第714話 後の祭り
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ディオスは、王水の多頭龍の説明を聞いて呆れた。
ディオスの屋敷で、多くの関係者を前に説明される事の顛末。
それに、共に聞いてくれているアインデウスやメルディオル、ライドル、ヴィルヘルムが鋭い顔をしている。
ディオスはソファーに座って頭を抱える。
利用された。
ヘオスポロスの更なる利益拡大の為に…ディオスの立場を利用した。
ディオスの暗殺なんて成功するはずがない。
成功しなくてもいい。
ただ、ディオスが暗殺された事実さえあれば十分。
ディオスは、頭を抱えたまま無言になってしまう。
だからこそ、自分を殺さないで撤退した。
あの時、確かに自分は動きを封じられて暗殺される寸前だった。
だが、しなかった。
それが作戦だった。
暗殺が失敗として、依頼主達が艦隊を差し向ければ良い。
無論、追い詰められたという事実が必要であり、その寸前で対処されて失敗した事も必要。
依頼主の依頼は守られつつ、依頼主の時空達を刺激して、功を焦らせて動かし、そして…自分達との遺恨を残させる。
それが向かう先の利益は、より…ヘオスポロスを必要とする事だ。
ヘオスポロスは、暗殺の依頼は失敗しても、聖帝ディオスを追い詰める事ができた。
つまり、今はダメでも今後には…。
それが…ディオス側にとっても脅威として通じると…。
依頼主の時空達は思うだろう。
「ああ…全く、この計画の恐ろしさは…」
と、ディオスは忌々しげに呟く。
その場にはメルディオルがいる。
メルディオルが眉間を寄せた苦悶の顔で
「どうするかね? 捕まえた時空戦艦の艦隊は、早急に…」
アインデウスとライドルにヴィルヘルムがディオスを見て
「ええ…その方が良いでしょう」
と、ディオスが告げると、それに全員が頷いた。
ディオスが説明してくれる王水の多頭龍に
「王水さん。アナタの立場は大丈夫なんですか」
全員の前に立ち説明する王水の多頭龍が微笑み
「暗殺者であった彼は…なんと?」
先程からディオスは苦しそうな顔しかしていない。
「王水さんが説明に来る…と」
王水の多頭龍は、自分の胸をなでて
「そういう事だ。私がこうする事なんて想定済み。大して影響なぞ…いや、それもまた…ヘオスポロスの利益なのだろう」
ライドルがはぁ…と溜息を吐き
「何なのだ? 本当にヘオスポロスの連中は…権力でもない資源でもない、ましてや…」
ヴィルヘルムが
「権益でもない。その求める利益は…」
ディオスが
「アズサワが言っていた。自らの進化の為に…と」
アインデウスが
「そんな相手と、どう…渡り合えば…」
王水の多頭龍が
「勝つ事を考えては…勝てないと思うよ。それよりも…」
ディオスが厳しい顔で
「お互いに利用し合う…と」
王水の多頭龍が頷き
「ヘオスポロスは、アズサワ達エヴォリューション・インパクター達以外にも、数多の組織や、存在達と通じている。この時空で言うなら、この時空全域に影響力を行使できるヴィクターインダストリアル社みたいな存在に近い」
ディオスが
「敵でも味方でもどちらでもない…と」
王水の多頭龍が
「立ち位置によって、敵味方、様々に変わるという事だ」
はぁ…とディオスは溜息を漏らし
「ありがとう。王水さん」
王水の多頭龍は首を横に振り
「いいさ。それと…充人達と会いに行きたいが…」
ディオスは微笑み
「構いませんよ」
王水の多頭龍が頷き
「少しの間、アースガイヤに滞在するよ。何か…聞きたい事があったら呼び出してくれ。充人達のそばにいるから」
王水の多頭龍が充人の元へ行った後、ディオスはアインデウス、メルディオル、ライドル、ヴィルヘルムの相談役達と話をする。
アインデウスが
「さて…どうしたものか…」
ヴィルヘルムが
「世界は、アースガイヤは纏まり、平和になったと思ったが…次は時空級国家とか…」
ライドルが
「ディオスは、どう思う? この先を…」
ディオスが
「どうもこうも…他の宇宙王達や、ハイパーグレート達と協調するしかないでしょう」
メルディオルが
「争いは同じレベル者同士で起こる。いずれ…どこかの時空と戦争をするかもしれん」
ディオスは忌々しげに
「そんな事に何の意味があるんですか?」
メルディオルが渋い顔で目を閉じて
「こっちがそれを望んでいなくても…相手がそれを脅威と理解するなら…起こってしまう。そういうモノさ。この世に生きる全ての者達が賢者ではない」
ディオスは額を抱えつつ
「解放する時空戦艦の艦隊へ外交文書を渡して置きましょう」
アインデウスは
「その内容は?」
ディオスは
「至極簡単な内容です。我々は争いを望んでいない。お互いが適切な距離感をもって交流すれば良いと…」
ライドルが
「それを信じる者はいるか?」
ディオスが鋭い顔で
「信じなくても、影響される人達は、多少…いるでしょうから…」
こうして、暗殺騒動に紛れて送られた時空戦艦の艦隊は、ディオスからの親書を携えて帰還した。
オルディナイト邸宅の会長机でディオスは、やれやれ…と思いつつ会長職をしていると…
「ダーリン」
と、クレティアが入ってきた。
ディオスが
「どうした?」
クレティアが
「ティリア…知らない?」
ディオスは隣にいる秘書のオルストスも首を横に振り
「知りませんが…」
ディオスがクレティアに
「どこかへ行く予定とか…聞いていないか?」
クレティアが首を横に振り「いいえ」と答える。
ディオスは、額のサードアイを開いてティリアを探す。
いない、アースガイヤのどこにもいない。さらに観測領域を拡大させる。
アースガイヤ星系、天の川銀河、他の銀河達、そしてこの時空全域まで広げるが反応が拾えない。
「え?」とディオスが困惑すると、空いている左に、ミリオンと繋がる魔導人工精霊イヴァンが現れ
「ディオス様…大変です!」
ティリアは…
「よろしくお願いします」
と、挨拶しているのは、解放された時空戦艦の艦隊の時空戦艦の一つアルゴの艦長だ。
艦長であるエルフ型の彼女メディチェは困惑した顔で
「貴女がその…親書を…手渡す係として?」
と、まだ、十一歳で愛らしい娘のティリアに戸惑う。
ティリアは微笑み
「はい、こちらが…そちらの時空の方々への一つと、もう一つがヘオスポロスに…」
と、二つの親書の情報エネルギー体を見せる。
艦長メディチェとその部下達は困惑する。
まさか、聖帝ディオスの娘が親書を渡す為に来るとは…思いもしなかった。
艦長メディチェが
「もし、我々が君を捕まえて…お父さんを脅そうとするかもしれないよ」
ティリアが微笑みながら
「そうでしたら、この艦隊を破壊してアースガイヤへ帰るだけですから」
十一歳の女の子を前にして、ええ…と大人達が青ざめる。
ティリアが
「あ、信じていません?」
と、告げた瞬間、ティリアの背後から金色のデウスマギウス・ヘパイストスを出現させる。
天井を突き破る全長五メートルの巨大な黄金のスカート型のデウスマギウスに艦長メディチェは腰を抜かす。
そのデウスマギウス・ヘパイストスの頭部コアにはティリアが乗っている。
ティリアは、無断で軌道エレベーターコロニー・ミリオンの最奥部の厳重保管庫にしまってある父ディオスが作った超絶魔導兵器の幾つかを無断…いや、借りてきた。
艦長メディチェが
「あ…う、うん分かりました。無事にお届けします。その後のご帰還は…」
ティリアがデウスマギウスから
「父さん達が迎えに来るので問題ありません」
同時刻
「ティリアーーーーーー」
と、アースガイヤで叫ぶ父ディオスがいた。
娘ティリアの行動、そして、ティリアは…
次回、娘の暴走