第723話 子供達の成長
次話を読んでいただきありがとうございます。
ディオスがバルストラン王宮に来て、ゼリティアから子供達の計画に関しての話を聞く。
ゼリティアの第一声は
「妾も最初は、子供の計画とタカをくくっていたが…」
ゼリティアも最初は、子供達の提案を、まあ…見て上げようという軽い程度だったのに…子供達が作った資料を見て、目を奪われる。
作り方や使われる技術、まあ、そんなのは聖帝ディオスの子供達ゆえに驚かないが…それによって生まれる経済効果、果ては、もし未知の病気が流行った場合の対処、更に…これを世界中にある飛空艇の会社に管理運営を一任する方法や組織、更に法的な事。
技術的ではない社会的な事に関しての詳しい資料、更にその運営組織の形態と、まさにそこには国家を越えた会社の運営方法が記されていた。
百歩譲って経済までは、ゼリティアが教えていたので分かるが…。
組織の運営や、法的な事、更に最悪な事態、災害や病気の流行に関して、更に犯罪に使われるのを防ぐ為に…といった手段。
そこまでは教えていない。
だから、ゼリティアは「妾だけでは、何とも言えないのう…」と子供達に伝えると、子供達は…世界中の王族達に渡した。
そんな事…可能だった。
聖帝ディオスの子ゆえに、世界中の王族達は顔見知りだ。
直ぐに、アインデウス皇帝や、ライドル皇帝に見せる。
ライドル皇帝も舌を巻いた。
完璧すぎる程の計画書だ。
法的な基準も問題ない。
それはアインデウス皇帝も同じで、どこか問題を探す方が手間取った。
だが、それに色々と指摘した人物がいた。
フランドイル王のヴィルヘルムだ。
その指摘をしたヴィルヘルムの内容を受けて、直ぐに修正案を提出した。
修正案を見て知恵者が揃っているヴィルヘルムの面子は頭を抱えた。
問題点を探す事が難しい。
だが、ヴィルヘルムが
「確かに問題はないが…しかし、我ら王族だけでは難しいなあ…」
その問いにゼティアが
「じゃあ、後…誰の許可が必要なの?」
ヴィルヘルムが
「そうさなぁ…それに関係する者達全員の認可がなぁ…」
数日後、フォルトゥナ計画の書類の全貌が聖帝の威光ネットワークに公開、更に子供達は、各財閥の長達に資料を手渡しで配る。
機神で飛んで行き手渡しで渡す。
この世で自在に機神を扱えるのは聖帝ディオスの子供達しかいない。
すんなり、各財閥の長達に渡り…。
瞬く間に了承を得られた。
無論、それを作る資金や材料が…いや、必要ない。
なぜなら…最初からそれは揃っていた。
聖帝ディオスの資産である軌道エレベーターコロニー・ミリオンにはその施設と材料が有り余っている。
要するに許可さえ得られれば、何時でも作れる状態だった。
こうして、ディオスがオルディナイト会長職と桜花に関して頑張っている間に、全てが整っていた。
そして、現在、絶賛建設中という訳だ。
ディオスは、ゼリティアからの説明を受けた後に屋敷へ帰ると、子供達がルビードラゴンと話をしている。
ティリオが
「ルビードラゴンさん。あとここの部分の」
ルビードラゴンが
「ここは、こうして…」
と、ティリオと共に図面に修正を書き込む。
リリーシャが
「ルビードラゴンおじさん。ここのエネルギーに関しては、こうしたいけど」
ルビードラゴンが
「んん、もう少し余裕が欲しい。何かあった場合に…その程度は必要だろう」
と、リリーシャが握る端末の数値を上げる。
シュリオが
「ルビードラゴンおじさん。次の部品の製造があるから手伝って」
「ああ…分かった」とルビードラゴンはシュリオと一緒にミリオンへ向かう。
ディオスは直ぐに分かった。
子供達に様々な入れ知恵をしたのは、コイツ…ルビードラゴンだと…。
そこへクリシュナが来て
「子供達とルビードラゴン、仲良くなっているでしょう」
ディオスが嫌そうな顔で
「気に入らんな」
クリシュナが少し呆れた笑みで
「確かに、アナタの命は狙ったけど…今は、本当に子供達の為に色々としてくれるわ。私も話をしたけど、アナタみたいに倫理観はしっかりしていると思うわ。色んな経験の話を知っているに、相当に長命な存在じゃあないかしら…。なんでそれがダメなのか…理由や状況をたくさん知っているし、何より…アナタみたいに頭の回転が速いわ」
ディオスが苛立ち気味に
「頭が良いからっていい人とは限らない。悪人だってたくさんいる」
クリシュナが
「それは、そのだけど。でも…なんだろう。ルビードラゴンは、そのどこか節々に悲しみを背負っているような感じがするわ。色々とあったんじゃない?」
ディオスは納得しないと思いつつも、ルビードラゴンの力は認めている。
今後とも、注視するが…子供達の成長に寄与してくた事だけは感謝しよう…と少し上からだが…思った。
子供達の計画は順調に進む。
フォルトゥナ計画が完了すると、それに使われる特別な魔導トンネルは、アースガイヤ全域で飛空艇を運行している会社達が出資を出し合った合弁会社によって維持運営されて、飛空艇の会社が高速で移動するルートとして使われる。
百メートルサイズの巨大なトンネルだ。
駆逐艦飛空艇なら余裕で通れる。
そして、これを提供した子供達は、世界中へ自在に行けるパスポートが手に入る。
無論、子供達だけしか使えないパスポートだが…。
フォルトゥナ計画、通称、フォルトゥナ空中路は二つの魔導トンネルが併走している。
西回りと東回りだ。
アースガイヤ全域の国家首都に出口があり、そこに西と東の出入口がある。
そこに入れば、時間を伸び縮みした作用によって慣性力を感じる事無く加速しつつ、オートで目的地の出口までノンストップだ。
まさに楽々なトンネルだ。
入る前にチェックの魔導力が働き、問題がある物品や現象、人がいれば、出される。
問題ないなら、オートで移動開始。
世界には時差があるが、もの凄く早く到着するので問題はない。
入口と出口との時差を合わせれば良いし、時差を考慮して運搬荷物を考えればいい。
そもそも、一時間で自分の反対側へ行けるのだから、相当な事である。
リリーシャが言っていたように、子供達は自由に色んな場所の学問機関で勉強できるのだから、一石二鳥。
さらにアリストスの息子娘達と合うに簡単になった。
今までは、エルディオンを使ったり機神で飛んでいったり、それ相応の超音速艦で飛んでいったが、それによる国境渡航許可も要らない。
向こうとの時差を考えて、会いたい時に会えば良い。
こんな事をしたディオスの子供達に、ディオスは不安を感じる。
特別でなくていい、ただ…幸せになってくれれば…。
こういう事をした子供達に周囲は
「まあ、ディオスさんの子だから仕方ない」
「聖帝の子なら仕方ないでしょう」
そんな周囲に、ディオスは納得しない気持ちを抱える。
普通で良いのに…と。
そんな父ディオスの不満とは関係なしに、子供達は順調に真っ直ぐに育っている。
そんなある日、ルビードラゴンが散歩で町を歩いていると
「おい…ルビードラゴン」と呼び止める声がして、ルビードラゴンが後ろを振り向くとアーヴィングと阿座に洋子の三人がいた。
呼び止めたのはアーヴィングだった。
ルビードラゴンが
「なんだ?」
阿座が
「どうだ? これから一杯」
ルビードラゴンが
「別に構わないが…」
四人は近くの酒場で一杯と洒落込んで話し合う。
内容は、ルビードラゴンをセイントセイバー達へ入れる事だ。
「どうだ? 来ないか?」とアーヴィングが告げる。
ルビードラゴンが一杯のグラスを持ちながら悩む。
阿座が
「色々と事情はあったが…アンタは、それなりにしっかりしている。だからさ」
洋子が
「ヘオスポロスに未練があるの?」
ルビードラゴンは目を閉じ
「ない。所詮、ヘオスポロスにとって自分は、データを取った検体の一つに過ぎない。所属して自分が優位な事があるからいるだけ…いや、まあ、感傷的だが。ちょっとな」
阿座が
「そうか…じゃあ、その感傷的な事と、ここでの生活、どっちが良い」
ルビードラゴンが渋い顔で
「正直、ここで暮らしていると…その感傷を忘れる事が多い」
アーヴィングが
「そうか。オレ達から言えるのは。確かに忘れられない事はあるが…それに囚われるじゃあなく、前に進む事も必要じゃないか?」
ルビードラゴンがグラスの酒を一気飲みして、それを黙々と続けて
「今回は、アンタ達のおごりに乗るよ。次は…自分のおごりだ。その時は…」
阿座とアーヴィング、洋子が微笑みを向け合って、アーヴィングが
「ああ…待ってるぜ」
四人の飲み会が終わり、ルビードラゴンが一人で町中を歩く。
二本角の魔族、獣人、一本角のオーガ、人族、そして外宇宙民のアラクネ宇宙民やナーガ宇宙民、竜人宇宙民、天使宇宙民、スライム宇宙民と、バルストラン首都に町並みは華やかだ。
ディオスが作った第二宇宙国家戦艦アーステラを踏み台に様々な宇宙民達が来るようになった。
たまに、チラホラ、黄金の円環を背負うゴールドジェネシスの民や、レガリア宇宙民もいる。
ここは、アースガイヤは多種多様な者達がいる場に変わっていく。
その変化を見守るのも…とルビードラゴンが思うも、不意にとある過去の前世の感傷が襲いかかり、気持ち悪くなる。
そこへ「お前…」と充人が呼びかける。
ルビードラゴンが充人を見ると、充人は妻で二人目を妊娠しているレディナと、息子でアースガイヤ機神人類のジェイスを充人が抱えていた。
ルビードラゴンが
「すっかりここに馴染んでしまったな。かつては解放者、リベラシオンと呼ばれたキサマが、ただの父親になるとは…」
充人がフンと鼻で笑い
「ああ…そうだよ。もう、ここで完全に根を張ってしまった。何処へも行く事はないさ。お前はどうなんだ?」
ルビードラゴンが忌々しい顔で
「本当に、この世界は忌々しいよ。自分の過去に捨てた筈の感傷が疼くが忘れる事もある」
充人が
「じゃあ、お前は…どうするんだ? ここにいて…」
ルビードラゴンがうつむく。
充人が
「答えが決まっているなら…それで良いだろう。じゃあな」
と、家族を連れて何処かへ食べに行った。
ルビードラゴンがミリオンに戻る為にオルディナイト邸へ来ると、玄関の広間で絵画を見つめている桜花がいた。
ルビードラゴンが桜花に近づき
「これが良いのか?」
と、桜花の隣に並ぶ。
「うん」と桜花は頷く。
二人が見つめる絵画は、桜の並木道だ。
桜花も大分、感情を見せるようになった。相変わらず記憶は…。
ルビードラゴンが
「この絵を見つめるとゲイオルを思い出す」
桜花が驚きで
「ゲイオル兄さんを知って」
ハッとして口を塞ぐ。
ルビードラゴンが
「記憶、戻っているのだな…」
桜花が黙り
「お願い、その…」
ルビードラゴンが
「君の概要は、ヘオスポロスのデータでしか知らないが、それは…ディオスに伝えている。だから、ディオスは、それを込みで君を最初から引き取っている」
桜花が驚きの顔でルビードラゴンを見つめる。
ルビードラゴンが背を向けて
「素直に話せばいい。どうしたいか…を。ディオスなら受け入れてくれるだろう」
桜花が
「ここにいても良いかなぁ…」
ルビードラゴンがフッと笑みを向け
「ディオスなら喜びそうな言葉だ。ティリア達も喜ぶだろう」
桜花は、桜の並木道の絵画を見て
「ゲイオル兄さん、レイシュン兄さん。私、生きるよ…ありがとう」
子供達の成長を見たディオス。
そして、ルビードラゴンの気持ちが変わりつつあり。
桜花も一歩を踏み出す。
だが、それは新たな…
次回、新章開幕、讐怨 桜花の過去