第701話 退位式
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ソフィアが王を退位する日が来た。
ソフィアは王城のテラス、大観衆がいる前で演説をする。
多くの民達が見上げる前でソフィアは、退位の言葉を紡ぐ。
「皆さん。私が王になって色んな事がありました。
激動と言っても過言ではありません。
世界は分断されていました。世界はお互いに拒絶し合っていました。
それが…」
ソフィアが自分の後ろ、左右にいる王達を見る。
ソフィアの退位式に駆け付けてくれた各国の王達だ。
アインデウスを始めライドル、ヴィルヘルム、アーリシア十二王国の王達、アフーリアのフィリティ達、アフーリアの王達、ククルク達ナイトレイド連合帝国、曙光国の帝、ユグラシアからはアルヴァルドと国家元首達、世界王族会議のメンバー全員が勢揃いしている。
ソフィアは微笑み
「今や…世界は繋がりました。ここに証明があります」
駆け付けてくれた王達は微笑んでいる。
その隣にディオスが護衛達と共に立っている。
ソフィアは微笑みながら
「このような素晴らしい事を起こした人物は、皆が知る所でしょう」
民衆の視線が王の護衛と並ぶディオスに集中する。
ディオスはスッと顔を背ける。
目立つ事はしたくない。そんな本心が透けていた。
ソフィアが演説を続ける。
「私も、この十年で変わりました。夫と結ばれ家族を持ち、子を持ち母親になりました。
私が王になった理由は、様々な種族同士の差別を無くしたい…。
それが主でしたが…気付けば、必死に国や民を護る為に奔走する。
そんな日々でしたが。良かったです。
多くの事を知れた。
そして、どうすれば良いか学び。共に頑張ってくれる仲間を、絆を得ました」
ソフィアは両手を空に広げて
「今、ここに私が王を退位する事で、国同士が分裂して争っていた古き時代は終わり、新たな時代が幕開けになるでしょう。
私は、家族と共に新たに変わっていく国を世界を皆様と共に見護って行こうと思います」
と、ソフィアは後ろにいるゼリティアへ
「ゼリティア、後をよろしく。アナタの王道を進みなさい」
と、ソフィアはゼリティアを王の場へ立たせた。
ゼリティアは、ソフィアによって場へ立たされて、ソフィアが退く。
ソフィアが
「今度は、ゼリティアの時代よ」
ゼリティアは頷き、王の登壇へ来て
「ソフィアより、次を託されたゼリティア・グレンテル・オルディナイトです」
ゼリティアは真っ直ぐと民達を見詰め
「わたくしは、正直…ソフィアが王になった時に、種族同士の差別を無くすなど、何を甘い戯れ言を…と思っていました」
ソフィアが苦笑いをする。
ゼリティアが真っ直ぐに
「ですが、後々にその綺麗事にわたくしは救われて、大切な幸せを手に入れました。
確かに綺麗事では世の中は回らない。
でも、綺麗事を諦めてしまっては、世界は闇です。
それを教えてくれたのは、妾の大切な夫殿でした」
と、ゼリティアをディオスを見詰める。
ディオスは真剣な顔で頷き、ゼリティアの微笑みに応える。
ゼリティアは、正面の民達を見詰め
「わたくしは、ソフィアの綺麗事を受け継ぎつつ、わたくしが進む王道を歩もうと思います。
その綺麗事とは…愛する加護がある世界です。
この綺麗事は…重く、わたくしを責め苦に追い込むかもしれません。
ですが…その綺麗事なくして、世界に光は、希望はありません。
できない事もあるでしょう。辛く苦しく、絶望に沈むかもしれません。
ですが、それでもわたくしは、それを諦める事はないでしょう。
なぜなら、わたくしを…支えてくれる力強い傍らがいるからです。
どうか、皆様…わたくしの綺麗事にお付き合い頂きたい」
と、民に向かって頭を下げる。
それに各種喝采が広がった。
その中にディオスがいるのは当然だった。
こうして、ソフィアからゼリティアへ、バルストラン王位が継承された。
退位式が終わって帰る最中、ソフィアが
「終わったなぁ…」
と、背伸びして王城の門の下にいた。
隣にはディオスとゼリティアがいて、ゼリティアが
「何を言っておる。王は終わったが、妾の隣で監査する特別監査委員の仕事が残っておるぞ」
ソフィアが呆れ気味に
「分かっているわよ」
と、呟きつつ
「本当に濃密な王様だったわ。十年のつもりが…二年の延長して」
ディオスが渋い顔で
「仕方ないだろう。アースガイヤが纏まり、外宇宙や、別時空との交流外交、さらに…」
と、ディオスは遠くを見詰めて
「別時空同士の時空連合艦隊編成やら。本当に色々とあったんだから」
ソフィアが悪戯に笑みながら
「ここで退位しないと、辞め時が無さそうだったわ」
ゼリティアが得意げに
「もう少し、ソフィアが王であっても妾は構わないがなぁ…」
ソフィアが遠くを見て
「そうね。独り身だったらそうしたかもしれないけど…今は、家族がいるわ。ティリオ、アンタと同じ慎重派だから心配なのよ」
と、夫ディオスを見る。
ディオスは腕組みして
「ああ…まだ十一歳なのに、何か大人びて考えているような感じがするからなぁ…。急いで大人にならなくても良いのに…」
ソフィアが
「子供達の傍にいてあげたいわ」
ゼリティアが頷き
「頼むぞ、ソフィア。妾が王になれば…子供達に構えん時が増えるやもしれん」
ソフィアがディオスの頬をツマミ
「まあ、コイツの発明暴走も止めないといけないし」
それにディオスは納得していない顔だ。
暴走ではなく、必要な開発なのに…。
ソフィアが
「さあ、帰ってみんなで、お疲れさん会だな!」
ディオスが
「アリストスからも子供達が来ている。みんなで楽しく過ごそう」
ソフィアが
「信長達も来ているわよね」
ディオスが「無論だ」と頷いた。
今日、この日をもってソフィアは王を退位した。
前王という称号と共に、ディオスが持つミリオンの総統括長にもなる。
色んな名誉や地位も得るだろうが。
何より欲しかったのは、家族との時間だ。
王だった故に、構ってやれなかった事は多かった。
だが、これから…ちゃんと家族と向き合える。
少しだけ後ろ髪を引かれる事もあるが。
後は次である者達がチャンとやってくれるだろう。
翌日、ティリオを起こしにソフィアが部屋に行く。
「ティリオ、朝だよ」
ティリオはベッドから起きて
「ああ…おはよう」
ソフィアがティリオの部屋に行くと、色んな発明品、何かの設計図が書かれたが用紙が転がっていた。
ソフィアはそれを見て、ああ…お父さんそっくりになっちゃって…と思う。
ソフィアがティリオに
「何を作っていたの?」
ティリオはベッドから起き上がりながら
「ゼウスリオンの推進器の改良と、新素材を使った機構骨格と機神の融合とか、後…人が使う装備の新素材とか…」
ソフィアが足下にある設計図を見ると、何かの素材記号だらけに
「まあ、勝手に片付けると後が大変だから、アンタが片付けなさいよ」
ティリオが魔法陣を展開して
「分かってる」
散らばった設計図と発明品が浮かび動いて元の場所に戻った。
片付けを簡単する魔法にソフィアが
「後で、それ…アタシにも教えて」
ティリオは笑み
「分かったよ」
と、顔を洗いに行った。
その背中をソフィアは見詰める。
まだ、父親より低い百七十センチだが、同年配からすれば大きい。
その背中は、何処となくディオスと似てきた。
そんな息子の背中を微笑ましくソフィアは見詰め
「あ、リリーシャも起こさないと」
と、娘を起こしに行った。
王を卒業したソフィア。
ソフィアの日常が始まり、そして、ディオスには新たな日々の始まりでもあった。
次回、オルディナイト会長