第51話、フランドイル王、ヴィルヘルムとは…
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ヴィルヘルムのチョットした話です。
ヴィルヘルムという男。
フランドイルの王家に産まれた長男、ヴィルヘルム。彼は初めから王になれる予定はなかった。
なぜなら、王家の血筋に受け継がれる精霊神獣、ジンが強い存在ではなかったからだ。
ヴィルヘルムの受け継いだジンは、人のウソや虚偽を見抜くジンだった為に、王のイスから遠ざけられた。
そして、将来はフランドイルを主とするヴァルハラ財団のヴァルハラ大公の婿になる予定だった。
王族としての教育、繋がりもない彼は、不幸にみる王族の周囲達。
だが、それが彼にとって幸運だった。王になるというプレッシャーも使命もない故に、自由に生きられた。
王族としての教育がされないので、王となる弟には、王としての威厳ある上級品を与えられた。
ヴィルヘルムは、一般的で合理的な品が与えられ、それが彼の考えに、同じ物で一級と普通で、機能が一級より普通がいいなら、そっちの普通の方が良いという合理的な考えが育つ。技術最高!
ヴァルハラ財団との繋がりも彼を有益に育てる。
様々な人と顔を合わせたり会話する事が多く、それが持っていた真実を見抜くジンの有効利用にもなった。
人を見る目が育ち、そうなったら始まったのが、優秀な人材確保が趣味となった。
ヴィルヘルムが獲得した優秀な人材は、ヴァルハラ財団で生かされ、莫大な利益をもたらす特許と技術を開発した。
そのお陰で、アーリシアでは財団としてトップを行っていたオルディナイト財団を抜いて、一番になれた。
ヴィルヘルムは王にならないから、どんな人を自分の部下にしても、不評なんてない。
身辺にいるグラディウスも、専属魔導士として偏屈者だったアインシュも、貴賤上下関係なく優秀な者を引き入れて面白く凄い一団が完成した。
そんな、自由に楽しく過ごす兄を、王としての使命がある弟は、ずるいと怒った事がある。
それをヴィルヘルムは、必ずお前の力になるから…と優しく説得したりもした。
優秀な人材発掘と、ヴァルハラ財団をアーリシアトップまで押し上げたその手腕は、王族の周囲にも轟き、何時しか、父親である王に…ヴィルヘルムこそ王に相応しいのでは?と問う者が出てきた。
だが、王はジンが強い者でないといけない慣習がある。
それを変える事は出来なかった。それが、父である王の考えだった。
だが、それを引っ繰り返す出来事があった。
ヴィルヘルムは、将来、ヴァルハラ財団の会長、ヴァルハラ大公エレオノーレ、ヴィルヘルムでは伯母の娘と結婚する事になっていたが…。
その娘はヴェルトールが好きだった。そして、ヴェルトールもその娘に好意があった。
許嫁の娘は、家と自分の気持ちの板挟みになって、選んだのが…家だった。ヴィルヘルムと結婚する。ヴェルトールとの気持ちを諦めた。
だが…ヴィルヘルム、バカではない。
許嫁の娘の気持ちとヴェルトールの気持ちにも、気付いていた。だから…。
ヴェルト―ルと、娘をくっつけた。
そう、気持ちにウソをついて、結ばれるより。気持ちが通った者同士で結ばれた方がいい。
そう…ヴィルヘルムは、娘の為に動いたのだ。
ヴェルトールはこの時、涙して兄に感謝をした。
それを聞いた父王は、痛感する。慣習より、今ある現実を判断して決めようと。
そして、ヴィルヘルムが結婚した女性は、王家とは無縁の他国の貴族の娘だった。
彼女との出会いは、そうヴィルヘルムがやろうとしていた他国の事業に対して、反対を申し出て、ヴィルヘルムと対戦した女だった。
ヴィルヘルム、二十九歳。他国で様々な事業をしていたりすると、どうしてもその国の反対が出てくる。故に、反対側の意見を様々に聞いていた時だ。
なぜ、反対するのか…と考えたヴィルヘルムは、反対する者の肝を見抜き、それを取り込む事で、事業を成功させた。
そう、ヴィルヘルムと対戦した女は、これか自分に必要な、違う側の意見をくみ取ってくれる力があった。
そうして、彼女を欲し、彼女のタイミングに合わせて食事したり、付き合ったりして、結婚した。
この時、フランドイル国内では、このような論争が起こっていた。
慣習に縛られず、公平に能力を見て王を決めるべきでは…。もちろん、反対もいたが…ヴィルヘルムの手腕を知る度に、その声が小さくなった。
そして、三十の時、父、前王は退位を表明して、次の王を指名した。
この時、ヴィルヘルムは、弟のヴェルトールがなるだろうと思っていた。
だが、指名したのは、ヴィルヘルムだった。
ヴィルヘルムは戸惑い、父を問い質した。
父は、その場にいた王族に連なる貴族達に異議がないか…と問う。
真っ先に弟のヴェルト―ルが跪き、異議などありません…と告げた瞬間、全員が跪き、そのご尊命、承りました。ヴィルヘルム陛下、バンザーイ。
全員がそうして、ヴィルヘルムを王とした。
そして、ヴィルヘルムは王となり、弟ヴェルトールはその名代として、妻と共にヴィルヘルムと同じく、人材捜しや、友好関係作りに没頭した。
狭かった王族の世界から解放されたヴェルトールは、張り切って邁進した。
ヴィルヘルムが王となると、人々はヴィルヘルムを清貧の人材王と呼ぶようになった。
機能が優秀なら、金がかかる上級品より、庶民が使う品をという合理的な考えの為に、着飾るのは最小限であり、ヴァルハラ財団の経済教育の為に、正確で正しいお金の使い方をするのだ。
そして、優秀な人材の発掘により、国の技術は向上、生産性と収益がアップして、国が潤う。
物事をする場合、反対と賛成の両方の肝を取り、リスク管理や、運営方法を決め、歪みが少ない事業展開は、さらに国の力を強めた。
そんな、彼が最も許せない事がある。
それは、貴重な人材の浪費だ。
どうしても、優秀な人材の中には、仕えている人物の理想に心酔して、その才能を潰してしまう者がいる。
その理想を唱える者が優秀なら、申し分ないが…大体は、全くの使い者にならないクズばかりだ。
だから、現実を見ない変な理想を掲げ、訳の分からない事をやる。
現実を見た上での理想は素晴らしい。それはチャンとした指針になるが…。
そんなのは百分の一、千分の一だ。
下らないどうしようもない理想に、食いつぶされて殺されるのを見てきたヴィルヘルムは…それが、もっとも唾棄すべき、万死に値すると…。
それ故に、ヴィルヘルムはソフィアが嫌いだ。そう…下らない幻想の理想で部下を潰す典型だ。
だから、十二国会議の時に食って掛かった。
そして、今、最も欲しい人材がそこにいた。ディオスだ。
もう、ヴィルヘルムは痛感する。
あんな幻想理想バカにアーリシアで最高の人材が食いつぶされる等、大罪だ。
その行動原理に従ってヴィルヘルムは行動を起こした。
丁度よく、色々と使える事態も揃っていた事だし…。
これが、ヴィルヘルムという男なのだ。
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