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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
閑話 バルストラン共和王国の日々

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第36話 バルストラン共和王国の日々 その4

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ディオスは妻達と共に友人のケットウィンの元を尋ねようとした時、それは遭遇した。

クリシュナの関係の女性で、驚くべき事が…

バルストランの日々 その四


 そこは、バルストランと南の隣国、ガリシャマイト連合王国が隣接する境の町サルバの近隣にある夕暮れの森の中での事だ。

 一人の黒髪の獣人の女が、魔物を相手に戦っている。

両手には鋭利な剣、武装は動きやすい軽装甲。

「はぁぁぁぁぁ」

 獣人の女は、魔物に迫り両断しようとするも、直立型の獣の魔物は、鉤爪の腕を振るって剣を弾いた。

「チィ」と舌打ちした獣人の女は、剣を地面に刺し

”アイス・フィールド”

 凍結の魔法を発動させ、魔物の足を封じた。


 それから逃れようとする魔物、その隙に獣人の女は魔物を両断して仕留めた。


 魔導石化する魔物、女はふ…と一息吐いて剣を下ろしたそこに、別で隠れていた同型の魔物が現れ獣人の女を襲う。


「ク…」と獣人の女は唸り、対応しようとするが、間に合わない。


そこへ一条の光線が魔物を貫き倒した。

誰かの放った光線魔法が魔物を倒したのだ。


「大丈夫ですか?」

 その光線魔法を放ったのは偶々通り掛かったディオスだった。

 ディオスは獣人の女に近付き

「おケガはありませんか?」


 獣人の女は頭を振り

「すいません。助けて頂き…」


「貴女が無事ならそれで良かった」

 ディオスが安堵する横に「ダーリン! どう?」とクレティアが「ケガ人はいない?」とクリシュナが顔を見せた。


 クリシュナはディオスが近付いた獣人の女を見て、驚きに顔を染めた次に鋭い視線を向ける。


 獣人の女もクリシュナの姿を見て、驚きと鋭い顔になる。


 その様子にディオスが

「なんだ…知っているのか?」


 クリシュナが鋭い顔で

「ええ…同じ組織で働いていた人なの。ねぇ…エルザナ」


 エルザナと呼ばれた獣人の女はクリシュナに呆れを向け

「まさか…アンタに会えるなんて思いもしなかった。クリシュナ」


 ディオスはその険悪な雰囲気に、この二人は只ならぬ関係だな…と察した。


 クレティアが

「ねぇ…魔導石、取らないの?」

と、エルザナに尋ねる。


「ああ…取るわ」とエルザナは一時、クリシュナから視線を外して倒して魔導石化した魔物から魔導石を取り始めるのであった。




 ディオスはクレティアとクリシュナの三人でサルバの町に入る。

 初めに来た場所は、サルバの町にあるハンターギルドだ。

 そのギルドのドアからエルザナが出てくる。


 エルザナは、訝しく三人を見つめ

「何? 私に何か用事でもあるの…」

 ディオスとクレティアは、別に…という顔だが

 クリシュナが

「貴女…どうして、こんな町でハンターなんてやっているの?」


「別にいいでしょう」

 エルザナは三人を後ろにする。

 それにクリシュナが続き

「もしかして…組織を裏切ったの?」


 エルザナは立ち止まって

「いいわよね…。男に引っ付いて組織から抜けられたヤツは…」


 その言葉にクリシュナは苛立ちの顔を見せ

「ちょっと、それは聞き捨てならない」


「まあまあ…」

と、ディオスはその会話に割って入る。


 一気に一触即発になりそうだった。


「まあまあ、夕飯時も近いですから…。こちらで…ね。おごりますし…お話を」

 ディオスは左にある宿屋兼レストランの宿場を指さす。




 宿場の一階にあるホールレストランの丸テーブルを囲むディオス達、ディオスの右にクリシュナ、左にクレティア、そして…三人の前にエルザナと座り、ディオスが

「すいません」

と、店員を呼び

「はい、なんでしょう」

 店員が注文の札を持つ。

「これとこれを…」

 ディオスが持っているメニューを適宜に選んで指さす。

「はいはい…」と店員はメモして「ご注文を承りました」


 離れようとする店員にエルザナが

「私、ビール頂戴」


 ディオスがそれを耳にして

「それはいけませんよ。彼女にはアルコールがないジュースか紅茶で」


「ちょっと! 何、勝手に飲み物を決めているのよ」

 エルザナがツッコム。


 ディオスは首を傾げ

「いや…だって。大事な体でしょう」


「はぁ?」とエルザナは眉間を寄せ「お前に気遣われる必要なんてないでしょう」


「はぁ?」とディオスは首を傾げ「だって、貴女一人の体じゃあ、ないんでしょう」


 エルザナは席を立ち「帰る…」と言い残すも、その手をクリシュナが掴み

「いいから、座りなさい。ハンターで得たお金を使わないで済むならいいでしょう!」


 エルザナは顔を顰めた次に

「フン…、じゃあ、高いモノを頼ませて貰うわ」


 クリシュナはディオスを見ると、ディオスは頷いた。


「ええ…分かったわ」とクリシュナはエルザナを引いて座らせた。


 食事と飲み物が運ばれてくると、エルザナは何も言わず勝手に取って食べる。


 クリシュナとクレティアはお祈りをして、ディオスは「頂きます」と呟く。


 エルザナは、骨付き肉を頬張りながら

「あら、シャリカランで一番の暗殺者が、やけに礼儀正しくなったじゃない」


 クリシュナはムスッとした顔で

「別でにいいでしょう」


 エルザナは嘲笑いながら

「私は、アンタみたいにお上品じゃないから…」


 何処か皮肉が篭もる口調にディオスは

「何か、クリシュナと貴女には因縁があるんですか?」


 エルザナは肉を骨から咬み千切り、骨をクリシュナに向け

「この女は、何時もの私の前にいた。私は何時も二番手だった。成果も実力も立場も全部、私より上だった」


 クリシュナはフッと笑い

「昔の事よ。それより、アイツは、ラザンダどうしたの?」


 エルザナは肩が震えた後、そばにあったスープスパの皿をかき込み黙る。


 ディオスが「ラザンダって?」とクリシュナに聞く。

「この女のパートナーだった人族の男よ。公私ともにエルザナを支えていたわ」


 エルザナは、皿の一品を呑み込むとポツリ

「ラザンダは、死んだわ…任務中に…」


 クリシュナは戸惑いを見せた次に「そう…」と一言には悲しみが篭もっていた。


「やれやれ」とディオスは額を掻く。明るい食事にするつもりが、暗くなるその場に

「なあ…エルザナさんだったけ…その」


「アンタ達は、何でここにいるの?」

 エルザナが尋ねてきた。


 話の腰を折られたディオスは苦笑いをして

「この辺りの領地を管轄しているマーコード侯爵と顔見知りでね。これを…」

 ディオスは懐に張った魔導収納から、あのリアナの記憶を戻した冠の装置を取り出し

「これをマーコード侯爵の元へだ。顔見せも兼ねてな」


「ふ…ん」とエルザナは唸った次にクリシュナに

「いいわね。男を捕まえて簡単に組織から抜けられて…うらやましいわ」

 口調が刺々しい。

 エルザナはディオスを睨み見て

「お前の事は、知っている。気象を操れるくらい、凄い魔導士なんだってね。はぁ! シャリカランのグランド・マスターも冷酷よねぇ…。お前という強大な魔導士とのパイプに自分の娘を差し出すなんて…。やっぱり、組織のトップってのは」


 ドンとディオスは机を叩き

「お父様の事について、悪く言わないで頂きたい」

 睨みではないが、不快な顔を向けるディオス、次にディオスはクリシュナを横見するも、クリシュナは平然としている。

 ディオスは、父親の事を悪く言われて冷静であるクリシュナに強い胆力を感じるも、僅かに…父親、アルヴァルドと確執があるのだろうか?とも思った。


 クレティアが「ねぇ…食事くらい楽しく食べない」とみんなに告げる。


 ディオスは複雑な顔を、クリシュナとエルザナは平静とするも、その裏に鋭さをぶつけている感じが伝わる。


「はぁ…」とクレティアが溜息を漏らすと


「いいね。食事は楽しくじゃないと!」

 突如、一同の隣から女の声がして、ディオス達のいる丸テーブルに来た。

 その女はプラチナブロンドで青く輝く瞳を持つ美女だ。

 そして、そのとなりには、ディオスと似た系統の細身の髭を蓄える黒髪の男がいる。


 その女がクレティアの隣に来て

「私もこのテーブルに混ぜてくれないか?」


「はぁ?」とディオスは首を傾げる。


 クレティアは驚きの顔を、プラチナブロンドの女に向け

「アンタ…まさか…」


 プラチナブロンドの女は、クレティアにお辞儀して

「お久しぶりですな、剣聖クレティアーノ・ヴァンス・ウォルト氏 お忘れですか? 私ですよ。ヴァアナ・オル・ヘクマルト…ヘクマルト財団で外部守護隊を任されている。アジャルダ・オル・ヘクマトルの娘ですよ」


 ディオスは、クレティアを剣聖のフルネームで呼ぶヴァアナに警戒の視線を向け

「クレティア…知り合いか?」

「ああ…まあ、アフーリアの中央部にあるヘルクタル共和王国を根城にしている財団の会長の娘さ」


 ヴァアナの隣にいる男がクリシュナを見て

「あ…アンタ…」


 クリシュナはハッとして

「あら…何時かのドラゴンナイトの紳士さん」


 そうドラゴンナイトの紳士こと、ケンジロウがいる。


 ケンジロウとディオスはお互いを見合った後

「ええ、ああ…うううんん」とディオスは微妙な顔をする。


 ケンジロウは頬を引き攣らせる。


 そう、お互いに同じ魔導体質、渦持ちのシンギラリティだと直感のような感覚が伝え、どうしようと、お互いに見合った次に


「まあ、ですよね」

と、ディオスはケンジロウに告げると、ケンジロウは黙って頷いた。


 ヴァアナはケンジロウとディオスのやり取りに疑問を過ぎらせる、クレティアとクリシュナは、ディオスのこの反応に、ケンジロウと旦那と同じ体質だと…察した。


 エルザナは一同を無視して黙々と食べる。


 ヴァアナはクレティアとエルザナの間に座り

「さて…私もお呼ばれしてもよろしいかな?」


 クレティアがディオスを見る。

 

 ディオスは微妙な顔をする。

 ここで拒否すると後々どうなるか分からない。

 判断不明なので、まあ…同席させて問題あるなら、追い出せばいいかと…

「まあ、いいでしょう」


「やった!」

と、ヴァルナは喜ぶ。

 その後ろにケンジロウが立つ、どうやらヴァルナの護衛らしい。


 ヴァルナはテーブルにある料理を食べながら

「さて…楽しい食事をもっと楽しくさせないか? エルザナ・アルダーフ殿…」


 エルザナはフルネームで呼ばれた事で、ヴァアナを警戒で見つめる。


 ヴァアナはニヤニヤと笑みながら、焼いた鳥の腿肉を取って

「率直に言おう。エルザナ殿が持っている。とある天の目を操縦出来る天の目用魔導通信機器が欲しい。もちろん」

 ヴァルナは鶏肉を咬み千切り

「エルザナ殿の言い値で買おう」


 クリシュナは視線を鋭くさせエルザナを見る。

 ディオスとクレティアは互いに視線を交差させる。


 エルザナは黙々と料理を食べる。


 ヴァルナは、ディオス達三人の反応に

「おや…お三方、もしかして知らなかったのか? 私はてっきり、それが目的で近付いたと思っていたが…」


 クリシュナがエルザナに低く鋭く

「どういう事…エルザナ…」


 エルザナは一切の無視をして食べ続ける。


「答えなさい! エルザナ!」

 クリシュナがエルザナに詰め寄るも、エルザナは無視だ。


 ディオスがヴァアナに

「その天の目がどんなモノか、教えてくれないか?」


 その問いにヴァアナは首を傾げ

「タダで教える程、私もバカじゃあない」


「今回の料理のお礼という事でどうだ?」


「ふ…ん。そうだな…じゃあ、ヒントだけだ。それは魔導を使った質量兵器だ。これ以上は、ダメだね」

 ヴァアナは得意そうだ。


 ディオスは今までの単語を整理させる。天の目…人工衛星、魔導を使った質量兵器。

 この二つを併せ持つ事柄…。

「超々高度、遙か上空、宇宙から魔導で作り出した疑似質量を投擲して周囲を破壊する、投擲兵器か…」

 ディオスが考えを告げると。


 ヴァルナは瞳を驚きにして

「お前…知っていてとぼけたな!」


「いいや、本当に今、聞いて知った」

 ディオスはヴァルナを見つめる。


 ヴァルナは不快そうな顔を向ける。

 簡単に解いたディオスが面白くないのだ。


 ディオスは冷静に

「おそらく、その兵器の威力を考察すると、およそ…グランスヴァイン級に匹敵するのだろう」


 威力の規模まで言い当てるディオスに、ヴァルナはますます、気に入らないという顔だ。もっと苦労して色々と聞きだそうとすると思い、おちょくって楽しもうとしていたのだ。


 ヴァルナは、フォークで肉を刺し

「で、分かったなら…欲しくなったの?」


「いらんな…」とディオスは一蹴した。


「へぇ…余裕じゃん」


「ああ…余裕だとも…」


 ディオスがヴァルナをあしらう様子をクレティアはニヤニヤと見る。

 ディオスの実力を知る妻にとっては、確かにグランスヴァイン級の兵器なんて欲しいとは思わないだろうなぁ…と、クレティアは自身の夫の実力を感じ嬉しくなる。


 クリシュナはディオスが導き出した答えを持ってエルザナに

「エルザナ…事情を説明しなさい」


 その問いかけにエルザナは、無視して料理を黙々と食べ、腹を満たすと席を立ち上がり

「ご馳走様。じゃあね」

 店を後にする。


「エルザナ!」

と、クリシュナも席を立ち、エルザナの後を追う。


 クレティアも席を立ち、ディオスに自分の右手を見せ

「じゃあ、ダーリン…後で」

 クレティアが言っているのは、自分もクリシュナに続いて後を追うから、呪印の力で追って来てという事だ。


「ああ…。分かった」

 ディオスは残り、会計を済ます事にする。


 ヴァアナとケンジロウは、エルザナの後を追い


「じゃあね。ごちそうさん」とヴァアナは告げた。

 



 エルザナは、町を歩く。

 その後ろに「エルザナ! 待ちなさい!」とクリシュナと、クレティアが黙って続く。

 それにヴァアナとケンジロウが繋がる。


「待って!」とクレティアがエルザナの腕を掴む。


「何するのよ!」とエルザナは叫んで腕を振りほどき

「アンタには関係ないでしょう!」


 その頬をクリシュナが叩いた。

「関係なくなんかない! 私は…前に、アンタのパートナーだったラザンダに頼まれたの、アンタが捨て鉢になるような事があったら、助けて欲しいって。今のアンタ、その言葉どおりよ」


 周囲の人々が、クリシュナとエルザナに注目している。

 その野次馬視線の中で、明らかに異質な視線が混じっている。

 クレティアはクリシュナに近付き耳打ちする。

「クリシュナ…気付いている…」

「ええ…殺気があるわ」


 その直ぐ後ろにいるヴァアナとケンジロウ達は、ケンジロウが

「おい、お嬢…殺気が混じっているぞ」

「ああ…分かっている」

 ヴァアナは頷いた。


 そこへ、ディオスが駆け付ける。

 呪印の導きによって一同に合流する。その両腕には荷物の包みがある。

「いや…遅れた」


 クレティアが「なにそれ、ダーリン」と両腕に抱える包みを指さす。


「ああ…さっき頼んだ料理のあまりを包んで貰った。もったいないだろう」

 ディオスはエルザナの前に来て。

「エルザナさん。残りの食べ物で、軽くパーティーと行きましょう。色々と話があるようですし。それに今夜は…仲間がいた方が心強いでしょう」

 ディオスも野次馬に混じっている殺気を感じていた。


 エルザナは渋い顔をした次に、黙って前を歩き出した。


「さあ…皆さんも」

と、ディオスは後ろの四人にお辞儀する。

 こうして、一同はエルザナが住んでいる場所へ向かった。


 


 そこは、町から少し離れた林の中にあるログハウスだった。

 ディオスはログハウスを囲む木の柵を一望する。

 柵の柱の元に動きを察知してしらせるアイテムが見える。

 そして、柵からログハウスまでの間に僅かな細い線が地面を走っているのが見える。

 おそらく、警報のアイテムの類いだろう。

 

 エルザナは黙々とログハウスへ向かう。

 その後をディオス達も続く。

 エルザナはハウスのドア前に来ると、右手でドアの真ん中を触れる。

 ログハウスが僅かに明滅する。

 これも誰かが侵入したのを調べているのだろう。

 エルザナは右手を離し、ドアの鍵を解除して開ける。

 どうやら、誰も侵入はしていないようだ。ドアを潜り、エルザナが入り、クリシュナにクレティアとディオス、ヴァアナとケンジロウと入り、エルザナがドアを閉める。


 三部屋くらいのログハウスでディオスは腕に持つ荷物を広間のテーブルに置き

「随分、警戒する割には小さな場所に住んでいるのですね」


「別にいいでしょう」とエルザナは告げて寝室の方へ行く。


 ヴァアナはディオスがテーブルに置いた包みを開き

「おお…沢山あるじゃないか…」

 包みの中にある料理を頬張る。


 クリシュナがエルザナの行った寝室へ向かうと、それにディオスも続こうとしたが

「アナタはここで待っていて」

と、クリシュナに止められた。


「分かった…」とディオスが頷くと、クリシュナは自分の右手を指さす。

 それはディオスとの繋がりである呪印を示す。

 そう…自分が話を聞くから呪印から聞いていて欲しいと…。


 クリシュナはエルザナの寝室に入る。

 エルザナはベッドに腰掛け、両腕を組んでいる。


 クリシュナは腕を組み壁に背を寄せ

「エルザナ…話してくれる?」


 エルザナは顔を歪める。


「話によっては力を貸すわ」

と、クリシュナが告げると。


 エルザナは俯いたまま

「今から、二ヶ月前よ。私とラザンダは…任務の為に、アフーリアに来た。アフーリアのど真ん中にある砂漠でロマリアが極秘裏に超々高度から魔導によって疑似質量を生成して、投擲する質量兵器の実験をしている様子を確認して、組織に連絡したわ」


 クリシュナは、はぁ…と溜息を漏らし

「それで…その超々高度からの投擲兵器を奪取せよと、命令が下ったのね」


 エルザナは懐の魔導収納から、片手サイズの魔導基盤を取り出す。

「これが、その投擲兵器を唯一操作できる。通信基盤よ。これが壊れれば、その兵器の天の目とは、永遠に通信出来なくなり、無用の長物と化す」


「じゃあ…破壊しなさいよ」


「出来ない…」


「どうして?」


「ラザンダの仇を討つまでは…」


 クリシュナは顔を眉間を強く歪め

「何があったの?」


 エルザナは額を抱え

「これを奪取した後、ロマリアの連中が…追って来てとある村落に私達を閉じ込めて、村落を襲撃したわ。そして、隠れていた私達に向かって、捕まえた村落の子供達を盾に、通信基盤を返せって要求してきた。ラザンダは私にこの基盤を託し、一人…子供達を助ける為に、ロマリアの連中の前に行って…それを指揮していたヤツに、殺された」

 エルザナは涙し始め

「指揮官がラザンダから偽の基盤を奪うと、ロマリアの連中は、村落の住人ごと、私を始末しようとしたけど…。ラザンダが死の間際に、精霊魔法を発動して大量の精霊獣を招来させ、村人達や私をそこから逃がしてくれた…」


「つまり…貴女は、仇討ちをする為に、組織に帰還せずその基板を持ち続けているのね…」

 クリシュナの言葉に

 

 エルザナは肯き基板を持ちながら

「これを持っていれば何れ、取り返しにラザンダを殺したヤツが来る。そこを…」


「あんまり、褒められた行動じゃないけど…。でも、私も同じ立場だったら…」

 そう、もしこれが自分と夫のディオスだったら…エルザナと同じ事をするだろう。

 何より、エルザナは組織で様々な事を共にした仲であり、ラザンダがもしもの時は頼むと言っていた事もあって放っては置けない。

 クリシュナが

「さっき、町で多数の殺気を感じたけど…」


「ええ…おそらく、この基盤を奪い返そうとするロマリアの連中だと思う。二・三日前から…」


「そう、じゃあ…今夜あたり、来るかもね」


「ねぇ…協力してくれるの?」


「一応はね…」


「変わったね。前のアンタなら、こんなの組織にとって何の得にもならないから止めろって、冷徹に言っただろうし…」


 クリシュナは頭を掻いて

「色々とあったのよ。とにかく、できる限りの協力はする。でも、どうするかの最後はエルザナ、アンタが決めな」


 エルザナは微笑み

「アンタにこんな事を言うなんて、思わなかったけど…ありがとう」




 その会話を、広間のテーブルで聞いていたディオス達、ディオスはテーブルに広げた食事を食べながらヴァルナを見て

「この話…知っていたのか? いや…知っていました?か」


 ヴァルナは怪しげに微笑む。


 クレティアは、ディオスの隣で食事を頬張りながら

「でも、本当に襲撃してくるかなぁ…この人数だよ」


 ケンジロウは腹を満足させ、葉巻を取り出し口に加えて煙を吹かし

「その心配はない。その兵器の引き渡しが一週間後に迫っている。是が非でも連中は、取り返しにくるだろうよ」


「コラ! ケンジロウ、色々と喋るな!」

 ヴァルナが止めに入る。


「いいじゃねぇか。どうせ、巻き込まれるんだ。色々と情報を共有していた方が、後がいいぞ、お嬢」

 ケンジロウが葉巻の煙を吐く。


 ディオスが、ケンジロウに

「貴女達はどうして、その兵器が欲しいのですか? 自国で使う為? それとも売る為?」


「それは、企業秘密という事で…」とヴァルナはシーと口に指を立てる。


 フーとケンジロウが煙を吐き出し

「それは、両方が狙いだ」


「ケンジロウーーー」とヴァルナがケンジロウに抱き付いて止めようとするもケンジロウは平然と

「天の目といった宇宙に物資を運んでいるのは成層圏まで突き抜ける巨大な神の塔バベルしかない。バベルが使われる目的はあくまで平和利用、こんな兵器を運搬させたなんて知られれば、ロマリアは今後、第二第三のこの兵器を宇宙に置けなくなるどころか、バベルから他の天の目といった宇宙物資を宇宙へ運べなくなる。その情報をダシにロマリアから金をむしり取る事と、この兵器を自分達で好きに使うっていう一挙両得と狙っているのよ」


「バカバカバカーーーー」

 ヴァルナはポンポンとケンジロウの胸を叩く。


 ディオスは、あくどいやり口に顔を引き攣らせ

「はぁ…強欲な事で…」

 そう呟いた次にクリシュナが寝室から帰ってきて、ディオスの隣に来て

「アナタ…ごめんなさい。その…」


 ディオスは笑み

「いいよ。クリシュナの言う通り、手伝うさ」


「ありがとうアナタ…」

 クリシュナは感謝の笑みをディオスに向ける。


 それをケンジロウは興味深そうに見つめた。


 


 一時間後、夜も更けたログハウス内、ケンジロウとヴァルナは、広間の隅で隣り合って座り、ディオスとクリシュナはテーブルに、クレティアは窓から外を見ている。


 クリシュナはディオスの持って来た残り物を食べ、ディオスも同じく食べていると、ニンジンを残すディオスに

「ダメでしょうアナタ! 好き嫌いは良くないわ」


「ええ…でも…」


「いいから食べなさい」

と、クリシュナに押さえてディオスはニンジンのソテーを食べる。それを見て微笑むクリシュナ。


 その安心したような笑みにケンジロウは「おお…」と楽しげに告げる。


 ヴァルナがそれに反応して

「どうした。やけに楽しそうじゃないかケンジロウ」


 ケンジロウはディオス達の前に座り

「よう…アンタ…美人になったじゃあねぇか」

と、クリシュナに向けて告げる。


 クリシュナはキョトンとした次にフッと笑み

「元から美人よ」


「かあぁぁぁ」とケンジロウは唸り「前に出会った時は、綺麗なのに鉄仮面でもったいないと思ったが…。ええ…そんなにこの男のそばが良いのかい?」


 クリシュナは楽しげに笑み

「ええ…最高よ。なにせ、前に言ったでしょう。天候を変えるくらいの強力な魔導士なら…ってね。そういうヒトだから…」


「そうかい」とケンジロウは楽しげニヤける。


 ディオスは、クリシュナとケンジロウを交互に見て

「二人はどういう関係なんだ?」


 ケンジロウは葉巻を咥え

「三年間くらいだったか…。ちょっとした仕事で同席した事があったのさ。そん時はいけ好かねぇ女だったぜ」


 クリシュナは肩を竦め

「アンタこそ、あの時は鋭い感じて怖かったわ」


「はぁ…」とディオスは頷く。


 そこへ、窓を見ているクレティアが「ダーリン、クリシュナ…」と呼ぶ。


「失礼」とディオスは席を立ち、クリシュナも続く。


 クレティアの隣に来たディオスとクリシュナ、窓の端に隠れて外を見るクレティアは窓の外を指さし

「なんか…チラチラ、動いているように見えるよ」


 ディオスとクリシュナも窓の端に隠れて外を見る。

 ログハウスの向こうにある林を人影のようなモノが動いている。


「何をするつもりだ?」

 ディオスは訝しげに見つめる。


「突入する気かしら?」とクリシュナが告げる。


 ディオスは眉間を寄せ「まさか…こんな警報のアイテムだらけの間を?」


 そう、このログハウスと林との間に広がる草地には、エルザナが仕掛けた様々なトラップがある。


 ディオスが、遠見魔法で林の中を覗くと…「は! 伏せろーーーー」


 ディオスはそばにいるクレティアとクリシュナを抱え、その場に伏せる。それを聞いたケンジロウは、一目散にヴァアナへ走り、ヴァアナに覆い被さる。

 次の瞬間、ログハウスが爆発した。

 大量の木片をバラ撒き、ログハウスの半分が消失、外から広間が丸出しになる。


 木片の山からディオスが顔を出す。

 ディオスは寸前の所で防護結界を張っていた。

 そして、ディオスとその防護結界に守られたクレティアをクリシュナも顔を出す。


 ディオスは半壊して外が見えるそこを睨む。

「アレが原因だ」

 ズンズンと地面に足跡を刻む二メータ半の緑色に輝く鋼の鎧装甲。

 前にゼリティアが案内してくれた工場で見た魔導騎士専用の特別重装備装甲、魔導騎士装甲を装備して迫る敵。

 

 クリシュナが苦い顔をして

「そうまでして、取り戻したいのね」


 魔導騎士装甲達が、半壊した場所目掛けて走ってくる。


「クリシュナ! クレティア!」とディオスは二人と視線を交差させる。

 エルザナを連れてここから離れろ!

と、いうディオスのアイコンタクトを読んだ二人は、すぐさま立ち上がり、エルザナのいる寝室に飛び込んだ。


 ディオスは、近付く魔導騎士装甲を前にして、手を組んで解し

「さて…ここから、オレが相手だ」


「じゃあ、任せたぜ」

 ケンジロウがその背に告げる。

 ヴァアナを守ったケンジロウは陸生の走るドラゴンを生成し、それに無事なヴァアナを乗せ、自分も乗ってその場から走り出した。


「やれやれ」とディオスは呆れ気味に呟き、ログハウスの周囲に張られたアイテムのトラップを踏みつぶして迫る魔導騎士装甲と対峙する。




 エルザナの寝室に飛び込んだクレティアとクリシュナは「エルザナ!」とクリシュナが叫ぶ。


「ここよ」とエルザナは寝室の窓の端に体を隠して外を見てる。

 そこにクリシュナとクレティアも来て

「状況は?」とクリシュナが尋ねると。

 エルザナは外を指さし

「魔導騎士装甲が迫っている」

 

 クリシュナとクレティアは互いに肯き合い。


「そんじゃまか…」とクレティアは腰にある剣を両手にして「天井ぶち抜いて逃げるよ」


「はぁ?」とエルザナが訝しい声を発した次に、クレティアは「ライジン」と亜光速の弾頭と化して天井を突き破り大穴を開ける。


 クリシュナが「こっちに来なさいエルザナ!」とエルザナの手を取り、空いた天井から外に出た。三人は屋根伝いに魔導騎士装甲のいない場所に降りて、林の中へ走る。


「ちょっクリシュナ!」

 エルザナは手を引っ張るクリシュナに声を張る。


 クレティアを先頭にしてエルザナを引くクリシュナが

「ここから離れないと、夫の邪魔になるわ」


「はぁ?」とエルザナは「相手は魔導騎士装甲よ!」と叫ぶ。


「だからよ。私達がいたら、夫は自由に戦えないの!」




 半壊したログハウスで一人、ディオスは魔導騎士装甲達を相手にする。


 魔導騎士装甲の大きな肩部が開き、魔導砲の発射口がディオスに合わさる。

「抵抗するな、投降しろ」と魔導騎士装甲から呼び掛ける。


 ディオスはフッと嘲笑い

「重装備装甲の魔導騎士装甲なんだ。強めにいかせて貰うぞ」

”グラビティフィールド・アビス”

 高重力魔法が発動され、強い重力の圧力が魔導騎士装甲に襲い掛かる。

 魔導騎士装甲は立っている事も困難になり、地面に両手を付け、更に重力が強まり四つん這いの魔導騎士装甲が地面に沈む。

 動きが止まったそこへ更にディオスは、追い打ちを掛ける。

”ゼウス・サンダリオン・フィールド”

 膨大な量の稲妻がディオスの魔法陣から放たれ、魔導騎士装甲達を蹂躙する。

 高重力と高雷撃のダブルパンチで、魔導騎士装甲の中にいる騎士は気絶、魔導騎士装甲は、装備者の騎士保護の為に、装甲を強制パージさせ、その場に気絶した騎士達が転がった。


 それを確認したディオスは「さて…」とクレティアとクリシュナを繋ぐ呪印の導きを当てに瞬間移動のベクトを行使する。



 エルザナを連れて逃げる、クレティアとクリシュナ。その後ろで膨大な量の雷と轟音が響いたのをエルザナは目に耳にして

「な、何?」


 先頭行くクレティアが「ああ…ダーリンだよ。きっと…アレなら直ぐに終わったかなぁ」


 エルザナの隣で併走するクリシュナが右手を掲げ、呪印の導きを見る。ディオスが動いている様子から

「どうやら、こっちに向かっているみたい」


 エルザナが戸惑い

「ちょっと…相手は複数の重装備装甲の魔導騎士、魔導騎士装甲よ」


 クレティアが嘲笑いを向け

「あんなのダーリンにかかれば、紙くずよ。相手に同情するわ」


 そこへ「おーい」とヴァアナの声、陸生の走るドラゴンに乗るヴァアナとケンジロウが来た。ヴァアナが

「どうだね? 逃げるなら手を貸すよ。お代は貴女が持っている天の目の通信基盤だ」


 エルザナは、「フン」と鼻息を荒げ隣を走るヴァアナ達を無視する。


「無視は良くないぞ」とヴァアナは告げる。


 クレティアが殺気を感じ「クリシュナ!」と叫んで構えた。

 それに反応してクリシュナとエルザナも構えた。

 最初にクレティアに一撃、流れるようにクリシュナとエルザナに一閃が加わる。

 そして、ケンジロウ達にも一閃が来て、ケンジロウが両手をドラゴンの腕に変えヴァアナを守った。一同が止まったその前に、一閃を加えた者達が着地する。


 ロマリアの戦闘員が纏う軽鎧装備の一人は巨躯の人族、両脇を魔族の細身の兵士二人が付く。


 エルザナは巨躯の人族の男を睨み

「お前…グラドル」


 グラドルと呼ばれた巨躯の人族の男は、エルザナを呆れと怒りで睨み

「よくもまあ、ここまで我らを手こずらせてくれる」


 ヴァアナはグラドルを見て怪しく笑み

「これはこれは…ロマリア特殊兵装部門実働部隊の中佐、冷血のグラドル様ではありませんか」


 グラドルがヴァアナを睨み

「タカリ屋が何の真似だ…」


 ヴァアナは楽しげに怪しく笑み

「美味しい匂いがする所にはね…誘われちゃいますよ」


 グラドルは、エルザナに照準を合わせ

「覚悟しろ。この暗殺者風情が…我らを謀り欺いた報いを受けるがいい」


 クレティアは構え、クリシュナも両手に曲がり鉈のククリを持ち構える。


 そして、クレティアとクリシュナの耳に遠くで鳴り響くドンドンと砲撃の音が入る。

「まさか!」とクレティアが焦った次に、その場に魔導砲弾の砲撃が降り注ぐ。


 一キロ先の遠くから魔導操車がケンタウロス型の背中に砲身を乗せて魔導砲弾を放っている。

 無数の爆炎と土煙に覆われるその場、その真っ只中をグラドルと部下二人は走り、エルザナに迫る。


「クソ!」とエルザナは突撃するグラドル達に斬り掛かるも、グラドル達はその刃を弾きエルザナの鳩尾に一撃を加え気絶させ、エルザナを奪取する。


「エルザナーーーー」

 クリシュナが叫ぶも、遠方からの魔導操車の砲撃で掻き消される。

 

 更に続く砲撃に動きが取れないクレティアとクリシュナにケンジロウ達だが、突如、砲撃が止んだ。

 いや、砲撃が全員の頭上十メータ上で何の障壁に当たって防がれている。


「大丈夫か?」

 その場にディオスが降り立つ。ディオスは魔法陣を展開させ、頭上の強固なオル・シールドの結界を張って魔導砲撃を止めている。


「助かったダーリン」とクレティアは安堵する。


 ディオスは、クリシュナへ「大丈夫か?」と呼び掛け、クリシュナが

「大丈夫、それより…エルザナが…」


「連れて行かれたのか?」


「ええ…でも、位置は分かるわ。さっき手を取った時に、導いてくれる呪印を貼ったから」


「流石だ…」

 ディオスはクリシュナの相変わらずの手際に感動する。





 グラドル達は、自分達が陣を置いている山の麓にエルザナを運んだ。

 その陣は飛空挺が数メータ浮き、下部の輸送ゲートを開いて地面に付けている。

 そこの地面にエルザナをグラドルは下ろし「おい」とエルザナを蹴って起こす。


 エルザナは、鳩尾を押さえながら起き上がると、グラドルがエルザナの襟を掴み

「さっさと出せ。出せば生かしてやる」


 エルザナはフッと嘲笑い、唾をグラドルに吐いた。


 グラドルはそれを拭った次に、エルザナを殴る。


 頬を殴られ、エルザナは転がる。


 その頭をグラドルは踏み付け

「良い度胸だ…。後悔させてやる」

 グラドルの目が殺気に輝く。


 エルザナは蹲り、小さな動きで胸部にある魔導収納を開いて、とあるモノを…あの兵器である天の目の基盤を取り出し操作する。


 そして、体を丸めて小さくする。亀のようになったエルザナにグラドルは、その背を踏み付け

「出せ! どう足掻いてもキサマの終わりだ!」


 エルザナは全く体勢を変えない。エルザナの目的は時間稼ぎだ。

 そう…あと数分耐えるだけで目的が達成される。それで十分だ。

 

 グラドルは腰からアーミーナイフを取り出し

「そうか…痛い目をみないと分からないようだな!」


 エルザナに突き刺そうとした次に、ナイフの刃へ光線が当たって消えた。

「な…」と戸惑うグラドル。


「やれやれ…キサマは何をやろうとしているんだ?」

 ディオスが現れた。

 両隣にはクレティアとクリシュナもいる。


 エルザナは顔を上げ

「アンタ達、何をやっているのよーーーー」

 大声を張り、ディオス達を拒絶する。


「ああ…」とグラドルはディオスを睨むと、飛空挺の下部ゲートから多数の兵士達が出撃しディオス達に魔導銃を向ける。


 その部下の兵士の一人がグラドルに

「中佐、気をつけてください。あの男は我らが出した魔導騎士装甲を戦闘不能にさせたヤツです」


 グラドルは右手を挙げ、部下を下がらせる。

「キサマ…何の用だ?」


 ディオスはグラドルの問いに嘲笑を向け

「お前…女子供に手を出すクソ野郎か?」

 問いで返した。


「何の用だと」とグラドルが苛立ち口にした瞬間、ディオスが嘲笑顔の暴威圧を放射した。

 それはまさに、嵐だ。

 強烈な殺気の嵐がグラドルと魔導銃を構える部下達に襲い掛かり、グラドルは反射的に数歩下がった。それは他の部下達も同じだ。

 

 グラドルの額から脂汗が吹き出る。

 この男、何なんだ? まるで、何か巨大な怪物を人型に押し込めたような感じがする。

 コイツは人の形をした別物だ。

 様々な戦場を渡り歩いて来たグラドルと部下達でさえ、ディオスの暴威殺気に飲まれ沈黙する。


 エルザナも同じだった。コイツ…何なんだ?


 ディオスが一歩前に出て、嘲笑の口角を上げた次に

”グラビティフィールド・オルオーバー”

 ディオスが重力魔法を発動させた次に、グラドルの飛空挺が地面に落ち、グラドルとその部下達全員に高重力負荷が襲い掛かり、全員が四つん這いになる。


「な、な…」と困惑するグラドル。


 クレティアはニヤリと笑み

「はい、解決解決」


 だが、森の中からグラドルを支援した魔導操車達が出現して

「中佐ーーー」

 ディオスに向かって突撃する。


 ディオスは、五機の魔導操車に右手を向け

”グラビティ・スフィア・アロー”

 重力魔法を発動させる。ディオスの魔導操車に向けた右手の五本の指先の上にビー玉サイズの黒い球体が出現し、それが魔導操車に向かって走った。

 魔導操車に小さな黒い球体が接触した瞬間、その黒い球体を中心に魔導操車がねじ切れ破片と操縦者をバラ撒いて粉砕、操縦者が地面に転がる。


 重力魔法によって押さえ付けられるグラドルは、糸も簡単に魔導操車を破壊したディオスに戦慄する。

 この魔導士は一体、何者なんだ?


 事態が収まったそこに、ケンジロウとヴァアナを乗せる陸生ドラゴンが現れ

「いやーー 解決解決」

と、ヴァアナは手を叩き喜ぶ。

 まるで、自分が解決させたような感じで、蹲るエルザナの元へ来て

「このお代は、貴女の持っている基盤で手を打とうじゃないか!」

 しつこく、エルザナの持っている天の目の基盤を催促する。


「バカ!」とエルザナは立ち上がり

「何て事をするのよ! これじゃあ、アンタ達まで巻き込まれるじゃない!」

 エルザナは魔導収納から、あの天の目の基盤を取り出して掲げる。


「はぁ?」とヴァアナは首を傾げる。


 エルザナは、天の目の基盤がカウントする数字を指さし

「ここを攻撃するように、天の目に命令を送ったのよーーーー」


『な、なにーーーーーーーー』

 驚く声が四方から放たれる。


 おそらく、エルザナは自分を生け贄にグラドル達に復讐するつもりだったのだ。



 遙か天空から、魔導疑似質量の固まりが投擲さて、落下の超加速による質量増加を伴って地面に衝突する。その威力は熱核魔法グランスヴァイン級だ。


「後、何分で来る!」

と、ディオスが声を張る。


 エルザナは基盤の情報を見て

「今、この上の上空に来て、発射態勢に入ったわ! 残り一分よ」


 ケンジロウが「お嬢!」と声を張ってヴァアナを引っ張り陸生ドラゴンに乗せた次に、そのドラゴンを飛翔系に変えて逃げようとする。


「間に合うものか!」とヴァアナは声を張る。


 ディオスは夜空を見上げ

「この上にいるのだな、その天の目が…」


 エルザナがディオス達に「早く逃げなさい!」と叫ぶ。


 ディオスは右手を夜空に向け即席の魔法を発動させる。

”レンズ・オブ・タワー”

 空間湾曲の魔法で作った遠見のレンズの集合体で、夜空を望遠する。

 そして、それを捉えた。金色に輝く蝶のような造形をした天の目、人工衛星が魔力を収束させ疑似質量を生成して発射しようとする間近だ。

「よし」とディオスは、天の目を捉えた望遠魔法の天蓋に右手を合わせる。

 その照準は、自分達を狙う天の目だ。

”レイド・グランギル・ガディンギル”

 強力な収束力を持つ光線の攻撃魔法がディオスから発射される。

 光線は、更に望遠魔法の天蓋によって収束、強力な威力を持って、遙か上空、衛星軌道上にある天の目を捕捉する。


 ディオス達に向かって疑似質量を投擲しようとした天の目は、地上から正確無比に伸びる光線を浴びて溶解、爆発四散した。


「うそ…」とエルザナは呟いた次に、手に持っている天の目と繋がる基盤が、天の目との通信エラーを表示させる。カウントは解除された。


 遙か上空、宇宙にある天の目を破壊したディオスに、周囲は驚愕して完全沈黙する。

 だが、言葉を発する者達がいる。クレティアとクリシュナだ。

「ダーリンおめでとう。魔法による長距離狙撃の記録更新だね」

 クレティアは両手を叩き合わせて喜ぶ。


「天の目、壊して良かったのかしら…」

 クリシュナは首を傾げる。


「あ…」とディオスはハッとして

「だったら、落ちてくる超質量を狙撃した方が良かったのかなぁ…」


 平然と対応するクレティアとクリシュナに、エルザナは

「何で、アンタ達はあっけらかんとしているの?」


 クレティアとクリシュナは互いに視線を合わせた次に

「だって、この程度で驚いていたらダーリンと付き合えないもん」

と、クレティアは後ろで腕を組み頭を乗せる。

 クリシュナは、その言葉にうんうんと頷く。


 その後、ディオスの重力の束縛によって動けないグラドル達の両手足に、地属性の錬金魔法で手枷を填めて、一カ所に集めた。

「さて…どうしようか…」

と、ディオスはグラドルを前に腕組みして思案する。


 右にいるクレティアが

「ソフィア様に連絡して引っ張って行って貰う?」


「んん…」とディオスは考える左にはもの凄い形相のエルザナがいる。グラドルを睨んでいる。


 そのそばにあるグラドルの飛空挺から、ヴァアナとケンジロウにクリシュナが現れ

「ダメだーーー 使えそうな情報を一切載せてないーーー」

 ヴァアナが両手を挙げて騒ぐ。ケンジロウは葉巻を吹かす。


 クリシュナはディオスの下へ来て

「これなんてどう?」

 小型の長距離用魔導通信機を持って来る。


 ディオスはそれを受け取り、何処かと直通があるか調べるも、メモリーには何も入っていない。


 ディオスはグラドルを見て

「もしかして、失敗する事を想定して、自分達の所在が分かる情報を削除して来たのか…」


 グラドルはフッと嘲笑う。その通りという事だ。


「ヴァアナさん」とディオスは呼び

「グラドルって名前を知っているじゃないですか? それで何か、有力な事が出来ますかね?」


 ヴァアナは両手を広げお手上げとして

「無理だ。グラドルって名前自体、偽名だし…。この部隊は秘匿だから、ロマリアの部隊だって言って、ロマリアに言っても存在しないって相手にしないだろう」


 グラドルは、フフ…と勝ち誇ったように微笑んでいる。


「成る程…さて、どうしたモノか…」とディオスは考える。


 その左にいるエルザナが右手を回して、曲がり鉈ククリを取り出し

「ラザンダの仇…」

 グラドルを殺そうと一歩進む。


 グラドルはエルザナに笑みを向け

「感謝するぞ。もう…オレ達に帰る場所はない。殺せ。さあ! 復讐を果たしてみろ!」

 グラドルはエルザナを煽る。


「言われなくても…」とエルザナがグラドルに刃を突き刺そうとしたが…。


「待ってくれ。エルザナさん」


 エルザナが鋭い横見でディオスを見て

「何、復讐なんて。無意味だから止めろって言うの…」


「いいや、エルザナさんにとってラザンダさんは、どういう関係だったのですか?」


 エルザナは俯き

「……色々よ」


「色々…男女としても?」


「ええ…そうよ。お互い、家族になる気でいたわ…」

 エルザナが曲がり鉈のククリの柄を強く握る。


「成る程…」とディオスは頷いた次に

「では、コイツもエルザナさんと同じように家族を奪われる苦しみを味わって貰いましょう」


「な…」とグラドルが驚愕した次に、ディオスは懐の魔導収納にあったリアナの時に使い、ケットウィンに渡すつもりの精神侵入装置を手にして、グラドルの被せる。


「何をする気だ!」とグラドルが声を張る。


「ちょっと頭の中を見せて貰う」


 ディオスはグラドルの精神に入り、情報を抜き取る。それは三秒程度の時間だ。

「よし…」とディオスは楽しげに笑む。


 グラドルは困惑の視線をディオスに向ける。

 その耳にディオスはグラドルの本名を告げる。一気にグラドルは青ざめ

「お…お前…」


 ディオスはニヤニヤと怪しく楽しげに笑み

「お前…家族がいるんだな…。奥さんと子供が三人、男の子二人と女の子一人、一番上の長女と、その下に長男に次男…。奥さんにはお前が、ロマリアの国境警備隊にいるってウソをついている…」


 グラドルは、身を乗り出し「止めろ…。何をするんだ。家族は関係ないだろうーーーー」と、必死の抵抗を見せる。


 焦燥し絶望の手前にいるグラドルに、ディオスは残酷な笑みを近づけ

「お前の家族に、お前のやって来た非道を全部、バラして、その罪を背負って貰う」


 グラドルは絶望し「止めてくれーーーーーー」と必死の懇願をする。


 それを聞いたクレティアとクリシュナは、背筋が凍って何も出てこない。

 自分達の夫の残酷さを目にしてドン引きする。


 ヴァアナとケンジロウは、驚きに包まれ何も言えない。


 ディオスはニヤニヤと残酷な笑みを浮かべながら、クリシュナが寄越した長距離魔導通信機を操作、グラドルの家族がいるロマリアの自宅に繋げる。

 呼び出しの音が鳴る中でディオスは、通信の口をエルザナに向け

「さあ…貴女の家族を壊したんだ。コイツの家族も壊してやりましょう」


 エルザナは、ディオスが自分に向ける残酷な笑みに恐怖する。


 そして、呼び出し音が途切れ「はい、ウィシャラスですが…」と女の声がする。

 グラドルの本名の名字を告げる女、妻だ。

 

 グラドルはそれを聞いて「止めてくれーーー」と声を張った。


 それが通信機に届き「あれ、その声…アナタなの?」と妻が返事をする。

「アナタ? アナタ?」と呼ぶ妻の声がする通信口をエルザナに向けるディオス。

 ディオスの視線は、さあ…遠慮なさらずに…の笑みだ。


「あれ、パパがいるの?」と通信口が娘に変わる。


「ねぇ…パパ、いつ帰ってくるの? アタシ、最近ねクッキー習ったの。おいしく出来たから、パパにも作ってあげるね。だから、早く帰ってきてね」


 その通信口をエルザナは取る。

「こんにちわ…」


「あれ? パパじゃあないの?」


「ああ…私、お父さんの部下なの。本当はお父さんが出る予定だったんだけど…。急に用が入って部下の私が受けてしまったの」


「ふ…ん」


「ねぇ…お父さんって家じゃあどんな感じ」


「う…ん。一杯遊んでくれるの。沢山お仕事して沢山休みが取れるから、沢山遊んでくれるの。パパ、力持ちだから何でも作れるの。アタシのベッドや弟のねベッドまで作ってくれたの」


「お父さんの事、どう?」


「だーい好き…」


「そうか…。じゃあ、お母さんに変わってくれる」


「うん、ママーーー」


「はい」と妻に変わる。


「どうも、国境警備隊で隊長の部下をしている者です」


「ああ…どうも…」


「その、すいません。隊長がご連絡をしていたのですが…。急に呼び出しを隊長が食らって私が受け持つ事になりまして…。その隊長からの伝言で、また…近々帰るそうです」


「そうですか…。伝言、ありがとうございます。その…主人はご迷惑をかけていないでしょうか?」


「いいえ…」


「その…ちょっと強情な所がありますから…心配で…」


「そんな、いい隊長ですよ」


「そうですか…ありがとうございます」


「では、また…」

 エルザナは通信を切った。


 ディオスはフンと鼻息を荒げる。


 グラドルは呆然としているそこへエルザナが来て、右手に持つ曲がり鉈ククリを振る。

「う…」とグラドルは右腕に痛みが走る。


 エルザナはグラドルの右腕の肩に×字の傷を刻んだ。

「憶えて置け、お前が傷つけ、命を奪った人達の事を!」

 

 呪いの言葉をグラドルに残し、その場を去る。


 その背にクリシュナが

「彼らはどうするの?」


「知らないわ。顔も見たくないから、何処えでも放せば」

と、エルザナはぶっきらぼうに告げた。そう、解放しろという事だ。


 グラドルは小さく一言「ありがとう…済まなかった…」と意気消沈して告げた。


「やれやれ」とディオスは、この甘いお裁きに呆れた。


 その後、グラドル達は解放され、全兵員が乗ってきた飛空挺によりロマリアへ向かった。

 目的の天の目は消失、どのような責任が彼らを待ち受けるか分からない。

 彼らの飛空挺が去って行く空は、夜が明け始めていた。


「生きて貰わないと困る。折角、助けた命だしな」

と、ディオスはその飛空挺へ送った。


 それと、入れ替わるように別の飛空挺がディオス達の元へ来る。それは、シャリカランの飛空挺だ。

 シャリカランの飛空挺が着地する前に、ヴァアナとケンジロウは

「じゃあね! 強力な魔導士様! 何れ、何処かで」

 ケンジロウの生成した飛翔ドラゴンに、ヴァアナはケンジロウと共に跨がり、何処かへ飛んでいった。


 シャリカランの飛空挺が着地、下部のゲートが開き、シャリカランの者達が現れる。

 その中心にグランド・マスター、アルヴァルドがいた。


 アルヴァルドはディオスに近付き

「色々と御苦労だったな」


「いえいえ、大した事ではありません。お父様」

 ディオスはアルヴァルドにお辞儀する。


 そこへ、クリシュナとクレティアに連れられてエルザナが来た。

 シャリカランに連絡したのは、クリシュナだ。


 クリシュナはアルヴァルドの前に跪き

「グランド・マスター 今回の事は、予測不可能な事態がありました。故に、どうか…エルザナの事については寛大な、ご処置を…」


「うむ」とアルヴァルドは頷く。


 エルザナは跪き

「グランド・マスター 任務の放棄及び、私怨による多大な損失、どう…償えるものではありません。申し訳ありません」


 アルヴァルドがエルザナを見下ろしていると、ディオスが近付き

「お父様…どうか、彼女に寛大な慈悲を。彼女はとても大事な体なので…」


「はぁ?」とエルザナは訝しい顔でディオスを見つめる。


 ディオスは眉間を寄せ

「気付いていないか? 君…妊娠しているぞ」


「え…」とエルザナは戸惑いを見せる。


 アルヴァルドが「これ…」と周囲の部下に頷くと、医療班の部下が妊娠検査機をエルザナに渡す。

 白い体温計のような棒、それをエルザナは口に咥える。

 唾液による妊娠診断のそれは、妊娠しているか否かを、真ん中の凹みが赤くなるかで伝える。

 白なら否、赤なら妊娠している。エルザナの診断は赤だ。妊娠している。


「うそ…」とエルザナは瞳から涙を溢れさせる。

 そう…妊娠している。

 そして、父親は分かっている。ラザンダだ。その子供をエルザナは身篭もっている。

「ああ、アアアアーーーー」

 エルザナは号泣する。色々な感情が爆発して止まらない。


「はぁ…」とアルヴァルドは溜息を漏らした次に

「エルザナ。汝のやった事に対する。処罰は、今後、前線に出る事はさせない。後方で事務処理をして貰う。以上だ」


 その対処にディオスは深々とアルヴァルドに頭を下げ

「ありがとうございます。お父様」


「別に当然の事をしたまでだ」

と、アルヴァルドは淡々と告げた。


 こうして、一夜の一幕は終わった。




 そして、そのまま徹夜した状態で朝、ディオス達はケットウィンの邸に到着する。

「心配しましたよ。昨日到着すると聞いていたのに、全く来なくて…」

 心配していたケットウィンが三人を労う。


「いや…すいません」とディオスは頭を掻く。

「どうも…」と、クレティアとクリシュナは頭を下げる。


 ケットウィンが汚れている三人に

「何か…山でも駆けずり回っていたのですか? 泥だらけですよ」


「色々とです」とディオスは苦笑する。


「さあ…とにかく邸へ。綺麗にしましょう」

 ケットウィンは三人を邸に入れた。


 ディオスは邸に到着して安堵し、疲れた…と内心で呟いた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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