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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
冒険者ギルド編

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第30話 冒険者ギルド 日々

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ディオスは、何とか事態を収めたが…更に色々と絡み自身の周りが大きく揺らぐ…。その時、ディオスは…

冒険者ギルド 日々


 ディオス達は遺跡側の小屋にいた。空は何時もの蒼穹に戻り、山から出た遺跡は浮力を失って元の場所に着地して、佇んでいる。


 その遺跡の側の小屋では、簡易ベッドにアルファがいる。

 上半身を起こし、足下は布団が被さる。

 そんな彼女のその瞳は何の光も灯さない虚空である。

 その側にリベルが「姉さん…」とアルファに優しく呼びかる。

 

 その後ろで、ディオス達が見つめていると、小屋のドアがノックされ「入るわよ」とアルディルが入ってくる。


 ディオスはアルディルに近付き

「例の物は?」

 

 アルディルは差し出す。それは黒い王冠で、所々に魔導石が埋まっている。

「言って置くけど…。そいつの記憶は私達でも戻せなかったから、無駄になるだけよ」


 ディオスは黒い王冠の物体を受け取り

「お前達が、彼女を改造したのではないのか?」


 アルディルは嫌な顔をして

「ふざけないで、そんな事なんてしないわ。必要ないし。その女は我々が敵対している組織が何かの装置と融合させて改造していたからね。その装置から解放したら、記憶が消えていた」


「そして、能力が使えるから、使っていたと…」

 ディオスの棘がある言葉に、


 アルディルが

「勘違いしないでね。その女が何かしていれば思い出すかもって言ったから、そうしただけだから。利用とか利用価値とかで使っていた訳じゃあないからね」


「そうか…」とディオスは呟き黒い王冠を持って、虚空しかないアルファに近付く。


「さて…」とディオスはアルファの足下の壁に凭れるクレティアとクリシュナを見て

「二人とも…力を貸して欲しい」


 クレティアは起き上がり

「何をするのダーリン?」


 ディオスは黒い王冠の物体を持ち上げ

「これを使って、彼女の精神へ入る。そして、記憶をサルベージする」


 クリシュナが起き上がり

「話しだと、出来なかったって聞いたけど」


「ただ、入るんじゃない。オレの渦の中にいる存在の力を使って、やってみる」


 クレティアとクリシュナは見合って

「博打ね」とクリシュナが告げる。


「そうだ。だが…やってみる価値はある」

 ディオスは、ベッドにいるアルファに近付き、黒い王冠状の精神侵入装置を頭に被せる。


「ディオスさん…」

 リベルが祈るように見つめる。


「やってみましょう」とディオスが告げる頃、右にクレティア、左にクリシュナが来て


「アタシ達はどうすればいい?」

と、クレティアが聞くとディオスは

「オレに触れて二人の魔力を送って欲しい」

「分かったわ」とクリシュナが頷く。



 ディオスは、アルファに被さった装置の王冠を右手で触れ、クレティアとクリシュナは両手をディオスに付けて、己の魔力をディオスに送る。

「行くぞ…」とディオスは告げて右手に魔力を送り、装置を起動させる。


 ディオスの感覚が変貌する。

 周囲の風景が歪んで消え、ディオスの意識はアルファの中へ入った。

 

 アルファの意識、そこは暗闇だ。何も無い暗闇が広がるだけで、前の精霊ジャルバックのように様々な記憶が過ぎる光景さえない。

 ディオスは闇を一望する。

 歩いて進んでもここは意識の中、無意味だろう。

 ディオスは自分の体に触る。

 暖かい流れを体内に感じる。

 この暖かさはクレティアとクリシュナだと分かる。

「さて…やるか」

 ディオスは呟き、自身の内、渦の中にいる存在に触れる。それは、ディオスから直ぐに溢れ出した。


 ゴオオオオオオオオオオオ


 雄叫びを伴ってディオスから噴出し、闇の世界を広がる。

 

 ディオスは意識が持って行かれる寸前で踏み留まる。

 クレティアとクリシュナの力によってディオスの意識は守られる。

 

 ディオスから噴出した存在が、暗闇の世界を切り裂き、引き剥がし一閃をもたらすと、そこは記憶の流れが渦巻く空間に変わった。そして

 ごおおうおおくおおお


 ディオスの正面にそれは現れた。苦しみ藻掻く何かの固まり、それにディオスから噴出した存在が襲い掛かる寸前「待て!」止めた。


 何かの固まりはディオスを睨み

「この下等生物共が…。キサマ等さえ、いなければ…」


 ディオスは、直ぐに理解する。

 これは、アルファと対峙した時にアルファから顕在化した別の意識だ。

 これがアルファを操り今回の事態を起こした張本人だ。


「お前はなんだ?」

 ディオスが問うも、何かの固まりは


「キサマ等、下等生物に名乗る名など、ない。憶えていろ。必ずこの世界は、我々が…それまで精々、首を洗っておけ」


「そうか…」

と、ディオスは何かの固まりを凝視する。

そこから感じるのは、そう…あの嫌な…自分の生まれた世界にあった狂気のような雰囲気だ。

 それに何処か、懐かしさも感じる。

 だが、これを処理しない限り彼女の解放はない。

 止めていた自分の内にいる存在の抑えを解放した次に、その固まりは散り散りに引き裂かれ消えた。


 ディオスは自分の中にあるクレティアとクリシュナの繋がりを強め、内なる存在を押さえ込み戻すと、アルファ、彼女の意識から出た。


 小屋、ディオスがガクンとうねる。

「ダーリン」

「アナタ」

 クレティアとクリシュナが呼びかけると、ディオスは意識を取り戻し

「大丈夫だ。それより」

と、ディオスは装置の王冠を彼女から外す。


 リベルが彼女の手を取り

「姉さん。リアナ姉さん…」


 彼女を呼び掛けると、彼女の瞳に光が戻って焦点が合わさる。

「……り…リディア…」

 彼女は記憶の無いアルファから、リアナへ戻った。


 リベル、リディアは瞳から涙を溢れさせ

「そうだよ。リディアだよ。姉さん…」

 リディアは抱き付いた。


 リアナは視線を泳がせ

「私…何を…どうして」


 その様子にナルド、ラチェット、ハンマーも近づき


「良かったなリベル」とナルド


「姉さん、見つかったな」とラチェット


 ハンマーは「うむうむ」と頷く。


 アルディルは頭を振り

「ウソでしょう…記憶を戻すなんて…」

と、少々呆れ気味だが、アルディルの持つ魔導通信機が鳴る。

「はい、ああ…、はい、はい」

 アルディルは魔導通信機の受話部分をディオスに向け

「主様が話したいって」


 ディオスは受話部分の前に来る。

「話を聞こう…」


 受話部分から、あのコンダクターの男の声が放たれる。

「ディオス・グレンテルくん。今回は、非常に助かった。報酬は、そのアルファとした娘の記憶を元に戻すという事で了承したが…」


「問題ない。十分だ」


「そうか…ああ…それと、今回の事件について、秘匿してくれるなら、非常に助かる。こちらとしても、入らぬ摩擦を起こしたくないからな」


「分かった。ただ…師匠に…バルストラン陛下に問い詰められたら、言うしかなくなるが…」


「公にしないなら、それでいい」


「ああ…そう…」


「君とは、あまり敵対したくない。もし関わる事があるなら…互いに察し合おう」


「フン」とディオスは鼻息を荒げ「こっちとしても、関わり合いになりたくないな」


「はははは…。では、ああ…それと、妻を助けてくれてありがとう。礼を言わせてくれ」

 ディオスはアルディルを見る。


 アルディルは自慢げな笑みを見せた。

 そう、この主というコンダクターの妻らしい。


 コンダクターは「では、さらばだ」と告げて通信が終わった。


 アルディルは魔導通信機をしまって

「じゃあね。アンタとは関わり合いになりたくなから。気をつけなさいよ」

と、台詞を残してアルディルは大鎌を振って空間を切り裂いて瞬間移動して消えた。


「やれやれ」とディオスは苛立ち気味に呟いた。




 その後、ディオス達はエンテイスに帰還する為に、帰路を進み。

 最初に立ち寄ったセーフハウスの夜、火を囲んで食事しながら


「良かったですねリベルさん。お姉さんが見つかって」

 ディオスが告げる。


「ええ…」とリベルは微笑む。


 その隣にはあの電子回路模様のない普通のドレスのリアナがいる。


 リベルは、ナルドにラチェットとハンマーを見て

「その…みんな、実は…」


「いいって」とラチェットが「まあ、隠していたのに理由があるんだろうと思ってよ」


 ナルドが「何となくは、気付いていたから」


「我らは仲間だろう」とハンマーが告げる。


 ディオスは、四人を見回して

「何か、隠し事でもあったのですか?」


 ディオスの両脇にいるクレティアとクリシュナが勢いよくディオスに振り向き

「え…ダーリン。まさか…気付いていない?」

「リベルは男ではなく、女よ」

と、クリシュナの言葉にディオスは目を丸くして

「え…そう…なんですか?」


 ナルド、ラチェット、ハンマー、リベル、リアナがディオスを見つめ

「え…ディオスさん。気付いていなかったんですか?」

 ナルドの言葉と、全員の様子にそれが正解だと知った。


 ディオスは驚く。

 ええええ! 確かに、リディアって女っぽい名前だとは、思っていたが…。


 リベルは自分を見て

「そんなに、自分は男っぽいですかね…」

 軽くショックを受けている。


 ディオスは頬を引き攣らせ

「いや…その…そんな事はないですよ。リベルさん」


 ラチェットが「まあ、格好が男っぽいだけだから。な、ナルド」


「ああ…」とナルドは頷く。


 クリシュナが

「ごめんなさい。この人、偶にこういう所が鈍感なの」

 クレティアが

「ダーリン。謝る」

 ディオスは

「すいません。リベルさん」


 そうして、夕食が更けていった。




 エンテイスに戻り、未開拓遺跡の報酬と、今まで倒した魔物から取った魔導石の換金、そして、遺跡から取ったデータをディオスは調べるも、ドッラークレスの鱗については、分からなかった。

 

 分かったのは遺跡が、どのように人型ゴーレムを作っているという事だけ、それ以外はもしかしたら、アルディル達に消されたのかもしれない。


 新たな未開拓遺跡の目星をナルド達と相談しているそこへ

「アンタが…ディオス・グレンテルってヤツかい」

 別のチームが数名、その首に掛けているプレートはゴールドだ。


「何かご用で?」

 ディオスが尋ねると、ディオス達が話し合っている地図の、とある遺跡を指さし

「ここの遺跡の攻略を一緒にやらないか?」


 ナルドが青ざめ

「ちょっと待ってくれ、そこは…ドラゴンが巣にしている遺跡じゃあないか!」


 ディオスは「はぁ…そうですか…いいですよ」と軽く答えた。


「そうか…じゃあ、よろしく」

 ゴールドのチームのリーダーが頷く。


 そこへディオスが

「あの…ドラゴンなら」


「ダーリン」とクレティアが「ダメよ。消し飛ばしていいなんて、良いはずないでしょう」

 クリシュナが肯き

「ドラゴンからも取れる魔導石も貴重な報酬なの、だから、原形を保って倒す事」

「……はい…」

 ディオスは面倒クサそうだった。



 そして、ディオス達とゴールドのチームの連合はドラゴンが巣にしている遺跡に来て、ゴールド達は驚きを見せられる。


 ディオスの強力な雷撃魔法の一閃で、ドラゴンが倒されたのを見て唖然、そして…ドラゴンの巣には、周辺に生息する翼のない多脚の小型ドラゴン、バジリスクドラゴンが三頭も現れるが、クレティアのライジンと、クリシュナの神格召喚・朧に、ディオスの高震動の纏う魔法エンテマイトの、一閃で一頭ずつ倒した。


「それじゃあ、遺跡を調べましょうか…」

 平然と、ディオス達三人は、遺跡へ向かう。


 ゴールド達は言葉を失い固まり、ナルド達は

「何なんだ? あの人達は?」

と、ナルドは驚きを口にする。


 ドラゴンの戦闘力は強大で、倒すのに魔導操車が数十機も必要だ。

 それを軽々とこなすディオス達の戦闘力は、驚愕だった。


 この噂が広まって、ディオス達に遺跡攻略を共にするよう頼むチームが増えた。そうして、三週間…。

 



 ディオスとクレティアにクリシュナは冒険者ギルドの入口に来る。

 その左のイスにはエルフの老人、ヴァルファールがいて

「よう…もう、遺跡探査から帰って来たのかい」


「ええ…まあ」とディオス頷いた。

 三人の首には超上級者のプラチナのプレートが掛かっている。

 

 ヴァルファールが微笑みながら

「ドラゴンが巣にしている遺跡ばかり、攻略して疲れたろう」


「そうですね…。ドラゴンを原型を保ったまま倒さないといけないので、疲れます。消し飛ばす方が楽です」


「ははは…消し飛ばす方が楽か」

 ヴァルファールは楽しげに微笑む。


「ダーリン」とクレティアがディオスを凝視する。それは分かっている?と視線だ。


 ディオスは肯き

「分かってる分かっている。魔物を倒して得る魔導石は、大事な報酬なんだろう」


 ディオスは、ヴァルファールにお辞儀して

「じゃあ、中に用事があるので…」


「おお…」



 ディオス達はギルドの中へ入る。

 ディオス達がカウンターへ向かう途中、テーブルに座っている冒険者達がディオス達を見てヒソヒソ話をする。

「聞いたか? また、ドラゴンを倒したってよ」


「ああ…もの凄い魔法で一撃だってさ」


「何でも、形を残して倒すより、消し飛ばした方が楽だから、消し飛ばしていいかなんて聞くらしいぜ」


「ウソだろう…ドラゴンってそんな、簡単に倒せたっけ?」


「アイツがバケモノなだけだ。奥方達もバケモノだけど…」


「こんな噂、聞いたか? 何でも昔に、ドラゴン三体を一瞬で消し飛ばしたらしいぜ」


「はぁ! どんな強さだよ」


「これじゃあ、もしかして…」


「ああ…もしかして、ダイアマイトになるんじゃね?」




 ディオス達がカウンターに来ると受付嬢が

「おかえりなさいませ。グレンテル様」


 ディオスがカウンターに手を置き

「遺跡攻略の報酬を受け取りに来た。それと関連情報も…」


「はい、こちらです」

 受付嬢は、机から報酬の小切手と、情報が載った魔導プレートを置き

「グレンテル様。ギルド長がお話があるそうなんですが…」


「話し?」


「はい」



 ディオス達は受付嬢に案内されギルド長室に来る。

「失礼します」とディオスに、クレティアとクリシュナの三人は入る。


「いやいや、よくぞ来てくれた」

 ガジェットはギルド長のデスクから立ち、前にある応接の席にディオスを座らせ、その対面に座って


「グレンテルくん。君は今、プラチナプレートだよな」


「はあ…そうですが…」


「実はね、君たちの話をしたら、是非ともお手並みを拝見したいと、我が国のリーレシア軍の魔導騎士部隊が同行したいと言っているんだが…」


「はぁ…そうですか。構わないですが…」


「そこでだ」とガジェットは地図を広げ

「部隊が指定した遺跡なんだが…ドラゴンが二頭いて、他にもバジリスクドラゴンが多数、蠢いているのだが…」

と、指さす。


「ドラゴンが二頭。問題ありません」


「そ、そうか…。まあ、慎重にやってくれたまえ。それと、もし、その攻略が成功したら、おそらく…ダイアマイトにランクが上がるのは確定だが…」


「ダイアマイトになると、どうなるのですか?」


「色々とオプションが豪華になる。リーレシアが保管する、冒険者や軍が遺跡から持ち帰った情報全てが閲覧出来て、好きにリーレシアの軍の派遣も付けられる。他にも貴族が遺跡に絡む時に、好きに口出し出来たり、絡んだりも出来る。リーレシア王、陛下とも知り合いになれる等ね」


 ディオスは頭を掻いて

「まあ、リーレシアにある遺跡の情報が全て見られるのは、魅力です。他のオプションは入らないですが…情報が見れる価値を考えて、なって置いた方が良いのかもしれません」


「そうか、なら良かった」




 そして、王国からの魔導騎士部隊が到着、部隊のリーダーが

「汝が、ディオス・グレンテルか」


「はぁ…そうですが…」とディオスは頷く。


「我らは、汝の実力を見届けよと言われているが…。必要なら何時でも声を掛けるといい」


「まあ、必要になればですがね」

 ディオス達は、リーレシアの魔導騎士部隊と共に、ドラゴン二頭とバジリスクドラゴンが多数いる遺跡に来て

「じゃあ、オレはドラゴンを仕留めるから、クレティアとクリシュナは…」


 クレティアは手を上げ

「あいよ。適当にバジリスクドラゴンを狩っているから」


 クリシュナが腕を組み

「まあ、無難にこなしてよ」


 魔導騎士部隊のリーダーが

「おい、お前達!」


 クレティアがリーダーを指さし

「アンタ達は、邪魔だから、そこを動かない!」


「な!」とリーダーは苛立ちの顔をするも、無視してディオス達は始める。


 ディオスは遺跡を巣にしているドラゴン二頭に

”ゼウス・サンダリウス・トルネード”

 雷と竜巻の合わさった魔法の攻撃を浴びせ一蹴する。


 その合間に、クレティアとクリシュナは、互いの力を使って周辺にいるバジリスクドラゴン達を狩った。


 あっという間にドラゴンが掃討される場景に、王国から来た魔導騎士部隊は呆然としていた。

「これは…夢なのか?」

 リーダーが頬を引っ張るも痛い、夢ではないのだ。




 遺跡を攻略後、ディオス達と王国の魔導騎士部隊はギルドに帰還し、ディオス達がギルドのスイングドアを潜ると、そこにギルドの冒険者達が並び、道を作っていた。


「な…なんだ?」とディオスは眉を顰める。


 冒険者達が作る花道は、ギルドの奥、カウンターまで続いていて、カウンターの所にギルド長のガジェットがいた。

「いやーー 無事の帰還、御苦労だった」

 ガジェットがニコニコと笑っている。


 ディオスは首を傾げていると、入口の側のイスにいるヴァルファールが

「ほれ、行かんかい」


「はぁ…」とディオスは、頭を傾げながら中を進み、それにクレティアとクリシュナが続く。


 ディオスはガジェットの前に来ると

「何かあったのですか? ガジェットさん」


 ギルド長のガジェットは「ゴホン…」と咳払いをした次に

「実は、ある事が決定されて。それで、グレンテルくん。君に渡したい物がある」


「はぁ…何ですか?」


 受付嬢が何かの入った紫の上等な小箱を両手に持ってガジェットの隣に立つと、ガジェットがその上等な小箱を手にして、ディオスに向けて開き

「これは何か、分かるかね」


 ディオスは空いた小箱の中にある銀色の懐中時計を見つめる。

「何ですか? これ…」


 ディオスの問いにガジェットは神妙な顔をして

「これは、賢者の石から精製されるアダマンタイトという、貴重な特殊金属で作られた時計だ」


「アダマンタイト…」


 アダマンタイト、賢者の石によって作られる特別な鉱物で、この鉱物で作られた武具には大幅な魔力や魔法効果増幅の作用があり、その強度も高く、ダイヤモンドや、熱核魔法グランスヴァインの直撃にも耐えられる。


 ガジェットが誇らしげに

「グレンテルくん。この貴重なアダマンタイトを惜しげも無く使われて作られたこの時計は、とある人物にしか与えられない。それは、ダイアマイトクラスの冒険者にしか与えられない。君は、このリーレシア王国で四人目のダイアマイトとなった。おめでとう」

 ガジェットは、ダイアマイトの証であるアダマンタイトの懐中時計をディオスに渡す。


 ディオスは受け取り

「はぁ…そうですか…」

 全く、そんな意識が出てこないディオスだが、周囲から拍手が沸き起こり祝福に包まれた。ガジェットは嬉しそうな顔で

「因みに、君は我がギルドで三週間半という最速で、ダイアマイトになった冒険者だ」


 ヴァルファールがディオスの下に来て

「のう…お主ならあっという間になると言ったろう」


「んん…はぁ…」とディオスはもの凄く微妙な感じだ。


「さあ!」とガジェットは声を張り

「ダイアマイト冒険者の誕生を皆で祝おうではないか!」


 ギルド内が祝賀会モードになり、入口から一杯を持った隣の酒場の店員達が入り、冒険者達に運んで行く。


「さあ、グレンテルくんも、奥方達も」とガジェットが誘う。


「そうですか…」とディオスは告げ、クレティアとクリシュナは肩を竦めて用意されたテーブルへ行こうとすると、同行した魔導騎士部隊のリーダーが来て

「ディオス・グレンテル殿」


「なんでしょう」とディオスはリーダーに向く。


「明日、我々と共に王都にある王宮へ来て頂けないでしょうか?」


「王都へ? どういうご用件で…」


「我らの国王様がアナタと面会したいと…」


「リーレシア王が…」


「はい」とリーダーは頷いた。




 翌日、ディオスとクレティアにクリシュナの三人は、魔導騎士部隊と共にリーレシアの王都に来て王宮に入った。


「こちらです」とリーダーが王宮内を先頭で導き、ディオス達を謁見の間へ入れる。

 その奥、王座にて髭を蓄え王冠を被るリーレシア王と、周囲には数十名のお供達がいた。

 

 リーダーが王の御前で跪き

「陛下、ただいま…帰還致しました。そして、こちらがディオス・グレンテル殿と奥方達でございます」


 ディオスはその後ろで跪き、それに続いてクレティア、クリシュナも跪く。

「リーレシア陛下…不肖、ディオス・グレンテル。その御前にお呼び頂き、感謝の極みにございます」


「うむ…」とリーレシア王は肯き

「報告は聞いている。これ…」


「は!」とリーダーが立ち上がり手を叩くと、入口から台車が現れ、その上に投影魔導装置が置かれている。

 台車がその場の中央に来ると、台車を押した人物が装置を操作して空中に映像を映画のように投影させる。

 その映像は、魔導騎士部隊と共に訪れた遺跡の様子だった。


 ディオス達がドラゴンを屠る姿を見た取り巻き達は「おおお」と驚きの声を漏らしている。どうやら、魔導騎士部隊はディオス達の様子を映像として捉えていたようだ。


「うむ…よーく、分かった」

 リーレシア王が告げ、装置の投影が終わる。

「ディオス・グレンテル」とリーレシア王が呼ぶ。


「は…」とディオスは答える。


「お主、この国でその力を活用してみないか?」


「活用とは…」


「このリーレシアは、遺跡から取れる賢者の石が重要な資源じゃ。

 遺跡を攻略した後も、遺跡の力を使って賢者の石を生成し売買してを生業としている。

 だが…遺跡は自然界の魔力が集中し易い場所。

 必然的にドラゴンのような強力な魔物が生まれやすい。

 開拓した遺跡でもそれは同じ、それ故に、開拓した遺跡がドラゴンに占拠され、賢者の石が獲得できない事もしばしばだ。

 お主のようにドラゴンを一撃で屠れる強大な力も持つ魔導士が、この国には必要なのだ。

 我の耳にもお主の活躍は轟いておる。どうだ? 我が国でその力を存分に振るわないか?」

 

 ディオスの後ろで跪くクレティアとクリシュナは、跪くディオスの背を見つめる。


 そう、これは王直々の引き抜きだ。

「お主の為に、様々な物を用意させよう。何なりと言ってみよ」

 リーレシア王はディオスの望みを叶えてでも引き抜こうとする。


 ディオスは眉間を寄せ、難しい顔をして

「リーレシア陛下。大変、名誉な事を…この不肖の身に頂かせて、感謝します。ですが…申し訳ありません。自分は、バルストラン王ソフィアの臣下でございます。バルストラン王を捨てる事は、自分には出来ません。このような多大な恩情を、どう感謝していいか分からない程、感謝しております。ですが…ご容赦を…」


 リーレシア王は残念そうな顔をして

「そうか…その忠義。いやはや、もっとお主が欲しくなるが…。致し方ない」


「リーレシア陛下、自分の力が必要なら、我がバルストラン王ソフィアに、一言、申し上げてください。必ず、派遣の了承を快諾してくれますゆえ」


「そうか…分かった。ディオス・グレンテル、後任期はどのくらいだ?」


「一ヶ月弱かと…」


「お主がいる一ヶ月、お主の活躍を王宮でタップリと楽しもう」

  


 ディオス達はリーレシア王との謁見が終わり、帰りの廊下を進みながらクレティアが

「いや…まさか王様が引き抜きなんてビックリした」


 ディオスはフッと笑み「そうだな…」


 クリシュナが

「アナタも、まさかこんな事態になるなんて予測していなかったでしょう」


「そうだな…でも、どんな事があっても、オレの帰る場所は、あそこだから…」

 ディオスは脳裏にバルストランの屋敷や、ソフィア達の事を過ぎらせる。

「あ、師匠達にどんなお土産が欲しいか聞いておかないと…」


 クレティアが

「じゃあ、お土産リストを作らないとね」


 クリシュナは微笑みながら

「もしかしたら、この事が伝わっていて問い詰められるかも」


「勘弁してくれ」とディオスは頭を項垂れる。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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