第47話 ヴァシロウスの牙の置物
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスは約束通り、ヴァシロウスの牙の置物のプレゼント安行を行う。
だが、その最中、様々なモノも見る。
そして、蠢く者達。
ディオスは二日して、ポルスペル港都市リンスへ来た。そして、早速…あの味噌汁が食べられるレストラン宿屋へ来る。
「女将さーん」
と、ディオスは玄関を潜ると、カウンターにいる女将さんがニッコリ笑って
「いらっしゃい。よく来たねぇ」
ディオスはカウンターに座り
「あの…味噌汁を…」
「はいよ」
女将さんは、ディオスに味噌汁を出す。
野菜と魚が入った魚介味噌汁を食べていると女将さんが
「アンタ…体は大丈夫かい?」
「ああ…もう、治ったよ。一応の経過観察中かな」
「そうかい。よかったよ…」
「でも嫁さん達には心配かけた所為で、普段の修練に筋トレが加わったよ。同じような事にならないようにってね」
「そうかい。愛されてるねアンタは…。今日はどうしてここに?」
「ああ…その後、ヴァシロウスの亡骸がどうなったという事と、その…約束があってね。ヴァシロウスの牙で置物を作ってプレゼントするって何人かと約束していてね」
「そうか…」
「何か、変わった事は?」
「うーん。まあ、ヴァシロウスの亡骸である。でっかい魔導石の山を調査している人達が出入りしているくらいかねぇ…」
「そうか、何にせよ。問題が無い方がいい」
女将さんと軽く話をして味噌汁を食べた後、ディオスはヴァシロウスの魔導石化した亡骸に近い海岸に来る。
そこには、ヴァシロウスの魔導石骸を管理する陣が張られていた。
そこへ、ディオスは顔を出す。
「どうも…」
ディオスが顔を見せた次に
「ようこそ、ヴァシロウスの英雄、グレンテル様」
「いやーーー お待ちしておりましたよ」
歓迎してくれる調査団の人達と兵士達がいた。
「はは…」とディオスは苦笑する。
さっそく、ディオスは小型飛空挺に乗せて貰い、ヴァシロウスの魔導石の山に向かう。巨大な白く光る魔導石の山、高さが200メータあり、横に倒れたヴァシロウスの体の形状に合わせて、その山が転々と直線に続いていた。
その山でも頭部に近い部分の山頂に飛空挺は降りて
「はぁ…これがヴァシロウスの魔導石ですか…」
ディオスは、飛空挺から降りて白い結晶の山頂を踏みしめる。
同行してくれた調査団の人が
「ええ…この魔導石を調べると、光と風の混合魔導石であると分かりました」
「混合ですか…」とディオスは眉間を寄せる。
まいったなぁ…単一属性の魔導石ならまだ、使い道はあるけど…混合か…不純物も多そうだし、利用価値が低そうだなぁ…。
「何か、使う当てとかは?」
ディオスが聞くと、調査団の人は難しい顔をして
「それが…あまり、見つからなく…」
「そうですか…」
「まあ、とある特徴はあります。魔力を込めると周囲数メータを軽くですが無重力状態のように浮遊させるという特徴がね…」
ディオスはフッと笑う。
微妙な風石のような力しかないのか…。
調査団の人が
「まあ、魔導石化しただけで、有害な波動や、汚染なんかは見当たらないので、よしとして…。ゆっくりですが…魔導石が自然界に溶けて、風と光の属性の鉱山を周囲に形成するのでは? という期待はありますよ」
ディオスは顔を引き攣らせ
どっちにせよ。時間が掛かるじゃん。
そう考えるも、気持ちを切り替え、置物造りようの魔導石を取る事にする。
調査団の人と共に、顎の部分に来て、恐らく牙であろう、先端部分の魔導石を一握り分四つ切断して採掘して、荷物入れにしまった。
「ああ…それと、グレンテル様。見て貰いたいモノがあります」
と、調査団の人が告げた。
「はぁ…何です?」
ディオスは首を傾げる。
「我々も何なのか分からない、品物ですよ」
ディオスはヴァシロウスの魔導石の山から調査団の本陣に帰って来て、とあるテントに案内された。
そして、その中にあったモノを見て鼓動が強く早く動く。
「これは…」とディオスは驚愕の視線だ。
テントの中には、計五本の円柱の物体がある。
先端がドリルのようになっていて、後尾に四枚の尾翼が付いて、その後尾にはミサイルの噴射口が付いている。
そして、何より、その物体の側面Uー128,U-129と連番の、ディオスの生まれた地球で使われていた文字が添付してあった。
ディオスはこれが何なのか、一発で分かった。
地中を進む用に作られたミサイルだ。
この魔法の世界にない物体。
魔法の世界では、ミサイルが必要ない。魔力で作られた弾丸を、魔法陣の操作でどうにでも誘導出来るのだから。
驚愕するディオスの隣に調査団の人が来て
「このような物体がヴァシロウスの体内から何本も見つかっています。これが何なのか…我々には皆目見当が付きません。ただ…」
「ただ…?」とディオスは調査団の人を見つめる。
「何かの信号を定期的に放っているのは、分かりました。今は、機能を停止していますが…」
「そうですか…」
と、呟くディオスの目は鋭かった。
リアナの時もそう、リベルの時にも感じた。自分の生まれた地球との関連があるように思える。
ディオスは右手を顎に当て推測する。
この世界へ、地球に関係する何かが干渉しているのではないか?
それか、地球と良く似たそれ相当の何かがこの世界にあるのではないか?
推測の域を出ないが、とにかく、要注意なのは確かであった。
その頃、バルストランのディオスの屋敷で、クレティアとクリシュナは何時もの様に訓練していると
「ふぁ…」とクレティアがあくびをする。
「あら…あくび?」
クリシュナが尋ねる。
「んん…何か、眠気がねぇ…」
クレティアは首を回す。
「ふ…ん」とクリシュナは頷いた次に「ふぁ…」と同じくあくびをしてしまった。
「あ、クリシュナにも伝染した…」
と、クレティアはニヤニヤと笑う。
そこへ、飲み物を持って来たレベッカが
「もしかして、何処か調子が悪いので、疲れが…」
クレティアとクリシュナは顔を見合わせる。
確かに夫ディオスの事にかまけて、自分達が疎かだったかもしれない。
「どうしようかなぁ…見て貰うとしても、どんな所へ行けば…」
と、クレティアは困ると
レベッカが
「ゼリティア様の所で、お調べになっては? 旦那様の事についても、お願いしていますし」
クリシュナは首を傾げ
「いいのかしら?」
レベッカが
「ゼリティア様は、お二人にも何かあった場合は、連絡してくれと言われていますから」
「じゃあ…」とクレティアはクリシュナを見る。
「そうね。まあ、安心の為に調べて貰いましょう」
と、クリシュナは頷いた。
クレティアとクリシュナの二人は、ゼリティアに頼んで、体を調べて貰う事にした。
オルディナイトの城邸で、ディオスを見た魔族の女性医師を前に、二人は、検査結果を聞く。
「おめでとうございます」
と、魔族の女性医師が喜ぶ。
クレティアとクリシュナは戸惑った次に、ハッとして
「まさか!」とクレティアは驚き
「ええ…じゃあ」とクリシュナも驚く。
二人は、自分の下腹部に触れた。
それから三日後、ディオスは屋敷に帰って来た。時間は夕方だった。
「ただいま…」
ディオスは玄関を潜ると、広間には、クレティアとクリシュナ、レベッカにユーリにチズの五人が並んでいた。
「あれ? みんなしてお出迎え」
ディオスは戸惑っていると、五人はニコニコと嬉しそうな顔をしている。
「んん? んん?」
ディオスには喜ぶ理由が分からない。
レベッカが「奥方様…」とクレティアとクリシュナに呼び掛ける。
クレティアとクリシュナは、自分の下腹部を触り
「ねぇ…ダーリン。聞いて、アタシ達、妊娠したの」
それを聞いてディオスは持っていた荷物を離してしまう。
「え…妊娠って…」
クレティアとクリシュナはディオスのそばに来て
「アナタの赤ちゃん。お腹にいるのよ」
と、クリシュナが微笑む。
数秒後、ディオスの瞳から涙が溢れる。
「えええ?」戸惑う五人。
ディオスが、クレティアとクリシュナの肩を持ち
「本当に? え? 二人とも…子供が…」
「うん」とクレティア、「ええ…」とクリシュナが二人して微笑む。
「くぅ…」とディオスは悶えた後、二人を抱き締めた次に跪き、二人のお腹に顔をくっつける。
そして、過ぎった事が、倒れて目覚める時に見た。
子供達がパパと呼んで自分を引っ張ってくれた事だ。
そうか…そういう事だったんだ…。ああ…そうだよ。よく来てくれた…ありがとう。
愛おしい気持ちが溢れて、涙していると、あのシンギラリティの渦を感じる直感が、二人の中に渦があると、知らせる。
「え!」とディオスは驚き「ちょっと待て…」と再び、二人のお腹に額を当てて意識を集中させる。
そう、それは確かに感じる。二人のお腹の中にシンギラリティの渦を…。
「まさか…」
ディオスは直ぐに、ヴィクトリア魔法大学院の魔導因子遺伝研究部門へ連絡、それを聞いたミリアとサラナ、トルキウスは、最速の飛空挺に乗って一日半でディオスの屋敷に来た。
その時刻は夜だった。
三人が来た次に、トルキウスがディオスに
「どういう事なんだ? ディオス殿…」
トルキウスは驚きの顔を向けている。
「とにかく、見てくれ」
と、ディオスはトルキウスにクレティアとクリシュナを見せる。
トルキウスの顔が見る見る間に驚きに変わり、そのショックで青ざめふらつく。
「大丈夫! トルキウス!」
サラナが支える。
その反応にミリアが
「まさか…本当に?」
トルキウスは頭を振り
「本当です。ディオス殿の妻達のお腹からシンギラリティの渦を感じます」
ミリアとサラナは、広間で簡易調査装置を使って、クレティアとクリシュナを調査する。
ミリアとサラナは驚きの顔を見せ、調査を受けているクレティアとクリシュナはお互いに、お腹を触り
「まさか…本当にダーリンの魔力が無限に沸き上がる体質を受け継いで…」
クレティアが告げる。
トルキウスは額を抱えたまま
「前代未聞だ。シンギラリティは一代限りの変異で、その体質は受け継がれない。それが…」
と、トルキウスはクレティアとクリシュナの隣にいるディオスを見つめる。
「ディオス殿、貴方は…それが次の世代に継承される初の事例です」
ディオスは鋭い顔つきになる。
子供が出来て嬉しかったが…この自分のシンギラリティの体質を受け継いで産まれるという事は…必ず、厄介事が…。
そこへ、ソフィア達が来た。
「ウィース 遊びに来たわよ」
と、ソフィアは暢気に告げて、スーギィとナトゥムラにマフィーリアの何時もの面子を連れてきた。
だが、広間で調査をしている一団を見つけて
「何?」
「師匠、ちょっと来てくれ…」
と、ディオスはソフィアを呼ぶ。
ソフィアは説明を受ける。ディオスの子を、クレティアとクリシュナが身篭もった。
そして、その子供がディオスの無限に湧き出る魔導体質を受け継いでいると聞かされて絶句した。
「な…うそ…」
スーギィは「そんな…」
ナトゥムラは「ウソだろう」
マフィーリアは、ポカンと口を開けていた。
ソフィアは額に手を置いて
「それ、ヤバいじゃん」
言葉の通りだ。
ディオスはヴァシロウスを倒した英雄だ。
その男の子供が、英雄と同じ力を持っているとなると、各国や様々な貴族達の争奪戦が勃発するだろう。
更に悪い事に、この世界の魔法に関するセンスと魔力は、両親の内、高い方が遺伝する。
偶に、両親の両方が合算されたのが産まれるから、年々、魔力に関する力は高くなっている傾向はある。
ディオスはシンギラリティというそれを遙かに超えた魔力センスだ。
それが遺伝し続けるなら、どんな争奪線が始まるか、分からない。
もしかしたら、血で血を洗うかもしれない。
全体に重い空気が立ちこめ、トルキウスが
「この事は、極秘にします。いいですね…皆さん」
全員が暗黙の了承として肯きをした。
そして、ディオスは考えた。助けが必要だ。
「師匠…子供が産まれたら、その…自分の時と同じように、魔法を教えて頂きたい」
ソフィアは、明るい顔をして
「ま、かせて! アンタを育てた実績、伊達じゃあないんだから。それに弟子から産まれる子供は、師匠であるアタシの子でもあるの。当然じゃない」
喜んで了承してくれた。
「お願いします」とディオスは頭を下げた。
次に、ディオスはナトゥムラを見て
「ナトゥムラさん。子供の事で、何か頼る事があると思いますので…」
ナトゥムラは顔を喜びにして
「任せろ! 何でもしてやる」
「お願いします」とディオスは再び頭を下げる。
そう、ディオスは思った。子供の為にも、味方が沢山必要だ。
数日後、ディオスは地下研究室で、細工の箱を作っていた。
大きさ的に三十センチの彫り物がある四角い箱、それにヴァシロウスから取った魔導石をはめ込み、動作を確認する。
ボタンを押すと、箱が割れてヴァシロウスの魔導石が掲げ伸びる。
「こんなモノかなぁ…」
ディオスは掲げる。
箱の側面には、ヴァシロウスを倒す象形化した自分の姿と、倒された後、チョットした魔法陣の金細工の彫り物をしてある。
ゼリティアから、工作機を借りて作ったのだ。
これで、約束した四人にプレゼントする置物が完成した。
翌日、ディオスはクレティアとクリシュナを連れ、四つの細工置物の入ったバックとその他の旅行荷物を持って
「では、行ってきます」
と、告げるディオス。
レベッカは「いってらっしゃいませ」と見送る。
ディオス達が最初に向かう所は、アフーリアのレオルトスである。序でに、ソフィアから、レオルトス王と、トルキア共和国の首相に向けた親書を持っての諸国漫遊だ。
まあ、外交の序でにされたのだ。
バルストランから飛空挺に乗ってレオルトスを目指す。
ディオスは空港で飛空挺を見つめる。
この世界の移動手段、飛空挺は大体、二種類のモノがある。
飛行機のように空力を考えないでいいから、形は特徴的だ。
まずは、貨物を運ぶだけに適した飛空挺は、箱のようなブロックが沢山組み合わさった箱そのモノのような形状だ。
人を乗せて回るタイプは、様々な形があるが、共通するのは流線型が多い。
まあ、空飛ぶクルーザーみたいな感じで、客船のように泊まれる個室が席である。
ジャンボジェットのように密集する席ない。
大体、大きさも2・300メータクラスだから、多く乗って余裕な感じだ。
一応、王の親書を持っているという事で、政府関係者扱いで、普段の客室とは違う別の客室へ入る。モノが盗まれてはいけないと、頑丈な鍵の客室だ。
ディオス達は、旅客飛空挺に運ばれ、レオルトス王国へ到着、政府関係者の出口から出ようとしたら、その通路を正装した兵士が花道を作り、両脇に音楽隊がついて、歓迎のラッパを鳴らしていた。
「え…」とディオスは顔を引き攣らせると、レッドカーペットの先に、高級そうな魔導車とフィリティイ陛下と正装したヴァルドが迎えてくれる。
「ディオスさーーーーん」
フィリティは手を振って呼ぶ。
ディオス達は魔導車に乗ってレオルトスの王宮に向かいながら、ディオスが
「あの…フィリティ陛下。この扱いは…どうして?」
後部座席で、ディオスの前にいるフィリティは微笑み
「それはもちろん、当然ですよ。ヴァシロウスを討伐した英雄なんですから、国賓扱いに決まっているではありませんか」
ディオスは顔を引き攣らせ
わあーーーーーーお そんなどうしてーーーーーー
内心で叫びまくった。
王宮に来て、歓迎の昼食会の奥の席、フィリティ陛下の右隣にディオス達は座った。
ディオスは頭が痛くなって来た。
華やかにディオスを招いた百に近い人がいる大昼食会が進み。
ディオスは、バックからあの置物を取り出し
「陛下…お約束の品です」
フィリティに渡す。
「はぁあああ」とフィリティは嬉しそうな顔をする。
「ありがとうディオスさん」
「はは…完全に自分のお手製の下手な横好きですけどね…」
ディオスは、ヴァシロウスの魔導石の力の説明をする。
精々、なんかのベッド代わりでしか機能しませんけどね…と告げるが、それはそれは、フィリティは興奮してうれしそうだった。
何故なら、ヴァシロウスの英雄が自分の為に作ってくれた一品だからだ。
後に英雄の一品として、国宝になる。
その後、午後の半ばで解放され、ヴァルドの家、クレティアの実家である剣の館へ行く。
そして、その傍にあるクレティアの父と母親達のお墓に来て、ディオスは手を合わせる。
「ダーリン、もし、父上と母上達が生きていたら、どうしたの?」
クレティアが尋ねる。
「父上とは、一緒にお酒を…。母上達とは、色々と小言を言われてみたかった」
ディオスは、この世界の生まれではない。両親と他に弟と妹の二人がいる。二度と会えなくなって、初めて家族のありがたみと大切さを身にしみていたのだ。
その後、剣の館でも、沢山の人に囲まれて晩餐会となる。
ディオスは、隣のヴァルドに
「はい、兄上…ヴァシロウスの牙…の魔導石の置物です」
「おおお、すまん」
ヴァルドは嬉しそうに受け取る。
「ディオス殿…」
「ディオスでいいです」
「ディオス…大偉業、見事であった。クレティア、クリシュナ殿。お二人も大変な活躍、素晴らしかったです」
と、ヴァルドは、ディオスの右にいるクレティアとクリシュナに呼び掛ける。
二人は照れていた。
ディオスが
「ヴァルド兄上、もう一つ報告が…」
「なんだ?」
「二人は自分の子供を身篭もっていまして…」
「おおおおお! めでたいではないかぁぁぁ」
「実は…」
ディオスは、ヴァルドに、産まれてくる子供が自分と同じ特殊な魔導体質であると告げた。
「なんと…」と驚くヴァルド
「ええ…ですから、兄上…お力をお借りしたい」
ヴァルドは力強く肯き
「任せろ。十分頼ってくれ」
「ありがとうございます」
二人が話をしている横で、ヴァルドの妻が、クレティアを見つめ
「あれ、クレティア…お化粧しているの?」
クレティアは恥ずかしそうに
「ああ…うん。そのダーリンが…綺麗にすると喜ぶから、クリシュナから習っているの。まあ、ナチュラルメイクってヤツね」
ヴァルドの妻は唖然とした。昔からクレティアは剣一辺倒で女らしい事なんて一切、興味がなかった。そういえば、服装も女性らしく華やかだ。
ヴァルドの妻は、夫の為に女を磨くクレティアを嬉しげに見つめた。
その後、レオルトスの歓迎と、親書の受け渡しを終えて、ディオス達はユグラシア中央部トルキア共和国へ向かう。
トルキアの空港に飛空挺が到着すると、またしてもデジャヴである。
出口がレッドカーペットで、両脇をトルキア国軍の正装した兵士が花道を作っていた。
「はぁ…」とディオスは溜息を漏らした。
カーペットの先にある魔導車に、黒いシャリカランの服装ではない。白いこの地方独特のアラビア正装をしたカルラとラーナが迎えてくれた。
二人と共に、魔導車で移動するが、ディオスは途中で寄って欲しい場所を言う。それはルヴィリットの所だ。
ルヴィリットの店に来てディオスは、店に入ると、ルヴィリットとその息子達、孫娘のルビナがいる。
ディオスはルヴィリット達にお辞儀して
「みなさん。本当に助かりました。ありがとうございます」
ルヴィリットは微笑み
「いいんじゃよ。ワシ等は仕事をしたまでさ」
ディオスはバックからヴァシロウスの牙の置物を取り出し
「これを…自分が作ったモノですが…。下手な横好きみたいなモノでごめんなさい」
ルヴィリットは「はぁ…」と溜息を漏らし
「全くお前は気を遣いすぎじゃ」
ルビナがディオスの掲げる置物を受け取り
「また、困った時は、何時でも…」
「はい、それとルヴィリットさん。また、お酒を…今度は度数が低いヤツで…」
「分かったさ」
ディオス達が去って行くと、店では息子達と孫娘のルビナが、ディオスお手製の置物を嬉しげに見ている。
あのヴァシロウスを倒した英雄が、自分達の為に作ってくれたのだ。喜ばない筈はなかった。
ルヴィリットが
「ほら、仕事が残っているだろう」
皆に呼び掛けた。だが、ルヴィリットは横目でディオスの置物を見て満足げに微笑んだ。
ディオス達は、街の直ぐ外れに来る。そこには、白磁器の広大な巨大宮殿があった。
ディオスはそれを見て
「あそこって」
カルラが
「はい、マハーカーラ財団の本部であり、グラ…いえ、総帥アルヴァルド様の宮殿でございます」
「はははは」とディオスは顔を引き攣らせた。
ディオス達は、マハーカーラ財団本部の宮殿の正面である巨大南門から入った。
クリシュナが
「アナタ…この正面の大門は、大財閥の会長か、首相級に匹敵する人物しか、通る事を許されないわ。おそらく、私達の扱いは国を挙げての国賓級って事よ」
ディオスは頭を抱えた。全く、なんだよ…やめて…。
魔導車が、広い庭園の真ん中で止まった。ディオス達が、ドアから出ると、正装したアルヴァルドを中心として、妻のマハルヴァと他の二人の獣人のアジャータ、人族のナルタヴァの妻達三人、そして、その一族全員が総出でお出迎えだった。
ディオスは顔を引き攣らせた次に、アルヴァルドに頭を下げ
「お父様。このような盛大なお出迎え、弱輩の身に余る光栄でござます」
「うむ…」とアルヴァルドは頷く。
マハルヴァが
「さあ…色々と積もる話もあるでしょうし、中へ、ね」
巨大な白磁器のホールで、大絨毯が並んだ大歓迎会が始まる。
アルヴァルドの左に、三人の妻達、その右にディオス達、一族達はそれを中心として集まり、大絨毯に座って、その上に色取り取りの果物と、トルキア特有の豪華料理、美酒が並ぶ。
ディオスは酒を取ってアルヴァルドの杯に注ぐ。
「お父様、一献どうぞ」
「うむ」とアルヴァルドは肯き、貰って口にすると
「いいか、ディオス。ヴァシロウスを倒して英雄になったからと言っていい気になるでは、ないぞ」
そう鋭く告げた瞬間。
左にいる三人の妻達が
「はぁぁぁぁっぁぁぁ」
「へぁぁっぁぁぁぁあ」
「ほぁあああああああ」
一斉に三人の妻達は大きく呆れた声を放った。
マハルヴァが言う。
「それを、アナタが言う! 良くも言えるわねぇぇぇ」
アジャータが
「ディオスさん。このヒトね。ディオスさんがヴァシロウスを倒した男は、オレの娘の夫なんだぞっと、それはそれは、もう…饒舌に周りに言いふらし巻くって、どや顔しまくったのよ」
ナルタヴァが
「その所為で、国を挙げての大歓迎会になってしまったのよ。ディオスさんが派手な事が苦手だったから、普通に済まそうとしたのに…全く」
アルヴァルドが、う…と痛そうに俯く。
ディオスは、アルヴァルドが妻達に攻められる様に
やべー ウチと似てる…
すごく親近感がわいてきた。
「はは…」とディオスは苦笑した次に、バックからあのヴァシロウスの牙の置物を取り出し
「お父様、どうぞ…受け取ってくれませんか?」
アルヴァルドはゴホンと咳払いして
「まあ、受け取って置いてやろう」
それに三人の妻達は
「はぁ!」「ふぅ!」「へぇ!」
と、腹から声を出して
マハルヴァが
「受け取って置いてやろうですってーーーー 周りには、あのヴァシロウスを倒した英雄の婿が、オレの為にヴァシロウスの牙で作った品物を作ってくれるんだぜっと、自慢しまくったくせに!」
再び、アルヴァルドは苦しそうに俯く。
ディオスは
「嬉しいです。自分でお父様の見栄を張れるなんて…本当に、ヴァシロウスを倒した甲斐がありました」
アルヴァルドは顔を上げ、ちょっと満足げな顔だが。
アジャータが
「止めて、ディオスさん。そんな事があると、このヒト余計に調子に乗って手が付けられなくなるから…」
『ええ…』とマハルヴァとナルタヴァは力強く同意した。
マハルヴァが
「このヒトね。ディオスさんが、ヴァシロウスと戦っている時に、散々、一喜一憂していたのよ。最初の攻撃の時に、流石だ! 先手を封じたとか、とにかく、もの凄い魔法を使って攻撃していた時なんて、ガッツポーズの連続で、ディオスさんがヴァシロウスの凄い事を見抜いた時なんて、流石、クリシュナを妻にしただけはある! なんて…。あまつさえ、ヴァシロウスが倒された時なんて、二日間も祝杯だって、ドンチャン騒ぎだったんですから」
アルヴァルドは雲行きが怪しくなって黙る。
ディオスは苦笑する。
それ程までに、気にしてくれたのは、嬉しいなぁ…。あ…そうだ。
「お父様。もう一つ、ご報告があります」
「んん? なんだ?」
「クレティアとクリシュナのお腹に自分の子供が…赤ちゃんがいます」
それを聞いてマハルヴァ、アジャータ、ナルタヴァは顔を輝かせ
「本当なの!」とマルハヴァは二人を見ると、クレティアとクリシュナは嬉しそうに頷いた。
アジャータが夫に
「アナタ…」
アルヴァルドは杯を一気飲みして
「今日は、酒が極上に美味い!」
一気にその場が盛り上がった。
そして、ディオスが
「お父様、お母様達にお願いがあります」
ディオスは、二人から産まれてくる子供が、自分のシンギラリティの渦体質を持って産まれる事を話し
「是非とも、お父様のお力を、産まれてくる子供にお貸しください」
アルヴァルドは酒瓶を持って、ディオスに差し向ける。
「案ずるな、ワシの持っている力の全てをもって、サポートしてやる」
ディオスは、丁寧にアルヴァルドのお酌を受け取り
「ありがとうございます。お父様」
こうして、楽しく、トルキアの歓迎会が行われている裏では…。
フランドイル王国の王宮、ヴィルヘルムは自室で食事を取っている。それは丁度、大好物の極上赤身のステーキを切っている所で、ドアがノックされる。
「失礼します」とグラディウスが入ってくるが「ああ…陛下、お食事中でしたか…では、後に…」
「よい、報告をしろ…」
と、ヴィルヘルムは促し、切ったステーキを口にする。
「では…」とグラディウスの報告が始まる。
「ディオス・グレンテルの事について色々と調べた所、面白い事が判明しました。我が国のエルダー級魔導士、アインシュ様の言った通り、超絶な魔法技術を持っているにも関わらず。その価値観は、誰しもが共有出来る普遍的なモノだと分かりました。ディオス・グレンテルが主に置いている価値観は、主に家族、友、仲間いった絆を重んじると…」
「ふ…」とヴィルヘルムは笑い「だから、あの時、あのように言ったのか…。成る程…」
ヴィルヘルムは、ディオスが十二国会議前に自分に言っていた事を思い返す。
グラディウスが続ける。
「ディオス・グレンテルは、野心が希薄です。故に、多少の利潤の話には乗るかもしれませんが…。自分の家族や友、仲間の絆を損じると分かれば、手を引くと思われます。このように、親愛友愛を基準とする精神に、英雄としての素晴らしい資質があったとして、他の所では、評価がうなぎ登りの状態です」
ヴィルヘルムは楽しげにステーキを切りながら
「グラディウス。お前を同じ気質を持っているという事か…」
グラディウスはフッと笑み
「ええ…そうなります。陛下」
ヴィルヘルムは、フフフフフフ…と怪しげな笑みを浮かべ
「容易い、容易い、見えるぞ。グラディウス。ワシは、あのヴァシロウスを倒した英雄という最高の人材を手にする未来が…」
ヴィルヘルムは、フォークに刺した肉を、野獣の如く咬み千切り味わう。それが今度、手にするディオス・グレンテルという極上の肉に見立てて。
「グラディウス…手配は?」
「あと、二ヶ月後には…。ヴァシロウスとの戦いのお陰で、最新の装備が多く出回っていますので、十分かと…」
「そうか…」とヴィルヘルムは、大好物のステーキを噛み締めながら
「なぁ…グラディウス。ワシは一目見て分かったぞ。あのディオス・グレンテルという男は頭が切れて、情愛を主にする男だと…。そんな男が、自らの愛する家族や友に仲間がいる国が危機だとしたらどうする?」
「それは、全力を持って救いに行くでしょう」
「そうだ…。バルストランが包囲され、苦しくなるとしよう。それを何とかする為に、自分が犠牲になれば良いと分かったら、そういう男はどうするかね?」
「それは、自ら犠牲になるでしょうな」
「そうだ。世界は、人の繋がりによって成り立っている。それを無視して過ごす事は出来ない。それをディオス・グレンテルは一番分かっている」
ヴィルヘルムは最後の肉を見る。
それをバルストランと見立てて、ナイフで周りを周回した後、一気にフォークを突き立て、口の中に運んで噛み締めた。
「ふふふ…ああ…楽しみだ…。どんな美味を味合わせてくれるのだろうか? バルストランとヴァシロウスの英雄はなぁ…」
別の場所、ユグラシア大陸の広大な北部、ロマリア帝国、皇帝ライドルがいる皇帝城では、ライドルが皇帝の王座に座って部下から報告を聞いていた。
「おそらく、フランドイルが動くかと…」
ライドルは部下からの報告に満足そうに笑み
「そうか…動くか…ヴィルヘルムが…」
ロマリア皇帝ライドルは、狙っている。
この先に起こるアーリシアの混乱によって狙える算段を。
アリストス共和帝国、アインデウス皇帝がいる世界樹の大城では、黒いマント、大きな肩当てのある鎧、皇帝装束のアインデウス皇帝がパイプオルガンを赴くまま奏でていると、そこへあの男ディウゴスが来た。
「アインデウス様…」
跪くディウゴス。
アインデウスは奏でるのを止め
「で…どうだ?」
「アインデウス様の慧眼通り、フランドイルのヴィルヘルムが動き出すそうです。おそらく…アーリシアの制覇を狙っているだろうと…」
「そうか…荒れるな…」
「如何いたしましょうか…」
「ディウゴス、ヴァシロウスという災厄は、謂わば、アーリシアを暴走させない為の楔としても機能していたという事だ。それが解消された以上…これは、もう仕方ない。アーリシアの者達で解決させるしかない。我らは、見守るのみ。それが万年と続く我らの中心だ」
「は…」
と、ディウゴスは頷いた。
ディオスはこれから、見るだろう。この世界の牙達を…。
これで、ヴァシロウス篇は終わりです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




