アルシャナス女王がゲイオルの隣に来て椅子を引いて座り
「その時は、かばいますから、ご安心を…」
ゲイオルは呆れつつ、そばにある給湯場へ行きお茶を用意して
「ばっくれた暇人の女王様が、何をしにここに来たんですか?」
と、ゲイオルはアルシャナス女王にお茶を差し出す。
アルシャナス女王は微笑みながら
「リュウセイ将軍から聞きました。二人目が誕生した…と」
ゲイオルは頷き
「ええ…男の子です」
アルシャナス女王が微笑みながら
「そうですか。それではレイシャとの営みは当分できないでしょうから…浮気するなら私でお願いしますよ」
「はぁぁぁぁぁぁ!」と一生に一度の盛大な呆れた顔をゲイオルは向ける。
それはもう、何をコイツは言っているんだ?という顔色が出る程だ。
アルシャナス女王は微笑みを変えずに
「レイシャには言っておいてありますから…ですから、わたくし以外と浮気をするのは重罪ですよ」
ゲイオルが顔を引きつらせる。
アルシャナス女王は
「アナタは、唯一の次代を残してくれたセレソウム時空の超越存在です。もしもの場合を考えて、次をたくさん作っておく事は大事ですよ」
ゲイオルが苛立ち気味に
「愛がない逢瀬には興味ないです」
アルシャナス女王が自分の胸に手を置いて
「心配ありません。わたくしは、アナタの…ゲイオルの事を愛していますから」
ゲイオルが「はいはい」と雑に扱う。
それをアルシャナス女王が微笑んで見つめるも
「でも、本当に我慢できない時がありましたら…何時でも、本当に構いませんからね」
ゲイオルが頭を抱えて
「すいません。ちょっと調子が悪くなってきました」
アルシャナス女王が頬を膨らませ
「なんですか! 一世一代の女の告白を雑に扱って! 男ならドンと受け止めるべきでしょう!」
ゲイオルが呆れ笑みで
「自分は、男女平等者なんで…」
冗談みたいな空気が流れて行き、日々が過ぎていく。
だが…。
穏やかな日々だが、結局は…
次回、兄弟の意思 後編