第29話 冒険者ギルド 裏切りの神格炉
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスはとんでもない事件に巻き込まれる。そして…事態は最悪化した…
冒険者ギルド 裏切りの神格炉
ディオスを覗き、六人全員は固められ、賢者の石がある部屋にいた。
六人を壁に寄せ、その周りを数名の黒い装甲装備を纏った集団が、魔導銃を六人に向けて包囲している。
ディオスは、アルディルの大鎌を首に突きつけられたまま、あの神格炉8号の前にいた。
神格炉8号の前では、黒い装甲装備の集団が色々な装置を神格炉8号につけている。
アルディルがディオスの膝を蹴り、跪かせ大鎌を首に当てたまま
「アンタにはこれがなんだか分かる?」
ディオスは苛立ちの顔をして
「分かると思うか?」
アルディルは鬼のような顔をディオスの左に寄せ
「さっき、神格炉って言ってたわよね」
「チィ」とディオスは舌打ちする。聞いていたのかよ。ディオスは苦々しい顔で
「おそらく、神格を閉じ込めて動力にしている装置なのだろう」
「正解…」とアルディルは怪しく肯定した。
「言って置くが、オレの目的はこれじゃあない。別だ」
「へぇ…どんな?」
「ドッラークレスの鱗の事象を追っている。その為に超古代遺跡の調査に来ているだけだ」
「それを信じろって…」
「ああ…だから、お前達がアレに対して何をしようが知ったこっちゃあない」
アルディルは更に顔を寄せ、ディオスの首筋の匂いを嗅ぐ。
その行為がディオスにとって、冷たい氷で触れられているような悪寒に感じる。
「ウソ…の匂いはしないわね…」
アルディルは怪しく告げる。
匂いでウソが分かるのよ…とディオスは内心でツッコム。
アルディルは大鎌の刃をディオスの顎に接近させ
「ねぇ…この事は、黙ってくれない。私達はコレを回収したら立ち去るわ。後は、この遺跡を好きにするといい」
「言う事を聞いた方が無難という事か…」
「ええ…じゃないと、アンタはもっとも嫌な思いをする事になる。アンタの両脇にいた女達、アンタの妻なんでしょう。分かるわ、二人から濃厚なアンタの匂いがプンプンするもの。失いたくないでしょう」
ディオスは苦しい顔で眼を瞑り
「分かった…」
ディオス以外の六人がいる賢者の石の部屋で、自分達を囲む黒い一団を睨むクレティアとクリシュナは、微動だにしない。黒い一団の隙を窺っている。
黒い一団の一人が
「ヘタな事をしない事だ。でなければ、連れて行かれた男が死ぬぞ」
それを聞いて、クレティアとクリシュナの殺気が倍加する。
そんな最中、下の階に繋がる入口から一人の女性が姿を見せる。
その姿は赤の長髪、黒い装備の一団とは違う電子回路網が編み込まれたドレスを纏っている。
リベルはその女性を見た瞬間
「姉さんーーーーー」
一歩前に出る。
それをラチェットとナルドが押さえ
「ど、どうしたんだ?」とナルドが尋ねるもリベルの耳に入らず。
「姉さん! 姉さん! 私だよ。リディアだよ。リアナ姉さんーーー」
リベルにそう呼ばれる赤髪に回路網のドレスを纏う女性は、リベルを凝視する。
その視線は冷たい他人のようだ。黒い一団の仲間が
「知り合いなのか?」
「いいえ…」と女性は否定して上の階へ向かった。
それと入れ違いにディオスと、アルディルが入って来た。
ディオスが六人の前に来ると、アルディルが囲んでいる黒い一団の間からディオスを押して六人に加える。
「ダーリン」とクレティアが
「アナタ…」とクリシュナが
「大丈夫だ」とディオスは安心させる。
アルディルが「約束…」と呟く。
「みんな、行こう」とディオスはクレティアとクリシュナの手を取り引く。
「ナルドさん、皆さんも」
ディオスが呼びかけると、リベルを押さえるナルドとラチェットが
「行こうリベル」とナルド。
「リベル…」とラチェットが。
リベルは項垂れて運ばれる。
こうして、ディオス達は遺跡から出ていった。
ディオス達が遺跡から出て遠くになったのを確認したアルディルは、再び神格炉のある部屋に戻る。
「作業はどう?」
と、神格炉に装置を取り付けている一団の一人が
「大方、終わります」
そして、神格炉の前で両手を左右に広げドレスに端子を繋がれている赤髪の女性に
「どう、アルファ?」
女性の呼び名を告げる。
アルファと呼ばれた赤髪で電子回路網のドレスを纏う女性は
「もう少しで接続作業が終わります。後はリンクするだけです」
「そう…」
アルディルは下がって作業を見つめる。
それに見えないようにアルファは怪しく口だけで笑む。
ディオス達は、遺跡の小屋に戻る。
小屋の前の庭でラチェットが小石を遺跡に向かって投げ
「なんだよ。アイツ等、オレ達が攻略したってのに、後から我が物顔で」
苛立つ隣にナルドがいて
「まあまあ、連中…関わり合いに為らない方がいい感じだったじゃないか」
その隣にディオスがいて
「ナルドさんの言う通りです」
ラチェットがディオスを見つめ
「なんか…連中…ディオスさんと知り合いみたいだったけど…」
ディオスは苦々しい顔をして
「悪縁というヤツです。関わる必要が無いなら、関わりたくない。そんな連中です」
「ふん…」
と、ラチェットは鼻を鳴らす。
その後ろ、小屋からリベルが出て来て、ディオスの空いている左に来る。
ディオスは、リベルの顔を見つめる。その顔はとても、苦しそうで悲しそうだった。
「どうしたんですか? リベルさん」
リベルは苦悶して
「確かに、姉さんだったんです」
ナルドが
「でも、相手は否定したんだぞ」
ディオスは事が分からず。
「何があったんですか?」
ラチェットが「実は…」と賢者の石の部屋で、姉らしき人物とリベルが遭遇した事を告げた。
「そんな事が…」とディオスはリベルを再び見る。
リベルは、懐から小さな袋を取り出し開けて右手に握る。
「何ですか? その握ったモノは?」
と、ディオスが尋ねる。
リベルは握る右手を見つめながら
「これは、自分の村落を襲った連中が放っていた物です」
「村落を襲った?」とディオスは顔が鋭くなる。
「自分は、ロマリアの出身なんです。ロマリアでもアーリシアに近い村落ですが…。
その村落がある日、襲撃を受けたんです。夜でした。
全身が黒くて布か甲冑が混ざったような鎧を全身に纏った連中が、炎をまき散らす見た事もない飛空挺で現れ、村人達を黒光りする魔導銃で襲い殺していきました。
自分はその時に、姉と森に逃げて、姉は自分を木の洞に隠して、森の中を走って行きました。
その後を襲った連中が…。今でも忘れる事はありません。
赤い光を放つ三ツ目のゴーグルの黒い連中が姉を魔導銃で…。
そして、姉を何処かへ運んで行きました」
「その襲撃が終わって数時間後、我らが訪れて」とハンマーが来る。
ラチェットが空を見上げ
「アレは、忘れられねぇよ。女、子供、みんな皆殺しにされて」
「酷い有様でした」とナルドが告げる。
重くなる空気、ディオスはリベルが握る、その者達が放っていたモノが見たくなり
「その襲った連中が放っていたモノとは…」
「これです」とリベルがディオスに渡す。
ディオスは渡されたモノに、驚愕して顔が鬼のように変わる。
それは…淡い金色に光る親指の爪サイズ。
そう…弾丸だった。
ディオスのいた地球の銃に装填されて発射される兵器のそれだ。
ディオスは、リベルから聞いた襲撃した連中の特徴を思い返す。
黒く布か甲冑が混ざった鎧。
軍隊が身につける防弾着。炎を撒き散らす飛空挺…ジェット機。
赤い光を放つ三ツ目のゴーグル…暗視ゴーグル。
まさに自分の生まれた地球における軍隊の様相そのものだ。
ディオスは、リベルから渡された銃弾を握り締め…もしかして、自分と同じように地球からこっちに渡ったヤツが…。
それか…この世界と地球は…。
色々な考えが巡り、雰囲気が鋭くなるディオスにリベルが
「どうしたんですか?」
ディオスは銃弾をリベルに戻し
「返します」
「ああ…はい」
「リベルさん。どうして狙われたか、理由が分かりますか?」
リベルは複雑そうな顔をして
「おそらく、先祖から伝わるリーディングというスキルの所為だと思います。そのスキルを持つ村人達が連れて行かれていましたから。姉さんもそのスキルを…」
「では、リベルさんも…」
「はい…」
頷くリベル。
ナルドが
「スキル保持者は狙われる事が偶にありますが…それは、戦闘系のスキル保持者だけです。リベルのように非戦闘系のスキルを狙う輩なんて、普通はいませんよ」
ラチェットが嫌な顔をして
「ホント、酷い話しだよ」
ディオスは更に顔が強張り鋭くなる。
やった事に対する残虐性とそういうスキルを欲する所を加味して、まるで…自分達、地球人類のようだと…感じた。
遺跡、神格炉がある部屋で、アルディルは神格炉を前に仁王立ちしていた。
「作業の進捗は?」
黒装備に部下の一人が
「もう少しで接続に必要な作業が終わります」
「アルファ?」とアルディルがアルファを呼ぶ。
神格炉を背にして立つアルファは肯き
「第三接続まで確認出来ます。後は最終接続だけです」
神格炉に接続作業をしている黒装備の部下が
「最後の接続終わりました」
アルファが肯き
「その接続を確認しました」
アルファの纏っている電子回路網のドレスが回路上で光を脈動させる。
アルディルが首を傾げながら
「どう? 神格炉の状態は?」
アルファは冷静に
「状態は良好です。現在、半休止状態です」
「そう、では、停止状態へ移行させて」
アルファがニヤリと笑み
「その必要はありません」
「はぁ?」とアルディルが訝しい顔をした次に、神格炉が光を放ち起動した。半休止状態から完全活動状態へ移行したのだ。
アルディルは驚きの顔を向け「どういう事…」
「裏切ったという事です」
アルファが告げた瞬間、アルディルは右に持つ大鎌を振るい、アルファに襲い掛かるが、左右の空間が手のように歪み、アルディルを捕縛した。
それに、黒装備の部下達が反応、腰にある魔導銃を取り出し、アルファに発砲するが、発砲した魔導の弾丸がアルファに触れる前に空間に消えた。
空間に掴まれながらアルディルが
「お前…神格炉と自分を接続したのか…」
「ええ…」とアルファは微笑む。
「黒姫様ーーー」と黒装備の部下達が叫ぶ。
アルディルは、「逃げろ! そして、知らせろ!」と叫んだ次に、大鎌を動く片手で回し、黒装備の部下達が空間の切れ目に呑み込まれて何処かへ空間転位した。
「へぇ…流石ですね…」
と、アルファは淡々と呟く。
アルディルはアルファを睨み
「何が目的だ…」
「…私から全てを奪った世界に復讐をするのです…」
アルファが不気味に笑った。
ディオス達がいる遺跡近くの小屋の庭で、アルディルが転位させた部下達が現れた。
突如、出現したアルディルの部下達にディオス達は眼を丸くする。
「な…何だ?」とディオスは首を傾げた次に、地震が発生した。大きくゆっくりと波打つ地面。
「ええ??」と困惑するナルド、ラチェット。
小屋からクレティアとクリシュナが出てきて、ディオスに近づきながら
「ダーリン、空…」
クレティアが空を指さし、ディオスが見上げると
「なんだこれは?」
空が、歪んでいた。青や白、黒、黄色と色を変化させて空が歪んでいる。
そして、その歪みが元は、あのディオス達がいた遺跡だ。
そして、遺跡のある三角錐の山が崩壊を起こして、遺跡が出現する。
銀色に輝く台形の円錐が三つ連なる超古代遺跡は、歪んでいる空へ昇る。
空の歪みを助長しながら、超古代遺跡は昇り、数百メートルくらいの高度で静止して浮かぶ。
地震が止まり、異常事態な超古代遺跡にディオスは、アルディルの部下達に近付き
「何が起こった?」
と、説明を求める。
異常事態が始まって数分、アルディルの部下達はディオス達に何も語らずに、何処かと通信をしている。
その様子をディオス達は不信で見ている。
「なんだよ。自分達ばかり…」とラチェットが愚痴る。
ディオスの右にいるクレティアが、ディオスの右袖を引っ張り
「どうするダーリン?」
左にいるクリシュナも、ディオスを見る。
ディオスは厳しい顔で
「事態がどうなっているか分からなければ、動きようもない。だが、向こうが逃げる真似をしたら、こっちも逃げよう」
「分かった」とクレティア
「ええ…」とクリシュナ
二人は頷いた。
アルディルの黒装備の部下達が開け、部下の一人がディオスに近付き
「ディオス様、詳しくは言えませんが…我らの主が貴殿と話したいと…」
魔導通信機の受信部のスピーカを向ける。
「どうも…ディオス・グレンテルくん、かね?」
それは男の声だ。
ディオスは不信の顔で
「ああ…そうだが…」
「名前は詳しくは言えない。だが…対外的にはこう呼ばれているコンダクター(指揮者)とね…」
「はぁ…その指揮者様が、どういう事でしょうか?」
「今回、神格炉を停止させる為に、寄越したリーディング・コントローラーが我々を裏切って神格炉と繋がった。その為に、このような事態になっている。このまま事態が進行すれば、世界は大きな傷を追ってしまう。そうなる前に、君の協力が必要だ」
「そっちで対処は出来ないのか?」
「向かいたい所だが…この異変の所為で、向かう事が出来ない」
フンとディオスは鼻息を荒げ呆れた後
「では、どうしろと?」
「裏切り者と繋がって操作されている神格炉を停止させるのに協力して欲しい」
「……」とディオスは黙る。
「無論、協力してくれるなら、こちらで用意出来る。君の望む限りの報酬を用意する」
「どの道、どうにかしないと、とんでもない事になるんだろう」
「理解してくれて…助かる。作戦はそちらで任せる」
こうして、アルディルの部下達と事態打開の為に協力する事となった。
ディオスは、コンダクターの部下、黒装備者達を前に質問をする。
「では、そのリーディング・コントローラーが神格炉と繋がった場合、どうなるんだ?」
黒装備者達は、互いに顔を見合わせ、正面にいる一人が
「すいません。どうなるか、予測がつきません」
「はぁ…」とディオスは強く顔を顰める。
黒装備者達は
「我々もこのようなケースは初めてで…」
ディオスは苛立ちで
「このまま事態が進行するとどうなる?」
「その…おそらく…数千キロ四方が消失する可能性が…」
ディオスの脳裏に世界地図が浮かぶ、この遺跡があるリーレシア王国を中心として数千キロの範囲…近隣になるバルストランも大きく巻き込まれるが見えた。
「はぁ…」とディオスは溜息を吐き「では、事態を収拾するにはどうすればいい?」
「それは簡単です。リーディング・コントローラーと神格炉の接続を解除して、神格炉を止めれば、収まります。ですが…」
「ですが…?」とディオスは強くツッコム。
「リーディング・コントローラーが、どのように神格炉と接続しているのか、が分からなければ…接続の解除が出来ません」
ディオスは、読み取る能力者が必要と考えた次に、後ろの傍にいるリベルを見る。
「リベルさん。未知なる機器に接触して、読み取るとかは?」
リベルは肯き
「出来ます。ただ…その機器に手で直接接触しないと…」
ディオスは、眉間に指を置き考える。
神格炉の接続解除には、今、空に浮かんでいる遺跡に侵入して、リベルのスキルを使って解除を試みるしかない。
だが、このまま侵入しても、相手に気付かれて防がれるだろう。
ならば、囮が必要だ…強力な囮。
「チィ」とディオスは舌打ちする。
それに
「ダーリン」
「アナタ…」
ディオスの両脇にいるクレティアとクリシュナが肩に手を置き、心配げに見つめる。
二人はディオスの考えが分かったのだ。
ディオスは後ろを向き、そこにいるナルド、ラチェット、ハンマー、リベルの四人を一望し
「みなさん。力を貸してください」
遺跡に詳しく、必要なスキルを持つリベルがいる四人の協力が絶対条件だ。
ナルドは「ええ」と肯き、ラチェットは「まあ、仕方ないか…」と笑み、ハンマーは「うむ」と頷いた。
リベルは、先程のリーディング・コントローラーとよばれた姉そっくりな女性が、持っている能力から姉なのではないかという確信が芽生えた。
その肩にナルドが
「リベル、今は…」
リベルは複雑な顔をした次に
「分かっています。今の優先事項は止める事です」
ディオスは両脇のクレティアとクリシュナに
「二人は、ナルドさん達と加わって遺跡に侵入してくれ」
クレティアが「ねぇ…それってダーリンが囮になるって事?」と不安そうに見つめる。
ディオスは肯き
「何とか、上手くやってみる」
クリシュナが見つめ
「もしかして…ゼルテアの時のようにアナタの内にいるアレを使うの?」
「そんな博打はしない。色々な魔法を試して、効果がありそうな魔法を使って対処する」
クレティアは、ディオスを真摯に見つめ。
「聞いて、神格は主に、空間を操作させる力に長けているは、他にも色々とあるけど…何か、使うとしたら空間に作用させる筈だから」
神格召喚というスキルと持っているクリシュナの分かる限りの助言だ。
「分かった」とディオスは頷く。
ディオスは、黒装備者達に向き
「作戦は、オレが、神格炉と繋がったリーディング・コントローラーの相手をしている。その間にアンタ達は、この六人と一緒に遺跡に侵入、神格炉の停止をする。これが作戦だ」
黒装備者の一団が頷いた。
こうして、遺跡の神格炉を止める作戦は始まった。
ディオスはウィンドの飛翔魔法で、歪んだ空に浮かぶ復活した超古代遺跡へ昇る。
超古代遺跡の周囲は、その遺跡を浮遊させている力に影響されて、大地が抉れて散らばり階段状の道が出来ている。
これによって遺跡内部に行く他の皆の経路は確保されているだろうと思いつつディオスは、遺跡の頂点の上に来た。
遺跡の形状や内部に入った感じでは、浮かんで機能する仕様ではないと明らかに分かる。
ディオスは、それへ右手を伸ばし魔法を放つ。
”セブンズ・グランギル・カディンギル”
光魔法の最高位攻撃魔法を放つ。
七つの光の巨柱が遺跡を貫こうと走るが…遺跡に接触する寸前、飴細工のように丸められ小さくなって消えた。
はい、光属性はダメ。
冷静にディオスは光属性魔法が無効化されると判断した。
遺跡上部の空間が歪んで開く、その開いた場所は神格炉がある部屋で、その口の真ん中に裏切ったリーディング・コントローラー、アルファがいた。
「あら…いきなり、あんな魔法…失礼しちゃうわ」
と、アルファは嘲笑う。
アルファは、神格炉の部屋、外を繋ぐ空間の口から出てきて、空中に浮かぶ。
ディオスと同じ高さに来てアルファが睨む。
空いた空間の口は閉じられる。
ディオスはアルファと睨み合いながら
「一つ聞きたい。何故、こんな事をする?」
アルファは不気味な笑みを浮かべ
「私には何も無いの…。今まで生きてきた記憶を全て失って、何もない。だから、私から奪ったこの世界を壊してやるの」
ディオスな右の眉間が上がり
「ほうぅ…奪われたから、壊せと…」
「そう、私の中から壊せって、世界を壊してしまえ、間違ったこの世界を壊せって…」
アルファの答えに、ディオスなまるで、操られているかのような感じを受ける。
「それは、お前の意思か?」
「んん?」とアルファが唸った次に、アルファがガクッと項垂れ
「壊セ壊セ壊セ、コノ世界ヺ壊セ、下等生物ガ、蔓延ル、コノ世界ヺ…壊セーーーー」
そう叫んだ顔は、アルファとは別人の形相だ。
ディオスは眉間が寄る。
コイツは、何者かに操られている。説得は…難しいか…。
アルファの顔が元に戻り
「さあ、私の邪魔をするアンタはここで消えて貰うわ!」
「そうかよーーー」
ディオスは魔法を発動させる。
”バハ・フレア・オルレイン”
無数の炎のフレアがアルファを包むも、爆炎がアルファに接触すると、先程の光魔法のように纏められ消えた。
火属性魔法はダメか。
と、ディオスは思い次の魔法を発動させる。
ディオスとアルファの攻防の下で、クレティアとクリシュナは、浮いている岩場を飛びながら浮かぶ遺跡に向かっている。
その後をナルド達四人と、黒装備達が昇ってくる。
「早く! アンタ達!」
クレティアが呼ぶ。
「分かってますよ!」
ラチェットが叫ぶ。
一団は、遺跡に近付き、入口に来て内部に入るとそこは、あの人サイズのゴーレム達が動いて守っていた。
「チィ」とクレティアは舌打ちして腰に携えている剣を手にする。
クリシュナは眉間を寄せて、右手を回して魔導収納から巨大な斧を取り出し
「一点突破、時間がないわよクレティア」
「あいよ」
と、クレティアは返事をした。そして、
「ライジン」
クレティアは稲妻化してゴーレムを切り裂く。
クリシュナは
「神格召喚、朧」
神格を自身に付加させて、巨大斧でゴーレム達を叩き潰す。
一気に道が開ける様に、ラチェットは顔を引き攣らせ
「ディオスさんも恐ろしいけど…あの奥方達も恐ろしいなぁ…」
「ラチェット!」とナルドが声を張り「時間がないんだ。奥方達が道を開いてくれるから急ぐぞ!」
クレティアとクリシュナは、ゴーレムを紙くずの如く壊して道を開き、それにナルド達と黒装備者達が進む。
外では…ディオスが様々な属性の魔法をアルファに放っていた。
”アイス・レインズ”
空気中の水分が氷結して無数の槍になって降り注ぐも、消される。
”トルネード・サンダリアス”
雷と竜巻が合わさった攻撃がアルファに向かうも、同じく消される。
”ブラックホール・アビス”
闇属性の空間を曲げる超質量攻撃も放つも、虚しく消える。
チィとディオスは舌打ちする。
水と風の複合属性もダメ、地と風の複合もダメ、闇属性だけの攻撃もダメ。六つの全ての属性魔法が消される。
「もう、終わり?」とアルファが嘲笑う。そして、「消えてしまえ!」
アルファの正面にある空間が歪み衝撃波となってディオスに迫る。
ディオスは右手を伸ばし、力のベクトルを曲げる防護魔法を発動させる。
レド・ゾルの作用のお陰で空間を伝わる衝撃波からは身を守れたが…。
攻撃魔法が一切効かない相手にどうするか? 考えているとクリシュナが言った言葉が過ぎる。
神格は主に空間を操作させる力に長けている。
ディオスは、考える。空間を操作させる力に長けているなら、逆に空間に通じた攻撃なら効くのでは? そして、ディオスはとある術を組んだ。
”クワイトロール・レイン・アロー”
無数の小さな空間の歪みを発生させ、その一つ一つを矢のように鋭くさせ、アルファに降り注いだ。
アルファに迫る無数の空間の刃。
さて…これも消されるか?とディオスは考えるも、答えは。
アルファは、手を振り空間を曲げた防壁を展開させ、その刃達を防いだ。
今度は、消されない。そう、効果がありだ。
アルファは、両腕を振り上げ空間を引き裂き、その裂け目をディオスに走らせた。
ディオスは、パンと両手を叩き合わせた瞬間、空間が歪んで震動し、空間の衝撃波が発生して、その衝撃波がアルファの向けた裂け目と当たって相殺された。
アルファは顔を鋭くさせる。
そう、さっきやった事象は、自分がディオスに向けた空間の衝撃波と同じだった。
「悪いな、真似をさせて貰った」
ディオスなニヤリと笑う。
アルファは、鋭い顔をして
「お前…気に入らない。死ね」
アルファの周囲の空間が歪み、柱のように伸びてディオスに向かう。
ディオスは右手を上に伸ばし
”タワー・クワイトロール”
ディオスの周囲の空間が歪み、無数の空間の柱が出現して、アルファに伸びる。
空間を曲げて形成した柱同士の打ち合いになる。
そこへディオスは次の魔法を唱える。
”アインサイズ・ホロウ”
アルファの上下に空間が歪み、細かな柱のように伸びてアルファを包み込む。
アルファを捉えようとしたが、アルファは寸前の所で瞬間移動して逃げた。
アルファとディオスは睨み合いになる。
そう、お互いに効き目がある攻撃が始まったからだ。
アルファはどうすればいい?と考え
ディオスなアルファがこっちに注目して慎重な姿勢に
よし!こっちの思う壺に入ったぞ…
と時間稼ぎが出来る。
その頃、クレティアとクリシュナの突破によって一同が、神格炉のある部屋に到着する。
皆が部屋に入ると、入口でクレティアとクリシュナは構え、入ってくるゴーレム達を破壊し山にして入口を埋めた。
そして、その部屋でアルファの空間閉じ込めにいるアルディルが
「アンタ達…」
部下である黒装備者が近付き
「黒姫様、今、お助けしますので」
リベルは神格炉に繋がれている機器を見回して
「どれに、触れればいいんですか!」
黒装備者が、
「これです。これがメインです」
リベルを導くと、リベルは右手で触れる。
「みんな!」
リベルは声を張る。
同時に、リベル、ラチェット、ハンマーは冒険者のツールである解読端末を、輝き動く神格炉の端子に接続して
「いけるぞ!」
ナルドが叫び、ラチェット、ハンマーは頷く。
「行きます!」とリベルはリーディングする。リベルの意識が接続されている端末を通じて神格炉に入り、神格炉のコントロールを握っている機構へ接続、その接続パスワードを読み取り
「ナルド、113905454」
ナルドは「ええ…113905454」
「ラチェット、39885467」
ラチェットは「39885467」
「ハンマー、99546732」
ハンマーは「99546732」
リベルからのパスコードを三人は入力した。
神格炉にアクセスした三人は必死で、接続解除と止める方法を探す。
「あった! これだーーー」
ラチェットは接続解除と停止させるスイッチを見つけ、押した。
輝いていた神格炉は明滅を繰り返し、出力を下げるように唸る。
アルディルを捉えていた空間の檻が消えて、アルディルが解放されると、部下達がそれをキャッチした。
外、空間を操作して攻撃を繰り出し合うディオスとアルファだが、唐突にアルファの放った空間の歪みの攻撃が消えた。
「んん!」とディオスはその変化を見逃さない。
アルファは両手を眼前に持って来て見つめ
「ウソ…そんな…」
糸が切れた人形のようにその空中から墜ちる。
「おっと」
ディオスは素早く、ベクトの瞬間移動で駆け付けキャッチ、アルファをお姫様抱っこした。
「どうやら、作戦が成功したみたいだな」
ディオスが告げると、腕の中にいるアルファが顔を驚きに変えた次に睨みにして
「お前…囮か!」
「そうさ、単純な手だろう」
ディオスはフッと笑む。
アルファは、眼を閉じて
「もういいわ。何もかもお終い。アンタも巻き込んでこの世から、おさらばしてやる」
「はぁ?」とディオスは顔を顰めた次に、驚愕に変えて「お前! まさかーーーー」
「ええ…ここだけ、空間を指定して暴走させてやるわ。まあ、このリーレシア王国と、その周辺国が消える程度だけどね」
神格炉の部屋では、停止した神格炉を前に一同が安堵していたが、唐突に神格炉が明滅を始めた。
え…と周囲が困惑する。
その天井、ディオスがエンテマイトの空間膜の高震動で破壊して孔を開けて登場する。
その腕にはアルファが抱かれている。
「ダーリン」とクレティアが、クリシュナがディオスに近づき
「コイツを頼む」
と、ディオスはアルファを二人に預け、アルディルに近付くと神格炉を指さし
「おい、神格炉を破壊した場合、どのくらいの被害が出る」
「はぁ?」とアルディルは訝しい顔をする。
「アイツが、神格炉を使ってこの国と周囲を破壊する気なんだ」
と、ディオスはクレティアとクリシュナに押さえられるアルファを指さす。
「えええ!」と度肝を抜かれるアルディル。
アルファが
「遠くに飛ばして防ごうとしても無駄よ。遠くに運んでも、必ずエネルギーがこの地に来るように転送の設定もしているから、あははははははーーー」と高笑いをする。
最悪な設定だ。
「ウソだろう!」とナルドは、接続した端末を使って止めよとしたが、端末が神格炉からの逆流エネルギーで壊れた。
それは、ラチェット、ハンマーの端末も同じだった。
他の接続されている端末達も壊れた。神格炉のエネルギー放出の活動が高まっている。
それに、ディオスは「おい!」とアルディルに声を張る。
アルディルは右手を顎に当て考える
「ええ…神格炉を破壊した場合、神格が解放されるエネルギーで周囲二十キロは消し飛ぶかも…。でも、その前に…神格炉は頑丈だから並大抵の魔法では壊せないわ」
「どの位の魔法なら壊せる?」
と、ディオスは問う。
「おそらく…極大殲滅魔法、バルド・フレアなら…」
ディオスは「よし」と肯き覚悟を決めた。
”グランギル・カディンギル”
天井へ極大光線の魔法を放ち、大穴を開けると、エンテマイトの高震動を纏ったまま、神格炉を固定する下と上の二柱を粉砕する。
神格炉は空中に浮かぶと、その傍にディオスは佇み、その周囲に空間を曲げる魔法を放ち、あのクリシュナの時に神格を打ち上げた魔法を発動させる。
”レド・ルーダ”
その魔法によってディオス共々、神格炉は空へ打ち上がった。
超音速で飛翔するディオスと神格炉、地面が遠くなり、ディオスは防護魔法で自身を包んだ後、打ち上げる作用のしている場から飛び退くそこは、高度四十キロで、神格炉だけが更に遙か遠くへ昇る。
星のように小さくなった神格炉にディオスは右腕を伸ばし、神格炉を破壊出来る魔法を発動させる。
「極大殲滅魔法」
”バルド・フレア”
ディオスの右手から光線が伸びて、高度、二百キロの位置で星のようになった神格炉に衝突する。
神格炉を中心として膨大な量の閃光と熱エネルギーの圧縮と爆発のフレアが数キロ範囲で広がり、膨大な破壊のエネルギーによって神格炉が破壊され。
バルド・フレアの大爆発の後、神格炉の中にいた神格の放出による爆発で更に巨大な爆発が起こり、軽くディオスのいる所まで余波が来た。
その余波に襲われるディオスだが、張っていた防護魔法のお陰で守られ、地上へ向かう。
神格炉が爆発した閃光を見上げ、アルファはその場に崩れて、虚ろな瞳で虚空を見つめる。
何とか、事態が終わったその場、アルディルが、アルファに近付き
「覚悟は出来ているかしら」
大鎌をアルファに向ける。
その前にリベルが立ちはだかる。
「お前…何をしている?」
アルディルが、前を塞ぐリベルを睨む。
リベルはグッと威圧を堪え
「姉さんは殺させない」
「はぁ?」とアルディルが苛立つ。
そこへ、ベクトの瞬間移動を使ってディオスが帰着して、アルディルとリベルが対峙する様子を見て
「すまないが。ちょっと、こちらの話を聞いてくれないか?」
アルディルに告げる。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話もあります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




