第40話 アーリシア大陸十二国会議 準備の前日
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
時は、十七年後の現在に戻り、十二国会議に出る準備の前の日々、そこでディオスは…思いもしない事に遭遇して…
二月の第一週の終わり、その日はクレティアとクリシュナも伴ってディオスはバルストランの王宮に来ていた。
王執務室で、ソフィアは臣下達を前に
「では…この時期恒例の、十二国会議の日程を伝えるわ」
執務デスクに座るソフィアは、となりにいる赤髪の女性、王専属の秘書カメリアへ視線を向け
「みんなに、日程の資料を渡して」
「はい…」
と、カメリアは両手に資料を持って、執務室にいる臣下達へ配る。
ディオスとその両脇にいるクレティアとクリシュナは日程を見る。
二月の第二週の木曜日に、アーリシア西のポルスペル王国の港都市リンスで行われるそうだ。
ディオスは、それを見て
へぇ…バウワッハ様と会食した時にあった、ポルスペルって国だったんだ…。
日程の基本は、まずは午前の昼は、十二国の王同士の会食。
その後、午後から様々なアーリシアの事についての話し合い。
基本、外交交渉で殆ど、決まっているから、確認程度だ。
本当に普通の地球でいうなら、首脳会談みたいなモノだ。
カメリアが日程の資料を見ながら
「出発は、二日前の火曜日です。各自、王都の空港へ集合、その後…政府の飛空挺で目的地へ」
ソフィアが
「何か、質問は?」
「はいはーい」
と、ナトゥムラが手を上げ
「お菓子の金額は幾らまでだ?」
ソフィアはナトゥムラを指さし
「遠足じゃないの! 大事な会議だから」
「へいへーい」とナトゥムラは頷く。
ディオスが挙手して
「何か、各自で用意する資料とかは?」
カメリアがソフィアと顔を合わせて
「特にありません」
パンパンとソフィアは手を叩き合わせ
「とにかく、大事な会議なんだから、各自、粗相がないようにね。外交問題になるから」
話が終わって、王の執務室から出る時にナトゥムラが、ディオスの肩に腕を回して
「ねぇ…ディオスちゃん…顔を貸してよ」
「ええ…」
と、ディオスは困惑する。
「いいじゃん。チョットだけよ」
「んん…」
と、ディオスは後ろにいるクレティアとクリシュナを見ると、二人は頷く。
私達は大丈夫よ。
「まあ…いいですよ」
と、ディオスはナトゥムラに連れられて行く。
廊下の隅で、ナトゥムラはディオスの肩に腕を回したまま
「なぁ…今日、コレ行こうぜ」
ナトゥムラは空いている右腕で杯を掲げる動作をする。
要するに飲みに行かないかというお誘いだ。
まあ、普通のバーやレストランで飲むなら構わない。だが…。
ナトゥムラが誘う店は、女の子が沢山いて接客する、所謂、キャバクラなのだ。
ディオスは「はぁ…」と溜息を漏らす。
これさえなければ、楽しんで付き合うのに…。
「自分はいいです」
ディオスは断る。
「なんでよ。いいじゃねぇか…」
「ええ…」
ディオスは嫌そうな顔をする。
ナトゥムラは、ディオスへ必死の顔を向け
「なぁ、たまにはいいだろう。羽を伸ばそうぜ」
いやいや、女の子にキャッキャウフフされて、羽なんて伸ばせないですよ。
ディオスは内心でツッコム。
この時のディオスは、何時もと少し調子が悪かった。最近、変なあの、お願いされる悪夢を度々、見ているので気持ちが滅入っていた。
そこに、ナトゥムラが何時もの、ディオスをムッとさせる言葉を
「嫁さん以外の女との交流だって大事だろう」
普段なら、ムッとしてこう言う。
自分、嫁さん大好きなんで、そういうのいらないです…と。
だが、そのムッとした勢いが頭の沸点に達して、ディオスがぶち切れた。
イライラしていたんだろう。疲れていたんだろう。
「はぁ? ふざけんな。テメェに二人の何が分かる? アアア! 死ねボケ」
暴言を吐いたディオス。
それにナトゥムラは固まった。
フンと鼻息を荒げてディオスはナトゥムラから離れた。
昼食、ディオスはクレティアとクリシュナに、ゼリティアの三人で食事を取っていた。
ディオスは、ゼリティアと仲良く話すクレティアとクリシュナを見つめる。
そう、ゼリティアとクレティアとクリシュアは、以外と仲がいい。
なぜだろうと、考えた次に、過ぎったのが…三人ともそれぞれの分野のエキスパートだからだ。
クレティアは剣聖、剣のエキスパート。
クリシュナは最強の暗殺者、故に様々な武術に通じているエキスパート。
ゼリティアは経営経済に通じる、経営者のエキスパート。
それぞれの分野に特化しているから、何となく話が合うのかなぁ…とディオスは考えた。
クレティアが
「ダーリン、さっき、ナトゥムラさんと何を話していたの?」
「ああ…」
ディオスは、ナトゥムラのしつこい誘いにぶち切れた事を話すと、クレティアとクリシュナは驚きの顔をして
「ちょ、ダーリン。それ…謝って来た方がいいって」
「ええ…でも」
と、ディオスは篭もる。
「アナタ、でもじゃあない。謝ってきなさい」
クリシュナも加勢する。
ディオスは二人に押されて
「ああ…分かった」
ディオスは三人の席から離れて、ナトゥムラに謝りに行くその背を見てゼリティアが
「しかし、お主等、二人の事を言われて、怒るなんぞ。愛されておるんじゃなぁ…」
少し、ゼリティアに悲しみが見えた二人は
「まあ…ダーリンは寂しがり屋の甘えん坊だからね」
クレティアは肩を竦め
「そうそう、私達がいないと、どうなるかって心配になるもの…」
クリシュナは腕を組む。
クレティアとクリシュナは、ディオスの事を茶化して、その場を盛り上げた。
「そうか…」
と、ゼリティアは微笑むも、内心では、羨ましいと思っていた。
それ程までに二人とディオスの仲は親密なのだから…。
ディオスはナトゥムラを探していると、自然と冷静になり
確かに…言い過ぎたなぁ…。
そう、反省してナトゥムラを探して王宮を歩くと、ナトゥムラが王宮の教会の前にいるのを見つけた。
「ナトゥムラさーん」
ディオスは呼び掛ける。
ナトゥムラは、ディオスの呼び掛けに戸惑う。
「お、おう…どうした?」
そう、さっきの事を警戒している。
ディオスはナトゥムラに頭を下げ
「すいません。さっきは、申し訳ない」
謝るディオスにナトゥムラは、ハハ…と苦笑して
「ああ…いいさ。ちょっとオレも言い過ぎたし…」
そう告げた次に、ナトゥムラは怪しく笑み
「ああ…傷ついた…。心にグサッときたわーーー」
妙味に演技っぽくなる。
ディオスはそれで察した。この人は…これを利用して
ナトゥムラは
「いや、これは、癒やして貰わないと…苦しくて堪らないなぁ…。女の子に癒やされたいなぁ…」
チラ、チラ、チラとディオスを見る。
ディオスはチィ…と内心で舌打ちして
「まあ…今回のお詫びという事なら…」
ナトゥムラはディオスの肩を抱き
「よーーーーし とびっきりの女の子がいる店にいくぞーーーー」
「はぁ…」とディオスは溜息を漏らした。
その後、クレティアとクリシュナに、ナトゥムラと共に夜を付き合うと告げて、二人はフフ…と苦笑していた。こうなる事は予測済みだったらしい。
夜の七時半、ナトゥムラはディオスを連れて、夜のお酒の商店街へ向かう。
ディオスは、マジかよ…こんな時間から、行くの?
ナトゥムラは
「いやーーー 今日は飲んで楽しむぞーーー」
テンションがマックスだ。
クソ…ウゼ―――とディオスは痛感する。
最初の店は…洋風のレンガ造りである。
地球に日本にあったキャバクラは、煌びやかなネオンが毒々しかったが…シックで落ち着いているので。
もしかして…そういうお店ではないのだろうか?
そんな期待をするディオスだが、入った瞬間、打ち砕かれた。
「いらっしゃいませー」
色取りどりの各種族の女性達が店にいた。
お…直球かよ…とディオスは顔を引き攣らせた。
そこのママがナトゥムラに近付き
「あら…今日は、スーギィさんや、マフィーリアさんじゃあないの?」
ドンとナトゥムラはディオスの肩を抱き
「今日は、コイツだ! コイツ…こういう所は初めてだから、色々と教えてやってくれ」
むちゃくちゃ楽しそうなナトゥムラ。
「ど、どうも…」
ディオスはローテンションでお辞儀する。
「まあまあ、緊張なさらずに…どうぞ…」
と、ママの案内で店の奥に行く。
ナトゥムラは偉そうなおっさんのようにソファーに座り
「ママーーー キープのボトル! お願いよーーー」
「はいはい」
ママは返事した。
ディオスはその左のソファーに座ると、女の子達が、ナトゥムラとディオスの両脇に座る。
四人の女の子に囲まれる二人。
お酒が来た。
ナトゥムラはキープのボトルで
「じゃあ…乾杯!」
「乾杯」
と、ディオスはナトゥムラとグラスを交わした。
ナトゥムラは、キャバクラを楽しんでいるおっさんのように
「いやー 会いたかったよ。ミーアちゃんにティーナちゃん」
それはそれは、楽しそうに飲みながら女の子と話す。
ディオスは、それを見てフッと堅く笑んだ。
ディオスの脇にいる女の子達が
「こんにちは、名前は?」
明るく聞いてくる。
「ああ…ディオス・グレンテルです」
ディオスは平静に答えた。
「へぇ…魔導士の格好…その名前…。ご職業は魔導士さん?」
「ええ…ナトゥムラさんと同じく、ソフィア陛下に使える臣下の魔導士です」
「じゃあ、ナトゥムラさんと同じく色々と法律を作ったりしているんだ…」
「ボチボチですけどねぇ」
ディオスが酒を口にすると。
ナトゥムラが
「ウソこけ、色々と鋭くついてくるだろう。ここがダメだ…ここは、こういう法律を作らないとダメだ…。細かくてウルサいっての」
ディオスはムッとして
「法律なんですから。それがしっかりとした指標にもなるんですから…チャンとしなと…」
ナトゥムラが酒を飲み干し
「お前よ…。こういう店では、一杯威張ればいいんだよ。お前は、他にも色々とやっているだろう」
ディオスは眉間を寄せ
「まあ…オルディナイトの支援で…魔導石の研究をしているくらいだけで…」
「おいおいおーい」
と、ナトゥムラは唸りボトルを持って、ディオスにボトルを向ける。
「ああ…」とディオスはグラスの口を差し向ける。
酒を注がれながらナトゥムラが
「お前…リーレシア国で、冒険者になって最上位のダイアマイトになったんだろう」
ディオスは嫌そうな顔をして
「それは偶々、なっただけで…」
女の子が目を輝かせ
「ええ…冒険者でダイアマイトって…凄いーーー」
「まあ…」とディオスは戸惑い頷く。
「ねぇ…もしかして、ダイアマイトしか持てない。あのアダマンタイトの時計を持っているの?」
「ええ…持ってますが…」
「見せてーーーー」
「はぁ…」
と、ディオスは普段から時計にしているアダマンタイトの懐中時計を懐から取り出し、隣にいる女の子へ見せる。
女の子は、アダマンタイトの懐中時計に触れると、魔力を送る。
アダマンタイトは、魔力を増幅する効果がある。その純度が高ければ高いほど、その増幅効果が強い。
女の子は、込めた魔力が何倍にもなって返って来た事に、これが本物のアダマンタイトの懐中時計、ダイアマイトの証だと分かり
「凄い凄い! 本物だーーーー ねぇ、話を聞かせてよーーー」
「ああ…ああ?」
ディオスは戸惑う。なんでこうなった?
「じゃあ…」
と、いう事でディオスは、リーレシアであった二ヶ月近い冒険話を話す。
ディオスが女の子と楽しく話している姿を見てナトゥムラが
「よっしゃーーー もう一本ボトルを開けるぞーーーー」
超ノリノリになった。
そうして時間が経ち、ディオスの肩を抱きナトゥムラは店から出る。
「また来てねぇーーー」
と、女の子達が黄色い声援を送ってくれた。
「はいよーーーー」
とナトゥムラは楽しげに手を振り、その密着した隣のディオスも手を振った。
「さあ! もう一軒いくぞーーーー」
「はぁ…」とディオスは呆れた溜息を漏らした。
その後、もう一軒の女の子達がいる店に行き、ナトゥムラは女の子と話して楽しむ。
ディオスは、平静として女の子と話、その合間にナトゥムラが
「お前、もっと威張って男のプライドを満足させろよーー」
「はいはい」
と、ディオスは呟き、そんなの、知らねぇーーよ。と内心でツッコんだ。
そうして二軒目が終わる頃には、時間は真夜中の十二時を過ぎていた。
「うぃうぃ…」
とナトゥムラは楽しく酔っ払ってディオスに肩を抱かれる。
「大丈夫ですか?」
ディオスが、凄く酔っているナトゥムラに尋ねる。
ナトゥムラは酔っ払いならが
「いや…今日は楽しかった。お前と飲めて楽しかったよーーー」
ご機嫌な状態に、ディオスは
「はいはい」
と、呟きながら、魔導タクシーを拾った。
そのまま、魔導タクシーに乗せられて、ナトゥムラの屋敷に向かう。
到着して、ディオスはナトゥムラを肩に抱えて魔導タクシーにお代を払う。
そうして、屋敷の門のインターホンを押す。
ピンポーンと屋敷から微かに鳴った音がした。
『はーい』
と、インターホンから女性の声がした。
「すいません。ナトゥムラさんを運んで来ました」
ディオスがインターホンに告げると
『あ、はいはい。どうぞ…』
ガチンと門のロックが外れ、自動で門が動いて開いた。
「行きますよ。ナトゥムラさん」
ディオスはナトゥムラさんを運んで屋敷に入る。
「いや…良かった。本当に楽しかった。また、行こうなぁ…」
と、ナトゥムラが告げて
「はいはい」
と、ディオスは屋敷のドアを触ると、ガチンとロックが外れてドアが開いた。
「入りますよ…」
「おう! ゆっくりしていけ!」
酔っ払いナトゥムラが声を張る。
二人が入ると、目の前に女性が立っていた。
人族の女性で金髪、年はナトゥムラさんと同じに見えた。
女性はニヤニヤと笑っている。
ディオスはその笑みに不気味さを感じて、引き気味になる。
女性が、腰に手を当て
「ア・ナ・タ…楽しかった?」
ナトゥムラはその声を聞いた瞬間、一気に青ざめ酔いが覚めた。
「ち、違うんだ。アージャ…コレには理由があるんだ」
アージャ、ナトゥムラの妻は、ニコニコ顔に怒りの青筋を浮かべ
「へぇ…どんな、理由かしら…」
ナトゥムラがディオスを引っ張って指さし
「こ、こいつがどうしても行きたいって言っていたから、オレはしょうが無く」
ええ…オレの所為!と、ディオスは驚愕と疑惑でナトゥムラを見る。
アージャは両手を剣の柄を握るように合わせ
”ライト・ライン”
と、光属性の簡単な明かり程度の光の棒を形成する魔法を発動させ、剣のように光の棒を握ると…
「スキル…」
”ソード オブ ザバザ”
光の棒に絶対両断の剣が付加され
「おんどりゃあああああ 人の所為にするなぁーーーーー」
アージャは怒り狂い、それでナトゥムラに斬り掛かる。
「ぎやああああああ」
ナトゥムラは恐怖の叫びを上げて、屋敷の奥へ脱兎する。
その太刀筋をギリギリでディオスは避けた。
あ、危ねぇ…。
「待てやーーー 今日こそは、徹底的にお灸を据えてやるーーーー」
アージャは、夫ナトゥムラを戒める為に追跡した。
その様子をディオスは呆然と見ていると…不意に、
アレ? 奥さん…ナトゥムラさんと同じスキルが使える。確かスキルは、血族でしか伝わらない筈…。じゃあ…奥さんは? 親戚の人?
そう、考えていると…。
「全く、あのバカ息子は…」
と、ディオスのいる広間の階段から一人の老紳士が下りてくる。ヴァンスボルトだ。
その隣には、顔の右側に火傷の跡がある妻のナタージャが付いてくる。
ヴァンスボルトは、ディオスの前に来て
「ウチのバカ息子がご迷惑をお掛けしました」
頭を下げるヴァンスボルト。
「すいません。あの子…今日は、私達とアージャが来るって連絡していたのに…このザマで…」
呆れるナタージャ。
「ああ…」とディオスはそれで察した。
ナトゥムラは家族と離れて王都にいる。その家族が、今日来る事になっていたのだ。
ダメだろう。そんな大事な事を忘れて…。
ディオスは嘆息した。
ヴァンスボルトが隣の部屋を示し
「どうぞ…お茶でも…」
ディオスは頭を掻きながら、喉が渇いていたので
「じゃあ…チョットだけ…」
ヴァンスボルトとナタージャに誘われて、ディオスは隣の部屋でお茶をご馳走になる。
その移動の最中、微妙な機械音が聞こえる。それはナタージャからだ。
ディオスは、ナタージャを見つめると、右手右足が魔導機械義体であると気付いた。
ディオスは、落ち着いた客間で、ヴァンスボルトからお茶を貰っていた。
ソファーに座りディオスは、ティーカップに口をつけながら、ヴァンスボルトを見て
何処かで…と考えている。
「どうか、致しましたか?」
ヴァンスボルトが、ディオスの視線に気付く。
「ああ…どこかでお会いしませんでした?」
ディオスの問いに、ヴァンスボルトは微笑み
「キングトロイヤルの夜会では、驚きましたよ」
「あ!」
ディオスは思い出した。そう、レディアンのそばにいた老紳士だった。
「ああ…どうも…」とディオスはお辞儀する。
ヴァンスボルトは微笑み
「私達、ユーチューリ家は、レディアン様のヴォルドル家と、ソフィア様のグレンテール家とも関わりが深いのですよ。ですから…キングトロイヤルの時は…私がレディアン様、息子がソフィア様と別れてしまいました」
「そうですか…」
「まあ…もう、終わった事です」
「はぁ…」とディオスはお茶を口にする。
そして、ちょっとした疑問をぶつける。
「ナトゥムラの奥様は、ナトゥムラさんと親戚関係の人なんですか?」
ヴァンスボルトは、ディオスを見つめ
「いいえ、違いますが…」
ディオスは首を傾げ
「いや…奥様もナトゥムラさんと同じスキルを使えるので…」
「ああ…」とヴァンスボルトは戸惑った次に
「その…スキル保持者を伴侶にした場合、そのスキルを有していない伴侶にも伝染する事があるので…それで、アージャは使えるのですよ」
ディオスは興味津々な顔で
「そんな事があるんですか?」
「ええ…良くある事です」
ヴァンスボルトは頷く。
ディオスは右手を顎に当て
「どういう原理で、そういう事が?」
ヴァンスボルトは戸惑いながら
「そのまあ…なんと言いましょうか。私もスキル保持者ではなく、妻がスキルを持っていて、それが私に伝染しまして…。仮説ではありますが…免疫系に関係しているのではないかと…」
更にディオスは思考する。
え、免疫系? それでスキルが伝染する? 夫婦に関係している免疫系?
ヴァンスボルトは困った顔をしていると、ナタージャが
「ディオスさん。その…夫婦になれば…当然、あの…ねぇ…するじゃないですか…。営みとか…」
「へぇ?」
ディオスはそれを聞いて、アッという顔になる。
夫婦になれば、する事…つまり、夜の夫婦の営み、子作りだ。
そう言えば聞いた事がある。Hを夫婦で沢山していると、お互いに免疫が交換されて、病気になりにくくなる。
ヴァンスボルトが照れくさそうに
「まあ…愛の力ですよ」
「お、おう…」
と、ディオスは詰まる。
確かに愛し合っている夫婦ほど、沢山するわなぁ…。と言う事は…。
ディオスは扉の隙間から見えるナトゥムラとアージャ夫妻の様子を見る。
ナトゥムラがアージャの足下で土下座して、頭の上で手を合わせて必死に謝っている。
あんな感じでも二人は愛し合っているんだなぁ…
ちょっとだけ、ほっこりした。
そうして、ナトゥムラの謝罪が終わった後、アージャは夫ナトゥムラを連れてディオス達がお茶をしている客間に来る。
「ごめん…親父…お袋…」
ヴァンスボルトとナタージャに謝るナトゥムラ。
「全くお前は…。どうせ、女遊びでもしていたのだろう! いい加減にしろ!」
父としてヴァンスボルトはナトゥムラに苦言する。
「ナートゥ。アージャさんを困らせるような事をしないで頂戴。その姿を遠方にいる娘のアルジェリアに見せられると思うの?」
ナトゥムラの愛称で戒めるナタージャ。
ナトゥムラは「う、う…」と言葉に出来ず項垂れる。
それを見てディオス。
オレもこうならないように気をつけよう。
ナトゥムラが
「でも…今回は、ディオスが…」
と、また、ディオスの所為にしようとするが
『ウソを言うな!』とヴァンスボルト
『ウソつかない』とナタージャ
『ウソでしょう!』アージャ
三人から総ツッコまれた。
「はい、すいません」
ナトゥムラは謝った。
ディオスは、その場の空気にいたたまれなくなって、話題を変える。
「その…ナタージャさん…その右手と足は…? もしかして、事故で?」
ナタージャは、微笑して左手で義手の右手を触り
「ああ…これですか…。その…十七年前の第四次ヴァシロウス降臨の時に…」
「あ…」
ディオスはまたしても迂闊なことをしてしまった。
「すいません」
謝るディオス。
ナタージャは顔を悲しみと懐かしさで染め
「私と夫は、その時に前線にいました。生き残ったのは…私と夫だけで…。運が良かったと思っています」
アージャがナタージャの後ろに来て肩に手を置いて
「来週の真ん中にあるアーリシアの十二国会議の後、各地でヴァシロウス犠牲者達の追悼の儀式が行われます。その日をみんなで過ごす事と、王都である式典に出る為に、私達は来ましたから」
「そうですか…」とディオスは肯き
「すいません。余計な事を聞いてしまって…」
ナトゥムラがディオスの後ろに来て肩を叩き
「まあ、その日は厳かに過ごそうぜ…お前も勿論、犠牲者を弔ってくれるよなぁ…」
「それは当然だ」
と、ディオスは強く頷いた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。