第707話 息子の事
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数日後、ディオスは何時ものように朝の訓練と会長職を終えて魔導研究を屋敷でしていた。
そこへお客が来る。曙光国のカズキヨ達だ。
ディオスが玄関広間で
「ようこそ、これが頼まれていた魔導研究のデータだ」
と、カズキヨにデータプレートを渡す。
カズキヨが受け取りながら
「助かる。これで…新たな素材の構築が楽になる」
ディオスが肩をすくめて
「曙光国には、新材料を作る魔導研究者が多いから助かっているよ」
カズキヨが難しい顔で
「そのお陰でゼウスインゴットに匹敵する素材が出来るとは…」
ディオスはカズキヨをソファー席に座らせ
「いずれ…神格炉を用いなくても作れるようになれば…もっと色んな技術の幅が広がる。そうなれば…」
カズキヨが
「何時か、アースガイヤから別時空への開拓一団が形成できるか…」
ディオスが頷き
「まあね…」
と答えた後、少し暗い顔をして
「やはり、アズサワ達の提案を断る必要が…」
カズキヨが笑み
「ディオスの決断に間違いは無い。相手を利用するような連中と手を組むなぞ、何時か地獄を見る。蹴って正解だ」
ディオスがお茶があるテーブルへ向かいカズキヨに準備しながら
「それでも…連中の力は巨大で強大だ。個々の力もそうだが、そこから生産される圧倒的な物資と技術は脅威だ」
と、カズキヨへお茶を持ってくる。そして、カズキヨの護衛達にも渡す。
護衛達はお辞儀をして受け取り、カズキヨがお茶を頂きながら
「ディオス。だから人は他人を頼る。自分に出来ない事をやって貰い、自分に出来る事を提供して力を合わせる。他人と自分の力を合わせる本当の他力本願だ。それをディオスはやっている。連中と比べる必要なんて無い。ディオスは聖帝として真っ当な事をしているのだ。心配になるな」
と、カズキヨはお茶を口にする。
ディオスは微笑みながら
「褒めるねぇ…」
カズキヨが笑みながら
「ディオスが世界を繋げるオルディナイト会長をやってくれるお陰で、相当に楽なんだよ。これからも、頑張ってくれよ」
ディオスは首を傾げながら
「ただ、人の話を聞いて、アレとコレを繋げられるなぁ…ってしているだけなんだけどねぇ…」
カズキヨが
「傾聴と繋ぎ合わせが出来るのだから、相当な才能だよ」
ディオスが首を傾げつつ
「ああ…そうだ。天の川銀河連合の財団達との会合があるから、曙光国からも…」
カズキヨが頷き
「何人かの代表の名代を手配して置く。日程を後で送ってくれ」
ディオスがお辞儀して「頼む」と…。
カズキヨ達が帰宅する。
それを見送るディオス。
最近は、本当にアースガイヤ世界全土から色んな人達と話をする事が多くなった。
これも会長職なのだろう。
ディオスは背伸びして、研究のまとめに入った。
同じ日の夕暮れ、バウワッハがお供と一緒にヴォルドル邸宅へ来る。
ひ孫であるティリオの迎えだ。
「迎えに来たぞい」
と、レディアンの屋敷に来ると、許嫁達三人と一緒にいるティリオがいた。
そこには何かのボードゲームをしていた場があった。
ティリオが席を立ち
「じゃあね。ジュリア、ナリル、アリル」
と、挨拶をしてバウワッハへ向かう。
バウワッハはティリオを見上げる。
十二歳になるティリオは、身長が百七十を越えている。同年配から飛び抜けて大きい。
そして、立派な体格をしている。
来年の中等部には、百八十に達して立派に見えるだろう。
許嫁達も百六十近いので、女子としては大きいと言えば大きい部類だろう。
だが、それよりもティリオの方が飛び抜けて見えるので小ぶりに見える。
バウワッハ達と共に帰宅するティリオが
「バウワッハおじいちゃん」
と、神妙な口調だ。
「どうしたんじゃ?」
バウワッハが尋ねる。
ティリオが躊躇い気味に
「ジュリアとナリル、アリル達って許嫁についてどう思っているのかなぁ…って」
バウワッハが
「ディオスは、無理矢理な縛りではないと…言っておったからなぁ。どうしたんじゃ?」
ティリオが黙る。
バウワッハが
「もしかして、嫌なのか?」
ティリオが首を横に振り
「そうじゃない。だから…三人は、ぼくと一緒に…それっていいのかなぁ…って」
バウワッハが頷き
「そうか…」
と、立ち止まり夜空に向かう天を見上げ、綺麗に色づく全長五万キロの軌道エレベーターコロニー・ミリオンを見詰めて
「大事な事は、相手に聞かないと後悔するぞ。ティリオは、どうしたいのじゃ?」
ティリオが正面を見て
「もし、望んでいなくても…今の友達は変わらない。でも、もし…望んでくれるなら…」
バウワッハは、ひ孫の顔を見て微笑み
「大きくなったなぁ…。それを言いなさい」
ティリオは頷く。
翌日、ティリオは何時ものように四人で学校へ向かい、そして帰りに鍛錬と一緒に許嫁達と過ごす。
その日、ディオスは偶々、ティリオが訓練場で鍛錬する所へ来る。
「ティリオ、どんな感じかなぁ…」
と、グランドへ向かう。
そこには中央を見詰める一団がいて、その中にナトゥムラがいる。
ディオスがナトゥムラに近づき
「やあ、ナトゥムラさん」
ディオスに気付いてナトゥムラが
「おう、ちょうど良かった」
と、グランドの真ん中へ顎を振ると、そこへ視線をディオスが向けると、ティリオと対面しているナトゥムラの父で剣聖のヴァンスボルトと元剣聖で夫に譲ったナターシャがいた。
ティリオを前にヴァンスボルトが模擬刀を握ると、ティリオも同じく模擬刀を握り構える。
その立ち会いにナターシャがいて「はじめ!」と開始の合図を告げた瞬間。
刃を立たせていない模擬刀で、ティリオとヴァンスボルトが戦う。
その動き、残像が見える程に高速で、模擬刀がぶつかる度に火花が飛ぶ。
ディオスは余りにも早すぎるので、額のサードアイを開いて見るしかない。
ヴァンスボルトとティリオは、膨大な数の打ち合いをして、そのヴァンスボルトの攻撃の隙をティリオが突きヴァンスボルトの脇に打ち付ける。
無論、ヴァンスボルトも同じくティリオの攻撃の隙を突いてティリオの脇を打つ。
最後に渾身をぶつけ合って、大きな火花が飛んだ後に終わった。
打ち付け合った模擬刀同士は、焦げと摩擦による熱を放っている。
ティリオが
「んん…五回攻撃された」
ヴァンスボルトが微笑み
「その五回を防いだ。見事だ」
ティリオが不満そうに
「それはヴァンスボルト先生も同じでしょう。まだまだです」
遠くで観察していたディオス達。
ディオスが
「ああ…ティリオ達は、確か…同年配と試合をした事がないよねぇ…ナトゥムラさん」
隣に立つナトゥムラが顔を引き攣らせて
「ティリオと対戦させられたら相手が死んじまう」
ティリオがヴァンスボルトと共にディオスの下へ来て
「父さん、来ていたんだ」
ディオスは頷き
「ああ…ちょっと充人に用事があってな。それよりも強くなったなぁ…」
ティリオが不満そうな顔で
「それ、嫌み? 実戦になれば父さんが圧倒的に強いじゃあないか。さっきの攻撃だって父さんなら全て読み切って防ぎつつ攻撃できる方法なんて幾らでもあるだろう」
ディオスが息子の言葉に困惑しつつ
「いや、でも。父さんは剣術が苦手だから、本当に強くなったよ」
ティリオが
「ぼくやリリーシャにゼティアの三人がかりで、宇宙にある全天候対応訓練リングで戦っても、父さんに勝てないだろう」
その場にいる全員が内心で、そのレベルで考える?と思ってしまう。
ディオスは困り気味に
「ティリオ、お前が想定しているレベルって、周囲の普通じゃあないから、気にしない方がいいぞ」
と、告げるとその場にいる全員が頷く。
その通りだ…と。
ティリオが父ディオスの隣を過ぎながら
「それでも、まだ…力が欲しい」
と、告げて水分補給と汗を拭きに行った。
ティリオのまだ、強くなりたい姿勢に周囲は、頼もしいのと恐ろしさを感じた。
ナトゥムラが
「まだ、12だよなぁ…」
ティリオが水飲み場で水分を取っていると
「はい」とジュリアがタオルを渡してくれた。
「あ、ありがとう」とティリオは受け取る。
ジュリアとアリルにナリルの三人も訓練らしく、軽めの手甲とスラックスの格好だ。
ティリオに微笑む彼女達に、ティリオは
「なぁ…聞いて欲しい事がある」
と、告げる。
ティリオの真剣な雰囲気に彼女達は戸惑いつつも頷き、ティリオの言葉を聞いた。
そして、驚いた顔を向ける。
ティリオはそれに
「やっぱり…」
ジュリアとナリルにアリルの三人はティリオの手を取り、ジュリアが
「ううん…嬉しかった。ティリオが私達の未来を真剣に考えてくれて…だから…」
翌日、ティリオは勉学と父ディオスからの魔導研究、そして武術を鍛えるに一層の邁進をしている。
ティリオの様子が変わった事に父ディオスも気付き
「なんだろう?」
と、思いつつティリオ達、子供達の学校へを見送る。
そして、昼過ぎくらいに、レディアンがオルディナイト邸宅へ来てディオスの下へ来る。
会長室で仕事をしているディオスがレディアンを通して、席に座らせ
「どうしたんですかレディアン様?」
レディアンが真剣な顔で
「ジュリアから聞いた。ティリオが本気で許嫁達との将来を考えていると…」
ディオスはそれを聞いて唖然としつつ
「なるほど…」
と、口にする。
ティリオの事で報告を受けたディオス。
ディオスは、一人…とある場所で
次回、何時もの小川で