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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
閑話 バルストラン共和王国の日々

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33/1124

第32話 バルストラン共和王国の日々

新章を読んでいただきありがとうございます。

ちょっとした閑話です。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


バルストランに帰って来たディオスは、ゼリティアの好意と諸々を受けていた。そして…



バルストランの日々


 ディオスは、バルストランに帰って来ると早速、魔導石の製造で忙しかった。

 三ヶ月もバルストランから離れていたので、魔導石の注文が山積みで、朝から晩まで魔導石を作っていた。

 

 そして、朝…ディオスは魔導石の注文書を見て

「生産計画、一日に十五個…鬼だなぁ…」

 ぼやいてたが、とにかく作らねばと、地下室の魔導石生成装置に魔力を送って作る。

 

 こんな状態が一週間半の続き、やっと生産計画を終わらせる。

 

 夕方、何時もの通り、ディフィーレが魔導石を取りに来ていた。

 多くの魔導石を、ディオスはレベッカやユーリ、チズにクレティア、クリシュナの手を借り総出で魔導車に乗せる。

「はい、ディオスさん。サインを…」

 ディフィーレは何時も通りの書類をディオスに渡し、ディオスはサインして

「これで溜まっていた魔導石の生産は、落ち着くのだろう」


「はい」とディフィーレは肯き「何時も通りの二・三個の生産計画になります」


「そうか…良かった…」

 ディオスは安心する。


 ディフィーレが

「ディオスさん。そろそろ税の後半期ですが…」


「あ…」とディオスは顔を顰める。


 バルストランは、一年で二回、税の徴収がある。

 七月にある前期と十二月にある後期だ。

 

 ディオスは項垂れ

「その…ディフィーレくん。税の徴収で、オルディナイトご当主と話をしたいのだが…」

 ディオスは、ゼリティアを他人に告げて呼ぶ時は、オルディナイトご当主と呼ぶ。


 ディフィーレは肯き

「はい、ゼリティア様に伝えときますね」


「頼む」

 ディフィーレは魔導石を乗せて屋敷から離れて行った。


 ディオスは空を見上げる。何時もディフィーレが来るのは夕方だ。

 それがもう夜の帳が降りて暗い。

「もう…十二月か…」

 ソフィアが王となって一年が過ぎようとしていた。季節は冬、寒い時期が到来して来た。



 その夜、ゼリティアから連絡があり、明日なら時間があるので相談に乗ってやると…早速、ディオスはお願いした。


 そして夕食、何時も通りみんなでテーブルを囲んで食べていると、ディオスは不意にレベッカを見て

「そう言えば…レベッカさんってオルディナイト家当主のゼリティアと同じ赤い髪ですね」


「ええ…そうです」

と、レベッカは頷く。


 他にも、ユーリは金髪、チズは碧髪、自分は黒髪とバリエーションが豊富だなぁ…と思うディオス。


 でも、髪の色が似ているって事は、何かゼリティアと関係があるのか?

「レベッカさんは、その…オルディナイトと繋がりがあるのですか?」

 まあ、レベッカはディフィーレからの紹介なので。


 レベッカは首を傾げ

「旦那様、私は火の精霊アグニアの眷属なのです。オルディナイトは精霊アグニア様の血を引いている方が代々、務めておりますので。アグニア様の眷属とも繋がりがあるのです」


「ああ…」とディオスは納得した。

 確か、アグニアも髪が赤かった。成る程、精霊の血筋ねぇ…。

 

 ディオス以外の全員が顔を見合わせ、訝しい顔をして、ユーリが

「旦那様…もしかして、レベッカさんが精霊の眷属だって気付いていなかったのですか?」


「え?」とディオスは目を点にして「もしかして、みんな…知っていた?」


 クレティアが複雑そうな顔で

「だってねぇ…レベッカさんから感じる魔力の雰囲気が精霊の眷属、独特のモノだから」


 ディオスは驚き、食事に使っているナイフとフォークを持つ両手が下がってテーブルに落ちた。

「ええ…精霊の眷属ってそんな、独特の…っていうか、みんなは魔力の雰囲気が分かるの?」


「ええ…」とクリシュナは頷くと、皆が頷いた。


 ディオスはレベッカを凝視する。

 魔力の雰囲気? ええ…どんな? 普通の二十代後半の女性にしか見えない。


 クリシュナが

「ねぇ…ダーリン、レベッカさんが幾つに見える?」


「え…その…二十代後半くらい…」


 レベッカは眼鏡を上げ

「わたくしは、五十九です。純粋な精霊の眷属ゆえに、寿命は旦那様の師匠、エルフのソフィア様と同じく長寿の二百年は軽く寿命があります。これでも若い方で、二十代後半と二十代前半の娘がおります」


「ああ…そう…」とディオスは固まる。

 ウソだろう…五十代! オレよりも三十近くも年上かよ!


 クリシュナが腕を組み不審な顔で

「ねぇ…大体、どんな種族でも精霊の眷属か、そうでないかは分かるわよ」


「ああ…すまん。その…」

 ディオスは困る。

 自分はこの世界の出身ではない。

 そんな事、分かりはしないよーーと内心で叫ぶも、通じないのは仕方ない。

「その…オレ、鈍感なんだ…そういうの…」


「ダーリン」とクレティアが鋭く見て「鈍感にも程があるわよ」


「ああ…すまん…」

 ディオスは頭を下げる。

 相当にこの世界では、失礼な事らしい。

 やばいやばい。気をつけようっていうか…どう見分けるんだ? 

 そう思いつつ、ユーリとチズを見つめる。


 ユーリがその視線の意味を察したのか

「私とチズは人族ですよ。旦那様」


「ああ…うん」

 ディオスは頷く。

 改めて、この世界が魔法の世界だと実感させられる。

 日々の色んな場所で魔力や魔法が当たり前なファンタジーの世界だと…。

 再び、ディオスはレベッカを見て、さっき子供がいるって二十代の娘二人か? 生殖とかどうなんだ? でも女性だから…。

「レベッカさん。旦那さんは?」


 レベッカは顔が少し暗くなる。


 げ! 聞いては行けない事を質問してしまったか!

 焦るディオス。


 レベッカは苦しそうに

「同じ年代の精霊の眷属でした。でも…十七年前に…」


「ああ…」とディオスは複雑な顔をする。

 そう、男女としての生殖で子供が生まれる事が分かった事と、そして亡くなっていた事を知って

「すまない。その…いらぬ事を聞いてしまった」

 謝るディオス。


 レベッカは頭を振り

「いえ、いいんです」


 そして、ユーリとチズが同じく暗い雰囲気になる


「ええ…」とディオスは、何で二人も?と更なる混沌に突入する。


 ユーリが重く「十七年前ですか…」と呟き、チズは項垂れた。


「ダーリン!」

「アナタ!」

 クレティアとクリシュナが怒りを向けてディオスを指摘する。


「ああ…ごめん。その…色々と知らなくて」

 地雷を踏んでしまった事だけは分かるディオス。どうすればいいか落ち込むと


 レベッカが

「確か、旦那様は極東の島国の出身でしたよね」


「ああ…ユグラシア大陸東の島国、曙光国のな…」

 そう、丁度よくユグラシア大陸の東に日本とそっくりの大きな島国があるので、そこを出身であると誤魔化している。


「でしたら、あまり知らないのも…」とレベッカは気遣い「十七年前…それは、第四次ヴァシロウス降臨がありましたから…」


 ディオスは疑問顔で

「ヴァシロウス降臨?」


 ユーリが静かに

「ヴァシロウスとは…二百年前に、このアーリシア全土を征服した魔王ディオスが残した大災厄の巨大悪獣です。四度ほど、アーリシアに現れ、各国の数多の町を破壊して人々を虐殺しました。私とチズは生まれたその年に、両親がヴァシロウスにやられて、亡くしました。この時に孤児になった子供をヴァシロウスの孤児と呼ぶように…」


 あの強そうで気丈なレベッカが目に涙をにじませている。

「私の夫もヴァシロウスに…」


 ディオスは青ざめる。完璧に地雷を素足で走ってしまったと後悔する。

「すまん。オレが無知だった。三人とも本当にすまない」

 何回も頭を下げるディオス。


 ユーリが痛そうな笑みを向け

「旦那様は、凄く強い魔導士様なんですよね」


「ああ…そうだ。天候を変えるくらいな!」

と、何、ビックマウスを口走ってるんだオレ、と焦るディオス。


「じゃあ、旦那様のお力でヴァシロウスなんてちょちょいのちょーいってやっつけてくださいよ」


「任せろ。一撃だ!」

 ディオスはとにかく、場を温めようと必死だ。


 ふっとレベッカは笑み

「まあ…あと、何十年後ですけどね。再び降臨するのは…」




 夜のベッドの上でディオスは「はぁ…」と口を開けて魂が抜けたようになっている。

 そこに風呂から上がったクレティアとクリシュナが来て、二人はフンと呆れた溜息を吐き

「ダーリン、夕食の事…気にしているんでしょう」

「アナタ…やってしまった事は仕方ないでしょう」

 クレティア、クリシュナが告げる。


 ディオスはカクッと項垂れ

「ああ…自分の無知が嫌になる…」


 クレティアがディオスに右に来て、抱き付き

「その…ダーリンがレベッカ達を傷つけようとして聞いたなんて感じ、伝わっているから」


 クリシュナもディオスの左に来て、抱き付き

「ねぇ…アナタ。そんなに気にするなら、明日はちょっと気遣ってやればいいから、そうね。何時も作っている三時のティータイムのお菓子を奮発しましょう」


「ああ…そうだな」

 ディオスは頷く。


 ディオスは自分の料理の腕を上げる為に、レベッカ監視の下で、朝食の後、みんなで取る三時のティータイムのお菓子を毎日作っている。

 何時もはクッキーとか軽めのスポンジケーキだが、今回の事があったのでちょっと豪勢なケーキセットでも作ろうと、ディオスは思った。


 そうして、ディオスはクレティアにクリシュナと共に、夫婦の夜を過ごして眠りにつくのであった。




 翌日の午前半ば、ディオスはオルディナイトの城屋敷にいた。ゼリティアの書斎にあるソファー席に座るディオスは、ゼリティアを対面に、ゼリティアから後期にある納税のアドバイスを受けていた。

 ディオスは自分が収めるべき、税の額に驚く。

 え、金貨…三十万枚…。日本円にして三十億だ。

 オレ、そんなに収入があったのか…ディオスは驚くも、よくよく考えれば、作っている96%の高純度魔導石の時価総額が金貨百万枚、百億で、それを金貨三~四万枚で売っているし、いやいや…三万枚って三億円だし、それを毎度毎度、契約書のサインして、銀行に振り込まれていたから。

 ちゃんと魔導石が軌道に乗ったは確か、ラハマッドの後の事だから…でも、それでも、引かれる税金から計算する半年の収入の金額が…。


「何を黙っている」とゼリティアがツッコム。


「ああ…すまん」

 ディオスは謝る。


 ゼリティアはディオスの収入に関する事を見て

「あと、そうじゃな…今回は、これくらい払うとして…。次回は、投資やらにお金を回せばある程度は、節税も出来よう。あと、内部保留というのも…まあ…」


 ゼリティアはディオスを見つめ

「お主が、半分独立などと拘らないで、妾の部門に完全組み込みになってくれれば、もっと節税は出来るのにのぉ…」


 ディオスは難しい顔をする。

 この世界に来る前の地球で、会社に裏切られ命を狙われたのがトラウマとなっているので、組織に完全に属するというのに抵抗感があった。

 ディオスがゼリティアに頭をさげ

「すまないな、色々と相談に乗ってくれて」


 ゼリティアはフッと笑み、高そうな赤い羽根と宝石の装飾がされた扇子で口元を隠し

「いいんじゃ。お主は我らオルディナイト財団の大事な魔導石の製造者だからのぉ」


 ディオスは妙な疑問に駆られ

「なぁ…ゼリティア…。オルディナイトの年間収益ってどのくらいなんだ?」


 ゼリティアは天井を見上げ

「そうじゃの…。アーリシアや他の大陸に広がるオルディナイトの全部門を併せて…おそらく、金貨九千兆かのぉ…」


「はぁ? 金貨きゅ、九千…兆…」

 ディオスは額から脂汗が出てくる。

 えええ…ちょっと待て、金貨九千兆…円で九千京…

「なぁ…それってアーリシアで一番の…」

と、ディオスは尋ねると


 ゼリティアは首を傾げ

「いいや、確か…去年はフランドイル王国に主を構える。ヴァルハラ財団が一番だったかのぉ…」


 ディオスは鼻から鼻水が吹き出る。そんな規模の企業なんて地球には存在しないからだ。

 ディオスは脳裏に色々とデータを過ぎらせる。

 確か、バルストラン共和王国は、アーリシアの中でも一番に国土が大きな国だ。

 人口は大体、三億くらい。

 アーリシア大陸全体では十二億だから、その四分の一が集中している。

 アーリシアは十二の国からなっていて、その十二国には王がいて、それぞれの政府がある。


 バルストランの国家予算は、金貨九百億枚…日本円で九百兆、地球の世界で一番の国家予算を誇るアメリカの三倍かぁぁぁ。それで、大体少量の黒字だ。ウソだろう! それを知った時には相当のショックをディオスは受けた事がある。


「なぁ…」とディオスが「この世界にある殆どの国が、歳入と歳出で黒字なのか?」


 ゼリティアは「フゥ…」と溜息を吐き

「そうじゃの…アーリシアでは、ここバルストランと隣のフランドイル王国に、北にあるエルフの国のノーディウス王国くらいしか黒字じでしかない」


「え…金貨九千兆クラスの企業が幾つもあるのに?」


 ゼリティアはディオスを扇子で差し

「言って置くが、妾の財団も他の財団もアーリシアには集中していない。他の様々な国を跨がっている。全体を合わせれば多いが、結局は個々バラバラになれば、小さくなる。赤字やギリギリの所もある、そういう事じゃ」


「へえ…」とディオスは呟くとクレティアの祖国、レオルトス王国の事が過ぎり

「なぁ…アフーリアにあるレオルトス王国は、黒字なのか?」


「今は、国を立て直す為に、赤字じゃ。内戦前は、それなりに差し引きゼロだったのじゃ」


「そうか…」


「レオルトス王国はましな方じゃ。アフーリア大陸の殆どの国は、赤字じゃがな」


「じゃあ、国債を発行して…」


「ああ…確か、バルストランも支援という事で、幾つかのアフーリアの国債を買っておる筈じゃ」


「そうか…」

 なんかその辺りは、地球の時の国の関係に似ているなぁ…と思うディオスが不意に

「なぁ…アーリシアで黒字の国ってバルストランとフランドイルにノーディウスの三つなんだろう。じゃあ、他の国は赤字だって事だよなぁ。その赤字の補填は…もしかして…」

 ディオスの予想は、こういう事だ。黒字の三つの国が、残りの九つの国の赤字分、借金を国債で買っているのでは…と。


 ゼリティアは複雑な笑みを浮かべ

「お主のそういう鋭い所が妾は好みじゃ。そう…残り三つの黒字国と、あとお主が勉強に行ったヴィクトリア魔法大学院があるレギレル連合王国の四つがアーリシアの八つの国の借金、国債を買って持っておる」


 ディオスは嫌な感じになり

「それって…その…色々と国と国との関係も大いに影響して…」


「そうじゃ…」とゼリティアは肯き「まず、フランドイルとレギレルは緊密な関係があり、この二国を纏めとして、四つの西側諸国が繋がっている。東の方…内陸側は、バルストランとノーディウスが同盟関係で、この二国を纏めとして同じく四つの国が繋がっておる。アーリシアでは丁度、国家間の関係は二分状態でもある」


「はぁ…」とディオスは溜息を漏らす。そういう国と国との利潤や関係性のややこしさは、自分のいた地球と同じなのだなぁ…と、ファンタジーの世界だったと思っていたら、一気に現実に戻された気になる。


「まあ…ややこしいのは世の常じゃ」とゼリティアが道理を漏らす。


 ディオスは頭を掻き、内側からじゃあ、ややこしさが分からないから…と外から見た視線を求めようかと考えた次に、クリシュナの父、アルヴァルドが過ぎった。

 そうだな、お父様なら裏にも通じているし、色々と分かるかも、何時か行った時に教わろう。


「何を考えておったのじゃ?」とゼリティアが聞く。


「ああ…いや、こういう絡まった関係を知るには外からの意見が聞きたいなぁ…と思ってクリシュナのお父様の事が過ぎったから」


「ああ…シャリカランのグランド・マスターの事か…」


「ああ…アルヴァルド様にね」


 ゼリティアはピクッとを肩を震わせ

「今、何と…アルヴァルド…」


「ああ…アルヴァルド・ミグラシアだったかなぁ…」


 唐突にゼリティアは席を立ち「ちょっと待っておれ」


「はぁ?」


 ゼリティアは書斎にある本棚の一冊を取り出し、テーブルに置いて開き、本にある写真を指さし

「もしかして…この人物か?」

 どこかの人々の集団写真があり、その中でとある人物を指さす。


 ディオスはその人物を見つめる。

 髭に屈強な体、服はユグラシア大陸中央部のターバン風で、鋭い眼光に黒髪、それは間違いなくクリシュナの父でシャリカランのグランド・マスター、アルヴァルドだ。

「ああ…この人だ」とディオスは答えた次に。


 ゼリティアは鋭い顔で

「アルヴァルド・ミグラシア。ユグラシア大陸中央とアフーリア大陸東側、ユグラシア大陸南方にあるユグラシア南海、その下、南極に近い位置にあるアルスートリ大陸と、その広大な範囲の運輸を仕切っておる、マハーカーラ運輸財閥の総帥じゃ」


「はぁ?」とディオスは瞳を大きく広げて驚く。


 ゼリティアは腕を組み鋭い目線で

「そうか…成る程…マハーカーラ財閥とシャリカランが通じているなら、いや…主幹部分なら納得する事がある。マハーカーラ財閥の運輸には、運輸飛空挺を守る強い守護があると聞いている。おそらく、その守護がシャリカラン。そして、運輸なら様々な情報にも通じられる。組織の人員も好きに何処にでも運べる。秘匿組織が維持できる条件は揃っておるな」


 ディオスはそれを聞いて、ゲッと自分の迂闊さを後悔する。

「なぁ…ゼリティア。その…」


 ゼリティアは頭を肯き

「分かっておる。妾の中に留めて置いてやる。じゃが、お主…少し口が軽いぞ。ベラベラと漏らすなよ。良からぬ輩が嗅ぎつけるやもしれんぞ」


「おお…分かった」

 ディオスは何度も強く頷いた。


 コンコンとノックされ「セバスです」と執事のセバスの声がドアからする。


「入れ」とゼリティアが呼びセバスが入り


「失礼します。ディオス様…奥方様達がお迎えに参っておりますが…」


「ああ…もうそんな時間か…」

 ディオスは、冒険者ギルドで貰ったダイアマイトの証であるアダマンタイトの懐中時計を取り出して時間を確認する。十二時五十分だ。

「ゼリティア。ありがとうな色々と…」

 ディオスは席を立つ。


「まあ、何時でも相談に乗ってやるから、有難く思え」

と、何時もの不遜な態度を見せる傲岸不遜の姫様ゼリティア。


「ああ…また、お頼み申しあげます。オルディナイトご当主様」

と、これもお決まりのディオスの仰々しい挨拶で頭を下げる。


「あ、そうじゃ…お主、自分の魔導石がどのように使われいるか見たいと言っておったな」


「ああ…そうだが…」


「来週の金曜日、それを見せてやる。九時半頃、妾の屋敷に来い。工場に連れて行ってやる」


「ああ…ありがたい。その時、クリシュナとクレティアも連れてきていいか?」


 ゼリティアの眉間が分からないくらいに動いた次に

「まあ…いいじゃろう」


「じゃあ、よろしく頼む」

 ディオスは右手を差し出すと、ゼリティアはその手を握り握手して

「うん。そういう事じゃ」




 城屋敷の外の門まで、ディオスを見送りにゼリティアはセバスとメイドを連れてくる。


「ダーリン!」と門の前には、クレティアとクリシュナが自分の屋敷の魔導車のそばに、ディオスが手を振ると、二人が入り、ディオスの両隣に来る。


 ディオスは「じゃあな、ゼリティア」と挨拶をして


「おう、またの」とゼリティアは笑みで手を振る。


 ディオスが背を向け、両隣にいるクレティアとクリシュナの二人の腰を抱き寄せて、頬を寄せた。


 それを見るゼリティアの表情がみるみるキツくなり、何時も不遜な余裕の笑みが消えた。

 そこにあるのは完全な嫉妬だ。

 それを両隣にいるセバスとメイドは感じて、怖くなり固くなる。

 そして、バッキと何かが砕けた音が響いた。


「え?」とディオスはその音に気付いて立ち止まり、音がした後ろを振り向く。

 そこには、平然と微笑むゼリティアと、どこか青ざめているセバスとメイドがいた。


「なんか…音がしなかった?」とディオスは尋ねる。


 クレティアとクリシュナも同じく振り向き、微笑むゼリティアをジーと見ていた。

 二人にはゼリティアの笑みが鉄仮面であると見えていた。


 ディオスは全くそれに気付いていない。何時もの不遜余裕の笑みだと…。


 ゼリティアは「きっと庭の何処かの枝が折れたのじゃろう」と…


「ああ…」

 ディオスはそうか…と思いつつ、あれ?ゼリティア…後ろに手を回している。

 そういえば…あの高そうな扇子を両手に持って前に出していたよなぁ…。

「ゼリティア。あのさっきまで持っていた高そうな扇子どうした」


 ビックとゼリティアが肩を震わせ

「ああ…いや…その…なんじゃ、はははは…」

 挙動不審のゼリティア。そして、背後からあの赤い高そうな扇子が落ちた。メイドの足下に


「え?」とディオスは落ちた扇子を見る。


 真っ二つに九十度鋭角に折れて壊れている。


 メイドの目が光り、その折れた扇子を踏んだ。

「申し訳ありません。落ちた扇子を踏んで壊してしまいましたーーー」

 メイドが声を張って頭を下げて謝罪する。


 えええええ、ディオスは混乱する。

 え、だって折れていましたよね。さっき完全に折れて、それを踏んだんだよね? 何で?


 メイドは大声で

「この罰、何でも受け入れます。申し訳ありませんーーーーー」

 もう、それは強引に押していく。


 セバスが頭を下げ

「申し訳ありません。メイドの彼女の落ち度はわたくしの落ち度、わたくしに罰をお与えくだい」


 ゼリティアは「んん…」と咳払いをして

「そうじゃの。まあ…壊れたモノは仕方ない。換えは幾らでもある。今回は許す。だが、次回はないぞ」


 何か勝手に裁きが進んで、なんだ?と混乱するディオスだが…不意に

「あ…そうだ」と思い出し、懐を探ってとあるモノを取り出す。それは扇子である。

「これ…」とディオスはゼリティアに差し出す。


「な、なんじゃ?」とゼリティアは戸惑う。


 ディオスの差し出したのは、銀縁が付いて木目がある扇子だ。

「その…壊れた扇子の変わりとまでは…いかないけど…。まあ、オレが作った扇子なんだ」


 ゼリティアは受け取り広げると、扇子の右端に青と赤の小さな魔導石と魔導回路が埋め込まれている。


「赤を押すと温風が、青を押すと涼しい風が吹く。まあ、機能性扇子かな…」

と、ディオスは苦笑いをする。


 ゼリティアは扇子を広げたり閉じたりして

「これを妾にくれるのか?」


「試作機第一号。その…まあ、壊れた高そうな扇子よりは、安物だから…やっぱり」


「いいや、貰っておこう」


「そうか、それで、今回の事は…ちゃらって事には…」


 ゼリティアはディオスから貰った扇子を広げ、あの傲岸不遜な笑みの口元に当て、何時も通りの不遜な姫の感じで

「よかろう。お前を気持ちを酌んでやるぞ」


「ありがとう」

 そうして、ディオスは妻の二人と共にゼリティアの城屋敷を後にした。


 その後、ゼリティアは自室でディオスから貰った扇子の先端を額に当て、嬉しそうに微笑んだ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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