第27話 冒険者ギルド 門を潜る
新章を読んでいただきありがとうございます。
冒険者ギルド編です。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスは自身の内なる存在を知るために、手がかりのある超古代遺跡の冒険者のギルドの門を叩いた。
そこで待ち受けていたのは…
冒険者ギルド 門を潜る。
ディオス達はとあるギルドの前に来る。そこはリーレシア王国の都市エンテイスにある冒険者ギルドである。
「ここか…」
と、ディオスは呟きクレティアとクリシュナと共にその入口に来ると、入口の傍に座っているエルフの老人がディオスを見て「ほぉ…」と唸る。
「こんには…」とディオスはエルフの老人に挨拶をする。
「おお…こんにちは…」とエルフの老人は返すと「お主…何用でここに来た?」
「ここで超古代遺跡の調査が出来ると聞いて…」
「ほう…。ここは普通の魔物を狩って収益を得るハンターギルドとは、違うからのぉ」
ホォホォホォとエルフの老人は笑って
「まあ…お手柔らかに頼むぞい」
エルフの老人はディオスがただ者ではないと察していた。
「ん? はぁ…?」
ディオスは何となく頷いて、西部劇にありそうなスイングドアを押して開いた。
そこに広がっていた場景は、テーブル達が並び、その席達に男女種族様々な鎧を纏った一団が食事をしたり、ゲームをしたり、装備の武器や魔導銃を磨いていたりと、くつろいでいた。
その中をディオス達は進むと、テーブルにいる連中がジロジロと見ている。
ディオス達が新参者であるのもあるが、同じように武装をしているのもある。
ディオスは魔導士のローブと、その下に軽装甲を纏い。
クレティアとクリシュナは動きやすそうな鎧で、クレティアは腰に多数のエンチャン系の剣を携え、クリシュナは背中に空間結界展開用のソルドを携えている。
典型的な二人戦士の一人魔導士のパーティーだ。
ディオスは、ギルドの中を見て思った感想は、自分の屋敷があるフェニックス街のハンターギルドより、ちょっとギスッと空気が鋭い感じがある。
フェニックスのハンターギルドはもっとアットホームというか、柔らかい和める感じだ。町民も出入りしているから、そうかもしれないが…この冒険者ギルドには、街の人の姿が一切無い。
感じながら、ディオスはギルドの奥にあるカウンターに来る。
そこにいる受付嬢に「どうも…」と挨拶する。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件で?」
ディオスは懐からウィルトンの紹介状を取り出し、カウンターに置いて
「ウィルトン教授からの紹介で来た者です」
「ああ…ウィルトン様の…」
受付嬢は紹介状を受け取り、紹介状の宛先を見て
「当ギルドのギルド長宛てですが…。何か特別な用件でも?」
「ああ…」とディオスは肯き「超古代遺跡の調査をしたい」
「はい、でしたら…」と受付嬢が後ろにある棚から地図を取り出し
「現在、調査可能な遺跡の一覧と位置でございます。ここからお選びください」
と、ディオスの前に置く。
ディオスは懐から地図を取り出す。
それはウィルトンが示してくれた未調査であるも可能性がある超古代遺跡の位置が示された地図だ。
「ここの、まだ…未調査の遺跡に行きたいのだが…」
と、ディオスは地図の一カ所を示すと、受付嬢は困った顔をして
「申し訳ありません。当ギルドの関係者以外、未調査の超古代遺跡を探索するのを許可する事は出来ません」
「では、調査を出来るようにするには、どうすれば?」
「当ギルドに冒険者として登録して貰うしか…」
「そうか…では、登録したいのだが…」
「はい、では」と受付嬢がディオス達の後ろにいる冒険者達を見ると
「皆さん。この方達は当ギルドに登録したいと申し出ていますが…」
「あいよ…」とテーブルにいる冒険者達は立ち上がる。
その十名、オーガから獣人に人族とバリエーションは様々だ。
「ん?」とディオスは首を傾げてその冒険者達を見る。
十人の冒険者の一人が一歩前に出て
「ウース!」と挨拶して「これ、分かる?」と首飾りにしている銀色のプレートを掲げ
「これ、冒険者ランクを示していてね。ブロンズから始まってシルバー、ゴールド、プラチナ、ダイアマイトってランクがあるのよ」
「はぁ…」とディオスは呟く。
ディオス達を囲む周囲の冒険者達は、指を解したり肩を回したりして臨戦態勢に移っているのか、クレティアとクリシュナは鋭い戦士の顔になる。
説明をする冒険者の男が
「でさ、ここの慣習なんだよ。この冒険者ギルドに入ろうってヤツの腕っ節を試すってね。なーに、心配ない。オレ等、シルバークラスの連中を十分の間、戦いこなしてくれれば合格だ。悪いね…腕っ節が弱いヤツを入れて死なれたら、寝付きが悪くなるからよ」
「え…」とディオスは、受付嬢を見ると
「そういうルールなので」と受付嬢は笑む。
「じゃあ、行くぜ」とシルバークラスの冒険者達がディオス達を試そうと拳の戦闘態勢に入る。
「はぁ…」とディオスは溜息を漏らし
”グラビティフィールド”
重力魔法を発動させ、囲っている冒険者達を床に圧し付けた。
「はい、平和的解決」とディオスが事態を収めた筈が、別の冒険者の魔導士が、重力魔法を相殺させる魔法を発動させ解放した。
「舐めた事、してくれるじゃねぇか…兄ちゃん」
復活した冒険者達が睨む。
「はぁ…やれやれ」と呟くディオスの両脇にクレティアとクリシュナが来て
「ダーリン、一人頭、三人で」
「分かった」とディオスは肯き
「妥当ね」とクリシュナは笑む。
冒険者達が「ほんじゃあ、再開といくぜ!」と告げた瞬間、ディオスが消えた。
ディオスはベクトの瞬間移動で再開のゴングを鳴らした男の正面に移動、超高震動の空間の膜エンテマイトを纏い、男の腹に正手した。
男は砲弾の如く吹き飛び、入口にあるスイングドアを突き抜け外に転がった。
「え…」と他の冒険者達が戸惑う。
その僅かの間にクレティアは剣を取り、三人の冒険者を剣技で峰打ちだが吹き飛ばす。
クリシュナは右手を回して、魔導収納庫から二メータサイズの棍棒を取り出し、別の三人を一緒にホームランして吹き飛ばす。
ディオスは残る両脇の二人にエンテマイトの正手をぶつけ吹き飛ばした。
僅か数秒で九人が吹き飛び辺りに転がる様相に、傍観していた冒険者達は驚愕を見せている。
残るは一人、その一人にディオスは近付く
「どうする?」と聞くディオスの巨大な魔獣さえ怯ませる威圧に。
残った冒険者の男は、全身が粟立ち「こ…降参です」と両手を挙げて半泣きだ。
「フン」とディオスは鼻息を荒げ、クレティアとクリシュナは各々の武器をしまう。
ディオスは受付嬢の元に来て
「これでいいかな?」
受付嬢は困惑気味に「は…はい」と頷く。
ディオス達は登録する前に、受付嬢がウィルトンの紹介状をギルド長に渡してからの方が良いとして、受付嬢は冒険者ギルド長、人族のガジェットの元に来た。
ギルド長の部屋でガジェットは受付嬢からウィルトンの紹介状を受け取る。
「ウィルトン教授が? 紹介状?」
ガジェットは紹介状を開けて、書状を読むと座っていた机の席を立ち、急いで冒険者のいるホールに向かう。
ホールに来たガジェットは受付嬢に
「この紹介状を持って来た者達は?」
「あそこに…」と受付嬢がカウンターにいるディオス達を指さす。
ガジェットはディオスの元に来て
「私が、当ギルドの長、ガジェット・オルトンです」
「どうも…ディオス・グレンテルです」
「あの…その…魔導士証明プレートを見せて頂けますかな…」
ディオスは魔導士ローブの一番頑丈なポケットに仕舞っている魔導士証明プレートを取り出し、ガジェットに見せる。
「失礼…」とガジェットはプレートに手を翳して
”マジックスキャニング”
と魔導でプレートにあるゴールデンフィアが本物か探り
「おおおおお、本物のゴールデンフィア…。では、書状の通り、アーリシアで五番目のエルダー級大魔導士なのですね」
「ええ…まあ」と戸惑い気味にディオスは答える。
その言葉を耳にした冒険者達が、
エルダー級ってなんだよ。
エルダー級も知らないのか?
ウィザードを超える級だよ。
確か、アーリシアでは四人しかいない大魔導士じゃあ。
そういえば、最近、新たに五人目が出たって来たぞ。
じゃあ…。
ディオスに外まで吹き飛ばされた男が仲間に両肩を抱えられ連れてこられ
「冗談じゃあねぇ…大魔導士…バケモノを相手にしたのかよ…」
恨み言を呟いていた。
その脇を、外の入口のイスに座っていたエルフの老人が通り掛かり
「だから…お手柔らかにと言ったのに…」
と、告げてディオス達に向かう。
ディオスを前にガジェットは
「その…このような大魔導士殿を、当ギルドに登録とは…どう…」
ディオスは困っているガジェットを見つめていると、エルフの老人が到着して
「ダメじゃよギルド長。幾ら、エルダー級の大魔導士だからと言って特別扱いはいかん。他の冒険者達に示しがつかん」
ガジェットはエルフの老人を見て
「ヴァルファールさん」
エルフの老人、ヴォルファールはディオスの前に来て
「ルールはルールじゃ。厳格でないといかん。のう…渦持ち殿」
と、ディオスに微笑むヴォルファール。
ディオスは瞳を鋭くさせる。そう、このエルフの老人ヴォルファールはディオスが魔力の無限特異体質だと気付いていたのだ。
ガジェットは肯き
「分かりました。ディオス…くん。我がギルドのルール通り、まずは最初の冒険者ランク、ブロンズから始めて貰うぞ」
ディオスは「分かりました」と頷いた。
ヴォルファールはディオスに微笑みながら
「なぁーに、お主なら、あっという間にゴールドを超して、ダイアマイトになれるさ」
ディオス達は、冒険者ギルドにて登録をする。
初めの階級であるブロンズからのディオス。
クレティアとクリシュナは、自宅があるフェニックス町のハンターギルドにての功績が加味されてシルバーからだ。
ディオスより一つ上の階級のペンダントを見せるクレティアは
「ダーリン、ここではアタシ達が先輩だから」
と、悪戯に微笑む。
クレティアは腕を組み
「まあ…スパルタとは言わないけど、それなりにビシビシ教えるから」
ディオスは顔を引き攣らせ
「ああ…よろしく頼む」
と、告げた後、カウンターにウィルトンの地図を広げて置き
「さっそくだが…」
ディオスは、エンテイスから一番近い未調査の超古代遺跡を指さし
「ここの調査をしたいのだが…」
受付嬢は困った顔をして
「すいません。ここはちょっとブロンズの貴方様が、調査を許可できる遺跡ではありません」
「どうすれば、調査が許される?」と聞くディオス。
受付嬢は困り顔で
「そうですね…。シルバーランクが六人、同行してくれるなら、ブロンズの方が幾人でも許可が下ります」
ディオスは、クレティアとクリシュナを見る。
シルバーは二人だけ、後四人足りない。
そこへ、「なら、我々が加わりましょうか?」とディオス達のいるカウンター横にある二階に昇る階段から声がした。
それは四人のパーティーだ。金髪の人族の青年、金髪で獣人族の優男の青年、屈強な体のオーガ族の男、赤髪の人族の少年。
金髪の青年がディオスに近付き
「初めまして、このチームのリーダーをしています。ナルド・ヘルドです」
ディオスは四人の首に掛かっているシルバーランクのペンダントを見る。
「全員、シルバーの方なのですね」
「ええ…」とナルドは頷く。
ディオス達は、ナルドに連れられて二階の大テーブル席に来る。
テーブルの奥にナルド達が座り、ディオス達はその対面に座る。
ナルドが右にいる獣人族の優男を差し
「彼は、ラチェット・アンマ」
「よろしく」と獣人族の優男、ラチェットは笑顔で軽く挨拶をする。
次に左にいるオーガの男を示し
「こちらの仲間は、ハンマー・オルド」
「よろしくです」とオーガの男、ハンマーは礼儀正しくお辞儀をする。
ハンマーの隣にいる少年を示し
「こっちが、ディオスさんと同じ魔導士のリベル・カタラ」
少年はお辞儀して「初めまして」
ディオスは四人を見て
「初めまして、ディオス・グレンテルです」
ディオスの右にいるクレティアが手をあげ
「アタシ、クレティア」
ディオスの左にいるクリシュナがお辞儀して
「クリシュナです」
ディオスがナルドに
「早速ですが、どうしてお声を?」
「それは…」とナルドが口にしようとした次に、ラチェットが立ち上がり右手を挙げ
「強くて美しい人、惚れました。付き合ってください」
と、ラチェットはクレティアのそばに来て手を取る。
「あはは…」と困るクレティア
ディオスはクレティアの腰に手を回して自分に寄せて、不快な顔でラチェットを見る。
ラチェットがその反応を見て
「もしかして、ディオスさんとクレティアさんは、お付き合いしているとか?」
クレティアは苦笑して
「ごめんね。アタシの旦那はこの人なんだ。ねぇ」
と、ディオスに寄る。
「え…」とラチェットは固まる。
クリシュナも「私もこの人の妻です」とディオスの腕に寄る。
「おお…」とハンマーは唸り、リベルは「え…」と驚きの顔を見せる。
ラチェットは、ディオス見て
「奥さんが…このお二方が?」
「ええ…」とディオスは頷く。
ナルドは、ラチェットのそばに来てその頭を殴り「こい、ラチェット!」と元の席へ戻し
「すいません。ディオスさん、奥方様」
謝るナルドの、その隣でラチェットは項垂れショックを受けているようだ。
話を元に戻すか…とディオスは
「で、何故、自分達に声を?」
ナルドは頭を掻きながら
「実は、ディオスさんが示した遺跡は、私達も狙っていまして…」
ハンマーが
「高難易度の遺跡なので、強力な助っ人が欲しかったのであります」
リベルが
「先程の、ギルド登録の儀式を見ていまして、相当に強いというのが分かった事と、エルダー級の大魔導士なので…」
ナルドが
「ディオスさん達は、遺跡を調査したい。我々は遺跡の中にある財宝が欲しい。ディオスさんの調査にも協力しますので、加えて貰えませんか?」
ディオスは考える。
そうだな…初めて来た場所だし、色々と都合が分からない。ここは分かっている人を味方に付けた方が無難か…。
ディオスは、手を差し出し「こちらこそ、よろしくお願いします」
ナルド、ラチェット、ハンマー、リベルはホッとした笑みをして
「よろしくお願いします」とナルドは握手を交わした。
早速の出発となり、遺跡の探査期間に必要な食料と雑貨に装備を揃えて、魔導トラックで出発した。運転はナルド、助手にラチェット、途中休憩で運転を交互に変わる予定だ。
トラックの荷台にディオスとクレティアにクリシュナ、ハンマーとリベルが座る。
ディオスが運転席と繋がる窓に顔を出し
「どのくらいで到着の予定ですか?」
ラチェットが地図を見ながら
「まずは、今日の移動は途中経過にあるセーフハウスまで行く事。まあ、何だかんだあって、夜の七時か八時に到着予定ですよ」
「そんなに?」とディオスは外を見る。
トラックの行く道は舗装はされていないが、それなりには走れる。
走っている速度もそんなに遅くない。
地図を取り出して見ると、そのセーフハウスに行くまでに道が煩雑とも思えない。
地図を見ているディオスにリベルが
「ディオスさん。道を進むにはそんなに問題はありません。何もないなら、四時間くらいでセーフハウスまで行けます。何もないならね」
韻を踏むようなリベルの言葉にディオスはひっかりを憶えると、トラックが止まった。
ラチェットが「お客さんが来たぜ」と後ろに呼びかける。
リベルが「はぁ…やっぱり…」と呟く。
「んん?」とディオスが疑問に思っていると、クレティアが手を引いて
「行くよダーリン。魔物が出た」
ディオスが外に出ると、四足歩行の獣型魔物の群れが迫っていた。
トラックの周囲にナルド、ラチェット、ハンマー、リベルの四人は陣取る。
ディオスは、近付く魔物の群れを一望しながら
「ほう…こんなに魔物が…」
「行くよダーリン」とクレティアが前に出る。
「ああ…」とディオスとクリシュナは続く。
「ディオスさん!」とナルドが声を張る。
ディオスは腕を上げて振りながら
「自分達が先行します。漏れ出た魔物をよろしくお願いします」
ディオス達は悠然と歩きながら、何十匹もいる魔物達に
面倒クサいなぁ…。一発で消し飛ばすか…。
ディオスは歩きながら魔法陣を展開し魔法を発動させる。
”ダウンフォール・バベル”
「ちょっと、ダーリン! 待った!」
とクレティアが声を張るも遅く、ディオスの周囲にある六つの魔法陣から六つの極太の光線が空へ昇り、魔物の群れに墜ちた。
一瞬で何十匹いた魔物達は消滅し土煙が舞う。
「よし、終わり」
と、ディオスは告げた。
ディオスが一瞬で終わらせた光景に、トラックを守る四人は驚愕に包まれる。
ディオスの頭を叩くクレティアとクリシュナ
「なんて事をするのよダーリン」
「アナタ! どうして、あんな事をしたの!」
もの凄く怒る二人にディオスは困惑して
「ええ…だって魔物だろう。良いじゃないか、消滅させたって」
クレティアは怒りの顔でディオスを凝視して
「あのね…魔物って倒すと魔導石化するわよね。それがね! ギルドに登録している人達の貴重な収入源なのよ!」
「ええ…」と驚くディオスの腕をクリシュナが小突き
「アナタは、面倒クサいとなんでも魔力でごり押しするんだから! ダメでしょう」
「ええ…ええ…」と困るディオスにクレティアが
「もし、次にあんな消し飛ばす真似なんてしたら…夜、かまってあげないからね」
ディオスは、かまってくれなくなる事にショックを受け
「はい。気をつけます」
素直に謝った。
そして、森の奥から次の魔物の一団が現れる。今度は四メータ近い獅子獣型の巨体のベヒーモスタイプだ。
五体いるベヒーモスタイプと犬サイズの魔物数匹の一団はディオス達に向かって来る。
「じゃあ、そういう事も加味していくわよ。ダーリン」
と、クレティアが前に出る。
「はい」とディオスは続く。
ベヒーモスと犬サイズの魔物達は別れ、犬サイズの魔物はトラックの四人へ、ベヒーモス達はディオス達に向かう。
ベヒーモスタイプを前に、クレティアは両手に剣を抜き、クリシュナは魔導収納から巨大な二メータ半の巨剣を取り出す。
クレティアは「ライジン」と雷化して、ベヒーモスの一体に突進して切り裂き、倒して魔導石化する。
クリシュナは「神格召喚・朧」と神格ドゥルガーの力を自身に付加させ、疾風の如くベヒーモスに向かい、一刀両断する。
ディオスは、加減しないといけないのか…と面倒クサそうに思いつつ、それなりの魔法を告げる。
「地属性、雷魔法」
”ゼウス・アックス・サンダリオン”
四メータのベヒーモスを呑み込む雷を三つ放出させ、ベヒーモスに襲来、ベヒーモスは膨大な雷の力に打たれ焦げて、魔導石化した。
ディオス達がアッサリとベヒーモス達を屠った有様に、トラックにいる四人は呆然とするも、ラチェットが「おい、来たぞ!」と声を張る。
犬サイズの魔物達は四人に、襲い掛かる。
「行くぞ!」とナルドは剣を取り出し
”フレア・ソード”
炎の魔法を剣にエンチャンさせる。
ラチェットは右腕を伸ばし、魔力で出来た弓と矢を構築して構える。
リベルが、右手を魔物達に向け
”フレア・アルド”
と、炎の拡散魔法弾を放出させ魔物達を散らせる。
ハンマーが両手に三角を作り、精霊魔法で
「ウッド・アースルト」
と、魔物達の下から木の根を生やして絡め取り動きを止める。
そこへナルド、ラチェットが切り込み魔物達を倒す。
更に、ハンマーも剣を抜いて加わり、襲ってきた魔物達を一網打尽にして倒した。
魔物達を倒した後、魔導石化した魔物にクレティアとクリシュナが近付き何かの作業をしている。
「何をしているんだ?」
と、ディオスは近付く。
クレティアとクリシュナは、大型サイズのベヒーモスだった魔導石の山に剣を突き立て削りながら
「魔物の核となっている魔導石のコアを取ってるのよ」
と、クレティアは答えた。
「へぇ…」とディオスは頷いて、他のトラックの傍で魔導石化した魔物を削っているナルド、ラチェット、ハンマー、リベルの四人を見る。
「取れた」とクレティアは、魔導石の山から拳二つ分の大きさをした魔導石を握り
「ダーリン、これがハンターの報酬になるの…」
魔物の核である魔導石をディオスに見せる。
「ほぅ…」とディオスは唸りながら、クレティアが取った魔導石を握り確かめる。
魔物は、自然界の魔力が集まって誕生する魔導生命である。
死ねばこうして、魔導石化して、一番魔力が強い中核を取られれば、他の魔導石は構築力を失い急速に風化して消える。
「かなりの純度の魔導石だな…」
ディオスは魔導石を見つめていると、他の魔導石の核を抜いたクリシュナも傍に来て
「これを見て」
ディオスに別の核だった魔導石を渡す。
「ん! これは…」とディオスは渡された魔導石が普通の魔導石とは違う事に気付く。この魔導石は、地属性の雷を宿した魔導石だ。
本来、魔導石は火、水、風、地、光、闇と六つの主属性が主流で、鉱山から取れる魔導石も殆どが、火や水に風と土、希に光と闇だ。
このように魔法の効果が宿った魔導石は滅多にない。
ディオスは雷の魔導石を掲げながら
「成る程…魔物から取れる魔導石には、このような珍しい魔法の効果を持った魔導石が取れるのか…」
クレティアが別の取った魔導石をディオスに渡し
「こういう、宝石としての価値がある魔導石もあるわよ」
その渡された魔導石は、七色の光を灯している。
「成る程…だから、消滅させるではなく、原型を留めて倒せと…」
「そういう事」とクレティアは頷く。
「ディオスさーん」とリベルが「行きましょう!」と呼ぶ。
再びトラックに乗って出発する一行。
ディオスはリベルとハンマーを見て
「何もないならって言った事は、こういう事ですか?」
その問いにリベルは微笑み
「ええ…そうです。どうしても超古代遺跡の周辺では、自然界に溢れる魔力の流れが集まりやすくて、魔物が発生しやすいんです。他の地域に比べて特に、発生頻度は高いです」
「こうして、度々、魔物と戦って面倒でしょう。飛空艇とかで移動した方が楽なのでは?」
ハンマーとリベルは、共に困惑の顔を見合わせる。
「もしかして、ディオスさんは、アーリシアの出身ではないのですか?」
リベルが聞く。
「ええ…まあ」とディオスは答える。
クリシュナが「すいません。この人…ユグラシア大陸の極東の出身で…」と告げる。
「ああ…」とリベルは納得し、ハンマーは頷く。
クレティアが「アタシが説明してあげる」とディオスに
「超古代遺跡周辺は強い魔力の流れが生まれてやすくてね。スポイトっていう魔力の渦が発生しやすいの。そのスポイトに飛空挺が入ると、飛空挺を浮かせている風石の魔力が吸われて墜落するの」
「ああ…成る程」とディオスは理解した。
ここは、超古代遺跡の密集地帯だ。それに応じて複雑で強い魔力の流れが発生しやすいなら、そのスポイトというモノも大量に何時何処で発生するか分からない。
そういえば…飛空挺の経路図はこのリーレシア王国を避けるように描かれていた。
「飛空挺が使えない以上、面倒だが陸路で行き、エンカウントする魔物を倒しながら進むしか無いと…」
ディオスは結論を告げた。
「その通りです」とリベルは頷いた。
「では、逆にスポイトが発生するという事は、その近くに超古代遺跡がある可能性が高いという事に…」
ハンマーが肯き
「その通り。その慧眼、お見事でござる」
リベルが微笑みながら
「大体、一日の移動で片手くらいの魔物と遭遇します。まあ、その対応に追われて移動のスピードが鈍りますが…。ディオスさん達がさっき見せたお力を鑑みると、もしかしたら、予定より早くセーフハウスに着くかもしれませんね」
「うむうむ」とハンマーは肯き
「先程のディオス殿と奥方達のお力、ディオス殿はエルダー級に相応しいお力であり、奥方達も素晴らしいお力でござった」
クレティアが
「ダーリンを褒めるなんて止めてよ。そうしたら、ダーリンが調子にのってさっきみたいに魔物を消し飛ばしちゃうんだから」
クリシュナが「いい、アナタ」と
「ギルドの人にとって、倒した魔物から取れる魔導石は貴重な収入源なの、本当に次、あんな消滅させるなんてしたら、許さないから」
ディオスに釘を刺す。
「ああ…うん。分かっている」
ディオスは素直に頷く。
「いやはや」とハンマーが
「どんなに強い魔導士でも、奥方には頭が上がらないのですな」
「は、はい…」とディオスは呟いた。
その後、二度程、魔物と遭遇し倒しながら進んで、夕方頃。
「セーフハウスが見えて来ましたよ」
と運転を交代したナルドが先を指さす。
そこには、岩山を加工して作られた集落のような施設が見えた。
セーフハウスという岩山の施設に近付くと、その周囲を守り固める巨大な石壁が現れ、石壁と外を繋ぐ重厚な門が開き、ディオス達を乗せたトラックが内側へ入った。
トラックは岩山の施設の前で止まると、その周囲には同じようなトラックの一団が多くあった。
ディオスは降りると、さっそく目に飛び込んだのが、色んな国の国旗を付けたトラック達である。
その傍にいるのは、武装した兵士や魔導騎士だ。
「なんですか? 彼らは?」
ディオスの問いに、運転席から降りたラチェットが
「ああ…ここの魔物が発生しやすい環境を利用して、各国から魔物を狩る訓練に来る軍隊がいるんですよ。ここはエンテイスにも近いですからね」
「へぇ…じゃあ、遠くなると…」
「ええ…急に人が減りますけどね」
ナルドがその隣に来て
「ディオスさん。今日は助かりました。ディオスさん達のお陰で手こずる魔物退治が簡単に済んで、早くここに着く事が出来ました。ありがとうございます」
「いいや、いいですよ」
とディオスは、遠慮して手を振る。
「おーい、皆の衆」とハンマーが
「ここで休むロッジを手にしたから、食料と荷物を運び込もうぞ」
「あー」とナルドは返事をする。
その時、ゾックとディオスは背中に刺さるような視線を感じて振り向いた。
だが、そこには、こちらに視線を向けていない軍隊の一団しかいない。
「…気のせいか…」とディオスは視線を逸らせる。
それは気のせいではない。
見つめた軍団の兵士の影に隠れる人物、それはレオルトス王国で遭遇したアリストス共和帝国のアルディルだった。
「チィ」とアルディルは舌打ちして
「なんで、アイツがここにいるのよ!」
と小さく唸った。
アルディルの影になった兵士達の一人が
「どうかしましたか? 黒姫様?」
アルディルは首を振り
「何でも無いわ…まあ、支障はないでしょう」
ディオス達はトラックから荷物と食料を運び出し、岩山にある宿泊するロッジに向かい、宿の準備を始める。
ロッジが二つで、一つのロッジに四人が寝られるベッドがある。
トイレや水場は周囲のロッジと共同で、ナルド達四人とディオス達三人で二つに分かれて使う事になる。
夕食時、六人が寝るロッジの前にあるキャンプ用囲炉裏で鍋を吊して煮炊きをする。
鍋にしている料理にディオスは興味津々で、調理するナルドとハンマーに近付き
「どんな料理を?」
「ああ…この地域特産のモノを入れた。ごった煮ですよ」
リベルが答えた。
「へぇ…」とディオスは、具材がコトコトと煮える。美味そうなシチュー色の鍋を見つめる。
料理が完成して、皆は食卓を囲む。
ディオスは右にクレティアと左にクリシュナが来て座り、その対面にナルドがいて右にラチェット、左にハンマーとその隣にリベルと座り、パンと鍋のスープが注がれた器で食事を始めた。
ディオスは「いただきます」と手を合わせ、スープを口にする。
「おおお、美味い。リベルさん、後でレシピを教えて貰えませんか?」
リベルは照れくさそうに
「そんな、大仰なレシピではありませんけどね」
そうして、談笑しながら食事をしていると、ハンマーが
「ディオス殿は、東の方の出身であると聞いたが…」
ディオスは困り顔で
「その…言ってもそれ、何処だってくらいド田舎で…。まあ、東の方の島国にあります」
そう、この異世界は、自分の生まれた世界と同じ形をしている。日本列島があるので、そこを言う。
「ほう…島国…」とハンマーは頷いた次に「奥方は?」
クレティアは頭を掻きながら
「アタシはアフーリアのレオルトス王国なんだ」
クリシュナは平静と
「私は、ユグラシアの中央、トルキアです」
「へぇ…」とリベルが頷く。
ハンマーが右手を顎に当て
「ほう…クレティア殿は、レオルトスと…」
とクレティアを見つめ
「な、なんです?」とクレティアは戸惑う。
ハンマーがポツリ…
「間違っていたら、申し訳ないが…もしかして、レオルトス王国の剣聖、クレティアーノ・ヴァンス・ウォルト氏ではないか?」
ピクッとクレティアは肩を震わせ
「え、どうして…そう…」
ハンマーが首を傾げながら
「拙者、冒険者になる前に、諸国を修行に為に漫遊していたのですよ。それでレオルトス王国に来た時に、剣の修行が出来る、剣の館という所で僅かですがお世話になったのです。その時は剣聖ではなく次期剣聖候補として名高い、クレティアーノ・ヴァンス・ウォルト氏をお目にした事があって」
ハンマーは顔を上げ
「そういえば…風の噂で、レオルトス王国の剣聖がバルストラン王の臣下である魔導士の元へ嫁いだと聞いた事が…」
クレティアとディオスは気まずい顔をする。
ハンマーにリベル、ナルド、ラチェットがディオス達を見つめる。
ディオスは苦渋の顔をして
「その…秘密にしてくれるなら…」
「ええ…まあ」とナルドは頷く。
ディオスはハァ…と息を整えて
「そうです。自分はバルストラン王の臣下です。クレティアはハンマーさんの言う通りレオルトス王国の剣聖です」
『おおお…』と四人から驚きの声が漏れる。
ナルドは固く笑み
「た、確かに…ディオスさんが、あれほど強い理由も納得出来ます。王の臣下としている魔導士には、強大な力を持っている魔導士が付くと言いますし」
リベルが興味顔で
「王の臣下の魔導士がどうして、冒険者を?」
ディオスはポケットからあのドッラークレスの鱗を取りだし
「少々、ヴィクトリア魔法大学院に派遣されていて。それでこれの事を知り、調べてみたいと…」
四人はドッラークレスの鱗を見て
「ああ…確かに」とナルドは肯き「このドッラークレスの鱗は超古代遺跡から良く見つかりますからね」
「学術が目的と…」とハンマーが言う。
「はい…」とディオスは頷いた。
ナルドが笑み
「分かりました。我々もそのドッラークレスの鱗について分かった事がありましたら、ディオスさんに提供しますので」
「よろしくお願いします」とディオスは頭を下げる。
ラチェットが怪しげな笑みを浮かべて
「オレは…別の意味で、クリシュナさんの名前に思い当たる節があるぜ」
ラチェットは試すような笑みで
「クリシュナさん。出身がトルキアって言っていたよなぁ…」
「ええ…」とクリシュナは慎重に告げる。
ラチェットはクリシュナとディオスにクレティアを見つめ
「とある、裏側の話でね。本当かどうか…真偽が割れているんだが…。最近まで、レオルトス王国では内戦があった。その内戦で、一万の軍隊を蹴散らし、七万の軍団を撤退させ、裏で糸を引いていたアリストス共和帝国の艦隊を壊滅させて終わらせたという、とてつもなく強大な魔導士がいたって話、信じられるかい?」
クレティアとクリシュナにディオスの視線が鋭くなる。
それでもラチェットは続ける。
「しかもだ。その強大な魔導士は、今度はユグラシア大陸中央部のラハマッドでの内戦も終わらせたって言われている。その魔導士は、気象を操作できるくらいメタクソに強いそうだ」
雰囲気が鋭くなるディオス達を察してナルドが
「おい、ラチェット。いい加減にしろ」
ラチェットは手を向け止め
「その魔導士には嫁が二人いる。一人は何処かの国の剣聖。もう一人は、レスラム教暗部、最強の暗殺者、神宿りのクリシュナって言われている。なぁ…クリシュナさんと同じ名前だよなぁ…」
クリシュナはフッと笑み
「あら…クリシュナって名前は、トルキアに多いわよ」
ナルドが立ち上がりラチェットの頭を殴り
「いい加減にしろ。変な事を言ってディオスさん達を困らせるな。すいませんディオスさん、奥方様」
ディオスはフッと固く笑み
「まあ、噂ですから」
重くなる空気に、リベルが
「なんでそんな事をいうの? ラチェット…」
ラチェットは殴られた頭を擦りながら
「なぁ…お前等、悔しくないか?」
「はぁ?」とハンマーは訝しい顔をする。
「だってよーーー」とラチェットはディオス達を指さし
「お前等、昼間見たろう。ディオスさんの実力。とんでもレベルの上に、王の臣下っていう高い身分もあって、綺麗な嫁さん二人も連れているんだぞ! 男としてうらやましいだろうが!」
ああ…ひがみだ。清々する程のひがみだ。全員が分かる位だ。
ラチェットはディオスに迫り
「アンタ、謂わば勝ち組だろう! ああ…うらやましいよ。ひがみたいよ。そんだけ、強ければ、いい女、選びたい放題だろうな!」
ディオスは困った顔をして
「その、何をもって人生の勝ち組かどうかはわかりませんが…。まあ、妻達といられて幸せではありますよ」
クレティアが、ディオスの顎に手を当て悪戯に笑みながら
「そうだよ。ダーリン凄くてアタシ、大好きだもん」
と、ディオスと口づけした。これみよがしにお返しだと見せつける。
クリシュナもディオスの首に腕も回して
「ええ…最高にいい旦那よ」
と、ディオスと口づけして、フフ…と自慢げに笑みを向ける。
「くぉぉぉぉぉぉぉ」とラチェットは叫んで頭を抱えた次に、その場に四つん這いになり
「格差だ――― 差別だ―――― チキショウ―――――」
周囲の事を気にせず悔しがった。
ナルドは呆れて笑み、ハンマーは「ひがむ等、修行が足りん」と、リベルは「ああ…」と残念な視線を向ける。
ラチェットのひがみと色々な話をして夜が更けて行った。
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