第717話 探す遺跡 その二
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夜になって、ルビードラゴンは荒野の風よけが出来る岩場の崖を背にして、たき火する。 正確には、熱を発して温めるエネルギーコンロで飲み物を温めている。
その周囲には、地面にマットを敷いたディオスとティリアがいて、アズサワは近場の丸太を椅子に座っている。
ルビードラゴンは、暖まった飲み物が入ったポットから四つの金属のコップに注いで、アズサワ、ティリア、ディオスに渡す。
ティリアが
「わぁぁぁぁ、ミルクだ」
ルビードラゴンが
「調理された栄養ミルクだから、味は問題ないはずだ」
と、それを口にする。
それを見届けるディオス。
もしかして毒が…と思っていたが、隣にいる娘のティリアが平然と飲んでしまう。
もう少し用心して欲しいモノだ。
アズサワも同じく口にして飲む。
ディオスも口をつけつつ額のサードアイで成分を調べると、確かに調理された栄養ミルクだ。
毒や問題なる薬物は無い。
ティリアが
「ねぇ…ルビードラゴンのおじちゃん。探しているモノってどんな感じなの?」
ルビードラゴンが平然と
「アムザクの遺産と言われる。技術遺産だな」
ティリアが
「どんなその…遺産なの?」
ルビードラゴンが渋い顔で
「PDSIという組織を作ってまで探している天臨丞王が回収している遺産だ。元の発端は、天臨丞王の時空に誕生したアムザクという超越存在の力によって作られた遺産群で…」
と、告げた次にティリアを見つめて
「分かるか?」
ティリアが
「パパが作っている発明品みたいなモノ?」
ルビードラゴンが頷いて
「そうだ。そのアムザクと天臨丞王達がぶつかって、アムザクが負けて、その遺産群を様々な時空達へ放出したんだ。なんで、そんな事をしたのか…目的は分からないが。とにかく、そのアムザクの遺産は強大な力を秘めている。その反応がこの惑星にあったので…探している」
ディオスが鋭い顔をして
「まさか…それを使って…悪しきことを」
ルビードラゴンが
「データが欲しいだけだ」
アズサワが
「アムザクの遺産に関しては、我々もヘオスポロスも様々なデータを持っているから、対して必要としていない」
ルビードラゴンが
「近い機能を持つ装置なら、ヘオスポロスに大量にあるしな…」
ティリアが
「じゃあ、なんで探すの?」
ルビードラゴンが夜空を見上げて
「探しているアムザクの遺産には別の反応が混じっていた。おおよそ、アムザクの遺産を使って、何かを作った可能性が高い。それに興味がある」
ディオスはルビードラゴンを凝視して
「それを探して、どうするんだ?」
ルビードラゴンが
「考古学という感じだ。アムザクの遺産という超技術を使って何をなそうとしたのか…知りたいと思っただけだ」
ティリアが
「ルビードラゴンおじちゃんは、それを知ったら…どうするの?」
ルビードラゴンが目の前にあるエネルギーコンロの光を見つめながら
「まずは、供養をする。まあ、宗教の違いで満足はしないだろうが…。それでも、そこには何かを成そうとした願いが残っている。それを弔って、何が成されようとしたのか…調べて、ネットワーク書籍にして公表する」
ディオスが
「そんな事をして何の得がお前にある?」
ルビードラゴンが右手に持つミルクのコップの白い液面を見つめて
「得なんて考えていない。ただ…そう、それが趣味みたいなモノだ」
それを聞いてアズサワは微笑み、ディオスは不思議なヤツだなと訝しい顔だ。
ティリアは
「ルビードラゴンのおじちゃん。かっこいい!」
え!と父ディオスは焦る。
それはルビードラゴンも同じで焦っている。
父ディオスが娘ティリアに
「いや、ティリア…かっこいいかもしれないが…その…趣味でやっているんだ。憧れる程じゃあないと思うぞ」
ルビードラゴンは静かにミルクのコップに口をつけて飲んでいる。
ティリアが
「決めた! アタシ! ルビードラゴンのおじちゃんと結婚する」
ブーーーとルビードラゴンは飲んでいたミルクを鼻から吹き出す程に驚く。
「はぁぁああああ」とディオスの眉間が鬼神のごとく歪む。
遠巻きにしているアズサワが、面白すぎて笑いを堪えている。
んぐゴフゴフとルビードラゴンは苦しくてむせて
「いや、待ってくれ。どうしてそこへ行き着くのか…分からない」
ティリアがルビードラゴンに近づいて手を取って
「ルビードラゴンのおじちゃんは凄い人だよ。そんな事、誰に思わないし、誰もそんな事、出来ないよ! ルビードラゴンのおじちゃんは優しいんだよ。だから、アタシ、将来はそんな人を好きになりたいって思っていた。ルビードラゴンのおじちゃんがまさにそうだよ」
ルビードラゴンは、ティリアの保護者であるディオスを見ると、もの凄い形相で睨んでいる父ディオスがいた。
殺されるかもしれん…と思うほどの殺気を放っている。
ここで何とかフラグを回避しなければ…。
「いや、ええ…ティリアだったか?」
「うん」とティリアは頷く。
ルビードラゴンは冷静に
「私と君の父さんとは敵対している。今は…敵対する時ではないから。そうなっているが。いずれは、敵となってティリアの父と戦うだろう。それじゃあティリアちゃんは悲しいだろう。だったら」
ティリアは
「昔、充人おじちゃんって人も悪い人だったけど、お兄ちゃんやお姉ちゃんが説得して、今はお父さんの仲間になって一緒にお仕事もするくらいになったんだよ。ルビードラゴンのおじちゃんもそうなれば良いんだよ!」
ルビードラゴンが難しい顔で
「いや、それは…できない」
ティリアは
「どうして? 理由は?」
ルビードラゴンは
「私は、ヘオスポロスによって創造、作られて…」
その先が詰まる。ヘオスポロスなんて所属していれば便利という程度しかない。利害が一致しているから属しているだけで、大した理由なんて存在していない。
じゃあ、ヘオスポロスから離れても…ヘオスポロスにとっては完成されてデータを取ったサンプルが出て行った程度。
迷いが生じているルビードラゴンにアズサワが
「ティリアのお嬢ちゃん。残念だけど、ルビードラゴンはそちらへ行く事が出来なんだよ」
ティリアがアズサワに
「どうして?」
アズサワが笑みながら
「それはティリアのお嬢ちゃんが幼いからだ。まだ…十…何歳?」
ティリアは
「十一歳」
アズサワがふっと笑みながら
「それじゃあダメだ。もっと大きくなって色んな事を分かるようになって、色んな事を考えられるようになったら、ルビードラゴンを迎えに来ても良いかもしれない」
ティリアが
「じゃあ、どのくらいまで大きくなればいいの?」
アズサワが
「そうだなら…あと五年、お嬢ちゃんが16を越えた時に、それでもルビードラゴンが好きだったら迎えに来なさい」
ティリアは明るい顔をして
「リリーシャお姉ちゃんと同じか…」
ディオスが
「おい、保護者を抜きにして勝手に話を進めるな。ってかリリーシャと同じってどういう事なんだ? ティリア?」
と、ディオスはティリアの元へ来て肩をつかむ。
ティリアはディオスに両肩を掴まれながらイタズラな笑みをして
「あは、秘密だった」
父ディオスが
「ティリア、秘密にするから教えてくれ。リリーシャと同じって! どういう事なんだーーーーーー」
と、声が響いた。
何とか回避できたルビードラゴンは安堵して、静かにしているとティリアが父ディオスを退けて
「ルビードラゴンのおじちゃん、待っていてね。ティリア、大きくなって成長したら、迎えに行くから」
えええ…とルビードラゴンは困惑する。
アズサワはその光景を楽しげに見つめていると、
”誰か…”
全員の脳内にか細い声が響いた。
その声と同時に、何かのエネルギー波を感じる。
ルビードラゴンが
「アムザクの遺産の反応と共にあったのは、音声信号だったのか…」
ディオスが鋭い顔をしていると、ティリアが来て
「パパ…助けを求めているよ」
ディオスが頷き
「ああ…そうだな」
”誰か…”
その声は少女だった。
ルビードラゴンとティリアの約束
焦る父ディオス。
そして、声が…
次回 遺産の少女