第41話 十二国会議 当日
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あらすじです。
ディオス達が十二国会議に出席していたが…そこで一波乱が起きてしまった。その時、ディオスは?
そして、あの最悪な時が…
二月の第二週真ん中の木曜日、ディオス達は、十二国会議に会議に出席する為に、ポルスペル王国の西大洋に面している港都市リンスに来ていた。
港都市といっても、地球の様にタンカーとか、船が沢山止まれる波止場がある訳ではない。
大量の飛空挺を着地出来る滑走路が沢山ある。
しかも、ここはアーリシアで最西端故に、西大洋を越えた先にあるアンメリカ大陸に向かう飛空挺の立ち寄り着地でもある。
ディオスは、飛空挺から降りながら、海が見える飛空挺滑走路を見渡す。
「へぇ…良い景色だなぁ」
その背をソフィアが押して
「早く降りなさいよ」
「ああ…すまない」
政府関係者が乗る車に、バルストランから来た一行が全員乗る。
ソフィア、ナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア、ディオス、クレティア、クリシュナ、ゼリティア
ソフィアに一番近い者達が乗る魔導車。
ディオスは窓の外を見る。
「お…」と町のレストランの看板が目に付く。
レストランの看板は魚をあしらったデザインが多い。
「なぁ…ゼリティア…ここって、魚料理が多いのか?」
「んん」とゼリティアが「ああ…そうじゃ。漁業の町であるからのぉ」
ディオスは不意に
「じゃあ、寿司、天ぷらがあるかなぁ…」
「なんじゃ?」
と、ゼリティアは訝しい顔をする。
「いいや、何でも無い」
ディオス達が着いた場所は、十二国会議が行われる巨大な、お城の会場だった。
お城に入ると、ゼリティアが
「すまんが…妾は、他の財団との会合がある。暫し、分かれるから。よろしくな」
「はいはい」
と、ソフィアは手を振って送る。
ディオスは離れるゼリティアの背を見て
まあ…確かに、大財閥を抱えるお嬢様だから、当然だよねぇ。でも…という事は、企業とか経済としてはアーリシアは繋がっているんだ…。
不意に、脳裏に地球であったヨーロッパのEUの事が過ぎった。
ディオスはクレティアとクリシュナと共にソフィアを前に、廊下を進む。
ナトゥムラやスーギィ、マフィーリアも関係する者達との会合で、離れてしまい。
今は、ディオス達夫婦とソフィアだけ。
まあ…護衛だね。
そう、ディオスは思っていると…前から別の一団が来る。
ソフィアは、その一団の最前列にいる男性にお辞儀する。
「こんにちは、フランドイル王」
そう、お辞儀を向けた人族の男はフランドイル王
ヴィルヘルム・オルタリア・フランドイルだ。
ヴィルヘルムの眼光は鋭く、まるで猛禽類の鷲を思わせる。
その身に纏う雰囲気は、重くまるで、覇気を纏った王その者のようだ。
ヴィルヘルムの右隣には、臣下でフランドイル軍の統括を任せれている浅黒い毛並みの獣人族の男性グラディウス。
右には息子で王子のアウグストスがいる。こちらも父親と似たような感じだ。
ヴィルヘルムは、ソフィアを見るとフッと笑む。
何か、バカにしたような笑みにディオスは感じた。
「これはこれは…理想論ばかり掲げるバルストラン王ではありませんか…」
ヴィルヘルムの物言いに、ディオスの眉間が動く。
ソフィアは平静に
「まだ、弱輩の身故に、色々と勉強させられますよ」
ソフィアは大人の対応をする。
ディオスはそれを聞いて、ソフィアの成長を嬉しく思った。
王になる前なら、クッと掛かっていくが、王としての自覚を持ち始め、大人になってきた。
ヴィルヘルムが、ディオスをジロッと見る。まるで睨んでいるようだ。
うぁ…とディオスは内心で嫌な感じになる。
「これはこれは…ワシの誘いを断った愚かな魔導士ではないか…」
刺々しいヴィルヘルムの言い方。
ディオスはフッと笑む。
ああ…そう言えば…ヴァルハラ財団の時に、そういう書類があったなぁ…。
「バカ魔導士に、弱輩の王とは…今回の会議は退屈しそうだ」
ヴィルヘルムは得意そうに告げる。
争う為に来たのかよ…とディオスは呆れる。
ヴィルヘルムはソフィアにロックオンして
「まだ、オルディナイトの小娘の方が、張り合いがあって面白くなりそうだったのに…。残念だ」
ソフィアは平静に淡々と
「ご容赦を…」
ディオスは、仏頂面に故に表情に出ないが…内心でムッとした。
「ヴィルヘルム陛下…」
「何だ?」とヴィルヘルムはディオスを凝視する。
「自分が、どうして、陛下のお誘いを断った理由をご存じでしょうか?」
「はぁ?」とヴィルヘルムはディオスを睨む。
ディオスは平然と
「陛下には、我が王ソフィアのように慈愛がないからです。自分は、ソフィア陛下の臣下であるのは、ソフィア陛下には慈愛があるからこそ、忠義を尽くしております。それがヴィルヘルム陛下のお誘いを断った理由にございます」
ヴィルヘルムの右隣にいるグラディウスが剣の柄に手を置く。
ヴィルヘルムを侮辱したディオスへ斬り掛かろうとした。
ディオスの後ろにいたクレティアとクリシュナは構える。
だが…ヴィルヘルムが右手を挙げて止め
「よい、グラディウス」
「陛下…」とグラディウスが唸る。
「所詮、負け犬の遠吠えだ」
ディオスは右手を胸に当て軽く頭を下げ
「その通りでございます。負け犬の遠吠えでございます。ワンワン」
そこへ
「一同、何をしていますかなぁ…」
ディオス達の後ろから別の一団が来た。
その集団はエルフの一団だ。
最北端の国ノーディウス王国エルフの国、老齢エルフの国王
ノヴァリアス・オートリア・ノーディス
そのエルフの臣下達が、ヴィルヘルム達とソフィア達の睨み合う場所へ近付く。
ノヴァリアスが一同にお辞儀して
「これはこれは…ヴィルヘルム殿…ソフィア殿。どのようなお話をしていたのですかなぁ…。わたくしも混ぜて頂けないだろうか?」
ヴィルヘルムは、ノヴァリアスを見て
「これはこれは、エルフの誉れ高き王よ。少し戯れていたのですよ。では…」
ヴィルヘルムが歩き出すと、それに臣下達が続き、ソフィア達と、ノヴァリアス達を横目で通り過ぎた。
ノヴァリアスはソフィアに近付き
「元気だったか? たまには便りの一つでも、寄越さないかソフィア」
気軽にソフィアに話しかけるノヴァリウス。
ソフィアは柔らかな微笑みで
「ごめんなさいお爺様。色々と忙しくて…」
さらにノヴァリアスが連れるエルフの一団から一人のエルフの女性が来る。ソフィアの母ソニアだ。
「ソフィア…大変でしょう王様なんて…」
「大丈夫だよ。母さん、何とか上手くやっている」
ディオスはソフィアの周りを見て、色々と整理する。
え? エルフの王様が…師匠のお爺様? エルフのお母さん。ああ…師匠はハーフエルフだったなぁ…。え?
バルストラン元王の息子が父親だよねぇ…。お母さんエルフの王の娘?
……………
つまり、師匠は生粋の王族ってことか!
結論が出た。
ジーと見ているディオスにソニアが近付き
「貴方がソフィアの弟子のディオスさんね」
「はい、初めまして」
ディオスは挨拶をする。
ソニアはディオスの顔を見つめ
「ホント…さっきのフランドイル王と同じく、強面の顔ね…。でも、ソフィアの手紙では、なかなかのおっちょこちょいだって知っているから、怖くないわ」
ディオスは、え!と内心で唸る。
オレ…さっきの怖いヴィルヘルムとどっこいどっこいの顔なの…。
ノヴァリアスが
「さあ、ソフィア…色々と話をしようじゃないか…」
「はい、お爺様」
と、ソフィアはノヴァリアスに連れられる。
それにクレティアとクリシュナも続くが、ディオスだけは続かない。
ディオスは俯き、自分の顔を触っている。
オレ、アレ(ヴィルヘルム)とどっこいどっこい…
ショックを受けていると、その両腕をクレティアとクリシュナが抱き締め
「ねぇ…アタシはダーリンの顔、好きよ」
「私も、アナタの顔、好きよ」
ディオスがショックを受けているのを慰めて、ソフィア達に続いた。
十二国同士の王が集まった円卓の昼食席で、アーリシアの十二国王同士が軽く会話をしながら食事を口にする。
不気味な雰囲気はなく、和やかに終わる。
あれ程、焚き付けていたヴィルヘルムも、さっきのがウソの様に友好的だ。
そして、会議、十二国の王達が並ぶ席、その王の後ろには王の臣下達が並び座る。
会議は、完全に出来上がっていた。
ソフィアの座る後ろの席にいるディオスは、書類を渡される。
書類の内容は、各財団や経済関係の友好かつ潤滑的な運営、各領土の問題、今後の十二国のあり方、一番に迫っている問題、その他。
ディオスは、会議をする巨大ホールを見回す。
なんか、活発な意見交換や、議論があるかと思っていたが…全然、そんな事がなく、粛々とただ…確認作業が続く。
「殆どは、もう、外交交渉でお決まりか…」
と、ぼやくディオス。
「そうじゃな…」
と、左にはゼリティアがいる。
「こんなの、意味があるのか…」
ディオスが退屈そうに告げる。
「まあ…アピールじゃよ。大きい会議で決まりましたというなぁ」
ゼリティアが優しく微笑む。
「ふ…ん」とディオスは天井を見上げた次に
「なぁ…ゼリティア…。フランドイル王のヴィルヘルムってどんなヤツだ?」
「なんじゃ、唐突に…」
「いや、ちょっとね。廊下でかち合った時に、色々と言われたから…」
「はぁ…。そうじゃなぁ…覇道を行く王といった所かなぁ」
「はぁ!」
何のヒネりもない、直球な答えにディオスは呆れる。
見たままじゃん。
そう思いつつ、ヴィルヘルムの方を向くと…唐突にヴィルヘルムが挙手した。
巨大ホール全体がどよめく。
議長をしているノヴァリアスが、ヴィルヘルムを指さし
「ヴィルヘルム殿…何かご意見でも?」
ヴィルヘルムが立ち上がり
「こんな茶番は止めにしようではないか!」
巨大ホールが騒がしくなる。
何だと? 何を言っているんだ? そんな声が広がる。
ヴィルヘルムは右手を挙げ人差し指を立て
「一つ…アーリシアが西と東で分断されているのは、どうしてかな?」
ノヴァリアスがヴィルヘルムを凝視して
「分断はされていないと、思うのだが…」
「いいや、されている。のお、ノヴァリアス殿…」
ヴィルヘルムが自信ありげに言い放つ。
そこへ更に
「是非、私もその議題に参加したい!」
レギレル国の席にいる青髪の人族の青年が立つ。
ディオスはそれを見てゼリティアに
「なぁ…ゼリティア…アレは、誰だ?」
ゼリティアが扇子で口を隠し
「レギレル国の皇太子ヴィクトール。ヴィルヘルムとは付き合いがあって、お互いの利を追求する仲という事じゃ」
ヴィクトールが腕を大きく広げ
「ヴィルヘルム陛下の言う事は、真実だ! アーリシアは二つに分断されている。ねぇ…バルストラン王ソフィア陛下、ノーディウス王ノヴァリアス陛下…」
ディオスは呆れる。
そう、分断されているというのは、ゼリティアから聞いた国同士が抱える借金の受け持ち分担の事だ。西側をフランドイルとレギレル、東側をバルストランとノーディス。
その事を、分断されていると言っているのだ。
そんなの、お前等も同じだろうが…。
ドンとヴィルヘルムがテーブルを叩き
「今、ここで話し合うべきだろう」
巨大ホールが騒がしくなる。
爆弾を投下したヴィルヘルムと、皇太子ヴィクトールは、勝ち誇った顔になっている。
まさに、二人の狙いはこの十二国会議の混乱だ。
何が狙いかは、分からない。
そんな中でディオスが挙手した。
「お、お主!」
と、ゼリティアが驚いて、無意識にディオスの裾を引いた。出るなと…。
それをディオスは振りほどいて、議会のど真ん中へ歩み出る。
「お二人のご意見、十分に理解しました」
ディオスはヴィルヘルムの前に来て、ヴィルヘルムと睨み合う。
「では、こういう提案はどうでしょう」
ディオスが意見を告げる。
「ほぉ…」とヴィルヘルムが唸る。
ディオスが手を掲げて一差し指を立て
「一。アーリシア十二国全てで、平和条約を結ぶ」
中指を立て
「二。アーリシア十二国で選りすぐりの部隊を出して、アーリシア統合軍を作る」
薬指を立て
「三。国家間の領土の争いは、軍事力ではなく。統合軍を立てて交渉で解決する」
小指を立て
「四。アーリシア全体で巨大な経済協力圏を作る」
親指を立て
「五。アーリシア全体の銀行間の連帯をする」
ディオスは、ヴィルヘルムに近付いて顔をギリギリまで寄せ
「これで、ヴィルヘルム陛下の指摘するアーリシアの分断は解決される」
水掛論理には、こっちも水掛論理で対応だ。
これが、後々にディオスにとってトンでもない災難となるのは後の事だ。
ヴィルヘルムはフッと笑み
「成る程…確かに一計には値する意見だ。だが…現状を知らん。負け犬の遠吠えだ」
ディオスはフッと笑み
「負け犬ではございません。負け猫の鳴き声でございます。にゃんにゃん」
と、バカにしたように右手で猫の手の真似をする。
ディオスとヴィルヘルムの静かな睨み合いが続くが…。
「バカ!」とディオスの頭を殴った者がいた。ソフィアだ。
「申し訳ありません。フランドイル王。コイツにはキツいお灸を据えますから」
ソフィアは、ディオスの頭を掴んで下ろさせる。
ヴィルヘルムは座り
「興が冷めましたので、十分です」
ソフィアはディオスを引っ張って連れて
「このバカ!」
と、ディオスの足を蹴った。
「オウ!」とディオスは痛みで唸った。
その後、議会は問題なく進む。
その最中、ディオスは背中に視線が刺さって、振り向くと…。
レギレル国の皇太子ヴィクトールが目を輝かせてディオスを見ている。
それは、まるで新しい玩具を見つけた子供のように純真だ。
「げ…」とディオスは青ざめた。
帰りの魔導車の中で、ソフィアが
「本当に、アンタってバカなんだから!」
ディオスを指さして怒っている。
「まあまあ…ソフィアも落ち着いて」
と、ナトゥムラが手を掲げて落ち着けようとする。
「はぁ…」とゼリティアは溜息を漏らし
「全く、お主は…本当に驚く事をする」
ディオスは頭に手を置いて下げながら
「みんな、すまない。本当にごめんなさい」
ゼリティアは、ディオスに微笑み
「じゃが…妾は、お主が言った提案、嫌いではないぞ」
「はは…」とディオスは照れくさそうに笑う。
そのやり取りを、マフィーリアにスーギィが見つめる。
二人は気付く、妙にゼリティアが女っぽいのだ。
ゼリティアは、オルディナイトの当主だ。それ故にプライドも高く不遜の姫だったが…。
ディオスの前にいると、それが消えて、柔らかく女性らしさが出ている。
もしかして…とスーギィにマフィーリアは、同じ事を思った。
ゼリティアは、身分違いの岡惚れをしていると…。
スーギィはディオスの左にいる妻のクレティアとクリシュナを見る。
二人は、ディオスとゼリティアが話している様子を、微笑みを向けて静かに見守っている。
それで、何となくは、二人は気付いているんだなぁ…とスーギィは察した。
でも、ゼリティアの恋は、叶わない。
ディオスは、どんなに凄かろうとタダの平民の魔導士。
ゼリティアは、国の運営にさえ影響を与える大貴族で、将来のオルディナイト財団の理事長だ。
オペラなんかにある、結ばれない恋の戯曲でしかないのだ。
夜、ディオスは十二国会議の為に用意されホテルにいた。部屋から見える港都市の夜景を見て
綺麗だなぁ…
そう思っている両脇にクレティアとクリシュナが来て抱き付く。
「ねぇ…ダーリン、帰るのは明日の昼くらいなんだし…その間は…」
と、クレティアは囁く。
「アナタ…ねぇ…。ここ、いい部屋だし…」
と、クリシュナが呟く。
そう、この部屋は豪勢だ。綺麗な夜景が見えて、綺麗で広くアメニティーが充実した部屋、そして、ルームサービスで取り寄せた美味しい魚料理が並ぶテーブル。
オシャレすぎる雰囲気に、ディオスは嬉しげに微笑み鼻を伸ばして
「今夜は、じっくり楽しもう」
二人を抱き寄せてキスをした。
そこへ、コンコンとノックされた。
クソ、なんだよ! 大事な時に…
ディオスは苛立ってドアの前に立ち、ドアにある外を写す魔導映像機を触ると、五人くらいの一団がいた。その真ん中には青髪の青年。
あれ…コイツって…確か…あ、レギレル国のヴィクトール皇太子。
ディオスはドアを開けて
「こ、皇太子殿下…何故、ここに?」
ヴィクトールは微笑みを向けて
「少し、よろしいですかな。ディオス・グレンテル殿…」
ヴィクトールとガードの配下達がディオスの部屋に来て、ディオスはヴィクトールをソファーに座らせて、対面のイスに座ると
「どういったご用件で?」
ヴィクトールはニコニコしながら
「会議で告げたディオス殿ご意見、素晴らしかった」
「はぁ…どうも…」
「どうですかな? ウチの国で貴方のその考えを広める活動をしてみては?」
ディオスは眉間を寄せて
「それは…引き抜きですか?」
「はい。引き抜きです。貴殿の話はヴィクトリア魔法大学院から伺っております。学院長も貴殿が来てくれたら、さぞ…喜ぶ事でしょう」
「はぁ…」とディオスは溜息を吐き
「申し訳ないが…自分は、バルストランを気に入っています。そこから離れるつもりは、ありません」
ヴィクトールは少し悲しげに微笑み
「成る程…話の通りだ。郷土愛が強くて野心がない。勿体ないですぞ…そんな力があるのに…」
「過大評価です。全く困っているんですよそれで…」
「ディオス殿。私は、王家に生まれて才能がない凡人だ。凡人ゆえに、貴殿のような素晴らしい人材が欲しい。ヴィルヘルム陛下も同じ所があります。それ故に気が合うんですけどね」
「自分はただの一介の平民の魔導士です。そんな貴重な人材ではありませんよ」
ヴィクトールが目を伏せた後、上げて
「分かりました。あまり、しつこいと嫌われますので、これで…」
ヴィクトールがガードの臣下の一人に目を向け「おい、連絡先を」
「はい」と、ガードが名刺サイズの連絡先に繋げる特殊魔導情報プレートをディオスに差し向ける。
「ああ…はい…」
と、ディオスはそれを受け取った。
ヴィクトールは立ち上がり
「では、このご縁、長く続きますよう…これで…」
そう言って去ろうとした瞬間、床が揺れた。
「んん? 何だ?」とヴィクトールは首を傾げる。
ディオスは、妙な感じを受ける。まるで何かが脈動したように感じた。
ヴィクトールは肩を竦め
「ただの小さな地震でしょう。では…」
ヴィクトールは去って行く。
ディオスは、クレティアとクリシュナのいる寝室へ向かう。
ベッドではクレティアとクリシュナが座り、両腕を抱えている。
「どうしたんだ?」
と、ディオスが
「ダーリン。なんだろう…さっきの地震の後から悪寒がするんだ」
クレティアは告げる。
「私もそうなの…」
クリシュナも同意する。
「んん?」とディオスは首を傾げた。
そして、ズンとまた地震がした。
「何なんだ?」
ディオスは、顔を鋭くさせた。
それは、突然に起こった。それは前兆だ。
ディオス達のいる港都市の直ぐ傍の海岸には、とある監視塔が建っている。
その監視塔は地中に眠るとある存在を監視する為にある。
監視塔から海上三十キロ付近。それは最初の脈動を行った。
監視塔にいる魔族と人族の兵士。
人族の兵士が、暢気に本を読んで機材の上に足を置いてイスに座っている。
それを仲間の魔族の兵士が
「おい、不謹慎だぞ」
「ふ…いいんだよ。どうせ、ヴァシロウスの次の復活は二十年以上は先なんだしよ」
「それでも、一応はデータは取る必要があるだろう」
「へいへい、真面目くんはこれだから…」
そんなやり取りをしていた次に、
ブーーーーーー ブーーーーーーー
一斉に機器の警報が鳴る。
「な、なんだ?」
焦る魔族の兵士。
人族の兵士は、機器を操作して異常を調べ、絶望した。
「ウソだろう…」
「どうしたんだ?」
「計器を見ろ! ヴァシロウスが活性化しているぞーー」
監視塔から三十キロ先の海上が数キロに渡って爆発した。
その下、海底の奥深く、地層の中にいるそれは身を震わせる。
ゴオオオオオオオオオオ
最悪の災厄、ヴァシロウスが再び、アーリシアを蹂躙しようとしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




