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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
ヴィクトリア魔法大学院篇

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第24話 ヴィクトリア魔法大学院 派遣生活 その二

次話を読んでいただきありがとうございます。

ヴィクトリア魔法大学院篇の四章です。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


ディオスは、ヴィクトリア魔法大学院の力で自分の内にある力の正体と、それに繋がる手がかりを手にするが…

ヴィクトリア魔法大学院 派遣生活その二

 

 雪原気象魔法を使ったその夜、ディオスは宿泊先にしている領事館の寝室で、ベッドを二つくっつけ三人用にしたそこで、クレティアとクリシュナを抱き締めて、お互いの体の温もりを交合わせていた。

 あの初めて交わった時のように貪るようではない。

 三人が互いに抱き合い求め合い、ゆっくりと長く交わる。

 

 ディオスは、あの獣のような交わりが好きではない。

 衝動が収まらず止められなかった。

 ずっとこのままなのか?と自分で自問自答し始めた頃、衝動が落ち着き始めたのだ。

 あの獣のような行いは、片方に夢中になると片方が離れるという寂しさがあった。

 だが、今は違う。二人を抱き締め、どちらを置いてけぼりにする事無く、じっくりと三人だけになれる。

 スーギィの言っていた、何時か落ち着くというのが、今日この頃、分かった。


「ねぇ…ダーリン」とクレティアが呼ぶ。


「なんだ?」


「今日の午後、雪を降らせる魔法を使ったんだって」


「ああ…」


「そのさぁ…思うんだけど…あんまり、目立つような事はして欲しくないなぁ…」


「クレティアの言う通りよ」とクリシュナがディオスの首筋にキスをする。


 ディオスの腕の中にいるクレティアとクリシュナ。


 ディオスは二人を見て

「そうだな…分かった。自重する」


 クレティアはディオスを擦りながら

「約束だよダーリン。だってアタシ達の家はここじゃあなくて、バルストランのあそこなんだから」 


 クリシュナはディオスの首に腕を回して頬寄せ

「そうよ。だから、余計な事をしてここにいるのを伸ばすなんてをしないでね」


 ディオスは肯き

「ああ…分かった」

 三人は互いの温もりを深く深く交合わせ夜を過ごした。




 翌朝、大学院に行き用意されている部屋にディオスとクレティアにクリシュナの三人が来た。そして、秘書をしてくれるルディアが鞄から

「ディオス様、これを…」

と、プレートを取り出し渡す。それはディオスが学院長に預けた魔導協会の証明書だ。


「ああ…どうも」

 ディオスは受け取ると、プレートの真ん中に小さな黄色の宝石が埋め込まれ、それを中心として花弁のような模様が打ち込まれている。

「ああ…何か、模様が埋め込まれいるが…?」


 ディオスの問いにルディアは

「それがディオス様の魔道士としての階級証明です。ランクはエルダー(大魔導士)です。プレートに埋め込まれる宝石によってランクが決められています。ナイトル(初級魔道士)ならダイヤ、シルバリオン(中級魔道士)ならルビー、ウィザード(高位魔道士)はサファイア、そして…エルダーは最も貴重な鉱石でありますゴールデンフィアです」


「へぇ…」とディオスは頷く。


 ツンツンとクリシュナがディオスに耳打ちする。

「アナタ、ゴールデンフィアってとても貴重なの」


「はぁ…貴重ね」


「ゴールデンフィアが取れる場所は、魔導石が採れる鉱山で、一山の鉱山に片手で握れるしか取れないと言われいるわ。おそらくだけど…プレートに填まっている小さなゴールデンフィアの粒でも、金貨五千枚はするわよ」


「え!」とディオスはビックとする。金貨五千枚。日本円で五千万円だ。

 魔導プレートに填まる小さなひまわりの種サイズの超高価な宝石に、顔が引き攣るディオス。


 ルディアが

「おめでとうございます。アーリシアで五人しかいないエルダー級の一人になられました」


「ああ…」とディオスは戸惑いながら頷く。自分がエルダー級になれた事よりも、この証明書のプレートに使われている宝石の価値の方に気が向いて素直に喜べない。

 大事にしまって置こうと、ディオスは魔導士服の懐の中で一番頑丈そうなポケットに入れた。


「では…今日の皆様の日程ですが…」

 ルディアが情報魔導プレートを取り出し読み上げる。

「午前中は、皆様、それぞれの講義に出席と…。午後は、ディオス様は魔導因子遺伝研究で、自身のシンギラリティに関しての調査。クレティア様とクリシュナ様は…よろしければ、ご自身の剣技や武術に関して講義を行って欲しいとの要望がありますが…」


「え?」とクレティアは自分を指さし「アタシ達が講義をしてって」


 クリシュナは首を傾げ「何故、理由は?」


 ルディアは肩を竦め

「クレティア様は、レオルトス王国の剣聖であります。クリシュナ様は様々な武術に精通しておられるので…。当大学院でそれを習ってみたいという方達からのご要望でして」


「どうしようか…」とクレティア、クリシュナはディオスを見る。


 ディオスはフッと笑み

「いいんじゃないか」


「まあ…ダーリンがそういうなら…」とクレティアは肯く。


「断るのもかわいそうだし…」とクリシュナは腕を組む。



 こうして、三人はそれぞれの講義を受けるべく分かれた。


 一人、目的の重力魔法に関する講義へ向かうディオス。

 その道中、人々の視線とヒソヒソ話をしている姿が目に付く。

 それは明らかに自分に対しての事だと分かる。

 

 はぁ…やっぱり目立つんじゃなかった、とディオスは後悔する。

 

 周囲の注目を受けながら、重力魔法の講義に出席するディオス。

 席に座り講義をする教授を待っていると…隣にオーガ族の男性が座る。

「どうも…隣を失礼します」

「ああ…どうぞ…」

 オーガの男性が右にいるディオスを見つめる。


「な、何か…」とディオスは尋ねると


「ディオス・グレンテル様ですよね」


「ええ…」


「憶えていませんか? 昨日、グランドで貴方様の魔法の発動に立ち会った天候魔法部門の助手をしている学生の一人です」


「ああ…その、昨日はお世話になりました」


「いえいえ、大変貴重な経験をさせて貰いました。ディオス様。どうです? 我々と一緒に天候魔法について研究をしてみませんか?」


「え、いきなりここでスカウトですか…」


「ええ…。是非とも、加わって頂きたい」


「その…考慮はしてみますので…」


「お願いしますよ」


 突然の引き抜きの後、講師の人族の教授が来て全体を見渡す。

「では、これより闇属性の重力魔法による周辺影響の講義を始める」

 講義は長く休憩も挟んで三時間も続けられた。

 終わって講義室からディオスが出ようとすると、講師の教授が「ああ…確か…ディオス・グレンテルくんだったか」


 ディオスは名前を呼ばれて立ち止まり

「な、なんでしょう…」


「私は、闇属性の魔法に関して研究をしている。ウィルトン・ヴィルトだ」

 ウィルトンは手を差し出す。


「ああ…どうも…」とディオスは握手すると、ヴィルトという名字に思い当たる事があった。そう魔導因子遺伝研究部門のミリア・ヴィルトが過ぎった。

「今日の午後、妻の魔導因子遺伝研究で君が色々と調べるそうだね」

 ウィルトンは微笑む。


 ディオスはハッとして

「ああ…ミリア様は奥様ですか…」


「そうだ。君は、闇属性の魔法について興味があるのかね?」


「ええ…まあ、色々と使う事があって、それで…」


「なら、もっと知りたいなら私の研究室に来るといい。何時でも歓迎するよ」


「ありがとうございます。では…」

 ディオスはお辞儀して講義室を後にした。



 ディオスは一人、廊下を歩く。

 その目的は、クレティアとクリシュナとの合流だ。

 時間は昼頃、お昼を三人で取ろうと二人が受けているであろう講義室へ向かうと、丁度終わりなのか、人が沢山出てくるその講義室前に来た。

「お…」とディオスは講義室から出てくるクレティアとクリシュナを見つめ

「二人とも…」

 クレティアとクリシュナの近くへ行く。


「あ、ダーリンどうしたの?」

 クレティアが口にする。

 クリシュナも続き

「アナタ、先に終わっているなら、早くに昼食を取れば良かったのに…」


 ディオスは二人の手を取り

「一人の食事は寂しいからな」


 クレティアとクリシュナは肩を竦め

「もう…ダーリンってば、寂しがり屋なんだから」


 三人で昼食を取った後、再び分かれる。

 クレティアとクリシュナは剣術と武術の能力を買われてその講義をして欲しいと学院側から頼まれたのだ。


 ディオスは自分の内にある渦に関しての調査だ。

 魔導因子遺伝研究部門へディオスは来ると

「お待ちしていました」

 ミリアと、隣に娘のサラナがいてお辞儀した。

「では、こちらに…」


 ミリアはディオスを検査装置がある別室へ案内する。

 そこは真ん中に楽なリクライニング席があり、その周囲を様々な機械や白衣を着た多種族の研究員達が付いている。

「ここにお座りください」

と、ミリアはディオスを案内する。


「では…」とディオスはリクライニングに座ると、研究員達がディオスに集まり

「それでは、検査端子を取り付けますので、楽にしてください」

 研究員はディオスの頭に王冠のような検査端子を取り付け、腕の袖を捲り吸盤の検査端子を取り付ける。


 ディオスが不意に

「あの…これって痛くなりますか?」


 研究員達はフッと笑み

「大丈夫ですよ。魔力の流れを操作する端子ですから。痛みはありません」


「はぁ…そうですか…」

 ディオスに検査端子を取り付け終わり、ミリアが前に来て

「では、ディオスさん説明をします。ディオスさんの血から分かったディオスさんの魔力波長を使って、貴方が言うシンギラリティ、魔導特異点の中にある存在にアクセスをしてみます。もし、検査中に異変があったら中止しますので、些細な事でもいいので言ってください」


「分かりました。お願いします」

 ディオスは肯き、リクライニングに深く背を凭れる。


「では、始めます」とミリアがサラナを見ると、サラナは肯き

「装置の作動を開始します」


 周辺にある装置から微弱な作動音が響く。


 ディオスは、静かにしていると、体に付けた検査端子から何かが流れ込むのが分かる。

「今、検査用の魔力を流しているのですか?」


 ミリアが不安そうに

「気分とかは? 痛みは?」


「大丈夫です」

 ディオスが答える。


 サラナは「では、少しづつ出力を上げますので」と操作を続ける。


 ディオスは、自分の内に入ってくる魔力を感じて、やがてそれが自分の感じている渦に接触したのが分かった。


 サラナが「ディオスさん、今、データを取っているので…それと後少し検査の深度を上げますので、何か異変があったら」


「分かりました」とディオスは答える。

 何だ。別に大した事ではなかったなぁ…とディオスは思った瞬間、突然、目の前に真っ暗になる。

「え!」

と、ディオスは戸惑った瞬間、そこは研究室ではない。

 黄金色の空間に渦巻く流れが正面にあり、その渦からディオスを見つめる紅い双眸が見える。

 それでディオスは察した。無理矢理に意識をここに引き込まれたのだ。渦にある双眸がディオスを睨み。


 ゴオオオオオオオオオオオ


 咆吼を放つ。

 マズイ、引っ張られる! 

 ディオスは直感で感じ

「逃げてくれぇぇぇぇぇぇぇ」

 現実の世界でディオスは叫ぶ。

 

 ミリアもサラナ、周辺の研究員達が驚きの顔を見せた瞬間、ディオスから魔力の衝撃波が噴出し周囲を吹き飛ばした。

 仰向けで倒れるミリアの前に、紅き瞳を輝かせ浮かぶディオスの姿があった。

「母さん」とサラナがミリアの元へ来る。

 ミリアは変貌したディオスの姿に

「まさか…持って行かれたの!」



 大学院の広い芝生グランドで、クレティアとクリシュナは剣術や武術を習いたい人を相手に指導をしていた。

 まずは、基本の素振りをさせながら列にならべて、一人一人、素振りのクセを直していく二人。

「ここは、そう、そして腹に力を入れる」

 クレティアが指導をしていると、唐突に全員が素振りを止めた。

「ん? どうしたの?」とクレティアは首を傾げると、その肩をクリシュナが持ち

「クレティア。空!」

「え?」

 クレティアはクリシュナと共に空を見ると、それは嘗て冬の精霊ゼルテアの時に見た、巨大な空へ昇る直線の裂け目があった。

 そして、その空の開門の間からあの時と同じように巨大過ぎる鉤爪の指先が、空の巨門を開けようとしている。

「まさか!」とクレティアとクリシュナは、ディオスに何かあったと察し、ディオスのいる場所を目指す。

 クレティアとクリシュナの右手には、ディオスが互いの位置が分かるように示す呪印がある。

 それに導かれてディオスのいる研究室のドアを蹴破って入る。


 散乱する装置達、その中心では瞳を深紅に染めて浮かぶディオス。


 怯える研究者達。


 その惨状を見て、クレティアとクリシュナは全てを察した。


 浮かぶディオスの傍には、サラナとミリアがいた。サラナが

「ディオスさん! ディオスさん!」

 ディオスに呼びかけるも、ディオスは無反応だ。


「ダーリン!」とクレティアが叫ぶも、反応なし。

 クリシュナが「行くわよクレティア!」

「あいよ!」

 クレティアは返事して、クリシュナと共にディオスの向かって走り、二人はディオスに抱き付く。

 そして、クレティアにクリシュナの二人してディオスの口に自分達の口を合わせ、ディオスに自分達の魔力を注ぐ。

「うう…フッグ…」とディオスは唸った次に、浮かぶディオスはゆっくりと床に着地して、クレティアとクリシュナの二人にもたれ掛かる。意識がないのだ。

 

 クレティアとクリシュナはディオスを抱えて安堵し

「何とか間に合った」とクリシュナは零した。


 

 ディオスは目を覚ますと、となりにクレティアとクリシュナがいた。

 医務室のベッドに横になるディオスにクレティアが寄り

「大丈夫? ダーリン」


「ああ…何とか…」とディオスは体を起こす。


 クリシュナが心配げな顔で

「一応、医者の話しだと。異常はないそうだけど…」


 ディオスは額を抱え

「やられた…。一気に引っ張られた…」


 クレティアとクリシュナは顔を見合わせて、クレティアが

「ねぇ…ダーリン。今日は帰ろう…」


 クリシュナは腕を組み

「アナタから取ったデータは色々と解析に掛けたいから…後日、結果を報告するそうよ」


「分かった。帰ろう…」


 その夜は、不安だった。

 また、引っ張られるのではないかという気持ちがディオスの中にあり、クレティアとクリシュナと離れたくなかった。

 そんなディオスを察してか、クレティアもクリシュナも傍にいてくれる。

 ディオスは、何時もより、クレティアとクリシュナの二人に支えられているなぁ…と感じていた。



 それから二日後、ディオスが頼んだシンギラリティの検査の結果を魔導因子遺伝研究の所長室で、ディオスにクレティアとクリシュナの三人で聞く事となった。

 そこには所長のミリアと娘の助手のサラナ、更に夫で別部門のウィルトンの三人がいる。


 サラナが、ソファーに座るディオス達に検査の結果を示した魔導プレートを差し出し

「ディオスさん。今回の検査で分かった事は…申し訳ありませんが具体的には…」


 ディオスは肩を竦め

「仕方ありません。あんな事になったのですから」


 ミリアはディオスと右にいるクレティア、左にいるクリシュナを見て

「こちらで聞きたい事がありまして、どうしてあの時、ディオス様が暴走して意識がない時に、奥方達はあのように対処出来ると分かっていたのですか?」


 クリシュナが

「実は、前にも同じような状況になった時がありまして、それで…」


 ミリアとサラナは互いに顔を見合わせ、サラナが

「つまり、あのような状況になった場合、お二人がディオスさんに、お二人の魔力を注入する事で治まると分かっていたと…」


「はい」とクリシュナは頷いた。


 腕を組むウィルトンが

「三人はどういう風に知り合ったのですか?」


 その問いに、ディオスとクレティアにクリシュナは視線を交合わせる。ディオスに負けてゲットされたなんて言えないと、互いに結論がいたり、ディオスが

「その…師匠が…ソフィア陛下が王になる前の時に護衛としてクレティアとクリシュナの二人が来て…それが縁で自分が勢いに任せて二人を…」


 サラナが鋭い視線で

「ディオスさんはその時に、二人に対してどういう気持ちでした?」


「ええ…」とディオスは、答えるの? それ必要?


「正直にお願いします…」とサラナが言ってくるから


「まあ…自分でもよく分からない位に、二人を欲してしまい。それで…」


 ミリアが鋭い視線で

「奥方様は、どうして…暴走した時にディオス様がそうすれば元に戻ると思ったのですか?」


 その問いにクリシュナが右腕を上げて腕を捲り、ディオスとの繋がりである呪印を見せ

「私とクレティアは、夫から魔力を貰っています。魔力は精神とも繋がっています。だから、暴走した時に私達の魔力を送れば私達の意識が夫の意識をサポートして戻せるのではないかと思いまして…」


 ミリアがその呪印を見つめクレティアを見ると、クレティアも右腕を捲り腕にある呪印を見せ

「アタシも同じ呪印をしています」

「どのくらいの魔力の供給を許されていますか?」


 クレティアとクリシュナは首を傾げ

「許されている? 量をですか?」とクリシュナが言う。


「はい」とミリアが頷く。


 クレティアとクリシュナは顔を見合わせて首を傾げ

「アタシ達、そんな制限なんてされていません。好きなだけダーリンから魔力を貰ってます」

 クレティアが答える。


 ミリア、サラナ、ウィルトンは驚きの顔を見せる。


 ミリアが「アナタ…チョット」とウィルトンを呼び。

 「ああ…」とウィルトンはミリアと共に部屋を出て数秒後、小さなモニター付きの装置を持って来る。装置をディオス達のいる席の前にあるテーブルに置き、ウィルトンは「これを握ってください」とディオス達三人に握れる程度の探査棒を握らせる。


「ん?ん?んん?」とディオスは首を傾げていると、ミリアが装置のスイッチであろうダイヤルを回すと、画面に六角形のメータが映り、それに独特の形をした波形のラインが浮かぶ。


 ミリアはダイヤルを操作して、何度も六角形のメータが点滅して同じ波形のラインが点滅する。


 ミリアは顔を青ざめ

「ウソでしょう…全ての魔力波形と位相が一致している」


 ウィルトンは両手で顔を覆い拭って

「信じられない。こんな事が…あり得るのか…」


 ディオスは驚く二人に「なんですか? 事情を説明してください」


 サラナが静かに淡々とだが驚愕した顔で

「その…魔力には個人によって独特の波形が存在しています。それは血の繋がった家族、親、兄弟姉妹でさえ、一人一人違います。それ故に。他人から魔力を供給されると…拒絶反応のような現象を起こします」


「拒絶反応?」とディオスは顔を顰める。

「なぁ…そんな事があったか?」とクレティアとクリシュナに聞くディオス。


 クレティアは横に首を振り、クリシュナは「いいえ…」と答える。


 ミリアが装置の画面をディオス達に向け

「これを見てください」

 装置のダイヤルを弄りながら

「まず、始めにディオスさんの波形です。そしてこれがクリシュナさん。クレティアさんの波形」

 

 点滅した波形はどれも全く一緒だった。


「あの…同じ画面を見せられているのですか?」

と、ディオスにミリアは首を横に振り

「いいえ、違います。三人の個別に合わせて画面を変えています。つまり、こういう事です。信じられませんが…三人は全く同一の魔力波形を持っているという事です」


「え…」と固まるディオス。クレティアとクリシュナは目を点にする。


 ウィルトンは、ディオス達に

「ディオスくん。つまり、貴方が彼女達を求めた理由がこれです」


 ミリアは

「シンギラリティ研究において、シンギラリティは特別な感覚を有しているという事実があります。これは結果論ですが…。ディオス様がお二人を奥方にした訳は、ディオス様にとって奥方達が、ディオス様を助ける事が出来るからディオス様が欲した。そういう事なんです」


 サラナが

「ディオスさんのシンギラリティの魔導特異点にいる存在は、ディオスさんと、恐らく…深い部分で繋がっているのでしょう。故にディオスさんは意識を持って行かれる事がある。でもそれから立ち直れる方法がある。それは奥方達の力です。奥方達は、ディオスさんを暴走させない為、守る為の安全弁なのです」


 ディオスは顔を右手で覆う。

 そう理解した。自分はクレティアやクリシュナといると、とても安定するのが分かっていた。

 それは単に二人を愛している好意から来る気持ちだと思っていたが、それがもっと自分の深い所から来ていたのを知った。


 ミリアは頭を撫でながら

「こんな驚くべき事例は初めてです。恐らく、ディオス様達にしかない事例でしょう」


 飛んでも無い事実が発覚した今回、更なる調査の為に調査方法を考えるとして終わり、ディオス達は研究所から出ようとすると、ウィルトンが

「ああ…ディオスくん。それと…もう一つ伝える事があるので、後で…そうだな…午後の三時くらいに私の研究室に来てくれないか」


「はい…」と返事をしてディオスは、クレティアとクリシュナを連れる。


 三人で歩いている最中、ディオスは右にいるクレティアと左にいるクリシュナに手を伸ばして二人の手を握る。


「どうしたのダーリン?」とクレティアが


「その…ありがとうな」


 クリシュナはフンを鼻息を出し「どうしたの? 急に…」


「いや、だってオレは何時も、二人に助けられているんだなぁ…それで」


 クレティアが悪戯な笑みで

「もう…ダーリンたら…。まあ、ダーリンは寂しがり屋だしね」


 クリシュナは握った手に空いている片手を合わせ

「何時でもどんな時でも、助けてあげるから…」


「ありがとう。オレは二人を愛している」


『はいはい』とクレティアとクリシュナは微笑む。




 午後の三時になりウィルトンの研究室、闇属性魔法に関する空間影響研究という研究室のドアをノックするディオス。


「ああ…どうぞ」と奥からウィルトンの声がして


「失礼します」とディオスはドアを開く。


「どうぞ、こちらへ」とウィルトンがディオスを部屋に奥にある客席へ案内すると、デスクから何かの箱を持って来た。

「まずは、これを見てくれ」

 ウィルトンはディオスの対面の席に座り、持って来た箱を開ける。


「なんですか? これは?」


 箱の中には大量の黒いクリスタル達がすし詰めにされていた。その一つをウィルトンは取り出し右手の一差し指と親指に挟んで

「これはね。とある地層から偶に出てくる結晶なんだ」


 それをディオスに渡すと、ディオスは右手の中にそれを置く。

「なんの結晶なんですか?」


「さあ…幾ら、解析してもどんな物質でどんな物かは分からない。だが、出てくる所は分かっている。今から一万年前の地層からだ。特に、超古代文明の遺跡周辺なんかでね」


「超古代文明の遺跡…」とディオスは呟く。


 この世界では、今の文明では無理な技術で作られた遺跡が出土する事がある。凡そ、その年代は一万年前だ。一万年前の以前の歴史はこの世界にない。だれが、なんの為に残した遺跡なのか分からない。


 ディオスが黒い結晶を右手の中で転がしながら

「その…これが自分にどのような関係が?」


「それの持っている魔力波形と、君が意識を失って暴走した時の魔力波形が、とても近似しているんだよ」


「これと、オレの暴走した時に発する魔力が似ている…?」


「それ、何て言われいると思うかい」


「んん…。まあ…定番としては黒結晶、または…黒い宝石ですか?」


「ふむ…それは、大地龍帝ドッラークレスの鱗と言われいる」


「え…大地龍帝…龍…ドラゴンの鱗、ですか?」


「数少ない太古の文献に、こういう記述がある。大いなる太古、大地を超越せし龍帝、ドッラークレスは。世界を浄化し、我らにもたらしたとね」

 ウィルトンは席を立ち、後ろにある書籍棚から地図を取り出し、ディオスの前に広げる。

「ここ…」とウィルトンは地図を指さす。

 そこはアーリシア大陸とユグラシア大陸の境だ。

「北はロマリア帝国、その下…南はユグラシア大陸中央部トルキア共和国やナルマンド共和国との境になっている国、リーレシア王国なんだが…。アーリシアとユグラシア大陸中央部の境として長細い国であるリーレシアには沢山の超古代遺跡が眠っている。私はライフワークとして、このリーレシアの超古代遺跡を調査している」


 ディオスは暫し右手を顎に当て考え

「つまり…自分の内にある何かは、そのドッラークレスと関係があると…」


「私は、そうにらんでいる。まあ…私が調べた超古代遺跡の資料には詳しくはないが…その鱗片のような情報はある。もし、その気があるなら行くといい。伝はあるから、喜んで紹介するよ」


 ディオスは深く席に凭れ

「はぁ…もしかして…ここの調査では、限界が…」


「ああ…限界がある。前の時のように深く探って暴走した場合、奥方達が何とかするようにしてもだ。そう何度も暴走する事を続けるのは、あまり良い事ではない。だから」


「外堀から埋めるように、外部から情報を集めて調べてみると…」


「そういう事だ」


 ディオスは、やれやれと頭を掻いていると、ドアがノックされ「入ります」と入ってくる人物がいた。それはトルキウスだった。


「ああ…丁度いい」とウィルトンはトルキウスの傍に行き「私の助手のトルキウスだ」

 

 ディオスはトルキウスを見ると、あ…と、そう雪を降らせたグランドでディオスを凝視していた男だった。

 ディオスはこの男に妙な感じを憶えていたので

「あの…雪を降らせた時にいましたよね」

 ディオスが近付くと、トルキウスが

「博士、少々、用事を思い出しましたので」

 トルキウスは、素早く移動して部屋を出て行った。

 

 ウィルトンは首を傾げ

「なんだ? せっかく、シンギラリティが来てくれたのに…」

 

 ディオスは、トルキウスに妙な感じを受けていた。

 何だろう…その態度とかではない。

 何か…そう違和感があるのだ。この違和感と似た感じは…とディオスは考えていた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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