第54話 ロマリアとレオルトスでの手腕
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ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ロマリアとの皇帝との会談を終えて
つかの間のディオスだが…
レオルトスから問題が舞い込んだ。
昼前、ロマリアから帰って来たディオスは、さっそくロマリアの書状をソフィアに渡して、屋敷に帰ろうとする。
「何か、迷惑を掛けたりしていないでしょうね!」
ソフィアの小言にディオスは
「なーーーーい」
と答えて屋敷に帰る。
「なら、良いけど」とソフィアは苦笑する。
ソフィアは王の執務室で、ディオスから渡されたロマリアの書状の封を開ける。]
そして、その書面を見た瞬間
「ウソでしょう…。アイツ、本当に何をやったのよーーーーー」
驚愕してしまった。
ディオスは屋敷に帰って
「ただいまーーー」
その両手にはロマリアのお土産が一杯だった。
「ああ…お帰りダーリン」
「あら、アナタ、そのお土産は何?」
クレティアとクリシュナが迎えてくれた。
ディオスは、荷物とお土産を下ろして
クレティアとクリシュナを抱き締め
「ただいま…そして」
クレティアとクリシュナの大きくなった赤ん坊のいるお腹を擦って
「ただいま…パパ、帰って来ましたよ」
赤ん坊に挨拶をする。
レベッカが来て
「おかえりまさいませ、旦那様」
ユーリも
「あ、旦那様、おかえりなさいませ」
チズも
「旦那様、おかえりなさいませ」
ディオスは三人に
「おう、ただいま…何か、変わった事は?」
レベッカは眼鏡を上げて
「特に…まあ、奥様達のお腹が大きくなった事以外は…」
「そうか…」とディオスはお土産を掲げ
「沢山、おいしいモノを買ってきた。みんなで食べよう」
丁度、時刻は昼で昼食にはもってこいだ。
ディオス達は、食事を取る部屋で、ロマリアからのお土産を広げて、それを昼食にしようとしていた。
「そうだ…」とディオスは、食事の間にある魔導情報水晶を操作して
「ロマリアからのお土産なんだから、ロマリアの曲を掛けて気分でも味わいながら、食べようか」
魔導情報水晶とは、この世界で言う、インターネットのような情報網システムに接続されたパソコンか、情報端末のような道具である。
ディオスは、ロマリアの音楽を掛けようとしたが、突然、緊急、放送モードになって
「臨時ニュースを伝えます」
緊急のニュースモードになってしまった。
「なんだよ。一体…」
ディオスは戸惑う。
緊急のニュースモードになるなんて、大きな天災以外ない事だ。
ニュースの女性が原稿を読む。
「ええ…今日、午前半ば、ロマリアがその領土に向けて、緊急の皇帝勅語を、皇帝自ら発表しました。その模様です」
それは、記者関係者がロマリア広報場で、皇帝ライドルを前にして状況だ。
「昨日ほど…私は、アーリシアの大英雄、ディオス・グレンテルと会談した。その男を見て私の印象を伝える。恐ろしい程までの男だった」
記者が
「皇帝陛下、それはどういう意味でしょうか…」
ライドルが口にする。
「私は、ディオス・グレンテルを、タダの実用性がない夢想がちな平和論者だと思っていたが、その中身は全く違っていた。現実的かつ理論的、まさにリアリストであり、現状を良く知る現実主義者だった」
ライドルが真っ直ぐに映す魔導カメラを見て
「まさに、端倪すべからざるべき者、その言葉が相応しい人物だった」
オオオオオオ
記者達が驚嘆の声を上げる。
ライドルは続ける。
「この先、我らロマリアはアーリシアの大英雄、ディオス・グレンテルの行動に注視しなければならない。そうでなければ…世界からの動きに取り残されるであろう。以上だ」
放送が終わった。
それを聞いていたディオス、そして屋敷の女性達は…。
ディオスは引き攣らせた顔を、後ろにいる皆に向け
「なぁ…ゆっくり食べよう」
全員が視線を合わせて
「ああ…うん。そうだねダーリン」とクレティア
「ええ…そうね、アナタ」とクリシュナ
「そうですね…」とレベッカ
「そうですよ」とユーリ
チズだけ「旦那様…後で、きっと大変な事になる」と淡々と告げた。
ディオスは、頭を抱え
何で、こうなったーーーーーーーーーーー
屋敷の魔導通信機の呼び出しベルが鳴る。
レベッカが席から立ち上がり、広間にある魔導通信機を取ると
「あ…はい、少々お待ちください」
レベッカは魔導通信機を持って食事の間に来て
「旦那様…ソフィア様が…今すぐ、王宮に来るようにと…」
ディオスは、額を抱える。
もう、絶対に、ロマリアの件でだよ!
ディオスは昼食無しで、直ぐに王宮に来ると、王の執務室で、もの凄い顔のソフィアと、驚きを向けているゼリティアがいた。
「あの…来ました陛下…」
ディオスが、部屋に入る、執務机の前にいるソフィアが自分の前を指さし
「ここに来る!」
命令されて、ディオスは「はい…」と恐る恐るそこに来て立つ。
ソフィアが、机の上にあった書状を手にして、ディオスに向け
「これ…どういう事?」
「え…」とディオスはキョトンとする。
ゼリティアが、ソフィアの持つ書状を手にして
「お主、ここに書かれている内容がなんなのか。知っておるのか?」
ディオスは首を横に振って
「ぜんぜん、知らないですよ」
ゼリティアが書状を見ながら
「これには、我が国と優先的に貿易をしたいと、書かれている。その交渉で、品目が被らない交易品には、免税…関税を掛けないで交流させたいと…。そして、フランドイルにも、交易の窓口を作って欲しいと…」
ソフィアは別の書状を手にして
「アンタ…本当に何をやったの?」
「はぁ?」とディオスは困惑を向け「そんな…ただ、話しただけだよ」
ソフィアは眉間に指を置いて
「ただ、話しただけで、交易に対して高圧的で、難航する超大国を説得したのよ…」
ゼリティアは額を小突きながら
「これはどういう事じゃ…全く、頭が追いつかん。対等な好条件で、交易をしたいなぞ…。ありえんぞ。全くもって奇っ怪な事じゃ…」
「ああ…」とディオスは唸った後
「まあ、交易がしたいなら…すれば…いいんじゃない…」
と、軽く告げると、ソフィアとゼリティアはディオスを凝視する。
その威圧で「げ…」とディオスは身を引かせた。
「ゼリティア」とソフィアが「一応、慎重に動くわよ。どんな企みがあるか、分からないわ」
ゼリティアは肯き「そうじゃな…それに越したことはないからのぉ…」
「その…」とディオスが「書状にはフランドイルにも窓口を作るってあるんだろう? どうする?」と二人に問う。
ゼリティアは扇子で口元を隠し鋭い顔で
「ソフィア殿…あくまで我らが主導権を握るという事で…」
ソフィアは強く肯き
「ええ…当然ね」
その後、再び二人はディオスを凝視する。
ディオスは背筋を震わせ、二人の威圧にビクビクしながら
オレ、本当に何をしたんだ?
と、思い悩んでいた。
二日後、フランドイルのヴィルヘルムの元へ、バルストラン経由のロマリアの書状が来た。
王の執務室でヴィルヘルムは、ロマリアからの書状を見て目を見開く程、驚いていた。
隣にいるグラディウスが
「陛下…どのような書状で」
ヴィルヘルムが、グラディウスに書状を渡し、グラディウスは驚きに包まれる。
「な、何と…アーリシアにおける、ロマリアで取れる風石の輸入の窓口になって欲しいと…。それ以外に、品目の被らない物の交易に関する関税の免除。さらに、様々な魔導金属材の輸出の受け入れ…。我が国とロマリアとの経済交流協議会の設立!」
ヴィルヘルムが額を抱えながら
「何が起こった? ロマリアと緊張関係である我らと、交易がしたいと…。どういう算段なのだ?」
ヴィルヘルムも頭を抱える事態だった。
ヴィルヘルムは思う。確かめねば…。
「ヴェルトールを呼べ」
ヴィルヘルムは、直ぐに名代の弟を呼んで、事情を説明させ、ロマリアに飛ばした。
ヴェルトールは、直ぐにロマリア首都にある風石の採掘及び運搬販売を一括で行っているオルムド財団の本部に来ると、直ぐに、オルムド財団のトップ、グレート・ピョートール(大頭目)の魔族の老紳士と会談する事となった。
グレート・ピョートールは、客席にヴェルトールを座らせ、直ぐに一枚の書状をヴェルトールに渡した。
それを見てヴェルトールは愕然とした。
「ああ…風石の輸入に関する契約書…これは…」
そう、その書類はフランドイルの風石を受け入れてくれる企業との、優先的に風石を販売するという契約書だった。しかも、もう既に、大頭目のサインまで入っている。
大頭目は、静かに淡々と
「ライドル皇帝陛下から、フランドイルと優先的に風石の取引をするようにと…言われました。これは確約書です。後は…貴方達がゴーサインをしてくれるだけで、直ぐに取引を開始します。その為の銀行の書類です」
大頭目は、風石取引専用の銀行の窓口が書かれた書状もヴェルトールへ渡す。
フッと大頭目は笑み
「正直、この英断には私達も感謝しています。ロマリアは風石が豊富にある土地、ですが…その輸出窓口はユグラシア東の数カ所の国しかない。現在、世界で出回っている風石のシェアの七割はアリストス共和帝国が持っている。そこに食い込むには、このぐらいの事が必要だ。是非とも…お願いしますよ」
ヴェルトールは、オルムド財団の本社を後にして、直ぐに兄のヴィルヘルムに連絡する。
「兄上…。グレート・ピョートールから、確定の契約書を頂きました! 事実です。そのロマリアからの書面にあった事は、本当の事です!」
興奮気味のヴェルトールにヴィルヘルムは
「分かった。こちらでも早急に、何とかするようにバルストランに呼び掛ける。少し、そこで待っていてくれ」
弟からの報告を聞いたヴィルヘルムは、直ぐに、バルストランのソフィアへ繋がる直通魔導通信機を取る。
ソフィアは、ヴィルヘルムからの言葉を魔導通信機で聞いていた。
「はい…ですが。フランドイル王…。はい…。分かりました。また後で…。え…何時かという時間をですか…。ああ…二時間ほど待ってください。はい…」
ソフィアは通信機を切ると、そばにゼリティアがいた。
「どうじゃ?」
王の執務机にいるソフィアは頭を抱えて
「早く、ゴーサインするようにってフランドイル王から言われたわ…。どうしよう…」
ゼリティアが
「これは悪い事ではない。アーリシアとロマリアとの交易が盛んになれば、お互いがお互いを必要とし合い、争いが起きにくくなる。アーリシアにとっても経済が発展する機会だし、ロマリアにとっても同じじゃ」
ソフィアは目を閉じる。確実に世界が動いているのだ。この流れを止める必要は無い。
「決めたわ、ゼリティア…。やってみる」
「うむ、妾も精一杯、協力するぞ」
こうして、バルストランを主導として、ロマリアとアーリシアとの交易が開始した。
直ぐに、フランドイルとロマリアとの風石の交易が始まり、バルストランは、ロマリアとの交易を主導的に組み合わせるアーリシアとロマリアとのポイントとなった。
そして…数日、バルストラン王宮のソフィアの下へ、各国の書状が集中する。
その内容のほとんどが、ロマリアとの交易を仲介して欲しいという内容だった。
そんな中、アフーリアのレオルトス王国のフィリティ王がバルストランへ訪問した。
空港で出迎えるディオス達、ソフィアがフィリティと握手して
「ようこそ…バルストランへ、レオルトス王」
「この度の訪問、感謝しますバルストラン王」
ソフィアはフィリティを連れて、レッドカーペットを進む。
その脇にディオスが付くと、フィリティがディオスを横見する。
ディオスはフフ…と微笑み掛けると、フィリティも微笑んだ。
そこへ、付き添いとして来たヴァルドが来た。
「やあ、ディオス。来たぞ」
「はい、兄上…」
と、二人は軽やかに挨拶をする。
フィリティとソフィアは会談をする。
王宮の大きな客間で様々な経済交流や、政策など、色々と意見を交わした後、フィリティはソフィアの傍にいるディオスをチラチラと見ながら
「バルストラン王…もし良ければですが…。ディオス殿の家に行ってみたいのですが…」
ソフィアはディオスを横見する。いい?
ディオスは顔を明るくさせ
「是非、来てください。クレティアも喜びますので…」
こうして、フィリティはヴァルド達、部下達を連れてディオスの屋敷に来る。
屋敷のドアをディオスが開けると、そこにクレティアとクリシュナがいた。
クレティアとクリシュナは妊娠五ヶ月目のお腹が目立っていた。
クレティアが
「ようこそ、陛下…すいません。その…このお腹で思うように動けないので、なかなか、顔を見せる事が出来なくて…」
と、赤ん坊のいるお腹を擦る。
フィリティは、あ…と戸惑った後、微笑み
「そんなの気にしないでくれ。その…お腹の子は大事にしてくれよ。大切な命なんだ」
「ありがとうございます」とクレティアは微笑む。
「さあ…」とディオスは屋敷の中へフィリティ達を誘う。
ヴァルドが、クレティアの前に立つと腕を翳す。
クレティアも腕を翳してガッチリ交差させる。
それを見てディオスは、ああ…なんかの戦士としての親愛の証なんだね…と思った。
フィリティがディオスの研究室を見たいとしたので、地下の研究室へ案内する。
「これが、高純度魔導石を生成する装置です」
「ほぉ…」
三つの特殊ケースが連なるロケットのような装置をフィリティは見上げる。
「これが…ヴィアンドです」
ディオスが、ヴァシロウスの時に使った広域空間防護装備の手甲を見せる。
フィリティは手に取って
「これが、ヴァシロウスの攻撃を防いだという…」
その後、屋敷の中を色々と周り、客間へフィリティを案内した。
ソファーに座るフィリティ、そこへレベッカが紅茶を出して
「どうぞ…」
「ありがとうございます」
と、フィリティは紅茶を口にする。
その対面の席にディオスが座って
「まあ…そんな、珍しい屋敷でもありませんがね…」
フィリティは微笑み
「その…安心しました。ディオスさんはアーリシアの大英雄になられたので、どんな生活をしているのかと…。ですが、以外や普通でホッとしました」
ディオスは微笑み
「そんなモノですよ。アーリシアの大英雄になっても生活が変わる事はありませんから…。いや、子供が産まれますから、華やかにはなるかも…」
「そうですね…」とフィリティは紅茶を呑み込んだ後
「その…ディオスさん…お力を貸して欲しい事が…」
フィリティが慎重になる。
ディオスは「フ…」と息を吐いて
「でしょうね。何となく、屋敷に来たいと言った時から察してはいました。で、どのような?」
フィリティは苦しそうな顔をして
「……アリストス共和帝国との交易に関する事で…」
フィリティは、アフーリアであるアリストス共和帝国と、アフーリアの二十ある国々が集まって、各国の資源の値段を決める交渉にディオスの力を借りたいと…。
「アーリシアの国々や、他の大陸の国々とは、チャンと話し合って妥当な値段で取引していますが…。アリストス共和帝国だけは…その強い圧力によって…苦しい価格を押しつけられます」
ディオスは厳しい顔をして
「それを拒否すれば?」
フィリティは悔しそうな顔で
「悔しいですが…。その…桁違いの軍事力を翳され…屈するしか…」
ディオスは目を閉じて、数秒後
「わかりました。自分がお力添えをさせてください」
フィリティは頭を下げ
「頼みます」
それにディオスは焦り
「いいですよ。頭を下げないでください」
フィリティの頭を上げさせた。
フィリティが帰った後、ディオスはソフィアに事情を説明する。
ソフィアは、頷いて聞いて
「分かった。助力してあげて…」
「ああ…」
ディオスは、さっそくゼリティアと共に、様々な資料を持って検討する。
検討する場所は、ゼリティアの城邸の大きな会議室である。
ゼリティアは持っている資料を読み上げながら
「現在、アフーリアの資源の半分を買っているのは、アリストス共和帝国である。得た資源は主に、国内で使われ、後は輸出の製品になっておる」
ディオスが
「アリストスには資源は?」
「ある」とゼリティアは肯き「まあ、自国の資源を採掘するコストより、他国から得る資源の方が格安だからのぉ…。アフーリアに圧力を掛けてなぁ…」
「ほぉ…」とディオスは、レオルトスやアフーリア諸国の資料に目を通しながら
「ん…結構、アフーリアの周囲の海底には、資源があるんだなぁ…」
「ああ…そうじゃ。まあ…採掘する技術がないから、宝の持ち腐れだがのぉ」
と、ゼリティアは腕を組む。
ディオスは腕を組んで考える。その姿を黙ってゼリティアは見つめる。
ディオスの真剣に考えている姿がゼリティアは好きだ。
鋭く、遠くまで見通すような視線にが、なりより格好いいのだ。
ディオスは、考える。
アフーリアの海底資源、アリストスの強圧、価格の押しつけ…。
つまり、どこか、アリストスに寄越すより、儲かる先を用意すれば…。
「あ…」
いた、ロマリアだ。ロマリアは自国の資源を自国の為に使っている。
外部からそれなりに、得られれば、ロマリアにとっても得だし、アフーリアにとっても新しい先が出来るから、アリストスに引っ張られる事はない。
後、一押し…。そうだ…。
ディオスは、それはそれは、邪悪そうな笑みを浮かべる。
それを見てゼリティアは、うぁ…良からぬ事を考えておる…と察した。
ディオスは、資料を持って
「ゼリティア、ちょっと屋敷に戻る」
「なんじゃ? 何か、案が浮かんだのか?」
「ああ…。それと、新しい技術の提供もしたい」
「新しい技術?」
「海底資源採掘用の魔法さ」
ディオスは屋敷に戻って、ヴィクトリア魔法大学院の時に貰ったエルダー級達の名刺を見つけ
「ええ…これじゃあない。これ…ではない。あ!」
丁度いいエルダー級の魔導士がいた。
ケンブリッジ・オルガートル
様々な工作機の魔法を研究。主に資源採掘用の大規模魔法について…。
そして、レギレルの王直属の魔導士だ。
「げ、ヴィクトールのヤツの魔導士かよ…」
癪だな…。子供の事をバラしたヤロウの力を借りるのかよ…。
「はぁ…まあいいか、じゃあ…」
ディオスはヴィクトールから貰った直通の連絡先がある魔導プレートを見る。
レギレル国、資源採掘機構研究所に、ヴィクトールはいた。
ソファーの座るヴィクトールと対面のソファーには、丁度、ディオスが求めていた魔族のケンブリッジが座っていた。
ヴィクトールは難しい顔をして
「はぁ…やっぱり、無理なのか…」
ケンブリッジが
「やはり、海底資源を掘るのには…今の我々の技術では…まだ…」
「クソ…。我が国の周囲の海には、宝が眠っているというのに…」
ヴィクトールが悔しそうにしていると、
その部屋のドアがノックされ
「失礼します」とヴィクトールのオーガの秘書の女性が入って来て
「ヴィクトール様…。ディオス・グレンテル様より、直通の通信が…」
「なに!」
と、ヴィクトールが「失礼」と部屋から出て、廊下でディオスと繋がる通信機を手にして
「これはこれは、アーリシアの大英雄が…どんなご用件でしょうか?」
『どうも、ヴィクトール皇太子。少しお時間は大丈夫でしょうか?』
「ええ…大丈夫ですよ」
『そうですか…。あのそちらの国に属しています。エルダー級魔導士のケンブリッジ様と…共同の研究をしたいのです』
「はぁ…どんな?」
『海底資源を採掘する魔法に関してですが…』
ヴィクトールが目を輝かせ
「本当にーーーーー」
『ええ…ああ…はい…』
と、通信機越しのディオスは戸惑いを口にした。
三日後、ゼリティアの元へ、アーリシアの三大財閥、オルディナイト、ヴァルハラ、ウルシアルの三つが共同開発運営する海底資源採掘会社についての計画書だ。
その技術開発者に、レギレルのエルダー級のケンブリッジと、バルストランのエルダー級のディオスの連名があった。
ゼリティアは、頭を抱え
「アヤツは…」
アッサリと開発が難しい為に難航していた海底資源採掘技術を作り出した。
ゼリティアはページを捲る。
そのページには、海上から空間を渦状に発生させてトンネルを作り、海に大きな穴を開ける魔法が書かれていた。
しかも、この魔法は、照射角度が自由の為に、到達する場所の海上に退かせない氷山といった障害があっても、斜め横の直線で空間のトンネルを作れる。
オルディナイトは、この魔法装置に使われる魔導石の精製と製造
ヴァルハラは、この装置が使われる魔法陣を刻んだ魔導回路の設計製造。
ウルシアルは、この魔法装置が乗る、海上施設の設計製造。
ゼリティアは「ははははは」と驚きのワクワクな笑みをする。
全く、ディオスは、驚く事をする…。
それから、一週間後…。アフーリアの資源会議では…。
大きな会議場で、アフーリアの各国の資源担当官と、アリストスの資源担当官との会談があった。会議場にいる多くの国々の関係者がそれを見つめる。
アリストスの資源担当官、ダルガが、アフーリアの提示した価格計画表を投げ
「ふざけるな。こんな価格では、取引できん」
横柄な態度だった。
それにアフーリアの担当官達は黙って俯いていた。
誰しもが逆らえない。
「立場を分かって欲しいなぁ…」
ダルガが威圧を込めてアフーリアの担当官達を見る。
そこへ、関係者席にいたフィリティが挙手して、前に現れ
「担当官殿。この価格は、適正な筈だ。汝の国だけ特別扱いは、他の国々にも弊害を生む」
フィリティは、ダルガは捨てた価格計画表を拾い、ダルガに向ける。
ダルガはバカにした笑みを向け
「レオルトス王よ。それは…我らの国、アリストス共和帝国に逆らうという事でしょうか?」
ダルガの傍にいる仕官達がクスクスと笑う。
フィリティがキッとダルガ達を睨む。そこへ、会議室のドアが開いてディオスが現れる。
「いやはや…議論が白熱していますなぁ…」
ディオスは会議の場へ降り立ち、フィリティの隣に立つ。
ダルガはディオスを睨む。
「何の用かね…アーリシアの大英雄殿…」
ディオスは、ダルガの前に来る。ダルガの座るテーブルに両手を叩き付けて置いて
「お前ら…オレの妻の祖国に弓を引くか…」
「ああ…」とダルガが睨むとその右耳にディオスはヒソヒソと耳打ちした瞬間、ダルガが一気に青ざめた。
「キサマ!」とダルガがディオスに食って掛かろうとしたが、それをダルガの左にいた士官が手を出して止めた。
ダルガが凄まじい顔をディオスに向ける。
それを余裕の笑みで見下ろすディオス。
睨み合いの後、ディオスは、フィリティの所へ戻りながら
「みなさん。こんな不毛な協議より、より、有益な」
ドンと会議場の、巨大画面が点灯して、とある人物が映る。
それはアリストス共和帝国の皇帝、アインデウス皇帝だ。
黒と金の王冠、厳しい顔をした髭面に、青と黒で出来た皇帝の衣装に身を包むアインデウス皇帝が
『皆の者。突然の通信、失礼する。今回の資源価格会議だが…こちらの準備不足が明らかになった。少し、時間を頂きたい。暫く、会議を延期してくれないか?』
ダルガは立ち上がり
「皇帝陛下ーーーー」
アインデウスがダルガを睨み
『これは、勅命だ。担当官…再検討だ…』
ダルガは、噛み締めて再び座る。
アインデウスはフィリティを見て
『フィリティ殿、お願いしたい…』
こうして、会議は延期になった。
フィリティとディオスは、別室で
「ああ…面白い顔を見れそうだったのなぁ…」
と、ディオスは残念そうだ。
ソファーに座るフィリティが
「もしかして…アインデウスは…」
ディオスは、肩を竦め
「ええ…知っているのでしょうね…色々と…」
ダルガがいる部屋では、アインデウスの部下、ディウゴスがダルガにディオスが提案しようとしていた計画の書類を見せられ驚愕した。
「こ、こんな…」
ディウゴスは呆れた顔を見せ
「もし、あのままだったら、とんでもない事になったでしょうね」
ダルガは頭を振りながら
「信じられない…。ロマリアとの資源航路構築、そして、不可能とされた海底資源採掘の開始」
ディウゴスが眼鏡を上げながら
「アインデウス様が止めなければ、そのまま会議は進み。我々はアフーリアの資源を失う所か…アフーリアで取れる海底資源の利権までも…」
驚き続けるダルガの背に回ってディウゴスは両肩に手を置いて
「頭を冷やしなさい。このままの路線でいくと、アリストスに多大なる損害を与えますよ」
夜、ディオスは会議のあった国、レオルトス王国南のゴルディオル共和国のホテルで、休んでいると、何かの気配を察知して、テラスのある窓を見ると、逆さで窓を叩こうとするカルラの姿があった。
「おおお…カルラ!」
と、ディオスは窓を開けると、カルラが上から飛び降りて一回転して着地する。
「こんばんわディオス様」
「どうしたんだ?」
「ディオス様…お力をお貸しください!」
「はぁ?」
次々と問題がディオスに舞い込んだ。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




