第52話 グレンテル協定
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスは、フランドイル王のヴィルヘルムと対峙する。
そこで交わされた言葉とは…。
それが後々にとんでもない事になった。
その日、ディオスは妻達と共に、バルストラン王都の喫茶店に来ていた。
ここにある、チョコレートパフェが美味しいので、偶に妻達を一緒に、外出と街を散策という軽い運動も合わせて来ている。
何時もの席で、ディオス達三人は、各々が好きな物を頼んで食べていると、喫茶店にある魔導映像水晶から、ニュースが投影される。
「こんにちは、みなさん。では、昨今のニュースからです」
そう、放送局からニュースが投影されていると…。
「フランドイル王、ヴィルヘルムが緊急でバルストランに来国そうです。来国する目的は、経済の連携や、その他、国政に関しての意見交換とみられ…」
ニュースが告げていると、クレティアとクリシュナはディオスを見る。
ディオスは…フ…と笑みを浮かべている。
そうか…やはり、来るか…。来た所で何が出来る。バカだなぁ…。
そう思っているディオスの顔つきは残酷で、まるで地獄を作った魔王のような笑みだった。
クレティアとクリシュナは、それで察した。
フランドイル王が来るのは、夫にとっては予定調和で、後はどうにでも料理されると…。
夫の恐ろしさに背筋が冷たくなった。
翌日、朝早くディオスは王宮に呼ばれた。
フランドイル王ヴィルヘルムとその臣下が緊急来国する日だ。その出迎えの為に王宮へ行く。
その時、クレティアとクリシュナが
「ねぇ…ダーリン。荒事にはしないでね」
「アナタ、あまり…相手を追い詰めないでね」
と、言葉を送るとディオスは、ニッコリと笑み
「ああ…。そんな事はしないさ。じゃあ…」
王宮に出掛けたが、その笑みが作り笑いである事を、クレティアとクリシュナは見抜いていた。
荒れてマズイ事になるだろう…と。
フランドイルの飛空挺が王都の空港に到着する。
飛空挺のゲートからヴィルヘルムと、息子のヴェルオルムに弟のヴェルトール、グラディウスと臣下達が降りてくる。
その前にはソフィアとカメリア、ナトゥムラにスーギィ、マフィーリアとディオスにゼリティアと、王の仕官達が迎えた。
「ようこそ、フランドイル王」
と、ソフィアはヴィルヘルムに手を伸ばす。
ヴィルヘルムは握手して
「いやはや、緊急の訪問、受け入れて頂き感謝する」
ソフィアとヴィルヘルムが握手していると、ヴェルオルムとヴェルトールが、ソフィアのそばにいるディオスを凝視する。
ディオスはその視線に気付き、フッと口元だけの笑みを見せる。
歓迎するの笑みではない。
待っていましたよ…と明らかにこちらが来る事を見越しているというサインだった。
それに、ヴェルオルムとヴェルトールは顔を鋭くさせた。
その変化にゼリティアは気付いていた。
これは、荒れる…そうゼリティアは予感する。
その後、ヴィルヘルム達は、バルストラン王宮に来て、ソフィア達の歓迎を受けて、様々な経済協力や、国同士の問題を話し合う。
それは、普通の国家元首会談である。
そうして、バルストランのギレン評議会議長とも会談、本当に普通の来訪である。
ディオスは首を傾げる。
おかしいなぁ…。オレに用があるはずだが…。まあいい…問題なく進むなら
そう考えて、夕方を迎える。
ヴィルヘルム達がいるので、今日は王宮に泊まりとなったディオスが、食堂で夕食を取ろうとした時
「ディオス・グレンテル様…」
後ろから呼び掛ける者、グラディウスだ。
「ああ…どうも…」
ディオスはお辞儀する。
グラディウスが
「どうでしょう…一緒にお食事でも…」
ディオスは察した。
来たーーーーーーー ついに対決の時。
「ええ…構いませんよ」
ディオスは席から立ち上がると
「待て…」とそこにゼリティアが来る。
「妾も同席してもよろしいかなぁ?」
ゼリティアの問いにグラディウスが、止まる。
ディオスがワザと助け船を出してやる。
「ゼリティア、申し訳ない…。夜の接待のお誘いだから」
それを言われてゼリティアが気難しい顔をして
「そ、そうか…なら。仕方ない。男同士、そういう事もあるからなのぉ」
やんわりと断られたゼリティアは、その場に立ち尽くすと
グラディウスが
「では…参りましょう」
ディオスを連れて行った。
ディオスはグラディウスを前に、王宮を進み。
やがて、ヴィルヘルム達がいる部屋のドア前に来た。
「どうぞ…」とグラディウスはドアを開ける。
ディオスの正面には、ヴィルヘルムが凄まじい顔をしてテーブルに座って待っている。
さあ…ショータイムだ!
そう覚悟して、ディオスはドアを潜った。
部屋の長テーブルの奥にはヴィルヘルム、その右に息子のヴェルオルム、左に弟のヴェルトールが座っている。
三人の鋭い視線を浴びてディオスは、余裕で微笑む。
三人の殺気と、ディオスの笑みに隠れる殺気がぶつかり合う。
ヴィルヘルムが、ディオスの前にあるテーブルの端を指さし
「立っていてはなんだろう。そこへ座るといい」
「では、お言葉に甘えて」
ディオスは、席に座り、両手をテーブルの上に載せて組む、臨戦態勢へ移行した。
グラディウスはドアを閉め、ヴェルオルムの後ろに立つ。
そのグラディウスの視線も鋭い。
ヴィルヘルムが、腕を組みテーブルに載せ
「さて…何故、ここに呼ばれたか…理由は分かっているか?」
初手を繰り出す。
ディオスはフッと口元だけ笑み
「確か、グラディウス殿にお呼ばれしてきた筈なのですが…」
「呼んだのは私だ。グラディウスに頼んで汝には来て貰った」
「へぇ…また、そんな回りくどい事を…」
ディオスはヴィルヘルムを見つめると、ヴィルヘルムの右に妙な靄が見える。
そこから、魔力の…どことなくアグニアと似たような精霊の気配を感じる。
ディオスは知識を回す。
たしか…フランドイルの王家には、特別な力を持つ精霊神獣、ジンというヤツが受け継がれていると聞いた事がある…。
それか…だが…姿がハッキリしない。
実体が必要ないという事は…。何かを調べるジンという事か…。
そう推察しているとヴィルヘルムが
「正直の申せ…それなら、ここでの会話として終わらせてやる」
「はぁ?」とディオスは眉間を訝しく寄せる。
「お前が…仕組んだ事だろう!」
ヴィルヘルムが直球を告げる。フランドイルを動けなくしたのは、ディオスだと…。
ディオスは暫し間を置いて
少し試して見るか…。
「何を言っているのですか? どんな事を自分がしたのですか?」
ウソを投げてみる。
ヴィルヘルムの顔は変わらないが、右にいる息子のヴェルオルムの眉間が寄った。
ディオスはそれで分かった。
ビンゴ! 人のウソを見抜くジンか…。成る程、だから、不可視である必要があると…。
ディオスは楽しげに笑み
「ああ…やったかもしれないし、やってもいないかも…。どちらでしょうね…」
ドンとヴェルトールは机を叩き
「とぼけるな! こちらは、全部分かっているんだぞ!」
声を荒げた。
ディオスは呆れ笑みをして肩を竦め
「全部とは? どういう?」
煽るディオス。
ヴェルトールがディオスを指さし
「お前が、我がフランドイル軍とフランドリル軍との合流を邪魔して、両軍の飛空挺を航行不能し、さらに、我が国に攻めてきたロマリアの艦隊も同じように航行不能にした。それによって、我らフランドイルは動けなくなり、バルストランに手出しが出来なくなった! そういう事だーーー」
ディオスは、ヴェルトールを見て
「はぁ…それはそれは、凄い妄想ですなぁ…。そんな事が可能な者など、実在するのでしょうか? 自分には信じられません」
そう、ヴェルトールの言う通りの事をディオスはやっているが、完全に惚ける。
ヴィルヘルムが
「そんな事が、可能な人材が一人いる。それはお主、ディオス・グレンテルだ」
ヴェルオルムが
「我らはこれを、様々な所へ訴えるつもりだ。そうなれば、お主にも、それ相応の罰がある筈だ。バルストランにも悪影響が出るぞ」
フ…とディオスは吹いて
「証拠はあるんですか?」
ヴェルトールが
「証拠! 証拠は、お前がそんな事が出来る魔導士だという事実が証拠だ!」
ディオスは頭を振って
「頭が痛くなる。そんな、証拠にも根拠にもならない事が、まかり通るとお思いですか? バカらしい」
と、ディオスは両手を広げ
「見せてくださいよ。自分がやっという確実な証拠を…」
ヴィルヘルムがディオスを睨み見て
「あくまで、シラを切るという事か…」
ディオスは、左頬を釣り上げ睨む笑みで
「シラを切る? 証拠もないのに、黒も白もありません。自分は何もやっていませんので…」
「では…」とヴェルオルムが
「汝は、我らの軍が合流する現場にいたという報告があるが?」
「はあ? 現場にいた? 近くにはいましたよ。それはソフィア陛下のご命令で様子を見るために王の斥候として出向いていましたので…」
ヴェルトールが
「教会の秘匿組織の者と行動を共にしていたと、報告を受けているぞ」
「はぁ…確かに教会関係者といましたが…それは、合同で様子を見ようとしたまで。その方達が教会の秘匿組織の者とは露とも知りませんでしたよ」
ヴィルヘルムに睨みが強くなり
「お前…本気で言っているのか!」
「ええ…その通りですから…」
ディオスは頷いた。
ヴィルヘルムは、ジンの力によって、ディオスの全ての言動がウソであると見抜いている。
そして、当然と惚けるこの男、ディオスもおそらく、その力を使っていると分かっている筈。
それがあっても平然とウソを垂れ流すディオスに、ヴィルヘルムはドーーンと今までに無いくらい、強い力でテーブルを叩いた。それでテーブルが軽く浮いた。
ヴェルトールと、ヴェルオルムは、それ程までにヴィルヘルムが激高激怒しているのを察した。
そんなヴィルヘルムを前に、ディオスは腕を組み余裕の表情だ。
それがどうした…。
はぁ…とヴィルヘルムは深い溜息を吐いて、ディオスを睨み見て
「お主…何が目的だ。なんの為に行動している」
ヴィルヘルムの真意を問う質問にディオスは考える。
このまま、ウソを続けても構わないだろう。だが…それでは、いたちごっこになるかもしれない。
脳裏に、クレティアとクリシュナ、そして、子供の姿が過ぎった。
ディオスは、腕を組むの止めて、姿勢を正し、真摯な瞳を向ける。
その雰囲気の変化に、ヴェルトールとヴェルオルム、グラティウス、ヴィルヘルムが気付く。
「ヴィルヘルム陛下…」とディオスは静かに深く語る。
「子供の為です」
「子供の?」とヴィルヘルムは驚き見せる。
「はい。自分には二人の妻がいます。その二人が、自分の子供を妊娠しました。自分は、今まで、自分の力が何処まで通じるのかと…思って過ごしていました。でも…子供が出来たと妻達から…聞いて。考えが…変わってしまいました。産まれてくる子供達の為に…何か出来る事はないかと…。その為に自分の出来る事は、何でもしようと…。それが今の…オレの行動原理です」
ヴィルヘルムは、ジンより、それが本当の真実であると、伝わった。
ディオスはヴィルヘルムを真っ直ぐと見つめ
「ヴィルヘルム陛下…自分はフランドイルを壊すつもりは、毛頭もありません。外に覇を求めるのをお止めください」
「覇を求めるなとは?」
と、ヴィルヘルムは困惑を向ける。
「陛下…自分の国を素晴らしい国にしてみませんか。民が潤い、国が栄え、力を付け、どんな脅威にさらされても、大丈夫な国を目指しませんか? その為には、自分の国の事をしっかりとさせるのは勿論ですが…。外の国の協力も必要です。それは、アーリシア全体もです。自分の国をアーリシアで、いや世界で一番の裕福な国にする。その為なら、不肖、ディオス・グレンテル。どんな些細な力でもお貸しします」
ディオスのその事に嘘偽りはない。
ヴィルヘルムの激高が収まり、冷静になって
「それが、汝の為にもなるのか…」
「はい。そうです」
ディオスは頷く。
「それは理想論か?」
と、ヴィルヘルムは凝視する
「いいえ、現実の問題だと思われます。アーリシアの国々は繋がっているのですから」
ディオスの言葉は何処か確信じみたモノだった。
「そうか…分かった。もうよい。下がれ…」
と、ヴィルヘルムはディオスを下がらせた。
「では…」とディオスはお辞儀して部屋から出て行く。
ディオスが居なくなった後、ヴェルトールが
「クソ! 何という男だ!」
ヴェルオルムは、静かに父を見つめる。
グラディウスがヴィルヘルムの傍に跪き
「陛下…ご命令を、あの不届きな男を始末する。ご勅命を…」
ヴィルヘルムは口元に手を置いて
「よい、敵うはずなかろうグラディウス…」
「父上…」とヴェルオルムが見つめる。
ヴィルヘルムは考える。
ディオスは、最後に真意を言った。間違いなく本心だろう。
フッとヴィルヘルムは笑み。
「なら、そのようにすればよいだけか…」
部屋から出たディオスの前にゼリティアがいた。
ゼリティアは呆れた顔で腕を組んでいる。
「主…面倒な事をしたなぁ」
ディオスは申し訳なさそうな顔をして
「すまん。色々と荒れるかもしれん」
ゼリティアは優しくディオスの額を扇子で小突き
「まあ、よい。何とかしてやる」
「ごめん。色々と…」
「ああ…働いて貰うぞ」
その夜、ヴィルヘルムはとある所へ通信をしていた。
そこは、ノーディウスの王宮で、ノーディウス王のノヴァリアスへだ。
「なんだ? ヴィルヘルム殿…こんな夜更けに…」
ヴィルヘルムは静かに冷静に
「ノヴァリアス殿…話がある」
「どんな話だ?」
ノヴァリアスは、ヴィルヘルムからの話を聞いて、驚きに顔を染め
「それは…本当に…やるのかヴィルヘルム殿…」
「ああ…故に、ノヴァリアス殿、協力して欲しい」
ノヴァリアスは溜息を漏らし
「どんな心境の変化だ?」
「そうだな…本当の真実を聞いて心動かされた…と言った所か…」
「そうか…まあ…色々と手配を始めよう」
「すまんな…こんな夜更けに」
「ああ…本当だ。忙しくなるぞ」
ヴィルヘルムが帰国する時、バルストランの王都空港で、ヴィルヘルムが一通の書類封筒をソフィアに渡す。
「これは?」とソフィアが問う。
「是非、検討して欲しい事だ。素晴らしいモノな筈だ」
と、言葉を残してヴィルヘルムは帰国していった。
それから数日後、ディオスは王宮へ行く日、この日は、王のチームで検討した法律が、議会にかけられ、色々と決まる重要な日でもある。
何時も通り、王宮で出掛けようとすると、広間でユーリとチズが、新聞を食い入るように見ている。
「何か、面白い記事でもあるのか?」
ディオスが二人の背に聞くと、二人は激しく首を振って
「いいえ、その…面白そうな珍事件が…あったので…」
ユーリはしどろもどろだ。
「は…ん」とディオスは告げた次に「後で教えてくれよ」
「はい!」とユーリは答えた。
チズは俯いている。
なんだ? そんなにおかしな事件でもあったのか?
と、ディオスは思いつつ王宮へ向かった。
王宮に来て議会が始まり、ディオスはソフィアの隣の席に座る。
ソフィアがディオスの顔を凝視する。
ディオスがそれを向き
「なんだ? 師匠、何か顔にあるのですか?」
ソフィアは光のない目で「別に…」と告げて前を向いた。
なんだ?とディオスは思いつつも、渡された資料の束を見つめる。
粛々と議会は進む。色々な法律や制度が決まっていく。
その度に資料を捲るディオス。そして、あの資料が来た。
議会から
「では、本案件で最も重要な国家運営に関する事柄です。グレンテル協定についての審議を始めたいと思います」
ディオスはその、資料を見て、え!と驚く。
なんと、それは…あの十二国会議で自分が提唱した五つの事柄があった。多少は変わっているも、その大筋は全く一緒である。
ディオスは資料を読み続ける。
このグレンテル協定の発起人は、ノーディウス王のノヴァリアスと、フランドイル王のヴィルヘルムで、原案者が自分、ディオス・グレンテルだ。
この協定をアーリシア十二国で結ぼうという議会の承認だった。
まさかーーーーーーー
ディオスは内心で叫んだ。
そうだ、ヴィルヘルムがこんな逆襲をしてきた。
議会は、なんと満場一致でこの協定に参加する事を承認した。
その後、夕方、屋敷に帰ると、広間にユーリとチズがいた。
ディオスが二人に近付くと、ユーリが
「旦那様…これ…号外です」
と、ディオスに渡す。
ディオスは受け取り読む。
ヴァシロウスを倒した英雄、ディオス・グレンテル氏が提唱する。
アーリシアを平和にするグレンテル協定が、今日、我が国で可決。
その他、アーリシアに属する国々もこの協定に賛同する意思を見せ、数日後には、十二国でグレンテル協定が結ばれる事となった。
チズが新聞を持って来て
「旦那様…これ…」
チズが新聞を見せる。
ディオスが見た見出しには、デカデカと一面に、グレンテル協定可決の動きあり、アーリシアの平和を願っている。
ヴァシロウスを倒した英雄、ディオス・グレンテルの願いが叶う事となる。
ぶぺらーーーーーーーーーー
ディオスは内心で壮大に吹いてしまった。
一体、何が起こっているんだ? どうしてこうなったぁ?
ディオスの頭の中は混乱の渦中に沈んだ。
そこへ、フェニックス町の人々が来て
「ディオスさーーーん おめでとうーーーー」
ヒロキも混ざって沢山のフェニックス町の人々が広間に入って来て、ディオスを胴上げする。
わっしょい、わっしょい、わっしょい、わっしょい、わっしょい
「ああ! ああああああ! あぁぁぁああぁああ」
と、ディオスは叫んで胴上げ中を過ごす。
そんな様子を二階の手摺り廊下から見つめる、クレティアとクリシュナは呆れのような嬉しいような笑みを向けていた。
ディオスは内心で叫ぶ。
どうしてこうなったーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




