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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
閑話 バルストラン共和王国の日々

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第35話 ヘルクタル共和国のドラゴンナイト

次話を読んでいただきありがとうございます。

ちょっとした話なので気軽に読んでください。

あらすじです。


これはディオスとは別の者の話ではあるが…後々にディオスと絡む事となる。

横話 ヘルクタル共和王国のドラゴンナイト



 黒髪の男は葉巻を加えて海に消える夕日を見ていた。

 今日も、何時ものバーの用心棒、バウンサーの仕事が始まる。

 仕事の始まりを感じながら男は魔導バイクに跨がる。魔導エンジンのキーを入れ始動させると、軽快なリズムを刻んで魔導エンジンが震える。

 仕事の前に、何時もお世話になっている教会の孤児院へ向かう。

 そこが男にとっての始まりの場所だからだ。

 

 男はある日、街の傍にある超古代遺跡のそばで倒れていた。

 そこを、教会のシスターが見つめ、男を保護した。

 男は当初、記憶がなかった。

 そして、この世界の文字を見た瞬間、まるで理解出来なかった。

 男の懐には運転免許証があった。写真と名前は津田 健司郎。

 その記されていた文字はこの世界では一切該当がなかった。

 

 そして、教会の運営する孤児院の子供達と共にこの世界の文字を習い憶えた。

 その頃、記憶が戻って来た。

 そして…気付いた事は、この世界は自分がいた世界とは、全く違う異世界だと知った。

 

 男、ケンジロウは教会の前に魔導バイクを置く。

「シスターシスター、シスターレミア! いるかーーー」

 

シューティア教の教会に入り、誰もいない礼拝堂を進むと、奥の十字架の祭壇の脇にあるドアが開き、金髪で額に角があるオーガ族のシスターが現れた。

 

 オーガ族のシスターレミアは腰に手を当て

「こんばんわケンジロウ。こんな夕方に何の用?」

 その感じは何処か呆れている。


 ケンジロウは、黒のデニムのポケットから小さな皮袋を取り出し、それをレミアに向ける。

「すくないが、使ってくれ」とケンジロウの口調はぶっきらぼうだが、キツい感じはない。


「はぁ」とレミアは溜息を吐き

「ねぇ…ケンジロウ。教会に寄付くれるのはありがたいけど…。それより、もっと真っ当な仕事を見つけてくれた方が、うれしいわ」

 レミアはケンジロウがバーの用心棒、バウンサーをしているのを知っているので、もっと別な仕事があるだろうと、常々、思っている。


 ケンジロウはフンと鼻で笑い

「いんだよ。それなりに身の入りはいいからな」

 

 レミアは悲しそうな顔で

「お金がいいからって、身の危険に晒すようなお仕事は、良くないと思うわ」


 ケンジロウは眉間を寄せ、レミアの説教が始まると分かり「ほらよ」と、レミアにお金の入った皮袋を投げた。


「ああ…」とレミアは受け取る。


「じゃあな、説教はまただ」

と、ケンジロウは手を上げて教会から出ていった。


「はぁ…全く…」とレミアは溜息を漏らした。




 ケンジロウは魔導バイクに跨がり、仕事場のバーへ向かう。その最中、シスターレミアの言葉を思い出す。

”もっと真っ当な仕事を見つけてくれた方が、うれしいわ”


「はぁ…この世界の人間じゃあないオレに、この世界の真っ当なんて通じるのかよ」

 そう皮肉ってケンジロウは向かった。


 夜、そこは怪しげなネオン街だ。

 ここはアフーリア大陸中央部、赤道の上付近にあるヘルクタル共和王国の街、シュラウトだ。

 ユグラシア大陸中央、ユグラシア大陸の南方、その下にあるアルスートリ大陸との航路交点で、様々な国の人々が行き交っている。多国籍で賑わう街のとあるバー、少々クラブ的な感じも混じるそこでケンジロウはバウンサーをしている。


 ほの暗い店内、踊る人達、二階でそれを見て飲む人達、ケンジロウはカウンターの一番左壁側で静かに腕を組んでカウンターに置き、丸イスに座っている。


 そこに一人の獣人の女が近付く、彼女は売春婦だ。

「はぁい…ケンジロウ。景気はどう?」


 ケンジロウは横見して

「まあ…ボチボチだ」


「そう…じゃあさあ、アタシを指名してみない?」

 要するに商売のお話だ。

「前はねぇ…買ってくれたじゃん。また、楽しんでよ」


「気が向いたらな」とケンジロウの視線は組んだ腕だけに固定されている。


 そこへ、カウンターのマスターが近付き

「おい、別の客の所にいけ」


 女は「ちぇ…」と捨て台詞を残して立ち去った。


 このバーはそういう、まあ…大人な事情のバーではあるが、それなりにルールはある。

「すまんな。仕事中は声を掛けないようにと言っているが…」

 マスターが謝りを告げる。


「いいさ、気にしていない」

と、ケンジロウは首を横に振った。


 そうして、数時間後、バーの踊り場で荒い声がする。

「テメェ…よくもやりやがったなぁーーーー」


「何だと! ぶつかったのはお前だろうが!」

 オーガの大男と、魔族の男が言い争っている。


 ケンジロウとマスターはそれを見て

「行ってくる」とケンジロウは告げて席を離れる。


「頼んだ。迷惑になるようなら、つまみ出してくれ」

 マスターはその背に告げる。ケンジロウは右腕を上げて答えた。



「おらーーー」

 オーガの大男が、魔族の男に殴りかかる。


「イテェェェェェ」

 魔族の男が受けて吹き飛び転がった後、立ち上がって殴りかかろうとするそこの間にケンジロウが来た。

「ああ…すまねぇなぁ…。他のお客の迷惑になる。事をするなら外に出てケリをつけてくれないか?」


 オーガの男が苛立ちの顔で

「しゃしゃり出てきやがってーーー」

 ケンジロウに殴りかかる。


 ケンジロウは少し身を逸らし、拳を交わした次に、拳を持って捻り回してオーガの大男を投げた。


「うげぇぇぇぇぇ」とオーガの大男は頭から落ちて転がる。


 魔族の男が「このやろうがーーーー」とケンジロウに殴りかかる。


 ケンジロウは交わした次に、魔族の男の襟首を持って勢いを加速させ、足を掛けて転がし、魔族の男は大きく回転して背中から落ちた。

「もう…気が済んだか?」とケンジロウが尋ねる。


 オーガの大男は立ち上がり右手をケンジロウに向け、魔法陣を展開、魔法を発動させる。

”バハ・フレア”

 炎の魔法の上位がケンジロウを襲うも、ケンジロウは平静としている。

 ケンジロウに赤い炎の火球が迫り、衝突する寸前、ケンジロウの背から黒い巨大な手が飛び出す。それはドラゴンの右腕だ。その右腕が火球に迫り、フレアの炎を握り潰した。


「な…」とオーガの大男は驚き固まる。


 ケンジロウは、射殺すような視線でオーガの大男を睨み

「お前…出禁な」

 背中から現れたドラゴンの右手でオーガの大男を潰そうとした瞬間


「待ってくれ!」と魔族の男がケンジロウに叫び


「待ってくれ。もういい分かった。すまなかった。もう…何もしない」


 魔族の男はオーガの大男に近付き

「もう、十分だろう」


「ああ…」とオーガの大男は頷いた。


 ケンジロウは眉間が寄る。こいつら、タダのケンカじゃないのか?と怪しんでいると。


 パチパチパチと手を叩く音が近付く。


 ケンジロウは手を叩く人物、白いスーツにプラチナブロンドの女を睨む。


 プラチナブロンドの女を睨むケンジロウに、女は怪しく微笑む。ケンジロウにはその笑みがまるで地の底から現れて獲物を選ぶバケモノのように見えた。


 警戒のケンジロウに、女は

「そう…警戒しないでくれ。二人は私の部下だ。君の実力を試すために演技をしてもらったんだよ」


「はぁ…?」とケンジロウは訝しいという声を発する。


 女はケンジロウに仰々しいお辞儀をして

「初めまして、私はヴァアナ・オル・ヘクマルト。ヘクマルト財団の者だ」


 ヘクマルト財団。この国、ヘルクタル共和王国に本部を置く、王族関係のカンパニーだ。

 現女王ヴィルマの弟、アジャルダが会長だ。


「その、財団様がオレに何の用だ?」

 ますます、警戒で見るケンジロウ。


「話は、カウンターで」

 ヴァアナは両手をカウンターに向けた。




 カウンターでヴァアナは丸イスに座り、ケンジロウはその前で距離を取って立っている。

 さっきケンカを演じたオーガと魔族の男達は、ヴァアナの隣につき


「さっき悪かったよ。アンタの力をみたかった」

 魔族の男が謝罪を告げる。


 怪しむ視線でケンジロウは三人を見つめ

「で、何でオレを試した?」


 ヴァアナは足を組み、両手を足の膝に置いて

「君は、金さえ積めばどんな護衛でもするんだよな」


 ケンジロウは腕を組み

「なんだ…護衛の依頼か? それは内容次第だ」


 ヴァアナは怪しく笑み

「君の事は色々と調べている。二年前突如、この街に現れた。君は初め、教会でお世話になっていたがある日、教会を潰して土地を手にしたいマフィアの事務所にカチコミした。それは、マフィアの連中が悪い。教会の孤児を攫って脅して来たんだから。まあ…男一人突っ込んでも結果は変わらないと思われたが…君は違った。君は…マフィア達を半殺しにして、攫われた孤児を助け出し、マフィアの事務所を壊滅させた」

 パンパンとヴァアナは手を叩き

「さあ、君の武勇伝の始まりだ。面子を潰されたマフィアは君を殺そうと、大人数で襲ったが半殺しの返り討ちになる。そして、君は…マフィアの大元まで襲撃し、一犯罪組織を潰した。君は、どうしてそんな事が出来たんだろう? それはさっき部下達に見せたドラゴンの腕が理由さ。君は、どんな方法か分からないが、ドラゴンを好きなだけ生成させ操れる。ドラゴンを操れる者…ドラゴンナイトと君は呼ばれるようになった」


 ケンジロウは、デニムの後ろポケットにある葉巻ケースを取り出し、葉巻を咥えマッチの魔法を使って葉巻に灯し

「ご託は終わったか? で、さっきから聞いているが、何がオレに関係ある」


 苛立つケンジロウにヴァアナは楽しげに笑み

「ごめんごめん。つい…語りたくなるのがクセなんだ。許してくれ。君に荷物の運搬と、その護衛を頼みたい。前金は金貨千枚、後金で金貨二千枚だ」


 フーとケンジロウは煙を吐き

「どんな内容だ? それ次第だ」


 ヴァアナは懐から魔導情報プレートを取り出し、ケンジロウに差し向ける。

「君に運んで欲しい荷物は、これだ。最近、この近辺で見つかった超古代遺跡の兵器だ」


 ケンジロウは魔導情報プレートを受け取り、情報を見る。

 大きさとして四メータ前後の球体で、二つの突起がある。その形はどこかティーポットにも見える。

「これを運ぶのか? 飛空挺でか?」


 ケンジロウの問いにヴァルナは首を横に振り

「いいや、陸路でだ」


「どうしてだ?」とケンジロウの問いにヴァルナは笑み


「これが欲しい連中には、私達が空路で運ぶと、ワザと情報を流している。つまり…我々は囮だ。本命は君が運ぶ。そういう事だ」


 ケンジロウはヴァルナを見つめながら

「陸路で運ぶ時、俺以外に護衛はつけるのか?」


「いいや、つけない。君一人でだ」


「………」とケンジロウは沈黙して考える。

 受けた方が得か…それとも…。

 

 ヴァルナが試す様な笑みで

「もし、君が受けてくれるなら。君がお世話になった教会に、私の方から国に支援の要請が出来るかもしれないぞ」

 

 ケンジロウが眉間が動く。

 

 ケンジロウがこの世界に来てお世話になった教会は、強ちにも裕福な教会の孤児院ではない。シスターレミアや孤児達の事を考えると…。

「いいだろう。請け負う」


 ヴァルナは怪しげに微笑む

「ありがとう。君なら快諾してくれと思っていたよ。詳しい事は後程…いい仕事にしようじゃないか」

と、ヴァルナは右手を差し出す。


 何となく、ケンジロウは握手した。




 二日後、ケンジロウは大型トラックを運転して、この地域で珍しい…まあ、上等とは思えないが道路を走っていた。そのトラックの荷台には、例の超古代遺跡の兵器がシートに隠され載っている。

 今回の仕事は、こうだ。ケンジロウの住むシュラウトの街から三日程かかる遠方の解析施設に、この発掘された超古代遺跡の兵器を運搬する。

 一人でだ。それによって起こる厄介事は、ケンジロウの実力で対処する。


 どんな事になるやら…とケンジロウは行く先を案じる。

 あのヴァアナという女の微笑みに他に何かを隠しているという事を感じ、嫌な予感がして堪らない。


 運転する事、数時間後。

 お昼が近くなった空をサイドミラーで見つめた次に、積み荷の上に一瞬だが、人影が見えた。


「ん…」とケンジロウは怪しむ。

 警戒に越した事はない。ケンジロウはトラックを止め、広がる草原に出て立ちションをするフリをする。

 その背に僅かだが…視線のようなモノを感じた。

 終わったフリをして魔導トラックに戻ろうとしながら、足下から二匹の人サイズの陸生ドラゴンを放つ。

 ケンジロウが生成したドラゴンは、ケンジロウの命令のまま、ゆっくりと積み荷の上へ向かう。

 

 そして、ケンジロウも背中にドラゴンの翼を生やして、一気に飛翔、積み荷の上に出た。

 

 そこに黒いローブを纏う人影があった。

 その人影にケンジロウから出たドラゴン達が挟む。

 動きが止まったとケンジロウは思ったが、その人影が魔法陣を展開させ氷のフィールドの魔法を発動させる。

 ドラゴン二体の足下が凍って動きが止まると、人影は右手を回して巨大な剣を取り出し、ドラゴン達へ向かい走り瞬く間にドラゴンの首を刎ねた。


 ケンジロウは、直ぐに両手を広げ、両手をドラゴンの腕に変えると、ドラゴンを倒した人影に突撃する。


 人影の巨大な剣と、ケンジロウのドラゴンの手が交差する。

 剣とドラゴンの手のつばぜり合いに、人影が

「待って、貴方と戦うつもりはないわ」

と、女の声がした。


 ケンジロウが身を震わせた次に、直ぐに引いて距離を取る。


 人影がそれに安堵して、ローブのフードを外して顔を見せる。

 それはクリシュナだった。

 これはクリシュナがディオスに会う二年前の、シャリカランの暗殺者だった時の事だ。


「なんのつもりだ?」

 ケンジロウが女に尋ねる。


 クリシュナは笑み

「私はただ…同行したいだけよ」


「理由は? ヒッチハイクか?」


 クリシュナは訝しい顔をして

「貴方、聞いてないの? この荷物は狙われているわよ」


「はぁ?」

 



 ケンジロウは、クリシュナを魔導トラックの助手席に座らせ話を聞いた。

「この魔導トラックに乗っている超古代遺跡の兵器を狙っている連中がいるのよ。連中は、何でも正確な情報を掴んだらしく、空路の正式なルートで行く荷物はダミーで、この陸路で行くこっちが本命だってね」


 ケンジロウは葉巻を取り出し、どういう事だ…と、口に加えようとするが


「タバコは止めてね。嫌いだから」

 クリシュナが嫌悪を示す。


 ケンジロウが葉巻をしまい

「その情報は本当なのか?」


「ええ…間違いないわ」


 ケンジロウは額を抱える。どうしてだ? なんで、情報が漏れている? 不意にヴァアナのあの不気味な笑みが思い出され、まさか…ワザと…。


 クリシュナが

「ねぇ…考えている所、悪いんだけど…進まないの?」


 ケンジロウはチィ…と舌打ちしてトラックを発進させた。


 道路を走りながらケンジロウは

「お前の目的はなんだ?」


 クリシュナに尋ねると

「答える必要ある?」


「答えないと、ここから叩き落とす」


「あら、野蛮…そんなんじゃあ、女にモテないわよ」


「叩き落とされたいか?」

 ケンジロウの本気のトーンに、クリシュナは呆れ

「まあ、いいわ。私の目的は、この荷物を奪おうとする組織のトップの一人を殺す事よ」


「その理由は?」


「そんなの答える義理があるの?」


 ケンジロウはトラックを止めて、クリシュナを睨む。


「はぁ…」とクリシュナは溜息を漏らし

「私は、レスラム教暗部、シャリカランの暗殺者なの。この荷物を奪う組織のトップの一人が不義を働いたレスラム教信者なのよ。その始末をする為に、ここに紛れ込んだの」


 ケンジロウはトラックを発進させる。

「その不義の内容は?」


「それも?」とクリシュナは嫌そうな顔をするが、ケンジロウは鋭く横見する。


「はぁ…」とクリシュナは再び溜息を漏らし

「そいつがやった不義は、聖司祭殺しと、信者から巻き上げたお金の持ち逃げよ。とある山岳部に凄く真面目な聖司祭がいたの。その聖司祭にターゲットの男が近付き、教えを広めて信者を増やしたの…。その聖司祭の元に来ると救われるってね。でも、それはまやかしだった。男は、信者が来ると、とある紅茶を出したわ…気分を爽快にさせる麻薬入りのね」


「はぁ!」とケンジロウが鼻で笑い

「つまり、救われていたってのは、麻薬の作用で、その麻薬入り紅茶を求めて中毒になる信者が続出、そいつらのお金を巻き上げていたってオチか」


「正解」とクリシュナは微笑み

「それに、気付いた聖司祭は、男を止めようとした。でも、逆に男に返り討ちにされて殺された。聖司祭は男に殺される前に、レスラム教の総本山にそれを書状で訴えていた。そして、私達シャリカランが到着した時には、男は麻薬中毒にさせた信者達から集めたお金を持ってここに逃げて行方を眩ませたって事よ」


 ケンジロウは首を傾げ

「って事は…お前…これがその男のいる組織に持って行かれる事が望みか…」


「ええ…この荷物に隠れて、男が逃げた組織に入り込み、男を暗殺する。そういう任務なの」


「はぁ…」とケンジロウは「厄介な仕事だぜ」


 クリシュナは腕を組み枕にして

「こちらとしては、手出ししないつもり、組織が来て奪っていけば御の字。そのまま何もなければ、そこでお別れって事」


「暗殺者の同乗者って、どんなだ」


「短い間だけど…よろしくね」


「せめて、美人が横にいるだけでも良しとするさ」


「あら…ありがとう」




 夕方、ケンジロウとクリシュナを乗せた魔導トラックは小さな町に到着する。

 そこの道沿いにあるモーテルのような施設に魔導トラックを止めて、ケンジロウはトラックから降りる。

「いない間…」


「ええ…見ててあげる」

と、クリシュナは答えた。


 ケンジロウはモーテルのショップに寄り色々と食料や飲み物を買い込んでトラックに戻る。

 クリシュナは静かに助手席に座っている。

 そこへケンジロウが食べ物や飲み物を渡す。


「あら…気が利くのね」

と、クリシュナは受け取る。


 トラックでケンジロウと、クリシュナは食事をしていると、ケンジロウが

「なぁ…アンタ…笑った事がないだろう」


 クリシュナは微笑み

「あら、そうかしら…」


「まあなんだ。アンタの笑みはまるで鉄仮面だ。武装した鎧の仮面に見える。本気で笑った事がないだろう」


「それが、貴方に何の関係があるの?」


「折角の美人が台無しだ。楽しげに笑ってみなよ。もっと綺麗になるぞ」

 ケンジロウが飲み物を吸う。


 クリシュナはフッと嘲笑のような笑みで

「暗殺者に楽しいなんて必要? 私はただ、始末をするだけ、その為に笑みが必要なら笑うまで、必要ないなら使わない。そう…それが私の生きている世界よ」


「そうか…。まあ…なんだ。何時かそういう人生が終わったんなら、楽しげに笑いなよ」


「終わる事なんてあるのかしらね…」

 クリシュナの雰囲気が鋭くなる。


 ケンジロウは親指で後ろにある、トラックに据えられた小さな寝床を示し

「アンタがそっちで寝な。オレは運転席と助手席のここで寝るからよ」


「以外と紳士なのね」


「オレなりのルールだよ。女子供には優しくするってな」


「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うわ」




 二人は静かにトラックで眠りながらクリシュナが

「どうして、貴方はこんな事をしているの?」


 ケンジロウは運転席と助手席のベッドで寝返りをうち

「さあな。気付いたらこうなってた。それだけだ」


「そう…運命を選べるなら、好きに生きた方がいいけど…。こんな事をする必要もないと思うわ」


「け、そういうアンタはどうなんだ?」


「私はもう…そういう宿命に生まれたから…」


「暗殺者の宿命か…。そんなモンひっくり返すような男と結婚して、とっと暗殺者を引退しやがれ。その方がお似合いだぜ」


「そんな男…いないわよ。そうね…天変地異くらい起こせる男なら、可能かも」


「いるかよ、そんなヤツ」

 お互いに悪態をついて眠りに入った。



 翌朝、トラックは出発した。

 順調に道を進む魔導トラック、それにケンジロウが

「おい、何も起こらないぞ…。アンタの情報、ガセなんじゃねぇのか?」


「そうかしら…」

 クリシュナはトラックのサイトミラーを見る。

 サイドミラーには小さな点が空にあるのが写っている。

「何れ分かるわ」


「はぁ?」

と、ケンジロウは唸り、トラックを進めた。


 それから一時間後、トラックが人気のない草原に差し掛かると、妙な気配と音をケンジロウは感じた。

「おい、なんだ? この低い唸るような音は…」


「上を見たら?」

と、クリシュナが空を指さす。


「ああ…」とケンジロウが顔を出して空を見上げたそこに、飛空挺が被さって来た。


 そう、低い唸るような音は、飛空挺を動かす魔導プロペラエンジンの音だった。


 飛空挺の下部か開き、そこから大きなマシンハンドが伸びて、トラックを掴もうとする。


「ヤロウーーー」

 ケンジロウはトラックを蛇行させて、マシンハンドを避け続ける。


 暢気にクリシュナは

「そのまま捕まってくれれば、私はありがたいけど…」


「うるせぇーーーー」

 ケンジロウは叫んで、トラックを必死に蛇行させるが、所詮、時間稼ぎでしかない。

 ならば、ケンジロウはクリシュナを引いて運転席に座らせ

「お前が運転しろ!」


「ええ…」

 嫌そうなクリシュナ


「いいからやれ!」とケンジロウは言って運転席のドアを開けて後ろの荷台へ向かう。


 クリシュナと運転が変わって、トラックが直進した次に、マシンハンドがトラックを掴んで持ち上げる。


 その荷台にケンジロウが立ち「クソが!」と呟き、荷台に載せた帰りに使うバイクに跨がり、バイクとドラゴンの生成能力を合わせて、バイクをドラゴンに変えようとした次に、パスッと背中に何かが刺さった音がした。


「え…」とケンジロウが背中を見ると、注射魔導弾が背中に刺さっている。ケンジロウはそのままバイクから転げ落ちて、道路に倒れる。

 マシンハンドが掴んだ時にトラックの動きが止まっていたので、軽傷だ。


「な…」と動かない体を抱えてケンジロウがトラックを見ると、運転席で暢気に手を振っているクリシュナが見えた。

 その聞こえない口の動きからバーアイ…と言っているように見えた。

「ああ…クソッタレが…」


 トラックは飛空挺に呑み込まれ、奪取されて飛空挺は何処かへ消えた。


 道路に転がるケンジロウ。


 そこへ、三台の魔導車が通り掛かりケンジロウの前で止まる。

 その魔導車達の先頭の車両の助手席では、長距離用の魔導銃を持っている獣人の女の姿があった。

 その獣人の女が魔導車から降りて、ケンジロウの傍に来ると、ケンジロウの背中に刺さる注射魔導弾を抜いて

「ごめんね。これ高いんだ」

と、告げる。どうやら、この女が発射したモノらしい。

 

 三台の魔導車の真ん中の魔導車の後部座席が開き、そこからヴァルナが姿を見せる。

「ご苦労様!」

と、ヴァルナは楽しげに笑む。


 ケンジロウは体の動きが元に戻り、上半身を起こして座り

「どういう事だ?」


 ヴァルナはケンジロウの周りを歩きながら

「さっき奪っていった連中に情報をリークしたのは私達だ」


「なんだと…」とケンジロウの顔が鋭くなる。


「こういう事さ、邪魔なんだよ連中が…。潰したいが…居場所が分からない。なら…餌に釣り針を仕込んで居場所を見つければいい」


「はぁ」とケンジロウが頭を振ってデニムの後ろのポケットから葉巻のケースを取り出し葉巻を咥え

「つまり、オレは囮の囮を運んだって事かよ」


「正解だ。連中が持っていたブツには、こちらでしか探知出来ない特殊な魔導マーキングが設置されている。それを手がかりに今、天の目が連中の飛空挺を追跡しているという事だ」


 天の目、この世界でいう人工衛星の事だ。


 そして、こういう算段だ。

 ヴァルナ達にとって、今回の荷物を盗んだ連中は、前から邪魔だった。

 それを潰すために、超古代遺跡の兵器という餌に、天の目で追えるマーキングという釣り針を仕込んだ。

 それによって連中の居場所が分かり、一網打尽に出来るっていう寸法なのだ。


 フーとケンジロウは葉巻を吹かして

「おい、その追跡にオレも加えろ」


 ヴァルナは首を傾げ

「君の役目は終わったんだ。報酬を貰って帰った方が無難だろう」


「ケジメだよ。ケジメ」


 ヴァルナはフッと笑い

「変なヤツ…」




 夕闇が迫る頃、超古代遺跡の兵器を盗んだ飛空挺は、とある山の麓に作られた村のような施設に降り立つ。それを遠くからヴァルナ達が遠見の魔法で見つめる。


 ヴァルナは遠見の魔法で見ながら

「成る程…あ…やって、村のように見せかけてカモフラージュしていたのか…」

 ヴァルナは後ろにいる数十名の部隊を一望して

「諸君、これよりあそこの組織を壊滅させる。奴らは非合法の兵器製造者達だ。手加減する必要ない。徹底的にやれ」


 部隊にいる獣人の女が右手を額に当て「イエッサー」と答える。

 他の隊員も視線が鋭くなり頷くと、部隊にはケンジロウがバウンサーをしているバーで暴れたオーガと魔族の男性達もいる。オーガの男性が

「ヴァルナさん。さっき連れてきた野郎は?」


「あ…そういえば…」

 ヴァルナが周囲を見ると、別の獣人の女が

「ヴァルナさん。アレ!」

 遠見で突入する場所の入口を指さす。


「はぁ…」とヴァルナは指さされたそこを見ると、暢気に正面から施設へ歩くケンジロウの姿があった。

「あのバカ!」



 ケンジロウは悠然と、荷物を攫った飛空挺がある施設の門に近付く。

 門兵達がケンジロウに魔導銃を向け

「止まれ!」

 ケンジロウは止まらず、デニムの後ろポケットから葉巻ケースを取り出し葉巻を加え、火をつけて煙を吹かす。

「止まれと言っている!」と門兵が声を張る。

 

 ケンジロウがフーと葉巻の煙を吐き

「ここに運ばれたオレの荷物を取りに来た。返してくれるなら何もしない」


 門兵達が視線を交差させた次に

「帰れ。ここはお前のようなヤツが来る所ではない」

 ケンジロウの足下に数発、魔導弾を放った。


「そうか…」とケンジロウが呆れ気味に告げた次に「じゃあ…実力行使だ」

 ケンジロウの背中から、二体の陸生ドラゴンが生え出て門兵達に襲い掛かる。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 門兵達は、戦きケンジロウが生成したドラゴンに向かって発砲するも、ドラゴンが全身に生やす鋼並の硬度がある鱗には、無用の長物。魔導弾は弾かれドラゴン達に門兵は一蹴され、ドラゴンが門を破壊してケンジロウの道を作る。


 ケンジロウは悠々と門を潜り、ドラゴン達も脇に続いて潜ると、


「なんだアレは」「知らん」「とにかく、迎撃しろ!」と中にいた兵士達が魔導銃を取り出して、ドラゴン達やケンジロウを襲うも、ドラゴン達は兵士達に突撃して撃滅する。


 ドラゴン達は、各々の暴れ施設を破壊する。

 それを突破した兵士が、ケンジロウに近接、魔導銃を至近距離でケンジロウに放つも、ケンジロウの胸部からドラゴンの手が現れ魔導弾を弾きながら近接した兵士を掴む。

 新たなドラゴンがケンジロウから生じる。

 直立歩行のドラゴンだ。四メータ程の直立歩行のドラゴンが掴んだ兵士を掲げ、何処かへ投げ飛ばした。そして、顎門を開き業火のブレスを吐いて兵士達を一蹴する。


 

 遠くでケンジロウから生じたドラゴン達によって滅茶苦茶になる施設をヴァルナ達は見つめ、部下の魔族の男が

「どうしますか?」


 ヴァルナはフッと楽しげに笑み

「仕事が楽になったじゃないか。この混乱に乗じて潰せ」


「了解」とヴァルナの部下達は答えた。




 ドラゴンの襲撃に混沌化する非合法組織の施設、それを悠々と余裕でケンジロウは進み。

 倒れている兵士の襟を掴み持ち上げ

「おい!」と兵士に呼び掛け起こす。


「う…ああ…」


「お前等が今日、奪った荷物は何処だ?」


「ああ…うう…」


「答えろ!」とケンジロウは怒声を張る。


「ああ…ここから先、二百メートルくらいの所に倉庫があります。その倉庫の中に…」


「よし…」とケンジロウは兵士を離して置いた。




 ケンジロウは兵士の言う通り、二百メートル進みそこにある倉庫を発見、もう一体ドラゴンを生成する。

 今度のドラゴンはサイのような角を持った突撃型のドラゴンだ。

 突撃型ドラゴンは倉庫の大扉を打ち破り、そこにある請け負った荷物が載るトラックを明かした。

 ケンジロウは倉庫に入ると、トラックに乗っていた帰り用のバイクに跨がり魔導エンジンを吹かす。

 ケンジロウの足から黒い液状のモノが流れてバイクに取り付くと、バイクが変形を始める。

 そう鋼に輝くドラゴンに変貌する。

 ケンジロウは、バイクから鋼のドラゴンに変形したそれに跨がり

「さて…ケジメをつけに行きますか…」

 鋼のドラゴンを駆って施設を蹂躙する。


 

 非合法組織の施設の主達は、遠くで炎上する建物と、それを潰すドラゴン達の姿を見て恐れ戦き

「な、何が起こっているんだ?」

 一人が戸惑いの声を漏らす。


「早く、迎撃させろ!」


「ドラゴンなんて倒せるのか?」


 主のリーダー達は現状に対する打開策が浮かばない。

 そして、そこに空から何かが降り注ぎ、リーダー達の建物を半壊させた。

 それをしたのは、鋼のドラゴンである。そして、跨がるケンジロウ。

 リーダー達が腰を抜かしてその場に腰を落としているその様を、ドラゴンからケンジロウは見下ろし

「よう…今回のカリ…キッチリ精算しに来たぜ」


「ひやあああああーーー」

 リーダー達が逃げ出す。

 その一人の前にクリシュナが空から降り立ち塞いだ。

「な、何だ! キサマ!」


 クリシュナはその男にあの鉄仮面の微笑みを向け

「こんばんわ…シャリカランの者です」


 男はそれを聞いて青ざめた次に、腰にある魔導銃を取り出し、クリシュナに銃口を向ける。

 そう、この男がクリシュナのターゲットだ。


 男が発砲する寸前にクリシュナは両手を回して魔導収納から曲がり鉈ククリを取り出して握り、一瞬の早業で男の首を飛ばした。

 男は体だけが前に倒れ、斬られた首は後ろへ転がった。

 その後、切り痕から血が噴き出し地面を赤く染める。

 当のクリシュナには一切の返り血もない。

 綺麗なままでクリシュナは、落ちた男の首を持つと、左手を回し魔導収納から首を保管する特殊な箱を取り出し、取った男の首を箱にしまった。


 それを右手に持ってクリシュナが、ケンジロウに

「ありがとう。貴方のお陰でスムーズに任務が達成出来たわ。じゃあね。ドラゴンナイトの紳士さん」

と、クリシュナは鉄仮面の笑みで投げキッスをして飛翔、何処かへ消えた。


 ケンジロウは恐ろしい程の腕前のクリシュナに背筋が凍る。

「まあ…いいか。今は…ここにケジメをつけてやらないとなぁ」


 ケンジロウのドラゴン達によって施設は壊滅、そこから漏れた兵士やリーダー達は、ヴァルナの部下達に捕まり、全てが一網打尽となった。


 捕まった兵士達やリーダー達を一望してヴァルナが

「いやーーー 爽快愉快、ゴミが片付いてスッキリした」

 満足げにしているそこに、一台の魔導トラックが来る。

 それは、ケンジロウが乗る届け物の超古代遺跡の兵器が載った魔導トラックだ。


 ケンジロウがヴァルナに

「じゃあ…こいつを届けてくるぞ」


 ヴァルナが訝しげに

「もう…そんな必要はないぞ」


 ケンジロウはフッと口元だけの笑みで

「ケジメだよ。ケジメ」

と、そう言ってトラックを走らせた。


 その姿をヴァルナは見つめ

「変なヤツ。だが…面白い男だ」


 そこへ獣人の女が来て

「気に入ったのお嬢」


「ああ…必ず手にしてやる」

と、ヴァルナは欲深い笑みを見せた。



 数日後、ケンジロウは荷物の載った魔導トラックを目的地、解析所に届け、魔導バイクで教会に戻ってくる。

「おい、シスターレミア」

と、教会のドアを潜って中に入ると。


 最前列の席でシスターレミアは誰かと楽しげに話している。

「誰だ?」とケンジロウがそこへ近付くと


「いやーーー 待っていたよ。ケンジロウくん」

 ヴァルナがいた。


「な、お前…」

と、ケンジロウが身を引かせる。


 シスターレミアが席から立ち上がり涙目をハンカチで拭きながら

「本当に良かった。これでケンジロウが真っ当な道に進んでくれるわ」


「は?」とケンジロウはシスターレミアの言葉の意味が分からなかった。


 シスターレミアはケンジロウに近付き

「この方、ヴァルナさんがケンジロウを召し上げたいって。しかも…このヘルクタルで一番のヘクマトル財団にお勤めさせてくれるなんて、私…嬉しくて…」


「え…」とケンジロウは座るヴァルナを凝視する。


 ヴァルナはあの怪しげな笑みを見せる。


「いや…シスターレミア。その…」とケンジロウが違うと言いそうになると、


 シスターレミアはケンジロウを睨み

「まさか…断るなんてしなわよね。そんなバカじゃあないものね」


「ああ…」ケンジロウはその威圧に押されて「は…はい…そうです」と頷いた。


 ヴァルナは勢い良く席から立ち上がり、ケンジロウのそばに来て右手を差し出し

「では、よろしく頼むよケンジロウ」

 あの怪しい笑みを向ける。


 ケンジロウは肩を落として、ヴァルナに握手した。

 内心で、クソッタレ! こういう事か! と、怒りを呟いていた。


 こうして、ケンジロウはヴァルナの部下となり、その三年後、年明け寸前の、バルストラン共和王国にて再びクリシュナと再会する事となる。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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