第50話 ディオスの策略
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あらすじです。
ロマリアとの戦争が迫るフランドイルだが…とんでもない事が起こる。
そして、ヴィルヘルムは、ディオスの恐るべき…
ヴィルヘルムはソフィアからの言葉に驚愕していた。
「はぁ? 何だ…と」
「ええ…今回のロマリアの侵攻は、失敗に終わります」
ヴィルヘルムは訝しい顔で、ソフィアと繋がる魔導通信機を見つめ
「何故だ?」
「私の部下の一人に、そのような予言が得意な者がいます。その者の話では、ロマリアの艦隊は、フランドイルとロマリアの緩衝地帯で、天災に襲われて航行不能となるそうです」
「ほぉ…」
「フランドイル王、チャンスです。ロマリアに恩を売るのです。天災で航行不能になったロマリアの戦艦飛空挺から、ロマリアの兵士達を助け出して、ロマリアに帰すのです。さすれば、ロマリアの皇帝ライドルに…ロマリアに恩義を売る事が出来ます」
ヴィルヘルムは黙る。
「フランドイル王、これは確実です」
「分かった非常に重要なご所見、感謝する。ソフィア殿…」
「いいえ。では…」
ソフィアとの話を終えてヴィルヘルムが、押し黙って考えていると…。
「失礼します」
と、また仕官が入り書状を持っている。
「陛下…ロマリアからです」
ヴィルヘルムの前に置かれたロマリアの書状は、宣戦布告を示すモノだった。
「ふ…」とヴィルヘルムは唸り
「グラディウス…」
「は…」
「ロマリアとの国境付近にある緩衝地帯に入るギリギリの所に、今…配備出来る部隊を配置させろ」
「畏まりました」
ヴィルヘルムは考える。
一体、何が目的なのだ?
バルストラン王のソフィアの思惑を計る。
ディオス達は、すぐさま、高速飛行艇フォルスに乗り込み、フランドイルとロマリアとの国境にある緩衝地帯へ向かう。
数時間後には、緩衝地帯に到着すると、そこは…朝日が昇ってくるのが見えた。
ロマリアとフランドイル同士の度重なる戦闘によって、緩衝地帯は荒野と化している。
その広さ、四十キロに渡っている。
巨大な荒野を前に、ディオスは、ロマリアの艦隊が到着するのを待つ。
おそらく、情報を流してから数時間が経っているので、そろそろ到着する頃合いだろう。
ディオスの隣で、遠見の魔法を使ってユリシーグがロマリアの方向を見ている。
「そろそろ…現れてもいい筈だ」
と、ユリシーグは呟くと。
高速飛行艇フォルスからナトゥムラが現れ
「おい、ディオス。今、通信を傍受したんだが…。フランドイルが…この緩衝地帯の入るギリギリで部隊を展開するらしいぞ」
「分かった」とディオスは頷く。
ユリシーグの体が震える。
「来たぞ! ロマリアの艦隊だ!」
ディオスは遠見の魔法を使う。
東北東の方角、戦艦飛空挺の艦隊が見えた。その艦隊の飛空挺達の側面には三つ首の龍の紋章、ロマリアの国旗が描かれている。
ディオスはそれをしっかりと確認して
「みんな、ここから離れてくれ」
ユリシーグはフォルスに乗り込み
「気をつけろよ」
「ああ…」
ディオスだけを残して、フォルスはその場から去って行く。
ディオスは次に、西を見る。そこには、フランドイル軍が魔導操車を急いで展開している様子があった。
「よし…」
これで全ての仕上げが完成した。
当分の間、フランドイルは動きを取れない筈…。
その間に、完全に動きが取れないように…。
ディオスは二つの魔法を融合させる。
一つは、アース・ディレクション・インパクト。
二つ目は、ダウンホール・アイス・タイフーン。
この二つの効果を持つ魔法を発動させる。
”アイス・ワールドオーシャン・インパクト”
ディオスは複雑な魔法陣を纏って空に浮かび上がる。
そして、ディオスは十字に空で輝く。
その輝きを、ロマリアの艦隊は捉えていた。
「なんだ、アレは?」
艦隊の総司令官が、艦隊の進む前にある光の十字に首を傾げた。
それは、フランドイルの部隊も確認した。
「何が起こっているんだ?」
と、部隊を指揮する大佐が驚きを見せる。
ディオスの魔法を発動させた光の十字の下部分が地面に接触した瞬間、強烈な地震が緩衝地帯を襲う。
「おおおお」とフランドイルの陸戦魔導操車部隊が、地震に揺さぶられる。
そして、緩衝地帯の荒野から無数の水の柱が噴出する。
地震と水の噴き出しによって、荒野は瞬く間に泥濘地帯へ変貌する。
そして、ディオスの光の十字架の上部が、空へ、遙か上空へ伸びた次に、緩衝地帯を包み込む巨大な雲海が出現する。
「な、なんだ?」とロマリアの艦隊四十隻は、その雲海を後ろにする。
そして、遙か上空から大寒波の暴風が到来した。
「おあああ、計器がーーー」
「浮力が維持できないーー」
「風石異常がおこって制御がーーー」
「外に出るなーー 外気温度が一気に-50度になったぞ」
「一瞬で凍ってしまうぞーーー」
混乱をロマリアの艦隊が包む。
ロマリア艦隊四十隻が、一斉に急降下して、泥濘地帯と化した緩衝地帯へ不時着。
泥の海のお陰で艦は無事だが、降臨する大寒波によって、泥の海が固まり凍結、四十隻もの艦隊を沈めて航行不能となった。
ディオスである光の十字が消えて、ディオスの姿が空中に、凍結で埋まったロマリアの艦隊を下にしている。
それを多くの者達、ロマリアの兵員と、フランドイルの兵員が見た。
そして、ディオスの姿が消えた。
ディオスはベクトの瞬間移動で、その場を去った。
フランドイルの部隊の大佐は、頭を振り隣の仕官に
「なぁ…オレ達は夢を…見ているのか?」
士官が
「夢にして、現実味がありすぎます」
「……とにかく、連絡を…王都へ」
「はい…」
ヴィルヘルムは、グラディウスからロマリアの艦隊が、自分達の艦隊と同じく地面に埋まって凍結され航行不能となった事を聞いた。
「うむ…」とヴィルヘルムは唸る。
「如何致しましょう?」
グラディウスが尋ねる。
ヴィルヘルムは目を閉じて開けた次に
「待機している全軍に伝えよ。凍結して脱出困難になっているロマリアの兵士を救出せよ…と」
「は…」
グラディウスは受理した。
ロマリアの皇帝城では、ライドル皇帝が、至急の連絡を聞いて、王座から立ち上がる。
「どういう事だ?」
前で報告する部下に説明を求める。
跪く部下も頭を振り
「分かりません。作戦本部も大混乱の状態です」
ライドルは再びイスに腰掛け頭を片手で抱え
「いかん。兵士達が…」
「すぐに、救援を向かわせます」
「急げーーーー」
地面に凍り付けのロマリアの艦隊は脱出を試みる。
ドンドンと幾らドアを叩いても開かない。
「クソ…」
悔しそうに兵士がドアを叩く。
「寒い…このままじゃあ…」
別の場所、外が見える副官室で窓をたたき割って外とに出ようとするが、分厚い氷の土に窓が覆われて全く砕ける気配さえない。
「ウソだろう…このまま、ここで…」
そう、このままフランドイル軍に無残にやられて死ぬ未来が見えた。
ギュィィィィィィ
艦の発令室に通信が入る。
「誰だ?」
と、艦長が通信手に尋ねる。
通信手はその通信を特定させる。
「フランドイルです」
通信が入る。
「こちらは、フランドイル国境軍だ。今から、汝達の救出に向かう。負傷者の情報をくれ…。繰り返す。こちらは、フランドイル軍。汝達の救出に来た」
その通信に、発令室の士官達が、艦長を見る。
艦長は帽子を深く被り
「みんな…生き残ろう…繋いでくれ」
通信手が艦長に無線を繋げる。
「こちらは、ロマリア西方艦隊、ナシャーダ号の艦長、ヴィルバである。貴君の好意感謝する。現在、本艦は全くの航行不能にて脱出も困難である。救援をありがたく受け取りたい」
ギュギュギュ
「こちらは、フランドイル軍、了解した。待っていてくれ。直ぐに助ける!」
このロマリアとフランドイルとの、救援の出来事は、緩衝地帯アルジャンナの奇跡として語り継がれる事となった。
ヴィルヘルムは、執務室で机に座って静かに瞑想していると…ドアがノックされ
「失礼します…」
グラディウスが入って来る。
その手には、国家元首達だけに繋がる魔導通信機が握られている。
「陛下…ロマリアの皇帝でございます」
グラディウスは、通信機を机に置いた。
「どうも、ロマリア皇帝ライドルだ…」
ロマリアの皇帝の声が放たれる。
「フランドイル王、ヴィルヘルムだ」
「フランドイル王、今回の艦隊に関する救援、誠にありがたく思う。多くの兵士を失わずに済んだ。感謝する」
「別に当然の事をしたまでです」
「今後とも、両国がこれを切っ掛けに素晴らしい結び付きが出来る事を、切に願う」
「私も同じ考えです」
「では、お礼の方は後々に…」
「はい、何時でも…」
形式じみた会話が終わった後、ヴィルヘルムは視線を鋭くさせる。
「グラディウス。統幕本部、全員に招集を掛けろ…」
「畏まりました陛下」
大きな会議室で、フランドイルの軍全ての将軍と参謀士官、そして、各国の軍事情に詳しい識者が集められた。
その中に、ヴィルヘルムの弟、ヴェルトールと息子のヴェルオルムもいた。
大きなテーブルを前に、地図を広げ、チェスの駒を自分の軍と相手の軍に見立てて配置する。
グラディウスが書面を持ち、一同に
「では、現状を報告します」
集まった全てに説明をする。
ヴィルヘルムはその中心にいて、地図を睨んでいた。
集まった部下達が
「どういう事だ?」
「なぜ、こんな事になった?」
「これによって何が起こるんだ?」
一人の参謀が
「一体、どうしてこうなった? 我らの艦隊とフランドリルの艦隊の大部分が動けない。攻めてきたロマリアの艦隊も緩衝地帯で動けない。ガリシャマイトの動きは?」
グラディウスが書類を捲って確認していると、ドアがノックされ仕官が入って来てグラディウスに耳打ちする。
「なんだと…!」
グラディウスは驚きの顔をする。
「どうした?」と参謀が尋ねる。
「ガリシャマイトは、バルストランの抑えによって動けないそうです。そして、北方のノーディウスも軍を動かしてロマリアとの国境に展開していると…」
はぁ? どうしてだ? なぜだ?
一同がザワザワする。
参謀が「これでは動けないなぁ…」と告げた。
ヴェルトールが考えるヴィルヘルムに近付き
「兄上…どう動きましょうか?」
「ヴェルト―ル。動く事が出来んのだよ」
と、ヴィルヘルムは告げた次にハッとした。
そうだ…動けない。全くもって動けない。それはフランドリルも同じだ。つまり…。
ドンとヴィルヘルムは机を両手で叩いた。
それに息子のヴェルオルムが「ち、父上…」と困惑した顔を向ける。
「これだ…これを作り出す為に、全てが仕組まれている!」
ヴィルヘルムの言葉に、参謀と将軍達が集まり検討する。
「では、ここでこうなったら…」
「いや、まて。そうなら」
「いや…ここで」
全員がゾッとする。
まるで、全てが恐ろしい程に見事に組み合わさった。
そう、フランドイルを封じ込めるという目的に…。
誰しもが言葉を失い、沈黙が部屋を包む。
その中で、ヴィルヘルムは、地図を睨み。この筋書きを描いた者を探す。
誰だ? ソフィアか? いいや、オルディナイトのゼリティアか?
それともヴォルドルのレディアンか? それか…まだ見ぬ…。
不意に、ディオスの顔を過ぎった。
そうだ、全ての事は、ディオス・グレンテルを…。
地図から人影が浮かび上がる。
その視線は鋭く、真っ直ぐにヴィルヘルムを睨んでいる。
ヴィルヘルムは、ようやく辿り着いた。
「キサマかーーーー ディオス・グレンテルーーーー」
ヴィルヘルムは大声を張り、この事態を描いた張本人を叫んだ。
それを全員が聞いた瞬間、ヴィルヘルムと同じようにディオスの影を見える。
巨大な、強く圧倒的なディオスの影が自分達を睨んでいた。
全員が恐れ戦き、全身が凍るような感じに包まれる。
ディオス・グレンテルの恐ろしいまでの才覚に、震えるしかない。
ヴェルトールは拳を握り締めて気持ちを奮い立たせ
「行くぞ」
と、直属の部下達を呼び、部屋から出ようとした。
「どこに行く?」
ヴィルヘルムが尋ねる。
ヴェルトールは
「兄上、直接会って問いたださねばなりません。そうでなければ、我々は…この策略を巡らせた相手に負けてしまいます」
そう、ディオスと直接対決の為に、バルストランへ行くと…。
ヴィルヘルムは「フ…」と笑み
「言ってどうする? 丸め込まれて終わるぞ」
ヴェルオルムが「私も行きます」と告げ
「私は、父上と同じ真実を見抜くジンを持っています。それが役に立つはずです」
「待て…」とヴィルヘルムは止める。
「父上…」とヴェルオルムは父ヴィルヘルムを見つめる。
「私も行く。そうでなければ、太刀打ち出来んだろう」
そう、それ程までに相手は、ディオスは強大なのだ。
ディオスは、フォルスに乗ってバルストランに戻っていた。
直ぐに屋敷に帰って、クリシュナとクレティアを抱き締めた後、二人のお腹にいる子供に触れる。
額を大きくなるお腹に寄せて
お前達の未来は、絶対に守ってやるからなぁ…。安心して産まれておいで…。
まだ、見ぬ我が子達に向かって、気持ちを送り続けるのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




