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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
第五次ヴァシロウス降臨

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第45話 ディオスの回復と妻達が

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


倒れたディオス、意識の無いディオスは治療を受ける中で様々な人々が駆け付ける。

ディオスは集中治療装置の中で横になっている。意識がなく、人工呼吸器で息を繋いでいる状態だった。

 意識不明の重体。

 その集中治療器のカプセルの傍で、クレティアとクリシュナは、動かない。


 カプセルの側面窓から見える意識の無いディオスを見逃さないように見つめている。

「ちきしょう…」

 クレティアは悔しげに呟く。

 もっと早く夫の体調の変化を察していれば、こんな事に成らなかった筈…。


「アナタ…」

 クリシュナは、縋る様にディオスを見つめる。

 替われるなら、自分がそこへ…。

 二人は、ディオスを失うかもしれないと状況に、震えて怯えていた。


 そこのレベッカが来る。

「奥方様…」

 クレティアとクリシュナに呼び掛ける。


 二人は答えない。それさえも耳に入らない。だだ、ひたすらディオスを見つめている。


 クレティアの腕をレベッカが取り

「クレティア奥様。クリシュナ奥様…」


「レベッカ…」とクレティアは見る。その目に光がない。


 レベッカは辛そうな顔で

「奥方様達も、お疲れのはずです…。お休みください。あったかい料理がありますから」


「いや…行きたくない。ダーリンのそばにいたい」

 クレティアは金色の瞳から涙を零した。


 レベッカは首を横に振り

「旦那様が目覚めた時に、奥方様達が、ボロボロでどうするんですか? 旦那様の為にもお休みください」

 レベッカはクレティアの腕とクリシュナの腕を取り、無理矢理に屋敷へ引っ張った。

 

 そうして、無理矢理に食事を取らせて、眠らせた。


 レベッカは、二人が休む寝室のイスに座って、クレティアとクリシュナが休むのを確認するまで、待っている。


 クリシュナが体を起こして

「やっぱり、夫の元へ」


 それをレベッカは、肩を押してベッドに押しつけ

「何かあった場合は、旦那様のそばにユーリとチズをつけています。連絡がありますから」

 こうでもしないと、二人は休まないとレベッカは見抜いていた。



 ディオスが治療されるカプセルの傍に、ユーリとチズがいる。

 二人は祈っていた。

「旦那様…どうか…主よ…。旦那様をお救いください」

と、二人は必死に祈っていた。


 ディオスが倒れてから一日後、バルストランの王城に帰ってきたソフィアは「はぁ…」と王の執務室のイスに座って落ち着いていると、机にある魔導通信機が鳴った。コールしたのは、ゼリティアだった。

「ああ…ゼリティア…何?」


『ソフィア殿…ディオスが倒れた』


 ソフィアはイスから飛び起きて

「どういう事?」

 ゼリティアから説明を受けた。


 ゼリティアが派遣した医師団によると、ディオスは信じられない程の極度魔導疲労を起こして、全身が炎症してしまった。

 おそらく、原因はヴァシロウスの戦いに使用した魔法の数々の所為だろう…。


「ウソでしょう…ケロッとしていたのに」

 ソフィアは頭を抱える。


『今、何とか治療を行っている。暫し、妾の報告を待ってはくれないか?』


「私…ディオスの屋敷に行っていい?」


『構わないが…大事にはするな。今、ヴァシロウスが倒されてアーリシアは祝福に包まれている。それに、ヴァシロウスを倒した英雄が、重体と知れれば、どんな混乱が起こるか分からん。よいな』


「ええ…分かった」

と、ソフィアは通信を切ると、ドアがノックされ

「失礼する」とレディアンが書類を持って来た。

「ソフィア陛下…。ヴァシロウスが倒された祝賀会を行いたいので、ディオスを」


「レディアン」とソフィアは止め「これは極秘な事よ。ディオスが重体なの」


「な…」とレディアンは絶句して、持っていた祝賀会の計画表を落とした。



 一日半が過ぎた夜、ディオスの屋敷に集団が向かっていた。

 それは楽しげな声を放つフェニックス町の人々だった。

 ヴァシロウスが倒されたのを祝って、祝賀状態だった。

 それで、ディオスの屋敷に行って、ディオスの功績を祝賀する為に、向かったが…。

 屋敷の前の広場に、医療専門の飛空挺が着陸しているのを見て、困惑が広がる。

「おい、どういう事だ?」と、ヒロキが、屋敷に向かって走る。

 その時に、飛空挺からユーリとチズが降りてきた。

 ディオスの見回りをレベッカと交代したのだ。


「おい、お嬢ちゃん達」とヒロキが呼び掛ける。

「一体、何があったんだ?」


 ユーリが泣きそうな顔で

「旦那様が…旦那様が…」


 ヒロキ達は、ディオスが意識不明の重体と聞いて。

「ふざけんなよ…そんなのありかよ!」

 ヒロキが叫ぶ。


 同じく聞いていたフェニックス町の仲間を

「そんなの、ふざけんなよ…。英雄が…」


「お嬢ちゃん、オレ達、何でも協力するぞ…。何でもいい、いってくれ」

 そうだ! そうだ!


 ユーリが嬉しさで泣いている背をチズが擦りながら

「私達、交代で旦那様の、様子を見てる。何人か、同じように見てくれる人を…欲しい」


「よっしゃーーーーー」

と、全員が声を唸らせた。


 ソフィアは、ナトゥムラとスーギィ、マフィーリアと数名の部下達を連れてディオスの屋敷に向かっていた。

 魔導車の後部座席で、ナトゥムラは項垂れ額を両手で抱え

「ウソだろう…ふざけんなよ…。なんで、こんな結末ありかよ」


 それを隣にいるスーギィが背を擦って

「大丈夫だ。何とかなる」


 同じく後部座席にいるソフィアは、親指の爪を噛んで苛立っていた。

「バカ弟子…死んだら、地獄の底まで追いかけて、説教してやるんだから」


 そして、屋敷に魔導車が到着すると、沢山の人が屋敷にいた。

 魔導車から降りて、人がごった返す屋敷を見てソフィア達が困惑する。

「なに、これ…」

 ソフィアは、屋敷の周りにいる人達に近付く。

「あの…これは…」


 屋敷のそばで、立っているフェニックス町の人が

「ああ…みんな、ディオスさんの様子をみる為に、集まったんだよ」


「ええ…」とソフィアは驚く、そうディオスが重体であるのが広まっていたからだ。

 

 ソフィア達の目の前で代わる代わるフェニックス町の人々が、飛空挺の中に入って入れ替わっている。


 ソフィアは諦めた。もう、ディオスが意識不明の重体だと知れ渡っていると…。


 フェニックス町の人々の言葉伝てに、アーリシア全土にディオスが意識不明の重体だと広まった。

 そして、バルストラン王の王城の受付の魔導通信機達が、フルで鳴りっぱなしだった。

「はい、今…ソフィア陛下がご確認をしていますので…はい」


「あ、ありがとうございます。お伝えして置きますので」


「ああ…ソーディス大公の…はい。ありがとうございます。もし、お力を必要な時は、はい」

 受付達は、対応に追われていた。



 それは、ゼリティアの城邸でも同じだった。

 ゼリティアは、休憩の間で、一人、ディオスから貰った扇子を見つめていた。

 そこへ、セバスが魔導通信機を持って入り

「ゼリティア様…ヴァルハラ財団の会長、エレオノーレ様よりご連絡が…」


「分かった」

と、ゼリティアは取ると、ヴァルハラ財団の会長は、ゼリティアにディオスが意識不明の重体の事を問う。

「はい…現在、我がオルディナイトの最高の医療チームにて治療しております」

 対応に追われていた。



 クレティアとクリシュナは、眼を覚ます。

 ベッドそばにある日付時計を見ると、丸一日寝ていた事に驚き。

「いけない、ダーリンが」

「夫が!」

 二人はベッドから飛び起きて、ドアを潜り、広間に来た次に、沢山の人達がそこにいた。その広間にいた全ての人が、両手を組んで祈っている。


「こ…これは…」とクリシュナが声を漏らす。


 クレティアは、その中にヒロキを見つめ

「まさか…」

 クレティアはヒロキに近付く。

「ヒロキ!」


「おおお…」とヒロキは、クレティアとクリシュナに気付く。


「どういう事?」とクレティアが尋ねる。


 ヒロキは苦しそうな顔をして

「ディオスさんを祝おうとして、みんなで来たら…。ディオスさんがヤバいって聞いて。それでみんなで、様子を見守ろうって事になってよ。まあ、ディオスさんのそばにいれない連中は、こうして回復する事を祈るしか出来ないだけどよ…」


 クレティアは嬉しげに顔を染め

「ありがとう…」


 クリシュナも涙が一筋零れ

「本当にありがとう」


 ヒロキは力強く微笑み

「いいんだよ。アーリシアを救ったオレ達の英雄が大変な状態なんだ。これぐらい何でもないさ」


 クレティアはクリシュナの手を取り

「じゃあ、お願いするわ。クリシュナ…ダーリンの所へ行こう」

「ええ…」

 二人が歩く背にヒロキが

「ああ…そうだ。今、ソフィア陛下達も来ていて、ディオスさんの所にいるから」


 クレティアとクリシュナは、ディオスのいる治療カプセルの所へ来ると、沢山の人がそこでもディオスを囲んで祈っていた。

 思う事は一つ、ディオスが回復する事を願って。

 

 ディオスが横になるカプセルのそばでソフィア達を見つけた。

 ソフィアはディオスが見える横窓からディオスだけを見つめている。


「ソフィア様…」とクレティアとクリシュナが来た。


 ソフィアは二人に向いて

「あ…アンタ達、大丈夫? 疲れは?」


 クレティアが

「大丈夫、一杯寝たし。疲れが取れたから」


 クリシュナが

「十分な休息を取れたから…」


「そう…」とソフィアは安堵した次に、ディオスを再び見つめる。


 ソフィア、クレティア、クリシュナは、ひたすらディオスを見つめていると…。

 治療を任されている医師の人族の男性が現れ

「ああ…奥様達ですか。丁度よかった。こちらへ」


 クレティアとクリシュナの二人を呼ぶ、それに「アタシも行っていい?」とソフィアが

 医師は、奥方のクレティアとクリシュナを見ると、二人は頷いた。


 医師三人が揃う、治療検討ルームでクレティアとクリシュナにソフィアはイスに座って説明を聞く。

 人族の男性医師が、情報を三人の前に投影して

「現在、ディオス様の炎症及び、回復の状態です」

 それは、なだらかに下がる赤いグラフと、同じ角度で上がる青いグラフがあった。

「赤いグラフは、炎症及び体の損耗の値です。青いグラフは回復の値です。このままゆっくり行けば、明日には安定した状態になります」


 クレティアが「じゃあ…ダーリンは明日には意識が戻るんですか?」


 医師は難しい顔をして

「その…まだ、それは断定できません。回復には向かうと思われますが…。意識は…」


 ソフィアが

「ねぇ…もしかして、このまま…意識が戻らないなんて事は…」


 医師の魔族の女性が

「そんな事は絶対にさせません! 必ずや私達が回復に導きます」


 医師のオーガの女性も「大丈夫です」と告げる。


 人族の男性医師が

「みなさん。ディオス様は、私達にとっても恩人なのです、十七年前に私達は、肉親をヴァシロウスによって無くしています。我々を信じてください。どんな手を尽くしても必ず、大恩人たるディオス様をお救いします」


 三人の医師は並大抵ならぬ気迫を放っていた。



 その後、説明を終えたクレティアとクリシュナとソフィアは、ディオスのいるカプセルの場所へ来た。

 三人は、静かにディオスの意識が戻るを祈って待ち続ける。

 治療が続いていた。



 治療中のディオスの意識は不思議な世界にいた。

 そこは、綺麗な蒼穹が広がる草原だ。

「どこだここ?」

 ディオスは周囲を見渡す。

 記憶を辿ると、屋敷に帰ってきたまでは憶えているが…後がない。

「なんでこんな所にいるんだ?」

 困惑するディオスの目の前から膨大な数の人々が近付いて来る。

「ええ? ええええええ」

 戦くディオスだが、その集団の先頭には、あの夢に出てきたゼリティアの両親と祖母、ソフィアの父親、レベッカの夫、ユーリとチズの両親がいる。

 あ…ここって夢か!

 それでディオスが、自分のいる世界を察する。


 近づく亡き人々がディオスの数メータ前で止まり、ディオスにお辞儀した。


 ありがとうございました。これで…


 その言葉が夢の世界に轟く。


 ディオスはフッと笑み

「ええ…これで依頼完了ですね。どうぞ、安らかに…」


 貴方様の未来に祝福を…


 そう、亡き者達は告げて、遠くへ去って行く。


 それを見送るディオスだが、背中が引っ張られた。

「んん?」

と、ディオスは後ろを向くと、幼い子供が三人いる。

 黒髪の女の子と男の子、赤髪の女の子。

「どうしたんだい?」

 ディオスが尋ねると、三人の幼子達はディオスを引っ張って

”さあ、帰ろうパパ!”

 そう告げて、ディオスを引っ張る。

「え? パパ?」

 困惑するディオスは、幼子達に引っ張られて光の中へ飲まれた。


 えええ? パパってどういう事?

と、思いつつディオスは目を開ける。



 ディオスが意識不明の重体となって三日半、それは四日目の朝日が昇って来た時だった。

 治療カプセルの中で、ディオスはゆっくりと目を開けた。

 あれ?

 ディオスは困惑する。真っ白い気密性の筒の中にいるのだ。

 そして、その横窓から、クレティアとクリシュナ、知らない多くの人達が覗いている。

 

 ディオスの意識が戻って目覚めたのを見てクレティアが泣き出し

「ダーリン! ダーリン!」

 

 クリシュナも涙して

「良かったアナタ…」


 周囲にいる人達が「医者を呼んでこいーーー」と医師を呼んだ。


 ディオスは周りを見渡して

「あれ? ここ、どこ?」

 体を動かそうとしたが、全身に激痛が走って

「ああ! がああ! 痛い…」

 指一本も動かせなかった。


 ディオスが目覚めたという朗報は、その日の昼にアーリシア全土に知らされた。

 ヴァシロウスが倒された事で祝いムードだったのが、ディオスの重篤を聞いて、静まり返った。

 だが、そのヴァシロウスを倒したディオスが意識を取り戻し、回復したという報告で、落ちていた気運が、盛り返し、再びヴァシロウス討伐の祝賀ムードへと包まれたのであった。


 その後、ディオスは一日、大事をとって治療カプセルにいたが、翌日、屋敷のベッドでも大丈夫となり、ベッドに移された。


 ベッドに横になってディオスは

「はぁ…全身が痛くて動かせない…」


 クレティアとクリシュナはホッとした顔を見せ

「いいじゃん。段々と体が治っていくんだから、ね。ダーリン」

 クレティアは微笑む。


「そうよ。大変な事をしたんだから、当然の反応よ、アナタ」

 クリシュナは頷く。


 ディオスのベッドの周りには、見回ってくれたフェニックス町の人々がいた。

「いや…良かったぁ…ホッとしたよ」


「ヴァシロウスを倒した英雄が、死んだなんて、そんな最悪、許されないぜ」


 ディオスは町の人々を一望して

「すいません。ご迷惑をお掛けしました」


「いいって」と町の人々は朗らかに答えた。



 ディオスはベッドの上で、点滴と治療回復を早める流動食だけの日々が三日続き、何とか体を起こせるまでになった頃。

 ソフィアとゼリティアにナトゥムラ、スーギィ、マフィーリアの五人が来た。


「調子はどうかえ?」とゼリティア。


「まあ、体を起こせるくらいまで」


「なぁ…ディオス。回復したら、飲みに行こうぜ」とナトゥムラ。


「程々に…」


「いや…ホッとした」とスーギィ。


「心配をかけましたスーギィさん」


「何か、欲しいモノは無いか? 用意するぞ」とマフィーリア


「じゃあ…何か美味しい食べ物が欲しいです。流動食ばっかりだったから…」


 ナトゥムラが「一杯食って、早く治せよ」と微笑む。


 ディオスはソフィアを見る。ソフィアは怒り顔で腕を組んでいる。

「し、師匠…」


「バカ!」とソフィアは吠える。


「すいません。ご心配をお掛けして…」


「治ったら、こき使ってやるから…覚悟して置きなさいよ」


「お手柔らかに…お願いします。師匠」


 ゼリティアが「おお…そうじゃ」と手を叩くと、数名のゼリティアの執事が入って来て、ディオスの眠るベッドに、病室用の机にして本が読める譜面台を置いた。

「これなら、退屈な時に本が読めるじゃろう」

 その机譜面台には魔法陣の魔導回路が組まれている。


 ディオスはその魔法陣を見て察した。

「もしかして、これ…自動的にページを捲ってくれる…」


「そうじゃ。それと…」

 ゼリティアはパンパンと手を叩くと、何十冊と並んだ本を持った執事が入る。

「色々と面白い本をチョイスしておいた。読むとよい」


 ディオスはゼリティアに微笑み

「ありがとうゼリティア」


「ほほ…気にするな」

と、ゼリティアは何時もの高貴そうな感じの微笑む口元を扇子で隠すのであった。


 こうして、ソフィア達のお見舞いが終わり、翌日、レディアンとヴァンスボルトにレディアンの数名の部下達がお見舞いに来た。

「大丈夫かディオス?」

とレディアンが


「ええ…まだ、回復用の点滴は打たれますが…。食事は固形の普通のモノが食べられます」


「そうか…色々と回復を助けて美味しいモノを持って来た。存分に食べて回復してくれ。なにせ、ヴァシロウスを倒した英雄がいないと、色々と祝賀会が開けないからな」


「すいません。色々と気を遣って貰って」


 レディアン達のお見舞いも終わり、その次の日もお見舞いと様子見で、フェニックス町の人々が顔を見せてくれた。そのお陰で退屈はしなかった。


 ディオスが回復に向かっている最中、アーリシアの様々な人達から、回復と労う手紙と、色々な食べ物や品物が届く。


 その余りも多い量にディオスは困惑しつつ

「やべ…、後でお礼状の手紙を沢山書かないと…」

 それで手が壊れそうになる未来を案じた。


 レベッカが

「旦那様、そういうお礼状は、形式の言葉を連ねた印刷の文章を沢山作って、それに署名すればいいですから、ご心配なさらずに」


「ああ…そうか…」

 チョッとホッとしたディオス。



 一週間半後、ディオスは自力でゆっくりだが、歩けるようになって、自分で屋敷を動き、トイレを済ましたりした。

 その前までは、クレティアとクリシュナの手を借りて、何とかの介護状態から格段の進歩だ。


 そして、何時も通りの回復の点滴を受ける。この世界の点滴は点滴針を刺して点滴ではない。

 特殊な腕を巻く布が勝手に血管を見つけ、極小の蚊の針より細い点滴の液体で出来た先端を刺して、巻いた腕全体から点滴を行う凄いモノだ。

 魔法の世界、凄いと、ディオスは思った。


 更に一週間後、点滴も無くなり、飲み薬で済むようになると、殆ど回復して歩いたり、走ったりするくらい、体が楽になった。


 その日には、屋敷の前にあった医療専門の飛空挺は、撤収して、五日に一回の診察をオルディナイトの城邸で行うようになった。


 ディオスは外に出て、外の空気を吸う。

「外の空気が美味い」


 時間はまだ、午前中だ。

 そして、「ダーリン」とクレティアが呼ぶ。


 ああ…何時もの訓練の再開…と、ディオスは行く。

 だが…それは違っていた。


 クレティアとクリシュナは腕を組み仁王立ちして

「ダーリン、腕立てよーい」

 クレティアが告げる。


「え…」とディオスは困惑する。

 何時もなら素振りから始まるのに

「え、どうしてなんだ?」


 クレティアとクリシュナは笑っているが、その笑顔の奥に怖いモノをディオスは感じる。

 クレティアが淡々と

「あのね。お医者様から色々と聞いたの。ダーリンが何とか助かったのは、アタシ達が、普段から鍛えて置いたお陰だろうって」

 クリシュナが平静に

「だから、考えたの。アナタをもっとしっかりと鍛えて、今回のような事にさせないようにしようって、二人で決めたの…」


「ええ…あの…」とディオスはオドオドと怯えている。


「ほら! やる!」

 クレティアが声を張った。


「はい!」

と、ディオスは腕立てを始めた。


 クレティアとクリシュナは、心に決めていた。

 ヴァシロウスを倒した英雄の夫は、必ず同じような、もしかしたら、それ以上の事に回されるかもしれない。

 なら、再びこのような事にならないように、夫を鍛えようと鬼になった。


 ディオスはそれを察していた。

 そして、女の恐ろしさを痛感した。

 愛する者の為になら、鬼にでも悪魔にでも女はなるのだ。

 愛の為には命をかけるのが女だ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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