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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
冒険者ギルド編

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第31話 冒険者ギルド 帰郷

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これで冒険者ギルド編、終わりです。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ディオスの帰還の日が迫っていた。そして、ディオスを狙って様々な事が…。その時、ディオスは?

いや…妻達、クレティアとクリシュナが!

冒険者ギルド 帰郷


 リーレシアの遺跡調査に来て一ヶ月程経った今、残りの任期も二週間となった。


 ディオス達は、ダイアマイトになってから直接、王国の方の依頼が舞い込む。

 その依頼とは、調査済みの遺跡に発生したドラゴン退治だ。

 依頼を受けると、王国からの魔導騎士部隊が来て、現地に運ばれドラゴンを退治する。

 ドラゴンを退治するのは問題ないが、遺跡の調査に回れなくなる。

 そういう事が増えたので、リーレシアの冒険者や軍が過去に遺跡を調査して蓄積させた情報を取り寄せては調べてドッラークレスの鱗の事を探っている。

 

 その日もドラゴン退治を終えてギルドのスイングドアを潜るディオス達


「はぁ…」とディオスは溜息を漏らしカウンターへ向かい、その後をクレティアとクリシュナが続く。


 カウンターに来たディオスは受付嬢に

「依頼が終わりました」


「はい、今回の報酬でございます」と受付嬢が報酬の小切手を差し出す。


 フゥ…とディオスは小切手を握り

「王国からの依頼はまだあるか?」


「今回で一段落しましたので…無いかと…」


「そうか…」

 ディオスは考える。

 王国からの依頼もないし、一週間、色んな遺跡を回ってドラゴンを退治しまくったので、疲れているなぁ…と思い

「じゃあ、二・三日、休む。何か、緊急の依頼があった場合は…」


「はい。ホテル、ゴールデン・アップルの方に連絡という事で」


「ああ…よろしく」

 ディオス達はギルドを後にした。



 夕暮れ、ディオス達はレストランで食事をして、銭湯スパで汗を流して宿泊地にしているホテルに帰り、カウンターで鍵を受け取り、部屋に入る。

 三人が余裕で寝られるベッドが置かれた部屋と、居間に書斎、クローゼットがある長期滞在用の部屋で、ディオス達は纏っている装備を鎧置き場に干して、楽な服装になる。


 背伸びしたディオスの脇にクレティアが抱き付き

「ねぇ…ダーリン。二・三日休みなんでしょう。だから、今夜は…」


「ああ…そうだな」

 ディオスはクレティアを抱き締めてベッドの方を向くと、クリシュナが大型ベッドに座ってポンポンとベッドを叩く。


 一週間ぶりの三人だけの時間が過ごせる。


 大型ベッドに来ると、クレティアとクリシュナはディオスを抱き締め、一緒にベッドに引き込む。

 遺跡を開拓や探索したりすると移動や、その他諸々で一週間くらい時間が取られる。その間は集団行動で、三人だけの夫婦の時間はない。

 ディオスは、一週間ぶりの夫婦の温もりを合わせる時間に耽溺する。

 明かりを小さくして、お互いが分かる程度の暗さの空間で、ディオスは二人に口づけをしながら、その肌を滑っていく。

 三人は互いに肌と肌を触れあいながら、温もりを交換し、そして、ディオスはまず、クリシュナに溺れる。

 クリシュナの中に沈み、その温もりを貪る。

 ここに来る前は、程良く互いに求め合っていたが、一週間に一回というペースはディオスの中に二人を求める気持ちの積もりをさせ、じっくりと深く、纏わり付くようにクリシュナで果てる。

 クリシュナがディオスと離すと、今度はクレティアがディオスを求め口づけして肌を重ねる。

 激しくも深く、荒々しくもじっくりとクレティアを堪能するディオス。

 クレティアをじっくりとねっとりと味わいつくし、果てる。それが、一回で終わる筈もない。

 何度も何度もクレティアとクリシュナを求めて貪り、自分の中にある二人を求める気持ちを満足させた。


  数時間して、ベッドでディオスは両脇にクレティアとクリシュナを寄せて抱いて天井を見上げる。

 ここでの生活も後、二週間くらいだ。

 ヴィクトリア魔法大学院から、超古代遺跡の探求の為にリーレシア王国に来て、神格炉という存在のおかげであの女アルディルと関わり、コンダクターという人物を知った。コンダクターがどのような人物かは分からないが…おそらく、アリストス共和帝国と関係があるのだろう。

 それはきっと、リベルが見せた銃弾に繋がる事実も…そんな事を考え巡らせていると


 右にいるクレティアが

「寝れないのダーリン」


「ああ…いや、ちょっと考え事をしていてな」


 左にいるクリシュナも

「まあ…明日は、休みだし…ちょっとくらいは夜更かし、しても…」


「いや、寝るよ。起こしてすまないな」

 ディオスは息を吐いて眼を瞑ると、クレティアが唐突に

「ねぇ…ダーリンって、赤ちゃんが欲しい?」


「赤ちゃん…子供か…」

 ディオスは脳裏に、クレティアとクリシュナが産むであろう赤ん坊の姿を想像する。

「そうだな…オレ達の子供か…欲しいなぁ」

と、ディオスが感慨深く呟くと、自分の下半身にあるアレが起き上がってくる。

 赤ん坊が欲しいと思っただけで、その準備態勢に移行した己の一部に、ディオスは顔を引き攣らせる。その準備万端になったアレにクレティアとクリシュナの手が触れた。


「ぷ」とクレティアは吹いて「もう…」


 クリシュナは「ふふ…」と笑み「仕方ないわね」


「すまん」とディオスは、謝りディオスは二人を抱き寄せ、この高まりが収まるまで相手をして貰う事にした。

 二人は優しくディオスを抱き締めた。




 その夜、ナルド達が冒険から帰って来た。

 遺跡の報酬と情報を渡し、四人はレストランで食事をしていると

 

 ナルドが

「全く、またあの連中と関わるなんて…」

 

 ラチェットがフォークを咥えながら

「まあ、ディオスさんが言うには、関わるなって事だから。あの対応で良かったんじゃない」


「悔やむ事はない、ナルド」とハンマーは告げる。


 リベルが魔導情報プレートを持ち

「でも、寸前の所で抜いた情報は…価値があるかも」

と、リベルは情報を見ていると


 ラチェットがそれをのぞき見して

「なんの情報か分かるか?」


「さぁ…」とリベルは首を傾げる。


 ナルドが肯き

「まあ、ともかく、ディオスさんに届けよう。その情報を…」




 翌日の十時程、ナルド達はディオスのいるホテルへ向かう。

「ええ…確か…」とナルドはディオスから聞いたホテルの番号のメモを見る。

「五階の107号室か…」


 ナルドはラチェット、リベル、ハンマーと四人でホテルの五階に来て、その番号の部屋の前に来る。


 リベルが

「確か、ギルドで聞いた話だと、ディオスさんは二・三日休むらしいから、多分…部屋にいるんじゃあないかなぁ」


「ノックしてみるか…」

 ナルドがドアを叩こうとしたそこに、ラチェットの獣人の耳が扉の向こうの事を捉え

「ちょ、ナルド待った」


「んん?」とナルドは手を止める。


 ラチェットは複雑な顔をして

「その…もう少し後にしようぜ」


 ハンマーが顎を擦りながら

「なぜだ、ラチェット…」


 ラチェットは眉間をうねうねと動かして

「そのなんだ…。まあ、いるにはいるんだが…そのなんだ」


 リベルは訝しい顔をして

「なに、いるならいいじゃないか」


 ラチェットは苦悶の顔をして頭を傾げ

「分かった。みんな、静かに…扉に耳を当ててくれ。理由が分かるから」


『はぁ?』とラチェット以外の全員が訝しい顔をするも、言われるままドアに耳を当てる。

 

 そこから聞こえてくるのは…


 ダーリン…子供が欲しいなら、アタシが産んであげる…だから…。

 ああ…オレに子供をくれ。

 ダーリン、ダーリン、そう、ああああ、はぁ、あああぁ、はぁぁあ

 クレティア、クレティア

 ああ、うん、ああああ、うんんん、ああ、来てアタシにダーリンの、命の息吹を頂戴

 ああ…クレティア、クレティア

 ああ、ああん、あああああ

 はぁはぁはぁはぁ

 ねぇ…アナタ…今度は、私にアナタの命の繋がりを頂戴

 ああ…クリシュナ、いくぞ

 ええ…来て、全部、残さず受け止めてあげるから

 クリシュナ、クリシュナ、ああ…もう…

 ああ、はぁはぁはぁ、ええ…来て…アナタの、全部、頂戴

 うああ、あああ、はぁ

 あああああああ、はぁはぁはぁ、そうよ…深く私の中まで注いで


 ナルド達はドアから耳を離す。

 ナルドとハンマーは、顔を引き攣らせ、リベルは頬を真っ赤に染める。


 ラチェットがからかい気味に

「なぁ…だろう」


 四人は無言のまま、ディオス達がいる部屋を離れて、ホテルのロビーで待つ事にした。 

 ナルドとラチェットにハンマーの三人は、ソファー席で座り、リベルは三人から離れて外が見えるテーブルに座っている。


 リベルは頬を真っ赤にさせ、遠くを見て「はぁ…」と溜息を漏らしている。


 ラチェットは天井を見上げ

「ああ…格差だぁ…」


「はぁ?」とナルドが訝しい顔をする。


「だってよう、とんでもなく実力があって、綺麗な嫁さんがしかも二人、いるんだぞ…。そりゃあ…朝から誰だってお盛んになるよ」


「まあ…お前がディオスさんを羨む気持ちは分からんでもないが…」


「ああ…嫉妬ですよ。そうですよ。だってよう、力があって綺麗な女を侍らせて、どっか性格が悪かったら、こんなに嫉妬なんてないよ。なのに、性格がいいし、礼儀がしっかりしているし。もうなんか…どっか、悪い所を探さないと、嫌になるんだよ」


「フン」とハンマーは鼻で笑い「それはお前の鍛錬が足りんからだ。もっと自分を磨け」


「へぇへぇ。鍛錬が足りませんよ」


 そんな感じで四人は時間を潰し、昼くらいになった時、ディオス達三人がエレベータから降りてくる。

 ドアが開き、ロビーが見えると、ディオスはロビーにいるナルド達を見つめ、ナルドとラチェットにハンマーがいるソファー席に来て

「みなさん。こんにちは。どうしたんですか? 自分達はこれからお昼に行くので、みなさんも一緒にどうですか?」

 ディオスが明るく告げる。


 ナルドが

「ああ…その、丁度よかった。軽く休憩してディオスさん達の部屋に行く予定だったんですよ」

 ウソを言った。

 二時間前に来ていて、致している所を聞いていたのでここで待っていましたなんて言えない。


 その案にラチェットとハンマーは乗り

「ああ…そうなんだよ。ディオスさん」

「うむ、そうであるディオス殿」


 ディオスは首を傾げ

「自分達に用事ですか…」


「ええ…」とナルドが頷く。


 ラチェットが窓側にいるリベルに呼び掛ける。

「おーい、ディオスさん達が来たから行くぞ」


 リベルは席から立ち上がり、みんなの下へ来ると、ディオス達を見た次に耳まで真っ赤にして俯いた。

 

 その反応にディオス達は首を傾げ

「どうしたの?」とクレティアが聞くが、リベルは

「な、な、何でもありません」

と、顔を真っ赤にして答えた。




 ディオス達と、ナルド達四人は大きなテーブルのあるレストランの店に入り、全員が丸く座れる円卓に着いた。


 リベルが懐から魔導情報プレートを取り出し

「ディオスさん。まずは、これを見てください」


 ディオスは受け取り、プレートの情報を見る。ディオスの両脇にいるクレティア、クリシュナも共に見る。

 プレートは現代語に翻訳され、何かの折れ線グラフと棒グラフに数値が並ぶ表がある。

 

 ディオスはソレを見ながら、項目を読む

「ああ…高次元波動収束炉における、高次元波動の、事象エネルギー内訳」


 ラチェットが

「そこから次へ捲ってくれ」


 ディオスは、プレートを操作して次を見る。

「アインデウス計画へ、ドッラークレス計画のデータの転送…バベル研究機関へ返信?」


「それは、神格炉の中にあったデータです」とナルドが告げる。


「え…」とディオスが驚きを見せると


 ラチェットが

「実はよう…昨日、遺跡から帰ってきたんだが…。その遺跡には、ディオスさんと初めて攻略した遺跡の中にあったモノと同じ神格炉があった」

 

 ディオスは鋭い視線で

「今もあるんですか?」


 ハンマーが難しい顔をして

「我々が侵入して、押さえた後、直ぐにあの連中が来たのだ」


 リベルは嫌な顔をして

「ディオスさん達が関わるなと言った。アリストスの連中です」


 ラチェットは皮肉な笑みで

「連中が出て行けって言う前に、降参して直ぐに、遺跡を明け渡したのさ」


「そうですか。無事で良かった」とディオスはホッとする。


 ハンマーが

「そのディオス殿に渡したデータ、奴らがくる少しの間にリベルが、スキルのリーディングをして抜き取ったモノです」


 リベルが

「少ししか抜き取れませんでしたが…。そのデータにドッラークレスとあったので、ディオスさんに渡した方が良いかと…」


 ディオスはデータを見て

「そうですか。ありがとうございます。みなさん」


 ラチェットが首を傾げ

「しかし、アインデウスか…」


 ナルドが

「アインデウスか…」


 ハンマーが

「アインデウスとは」


 ディオスの両脇にいるクレティアとクリシュナが

「うわぁ…アインデウスねぇ…」とクレティアが

「はぁ…アインデウスとは…」とクリシュナが

 皆、悩ましげだ。


 ディオスはそんな全体を一望して

「なんだ? さっきからアインデウス、アインデウスって」


 ラチェットが

「ディオスさん、アインデウスを知らないんですか? まあ、この名前を聞いて、神格炉をアリストスの連中が回収しているなら納得する所がありますよ」


「はぁ?」とディオスは訝しい顔をする。


 クリシュナがディオスに

「アナタ、アインデウスって、アリストス共和帝国を治める万年皇帝と呼ばれている人よ。アインデウス皇帝」


「アリストス共和帝国の皇帝だと…」とディオスは驚く。


 クレティアが

「アリストス共和帝国には、軍が二つあるの。一つはアリストス共和帝国の内政軍。そして、アリストス共和帝国の皇帝に従う皇帝軍、ドラゴニックフォース軍団っていうのがね」


 クリシュナが腕を組み

「皇帝に従うドラゴニックフォース軍団は、普段はアリストスに攻めてくる脅威に対応するだけで、侵略行為は行わないわ。アリストス共和帝国が建国されて六千年間、一度も、国外で戦闘を行っていないわ」


 クレティアは頬に手を置き

「でもね。ちょびちょび噂はあるの。アリストスの内政軍に協力して、いるんじゃないかなぁってね。確固たる証拠がないけど…」


 ナルドが顔を前に出し

「神格炉のデータをチョロまかして得たデータから推測出来る事があります。まず、バベル研究機関。おそらく、一万年前の世界の始まりの地、神の塔バベルの事ではないか」


 ラチェットが

「その一万年前からアインデウスっていう皇帝は実在している」


 リベルが

「データでは、アインデウス計画にドッラークレス計画のデータの転送、つまり…ディオスさんが追っているドッラークレスの鱗と、アインデウス皇帝は、何らかの繋がりがあるのかもしれないと…」


 ハンマーが

「そうなると、何かの為に神格炉を回収している連中は、アインデウス皇帝と繋がりがある。アインデウス皇帝の配下という可能性も…」


 ディオスは右手で顎を隠しながら

「リベルさん、姉のリアナさんは、何か…」


 リベルが首を振り

「ごめんなさい。連れ去られた後の事は詳しくは思い出せないそうで…」


 ディオスは考える。

 おそらく、リアナの記憶の欠損は、リアナの中にいた存在によってだろう。

 自分達が知られる手がかりを消すために。

 そして、それに関連してあの女、アルディル関連も…。

 そして、今、得た情報を整理する。

 神格炉を回収しているのはアリストス共和帝国の連中で、しかも…もしかしたら、皇帝の部隊かもしれない可能性がある。

 ええ…たしか、連中はコンダクターという主の命令で動いている。主=アインデウス皇帝。

 確か、妻を助けてくれてありがとうって、ええ…まさか…あの女、アインデウス皇帝の妻!

 ディオスの顔がみるみる鋭くなるそこへ、背後から声を掛ける人物


「これはこれは、皆様。今からお食事でしょうか?」

 その人物は、オールバックの黒髪、丸渕の眼鏡、ダークスーツの長身の男である。丁寧な感じのその男は、ディオスの持っている情報プレートを取り

「これはこれは、黒姫さまの予感も当たるものですねぇ」


 ディオスが不快な顔をして

「おい、アンタ」


 立ち上がろうとしたその両腕をクレティア、クリシュナが引っ張り止める。

「おお、おい、二人とも…」


「ダーリン」とクリシュナが「男の右胸にある紋章」


 ディオスは情報プレートを取った男のダークスーツの右ポケットのある紋章を見る。青、白、黒の三色の柄に竜が二体向き合っている紋章だ。


 クリシュナが

「アインデウス皇帝の紋章…」


 ディオスはハッとする。まさか…。


 男はニヤリと笑み「名乗って置いた方が、威力があるでしょう。私は、アインデウス皇帝の臣下、ディウゴス。ドラゴニックフォース軍団左翼軍団長です」


 ディウゴス以外の全員の雰囲気が鋭くなる。


 ディウゴスは全員の鋭い視線を浴びても平然と笑み、眼鏡を上げ

「ふふ…実は、黒姫様が、アナタ達と再び相対した時に、もしかしたら…神格炉からデータを抜いたのでは?と勘ぐりましてね。まあ、黒姫様の予感が的中したという事です」


 ディオスは、鋭くディウゴスを見つめ

「で、どうするつもりだ…」


 ディウゴスは懐から皮袋を取り出し、テーブルの上に置く。

 ジャリと音がする皮袋。

 ハンマーがソレを開いて確認する。

 金貨の沢山入った皮袋だ。


「考えてください。これは何のお金なのか…。どうして、小切手ではなく直接、現金で渡すのかと…その理由を」

 つまり、この情報に関する口止め料だ。

 ディウゴスは怪しく笑みながら

「妙な功名心に駆られて、言わない事です。言えば…どうなるでしょうねぇ。その莫大なリスクを取るか、このお金で口止めして楽なリターンを取るか…。ああ…そうだ。妙な欲に駆られてゆすりにくるなら。ねぇ…我々の力をもってすれば」


 ナルドが立ち上がり「脅しか!」


 ディウゴスは怪しく微笑み続ける。


 ディオスがナルドに手を伸ばして静止させる。


「ディオスさん」とナルドが口惜しげにする。


 ディオスが、金貨の皮袋を握り

「オレ達は、何も知らない。何も見ていない。お前とあった事さえ無い。この金貨は、ナルドさん達が遺跡の報酬で得たボーナスで、このレストランで豪華な食事をする為のお金だ」

 ディオスはナルドを鋭く見る。


 その鋭さの威圧に押されてナルドが口を紡ぎ座る。


 ディウゴスは、踵を返し

「アナタのような賢明な方は、長生きできますよ」

 ディウゴスはデータを持って去って行った。


 その後、ディオスは円卓に両手をついて、頭を下げ

「みなさん。ここは、自分に免じて…お願いします」

 ディオスの願いにより


「分かりました」とナルドが納得の答えをして、ラチェット、ハンマー、リベルは頷いた。

 もとより、自分達が対応出来る許容をオーバーした事だった。


 ディオスは、金貨の皮袋を持ち

「これで、豪華な食事をして気晴らしをしましょう」

「さんせーー」とクレティアが明るく挙手して「店員さんーーーー」と呼んだ。


 この時の昼食は、店で一番の豪華なモノを選んで囲み、残ったお金は皆で分けたのであった。




 そして、バルストランに戻るまで一週間半くらいになった時だ。


 ディオスは、ソファーに座り、後ろにクレティアとクリシュナが立っている。

 その正面にはギルド長のガジェットと右のソファーには、魔導士のガジェットと同年配の男が座っている。

 彼はこのリーレシアの魔導士協会会長のオルナットだ。

 

 ギルド長室で、ディオスはガジェットから渡された情報プレートを見て

「全長、1.5キロの超古代遺跡ですか…」

 その規模に驚く。


「ああ…そうなんだ」とガジェットは「周辺の遺跡にある情報から、ここが、大規模の賢者の石生成施設だと分かった」


 ディオスはガジェットを向き

「この攻略を自分に…」


「そうだ。この遺跡には五頭のドラゴンが生息して、更にバジリスクドラゴンも多数も蠢いている。出来るかな? グレンテルくん」


「んん…」とディオスは唸る。


 オルナットが

「やはり、君でも難しいか…」


 ディオスは眉間を寄せ

「ドラゴンを退治するのは問題ありません。ですが、この遺跡の規模を調べるとなると…相当な人数が必要です」


 ガジェットとオルナットは目を点にして

「え、ドラゴンが五頭もいるんだぞ」


 ガジェットの言葉に、ディオスは「は?」と首を傾げ

「ドラゴン五頭なんて大した障害では、ありません。調べる方が問題ですね。人海戦術しかありませんから…」


 オルナットが「ドラゴンなんだぞ…」と


「はぁ? たかがドラゴンでしょう。それより、遺跡を調べる人数が…」


 ガジェットが

「ああ…それなら、心配ない。冒険者ギルドと、魔導士協会、王府からも人数を呼べるから、おそらく…600人くらいの大部隊になる」


 ディオスはホッとして

「いや、その人数でしたら、安心だ。自分とクレティアにクリシュナの三人で何とかしろでしたら、絶望的でしたから」


「ははは…そうか」とガジェットは笑う。


 ディオスが笑みながら

「あの…ドラゴンが五頭いるなら、二・三頭くらい…」


 ディオスの後ろにいるクレティアとクリシュナが

「ダーリン…」

「アナタ…」

 もの凄い威圧でディオスの背中を刺す。


「うう…」とディオスは項垂れて「はい。ちゃんと原型を留めて倒します」

 そう、ここ最近、ディオスはクレティアとクリシュナに逆らえない。

 二人に睨まれると萎縮してしまう。

 前の地球の時のネットで理想と現実の夫婦という画像を見た事がある。

 その画像は二つあり、ライオンを題材としていた。

 理想の方は、雄ライオンが雌ライオンに強く出ている。

 現実は、雌ライオンに雄ライオンが怯え縮こまっている。

 そう、まさにこのライオンの画像にあった現実と自分が同じになっている。

 最初これを見た時には、これは情けない男が夫になるからそうなるんだよと、バカにしていたが…いざ、自分が妻を持ち生活したら、この理想と現実の夫婦の画像のように、妻に押されて蹲る夫になったのだ。この画像の意味が本当に身にしみて分かるこの頃だ。


 ガジェットが

「いや…五頭もドラゴンがいるので一頭くらいは…」


 ディオスはハッと顔を明るくさせた次に


「ギルド長!」とクレティアが鋭く

「そうやって、ダーリンを甘やかさないでよ。そうやって許される状況があるなら、絶対この人、そういう状況にワザと追い込んで、ズルするんですから!」


 クリシュナがうんうんと激しく頷いて同意して

「いい、アナタ…分かったわねぇ!」

と、クリシュナが声を張る。


 ディオスは肯き小さくなって「はい…」と呟いた。


 二人の嫁に攻められるディオスの姿に、ガジェットとオルナットは苦笑いをする。


 オルナットが

「いやはや、ドラゴンを瞬殺するダイアマイト級冒険者でも、奥方は怖いと見える」


 ディオスがオルナットとガジェットに

「いや、ギルド長も、魔導士協会長も、奥様には勝てないでしょう」


 ガジェットとオルナットはプッと吹き出し

「はははははは、確かに妻に詰められると、なぁ…オルナット」

「はははははは、ああそうともさ、グレンテル殿の言う通りですよ。これは一本とられたなぁ」

 終始、和やかに話は進み。


 ディオスはプレートを持って

「では、部隊の用意が出来ましたら、お声をお願いします」


「ああ…よろしく頼むよグレンテルくん」

と、ガジェットは手を振り、部屋から出て行くディオス達を見送った。




 ディオス達がいなくなったギルド長室でガジェットが

「聞いたか、オルナット…。ドラゴンなんて問題ないと…。グレンテルくんには、障害ですらないらしい」


 はぁ…とオルナットは溜息を吐き

「本当に…何という男だ。かねがね噂は聞いていたが…。グレンテル殿のお陰で調査開拓した遺跡に発生したドラゴン達が全て退治されたのだろう」


「ああ…凄かったよ。弾丸ドラゴン退治安行なんて…。一日おきにドラゴンのいる遺跡のルートを取り、一日ドラゴン一撃だったとさ」


「彼の生まれについては?」


「極東の島国と聞いている」


「本当にそれが正しいのかなぁ…」


「どうしてだ?」


「いや…ヴィクトリア魔法大学院にいる知り合いに彼が住んでいた場所の正確な情報を聞いたら、バルストランのソフィア王の臣下になる前は、バルストランの北西にあるバランという街にいたらしい」


「ほう…バランか…」


「その街の近くにいるダグラスという貴族の食客だったらしい」


「ほう…貴族の居候ねぇ…」


「そのダグラスという貴族、かつて二百年前に魔王ディオスを倒した英雄アルベルトの子孫だ」


「二百年前の英雄の子孫…」


「そして、バランという街には、嘗て魔王ディオスの居城があった」


「グレンテルくんは、英雄の子孫の貴族に居候し、そこはかつて魔王ディオスの居城があった。まさか…」


「ああ…ここまでくればバカでも分かる。魔王ディオスの奥方達や子供達は、英雄アルベルトに組みして魔王ディオスを倒したので、その後は罪は問わないと罷免にされ、歴史の闇に消えた。だが! その血族は脈々と息づいている。その血族を監視または見守っているのが、アルベルトの子孫、ダグラスだったとしたら…」


「つまり、グレンテルくんは…」


「そう、魔王ディオスの血族かもしれない。だから、グレンテル。グレンテルはバランで取れる赤い血のような宝石だ。ディオス・赤い血の宝石。ディオスの血だ」


「はぁ、噂のような事だが…説得力はある。成る程…魔王ディオスの血族。故に…あれ程までに強力な魔法が使えるか…」


「ああ…おそらく、一番その血が覚醒したのではないか…とね」


「成る程…だから、バルストランのソフィア王の臣下にもなれたと…」


「そして、二人の強い奥方達は、そんな彼への貢ぎ物という事だ」


「おいおい、貢ぎ物とは…いい響きじゃないぞ、オルナット」


「事実だろう。クレティア殿は、レオルトス王国の剣聖。レオルトス王国は最近まで内戦状態だったが、噂で強大な力を持つ魔導士によって内戦が終了した。その成果に相応しい褒美として剣聖をその魔導士、グレンテル殿に贈った」


 ガジェットは呆れた視線の次に

「クリシュナ殿は、噂では、レスラム教の暗部シャリカランの中で最強の暗殺者の神宿りのクリシュナではないかと…。確か、ユグラシア大陸中央でラハマッドの内戦も強力な魔導士によって終わったと噂されている」


「ほら、見ろ。シャリカランがその功績をたたえてクリシュナ殿をデグレンテル殿の嫁にさせたのさ」


「しかし、そんな感じには見えないんだよねぇ。グレンテルくん達夫婦は」


「それはまあ、グレンテル殿の性格の良さで、上手くいっているんだろう。さっきの様子を見る限り、良い夫婦だよ」


 ガジェットは肩を落として

「はぁ…なんか、それを思うと自分のやろうとしている事に、気が重くなってきたぞ」


「ガジェット、このまま、ダイヤの卵を産む鶏を逃がすなんて出来ないだろう」


「グレンテルくん達に頼んだ大規模遺跡調査の後の宴会…その後のグレンテルくんの接待で、金の雫、月の甘露、蜜月の花、愛の戸張」


「準備出来ているじゃ無いか…エンテイスにある高級娼館の手配が…」


「オルナット…例の薬は?」


「ああ…届いているさ。今日には、処方出来る。ガジェットが手配したその娼館の者達にな」


「その薬が来た後、その娼館はその日まで休みにさせる」


「上々、おそらく、薬の効果が一番効いて来た頃にグレンテル殿を寄こせるだろう。その内の誰か一人でもグレンテル殿の子供を宿せば、御の字だ」


「そうなったらグレンテルくん…。まあ、性格から考えて、バルストランに戻ったとしても、ここに何度も来るしかなくなるだろうし、楔にはなるか」


「そして、グレンテル殿の血の力も引いている子も手に入るから良しとな」


「前代未聞の事態だぞ。バルストランの王の怒りを買って、国外追放にされるやもしれん」


「だったら、尚のこと良いではないか! 大手を振ってグレンテル殿をこちらに入れよう。リーレシア陛下もお喜びになるぞ」


「はぁ…これもリーレシアの未来の為と思って、心を鬼にするか…」





 次の日、ディオス達は、ナルド達と共に移動の魔導トラックに乗っていた。

 その一台の他に大多数の魔導トラックが併走して平原を走っている。大きな部隊だ。

 荷台の席で、ディオスは左右にクレティアとクリシュナを伴っているそこへ、対面にいるラチェットが

「いや…今回はボーナスだろう。ディオスさん達がいるって事は」


「はぁ…」とディオスは何となく頷く。


 ラチェットの隣にいるナルドが

「全長1.5キロの大規模遺跡調査。そこにいる五頭のドラゴンと群がるバジリスクドラゴンの群れ、その全てをディオスさん達が倒すとなると、どの位で終わりますかね」


 ラチェットが手を上げ

「賭けようぜ。オレは三十分」


 ナルドの隣にいるハンマーが

「では、私は四十分」


 ナルドが

「オレはちょっと進めて四十五分」


 ハンマーの隣にいるリベルが

「ちょっと、みんな…勝手すぎだよ。ディオスさん困っているだろう」


「はははは」とディオスは呆れ気味に笑う。


 ラチェットが笑みながらディオスに

「でも、ディオスさん。後数日したら、バルストランに帰るんだろう…。はぁ…ディオスさんがいるとこんなにもボーナスが多いのに…。ねぇ、いっそうの事、リーレシアにいなよディオスさん」


 ディオスは困った顔をして

「すまない。ラチェットさん。それは…出来ない」


「ああ…残念」とラチェットは肩を落とす。


 ディオスは苦笑しながら

「でも、ここでの冒険には許しが出れば、年に何回かは来ますから」


 ナルドが残念そうな顔で

「そうですか…それまで、楽しみにしていますよ。ディオスさん」


「ええ…」とディオスは頷いた。



 ディオス達、大規模遺跡調査団は、目的の大規模遺跡の傍に来る。

 600人いる一団は、トラックから降りて森林に沈んでいる遺跡群を見つめる。

 その遺跡群の高い五つの部分にドラゴンが一頭ずつ見える。


 ディオスは遠見の魔法でドラゴンを確認しながら

「ほう…火属性のフレイムドラゴンが二頭、水と風属性の氷のブリザードドラゴンが三頭と…」


 右隣にいるクレティアも遠見の魔法で周辺を見ながら

「ダーリン。周辺にバジリスクドラゴンの影が多数ある。バジリスクドラゴンはアタシとクリシュナで片付けるから、ダーリンはドラゴン五頭をお願いね」


「ああ…考えている新型の魔法を試してみる」

 ディオスの左にいるクリシュナが腕を組み

「くれぐれも、やり過ぎないでね」


「分かっている。じゃあ…」

 ディオスは、後ろにいる冒険者の人達を見て

「行ってきますので、後は…」


「あいよ」と冒険者達の中にいるラチェットが手を上げる。


 ディオスは肯きを送り、クレティアとクリシュナと共に向かった。


「さてさて」と冒険者達はそこで野営の準備を始める。そこに、冒険者とは違う魔導騎士の女隊長が近付き

「おい、手伝いに行かなくていいのか?」


 その問いに冒険者達は顔を見合わせて、苦笑して

「手伝いに行ったって、あの人達の足手まといになるだけさ」


 女隊長は不安な顔をした次に、連れてきた部隊と一緒にディオス達の下へ向かおうとするが、その肩を別の魔導騎士の隊長が持つ、その隊長は前にディオスと行動を共にしたリーダーだ。


「なんだ。フィリス」と女隊長は不快を顕わにする。


 リーダーのフィリスは

「冒険者の言う通りだ。ここは黙って見てろ」


「しかし、相手はドラゴン五頭だぞ」


「いいか、見てろ」


「どうなっても知らんぞ」



 ディオスは悠然と近付きながら「さて…」と呟き多数の魔法陣を展開させる。


 クレティアとクリシュナは各々の力で、周辺に蠢くバジリスクドラゴンを狩っていると、その狩られているバジリスクドラゴン達の悲鳴が森に響く。


 それに驚き五頭のドラゴンが動く。

 五頭のドラゴン達は遺跡の上空を旋回する。


 魔法陣を纏うディオスは手を組み解しながら

「新開発の魔法を試そう」

”ゼウス・サンダリアス・アックス・トルネード”

 ディオスは魔法陣を操作して魔法を空へ放った。


 遺跡上空の大気が渦巻き暗くなる。

 台風の目のような渦雲が空を包むと、その雲から無数の竜巻が降臨して、ドラゴン達を捉える。

 ディオスは魔法陣を操作して、雲から降り立つ竜巻達を操作、渦雲の中心に五頭のドラゴン達を集めると、右腕を上げ下へ降り下ろした次に、渦雲の外から中心に向かって無数の稲妻が発生し収束、中心にいた五頭のドラゴンが収束した稲妻達に打たれ地面へ落ちた。

「よし、終わり。後は…クレティアとクリシュナ達を手伝うか」



 ドラゴン五頭が一瞬で倒された光景を目にした女隊長は驚愕して開いた口が塞がらない。

 その隣にいる別部隊の隊長フィリスは

「な、こういう事だ」


 そして、その付近では冒険者達が、その様子を映像に収めようと魔導カメラを構えて立っていた。

「いや…凄いもん撮れた。後で嫁と子供達に見せよう」


「これ、幾らで売れるかなぁ…」


「その前に、国の放送局が信じるか?」


「ああ…そうそう、ギルド長もその映像、保管用に欲しいっていっていたから、複製しろよ」




 クレティアとクリシュナは二人で行動していた。

 悠然とゆっくりとバジリスクドラゴンのいる森を歩く。

 

 バジリスクドラゴン、全長五メータ前後の多数の脚を持つ陸生の小型ドラゴンだ。その様相は歩く巨大ワニの如しだ。

 

 バジリスクドラゴンが二体現れ、クレティアとクリシュナに襲い掛かるが


「ライジン」とクレティアは雷化し、亜光速でバジリスクドラゴンの首を刎ねた。


「神格召喚・朧」とクリシュナは、魔導収納から二メータの巨大な斧を取りだし、神格ドゥルガーの力を纏ってバジリスクドラゴンをなます斬りにした。


 そこへもう一体が現れ、動きが止まった二人に襲い掛かるも、空から急降下したディオスが頭に直撃して地面に沈み、ディオスは空間膜の超高震動エンテマイトを叩き込み倒した。

バジリスクドラゴンの体はデタラメな方向へ捻れていた。


「あら、もう終わったのダーリン」とクレティアが呼び掛ける。


「ああ…新開発の魔法が上手くいったからな」


 クリシュナはフ…と笑み

「そう、じゃあ。後はバジリスクドラゴンだけね」


「三人で片付けよう」


「うん」とクレティアが「ええ…」とクリシュナが頷いた。




 四十分してディオス達は、野営地に帰ってくると、どうやら、ディオス達がどのくらいで終わるか賭を冒険者達でしていたようで、時間を当てた人に皆、銅貨や銀貨を渡していた。

 四十分としていたハンマーは貰うのは分かるが、まさかリベルも四十分と賭けていたので貰っている。

 その場景にディオスは苦笑いしかない。

 

 その後、600人総出で遺跡を二日半掛けて調べ、賢者の石を多数とその巨大製造地を手にして、この大規模遺跡調査は終わった。


 その夜、冒険者ギルドでは、この大事業のお疲れ会として冒険者達の宴が行われた。


 ギルド長、ガジェットがギルドの真ん中で酒の一杯を掲げ

「いや…冒険者の諸君、君たちのお陰で新たな、それも大きな生産力を持つ賢者の石製造施設の遺跡を手にできた。これもひとえにみんなの努力の成果だろう。今日は、飲み食い、全てギルド持ちだ! 存分に楽しんで疲れを癒やしてくれ! かんぱーい」


『かんぱーい』と冒険者達から掛け声が放たれる。


 ディオスもそれに加わっていた。


 ディオス達のいる席は大きなテーブルで、壁とイスが合体した壁席であり、ディオスの両隣に右にクレティア、左にクリシュナといた。

 他にも、ナルド達、ナルドにラチェット、ハンマー、リベルに、あの魔導騎士隊のフィリスとその部下二名も同席している。

 

 ディオスは、一杯を一気に飲み干す「ぷふぁ…」

 この世界の酒は飲みやすい。一杯はビールであるが、日本にいた頃のビールは、苦い感じが強くてどうも好きになれなかったが、この世界のビールは色んな種類があってコクや深みのある味がありついつい飲み過ぎる。


「はぁ…いい飲みっぷりですね。ディオスさん」

 ナルドが喜ぶ。


 右にいるクレティアがゆっくりと飲みながら

「もう、ダーリン。飲み過ぎて潰れないでよ」


 左にいるクリシュナは一杯に手を付けていない。


 リベルが

「クリシュナさんは飲まないんですか?」


 クリシュナは困り顔で

「飲めるには飲めるけど…苦手だから…」


「だったら」とリベルは食べ物を運ぶ店員に「すいません。紅茶か軽めのスパークリングを」


「はい」と店員は肯き持ちに行く。


 ディオスが「スパークリングってなに?」


 クリシュナが

「お酒の風味がついたジュースみたいなモノよ」


「へぇ…」とディオスは頷いた。



 賑やかに飲み食べながらしているディオス達のテーブルに、ガジェットが来て

「いや…みなさん。お疲れ様でした」


「お疲れ様ですギルド長」とナルドが献杯する。


「グレンテルくん」とガジェットはディオスの近くに来る。

「どうだね。楽しんでいるかね」


「ええ…楽しんでます。このような宴の席、ありがとうございます」

 ディオスはお礼を言うと、


 ガジェットは

「いやいいさ。君のお陰で当ギルドは大いに盛り上がった。日頃の感謝を込めてだ。楽しんでくれ」


「はい」とディオスはガジェットと献杯した。


 ガジェットは離れ、オルナットがいる席に行き、オルナットに耳打ちする。

「どうだ? 奥方に仕込んだ眠り薬は?」


 オルナットも耳打ちする。

「少量づつ飲み物に混ぜている。おそらく、効いてくるのは二時間後だろう」


「二時間後か…丁度、十二時か…いいぞ」



 二時間後…ディオスの右にいるクレティアがディオスに寄りかかる。

「ん? クレティア?」とディオスはクレティアを覗くと、クレティアは静かな寝息を立てて眠っている。

 ディオスはフッと笑む。そうか…やっぱり色々と疲れていたんだな…と、ディオスは優しくクレティアを動かし自分の膝に膝枕させる。

 その次にクリシュナもフラフラして

「あれ…ええ…」とクリシュナはディオスに凭れ掛かって眠った。

 そんなクリシュナをディオスは、そうか…クリシュナも疲れていたんだな…とクレティアと同じく膝枕させ、ディオスの両膝は二人の枕になる。


 それを確認したガジェットは、オルナットと共に肯き席を立ち、ディオスの下へ来る。


 ガジェットが

「ディオスくん。すまないが…我々と一緒に来てくれないか?」


 オルナットが

「王府の偉い方がどうしても君と酒を酌み交わして話がしたいと言っていてね。別の店にいるんだよ」


「ああ…」とディオスは困り顔になってテーブルにいる皆の顔を見る。


 ラチェットが

「いいっすよ。ディオスさんは色んな所でモテモテですから」


「自分達の事は構わずに」とナルドが


 ディオスは「すいません」と頭を下げ、上着である魔導士服を折り畳んで広めの枕にして

「リベルさん。ちょっと」と寝ているクレティアとクリシュナを動かす手伝いに頼み。

 クレティアとクリシュナは膝枕から動かして、折り畳んだ枕に二人の頭を置いた。


「じゃあ、行ってくる」と眠るクレティアとクリシュナに呼び掛けディオスは、ガジェットとオルナット共にギルドを出た。


 そう、ガジェットとオルナットの作戦通りだ。



 ディオスは、二人に案内されエンテイスの夜の街を進む。色んな店の街灯が煌めき、風景を見渡していると、どこか街灯の色がピンクのような感じに変わる場所に来た。

「んん?」

 ディオスは不審がる。

 今まで居酒屋食堂や飲み屋があった地域から、やけに女の子が店番をする店の地域に入った。


 前をいくガジェットとオルナットに

「本当に…こっちにいるんですか?」

 ディオスの問いにガジェットが

「まあ、接待も加わっているので、どうしてもこのような店がある場所に…」


「はぁ…」

と、ディオスは肯き、二人に続く。


 そうして…来た所は、洋館のような建物だが、漏れている明かりや街灯がやけにピンクっぽい。まるで、前の地球の時にあったキャバクラに近い雰囲気がある。


 本当に、ここでいいのか?とディオスは思っていると、オルナットが小瓶を取り出し、ディオスに向け

「グレンテル殿。酔い冷ましです」


「ああ…」とディオスは受け取り、小瓶を開けて飲む。これから重要な人物に会うのに酔っ払っていては失礼だろうと…。

 だが、その小瓶は酔い覚ましではない。アソコを元気にさせる精力剤だった。騙して飲ませた。


「さあ、グレンテルくん」

 ガジェットがディオスを引いて、洋館の中へ入る。


 その洋館内は、沢山のソファーがあり、そこに色づいた女性達が座っている。

「へぇ、ええ…」


 何か妖艶な雰囲気の内部に、ディオスは戸惑っていると、その洋館の店子がお香を持ってディオスに近付き

「ようこそ、お待ちしておりました」


「はぁ…」とディオスは戸惑いつつお香の匂いを嗅いだ次に、意識がぽわぁ…とぼける。

「あれ…変な…」

 ディオスは頭が回らなくなり、呆然としてフラフラしていると、それをガジェットとオルナットが支え

「グレンテルくん。いいんだ…いい夢を見ているだけなんだ」


 頭が回らないディオス。

「夢…これは…夢…」


「そうともそうとも」

 オルナットが呟く。


 ソファーに座っていた色づいた女性達がディオスの傍に来て、ガジェットとオルナットからディオスを受け取り、ディオスを連れて二階に続く階段を上がり、愛の蜜の間へ誘う。

 そう、ここはガジェットとオルナットが手配した高級娼館の一つだ。

 意識をぼやけさせるお香の作用によってディオスは夢心地になり、娼婦達と一夜を過ごすだろう。

 だが、この一軒で終わりではない。夢心地のディオスを更なる高級娼館へ誘う予定だ。

 これもディオスをここに縛り付ける楔になる子を作らせる為だ。


「さて…これで…」とガジェットにオルナットは怪しげな笑みを浮かべた。



 宴が続いているギルド、クレティアとクリシュナは静かにディオスの魔導士の上着を枕に寝ている。

 

 リベルが二人を覗き

「よく寝ているなぁ…」

と、自分の上着を脱いでクリシュナに掛けようとした瞬間、クリシュナが飛び起きた。

「うあぁぁぁぁぁああ」

 リベルは驚き仰け反って後ろにいたナルドに当たる。

 

 ナルドやラチェットにハンマーも飛び起きたクリシュナに驚き

「いや、驚きましたよクリシュナさん」

と、ナルドが告げる。


 クリシュナは頭を抱える。おかしい、この急激な眠り…まるで…

 クリシュナは自分が飲んでいた紅茶とスパークリングを持ち

”マジックスキャニング”

 アイテム探索の魔法を掛ける。

 クリシュナは暗殺者ゆえに毒物等の薬物のアイテムが調べられる。

「え…睡眠薬…」

と、クリシュナは判明し、今度はクレティアの飲んでいたビールの一杯を調べる。

 そうすると、同じ睡眠薬の反応が出た。ディオスの方を調べると反応がない。

 クリシュナの暗殺者の勘が鋭く何を告げる。

「クレティア、クレティア」

と、クレティアを起こす。


「ああ…なに?」

 クレティアは眼を覚ましてクリシュナを見る。

「あれ? ダーリンは?」

 ディオスの姿がない事に気付くクレティア。


「さっき、ギルド長と魔導士協会長と一緒に、お偉いさんがディオスさんを呼んでいるって事で連れていきましたよ」

と、ラチェットが言う。


「え…」とクレティアが戸惑いを見せる。

 そこへ、クリシュナが耳打ちする。

「私とアナタの飲み物の中に、睡眠薬が入っていたわ」


 クレティアの眼が鋭くなり、立ち上がって

「クリシュナ、ダーリンの所へ行こう」

「ええ…」

と、クリシュナは肯きクレティアと共にギルドを出る。

 それに妙な不信を感じて、ナルド、ラチェットにリベル、ハンマーの四人も同伴した。

 


 ディオスは、娼婦達と共に淡いピンク色の明かりが包む天蓋の着いた大きなベッドの部屋に来た。

「さあ…」と娼婦達は、ディオスの服を脱がす。

 呆然とするディオスは為すがままにされる。

 裸となったディオスは、娼婦達に連れられてベッドに寝かされる。

 娼婦達がディオスの体をさすり、マッサージをすると、ディオスのアソコが元気に立ち上がってくる。

 呆然として夢心地のディオスには、娼婦達がクレティアとクリシュナに見える。二人が優しく自分を撫でているように感じるのだ。

 ああ…天国だ…。



 クレティアとクリシュナは右手にあるディオスとの繋がりである呪印の導きによって歩を進ませる。その後にナルド達四人が続く。

 居酒屋食堂や飲み屋の地域を過ぎて、ピンク色に包まれている店達の地域に入る。


「え、ここって確か色町じゃあ」とラチェットが告げる。


 そう、ここは男が女の肌で欲を満たす街だ。


 リベルは青ざめ

「なんで、こんな所にディオスさんが…」


 先を進むクレティアとクリシュナの顔がどんどん鋭くなる。殺気を伴って…。

 そして、ディオスが入った高級娼館の洋館の前に来た。


「ええ…」とラチェットは困惑を浮かべる。


 ハンマーがラチェットに

「ラチェット、ここを知っているのか?」


「いや…ここ…その高級な、そのする所だからさぁ…」



 クレティアとクリシュナは、黙々とドアを強引に開いた。

 

 現れたクレティアとクリシュナに、広間にいる娼婦達が驚きを向ける。


 店子の男性が、クレティアとクリシュナに近付き

「お、お客様…ここは」

と、告げる前に、クレティアの強烈な殺気が店子を射貫く。

「ひぃ!」と店子は悲鳴を上げる。

 そして、クレティアとクリシュナ、一気に駆けだし、呪印が導くまま二階へ上がり、ディオスのいる部屋へ向かった。



 ディオスは、娼婦達をクレティアとクリシュナと勘違いしたまま、娼婦にキスをした瞬間。

 んん? なんだ? 違う…二人じゃあない、違う。

 いきなり上半身を起こしたが、頭がフラフラする。

 なんだ? 何かの?

 ディオスは右にあるクレティアがしてくれた回復魔法の呪印を発動させる。

”レジスト”

 それによって、ディオスの体に効果していた薬が解毒され、ディオスの意識が正された。

「え!」

 ディオスは青ざめる。目の前にいたのは、クレティアとクリシュナでない裸の娼婦達。

「えええ…えええええええ」

 ディオスは戸惑い驚き狼狽してベッドから転げ落ちた。


 そこへ、クレティアとクリシュナの二人がドア前に来て、ドアを激しく蹴破った。

 壊れて吹き飛ぶドア。

 そして、そこには…娼婦達のいるベッドから転げ落ちた裸のディオスが。


 クレティアとクリシュナはディオスへ来る。

 ディオスは頭の上にいるクレティアとクリシュナを見る。

 二人の視線は完全戦闘モードの殺気だ。


 ああああああ! ディオスは一気に青ざめ

「違う! 違うんだ! これは!」

 喚き叫ぶディオス。


「な、なんだ?」とガジェットが「何か大きな音がしたが」とオルナットも顔を見せる。 


クリシュナが魔導収納から両手に曲がり鉈、ククリを握り、オルナットとガジェットの二人に向かって投擲した。紙一重でククリがオルナットとガジェットの頬を擦り

「おおおおおお」

「あああああはぁああ」

 ガジェットとオルナットは怯え抱き合うそこへ、クリシュナは二メータの巨大鉈を掲げて、クレティアは腰にある剣を両手にして、大型魔獣に匹敵する殺気を伴って、ガジェットとオルナットに近付く。


「ねぇ…どういう事…」とクレティアが最後通告を二人に送る。


 ガジェットとオルナットは奥歯をガタガタと振るわせ、恐怖におののき

「申し訳、ございませーーーーん」

と、二人して叫んだ。

 


 この娼館の広間にて、ガジェットにオルナットは正座して、目の前には怒れるクレティアとクリシュナの二人がいた。その様子を遠巻きでナルド達四人は静観している。


「本当にすいませんでしたーーー」

 ガジェットとオルナットは土下座した。全てを二人にゲロした。


 クリシュナは肩に抱えている巨大鉈を二人の間に降り下ろす。

「ひぃ」と二人は恐怖する。


 その頬へクレティアが剣の鎬でペチペチと叩きながら

「へえ…いい根性してるじゃん…ええ。死にたいの? 目ん球くりぬいて、拷問して殺してやろうか?」


 クリシュナが

「首、はね飛ばされたい?」


 完全に怒り心頭の二人に、ナルド達も怖くなりただ…見つめるしかない。


 そこへ、着替えを終えたディオスが来て

「ガジェットさん、オルナットさん」


『はい…』と二人は顔を上げる。


 ディオスは複雑な顔をして

「こんな事をしなくても、自分はまた、ここに来ますから。ですから…」


『はい、すいません』と二人は告げる。


 ディオスは切れたクレティアとクリシュナに向けて両手を合わせ頭を下げ

「頼む。許してやってくれ。こんな事は今回限りだから」


 クレティアとクリシュナは互いに顔を見合わせた次に、各々の武器をしまってディオスに近付き、両側についてディオスの腕を抱く。


 右腕のクレティアが「分かった。ダーリンがそういうなら」

 左腕のクリシュナは「まあ、今回だけだから…」

「ありがとう」とディオスは二人に送り、二人を連れて出て行った。


 ガジェットとオルナットはその場に崩れ

「いや…助かった…」とガジェット

「殺される所だった…」とオルナット




 ディオスはクレティアとクリシュナを連れて帰路を進んでいると、クレティアが

「ねぇ…ダーリン。ダーリンの子供を初めに産むのは、アタシかクリシュナのどっちかなんだからね」

「そうよ」とクリシュナは頷く。

 ディオスは眉間を寄せ、二人の腰を抱き寄せ

「これから先も、オレの子供を産んでくれるのは、二人だけだ」

 そう言い、クレティアとクリシュナの頬にキスをした。



 そして、帰国する当日、ディオス達は荷物を纏めて借りた大型魔導車に積み込んでいた。

「これで全部だな」

と、ディオスは確認して告げた。


 ホテルの前では、ギルドの冒険者達がディオス達を見送ろうと集まってくれていた。

「では、みなさん。色々とありがとうございました」

 ディオスはみんなに向かって頭を下げる。


 ナルドが「また、冒険をしましょう」


 ラチェットが「来るの楽しみにしていますよ」


 リベルが「また、一緒に仕事をしましょう」


 ハンマーが「また、会いましょう、ディオス殿」


 それぞれがディオス達が握手して、ヴァルファールがディオスに

「ここで、お主がもっと高見へ行くのを見物しておるぞ」


 フッとディオスは笑み

「どれだけ過大評価しているんですか? そんなのないです」


「ほほほ…運命とは、激流じゃ。そうなる時はそうなってしまう。そういうもんじゃよ」

 ヴァルファールは、冒険者ギルド設立初期の冒険者だった。

 初代ダイアマイト級冒険者と共に数々の冒険をして、引退した後、静かに冒険者達を見守り、冒険者達がアドバイスを欲しい時に知恵を貸している。


「じゃあ、みなさん。またの日をーーー」

 ディオスは窓から手を出して振り、ディオス達を乗せた魔導車は出発した。


 それを見送るガジェットは口惜しそうに

「やっぱり、あの時…」


「止めい、ギルド長」とヴァルファールが告げ

「彼奴は、冒険者で終わる訳がない。あの男には英雄の覇気が纏わり付いておる」


「英雄の覇気…」とガジェットは噛み締める。


「そうじゃ…」とヴァルファールは楽しげに微笑んだ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次章もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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