第6話 キングトロイヤル 王都へ
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ディオスという新たな名前を得た勇志郎は、クリシュナと共にソフィアが王になる為の試練へ立ち向かう。その王候補達が集まる舞踏会で、様々な候補と勢力が相対する。そこは…戦場ではなく、人を惹きつける力が試されていた。
キングトロイヤル 王都へ
王都に向かう途中のバス内でソフィアが窓の外を見ながら
「痛いわ…痛すぎるわ…」
ディオスは眉間に青筋が浮かぶ。
「ソフィア、いい加減にしてくれないか…」
ソフィアの向かい隣の席にディオスは座っている。
ソフィアは生暖かい視線で
「だって、痛い名前だから…痛いわ…」
ピキっと更に青筋を立てるディオス。その右隣窓側にはクリシュナが同席している。
「ねぇ…」とクリシュナはソフィアへ
「もうそうやってイジルのは止めてあげて、ちょっと…いじめみたいになっているわよ」
「そうですよソフィア殿」
ソフィアの前席に座るスーギィが窘める。
ソフィアは腕を組み自慢げに
「アタシだったらもっと、いい名前をつけてあげたのに」
「どんな名前だ?」
ナトゥムラがスーギィのいる席の隣に立つ。
「そうねぇ…」とソフィアは上を見上げ
「パトラッシュとか、ボルティーとか、テンコルとか…」
「それ、ペットにつける名前だろう…」
ナトゥムラが顔を引き攣らせる。
「却下だ!」とディオスは声を張る。
まだ、人の名前で痛い分、ディオスの方がマシだ。
「みなさーーーん」
先頭の席にいるケットウィンが立ち上がり
「もう少しで、王都にある私の別邸に到着しますので…」
「ほーい」とナトゥムラは空いている席に座る。
クリシュナがディオスの袖を引っ張り
「ほら、外を見て…王都ベンルダンの街並みよ」
ディオスは、促されて窓の外を見ると、そこには煉瓦造りの白い建築が並んでいる。
道には多くの人が行き交い、賑わっているが…バラン街より少し違う所がある。
道にいるのが殆ど人族なのだ。
「人族が多いなぁ…オーガや魔族、獣人といった種族はあまり見えないが…」
ディオスの疑問にソフィアが
「ここは人族が集まる地区なの…」
ディオスが訝しい顔で
「人族が集まる地区…とは?」
「この王都は、それぞれの種族が決められた地区に棲み分けされているから…」
答えたソフィアの表情が少し暗い。
「…バランとは違うのだな…」
と、ディオスは頷く。
クリシュナがディオスに語る。
「これでも他の国に比べれば、バルストラン共和王国は種族間の差別は少ないわ」
「じゃあ、他国は…どんな?」
と、クリシュナにディオスは視線を合わせる。
クリシュナは諭す母親のように
「その国で影響力の大きい種族が王都を席巻しているわ。他の種族が入れない程にね」
「そうか…」
と、クリシュナの言葉にディオスは納得する。
何時でも権益が強い者が世を操るのは仕方ない事、社会の仕組みが自分のいた世界と同じだったのが少し悲しいようで納得したような複雑な気持ちを抱えて、バスは魔族の地区に入り道を進む。
そして、バスが到着したのは、二階建ての大きな屋敷だった。
ケットウィンが先頭にバスを降りて
「着きましたよ。みなさん、ここが私の王都にある別邸です」
ディオスは、ほう…とケットウィンの王都別邸を見上げる。洋風の屋敷に二階はベランダで繋がれ、広い庭園まで付いている。
まさに貴族の屋敷という別邸。
ケットウィンは、別邸の門を開け「入ってください」と皆を導く。
庭園を進みながらケットウィンが
「一応、庭や外見の手入れだけはお願いしていますが…」
別邸のドアを開けると、少しほこり臭い感じがした。
「中は、少し…掃除が必要ですね」
ケットウィンは申し訳なさそうに頭を掻く。
ナトゥムラが右手を挙げ
「よし、みんなして軽く空気の入れ換えと、掃除でもしようじゃないか」
こうして、ソフィア達とその連れてきた従者達による別邸の掃除が始まり、最初に全員で窓を開けに掛かる。
次の壁や天井、魔導石の照明のホコリ落とし、床の掃除と多数でやる掃除は見る見るはかどり、二時間ほどした所で午後のティータイムとなり休憩が始まる。
庭園の芝生に座り、お菓子や紅茶を広げ慎ましやかな休憩をしていると、クリシュナがディオスの背をつつき
「ねぇ…」
「なんだ?」
「ちょっと気になる所があるの…」
「気になる所?」
休憩を終えてディオスは、クリシュナに案内され二階に上がると、導かれた場所は石積みの円筒の壁の前だった。
ディオスは壁を見つめ
「ここの何処が気になるんだ?」
クリシュナが膝を曲げ「ここ…」と床を指さす。
その場所は、円筒の壁と床の間で少し、床板に擦れた跡がある。
ディオスも膝を曲げ、クリシュナの指さす床を触り
「なんだ? 何かが擦れた跡のようだが…」
「見て、こう擦れている」
クリシュナが擦れた跡を指で追い進む。その軌道、半円状だ。
ディオスは、円筒の壁とその筋を見比べ
「まるで、壁が動く仕掛け扉のような感じだなぁ…」
「そうなの…だから、押してみたりしたけど…動かないのよ」
ディオスは円筒の壁に張り付き「ん!」と押すが、全くビクともしない。
「もしかして、引くのか…。だが、とってのようなモノはないし…」
「何か、仕掛けがあるのかしら…」
クリシュナは壁を軽く小突く。
そこへケットウィンが現れ
「そっちはどうですか?」
進捗を聞くと、壁の前で考え事をする二人を見つけた。
「あの…お二方…何を壁に向かって」
「ああ…ケットウィンさん」とディオスが
「クリシュナと話していたのですが…。どうやら、この壁が動くかもしれないみたいで…」
「ええ…」とケットウィンは壁の前に来て、壁を触り
「何か、仕掛けがあるようには見えませんが…」
ディオスは隣に来て壁を触りながら
「ケットウィンさん。この屋敷は何時からあるのですか?」
「ええ…と確か…亡くなった祖父の代に建築された筈ですよ」
「何か、祖父から聞いている事は?」
「いえ…特に屋敷については…」
「そうですか…」
三人して悩んでいると、ナトゥムラが顔を出し
「何、やっているんだ? 暇ならこっちを手伝ってくれよ。早くしないと今日の夜会に間に合わなくなるぞ」
ケットウィンが肩を竦め
「この謎は後日という事で」
ソフィアは「ふ~ん、ふん~」と鼻歌交じりで着替えをしている。
ケットウィンの侍女が付きソフィアの着替えを手伝っている隣で、クリシュナが豊満な胸を強調しラインがハッキリとするドレスの着替えをしている。
ソフィアは、クリシュナの様相をマジマジと見つめ
「う、うらやましい…」
と、自分の普通サイズの胸を労る。
クリシュナは「ふふ…」と笑み
「うらやましいかぁ…でも、大変なのよ。この胸囲のお陰でドレスとか服とか、サイズが合う物が少ないし…」
「それでも…」とソフィアは自分の胸を撫でながら「ないより、あった方が…」
コンコンと衣装部屋のドアがノックされ
「おーい。もう、着替えは終わったかぁ」
ドア越しにナトゥムラが呼びかける。
「後少し」とソフィアは呼びかけた。
ドアの向こうには、騎士の正装をしたナトゥムラと、僧としての正装のスーギィ、タキシードの正装のマフィーリアとケットウィンに、ディオスはシャツとタキシードのスラックスにダグラスが与えた魔導着を装着する。
そこへ「遅れました…」とオールバックにタキシードのダグラスが駆け付ける。
「みなさん、とても良い衣装で」
ダグラスが五人を見渡す。
ディオスが魔導着の袖を抓み
「ダグラスさん。オレは本当にコレでいいんですか? みんなと同じように正装の方が…」
「それが魔導士の正装のようなモノなので、大丈夫ですよ」
ダグラスが太鼓判を押す。
ディオスは不安だなぁ…と思う。ダグラスにちょっと天然気があるからだ。
衣装部屋のドアが開き。
「おまたせ」
ソフィアとクリシュナが姿を見せる。
ソフィアは飴色のような金糸が編み込まれたドレスを纏い、自身の銀髪との対比が程良く輝いている。
クリシュナは、豊満な胸を強調しモデルのような体型のラインをなぞるドレスは艶やかな様相だった。
一同が、クリシュナに釘付けになり「おお…」とナトゥムラはため息を漏らし、スーギィは「んん…」と咳き込み頬が染まる。
マフィーリアは、うむ…と難しい顔をして誤魔化し、そんな照れ隠しの二人をにこやかケットウィンとダグラスが見つめる。
ディオスは…視線を逸らせる。目のやり場に困った。
ソフィアは、明らかに自分とクリシュナとの反応の差に苛立ち「フン!」とディオスの腹を殴った。八つ当たりである。
「な、何故、オレは…殴られた?」
ディオスは意味の分からない不条理に困惑すると、苦しむそこにクリシュナが来て
「大丈夫?」
「ああ…」
「まあ、自業自得だけど」
と、ソフィアは投げ捨てるように呟いた。
皆は、全員が乗れる大型魔導車に運ばれてとある会場へ向かう。
その場所は王都の真ん中にある王城だ。そこで王候補達の顔合わせの夜会がある。
夜の帳が降りた王都、その王城は賑わっていた。
ディオス一行を乗せた魔導車が王城の門の前に止まり、ドアマンがドアを開けて会場の執事達が、王城の広場へディオス達を案内する。
王城の大庭園とホールが一体化した広場には、ドレスやタキシード、騎士の正装の貴族達が大勢集まり賑わっている。
ディオスはソフィアの隣に付き従いながら広場を進むと、各種族、獣人、オーガ、魔族、エルフの貴族達がソフィアの元に集まり
「この度のキングトロイヤル、おめでとうございます」
「我々は、ソフィア様を応援いたしますぞ」
ソフィアはにこやかに笑み
「ありがとうございます」
ディオスはその集まり具合を見て、ソフィアを支持するのは、人族以外の種族が母体の多種族である事が分かった。
ディオスは視線を全体に向け見渡すと、ソフィアの集まりを合わせ三つの集団が出来ていた。一つは人族が主のグループ、もう一つは人族と獣人にオーガが三等分しているグループだ。
ディオスは側にいるスーギィの腕の袖を引っ張り
「スーギィさん。他の候補者は何処にいるのですか?」
スーギィが隣に来て
「まず、人族が集まっている集団で赤い髪に赤いドレスの女性が見えますか」
ディオスは目を凝らせて、人族の集団を見つめると、金髪、黒髪、青髪の集団の中で一際、目立つ燃えるような赤髪の女を見つける。
その赤髪の女を中心に集団が出来ていて、ディオスはその赤髪の女を見つめると、女がディオスの視線に気付いたのか、ディオスと視線を交合わせ、自信に満ちる微笑みを向け、扇子で手招きする。
スーギィが
「ほら、手招きしている女性がゼリティア・オルディナイト。オルディナイト家の現当主で、アーリシア大陸で強大な影響力を持つオルディナイト財団の理事長の孫娘です」
リアルセレブというヤツか…とディオスはフンと息を荒げる。
「で、次が…」
スーギィが別の集団へディオスの顔を向け、
「碧の髪の女性が見えます?」
ディオスは目を凝らすと、お辞儀を向けられている碧の髪の女が目に入る。服装はドレスというより、軍服に近い男装の麗人だ。
「あの、お辞儀を沢山、向けられている女性か?」
「ああ…彼女はレディアン・ヴォルドル。ゼリティアと同じくヴォルドル家の当主で、代々ヴォルドル家はバルストラン共和王国の軍門を司っている。所謂、将軍ですね」
「ほぉ…」
ディオスは驚きの声を漏らす、方や財閥のお嬢様、方や女将軍、これでキングトロイヤルに勝ち目はあるのかねぇ…とソフィアが王になれる勝算が怪しく思える。
「両候補者は確かに強大だが、我らは勝たねばならん。気後れするなディオス」
スーギィがディオスの背中を叩き気合いを入れる。
ディオスは、集まる支援者に挨拶をするソフィアを見つめ、相当…無謀な事に挑戦しているように思えた。
その内に、三つに分かれていた集団が動きがあった。
ゼリティアがお付きを伴ってソフィアの下に向かって歩み寄ってくる。
ソフィアの集団がざわめき、ゼリティア一行はソフィアへ近付き
「これはこれは、ソフィア殿…相変わらず、妾より年上なのに、幼くみえるのぉ」
ソフィアは警戒で
「何の用かしら、ゼリティア」
ゼリティアは、ソフィアの右にいたディオスに扇子を差し向け
「お主、妾が来いと言っているのに来ないのは不敬であるぞ」
ディオスは目を丸くした次に、頭を下げ
「それは申し訳ありません」
ゼリティアの不遜な態度に流されて謝ってしまう。
赤目、赤髪、その髪に豪勢なティアラが輝き、赤いドレスには様々な金細工が施され、そのドレスに負けない程のプロポーションと、顔立ちは美麗で勝ち気眉がハッキリと浮かんでいる、傲岸不遜の姫だ。
ゼリティアは、扇子を叩き鳴らし
「さあ、こっちに来い!」
え…とディオスは困惑すると、ソフィアが手を前に出して止め
「コイツはアタシの弟子なの。勝手に引っ張り回さないでくれる」
ソフィアとゼリティアが互いに睨み合うと
「何だ。もう、キングトロイヤルの雌雄を決するのか」
レディアンが共を連れて二人の前に現れた。
ここにキングトロイヤル候補者の顔合わせが成し遂げられる。
ゼリティアが妖しげに微笑みながら
「面白い提案であるぞレディアン」
「ほう…意見が合ったなゼリティア…」
レディアンは凜とした眉を細める。
「さて…どんな方法で決めるかのぉ…ソフィア殿」
ゼリティアがソフィアを見る。
ソフィアは眉間を寄せ
「アナタ達、本気なの?」
レディアンは肩をほぐしながら
「まどろっこし事は苦手でなぁ…。何事も早い方がいい。何せ、この国には権威の象徴たる王がいない。何時、他国につけ込まれるか分からない状態だ」
ソフィア、レディアン、ゼリティアの三人から強い気迫が醸し出され、緊張が包む。
ディオスは、やれやれと頭を振り三人の交差する視線の交点に向かい立ち
「まあまあ…落ち着いてください。お三方」
三人を落ち着けるようにする。
ゼリティアは右の眉間を上げ
「ほう…お主、いい度胸であるな」
レディアンが鋭くディオスを見つめ
「お前は、何だ?」
ディオスは仰々しく頭を下げ
「始めまして、ソフィアの弟子であります。ディオス・グレンテルと申します。以後、お見知りおきを…」
ゼリティアとレディアンに一通り頭を下げた次に
「皆様方、ここはどういう場でしょうか? ここは、雌雄を決す場ではなく、顔合わせの場と聞いておりますが…」
フンとゼリティアは鼻で笑い、扇子を叩き
「おお…そうであったな。悪い事をした。セバス」
と、右にいる老紳士の執事に扇子の先を向け
「この者に報酬を贈呈せよ。乱れた場を収めた礼じゃ」
「は」と老紳士の執事セバスはゼリティアに一礼して、ディオスに近付き
「これを…」
と、金貨を一枚渡そうとする。
「いえ、結構です」
ディオスは右手で制止するも、セバスがその右手を握り
「そう…遠慮なさらずに…」
ディオスは、右手から何かが入る感覚がしてセバスの手を振りほどく。
探られたと直感したディオス。
目の前のセバスは鋭い視線を秘めている。
ディオスとセバスは暫し見合うと、ディオスの背に視線を感じて振り向くと、小さな獣人の子が右手の親指と人差し指をくっつけて眼鏡にしてこちらを覗いている。
指を眼鏡にした獣人の子は、ディオスの気付きに驚き体を震わせ駆け足でレディアン一行に混じろうとする。
ディオスは、ベクトと使い瞬間移動した。
突如、消えたディオスにその場にいた一同が驚愕する。
ディオスが瞬間移動した先は、逃げている獣人の子の前だった。
獣人の子は「え…」と驚いた次に、ドンとディオスに当たる。
「え? え? ええ?」
ディオスに当たった獣人の子は困惑する。
さっきまでいた場所から一瞬でディオスが自分の目の前にいた事に怯える。
ディオスは射貫くようなの顔つきで、獣人の子を凝視する。
「ああ…あう…」
獣人の子は恐怖に怯えていると…
「ウチの子が何か、しましたか?」
後ろから声を掛ける獣人の青年、レディアンの隣にいた獣人だ。
ディオスは鋭い顔で、後ろを振り向き獣人の青年を見る。
「はにゃ…」と獣人の青年は怯えるが、ディオスは視線を前に戻し
「何でも無い」
と、告げてベクトで瞬間移動してソフィアの右に戻る。
ディオスの一連の行動は、両陣営にざわめきをもたらす。
ソフィアは右に戻ったディオスの腹に肘をお見舞いして
「おバカ、ポンポン術を使わない」
「う…」とディオスは腹を押さえて少しくの字に曲がる。
そんなディオスに両陣営の視線が集中し、ヒソヒソと話をしている。
ソフィアが息を吸い
「申し訳ありません。ウチの愚弟がご迷惑をお掛けしました。ゼリティア、レディアン。この続きは、正式なキングトロイヤルの選定で…」
「…ええ…よろしくてよ」とゼリティアが。
「ふ…そうだな…」とレディアンが。
ゼリティアは、扇子で掌を叩きながら
「所で、皆様はどんな事を掲げてキングトロイヤルに?」
ソフィアとレディアンは互いに見合うと、ゼリティアが
「妾は、この国をもっと裕福にさせたい。このバルストラン共和王国を富ませる為に王に立候補しましたわ」
レディアンがフッと笑み
「私は、この国をもっと誇りある国にする為に立候補した。些か、軟弱すぎた時代が長すぎたからな」
ソフィアは胸を張り
「私は、この国をもっと融和的にする為に王に立候補しました。他国に、様々な種族がもっと融和して暮らせるという事を示す為に」
三人の候補者が掲げた信念を告げ、睨み合うが
「何をしているのですか?」
一人の老人が三者の一団に加わる。
「これはギレン評議会議長」とレディアンがお辞儀すると、一同も続く。
老人、ギレン評議会議長、バルストラン共和王国の民の選挙から選ばれた評議者が集う議会の最高議長である。
ギレンは三者が揃ったこの場を見渡し
「ほう…もう、互いの顔合わせはお済みになったのですな」
「ええ…」とゼリティアが「皆、仲良く…」
「そうですかそうですか。ソフィア殿、ゼリティア殿、レディアン殿。今日のこの場は様々な趣向が催してありますので、どうか楽しんでくだされ」
「はい…」とゼリティアは笑み。
「はい…」とソフィアは肯き。
「は…」とレディアンは一礼する。
「では、参ろうぞ」とゼリティアは一団を連れて離れる。
「行くぞ…」とレディアンは一行を連れて去る。
ソフィアは、はぁ…と肩を下ろし
「緊張したぁ…」
ナトゥムラが手でソフィアを扇ぎながら
「お疲れお疲れ、まさかカチ合うなんて思いもしなかった」
スーギィがディオスの隣に来て
「ディオス。まさか、あの状態の時に前に出るなんて無謀です」
ディオスは肩を竦め
「おかしな流れになっていたので、道化が必要と思い」
「とんだクソ度胸だぜ」とナトゥムラは呆れ笑む。
クリシュナがディオスの背の布を引き
「探られたのでしょう」
「ああ…大丈夫だと思う。寸前の所でな、多分」
ゼリティア陣営では、ゼリティアが
「セバス…」
「申し訳ありません」とセバスは謝罪し「どうやら、探査の事を感づかれたらしく、何も」
「そうか…まあ、よい。後でじっくり調べるとしよう。ディオスとかいう駒について」
「は」とセバスはお辞儀する。
ゼリティアは、扇子で口元を隠しながら
「しかし、ディオスという名前…痛いな」
レディアン陣営では、先程の獣人の子が
「申し訳ありません。お嬢」
レディアンは、謝る獣人の子の頭を撫で
「仕方ない。お前のスキルが発動した瞬間にバレたのだから」
「しかし…」と獣人の青年が「アイツ、スキルの気配を察するなんて、何なのかねぇ」
レディアンは右手を顎に当て
「さっきの見た事もない移動…魔法なのか? まあ、それと加えて調べて置く必要があるようだな。ディオスか…少し痛い名前だな」
「ヘクシュン」とディオスはくしゃみをする。
クリシュナがハンカチを取り出し
「どうしたの、急にくしゃみなんて…」
「いや、鼻がむずむずして…。少し冷えたのか?」
ディオスは体を震わせた。
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