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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
第五次ヴァシロウス降臨

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第43話 ヴァシロウスの英雄

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ヴァシロウスの降臨によってアーリシア全土は絶望していた。

全ては破滅すると、誰しもが思っていた。

だが、今は違った。そう…ディオス・グレンテルがいるのだ。

ディオスとヴァシロウスの壮絶な戦いが始まった。


長編になってしまったので、BGMなどを聞いて読んでください。

お奨めBGMは JAM Project TRANSFORMERS EVO です。

 ヴァシロウス復活まで二日。

 ディオス達は、迎え撃つ部隊が置かれる海岸がある港都市リンスに到着した。

 

 昼の最中の港都市リンスは大混乱だった。

 ヴァシロウスが復活した場合、真っ先に狙われるここは、それから逃れる為に、逃げ支度をする人々で溢れかえっていた。


 ディオスは、飛空挺で説明は聞いていた。

 殆どの大型宿泊施設は、閉鎖され、止まる場所なんてない。

 用意が出来ないので、ヴァシロウスを迎える部隊が展開する所を宿泊地にするか、自前で何とか探すしかない。


 ディオスは、一応、リンスの街道を進み、止まれそうな場所を探すが、どの宿屋も、逃げ惑う人々で溢れている。


 ディオスは、両脇にクレティアとクリシュナを連れている。これ以上は無駄か…。

 そう思って部隊の宿泊地で泊まろうと考えたが…。不意に、誰も溢れていないレストラン兼宿屋の店を見つけた。


 そこを潜るディオス達

「こんにちは…」


 店の一階であるレストランには、数人の人達が静かにテーブルに座っていた。


 その合間を進むディオス達。

「よう…あんた達も最後の一杯を楽しみに来たのか?」

 酔っ払いの男性がディオス達に呼び掛ける。


「最後の一杯?」

と、ディオスは首を傾げる。


「へへ…」と酔っ払いの男は笑い「もう…終わりさ、みんな…ヴァシロウスにやられるんだ…。最後までの間、好きな酒を飲んで死にたいよ」


 ディオスはフッと笑う。


 そう、このレストランにいる客が皆、この酔っ払いと同じ考えで、最後の晩餐をしていた。


 ディオスは、カウンターに来ると、恰幅のいい女将がいた。

「アンタも、最後の晩餐をしに来たのかい?」

と、尋ねる女将。


 ディオスは平然と

「ここは、宿としてやっているのか?」


 女将は首を傾げ

「どこも空いているよ。みんな…逃げたからさ」


「女将は逃げないのか?」


「逃げる。アタシは、ここから動かないよ。ここが最後の地なんだ。死ぬならここで死ぬ」


「そうか…」

と、ディオスはカウンターの席に座り、クレティアとクリシュナもディオスの両脇に座る。


 ディオスが

「なぁ…何か、スープでも何でもいいから、軽めの料理をくれないか?」


「はいよ」と女将はスープをディオス達に振る舞う。


 ディオスは、そのスープに驚く。香り、色、そう…味噌汁だった。

「女将さんこれ…」


「ああ…アタシは極東の曙光国の出身でね。そこの郷土料理、ミソスープさ」


 ディオスは嬉しそうな顔をして

「そうか…まさか、味噌汁が食べられるなんて」


 ディオスはミソスープを口にする。懐かしい味だ。

 地球の日本であった味噌汁そのモノだ。一気にディオスはミソスープを飲み干し

「ありがとう女将さん。お代は…」


「いらないよ。どうせ死ぬんだし…」


「そうか…」

 ディオスは荷物を掲げ

「ここで宿を取りたい」


 女将は訝しい顔をして

「はぁ? 宿? なんで」


「泊まる場所がないんだ。いいだろう」


「フ…全部、ヴァシロウスに壊されるのに?」


「いいや、そんな事にはならない。ああ…そうだ。この味噌汁のお代は、ヴァシロウスを退治するという事でどうだ?」


 女将はキョトンとする。


 それを聞いていた客達は「はぁはははははははは」と大笑いする。

「バカじゃあねぇのーーー あんなバケモノに敵う訳ないだろうが…」

「この世の終わりが来たから、頭がおかしくなったんじゃあねぇの?」

 みんな、バカにする。


 ディオスは後ろの席にいる客達に、自信の笑みを向け

「その言葉…後悔する事になるぞ」


 客達は「ははははははははーーーー」と腹を抱えてディオスをバカにする。 


 誰しも、ヴァシロウスに勝てる訳ないと、絶望していた。


 ディオスは静かに

「女将さん。部屋を貸してくれ…」


 女将はフ…と呆れ「好きにしな…」と部屋の鍵を渡す。


 それを受け取って、クレティアとクリシュナを連れて二階の宿部屋に上がるディオス。

 衣類やその他を置いて、装備だけを持ち出す。



 ディオス達が、宿から出る時に

「おい、ヴァシロウスを倒してくれるんだろう。ええ…」

 酔っ払いがディオスに嘲笑いを向ける。


 ディオスは、横見して

「ああ…だから、終わった後の勝利の美酒の為に、禁酒して置いた方がいいぞ」


「はぁ…」と酔っ払いは呆れ、酒の瓶を口にしてラッパ飲みした。




 ディオス達は、ヴァシロウスを迎撃する部隊が展開する海岸に来る。

 総勢百万の部隊だ。

 何十万機という魔導操車と、何万人という魔導士達が力を結集させ魔法を発動される陣が大量に置かれる。

 その本陣へ向かう。そこに大型戦艦飛空挺があった。

 そう、大地に置かれた本陣が潰れる事を想定して、移動する本陣として戦艦飛空挺が機能する。

 その旗艦へ、ディオス達は上がる。


 最高責任者がいる司令室のその一番の席でレディアンは座って目を閉じている。

「レディアン様…」

と、ディオスは呼び掛ける。


「ああ…来たか…」

 レディアンは目を開ける。


「どのような状態で?」


「順調だ。明日には全て整う。ヴァシロウス防衛部隊という、囮がなぁ」


 ディオスはフゥ…と呆れて

「指揮する将が、弱気でどうするんですか?」


 レディアンはディオスを見つめ

「弱気? 現実的な見解だと思うがなぁ」


「そうですか…。まあ、その見解が間違いだと気付くでしょうが…」


「フン。高慢な…まあ…お前の活躍、期待している」


「まあ…見ていてください」

 


 ディオス達は、旗艦から降りると「ディオスさんーーーー」と呼び掛けて近付く十人がいた。

 ディオスは、その十人を見て直ぐに誰か分かった。

 リーレシアの冒険ギルドで仕事をしたゴールドクラスの冒険者達だ。


 魔導士や戦士が混ざるゴールドクラス達は、ディオス達に近付き

「ディオスさん達も戦うんですか?」


「ああ…」

と、ディオスは頷き


「皆さんは?」


 ゴールドクラス達は腕を掲げ

「オレ達も戦う為に来ました。志願兵です」


「いいんですか?」


「いいんです。オレ達は、これが宿命なんですから…」


「え…」と困惑をディオスは見せる。


「ディオスさん。オレ達、アーリシアから逃げた貴族の出なんです。十七年前に、親がオレ達が子供の頃に、ヴァシロウスから逃れる為に、逃げ出した貴族達。恥知らずなんです」


「みなさん…」


「だから、これは宿命なんです。オレ等、みんなこれで戦って親の恥辱を払拭するんです。それが…オレ達の戦いです」


 ここにいるゴールドクラス達は、みんな死ぬ覚悟をして参加しているのだ。


 ディオスは持って来た荷物を開ける。


 その中身は十機のヴィアンドだった。

「みなさん。これを使ってください」

 ディオスは、一機一機を十人に渡す。


「何ですかこれ?」


「グランスヴァイン級の攻撃を完全に防ぐ事が出来る、防護シールドを前面に展開する魔導具ヴィアンドです」


「え…マジで」と驚くゴールドクラス達。


「それで、ヴァシロウスの攻撃から、部隊を守ってください。つまり…盾になるという事です。危険も伴いますが…」


 ゴールドクラス達は、ディオスに微笑み

「ありがとうございます。これで…武勲を立てて見せますよ」


 十二機あったヴィアンドは、二機はクレティアとクリシュナに、残り十機はゴールドクラスの冒険者達に渡った。




 ディオス達は次に、後方支援の本陣に来る。そこはオルディナイトの土壇場だった。

 オルディナイト財団が、総力を持ってこの部隊を支援している。

 その中心にディオス達は来ると、ゼリティアがいた。ゼリティアは様々な指示を部下達に送っている。


 そこへ、ディオス達が近付くと、ゼリティアは駆け付けディオスの手を取る。

「待っていたぞ。こっちじゃ」

 ディオスを引っ張り、ディオスが頼んだ魔導士用の魔導鎧と、両脇には別の魔導鎧が二機置かれている。


「これは?」とディオスがゼリティアを見る。


「クリシュナ殿とクレティア殿の魔導鎧じゃ。ついでに用意して置いたぞ」


「ああ…」

 用意して来た武装が無駄になった。


 クレティアとクリシュナの魔導鎧は一体式ではない部分型だった。なので、左腕に装備するヴィアンドを付けたまま、クレティアとクリシュナは試着する。


「うぁ…軽…」とクレティアは告げる。


 ゼリティアは扇子で指さし

「当然じゃ、質量をゼロにするエンチャン系魔導金属が使われておるからのぉ」


 そこへ、ソフィアも来た。

「ゼリティア…どう?」


 ソフィアは、魔導鎧を試着するディオス達を見つけた。

「来たんだ…」

 ソフィアは、まるで来た事に残念そうな感じだ。


「ああ…」とディオスは頷く。


 ソフィアはディオスに来て

「なんで、逃げなかったのよ…」


「逃げる必要は無い」


「……どんな事があっても生き残りなさいよ。クレティア、クリシュナ…ディオスをお願い…」


 クレティアは「任せて」と、クリシュナは「ええ…」と、頷いて答えた。


 ソフィアは涙する顔をディオスに向け

「いい…本当に、生きてアタシの前に…」


 もう、どう言えばいいか分からない感情に溢れて涙するソフィアの頬をディオスは撫で

「ソフィア、ヴァシロウスの肉で寿司と天ぷらをしよう」


「はあぁ?」とソフィアは唸る。


「オレの故郷にある郷土料理みたいなモノでな、上手いぞ」


「もう…バカ…」

 ディオスの胸に額を置くソフィア。


「大丈夫だ。ソフィア…絶対のヴァシロウスを倒す。心配するな」

 ディオスはその頭を優しく撫でた。




 ヴァシロウスを迎撃する全ての準備が整う。


 ヴァシロウス復活当日。

 その日は、綺麗な青空が広がる晴天の早朝だった。


 ヴァシロウスが、潜む海底から二十キロ先の海岸は遠距離魔導砲を装備した魔導操車の大軍勢で埋め尽くされている。

 その上空に戦艦飛空挺が五十艦も浮かんでいる。

 その戦艦飛空挺全てに魔導士達が待機している。大規模攻撃魔法を展開させる為に…。


 そして、その周囲には数十万機の空を飛ぶ重装備装甲の魔導騎士と魔導操車がいた。

 オルディナイト財団の総力を結集させて、飛行ユニットを装備した攻撃部隊だ。


 その様子を、海岸より百キロ離れた地下、巨大シェルター施設で見守る、十二国の王達と部下達、巨大な会議室の画面で、ソフィアはバルストラン国の席で祈っている。

 みんなが無事でありますように。

 その隣にゼリティアもいた。ゼリティアはギュッとディオスから貰った扇子を握り締めてディオスの無事を祈り続ける。


 そして、その模様はアーリシア全土と、その周辺、ロマリア、トルキアと周辺国、アフーリアのレオルトスを含むアーリシア近隣の国々に放送されていた。


 獣人のレポーターが

「今、まさに、ヴァシロウスを迎え撃つ為に、部隊が待機しています」

 その放送を、ディオスの屋敷の魔導投影機にて見守る、レベッカとユーリにチズ、そして…そこに数十名の子供と女性達がいた。

 そう、ディオスの屋敷には、頑丈な地下研究室がある。もしもの場合はそこへ逃げ込むようにした。フェニックス町の住人だ。


 ユーリは「旦那様…」と祈っていた。




 レディアンは旗艦の司令室にいる。

 通信している部下達に囲まれ、両脇には、レディアンに続いたヴォルドル家出身の老齢な将軍がいた。

 その将軍がフッと笑み

「レディアン様…こんな時に不躾ですが…」


「なんだ?」とレディアンは聞く。


「数日前に、夢にヴァシロウスによって失った息子が出てきたのです。夢の中の息子がこう言っていました。父さん、もう…大丈夫だよ…と、そして…光に包まれた後、隣を黒髪の黒い鎧を纏った魔導士と、両脇を黒髪に長髪、金髪で一括りに纏めた女戦士達が、通り過ぎました。その三人が閃光の向こうにいたヴァシロウスに立ち向かう夢を見ました」


「そうか…いるかもなぁ…その戦士がここに」


「そうですなぁ」




 ディオスは、旗艦の甲板にいた。

 ディオスの装備は、オルディナイト製の漆黒の魔導鎧だ。

 飛行及び、防護シールドと多機能の魔導鎧。


 その両脇をヴィアンドを左腕に装備して、同じくオルディナイト製の特注戦士用魔導鎧に身を包むクレティアとクリシュナが立っていた。


 その後ろ姿を見つめる旗艦の兵士、その人物も肉親をヴァシロウスで亡くしてした。

 そして、将軍と同じ夢を見ていた。

 ヴァシロウスへ挑もうとするディオス達の姿が、夢で見た三人の戦士そのモノに見えて戸惑っていた。


 ディオスは静かに腕を組み、朝が来る。

 さあ…来い…。今度こそ、お前の終わりだ。

 脳裏には、ヴァシロウスによって悲しんでいた。仲間や友、ソフィアとゼリティアの姿過ぎる。

 そして、自分に倒して欲しいと頼んできた亡き者達が過ぎる。


 両脇にいるクレティアとクリシュナには、全くの恐怖なんてなかった。

 寧ろ、これから見せる夫の凄まじい何かを見れると思ってワクワクして武者震いしていた。


 それは唐突に始まった。海が爆発した。

 二十キロ遠方に、巨大な天を貫く背びれが出現する。

 そう、ヴァシロウスが目覚めたのだ。


 先行していた偵察飛行魔導操車が、海上に現れた巨大背びれに近付く。

「魔導探査魔導発動、データを送ります」


 それが旗艦の司令室に転送され、ヴァシロウスの全貌が報告される。

「各機関によるヴァシロウスの観測結果を報告します。

 全長 3500メートル

 魔力数値、計測不能。前回の魔力数値を遙かに超えています。

 最大胴体幅、500メートル、背びれを合わせると最大幅2000メートル」


 レディアンは、座っていた司令席から立ち上がり

「全軍に次ぐ。これより、ヴァシロウスを迎え撃つ。砲撃よーい」



 ヴァシロウス防衛部隊から三十キロ先の海上が爆発した。

 巨大ないや…それは山脈だった。

 白光と輝く山脈に等しい、巨大躯体を天へ伸ばす白き龍の怪物。

 頭部は、鋭い牙が揃った顎門、巨大な躯の何倍もある背びれ、四対の巨大なヒレ。

 四つの金色に輝く獣眼をヴァシロウスは輝かせる。

 その顎門にはまるで嘲笑いが浮かんでいるように見える。


 ゴオオオオオオオオオオ

 

 衝撃波の雄叫びが響き渡り、天まで届いた顎門は、雲を吹き飛ばした。

 誰しもが、これから蹂躙する光景しか浮かばなかった。だが…。


 ディオスは全力で、旗艦の甲板を疾走し、咆吼を放ったヴァシロウスへ向かい。

 空へ飛び出し、魔導鎧が飛行をアシストする。

 ディオスは、瞬間移動のベクトを連続使用しながら、吠えるヴァシロウスへ最高の初手を叩き込んだ。

”グランスヴァイン・オルレイン”

 それは熱核魔法という大規模破壊魔法の連続発射だった。

 ディオスは、グランスヴァイン・オルレインの魔法陣に包まれ、前にした両手から光線を発射し続ける。

 グランスヴァインの攻撃がヴァシロウスの胴体に衝突、直径二キロの熱核魔法が爆ぜた。


 ギャアアアアアアア


 ヴァシロウスが悲鳴を上げた。

 それで終わりではない。

 連続するグランスヴァインの光がヴァシロウスを襲撃し、巨大な数キロメータサイズの熱核爆発が爆ぜる。

 ヴァシロウスが、跳ね飛び後退する。

 

 その光景が防衛部隊全員とアーリシアに周辺国達に放映される。


 そして、乗り遅れたクレティアとクリシュナは、やっと旗艦から飛び出し、魔導鎧の力で飛行し

「ヤバい! ダーリンに全部もってかれるーーー」

と、クレティアは叫ぶ顔が嬉しそうだった。


 ヴァシロウスはグランスヴァインの連続攻撃に怯み、十キロ後退、その頭上に、ディオスがベクトで瞬間移動する。

 次にディオスが発動させた魔法は

「極大殲滅魔法…」

”バルド・フレア”

 バルド・フレアの魔法陣がディオスを包み、ディオスの右手からバルド・フレアの力がヴァシロウスに墜ちる。

 ヴァシロウスの頭上にバルド・フレアの光が爆ぜた。

 全長十五キロの数千万度に近い白熱の火球がヴァシロウスを包み込む。


 ゴギャアアアアアアア


 ヴァシロウスが悲鳴を上げる。

 さっきからヴァシロウスは悲鳴しか上げていない。

 

 その爆発の余波が、防衛部隊まで届き、それから守る為に、防護シールドを部隊は展開した。

 戦艦飛空挺にいる冒険者達ゴールドクラス達は、呆然とする。

「ディオスさんの本気って…」

驚愕しかない。


 旗艦にいたレディアンは、唖然となる。

 余りも凄まじいディオスの攻撃に、言葉を失っていた。

 それは周囲にいる者達も同じだった。この世の光景ではないと…。


 バルド・フレアの火球が消え始め、そこからヴァシロウスが攻撃を放ったディオスに向かって顎門を伸ばす。

 600メータ近い巨大な顎門でディオスを呑み込もうとした。

 

 ディオスはフッと嘲笑い次の魔法を発動させる。

「叩き墜ちろ」

”グラビティフィールド・アビス・オーバー・トリプル”

 ディオスの頭上に三つの三メータサイズの漆黒の球体が発生する。

 そして、砲弾の如く、ヴァシロウスの横っ面に墜ちる。


 ゴギャアアアアアアア


 また、不様な悲鳴を漏らすヴァシロウス。これで終わりではない。

 ディオスの頭上にある漆黒の球体は、超重力を集めたエネルギー体だ。

 その一つが爆ぜる。ヴァシロウスの3500メートルある全長に、強烈な重力の衝撃は加わる。


 それで、ヴァシロウスの浮かんでいる高度が墜ちる。

 

 二つ目の超重力のエネルギーが爆ぜる。

 また、衝撃がヴァシロウスに加わり墜ちる。

 

 最後の三つ目が爆ぜる。ヴァシロウスは海面に叩き付けられた。

 

 そこへ、ディオスは情け容赦なく追い打ちを掛ける。

「さあ…針地獄にいけ」

”アース・ニードル・ワールド”

 ディオスは、複雑な魔法陣を纏って発動させる。

 海底が轟音を上げる。

 ヴァシロウスを中心に十キロ四方に、巨大な針山が出現、ヴァシロウスはそれに絡め取られ動けなくなる。


 ゴアアアア ゴアアアア


 ヴァシロウスは蠢き、そこから逃れようとする。


 その直ぐ上空にディオスは、右手を天に翳して次なる魔法を発動させる。

「潰れて消えろ…」

 そこへ、通信が入る。


『おい、ディオス!』とナトゥムラの声が『オレの仕事を残して置けよーー』と叫ぶ口調は何処か嬉しそうだ。


「ふ…。早くこないと…オレが終わらせるぞ…」

と、ディオスは残酷な笑みを浮かべた。そして…

”アイス・ロック・ワールド”

 ディオスが魔法陣を纏って、魔法を発動させる。

 ディオスの掲げる右手の上に、海上から膨大な量の海水が巻き上げられ集まり、瞬く間に巨大過ぎる、全長十キロの大氷島が形成された。

「ほれ…」とディオスはそれをヴァシロウスに向かって投げた。


 空の空気を軋ませ、大質量の氷河の島がヴァシロウスに墜ちた。


 ヴァシロウスは悲鳴を上げる事も出来ず、圧し潰された。



 上空のディオスは、氷河の島に埋まったヴァシロウスを見下ろしていると、そこへ

「ダーリン!」とクレティアが、クリシュナと共に来た。


「おい、ディオス!」と飛行ユニットを背負うナトゥムラと、ヴァンスボルトが来る。


 クレティアが

「ダーリン、アタシの仕事は?」


 ナトゥムラが

「おい、ディオス。ずるいぞお前だけ!」

 二人が叫ぶ口調はどこか楽しげだ。


 ディオスは答えず、静かにヴァシロウスが潰された大氷河を見つめる。

 その大氷河に亀裂が入り砕けた。

 

 ゴオオオオオオオオオオ


 ヴァシロウスが怒りの雄叫びを放ち、大氷河から昇ると、全身を輝かせる。

 そして、全身から無数の光線を発射する。数十メータル幅の光線が周囲を破壊する。


 それの一本がディオス達に伸びる。

「クレティア、クリシュナ!」

 ディオスが妻達を呼ぶと、クレティアとクリシュナは肯き、ディオスの正面に出て、ヴィアンドを使う。

 巨大な空間防御シールドが全面に広がり、それにヴァシロウスの攻撃が当たる。

 空間防護シールドに巨大光線が衝突した瞬間、光線が拡散されて消失した。

 


 ヴァシロウスの放った光線群は、遙か後方、防衛部隊まで迫る。防衛部隊は防護の魔導シールドを展開。

 その前面上空に、あのディオスからヴィアンドを渡されたゴールドクラス達十名が、立って乗る用の飛行ユニットと共に、立ち塞がる。

「信じるんだ。ディオスさんの言葉を!」

 ゴールドクラス達が、ヴィアンドの右腕を前に出して発動させる。


 十人のヴィアンドは共鳴増幅を起こして、防衛部隊を包み込む程の、超巨大空間防護シールドを形成した。

 それに、豪雨の如く降り注ぐヴァシロウスの凶暴な光線。シールドに光線が接触した瞬間、拡散して光線群が消えた。


 ゴールドクラス達は、改めて渡された防護装備の手甲を驚きで見る。

「すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」



 怒り荒れるヴァシロウスを下に、ディオスは笑っている。

「デカい魚擬きが…焼き魚にしてくれる」

 ディオスは、右手を天に掲げる。

 そして、あの二週間の準備の間に編み出した新たな魔法陣を展開する。

 ディオス達の頭上に十メートル近い、巨大球体魔法陣が現れる。それは、精密機械だった。膨大な量の魔法陣が組み合わさって歯車のように動く様は、スイスのロレックスかオメガのような精密さだ。


「綺麗だわ」とクリシュナは漏らす。


 ヴァシロウスを中心として、数十キロ範囲の海面が沸騰、爆発、その煮えたぎる海から、マグマの火柱が噴出する。そのマグマの噴出柱は、一つではない、幾千柱だった。

 空が荒れる。一気に遙か上空がどんよりと曇り、台風の目を形成、広大に広がる積雲から膨大な量の稲妻が中心たるヴァシロウスに集中する。

 積雲と沸騰する海上の間に、氷の結晶が生まれ集結、巨大な百メータクラスの氷のドリルが幾千と生まれる。


 ディオスがこの魔法を発動させる。

「最終終滅魔法…」

”カタストロフィ・エンド・ワールド”

 噴出したマグマの柱群が、ヴァシロウスへ向かって噴出する。

 千度近いマグマの巨大弾頭が襲い掛かる。

 天と海の間に生まれた超巨大氷ドリルが、ヴァシロウスへ突撃する。

 稲妻を蓄えた台風の目から、幾千万の稲妻がヴァシロウスへ襲い掛かる。


 ゴギャ


 ヴァシロウスの悲鳴なぞ、かき消える程の天変地異の攻撃が牙を剥いた。

 これで終わりではない。超高温、超低温、稲妻の嵐は、相乗効果を発揮する。

 マグマの弾頭によって氷が蒸発、それはタダの蒸発ではない。水素と酸素が分かれる分解で、更にそれに稲妻が作用する。膨大な量の水素と酸素、そして稲妻、電気、それによって半径五十キロ、全長百キロに及ぶ超巨大爆発を起こす。

 そして、そこに稲妻のプラズマ分解まで加わる。それによって再び、多段的な爆発が発生。二段の超巨大爆発は、全長百キロ、幅十キロの爆破領域を作り出し、更に中心部分であるヴァシロウスの所は、遙か上空大気圏を越えて高度五十キロに及ぶ炎の柱を伸ばした。


 世界中の地震計が異常を示し、その衝撃波が世界を幾重にも周回する。



 ディオス達はそんな超爆発の中でも余裕で生きている。そう、ディオスは自分達に影響がないように幾重にも魔導と空間の防壁を張って守られている。


 その中にいる凄まじい光景にヴァンスボルトは驚愕して、発動者であるディオスを畏敬の念で見つめる。


 ナトゥムラ、クレティアはどこか楽しげで、クリシュナは余裕の笑みだ。


 ディオスはただ、静かに終わるのを待つ。


 魔法の効果が終わって落ち着き始めた頃。


 ゴオオオオオオオオオオオ


 ヴァシロウスの咆吼が響き渡る。まだ、生きている。

「クレティア! クリシュナ!」

 ディオスは二人を呼び、クレティアとクリシュナはディオスに抱き付く。

「ナトゥムラさん! ヴァンスボルトさん!」

 ナトゥムラは右手を、ヴァンスボルトは左手を握る。

 ディオスは四人を連れて、ベクトで瞬間移動した。

 連続使用で一気に防衛部隊がある海岸まで後退。


 白く染まるヴァシロウスの咆吼が響いた場所を、ディオスは睨むと、膨大な量の魔力の衝撃波が、白い世界を吹き飛ばした。


 ゴオオオオオオオオオオ


 怒り狂い雲を超えた空に直立するヴァシロウスは、その3500メートルの全長を掲げ、その背に全長と同じ巨大な魔法陣を展開する。

 ヴァシロウス、最大の攻撃、ヴァシロウスの咆哮滅光が発射寸前である。


「クソ! なんてヤロウだ!」とナトゥムラは唸る。


 その攻撃を放てば確実にアーリシアに甚大な被害をもたらすのは目に見えている。

 

 ディオスは、両手からナトゥムラとヴァンスボルトを離す。

 それに向かって両手を伸ばす。


 クレティアをクリシュナは、静かに見つめる。

 何も二人は心配していない。なぜなら…とんでもない量の夫の魔力の高まりを感じているからだ。


 グゴオオオオオオオオオオ


 ヴァシロウスは、自身最高の攻撃を放つ。

 6000メートルの幅もある荒唐無稽な巨大さを誇る滅亡の光、それは、世界を破滅さえるインドラの矢である。


 そして、ディオスも両手から光線を放つ。それは六色の六属性の魔力の色取り取りの光だ。


 ヴァシロウスのインドラの矢と、ディオスの内部にある六属性の光線。その幅は十メートル。

 明らかにヴァシロウスが放ったインドラの矢の方が大きい。

 だが、インドラの矢にぶつかった瞬間、それは拮抗した。

 遙かに小さい針のような光が、膨大な光の奔流と互角に競っている。


 その光景が、アーリシア全土と周辺国に放映される。

「見てください。ヴァシロウスが放った巨大な光線と、ヴァシロウスを圧倒した魔導士の放った小さな光線が拮抗してしますーーー」

 様子を伝えるレポーターが唸る。


 それを、ディオスの屋敷で見ているレベッカとユーリ、チズ、そして、フェニックス町から避難して来た婦人達と子供達が。

 がんばれ! がんばれ! いけーーーーー

 ディオスは応援している。

 映像は、放つディオスを映していた。

 ユーリとチズは、ひたすら祈っている。レベッカは睨むように見つめて祈っていた。


 それを、あの味噌汁を出した女将とバカにした客達が見ている。

 いけーーーーー いけーーーーーー

 客達は必死にディオスを応援している。

 女将は静かに見つめるが手を堅く握り祈る。


 ソフィア達がいる場所では、ソフィアとゼリティアが目を瞑って必死に祈っている。

 他の王達や、関係者は度肝を抜かれて、呆然としている。


 ヴァシロウスのインドラの矢と競るディオスの脳裏に、色々な事が過ぎる。


 生きて帰ってきなさいよ…と泣いたソフィア。

 お主は、バカじゃーーー どうして、死に急ぐ。なんで…と泣いていたゼリティア。

 旦那様…奥方様、必ず帰ってきてください…と悲しんでいたユーリとチズ、レベッカ。

 ディオス様…セバスが賭けた事…。

 死しても尚、自分に託してきた死者達。

 

 沢山の人々の悲しげな顔が脳裏に過ぎって、ディオスは怒り狂い切れた。

「ここで、キサマは終わりだーーーーー」

 ディオスの渦の内にある存在が、ディオスの意思と共鳴する。

 ディオスの放った六色の魔法が、変化する。

 内なる存在が加わってそれは巨大化して、全長6000メートルのインドラの矢を呑み込む光の龍となってヴァシロウスに襲い掛かった。


 ギャアアアアアアアアア


 ヴァシロウスは悲鳴を上げてディオスから生じた己を超える光の龍の光線に呑み込まれ吹き飛んだ。

 遙か数百キロまで吹き飛ばし西大洋の遙か海上に沈む。


 ヴァシロウスが小さくなって海に墜ちた姿が放映される。

 アーリシア全土から、歓喜の雄叫びが響き渡る。


 ディオスはそれでも手を抜かない。完全に殺しに掛かっている。

「天墜降臨魔法」

”アクシズ・フォール・ダウン”

 ディオスの掲げた右手から空に向かって光が伸びた。

 それは、一国を滅ぼした破滅の魔法。あまりにも危険過ぎるので封印したが、ヴァシロウスを倒す為に惜しげも無く使う。


 ドオオオオオオオオオオオ

 空から轟音が大地に響き渡る。


 旗艦にいた魔導レーダー手が

「レディアン様!」


「何だ!」とレディアンが吠える。


「空から、巨大な影が…恐らく…巨大な隕石が墜ちてきます」


 空から燃える十キロ、絶滅的破滅をもたらす巨大隕石がディオスの誘導で墜ちてくる。 

 それを、ディオスは誘導して、ヴァシロウスの頭上に落とした。


 アクシズ・フォール・ダウンによって降臨した超巨大隕石は、ヴァシロウスの頭上で大爆発。

 西大洋の三分の一に匹敵する巨大な爆発と地震計を狂わせる震動が世界を蹂躙する。

 

 ディオスの両脇に浮かぶ、クレティアとクリシュナは楽しげにディオスの背中を見ている。

 その前にいるナトゥムラとヴァンスボルトは…畏怖でディオスを見てしまう。

 圧倒的を超えて、神にさえ届くのではないかと…思ってしまうユーチューリ親子。


 アクシズ・フォール・ダウンの爆発も収まり、晴れ渡る数百キロ先の海、だが、こんな絶大な威力の魔法を食らってもヴァシロウスは存在している。

 チィとディオスは舌打ちする。

 とんでもない防御力だな…なら、物理的に叩き潰すまで…。

「二人とも…」とディオスはクレティアとクリシュナに向く。

 クレティアとクリシュナはディオスの隣に来ると、ディオスはクレティアとクリシュナを抱き寄せる。

 今度の魔法は、ヴァンスボルトさん夫婦からヒントを得たモノだ。

「スキル混合魔法」

”ゴット・オブ・ライセンス タケミカヅチ式”

 クレティアとクリシュナのスキルの力に介入する。

 お、出来た…と、初めてにしては上出来だった。


 そう、この魔法は…まあ…二人のスキルに介入して自分の中で合成して使う。まあ…これには、ヴァンスボルトさんが言っていた愛の力ってヤツが絶対条件、ゴニョゴニョだ。


 三人を核に雷の神格が降臨した。

 行こうとしたら

「おい、待て!」とナトゥムラが「お前達だけ、美味しい思いをするな!」

 その隣にいるヴァンスボルトも「うむ…」と頷く。


「はいはい」とディオスは二人も雷の神格タケミカヅチに入れて、稲妻の速度でヴァシロウスへ向かった。

 


 その間、ヴァシロウスは微動だにしない。全く動かない。まるで、様子を見ているようだ。



 そこへ、ディオスのタケミカヅチが現れた。

 それを見たヴァシロウスは


 ギギャアアアアアア


 悲鳴を放った逃げだそうとする。

「逃がすかーーーー」

 ディオスはナトゥムラとヴァンスボルトを放出して、タケミカヅチでヴァシロウスに突撃する。


 ヴァシロウスの躯体がくの字に曲がる。

 それでもヴァシロウスは逃げようとする。


 その体に、ナトゥムラとヴァンスボルトは、魔法で構築された巨大剣を掲げ

”ソード オブ ザバザ”

 絶対両断のスキルを付加させ、ヴァシロウスの巨体に斬り掛かるも、斬ったそばから再生される。

「クソが!」とナトゥムラは叫ぶ。



 ヴァシロウスが、ディオスのタケミカヅチの攻撃を受けながら逃げる様を、アーリシア全土と周辺国は放映で目にした。

 その様子に、アーリシアの誰もが感動して涙した。圧倒的で絶望的なヴァシロウスが怯えて逃げ惑う様に、今まで苦しめられた事が過ぎり、涙しかない。


 様子を映す放映チームが、何とかしてディオスの通信機に接続させ、ディオスの言葉を拾う。

 その放たれた言葉は

「お前に殺された人達、傷つけられた人達の痛みをしれーーーーーー」

 ディオスの怒りの声が、大放映された。


 それを聞いた人々は、涙が溢れて画面が見えなくなる。

 今、ヴァシロウスを圧倒している魔導士は、自分達の思いを背負って戦ってくれているのだ。


 

 ディオスと共にタケミカヅチの中にいるクレティアとクリシュナは、思った。

 勝てる! そう、勝利を確信していたが…。


 ディオスだけは、疑問が過ぎった。

 なんだ? この防御力の異常な高さは?

 そう…思った瞬間、ディオスは行動に出た。

「ナトゥムラさん! ヴァンスボルトさん! 引いてくれーーーー」


「え!」とナトゥムラは思うも


「引くぞ! 息子よ」とヴァンスボルトはディオスに同調して呼び掛ける。


 ナトゥムラとヴァンスボルトは引いて、それをディオスは回収した次に

”アイス・ホロウ・ワールド”

 魔法を発動、大量の海水がヴァシロウスに掛かり、それが凍ってヴァシロウスを包み込み、巨大な数十キロのヴァシロウスを閉じ込めた氷山を作った。



 ディオスは一気に引いて、レディアンがいる旗艦へ戻る。

 

 その行動に誰しも疑問を感じて、旗艦の司令室に来たディオスに

「どうして、引いたんだ?」

 レディアンが全員の疑問をディオスにぶつける。


 ディオスはレディアンを見て

「お願いします。ヴァシロウスの内部を投影して貰えませんか?」


 レディアンは視線を横にして、各機関との通信をしている者へ

「出来るか?」


「聞いて見ます…」

 通信手が呼び掛け

「出来るそうです。今、一斉に閉じ込めれたヴァシロウスの内部の映像を、こちらへ回すと…」


 レディアンが「こっちだ」とディオスを、作戦台に導く、それにクレティアとクリシュナにナトゥムラにヴァンスボルトが続く。


 ディオスは、作戦台を見つめると、立体映像でヴァシロウスの内部映像が来た。

 それを見て

「うぁ…こういう事か…」


「あああ?」とクレティアは顔を顰める。


 クリシュナはチィと舌打ちした。


 それにナトゥムラは「なんだ? どうしたんだ?」と


 ディオスはヴァシロウスの機械的骨格をした内部投影映像、その胸部を指さす。

「これ…神格炉ってヤツです」

 そう、ヴァシロウスの胸部には、あの惑星を囲むリングを備えた星の形、神格炉があった。大きさ的に見て百メータサイズの神格炉。

 ディオスはこれで、ヴァシロウスのタフさを理解した。神格炉の力で、殆どの魔力は中和されていたのだ。そして、その再生能力も破壊力も神格炉によってもたされていた。

「神格炉とは、神格を閉じ込めて動力にしている超古代遺跡の遺物です」

 

 ディオスの言葉に「な!」とレディアンと他の者達が絶句した。


 ディオスは鋭い視線で

「色々とどうして使われているかは、後にして、恐らく、この神格炉を取り出し、破壊すればヴァシロウスは倒せます」

 ディオスは、右手を顎に当て考え

「自分が、ヴァシロウスの動きを止める魔導術式を発動させます。それでヴァシロウスを止めた後、ナトゥムラさん、ヴァンスボルトさん。お二人のスキルの力と自分達の力を使ってヴァシロウスから、神格炉を取り出し、破壊の作戦で行きます」

 ディオスはレディアンを見て

「レディアン様、ヴァシロウスの動きを止める術式を構築する間、ヴァシロウスの引き留めを」


「待って」と将軍の一人が口を挟む。

「レディアン様…。ここは、ヴァシロウスを消耗させて、地中に潜って貰う事にしましょう」


「はぁ?」とディオスの苛立ちを見せる。


 将軍は

「地中に潜らせれば、活動を再開するまで、色々な手を打ってて対処出来ます」


 ドンとディオスは作戦台を叩き

「ふざけるな! 倒せるモノを今、やらないでどうする?」


 将軍はディオスを見て

「汝の活躍は素晴らしい。だが…ヴァシロウス相手に百万で何が出来る。汝がいない間にヴァシロウスが来て、確実にここを破壊するだろう。なら…レディアン様」


 レディアンは眉間を寄せて考える。


 ディオスは苛立ち、その場から離れ、各機関と通信を繋げる通信手の元に来て

「すまん。全体に通信を届けるにはどうすればいい?」


「え…」と通信手は困惑するも、マイクをディオスに渡し装置を操作して「これで…いいはずです」


「よし…」とディオスが

「聞こえているか…。こちらは、バルストラン共和王国、ソフィア王の臣下、ディオス・グレンテルである。これからの作戦を告げる。オレは、ヴァシロウスの動きを止める術式を構築する為に、攻撃出来ない。その間、みんなにヴァシロウスの相手をして欲しい」


「待て! グレンテル!」と将軍が止めようと叫ぶ。


「ウルサい!」とディオスは将軍を睨んだ次に

「みんな、三分だ。それでヴァシロウスの動きを止める術式が構築出来る。ヴァシロウスの動きを止めた後、ヴァシロウスの動力である神格炉を、オレ達が取り出して破壊、それでヴァシロウスが倒せる。頼む…協力してくれ!」


 ……………

 沈黙の後。


 ガガガガガと通信ノイズの後

『こちら、レギレル国軍海岸待機部隊、聞いたぜ。アンタの活躍を見て賭けさせて貰う。超長距離からの援護だが。いけるぜ!』


『こちら、ポルスペル軍、同じく超長距離からの魔導砲撃で援護する』


『フランドリル軍、同じだ!』


『こちら、ガリシャマイト連合軍、超長距離の援護射撃いけます。やりましょう』


 次々と、アーリシア全土にいる軍隊から、超長距離の援護射撃の賛同が届く。


 そして

「ディオスさん、防衛部隊にいるリーレシアの冒険者です。アンタから貰った凄い装備、生かさせて貰うぜ。協力する!」


「こちらは、左翼防衛部隊、協力する! 頼むぜ」


 指令系統を無視して、防衛部隊が動く。


「ああ…」と困惑する将軍。


 レディアンはカッと目を開き

「よし! これより、当部隊は防衛部隊ではない。ヴァシロウス殲滅部隊となる! 全員、ヴァシロウスを迎え撃つ用意をしろ!」


 将軍がディオスの肩をつかみ

「撤回しろグレンテル!」


 ディオスは将軍に向かって

「出来る事を出来ると言って何が悪い!」


 豪語したディオスにクレティアとクリシュナはフッと笑み

「じゃあ…ダーリンよろしく」

「さっき、アナタが使ったタケミカヅチ。憶えたから使わせてね」

と、クリシュナは手を振った。

 二人は、向かっていく。


「じゃあ、行くか…」とナトゥムラも続き。

「さて…最後の一仕事だな」とヴァンスボルトも続いた。


 最後に通信に

「ヴァシロウスを倒すぞーーーー」

 ディオスは宣言を放った。



 ディオスは、旗艦の甲板に立ち、両手を合わせて思考を巡らせ、浮かび上がりディオスを中心として幾つもの魔法陣が展開され組み合わさる構築の開始を始めた。


 三分目

 クレティアとクリシュナは手を繋ぎ、タケミカヅチを発動させて、ヴァシロウスへ向かう。その中にナトゥムラとヴァンスボルトもいた。

 ヴァシロウスは…封じ込めれた大氷河を破壊して、出現する。

 周囲を見渡す。あの魔導士がいない。だが…遙か向こうであの魔導士が何かをしようとしているのが見えた。


 ゴギュアアアアアアアアアア

 

 怒り震え、ディオスに向かって疾走する。


 二分四十秒


 姿を見せたヴァシロウスに向かって、超長距離の魔導砲撃が始まった。

 アーリシア全土からの超長距離魔導砲撃が迫る。アーリシアの大地の空を砲撃の流星が走る。海岸に展開されている殲滅部隊も、砲撃を開始する。

 空から砲撃の流星群が、海の上を滑って殲滅部隊の砲撃の雨がヴァシロウスに迫る。

 膨大な量の砲撃がヴァシロウスに着弾、それでもヴァシロウスの勢いは止まらない。

 そして、今度は、魔導士部隊による多段式の強大な威力があるグランスヴァインの攻撃が届く。それでもヴァシロウスは止まらない。


 二分二十秒。


 タケミカヅチのクレティアとクリシュナが到着、ナトゥムラとヴァンスボルトと放出、豪雨の如く降り注ぐ砲撃をかい潜って、ヴァシロウスへ攻撃を叩き込む。

 ヴァシロウスは怯むも、勢いを止めない。

 それで、クリシュナとクレティアは分かった。ディオスが何かしようと察して向かっているのだ。

「おんどりゃがぁぁぁぁぁぁ」

 クレティアは吠えて、タケミカヅチでヴァシロウスを攻撃する。


 一分三十秒


 ディオスは、砲撃の流星群を前に、必死に魔法を構築する。後少し後少し。

 そこへ、ヴァシロウスが全身から無数の光線の雨を降り注ぐ。

 それに、ヴィアンドを持ったゴールドクラス達が立ちはだかる。

 ヴィアンドによる、超広域空間防護シールドによって、光線の雨が防がれる。

 

 残り五十秒


 ゴアアアアアアアア

 ヴァシロウスは吠える。なんとしてもディオスの行動を防ぐ為に、そうすれば自分の勝利だと理解していたからだ。


 残り三十秒


 ヴァシロウスが、殲滅部隊のいる海岸まで十キロ。

 必死にアーリシア全てがヴァシロウスに攻撃の流星雨を放つ。


 9.8.7.6.5.4.3.2.1

 三分が来た。


 ディオスは術式を完成させた。


 ヴァシロウスは海岸手前まで来た。

「前を開けーーーーーー」

 ディオスの怒号と共に、前面にいる戦艦飛空挺達が左右に割れて道を開いた。

 ディオスは発動させた。

”グランドクロス・ホロウ・アクター”

 ディオスの右手に術式が集中、閃光となって迫るヴァシロウスへ照射される。


 ゴギャアアアアアアア


 ヴァシロウスは悲鳴を放ち、体が起き上がる。ディオスの術式によって捕縛されその力に絡め取られる。

 天空にヴァシロウスを張り付けにした光の巨大十字架が現れた。


 ディオスは走り出し、再び空へ

「クレティアーーーー クリシュナーーーーー」

 妻達を呼び叫ぶ。

「あいよーーー」

 クレティアの声と共にディオスの前に、クレティア、クリシュナ、ナトゥムラ、ヴァンスボルトの四人を乗せたタケミカヅチがディオスを回収して、張り付けになったヴァシロウスへ向かう。

 ヴァシロウスの胸部にタケミカヅチが来た、ナトゥムラとヴァンスボルトと放出。


 そして…「おおおおおおおお!」とディオスは雄叫びを上げる。


「おらぁぁぁぁぁぁぁ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ナトゥムラとヴァンスボルトは、スキルを発動、胸部へ斬り掛かる。


 ヴァシロウスの胸部に、タケミカヅチの連続拳撃と、絶対両断のスキル保持者の斬撃が放たれる。


 ヴァシロウスの胸部が穿たれ、分厚い皮膚と、機械群が噴出する。


 そして、核たる神格炉付近に来たが、そこに漆黒の強力な防護壁があった。

 タケミカヅチの攻撃が弾かれる。

 

 それにディオスは無意識に

「ナトゥムラさーーーん」


「よっしゃあぁぁぁぁぁぁ」

 ナトゥムラは呼び掛けに応じ、防護壁を絶対両断のスキルで両断した。


 顕わになった神格炉、それをタケミカヅチが引き抜くが、それに接続しているケーブル類に邪魔される。

「またかーーーー」

 ディオスが吠えると、ヴァンスボルトが現れ

「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁ」

 そのケーブル類を絶対両断で切り裂いた。


 外れて外に出た神格炉、それにディオスは接触し

”レド・ルーダ”

 転送魔法で包み、遙か上空へ超音速で共に飛ぶ。


 あっという間に、アーリシアが地図のように小さくなる高度で、ディオスは神格炉から離れる。

 まだ、神格炉は上昇、星のように点になったそこへ、ディオスは右手を向け

”バルド・フレア”

 極大殲滅魔法を当てて神格炉を破壊した。

 神格炉は高度、四百キロの位置で爆発、ヴァシロウスを動かす程の強大な神格が解放され、その余波の爆発は、ディオスの下まで届いた。


 ディオスの魔導鎧は、オートで適正な防護結界を構築して、ディオスを守った。


 爆発が止み、静かになる暗闇の宇宙。

 ディオスは「終わった…」と告げた。


 ヴァシロウスは、神格炉を破壊され、機能を完全に停止、動きを止めてられていたグランドクロス・ホロウ・アクターの術も消失して、海に墜ちながら全身が白い魔導石に代わっていった。ヴァシロウスは倒れたのだ。


 ディオスは、魔導鎧の機能である防護結界に守られながら、地図のようになった大地を見る。

「ここ…どんな高さだ?」

 魔導鎧の高度を測る装置を動かすと、なんとそこは高度四十キロだった。

 空と宇宙の堺を、大地に向かって降りていくディオス。

「んん…迎えを頼もうか…」

と、通信を入れた。

長編、読んで頂き、お疲れさまです。

どんな感想でも構いません。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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