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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
第五次ヴァシロウス降臨

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第44話 戸惑いの英雄

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ヴァシロウスを討伐して、アーリシアは喝采、賞賛、大喝采モードだった。

そして、その英雄ディオスにもその賞賛が送られるが…。

またしても、あの男、フランドイル王ヴィルヘルムが一波乱を起こす。

 光の十字架に囚われたヴァシロウスの巨体が解放され、海に沈む。

 3500メートルの白き龍の躯体は、末端から白い魔導石化して、結晶化していく。

 横倒しで沈むヴァシロウスの魔導石化していない脇腹部分へ、数機の飛行魔導操車が着地して、ヴァシロウスの体に光の剣を刺して、抜く。

 傷つけられたそこは、再生されず、傷跡のまま魔導石化する。

「こちら、状態確認部隊。ヴァシロウスを傷つけると魔導石化します」


 それが旗艦の司令室に伝わる。

 レディアンはそれを聞いて「うむ」と肯き、次に各機関と通信する通信手を見る。

「こちら、殲滅部隊。ヴァシロウスの状態を報告してください」

 遠方にある探査機関達に連絡と取る通信手。


 司令室全体に探査機関からの連絡が入る。

『こちら、観測部隊。確認したヴァシロウスの体から急速に魔力が消失しているのを確認した。ヴァシロウスは完全に活動停止、倒されたのを確認出来る』


 レディアンは次に、全部隊と通信する通信手を見る。


 通信手は声を張って

「各部隊からの損害状況を報告します。魔導士部隊、軽微の魔導疲労者が数百名、それ以外の損耗はありません。魔導騎士及び魔導操車部隊、機器の使いすぎによる疲労以外、損害無し」


「分かった」とレディアンは告げた次に「ディオス・グレンテルは?」


 通信手がクレティアに繋ぎ

「こちらは、司令室。ディオス殿は?」


 クレティアとクリシュナは、旗艦の甲板にいた。

 クレティアは不安そうに神格炉が破壊された光が消える空を見上げ

「ダーリンが、帰ってこない…」

 クリシュナは右手を挙げて空を見る。

 右手にあるディオスと繋ぐ絆の呪印が、ディオスが動いていると示している。

「大丈夫よ…」


 司令室の通信にザザザザザザとノイズが入る。

『ああ…こちらは、ディオス・グレンテル。聞こえますか?』


「聞こえています。グレンテル様」

と、通信手が答えた。


『すまないが…とんでもない高度にいる。迎えを寄越してくれるとありがたい』


 通信手は、ディオスの通信反応を辿って、ディオスがいる位置と高度を判明させる。

「レディアン様。グレンテル様の反応を確認しました」


 レディアンは右手を前に出し

「今すぐ、迎えの部隊をグレンテルに送れ」


「はい」と通信手は、飛行魔導操車部隊に連絡を入れた。


 そして…レディアンの元へ将軍達が集まる。

「レディアン様」

「レディアン様」

「レディアン様…お声を…」


 レディアンは胸を張り

「全部隊及び、協力してくれた軍隊に通信を全開にせよ」


「はい」と通信手は命令通りにする。


 レディアンは右手の拳を掲げ

「全部隊に命令する。拳を空に掲げよ! 我らの完全勝利ぞーーーーーー」



 ヴァシロウスを倒したと言う号砲がアーリシアに響き渡る。


 アーリシアの全土、ありとあらゆる人々が、一斉に歓声を上げた。

 ワアアアアアアアアアアアアア



 ディオスは、ゆっくりと高度五十キロから降りていると、目の前のアーリシアの大陸から飛行魔導操車部隊がディオスに近付く。

 お…来てくれた!

と、喜ぶディオス。


 ディオスを囲んで部隊が位置して

「ディオス様ーーー」

 一機の魔導操車がディオスに近付き

「背にお乗りください」


「すまない」

と、ディオスはその魔導操車のケンタウロス型の背中に乗り、アーリシアへ帰還する。


 アーリシアが、部隊のある海岸に近付くにつれて、歓声が聞こえる。


 その響きがとんでもなくデカい、まだ、高度が5000メートルに関わらず聞こえる。

「え…」

と、ディオスは戸惑う。


 そう、部隊だけではない。アーリシア全土が歓声に震えているのだ。

「な…」と、ディオスはチョットだけ青くなる。



 ディオスの帰還が見えた部隊は、レディアンが

「さあーーー ヴァシロウスを倒した英雄の帰還を讃えよーーーー」


 グレンテル・グレンテル・グレンテル・グレンテル・グレンテル


 百万の部隊の全員がディオスの名前を連呼して、ディオスを迎える。


 その花道をディオスは連れられてくる。

 え!とディオスは顔が引き攣る。

 大地を震わせる歓声に包まれて、ディオスは旗艦に戻った。


 魔導操車の背から降りて、甲板に着地してもディオスを讃える歓声は止まない。

 ディオスは困惑して周囲を見回していると、クレティアとクリシュナが来て

「こっちよ。ダーリン」とクレティアは右腕を

「さあ、アナタ」とクリシュナは左腕を

 二人は持ってディオスは甲板の先端に立たせる。


グレンテル・グレンテル・グレンテル・グレンテル・グレンテル


 百万の歓声が広がっている海岸線。


 それを前にディオスは呆然としていると、クレティアが

「さあ、ダーリン」

と、ディオスの右腕を上げさせた。


 ワアアアアアアアアアアアア


 百万がありったけの声を張って歓声の沸き踊る。


 そして、グレンテルという名前を呼ぶコールの熱狂は三十分も続いた。




 やっと部隊が落ち着いて、ディオスは旗艦の甲板で補助食品の栄養ドリンクを飲んでいる。

 実は、神格炉を破壊した後から、体のあっちこっちが痛くなって来たのだ。

 旗艦にいるドクターの話では、魔法を使い過ぎると起こる魔導疲労というモノらしい。

 その回復を促す栄養ドリンクを飲んでいる。ぶっちゃけ、ウイダー○ン・ゼリーだ。

 それを飲んで渇きと飢えを凌いでいると…ナトゥムラとヴァンスボルトが来た。


「あ、ナトゥムラさん、ヴァンスボルトさん」

 ディオスは手を上げると、ナトゥムラがその右手を取り自分の腕とディオスの腕を絡め交差させると

「ディオス、いいや…ヴァシロウスを倒した英雄よ。ここに誓う、オレは終生まえでお前の親友だ。お前が困った時や、ピンチの時は必ず駆け付ける。アーリシアの大恩人よ」


「ええええ」とディオスは仰け反って驚く。

 そんなオーバーな…。

 困惑してディオスは離れると。

 

 ヴァンスボルトがディオスの手を取り、両手で握手して

「ディオス殿、いや…グレンテル様。感謝、感謝を申し上げます。汝がいなかったら、アーリシアはヴァシロウスによって滅んでいた。息子のいう通り、貴方様はアーリシアの大恩人です」

 ヴァンスボルトが本気の男泣きをすると、それに引っ張れてナトゥムラも涙した。


 ひょえええええええええ

 ディオスは内心ビビりまくっていた。

 だが、奇しくも仏頂面の所為で、堅くなった顔が、強く受け止めているように見えた。 

 そして、周りにいた兵士達も、同じく涙を溢れさせ、腕で拭っていた。

 ディオスは顔を引き攣らせる。

 何? この状況? ええええ?

 ディオスは頭を震わせながら

「そんな、いいですよ。自分はアーリシアに生きる同じ仲間ですから」

 周りの感激による涙の広がりは止まらない。


 それが十分続いた後、ディオスは外部と連絡が取れる通信ルームに来る。

 そこは、自分の無事とヴァシロウスが倒された事を家族や仲間に伝える人々でごった返していた。

 数分後、やっとディオスは通信機の前に、繋げた場所は、屋敷である。


 数回のコール後。

『はい! グレンテル邸です!』

と、元気なユーリの声が受話器にした。


「あ、ユーリ。ディオスだ」


『だ、旦那様ーーーーーー』

 ユーリの喜ぶ声。


「聞いてくれ、ユーリ。約束通りヴァシロウスを倒したぞ」

 ニッコリと笑うディオス。


『はい…はい…旦那様は、私達の誇りです!』


「そんなオーバーな」


『だって、見ていたんですよ。旦那様がとんでもない魔法でヴァシロウスを圧倒する様をーーーー』


「へ? はぁ?」


 そう、ディオスは、今回の事がアーリシア全土に生放送されていた事を一切しらない。


「え、ユーリ…それ…どういう事?」


 そこへ、あの獣人のレポーター娘が魔導映像機を抱えたスタッフと共にディオスのそばに駆け付け

「見つけました! ヴァシロウスを倒した英雄、ディオス・グレンテル様でーす」


 カタカタとディオスは硬く首をレポーター達に向ける。

『あ、今…旦那様が映っています』

と、受話器越しにユーリの声。


 そう、ディオスは全てを理解した。自分のやった事が、全世界放映されていた事を。

 ウソだろうーーーーーーーーーー

 ディオスは真っ青になる。


 そんなディオスにレポーターがマイクを向け

「ディオス・グレンテル様! 何か、一言を…」


 ディオスは、固まった後、無難にこなそう…と思い

「ええ…皆さん、ヴァシロウスは倒されました。まずは、ヴァシロウスによって犠牲になった人達に思いをはせましょう。そして、倒すのに協力してくれた全ての皆様。ありがとうございます。そして…これから来る、ヴァシロウスのいない未来を、明日を噛み締めていきましょう」

 よし、無難だった。と自分で思うディオス。


「ありがとうございますーーーー」

 レポーター達はお礼を言って、何処かへ消えた。


 受話器越しのユーリ

「旦那様ーーー 最高にかっこいいですーー」


「ああ…じゃあ、帰ったらな」


『はい、お待ちしています』


 ディオスは、通信を切った後、頭を抱えてその場から離れる。

 ヤバい! ヤバい! ヤバいーーーーーーーー

 そんな、全世界放送なんて聞いていないぞーーーーー

 だって、これ軍事活動だろう? なんで、放映するんだよーーーーー

 

 その肩にクレティアが手を置く。

「あ、クレティア…」

と、ディオスは後ろにいるクレティアに振り向く。隣にはクリシュナもいる。


 クレティアが小型通信機を左手に

「ねぇ…ダーリン、フィリティ陛下から…」


 それをディオスに渡して、ディオスは耳に当てると

「どうも…陛下…」


『ディオスさんディオスさんディオスさんディオスさーーーーーーーーん』

 もの凄く興奮しているフィリティが出た。


「陛下…落ち着いてください…」

 


 フィリティの熱烈な感謝と感激を聞いたディオスは、通信機を切った後、壁に額を当て

「早く、バルストランの屋敷に帰りたい…」

 そうぼやいた。


 クレティアとクリシュナは苦笑いをする。

 そう、ディオスはこういう派手な事が苦手なのを分かっているからだ。


 ディオス達を乗せた旗艦は、準備をしていた本陣へ着陸する。

 下部ハッチからディオスとクレティアにクリシュナは、他の兵士達と共に降りると

「ディオスさん!」

 降りたそこにヴィアンドを持ったゴールドクラス達がいた。

 ゴールドクラス達が皆、ディオスに頭を下げ

「ありがとうございましたーーーー」


 ディオスは

「いやいや…いいですから…」

 焦ってゴールドクラス達に近付き、肩を持つ。


 頭を上げたゴールドクラス達は、ディオスから渡されたヴィアンドを掲げ

「これ、凄い装備です。これがあったから…オレ達は…」


 ディオスは微笑み

「それ、皆さんにあげます」


 ゴールドクラス達は顔を輝かせ

「いいんですかーーーー」


「ええ…使ってやってください」とディオスは頷く。


「やったーーーーーー」


「これ、ウチの家宝にするんだーーーー」


「うっしゃーーーーーー」


 歓喜して喜ぶゴールドクラス達であった。


 ディオス達は、纏っている装備を外す所に来る。

 全身魔導鎧を固定具に止めて、外して脱ぐと、そこにゼリティアとソフィアが来た。

「ああ…師匠、ゼリティア」

 ディオスは二人の前に来ると


 ゼリティアが

「ありがとうな…ディオス」

と、柔らかく微笑み涙を零した。


 ディオスは微笑み

「いいんだ。当然の事をしたまでさ」


 ソフィアは腕を組み偉そうな態度で

「全く本当に倒すなんて…まあ、今回だけは、褒めてあげるから」


 ツンな態度のソフィアにディオスが

「その…二人に謝らなければならない事がある」


「え…」とゼリティア


「何…」とソフィア


 戸惑いの顔を向ける二人に、ディオスは残念そうな顔で

「ヴァシロウスの肉で、寿司と天ぷらを作って振る舞ってやるっていったのだが…。聞いたら、ヴァシロウスは、魔導石化して、しかも、魔導石化するなら魔物を同じだから、その肉は毒があるらしい。すまない。作ってやれない」


 ゼリティアとソフィアはキョトンとした後。


「バカ!」とソフィアは殴りかかる。


 ゼリティアは「フフ…」と呆れた笑みを見せた。


 ヤベ…とディオスは、ソフィアのパンチを避けようとしたが、ソフィアはパンチではなく、ディオスに抱き付いて

「本当にバカなんだから…」


 ディオスは、その背を優しく撫でた。


 そして「じゃあ」とソフィアは離れて

「また後で会いましょう」


「ああ…後で…」

 ディオスはソフィアに送ると


 ゼリティアが

「では、ディオス。バルストランでな…」


「ああ…」

と、ディオスはゼリティアに手を振った。



 その後、クレティアとクリシュナに合流して、帰る事にする。

 いや…マジ、帰ろう。もの凄く嫌な予感しかしない。

 そう、思いつつディオスは、近くにある魔導タクシーが取れる場所に来ると、そこにレディアンがいた。

「おお…待っていたぞ」

 レディアンが、ディオス達に呼び掛ける。


 ディオスがレディアンに

「何を待っていたのですか?」

と、問うとレディアンはディオス達を指さし

「お前達をだ…」


 ディオスは顔を引き攣らせ

「え…どうして…?」


 レディアンは一台の魔導車を指さす。

「アレでお前達を運ぶ為だ」


 その示された魔導車は、黒塗りの高級車で、屋根が無いオープンカーだ。それは、国賓としてきた王族が人々に顔を見せて移動するそれだった。


 ディオスは顔を引き攣らせた。

 え…まさか…。



 そのまさかだった。

 オープンカーに乗せられたディオスとクレティアにクリシュナの三人は、近くにある港都市リンスを凱旋する。

 ディオス達の前後に、魔導操車の部隊が並び、道を進む。

 ディオス達を乗せた凱旋魔導車は、人、人、人と人で埋め尽くされた街の大通りをゆっくりと進む。

 街の人々が我も我もとディオス達に手を振り、グレンテル・グレンテル・グレンテルと歓声を上げている。

 ディオスは顔を真っ青にさせて顔を引き攣らせる。


 両脇にいるクレティアとクリシュナは、形だけの笑みをして歓声を上げる人達に手を振る。


 固まるディオスに、クリシュナとクレティアが小突き

「ダーリン、笑う」

「アナタ、手を振って」

 ディオスは硬い笑みで手を上げて、言われるままに手を振った。

 どうしよう…もう…どうも出来ない…。



 ディオス達の凱旋は、リンスの街にある王城まで続き、王城の門を潜ると、ラッパの音が響き渡る。

 そう、王城の中庭には、周辺から集まった王族、貴族達がディオス達を拍手と歓声で迎える。

「ダーリン」

「アナタ…」

 クレティアとクリシュナは、ディオスの両腕を取って、オープンカーから降りた。


 ディオスは、目を見開き、豆鉄砲をくらった鳩状態である。


 そして、兵士達が並ぶ巨大会場で、アーリシア十二国王達を前に、ヴァシロウス討伐に対する勲章の授与が始まった。

 まず、始めに殲滅部隊を指揮した総大将レディアンに、十二国王達を代表してエルフの王ノヴァリアがメダルと、勲章を授ける。

 アーリシア大陸勲章だ。


 ディオスは、それを並ぶ兵士達に混ざって見つめる。その心の中は

 呼ばれませんように、呼ばれませんように、呼ばれませんように

 祈ったが、虚しかった。


「ディオス・グレンテル殿」

 呼ばれてビックとディオスの背が震える。


 その背を、後ろにいたクレティアとクリシュナがつつき

「ダーリン、早く…」

「アナタ、番よ」


 ディオスは肯き、ビクビクしながら兵士達の間を進んで、勲章授与場所へ向かう。


 そこは、十二国の王達全員が並んでいる。

 その中心にディオスは跪く。


 ノヴァリアスが

「ディオス・グレンテル…」


「はい…」とディオスはビクビクして答える。


「汝の活躍、素晴らしかった。まさに伝説に残る程の戦いであったぞ」


「そんな…大げさです」


「いいや、大げさではない。真実だ。汝は、アーリシアの大恩人であり、英雄だ。汝の名は未来永劫、アーリシアの歴史に刻まれるであろう」


「いや、過大評価です」

 ディオスは謙遜すると


「いいや」とフランドイル王ヴィルヘルムが出た。

「お前の活躍は、伝説級だ。誰しもが憧れる雄志と、力を示し、偉大な功績を立てた」


 ディオスを褒めちぎる。

「はぁ…」とディオスは、その褒めちぎりが怪しくて素直に喜べない。


 ヴィルヘルムが、跪くディオスの前に来て、ディオスの上から言う。

「だから、汝の功績に対して、私は褒美を授けたいと思う」


 ドヨドヨ…と会場が響めく。


 並んでいたソフィアが

「フランドイル王…その、褒美は…私の方で…」


 それにヴィルヘルムは手を向け止め、そう…野獣のような笑みを浮かべ

「ディオス・グレンテル…。汝に、我がフランドイル国内で領地を用意する。汝は、明日から我が国の貴族だ」


 ザワザワする会場。

 どういう事だ? 何故だ? いや…まあ…その位は…? こんなの前代未聞だぞ。

 

 この世界で貴族になるには、貴族としての繋がりが必要だ。

 お金持ちが簡単に貴族になれる訳では無い。

 貴族の始まり、古くからある貴族の主筋から、婿、または、嫁を貰い、貴族の繋がりを作る。

 だが、貴族の嫁や婿を貰ったとしても、その相手は貴族ではない準貴族という、貴族に近い平民となるだけ。

 その結ばれた後の息子か娘が貴族として扱われる。

 一代で資産を築いた平民が、次に欲しがるのが貴族の位だ。

 だから、貴族からの血筋を欲しがるが、そう簡単に手に入る事はない。

 貴族とお近づきになるには、それ相応の社会的貢献という事を積み重ねる必要がある。

 その積み重ねが三代続いて、やっと貴族から婿入りか嫁入りの資格を得るのだ。

 その厳格な慣習を無視して、ヴィルヘルムは、自国の貴族としてディオスを迎え入れようとしていた。


 ソフィアは驚き

「フランドイル王…そんな、突然の事。皆が認める事を出来ません」

 止めようとするソフィア。


「ほう…」とヴィルヘルムはソフィアを横見した後

「では、今、問おう…異議のある者は?」


 会場が静まりかえった。


 ディオスは内心で、え!と驚愕する。


 兵士達も、王達も何も告げない。


 皆が思っている事はこうだ。

 ヴァシロウスを倒した英雄が、アーリシアの為に働いて欲しい。

 平民のままだと、何処かの他国や組織に引っ張られてしまう。

 なら…貴族にしてしまえば…アーリシアにいる事になる。

 誰も文句なんて言わない。

 なにせ、アーリシアを四度に渡って絶望に落としたヴァシロウスを退治した英雄だから…当然の褒美だ。


「うそ…」とソフィアは驚きを告げる。


 ディオスは、額から脂汗を吹き出し

 チョット待ってよ。

 それじゃあ、バルストランに帰れなくなるぞーーー ふざけんなよーー オレは、あの穏やかな屋敷での生活の方がいいんだーーーーー

「恐れながら!」

と、叫ぶ跪くディオス。


 全員の視線が注目する。


「恐れながら、ヴィルヘルム陛下…。自分は、名誉や勲章を辞退したいと思います」


 ザワザワ、なんだと! どういう事だ! 前代未聞だぞ! 様々な声が会場から放たれる。


「ほう…」とヴィルヘルムは唸り「では、お主の為に、用意させた全てを否定するとな…。ここにいる者達全ての顔に泥を塗るつもりか?」

 嫌な言い方をするヴィルヘルム。


 ディオスは

「いいえ、違います。辞退するくらいの大それたお願いを申し上げます」


「はぁ?」とヴィルヘルムは眉間を寄せる。


「その…自分が十二国会議の時に、ヴィルヘルム陛下に提案したアーリシアを纏める五つの提案を憶えていますでしょうか…」


 ヴィルヘルムはハッとした後、眉間を寄せ

「まさか…」


「はい、それを叶えて頂きたくお願いします。ヴァシロウスがいなくなった後、アーリシアには真の平和が必要です。ですから…お願いします。あの五つの提案を、叶えて欲しいのであります」

 そう、ディオスは、絶対無理な五つの提案を叶えて欲しいと十二国王達に告げた。


 おおおおお! 兵士達は唸った。

 なんと、そこまで、お考えか…。

 素晴らしい。素晴らし過ぎますぞ…。

 いや…流石、英雄。考える事が我らとは違う。


 そんな褒めちぎる声が兵士達から漏れる。

 


 だが…ディオスの考えは違った。そう、逃げだ。ヴィルヘルムの無理矢理の引き抜きから逃げる為の、無謀な事を言った。


 その考えを、クレティアとクリシュナは察していた。

 二人は呆れた笑みを浮かべいた。


 ヴィルヘルムが跪くディオスを凝視していると、ノヴァリアスが

「ヴィルヘルム殿…これは、考えねばなりませんな…」


 ノヴァリアスはディオスの前に来て

「ディオス・グレンテル…汝の考え、よーく分かった。その願い、直ぐには叶えられないが…、暫し、時間をくれ。我らで話し合ってみようぞ」


「ありがとうございます!」

 ディオスは声を張った。

 はぁ…助かった…。


 ソフィアは、ヴィルヘルムの事の通りにならなくてホッとした。


 その後、滞りなく式典は終わり、魔導車タクシーにて宿屋に帰って来る。

「はぁ…終わった…」

 ディオスは軽く燃え尽きていた。


「ダーリン…ほら、休めるよ」

 クレティアがディオスを引いて宿屋に入れる。


「ああ…うん」

と、ディオスはクレティアに連れられ、クリシュナも続く。


 宿屋の一階のレストランには、帽子を取って俯く人達がいた。


 それに驚き、ディオスは背筋を伸ばした。

「な、何ですか?」


 俯く人達が恐る恐る。

「その…すまなかった。アンタの事をバカにして…。本当にオレ達が悪かった」

 全員がディオスに向かって頭を下げて謝罪する。

 そう、ヴァシロウスを倒すと宣言した時に、バカにした客だった。


 ディオスはフッと笑み

「いいですよ。許します。だから…最後の晩餐じゃあなく。明日が来る事を祝う祝賀会をしてください」


 全員が目を潤ませ

「ありがとうございまーーーす」

 感謝の声を張った。


 その後、レストランはヴァシロウス討伐祝賀ムードになって、華やかになる。


 ディオスはカウンターに来ると、女将が

「はいよ…特製の味噌スープだよ!」


 ディオスの前にロブスターや豪華な魚の頭が入った味噌汁が来た。

「おお…豪勢ですね」

と、ディオスは味噌汁を口にする。

 すげー海鮮の出汁が効いて、めちゃくちゃ美味かった。

「うめぇ…」とディオスは告げる。


 女将が

「ありがとうよ。アンタは、旦那の仇と、今回のヴァシロウス討伐に加わっていた息子の命を救ってくれた恩人だ。一杯、食べておくれ」

 その目には嬉し涙があった。


「ははは…」とディオスは微笑む。

 女将の感謝の言葉が何よりの勲章だった。

 

 そこへ、大量の魔導騎士達が入ってくる。


 な、なんだ?とディオスが戸惑っていると、魔導騎士達が、ディオスの前に跪き

「ディオス・グレンテル様。アーリシアをこの町を守って頂き、感謝を申し上げます」

 そう、この街を守る魔導騎士達だった。


 ディオスは困惑を浮かべ

「いいですよ。もう、色々とお腹いっぱいですから。ねぇ…みなさん、顔を上げてください」

 魔導騎士達は、立ち上がり


「さあーーーー 神輿だ神輿ーーー」

 ディオスの手を取って引っ張る。


「ええええ…」

 ディオスの両隣にいたクレティアとクリシュナ達も、引かれて外に出ると、魔導騎士達が騎馬戦の馬になって、ディオスとクレティアにクリシュナの三人を乗せて


「さあーーー ヴァシロウスの英雄の行進だーーーー」

 なんと、外にはもっと沢山の魔導騎士達がいて

 バンザーイ バンザーイ バンザーイ

と、バンザイの掛け声をしてディオスを達を神輿にして、街を練り歩く。それに街の人々が加わって巨大なお祭り騒ぎになった。


 ディオスは神輿に揺られて

 ああ! ああああ! ああああああ!

 お手上げ状態だった。


 クレティアとクリシュナは笑っていた。


 その後、何とかお祭り騒ぎの収まり、帰れる事となって、ディオス達はバルストランに帰国する。

「体、痛い…」

 ディオスは、魔導疲労で、あっちこっちが痛い。

 でも、気が抜けない。もしかしたら…バルストランでも、同じような…。

 空港を潜ると、そこには至って普通の何時もの風景だ。

 それにディオスは、ホッとして力が抜けた。

「良かった…」

 そんな感じで気が抜けたのか、ちょっと熱っぽくなる。

 疲れがでたなぁ…。

 

 何時も通りに魔導タクシーを取って、屋敷に向かう。

 ディオスの元気のない様子に、クレティアが

「どうしたのダーリン?」


「ああ…安心したら、疲れが…」


 クリシュナが

「じゃあ、ゆっくり休まないとねぇ」


「ああ…」とディオスは頷いた。



 そして、屋敷にあの大好きで穏やかな場所に帰ってきた。

「ただいま…」

 ディオスがドアを潜ると


「おかえりなさいませーーーー」

 ユーリがもう、それはそれは嬉しすぎて大きな声を張った。


「ああ…ただい」

 ディオスはガクッと意識が奪われた。


 それをクレティアとクリシュナは、抱き抱える。

「ダーリン? ダーリン!」

 ディオスを呼ぶクレティア、クリシュナはディオスの後頭部の首を触る。

「何コレ、凄い熱…」


 そこへ、レベッカが来て

「おかえり」

 ディオスが抱えられている様子に驚き

「旦那様ーーーーー」


 クリシュナが

「医者を呼んでーーーー」


 そこへ、広間にある魔導通信機のベルが鳴る。それをユーリが取り

「申し訳ありません。お取り込み中なので後で連絡します」


 通信したのゼリティアだった。

「ああ…オルディナイトのゼリティアじゃ。どうした? 何があった?」


「旦那様が、旦那様がーーー」

 ゼリティアはユーリからディオスが倒れたと聞くや否や

「分かった。ウチの医師達を大至急、寄越す。待っておれーー」


 数分後の広間では、ゼリティアが連絡して寄越す医師を待ち、ディオスがクレティアとクリシュナの二人に抱えられている。


 ディオスは、はぁはぁはぁと呼吸が苦しそうだった。


「ダーリン。ダーリン!」とクレティアが必死に呼び掛ける。

 クリシュナは歯痒くて悔しい顔をしている。

 

 そこに、屋敷の上空から小型飛空挺が降り立つ。

 それはゼリティアが手配した移動する医療施設だった。

 そこから、人族の男性、魔族とオーガ族の女性二人の三人の医師と、十名近い看護師達が飛び出て、急いでディオスを担架に乗せて、最新の医療機器が揃った医療飛空挺へ運ぶ。

 直ぐに、ディオスは、集中治療装置に入れられ、治療が始まった。


 その傍で、クレティアとクリシュナが祈るように手を合わせて、ディオスが入った装置を見つめていた。

「ダーリン…」

「アナタ…」

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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