第727話 二人の兄、ゲイオル
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とある夜、シュンカの屋敷にリュウセイが訪れていた。
広い部屋でリュウセイと、シュンカ達の父親ガシュンが酒を交えて話をしていた。
ガシュンがリュウセイへ心配な顔で
「前帝様は?」
リュウセイが厳しい顔で
「一切、食事を取ろうとしない。みるみる痩せ細っていく。今は…点滴で栄養を補給してはいるが…」
ガシュンが悲しい顔で
「そうか…」
リュウセイがテーブルを挟んで左にいるガシュンを見て
「ヴィシャル女王は、ガイラスを愛していた。だからこそ…ガイラスに幸せになって欲しかった。だが…」
ガシュンがテーブルにある酒を飲み
「ガイラス兄さんは、一切、彼女と…セリュアと結ばれる事はなかった」
リュウセイが苦しい顔で
「形式的には、ガイラスとセリュアは…夫婦だが…その生活は皆無だった」
ガシュンが苛立ちで
「全く、あのバカ兄貴は…」
リュウセイは夜空の月を見上げ
「ガイラスは、どこまでも…自由だったのかもしれない。自分の意思に従い、そして、生きた。このセレソウムに縛られてもだ。いや、今までの超越存在の彼らもそうだった。自由である事を…縛られる事を拒否して」
ガシュンがリュウセイを見つめて
「ゲイオルだけは、そんな事にはさせない。必ずレイシャくんと…結ばれて子を成して、普通の家庭の幸せを…手に入れさせる」
リュウセイが遠くを見つめ
「このセレソウム時空が統一されて以降、三千年…誰一人として超越存在の直系の子孫を産んだ事が無い。どこかの分家から現れる者を登用する事を繰り返して来た。現セレソウム時空の皇家は…もう、始まりの系譜から外れてしまった。このままで、セレソウム時空の超越存在が統一した歴史の証が途絶えるかもしれない」
ガシュンが酒をリュウセイに注ぎ
「実際、それを傘にして反乱を起こす輩の後が絶えない。今は…まだ、エネルギーの供給が十分なのだから、反乱の火は大きくならないが…もし、一つでも狂い出せば…」
リュウセイがガシュンに酒を注ぎ
「我らは、何時も薄氷の上を歩いているにすぎない」
二人が黙ってしまうと、リュウセイが
「そうだ。ゲイオルくんは最近、どうだね?」
ガシュンが困惑の顔で
「何かあったのか?」
リュウセイが少し悲しげな感じで
「娘のレイシャとゲイオルくんの仲があまり…よろしくないらしい。シュンカくんともトラブルになっているようだ。レイシャが…訓練ばかりでは…と出かけようと誘ったらしいが、ゲイオルくんは拒否して訓練を続けたらしい。そして、最近、会話という会話も無いらしい」
ガシュンが悲しい顔で
「すまん。ゲイオルから私が言っておく」
リュウセイが優しく微笑み
「理由は、分かっている。ガイラスの事が原因だ。ゲイオルくんは悪くない。あまり追い詰めるなよ」
ガシュンが頭を抱えて
「なんで、兄貴といい、超越存在ってそうなんだろうなぁ…」
リュウセイが微笑みながら
「我らの見ている世界とは違う世界が見えているのかもしれない。それ故、超越存在に成れるのだろうな」
翌日、ゲイオルは両親に呼ばれて居間にいた。
「なんでしょうか?」
父ガシュンが厳しい目で
「レイシャと…仲が悪くなっていると、聞いたが」
と、訪ねる隣には桜色の髪をした母のジャクエイもいた。
ゲイオルが淡々と
「重要な鍛錬をしているのです。無駄口など、時間の無駄でしょう」
ジャクエイが悲しい顔で
「ゲイオル。アナタにとって一番の味方は、これからもこの先もレイシャだけなのです。だから大事にしなさい」
「は…」とゲイオルは淡々と答えて
「では、次の鍛錬がありますので…」
と、告げて立とうとすると、父ガシュンが
「ゲイオル、お前は間違うな。伯父のガイラスのように…」
ゲイオルがそれを聞いて、堅く拳を握りしめるも
「次の鍛錬がありますので…」
と、去って行った。
ゲイオルが一人になれる廊下で、頑丈な柱に拳を叩きつけ
「何が間違っているだ…間違っているのはお前等だろうが…」
強い怒りが渦巻いている。
「どうしたの? 兄さん」
と、訪ねる声が庭から聞こえた。
ゲイオルが庭園を見ると、レイシュンとシュンエイの二人がいた。
ゲイオルの行動に驚いている二人に、ゲイオルは微笑み
「何でも無い。いや、その親父達からむかつく事を言われてな…」
レイシュンとシュンエイは顔を見合わせて微笑み、シュンエイが
「ゲイオル兄さん、鍛錬の予定はあるの?」
ゲイオルがフンと鼻で笑い
「ない。自己鍛錬という暇人だ」
レイシュンとシュンエイは笑顔で、レイシュンが
「じゃあ、僕たちで出かけようよ。気晴らしも必要だろう」
ゲイオルは厳しい顔に笑顔を見せて
「それは言い考えだ。シュンカも連れて行こう。声をかけないと怒るだろう」
「確かに…」とシュンエイは微笑んで頷いた。
ゲイオルは、仲睦まじい弟レイシュンと、その許嫁シュンエイの二人に
「二人は、結ばれて幸せになってくれよ…」
それを聞いてレイシュンが
「兄さんにも大切な人がいるだろう。レイシャ姉さんが…」
ゲイオルは背を向け「あの女は義務感でいるだけだ」と告げて
「シュンカを呼んでくる」
こうして、ゲイオル、レイシュン、シュンカ、シュンエイの四人で町へ繰り出して遊ぶ。
ゲイオルにとって、本当の家族は…この三人だけ。
後は、義務や責任を押しつけるだけの存在だった。
四人が過ごす日々、レイシャは一人、将軍邸にいてとある結晶を握っていた。
ずっと大切にしている赤き結晶。
レイシャにとって何よりも大切な思い出の一片だ。
これが、レイシャとゲイオルを繋ぐ証でもあった。
ゲイオルの思い、周囲の願い。
それは、すれ違っていくが…それでも
次回、二人の兄、レイシャ