第26話 ヴィクトリア魔法大学院 派遣生活 終わり いざこざ利用
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これでヴィクトリア魔法大学院篇は終わりです。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスは次なる事をする為に、何とかしてヴィクトリア魔法大学院と離れる方法を考えていると…
ヴィクトリア魔法大学院 派遣生活 終わり いざこざ利用
ディオスは学院内にある自室のソファーで横になっていた。午前中にあった。
とある魔法の実験に付き合い、少し疲れたのだ。何でも魔法による粒子加速観測という実験で膨大な量の魔法陣を組み合わせて、一種の高エネルギー状態を作り出しての観測をする内容で、百人近い魔導士が一丸となんてその魔法陣を形成するらしいが、ディオス一人でそれをやり、実験はスムーズに進んだ。
ディオスは、すーすーと寝息を立てて眠っていると、ルディアが帰っていた。
ルディアは、ソファーに寝るディオスを見つめ
「もう…こんな所で寝ていたら、風邪をひきますよ」
呆れるルディアは、簡単な毛布を戸棚から取り出し、ディオスに被せる。
その寝顔をルディアは見つめる。
自分はこの人の命を狙ったのに、この人は許してくれた。
普通ならわだかまりがあってしかるのに、それがない。
良い人だなぁ…。
ルディアは微笑んでディオスを見ていると、コンコンとドアがノックされた。ルディアはビックとしてドアの方を見ると、半開きのドアへ凭れるクレティアと、クリシュナがいた。
「あ…奥方様」とルディアは呼びかけ立ち上がる。
二人はジーとルディアを見つめて近付きクレティアが
「ねぇ…ダーリンに手を出そうなんて思わないでね」
ルディアはビックとして
「そ、そんな…ただ…その寝顔を見ていただけですから」
「そう…」とクリシュナは通り過ぎて、寝ているディオスの肩に手を置くと、ディオスは眼を覚まし
「ああ…二人とも、帰っていたのか…」
ソファーから体を起こした。
その午後、ディオスはウィルトンの研究室にいた。
ウィルトンと共に、どんな空間作用の魔法が使えるか、話し合っている後ろ、トルキウスが机に座り黙々と作業をして、時々「どうぞ…」と紅茶を出してくれる。
ディオスはジーとトルキウスを見つめる。
何だ? 何か…ぼやけた感覚が過ぎる。
ハッキリしないというか、何というか…ムズ痒い感じがしてならない。
「ディオスくん…」とウィルトンが呼びかける。
「ああ…すいません」
ディオスは再び話を始める。
ウィルトンとの話を終えて自室に戻る帰り、ユリシーグと合う。
「よう…何だ?」
ユリシーグは気難しそうな顔で
「その…また、術を教えて欲しい」
「ああ…分かった」
ユリシーグを自室に招き、ディオスは魔術の手解きをする。
「ほう…こんな方法でか…」とユリシーグは感心する。
「そうだ。そやって自分の持ち属性を使って術の、圧縮も出来る」
「本当にお前、凄いな」
「褒めても何もでないぞ」
ディオスは不意に「なぁ…トルキウスって知っているか?」
「トルキウス?」とユリシーグは首を傾げる。
「その何だ。あの時だ。オレの暗殺事件の時に、お前と一緒にいた男だ」
「ああ…あの渦持ちか」
ディオスはユリシーグの言葉にビックとして
「え、渦持ちって…まさか…オレ達と同じ…」
「ああ…そうだ。理由はしらんが、自身の渦を押さえ付けて封じているみたいだな」
ディオスは納得する。
そうか…道理でぼやけた感じがすると思ったら。渦持ちでそれを自分で封印しているのか!
「おい、ディオス。同じ渦持ちだからってたきつけるなよ」とユリシーグは忠告する。
「どうしてだ?」
「自分で渦を封印しているって事は、何かバレると不都合な事があるって事だ。そっとして置いた方が無難だぞ」
ディオスは考え込み「そうか…」と呟いた。
夕方、ディオスは剣術や武術の講義をしているであろう。
クレティアとクリシュナのいる芝生のグランドへ向かう。
その途中、外に出られる廊下の柱で俯き考えているサラナを見つけた。
「どうも…サラナさん」
ディオスは声を掛ける。
「ああ…ディオスさん。どうしてここに?」
「妻達を迎えに向かっている所です」
「ああ…」とサラナは納得する。
「どうしたんですか? 何か考え事でもしていたようにお見受けしましたが…」
「……」とサラナは黙った後「ディオスさんは、奥様達といれて幸せですか?」
「ええ…まあ、十分過ぎるくらい幸せです」
「その…私が母と研究している魔導因子遺伝研究は、応用範囲が大きくて様々な事業や技術に使われています。ですから…色んな企業や団体から研究資金が提供されて資金繰りに困った事はないんです。でも……」
「でも?」
「父の研究している。闇属性魔法に関する空間影響研究は…複雑さがあって応用が難しいのです。ですから…資金繰りに困る事があって…」
「学院側の援助は?」
「成果はあります。でも、その成果をどう使うか?となると弱くて…ギリギリの援助しか出ません」
「そうですか…。自分としては助かっていますが…」
「ディオスさんくらいじゃないと、使えないそんな分野なんです」
「では…閉鎖に…」
「近い内にかも…それで…母の関係で繋がりがある、とある貴族の方が…私を息子の嫁にと…お誘いがありまして、もし…その人と結婚すれば父の研究の資金の捻出が出来るかもしれません」
ふ…とディオスは鼻息を出して
「その…お節介かもしれませんが…。そういうのは気持ちの通じ合った相手との方が良いと思いますよ」
本当にお節介だ。自分の立場を考えれば、クレティアとクリシュナをオレもモノにするなんて言ってそうした自分に鑑みれば、言えた義理ではない。
だが、そういった事があるから余計に、他の人に対して、そういうのでは無い方がいいと言う気持ちがある。
そこへ「サラナ様」と呼びかける人物、トルキウスだ。
「ミリア様がお呼びです」とトルキウスはミリアの使いで来た。
「分かったわ。では…ディオスさん」
サラナはお辞儀して「行こう、トルキウス」とトルキウスの横に来て二人して歩き出す。
その姿を見つめるディオス。
サラナはトルキウスと楽しげに話している。トルキウスはぶっきらぼうだが…その感じはどこか、自分と話すクレティアとクリシュナの雰囲気がある。
もしかして…と、ディオスは、サラナがトルキウスに好意を持っているのでは?と感じた。
ディオスは、クレティアとクリシュナが指導する武術の場、芝生のグランドに来ると、丁度良く終わりだったらしく、一同が解散していた。
「ダーリン!」とクレティアにクリシュナがディオスの元に来る。
「ああ…帰ろうか…」
ディオスは呼びかけ、二人を連れて帰る。
下宿の領事館に向かう魔導車タクシーの車内で
「なぁ…二人は、オレといれて幸せか?」
ディオスを中心して両脇にいるクレティアとクリシュナは顔を見合わせ
「どうしたの? ダーリン?」とクレティアが尋ねる。
「いや…何となく」
フンと鼻息を出してクリシュナが
「幸せよ。そうでなければ一緒にいないもの」
「そうだよ」とクレティアは頷く。
「そうか…」とそれを聞いてディオスは安心する。
クレティアがディオスの右腕を抱き
「ねぇ…どうしたの?」
ディオスは暫し視線を下にした次に、サラナとの会話を話す。
「ああ…」とクリシュナは肯き「そう、そんな事があったの」
ディオスは首を傾げて「そのお節介だったのかと…」
クレティアは微笑みながら
「そうね。それ以上はお節介かも、それは当人で解決するしかない問題だと思う」
「そうよ…」とクリシュナが付け加える。
「分かった」
ディオスは両脇にいるクレティアとクリシュナを抱き寄せた。
領事館での夕食をするディオスとクレティアにクリシュナの三人のテーブルに領事館の職員が近付き
「ディオス様。ラーナ様が到着しました」
「ああ…分かった」
と、ディオスが答えた。クレティアとクリシュナは頷いた。
領事館の客間にラーナがいて、クリシュナが入って来ると
「クリシュナ様ーーーーーー」
早速、ラーナはクリシュナに抱き付いた。
その後、ディオスとクレティアが入って来る。
ポンポンとラーナの頭をクリシュナは撫で
「遠くまでお疲れ様。さっそくだけど…」
「はい、分かっています」
ラーナを前に、ディオス達に書類を広げて説明を始める。その説明する内容は、ルディアを利用した、あの赤髪の男についてだ。
「その赤髪の男と、逃亡を手伝った女の正体については、正体が判明しています。赤髪の男がレイド、女の方はララーナです」
「どんな連中なんだ?」とディオスが
「ロマリアやユグラシア大陸を専門に駆け巡る武器商人です」
「はぁ! 武器商人か…」
眉を顰めるディオス。
ラーナは淡々と
「ラハマッドの件の時に、クーデター軍側に武器の提供や…精霊ジャルバックに術式を行ったのも彼らと分かっています。レイドとララーナは、アズナブルという男に従っています。おそらく、ラハマッドの事でディオス殿に危機感を憶え…それで…」
ディオスは眉間を押さえ
「バルストランに帰りたいなぁ…」
今回のように他国で狙われ、後手に回った場合、どうしても色々と遅くなるし手際が悪くなる。
バルストランなら同じ状況になっても盛り返せる。
クレティアが「後、任期は二ヶ月くらいあるわよ」と口にする。
次の手を打たれる前に、ここを離れたいが…そうもいかない。
学院側はディオスを重宝しているので、任期最終日まで残したいだろう。
コンコンとドアがノックされ、職員が「失礼します」と入り
「ユリシーグ・ガウハラという方が…」
ディオスは職員に「通してくれ…」と伝える。
ユリシーグがディオス達のいる客間に来る。
ユリシーグは全体を見る。知らない女と広げられた書類を見て
「話し合いが始まっているようだな」
と、言って持って来た書類を、書類の広がるテーブルに置いた。
そして、腕を組み
「ハッキリと言う。全く所在が分からない。もう…アーリシア圏外に出たと見た方がいい」
「そうか…」とディオスは腕を組む。
そうなると…次の手を打つってくるのは最低でも数ヶ月先になるだろう。
ラーナはジーとユリシーグを見て
「ああ…サルダレスの殲滅諮問官のユリシーグ・ガウハラですか?」
「そうだが…」とユリシーグは訝しい顔をする。
ラーナはお辞儀して
「どうも…シャリカランのラーナです」
ディオスはユリシーグとラーナの二人を交互に見て
「違う宗教同士、争うとかないのか?」
「いいえ」とラーナは首を横に振り「互いに棲み分けをしているので…特に…」
「ああ…そう」
自分の生まれた世界では宗教が違うだけで、殺し合いをしていたのに、この違いだ。
さすが異世界と思いつつディオスは頭を掻いて
「さて…どうするか…」
次の日、ディオスは学院内の自室の中をグルグルと回りながら考える。
その姿をルディアが見つめ
「どうかしましたか?」
ディオスは、ふ…んと溜息を吐き「ちょっと外に出て考えてくる」と自室を出た。
腕を組み歩くディオスは、これからどうすればいいか考える。
早めに、この学院に任期を終わらせたい。
それには…そう! 自分の事が霞むインパクトが欲しい。そのインパクトは…。
丁度、目の前にトルキウスが通り掛かる。
あ! インパクトだ!
「トルキウスさん…」とディオスは呼びかける。
トルキウスは背筋をビックとさせ、恐る恐るディオスの方を見て
「何でしょう。ディオス様」
「少し、お話をしませんか?」
「いいえ、ちょっと急いでいるので…」
トルキウスが去ろうとするその右腕をディオスが取り、魔力を送る。
トルキウスが封印している内部の渦をディオスは感じた。
「その、お隠しになっている事についての話しです」
そのディオスの言葉に、トルキウスは嫌な顔をする。
ディオスは人がいない学院の屋上にトルキウスを連れてくる。
「で…話しとは?」とトルキウスは明らかに苛立っている。
ディオスはトルキウスを見つめる。
ユリシーグからは、渦については触れるなと言われているが、何かの突破口になるではと思い
「どうして、シンギラリティである事を隠している?」
トルキウスは視線を横にして
「なったのは最近だ。三年前に先生と一緒に超古代遺跡を調査していたら、突如、空から光が降り注ぎ、それに巻き込まれて…。お前も似たようなモノだろう」
「ああ…確かに、遺跡で光に飲まれて、気付いたら別の場所の遺跡にいた」
「移動タイプか…」
「オレの質問には?」
トルキウスは複雑そうな顔で
「先生の為だよ。孤児だった自分を先生は拾って育ててくれた。だから、先生を支えようと、目立つ真似だけはしたくない。先生の権威が霞むからな。恩義に反する」
ディオスは腕を組み右の眉間を上げて皮肉そうに
「確かに、シンギラリティってバレたら、大変だからな」
「もういいか…」
「ああ…後、ウィルトン教授の娘、サラナについては、どう思う?」
「……」とトルキウスは苦しそうな顔で「先生の娘だ。恩人の娘として大切に扱っている」
「好意はないのか?」
「ふざけるな! 恩人の娘だぞ。手を出すなんて、ふざけた事をするものか!」
ディオスは、コメカミを小突きながら
「その恩人の娘が、君に好意をもっていたら?」
「お前…」ともの凄い形相でトルキウスはディオスを見る。
それによってディオスは察した。
ビンゴ! トルキウスは、サラナがトルキウスに好意を持っていると分かっている。
だが、恩人の娘ゆえに、手を出さない。道理に反していると…。
「知っているか? サラナさんは、父親の研究の為の資金捻出の為に、何処かの貴族の御曹司と結婚するかもと…」
「……」とトルキウスは黙る。
ディオスはトルキウスの近くに来て、その苦悩する肩に手を置き
「お節介かもしれんが、一緒になるなら好き者同士でなった方がいいと、オレは思う」
ディオスはトルキウスから離れ「じゃあな」と去って行った。
一人、ディオスは廊下を歩きながら考える。
トルキウスの現状は分かった。
恩人であるウィルトンに尽くすためにシンギラリティを隠している。
そして…おそらく、サラナにも好意がある。
さっきみたいに自分が発破みたいにかけても、トルキウスとサラナ、周囲の現状は変わらないだろう。
ふ…自分の現状に悩んでいるのに、他人の事を考えて…ハハハ
そう、内心で笑いつつ不意にディオスは、右の柱にあった広告が見えた。
ヴィクトリア魔法大学院の学院祭。今から五日後だ。
「はぁ…学院祭…」
ディオスの頭の中で急激に色んなピースが組み合わさる。
トルキウスとサラナの事、自分の学院から出たい思惑。シンギラリティ。お祭り…。
閃いた!
「これだ!」とディオスはポスターを剥がして、急いで自室に走る。
学院長室で、学院長のオズワールが机に付きながら学院祭のポスターを持ち見ながら
「はぁ…魔法演習訓練を?」
「ええ…」と告げるのは、その前にいるディオスだ。
「つまり、ディオス殿の魔法を使って演習がしたいと…」
「大丈夫です。地味な演習にしません。お祭り騒ぎのように派手にやりますから」
「はぁ…」とオズワールは暫し考える。
確かに、シンギラリティの魔法演習は魅力的だ。
ここ最近のディオスの魔法に関する実力を鑑みれば、もの凄い派手な魔法の連発で盛り上がるだろう。
演習場の舞台もそれなりのモノを学院側は用意出来るし…。祭りのイベントとしては上出来だ。
「了解しました。準備を致しましょう」
「ありがとうございます。つきまして…演習の相手ですが…」
ディオスが指定する相手について、オズワールは聞いて肯き
「確かに、彼なら防御系の空間作用の魔法について熟練しているでしょうし、分かりました」
こうして、全ての舞台が整った。
学院長室を出たディオスの前にルディアがいた。
「どうでした?」
ルディアの問いに、ディオスは微笑み
「許可が取れた準備もしてくれるそうだ」
「そうですか…。しかし、何故、このような事を?」
「いや、その…お祭りが好きでね。派手にやりたいと思って」
「そうですか…」
ディオスは魔導因子遺伝研究所の、研究室で検査を受けていた。
リクライニングに座り、両腕と頭に吸盤の検査端子をつけられ、検査している。
近くには機器を操るミリアとサラナに数名の研究者達がいて、ミリアが
「ディオス様。終わりました」
ディオスはリクライニングから立ち上がり、体についた吸盤を外しながら
「どうでした?」
ミリアは難しそうな顔をして
「申し訳ありませんが…。これ以上…深度を上げて検査すると、前の時のような暴走を起こす可能性があります。現段階ではこれが限度です」
「そうですか…」とディオスはチョッと項垂れる。
あの暴走した以降、検査は消極的になるしかなく、思ったように成果はない。
シンギラリティの渦の性質は分かった…その中にいる存在については、分からずじまいだ。
「ありがとうございます」とディオスは研究室を後にする。
やはり…外堀を埋めるように、情報を求めて調べるしかないか…。超古代遺跡を調べるか…。
そうだな、あの後なら学院を出られるだろうし…。余った任期をその調査に充てるかな。
学院からの派遣って形で…。
領事館での夜、ディオスはクレティアとクリシュナの三人で話している時に、クレティアが
「ねぇダーリン ダーリンがもの凄い魔法の演習をするって話がチラホラ聞くけど、本当なの?」
「ああ…そうだ」とディオスは頷く。
クリシュナがディオスを見つめ
「何故、そんな事をするの?」
「近々学院祭があるだろう。それのちょっとした遊びさ」
「遊びねぇ…」とクレティアはディオスを見つめる。
翌日の午前中、ウィルトンの研究室で、トルキウスがウィルトンから話をされる。
「ええ…自分がディオス様の演習の相手を?」
トルキウスは戸惑う。
「ああ…」とウィルトンは頷き
「君が空間作用の魔法が得意な事が、選ばれた理由だ。確か、魔法のベクトルを曲げる空間作用の魔法を使えるよなぁ…」
「ええ…まあ」
「要するに、チョットした的になれって事だ。大丈夫、ディオスくんも加減はしてくれるさ」
「はぁ…」
トルキウスはしっくりこないも頷いた。
学院祭当日、ヴィクトリア魔法大学院は沢山の人々で賑わっていた。
各研究部門達が、様々な出店を出したり、普段、どのような研究をしているかと展示物を並べたり、魔法研究部門以外の、経済や政治、果ては文学といった部門まで、お祭り騒ぎのように賑わっていた。勿論、学院生が主催する店も数多くある。
大きな学院が丸ごと、遊園地の状態をディオスは、クレティアとクリシュナを連れて見て歩く。
「ほう…美味そうだな…」とディオスは出店にあるクレープを買い、クレティアとクリシュナの二人に渡す。
三人は互いのクレープを交互に食べながら、学院祭を楽しんでいると、放送が掛かる
「ディオス・グレンテル様。ディオス・グレンテル様。演習のご用意が出来ましたので至急、仮設演習場まで来てください」
お、お呼びだ…とディオスは放送がしたスピーカを見上げる。
クレティアがディオスの手を取り
「さあ、行くよダーリン」
引っ張って行く。
グランドに作られた仮説演習場は、段々が高い大きな闘技場で、よくこれだけの施設を短期間で用意出来たな…とディオスは思うっていると、演習闘技場の傍にいる職員がディオスに近付き
「こちらでございます」とディオスを案内する。
「じゃあ…行ってくる」
ディオスはクレティアとクリシュナに手を振り
「がんばってねダーリン」とクレティアが
「まあ、無理しないでねアナタ」とクリシュナが
手を振って送った。
クレティアとクリシュナは別の職員の案内で演習闘技場の最前列に来る。
「へぇ…」とクレティアは演習闘技場を見渡す。
何十段とある客席が大きく楕円形に演習を行う百メータくらいの場所を囲んでいる。軽い球場のようだ。
クリシュナは万人はいる人々を見回し
「沢山いるのね…」
「何が面白いんだか…」とクレティアは呟く。
その隣には「あれ…ディオスの嫁さん達じゃないか…」とユリシーグがいた。
片手にはポップコーンが入った大きな器を握りしめて、
その隣には「こんにちは…」とアイナが挨拶をする。
「あら…アンタもいたの」とクレティアは悪戯に微笑む。
ユリシーグはポップコーンを頬張りながら
「ああ…なんでもエルダー級の魔導士が演習をするって話題になっていたからな。まさか…それはディオスとは…」
クリシュナが「まあ…あの人もそんな大した魔法は使わないと思うし…ちょっと、見劣りかもね」と腕を組む。
ユリシーグは演習のグランドを見ながら
「一応は、客席に影響がないように防護結界で演習場は囲ってあるがな」
演習のグランドの楕円周辺には、結界用の魔導石が幾つもの立っている。
「まあ…じっくりと見ようよ」
と、クレティアは頭の後ろで手を組んだ。
ディオスは、演習場のグランドの入ると沢山の人々が声を上げているのが見える。
その中、最前列にクレティアとクリシュナ、ついでに隣にユリシーグとアイナを見つけた。
クレティアが手を振り、それに応えてディオスは手を振って入場、演習場の真ん中に来る。
次にトルキウスが入ってくる。
ディオスとトルキウスは演習場の真ん中でお辞儀し合い。
「お手柔からに頼みます」とトルキウスが告げる。
「ああ…よろしく」とディオスが怪しく笑む。
会場にあるスピーカーから「初めてください」と放送が放たれる。
トルキウスは構えて魔法陣を展開する。
ディオスは両手を広げ、魔力を放出しながら、浮かび魔法陣を展開し発動させる。
”セブンズ・グランギル・カディンギル”
七メータ幅もある超極太の七つの光線がトルキウスを襲う。
「ちょ! ダーリン! それダメーーー」
クレティアが叫ぶ。
ディオスが相手を殺しかねない程、強力な魔法を使ったのを察してだ。
トルキウスは驚愕しつつも
”クアンティル・アブソーバ・フル”
全力で、自分の中にあるシンギラリティの渦にアクセスして魔力を振り絞り、空間防護の魔法を展開させる。
客席は閃光に包まれ、驚きと驚愕の声を叫ぶ。
七つの巨大光線と、空間の防護壁が凌ぎ合い相殺される。
その様子に、アイナ、クレティアにクリシュナは驚いていると
ユリシーグが
「何だ。お前達、知らなかったのか? あの男も同じシンギラリティだぞ。だから、ディオスは演習の相手に選んだのだろう」
と、暢気にポップコーンを頬張る。
アイナはユリシーグのコメカミを鉄ビシにした手でグリグリしながら
「そういう事は! 先に言え!」
トルキウスは息を荒げ
「どういう事かな…ディオス様…」
凄い形相で睨む。
ディオスはフッと笑み
「どういうって。お前は、防御出来ると分かっているから。そうしたまでだ…」
ディオスは右手を挙げ
「さて…次を行くぞ…」
”ダウンフォール・バベル”
ディオスの周囲に六つの魔法陣が展開され、そこから極太の六つの光線が天に昇り、トルキウスに落ちる。
トルキウスは、両手を天に挙げ
”アブソリュート・オル・シールド”
何十もの魔導防護壁を展開して、その攻撃を受け止める。
魔導防護壁が半分程、壊れた所で攻撃が減速し止まる。これも防いだ。
ディオスはフッと笑む。このぐらい朝飯前だろう。
トルキウスはディオスを睨んでいると
ディオスが
「お前は、本当に情けない。それだけの力を持っているのに…有効利用しようともしない。恩義を感じて潜んでいる? 違うな自信がないだけだ。臆病者が」
「はぁ?」とトルキウスが不愉快そうな顔をする。
ディオスは挑発する。
「そんな卑屈に育って可愛そうだよ。アア…そうか、お前を育てたヤツが卑屈だから、お前もそうなった。それだけだな…」
どうだ?とディオスはこの挑発が聞いたか様子を窺う。
トルキウスの殺気が膨れてくる。
「ふざけるな…お前に…先生の何が分かるっていうんだぁぁぁぁぁぁぁ」
トルキウスから膨大な量の魔力が放出され天を貫く。
来たーーーーとディオスは確信する。
トルキウスは己の放出する魔力によって浮かび上がると、背後に六つの属性魔法陣が合体した巨大魔法陣を展開させ
「その言葉、後悔させてやる!」
ディオスはウィンドと飛翔魔法を告げて空に昇る。
それを巨大魔法陣を背負うトルキウスが追う。
トルキウスが、巨大魔法陣から六属性の巨大光線を放つと、ディオスは六つの魔法陣を展開させアドレイド・カディンギルと同じ六属性の巨大光線を放ち衝突させ、相殺させる。
会場の上空で巨大魔法陣から放たれる六属性の光線の攻防が始まり、その余波で会場が震える。観客達は、呆然ととんでも魔法の打ち合いを見上げていた。
ユリシーグは
「なに、大人げなく暴れているんだ」
と、暢気にポップコーンを頬張る。
ディオスとトルキウスの打ち合いは、やがて演習場の場へ持ち越され、そのまま、六属性の巨大光線の打ち合いが続いた後、両者は得意な魔法を発動させる。
その属性は闇である。共に重力を操作する魔法で
ディオスは
”ブラックホール・アビス”
トルキウスは
”グラビティ・カノン・レイ”
ディオスから、漆黒の超質量体が発射。
トルキウスは、重力波の収束した波動を発射。
両者の魔法がぶつかった瞬間、会場周囲の重力が変位して反重力状態を作り出し、万人いる客席が浮かび、観客達も浮かんだ。
「ありゃ、これはマズいな」とユリシーグは暢気にポップコーンを頬張って浮かぶ。
「もう…ダーリン!」と浮かぶクレティアは客席を蹴ってディオスの元へ、それにクリシュナも続いた。
「オオオオオオ」と唸りディオスは魔法を放つディオスに、クレティアとクリシュナが抱き付き
「ダーリン。ストップ!」
「いい加減にしなさいアナタ!」
ディオスは「あ…」とハッとする。
トルキウスには、サラナが抱き付き
「もう、止めてトルキウス」
「さ、サラナ様…」
ディオスとトルキウスは共にトーンダウンして、魔力の威力が弱まり、放たれたブラックホールと重力波は共に飲み混み合って空間に消えた。
周辺重力の異常が収まり、浮かぶ会場と観客は緩やかに元の場所に着地した。
「ダーリン…」
「アナタ…」
もの凄い形相で見つめるクレティアとクリシュナにディオスは青ざめ
「ごめん…ちょっと調子に乗りすぎました」
ビクビクする。
トルキウスは…
「トルキウス」とサラナが見つめる。
「その…」とトルキウスは苦しい顔をしていると、そこへ
「トルキウス。お前…」
ウィルトンが来た。
「先生…その…」
「なぜ、隠していた?」
「その…バレると先生の権威が…」
ウィルトンは「はぁ…」と溜息を漏らし
「そんな事を気にするな! 全くお前は…」
呆れた顔を向けた。
様々な様相の両者の真ん中に学院長のオズワールが来て
「両者とも、素晴らしい演習であった。戻って休むがいい」
これにてディオスの仕組んだ演習は終わった。
後日、トルキウスは学院長室に呼ばれ、自分がシンギラリティである事を明かした。
その後、ディオスが呼ばれ、オズワールはディオスを前に
「今回の事は、ディオス殿が仕組んだ事ですな…」
ディオスはフッと笑み
「ええ…自分が学院に縛られない為に、隠していたトルキウスを引っ張り出したという事です。これで自分は学院にいる必要は無くなった」
「ディオス殿は、シンギラリティ以外でも居て欲しいですな」
「それは別問題です。トルキウスはどうなりますか?」
「ウィルトン教授の研究の手伝いを願っているので、ウィルトン教授には、手厚い支援が向けられるでしょうな」
「それは上々、予定通りだ」
「で、この後は?」
「…リーレシア王国へ参りたいです」
「超古代文明の遺跡の調査ですかな?」
「ええ…ですから、学院からの派遣という形にして欲しいのですが…」
「そうなると…外部教授に…」
「ええ…まあ、その辺りが妥協点だと思って受け入れます」
「では、最低でも年に一・二個。成果の方を報告して頂きたい。そうしないと…」
「学院側にお呼び出しされると…」
「ええ…まあ、ディオス殿は何時でも大歓迎ですぞ」
ディオスは、ウィルトンの研究室を尋ねると、丁度、奥さんのミリアと娘のサラナにトルキウスにウィルトンと四人揃っていた。
「おや…全員おそろいで…」
ディオスは一望して呟く。
四人が囲むテーブルには地図が広げられている。
「ああ…どうも、ディオスくん」とウィルトンが近付く。
「どのような事をしていたのですか?」とディオスは尋ねる。
ウィルトンは肩を竦め
「トルキウスがシンギラリティに目覚めた遺跡を確認していてね…」
「そうですか…」
ディオスの元にトルキウスも来て
「ディオス様…その…」
何か言いたげだが、その肩をディオスは叩き
「すまなかったな…。変な煽りをしてしまって」
「いいえ…その、良い切っ掛けでした。確かに自分は臆病者でした…」
トルキウスが少し伏せがちなる。
ディオスは、そこへ軽く腹にパンチをして
「そうやって俯くな。気持ちが決まったなら、どうだ? サラナさんと結婚すればいい」
「ディオス様!」とトルキウスは声を張る。
ディオスのからかいに、サラナとミリアは微笑み。
トルキウスはう…と睨んで唸っている。
「ディオスくん」とウィルトンが、一通の手紙と、地図を差し出す。
「これの手紙は、リーレシア王国の冒険者ギルドに渡してください。冒険者ギルドのギルド長宛ての、私からの紹介状です。この地図は、ドッラークレスの鱗が多く見つかっている。まだ未調査の遺跡達の場所を示した地図です」
ディオスはそれを受け取り
「何から何まで、ありがとうございます。ウィルトン教授」
「貴殿の超古代遺跡の成果、期待しています。何時の日にか、貴殿の中にある存在の正体が分かるのを楽しみに待っていますよ」
「はい…」
ディオスは、ウィルトンと握手して研究室を後にした。
早々に夕方、領事館での荷物を纏めて、ディオス達は領事館を出ると、出口の傍にルディアいた。
「ディオス様」
と、ルディアは近づき書類を差し出す。
「リーレシア王国の冒険者ギルドのある街、エンテイスに滞在する為の、宿泊施設に関しての書状です」
「ありがとうルディアさん」とディオスはお礼を言って受け取る。
「こちらこそ、ディオス様、色々とありがとうございました」
ルディアは頭を下げる。
ディオスは微笑み
「また、何処かでお会いする機会がありましたら、ゆっくりと食事でも…」
「はい」とルディアは頷いた。
ルディアは手を振り、次へ向かうディオスとクレティアにクリシュナの三人を見送った。
ディオスは、ルディアが手配してくれたエンテイスの宿泊先の案内を見ながら
さて…超古代遺跡。どんな事が待っているんだろう。
ちょっとワクワクしていると、クレティアが
「ダーリン。楽しそうじゃない」
クリシュナはフフ…と笑みながら
「まあ、男の子なら、超古代遺跡なんて冒険が出来る場所は、滾るでしょう」
「ああ…楽しみだ」
と、ディオスは楽しげに答えた。
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