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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
閑話 バルストラン共和王国の日々

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第34話 バルストラン共和王国の日々 その3

次話を読んでいただきありがとうございます。

閑話、三つ目です。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


バルストランの日々でディオスは、ディオスは色々な事を決断して、教えられて過ごす中、妻達に自分の秘密を…

バルストランの日々 その三


 ディオスは、屋敷にてみんなと夕食を取っていた。丸いテーブルをみんなで囲み。

 両脇にクレティアやクリシュナ、クリシュナの隣にレベッカ、クレティアの隣にユーリ、チズと六人で談話しながら食べる。

「ねぇ、ダーリン」とクレティアが「この前、オルディナイトの理事長さんとの夕食どうだった?」


「ああ…」とディオスは上を向き

「なんか…凄いレストランに連れて行かれて、色々と食べた。おいしかったが…あまりにも馴染みがない食べ物ばかりで…どう、美味しいか分からなかった」


 ディオスが普段食べている食事は、パンにスープにサラダ、ベーコンのジャガイモ炒めとか、ヨーロッパ風の料理だ。感じとしてはドイツに近いイタリア料理といったモノがバルストランの食事事情だ。


「じゃあ、アタシ達も連れて行ってよ」

 クレティアが提案する。


「そうだな…みんなで行って、色々と食べ比べしよう」


 レベッカが静かに

「奥様達と旦那様が、何かの特別な日に行くには丁度いいかと…」


「はぁ? レベッカさん達も入っているぞ」

 ディオスは告げる。


 レベッカは眉間を上げ

「旦那様。そういうお気遣いは無用です」


 ディオスはレベッカの遠慮する態度に、焚き付けられ

「よし、来週、行ってみよう。この六人で」


「旦那様…」とレベッカは呆れる。


 ユーリとチズは、微笑みながら

「あ…ありがとうございます」とユーリ。

「ありがとうございます」とチズ

 二人は礼を言う。


 クリシュナが三人に微笑みを向け

「食事は多い人数の方がおいしいから、ね…」


 レベッカは項垂れ「もう…畏まりました」と了承した。


 クリシュナがディオスに

「何を理事長と話したの?」


 ディオスは、スープを口にした次に

「おう…日々の事を聞かれた。生活はどうだとか…後…ヴァルハラ財団の者が来た事を話した」


「へぇ…」とクリシュナは肯き「で…それで?」


「まあ、ヴァルハラ財団の引き抜きがあったから、それを考えて理事長は、オレの魔導石生成事業を本格的にオルディナイト財団の傘下に入れないかって言ってきた」


 クレティアが「じゃあ…」

「ダーリンは、オルディナイト財団に入るの?」


「いいや、このままだ」


 クレティアとクリシュナは顔を見合わせて

「どうして?」とクリシュナが聞く。


「ああ…いや…」とディオスは言葉を濁す。

 自分が過去に受けた会社のトラウマの所為で、入りたくないとは言えず。

「その、なんだ…。もし、オルディナイトの傘下に入ると、ゼリティアの指揮下に入るだろう。そうなると、師匠の、その…仕事に差し支えると思ってな。変に属すとそれに引っ張られるだろう」


「ふ~ん」とクレティアは鼻を鳴らす。


 ディオスは頭を撫でながら

「後…ゼリティアと友人でいてくれって言われた」


 クレティアとクリシュナは瞳を大きく開いてディオスを見る。


「オルディナイト大公の当主と?」とクリシュナが口にする。


 ディオスは肩を竦め

「変な話だろう。一介の宮仕えの平民魔導士と、大貴族様が友達なんて…」


 クレティアとクリシュナは互いに視線を交差させた次に

「まあ、アタシは剣聖だし」とクレティアが

「私は…元…ねぇ」とクリシュナは暗殺者という言葉を呑み込んだ。


 ユーリが

「きっと旦那様の懐の深さを見込んでの事だと、思いますよ」


 ディオスは「懐ねぇ…」とサラダを頬張って口を閉じつつ

 大貴族と、市井が互いに気が合うとは思えないなぁ…。


 レベッカが

「ご迷惑にならない程度の付き合いなら、よろしいかと…」


「そうだな」とディオスは頷いた。

 そうして、腹を満たして両手を合わせてて「ご馳走様」と告げて食器を片付けようとした時


 チズが

「旦那様。不思議、食べ終わった後、手を合わせてお礼を言う」


「え…」とディオスは止まる。


「ダーリンって確か、極東の国の出身なんだよね」とクレティアが告げる。


「ああ…」とディオスは頷く。そういう事になっている。


 クリシュナが

「ハンターギルドの人に同じ極東の国の生まれの人がいるわ。その人も食べる前に手を合わせて、いただきます。終わった後、ご馳走様といっていたわ。何かの宗教的なクセなの?」


 ディオスは首を傾げ「その…まあ、食べ物に感謝をする習慣みたいなモノだ」


 クレティアが「アタシ等、シューティア教と、クリシュナのレスラム教は、食べる前に神に感謝するお祈りをする習慣と同じって事ね」


「そうだな」とディオスは肯定した。


 クレティアが「他にもどんな習慣があるの? アタシ達、知らないからさぁ」と聞いてくる。


「え…」とディオスは戸惑う。

 自分の習慣、こことは違う世界、地球の日本の習慣と、この異世界にある極東の曙光国の習慣が同じとは思えない。

 たまたま、さっきの食事の作法は同じだったが…。ヘタに言うとバレてしまう。


「教えてよダーリン」とクレティアが催促する。

 ディオスは考える。

 このままウソを通しても何時か、バレる。この共に暮らす六人なら真実を言っても…。


 ディオスの目線が静かに鋭くなる。そして、雰囲気も重く強くなる。


 感じが変わったディオスにクリシュナが

「どうしたの? アナタ…」


 ディオスは静かに鋭く。

「みんなは、信じてくれるか? オレは………そう…この世界の住人じゃあない。この世界と似た魔法のない別の世界から来た異邦人だって言ったら、信じるか?」


 五人の顔が困惑に染まった。ディオスは痛々しい顔をした次に

「冗談だ。冗談、ちょっとやる事があるから、何時か話すさ」

と、場を誤魔化して食器を洗い場のあるキッチンへ持って行った。


 五人はお互いに困惑の顔を向け合う。




 その後、寝る前のディオスはお風呂に入って体を流して、寝間着姿でベッドの足下に座り本を読んでいると、同じくお風呂で一日の疲れを流したクレティアとクリシュナの二人が寝間着ドレス姿で来た。

「じゃあ…」とディオスが二人に横になろうと呼び掛けた時、二人はディオスの両脇に座って。

 

 クレティアが

「ねぇ…ダーリン、夕食の時に言ってた事…アタシね。どんな事があってもダーリンを信じているから」

 

 クリシュナが、ディオスの背中を擦りながら

「私もクレティアと同じよ。アナタを信じているから…」

 

 二人は、夕食に言ったあの、異世界から来たという言葉を気にしていた。

 

 ディオスは本を持って、近くにある小物棚に行き、引き出しから何かを取り出す。

 それは、唯一この世界に持ち出せた地球の物体スマホだ。

「これをどう思う?」

 ディオスは二人にスマホを渡す。


 クレティアとクリシュナは、スマホを触りながら

「これ…魔導情報プレートに似ているけど…」とクレティア。


 クリシュナが、スマホの脇のボタンを押して電源を入れると

「この文字、なんて読むの?」


「横にスライドだ」

 ディオスは告げると、開くスライドタッチをするクリシュナ。

 スマホの画面が開き、自分達の世界にない文字と電子機器の動きに興味津々の後


「これ…もしかして…魔法で動いていないの?」

 クリシュナは気付いた。


「ええ…」とクレティアはスマホを持ち操作すると「ウソ…本当だ。魔力が吸われていない」


 ディオスはクリシュナの隣に座り

「そうだ。魔力、つまり…魔法を使わないで動く電子機器というモノだ」


 この世界の機器は、全て魔法で動く。魔導石による魔力供給や、使用者の魔力を動力として、魔導石を動力とした機器でも、操作の為に使用者の魔力が吸収される。それは、魔力が使われているという独特の感覚がある。


「じゃあ…本当に…」とクレティアは驚く。


 クリシュナは、苦しそうな顔をする。

 僅かだが、クリシュナはディオスと早めに出会っている。

 ディオスが、この世界に関しての知識の無さが妙だなとは思っていた。

 その答えがここで分かったのだ。

 

 ディオスは二人からスマホを取り

「これは、雷系の魔法が動力なんだ。凄いだろう…」

 二人に向けて見せて微笑む姿に、クレティアとクリシュナは、察した。

 ディオスは偶に遠くを見て寂しそうにしている理由がこれだと…。

 ディオスはこの世界の生まれではない。

 別の異世界の生まれだ。

 たった一人の異邦人だ。帰る場所も生きてきた過去も、何もかもこの世界には存在しない。

 たった一人ぼっちだ。

 ディオスはベッドから立ち上がり、スマホを小棚の引き出しにしまい

「驚かせたな。あまり周りには言いふらさないでくれ。と言っても信用する人がいるかも怪しけどな」

 はははは…とディオスは寂しそうに笑った。


 クレティアとクリシュナは立ち上がり、ディオスのそばに来て、ディオスを抱き締めベッドに運ぶ。

 クレティアはディオスの頭をその豊満な胸で抱き締め、

「ねぇ…ダーリン…。寂しかったら…何時でもアタシ達を頼っていいんだよ」

 

 クリシュナは優しくディオスに寄り添い撫でながら

「ええ…私達はアナタの気持ちを全部受け止めてられるから…」

 

 ディオスは困惑して

「いや、おい。何を…」

と、言葉にした瞬間、涙が瞳から溢れてきた。

「あれ、なんで…」

 訳が分からなかった。とにかく、涙が止まらない。

 なんで、オレ泣いているんだ?

 

 ディオスが涙する姿を見て、クレティアとクリシュナは、優しくディオスを包む。


 その暖かさがディオスの涙を更に溢れさせ止まらない。

 ええ…どうして?

 ディオスは自分が涙している理由が分からない。

 だが、クレティアやクリシュナから伝わる安心を感じれば感じる程、心が満たされ涙する。

 ああ…そうか…オレは、二人の言う通り、寂しかったんだ。

 異世界に来て一人ぼっち、この現状に慣れるために必死に寂しい気持ちを押し殺していたんだ…。

 

 クレティアとクリシュナはゆっくりディオスを抱き締めて包みながら、三人が眠るベッドに下ろす。

 そうして、クリシュナは傍にある明かりのスイッチを触って部屋を暗くした。

 

 お互いの輪郭だけが見える暗闇の中で、クレティアとクリシュナはディオスにキスをしたり、抱き締めて撫でたりして、ディオスに温もりを伝える。

 このヒトは、心の底に数え切れない程の寂しさを抱えている。

 ディオスの時折みせる寂しさが出る姿も、自分達を求める事も、そして…子供を欲しているのも、ディオスの中にある寂しさが原因だ。それを、解消してあげたい。


 三人は一番、温もりを伝える生まれたままの姿で、お互いを包み込む。


 ディオスは、全身に二人の温もりと気持ちを感じる。

 クレティアとクリシュナは自分の寂しさを埋め合わせようと、温めてくれる。

 心も何かも暖かくなる。気持ちと存在が合わさった触れ合いにディオスは…。

 そうか…こうやってお互いを思い合い、それによって合わさった形が生まれるんだな…。そうやって、この世界もオレの生まれた世界もヒトとヒトは繋がって続いていった。

 こんな事をなんて言えばいいだろう…。

 そうだ…これが愛なんだ…。

 在り来たりな言葉だ。だが…これ程までに的確な言葉もない。三人は愛し合っているのだ。

 ディオスの寂しさがクレティアとクリシュナの愛で埋まっていく。

 そして、心から自分はこの世界で生きていいんだ…そう感じた。


 

 数日後、ディオスはゼリティアの城邸にいた。巨大な図書館のような書庫でディオスは一冊の本を手にする。

 飛空挺運輸航路における歴史。

 ちょっと面白そうだな…とディオスが興味を引かれていると、


 そばにいるゼリティアが

「それを読みたいのか?」


「ああ…借りてもいいか?」


「うむ、それを借りるなら…」

 ゼリティアは別の方の本棚を探り

「これも合わせて読むと面白いぞ」


「どれどれ…」

 飛空挺構造の進化の歴史

 ディオスは目を見開く。

「おお…確かに…」

 ゼリティアの差し出した関連本も積む。


 今日も、五冊の本を借りてディオスは

「ありがとうなゼリティア。何時も何時も借りっぱなしで…」


「気にするな。自分が目を掛けている者を育てるのも貴族の嗜みじゃ、はははは」

 あの何時もの不遜な姫の笑みをするゼリティア。


「貴族か…」とディオスはポツリ呟く。

 この世界の貴族は、色々な商業に関わっている。


 資金豊富な貴族は、様々な分野の投資や設立に関与して、世界を動かしている。

 考え方を変えれば、それは富の集中で格差を生み出しているのかもしれない。

 だが…この世界は、それで上手く回っている。

 資金が効率良く動き、人々に色々な可能性や生活をもたらしている。

 自分のいた地球の世界なら…絶対にこう上手くいかない。

 富める者は富続け、貧ずる者は貧しいままだ。そして、一気にそれが限界点を迎えて崩壊する。

 戦争、革命、反乱、無政府状態、その他等でだ。


「どうした? ぼーとして」

 ゼリティアが尋ねる。


「ああ…いや、何でも無い。ちょっと考え事をしていた」

と、ディオスは肩を竦める。


「そうか…」とゼリティアは頷いた後「のう…少し話さんか?」


「ええ…いいが…。でも、何時もオレはゼリティアから色々と勉強をさせて貰っているだけだぞ」


「よいよい。お主は頭が良いから、話していても楽しいのだ」


「そう、ならいいけど」


 ゼリティアは、ディオスを庭園テラスにある喫茶場に連れてきて、テーブルを囲んで色々と話す。

 バルストランの社会保障システムとか、隣国の政治姿勢、国同士のパワーバランス。

 とくに、ディオスが驚いたのがバルストランの社会保障制度だ。

 基本、収入が上がる程、医療負担が増えるも、その限度割合は三割で、収入がない者や生活困難者には、医療費の負担が無し、生活困窮者には手厚い補助がある。

 ヨーロッパの進んだ社会保障制度をより良くした感じだ。

 それを聞く度に、この世界と地球の世界との剥離を、いや…寧ろ、地球の世界の社会保障システムが低く思えた。

 この世界は、上流と下流との分断された階級あるも、それがお互いの良い部分を生かし合って良く回っている世界の現状に、地球の世界では絶対無理であろうと痛感する。


 ディオスが真剣に聞く様にゼリティアは嬉しくなって、つい色々と話、ディオスがついてくる質問の良さに、さらにゼリティアは楽しくなり言葉を交わす。


 そうしている間に、昼過ぎから話し始めた時から、夕方近くまで談話してしまい、執事のセバスが来て

「失礼いたします。ディオス様…奥方様がお迎えに…」


 ディオスはハッとした顔をして

「ああ…しまった。話し込んでしまった」

 席を立ちゼリティアにお辞儀して

「今日はありがとうな、色々と…」


「いいんじゃ」とゼリティアは微笑むと

「のう…ディオス…。妾はお主の事を…その…友人と思っておる。これからも忌憚なくのぉ…」


 ディオスは難しい顔をする。

「なぁ…ゼリティア…」


「なんじゃ」


「ゼリティアとオレは…人としては同じかもしれない。だが…人の世界、社会的にはオレはただの市井で、ゼリティアは貴族だ」


「まあ…確かに…」


「オレは、節度をもってゼリティアの友人で有り続けようと思う」


 ゼリティアはえ…という顔をする。


 ディオスは静かに表情を変えず。

「ゼリティア、もし、オレとゼリティアがお互いに命が危ない状況になった場合は、どっちが優先的に救われると思う? それは、ゼリティアが優先される。オレは、ただの魔導士、どこにでもいる一市民だ。ゼリティアは違う。貴族だ。ゼリティアは色んな事を指揮し支え繋がっている。ゼリティアが死ねば、多くの人が困り、もしかしたら…死ぬ人が沢山出るかもしれない。じゃあ、オレが死んだら? そう…困る人は少ない」


「つまり…お主は…妾の友人にはなれないと…」

 ゼリティアは伏せる。唇が震えている。


 それにディオスは

「友人にはなれる。人としては貴族も市井も王も関係ない。罪を犯せば罰せられるし、間違った事をすれば叱られる。命の重さは一緒だ。だが…人の世界では、違う。オレはタダの市民。ゼリティアは世の中を支える貴族だ。矛盾していると言われれば仕方ない。だが…これは事実だ。オレは市井、ゼリティアは貴族。その辺りを分かって友人を続けるつもりだ」


 ゼリティアは手が震えそうになる寸前にディオスから貰った扇子を広げ

「はははは。そうじゃ、妾は大貴族、オルディナイト家当主、ゼリティア・オルディナイト。次期オルディナイト財団の理事長じゃ。そして、お前は、タダの魔導士。妾と友人になれただけありがたいと思え!」

 それは精一杯の傲岸不遜の姫を演じていた。


 ディオスにはそれが何時ものように見え

「ああ…ありがとうございますオルディナイトご当主様」

 その何時ものお別れの言葉を送る。


 ディオスは、迎えに来てくれたクレティアとクリシュナと共に、ゼリティアの城邸を後にする。

 

 その後ろ姿を見てゼリティアは、更にディオスとクレティアにクリシュナが深く繋がっている事を感じる。

 そして…、あそこに自分が加われないと…痛感する。


 その夜、ゼリティアは、自室で篭もってやけ酒を煽っていた。グラスにも使わず強い度数のお酒を瓶ごと一気のみする。

「う…う…」

 そうして、ベッドに顔を埋め声を押し殺して泣いていた。

 ディオスの隣には並べられない。

 ディオスの傍にもいれない。

 自分は大貴族、ディオスは市井。

 その深すぎる断崖に悲嘆した。

 

 コンコンとセバスがドアをノックする。全く返事をしない。

「はぁ…」とセバスが溜息を漏らすと


 メイドが来て

「セバス様、お客様が…」


「伺います」



 ホールに来ると

「久しぶりにゃん!」

 そこには精霊アグニアがいた。


 セバスが近付きお辞儀して

「これはこれは、アグニア様…遠路はるばる遠くからお越しいただき、ありがとうございます」


「ゼリティアの顔を見に来たにゃん」


 その言葉にセバスは困り

「実は…」



 ゼリティアは声を押し殺してやけ酒して泣いていると、ドアが勝手に開いた。開いたそこにアグニアがいた。

「アグニア様…」

 そう告げたゼリティアの顔は涙で白粉やマスカラが溶けて悲惨な状態だ。


「ゼリティア…」とアグニアは微笑み、体が光った。アグニアの体が大人に変わると、ゼリティアに近付き優しくゼリティアに抱き付き

「ほら…抑えなくていいにゃん。一杯泣いていいにゃん」


「おお…ああああああああーーーーー」

 ゼリティアはアグニアの胸の中で思いの丈を発散させて泣いた。




 二日後だ。王執務室でゼリティアはソフィアと政策について話し合っていた。


「これが今の限度じゃ」とゼリティアが告げた。


 ソフィアは悔恨の顔で

「何とかならない? もっと分配よくとか…」


「ソフィア殿…確かにこの政策には、魔族と人族が多くなってしまう。理由は、彼らが長くこれに携わって来たからじゃ。実績を考えんと粗悪になりかねんぞ」


「オーガ達とか獣人達にもチャンスを多く与えられない?」


「ならば、まずは…小さい事からコツコツと積み上げて、足場をしっかりさせねばならん。いきなり、出来る事以上の事を与えれば、苦しくなってダメになるぞ」


「んん…」とソフィアは頭を抱える。


「のう…ソフィア殿…そこまで考える理由はなんじゃ?」

 ゼリティアが尋ねる。


 ソフィアは静かに

「小さい頃なんだ。その時分ってあんまり貴族とか王族とか市民とか、種族とか関係ないじゃん。そして、仲良くなった子達がいたの。でも…大きくなるにつれて、その子達が私から離れていった。私がね。王族だって分かると、友人でいられないって…。嫌だったなぁ…なんで王族なんだろうって。自分の意思で友達を選べないし、それだけで、色んな人達と距離があるの。それが今でも嫌なの…。近い臣下のナトゥムラやスーギィにマフィーリアにはそうしないようにってしているけど…ナトゥムラしか守っていない。弟子のディオスも同じようにって言っているけど。偶に…距離を感じるんだ」


 ゼリティアにそれがチックと刺さった。そうディオスに告げられた貴族と市井の距離。


 ソフィアは目を輝かせて

「私ね、そういうの無くしたい。確かに生まれは違うかもしれない。でも…それだからって違うなんてお互いを遠くにしたくない。それが私の考えなんだ」


 ゼリティアは「はぁ…」と溜息を漏らし

「分かった。もうちょっと思案してみよう」


「ありがとうゼリティア」


 ゼリティアは思った。

 もし、ソフィアの言う通り、貴族と市井や王族、種族、その他の通じる距離が近くなるなら…何時か、自分もディオスの隣に立てるのではないかと…そう感じた。ソフィアの行動理念に乗ってみよう。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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