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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
ヴィクトリア魔法大学院篇

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第22話 ヴィクトリア魔法大学院への派遣

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


レギレス連合王国のヴィクトリア魔法大学院に派遣される事になったディオスだが…その行く先々で…

ヴィクトリア魔法大学院への派遣


 アグニアの依頼をこなして一週間後、ディオスは何時も通り午前中の訓練をクレティアとクリシュナと共にこなしている。

 ああ…何時もの日常だ…と心安らいでいる時間の裏側では、着実に事態は進行していた。


 バルストラン王宮、王の執務室でソフィアは机で頭を抱えていた。

「ウソでしょう…ここまでする?」

 コンコンとノックされ「良いわよ」とソフィアが呼ぶ。


「失礼する」とゼリティアが入ってきて、ソフィアへ

「ソフィア殿…これを…」

と、一通の書状をソフィアの前に置く。


その宛先を見たソフィアが

「まさか…ゼリティアの方も…」


 ゼリティアはハァ…と溜息を漏らして

「信じられん。ここまでするとは妾も思いもしなかった。ソフィア殿の方は?」


「アタシの方は…学院への特別留学生の受け入れを大幅に制限すると共に、上級魔導士、ウィザード級の魔導技師の派遣も相当、制限するそうよ」


 ゼリティアは渋い顔をして

「妾の方は、幾つかの共同研究に関しての凍結と、魔導技術者の派遣の制限、資源開発の協力も大幅に制限すると…」


 ソフィアは机に項垂れ

「たった一人の為に、ここまでする?」


「ソフィア殿、ここは…行って貰うしかない事態じゃ」


「ここまでするんだよ。もしかしたら…取り込む気かも」


「期限付きで派遣にするのじゃ。そうすれば、帰すにも理由が付く。ここまでする程の覚悟が学院側にはあるという事じゃ。ヘタに無視なぞ出来んじゃろう」


「ああ…もう…厄介ごとになるなんて…」

 ソフィアは苛立ち、頭を激しく掻いた。




 今日の夜、ディオスは屋敷にある魔導通信機でソフィアから連絡を貰う。

「はぁ? 明日、直ぐに…王宮に来い?」


『そうよ…来れるでしょう!』


「ああ…まあ…何か、問題事でも起こったのか?」

 ディオスが心配すると、ソフィアは濁し気味に

『まあ…そんなモノよ。とにかく、明日、直ぐに来る事、いいわね』


「分かった」

 通信が切れるとディオスは、訝しい顔で

「一体、何があったんだ?」



 翌日、午前の早い時間帯でディオスは王宮に来る。そして、王の執務室でソフィアから

「はぁ? ヴィクトリア魔法大学院に派遣?」

 ディオスは疑問の声を放つ。


 ソフィアは額を抱えたまま

「そうよ。出発は、二日後…アンタをヴィクトリア魔法大学院に派遣するから…。いいわね」


「理由は?」と、ディオスの問いに


「それは…とにかく、アンタにはまだ、魔法の勉強が必要なの。ヴィクトリア魔法大学院は、アーリシアで一番の魔法大学院だから。良い勉強になるでしょう」


 ディオスはソフィアをジーと見つめ

「本当にそれだけか?」


 ソフィアは従いなさいという鋭い視線で

「それだけよ。いいじゃない。お金貰ってタダで勉強出来るんだから! ついでにアンタの魔導士としての階級も見て貰いなさい」


 ディオスは納得しない顔をしているが

「まあ…分かった。で、一人で行くのか?」


「奥さん二人もつけて行きなさい」


「ああ…」

 ディオスは納得出来ない顔で頷いた。



 同時刻、ディオスは王宮にクレティアとクリシュナを連れていた。

二人を前に、王宮の大食堂でゼリティアが

「二人とも…実はな、今回の事なんじゃが…」

 ゼリティアが口に手を当て小声で二人に話す。


「え、マジで…」とクレティアは苦い顔をする。


「はぁ…」とクリシュナは額を押さえる。


 クレティアはゼリティアに顔を寄せ

「マジなの? ダーリンを調べて、あわよくば取り込みたいって、どういう事よ」


 ゼリティアも寄せ

「恐らく、ディオスの特異な体質はヴィクトリア魔法大学院側にとって、貴重なのだろうと思う。その為に…」


 クリシュナも寄って

「その為に、バルストランやオルディナイト財団に関する様々な事の制限を持ち出したのって、ありえなくない?」


 ゼリティアは渋い顔をして

「事実じゃ。だからの、お主達に頼みがある。どうせ、ディオスは同行者としてお主達を連れて行くだろう。お主達は、この事を秘密に…ディオスが魔導大学院側に取り込まれないようにして欲しい」


 クレティアとクリシュナは顔を見合わせ

「分かったわ」

「分かった」

 二人して了承した。


「ありがたい。頼んだぞ」

 ゼリティアが告げた後、ソフィアとの話が終わったディオスが三人に近付き

「何を話し合っているんだ?」


 三人はニッコリと微笑み。

「なーに、他愛もない話じゃ」

と、ゼリティアは扇子を口に置き、ほほほ…と笑む。


 ディオスは、やけに笑う三人に怪しい感じを憶えつつも

「まあ…仲がいいなら、よろしい事で…。ゼリティア」


「なんじゃ?」


「魔導石の生産についてだが…」


「おお、気にするな。ソフィアとの話はついている。派遣される三ヶ月間は、何とかなろう」


「何時も、すまないな…」

 ディオスは頭を下げると、クレティアとクリシュナへ

「二人とも…。オレは、ヴィクトリア魔法大学院に派遣される事となった。期限は三ヶ月だ。一緒に来てくれるか?」


「もちろんだよ。ダーリン」と微笑み右手の親指を上げるクレティア。


「ええ…問題ないわ」と微笑み頷くクリシュナ。


「そうか…準備に二日しかないが…」

 困り顔をするディオスに、クレティアが

「大丈夫、二日もあれば十分でしょう」


 こうして、ディオスとクレティアにクリシュナの三人は、ヴィクトリア魔法大学院に行く事となった。



 二日後、ディオスはクレティアとクリシュナを連れてアーリシア北西の諸島にあるレギレル連合王国の首都モンドルに到着した。

 荷物を両手に持つ、ディオスとクレティアにクリシュナの三人はモンドルの街中を進み、用意された宿泊地へ向かう。

「ここみたいだ…」とディオスがその門前に止まる。

二階建て左右に二つの部屋が並ぶ屋敷に来て、門のチャイムを押すと…

「はーい。どちら様でしょうか?」

と、チャイムから女性の声が漏れる。


「バルストラン共和王国から来ました。ディオス・グレンテルという者ですが…」


「あ、はーい。お待ちください」

 屋敷の玄関が開き、そこからエルフの眼鏡の女性が姿を見せる。

「お待ちしておりました」

 エルフの女性が門を開けてディオス達を屋敷へ誘う。


 ディオス達は屋敷に入る。ディオスは屋敷を見回して

「ここが、本当にバルストランの領事館なのですか?」


 エルフの女性は微笑みながら

「ええ…ようこそ…レギレル国のバルストラン共和王国領事館へ。私は、ここの領事を任されています。ミリガリア・ルファールです」

 ミリガリアは手を差し出すと、ディオスは握手して

「初めまして…共に連れていますのが…妻のクレティアとクリシュナです」


 ミリガリアはクレティアとクリシュナに握手を向け

「よろしく、お願いしますね。奥方様」


「よろしく」とクレティアは微笑み握手する。


「こちらこそ」とクリシュナは頷いて握手する。


「では、さっそくですが…こちらへ来てください。お三方の滞在する部屋を案内しますので」

 ミリガリアの案内で、ディオス達が三ヶ月間生活する部屋へ、案内される。

この領事館は奥が長く、その長さに応じて部屋が区切られているので、ディオス達が生活するスペースの部屋区切りに通される。


 ディオスは不意に

「なんか…金太郎飴みたいな構造だな…」


「なに、どんな構造だって。ダーリン」

 耳にしていたクレティアが尋ねる。

「いいや、こっちの話さ」



 三人は荷物を部屋に下ろしていると、ミリガリアが困惑した顔で

「ディオスさん。実は…ディオスさんが到着した場合。直ぐに、ヴィクトリア魔法大学院が連絡をくれと言っているので。どうしましようか?」


 そうか…とディオスは頭を掻きながら

「連絡してください。今日は顔見せくらいにして置きますから」


 ディオス達がここに到着したのは、昼の少し前である。

 今日は、この住む場所の準備に当てるつもりが、さっそく連絡が欲しいというのは、多分…来て欲しいの催促になるだろう。

 まあ…顔見せだけにして、直ぐに帰ろうとディオスは思う。

 

 昼食を終えて、ディオスはクレティアとクリシュナと共にタクシー魔導車に乗せられてモンドルにあるヴィクトリア魔法大学院へ到着する。

 そこは、郊外と街の境に立てられた大学院で、その規模は果てしなく、バルストランの王都にあるベンルダン大学より大きい。


「はぁ…」とディオスは溜息を漏らす。

 こんなデカい大学院で勉強してこいなんて…どういう風の吹き回しなんだ? 師匠様、ソフィアの考えが分からん。


 クレティアとクリシュナが先に

「ほら、行くよ。ダーリン」

「さっさと用事を済ませましょう。あなた」


 ディオスは呆れ気味で

「やれやれ…」

 ヴィクトリア魔法大学院の門を潜った。

 


 三人はまず、ヴィクトリア魔法大学院の事務室に来て名乗ると、職員が明るい顔をして

「ようこそ…お待ちしておりました。ディオス様…」

 まあ、歓迎はしてくれているムードである。

「少々、お待ちください」と事務員が連絡をして数分、一人の魔族の男性が現れた。


「どうも…初めましてディオスさん。当大学院で魔力研究を行っていますサルヴァル・オードルです」

「はぁ…よろしく」

 サルヴァルとディオスは握手をすると、サルヴァルが手を奥へ導き

「では、さっそくですが…。魔力に関するテストを行って頂きます」

「んん?」とディオスは訝しい顔をして「魔力に関するテストとは?」

 サルヴァルは首を傾げ

「あれ? アナタの特殊な魔力に関する調査の為に、当大学院に来られたのでしょう」


 ディオスはそれを聞いて、瞳が鋭くなる。

 はめられた! ようするに、モルモットになれって事か! 

 勉強してこいは建前で、本音はこっちだったか!!!


 ディオスは渋い顔をして

「すみませんが…。自分は実験動物になる気は一切ないので」


 サルヴァルは苦笑して

「それは当然で、ございます。当大学院はアナタ様を実験動物なんて扱いません。まあ…魔力を調べるのは…なんというか…当大学院の慣例のような事ですし。もし、そう感じる検査がありましたら、拒否しても構いませんから」


「しかし…」


「簡単な健康診断だと思ってください」


「まあ…分かりました」

 渋々、ディオスは頷いてサルヴァルへ続く。

 無論、その後にもクレティアやクリシュナが付いてくる。


 廊下を歩きながらクレティアとクリシュナが

「ねぇダーリン。もし怪し動きあったら」

「私達も、アナタが酷い事にならないように見ているから」

 ディオスは「ああ…頼む」と肯く。

 


 通された部屋は、巨大なピストンやメータに機械が組み合わさった装置がある場所だった。

 その部屋に、白衣を着て筆記板を持つ検査者みたいな一団がいた。

 

 サルヴァルは、装置の前にある丸い鉄球が棒によって支えられている探査子のような器具の場所へ来て

「これに手を置いて魔力を込めてください」


「これは…」とディオスは怪しい顔をする。


「これは、魔力を測る装置の受信部です」


 ディオスは部屋を埋め尽くす巨大な装置を見て思う。

 ああ…魔力を測定する装置か…。

 不意に脳裏に、バランの街であった魔力を測る遊びの装置を壊したトラウマが過ぎる。

「その…大丈夫でしょうか?」


 サルヴァルが目を丸くして

「何がですか?」


「壊れたりしたら…」


「プ!」とサルヴァルは吹いた。

 そして、その後ろにいる検査技師の一団が苦笑して。

 おいおい、壊れる訳ないだろう。

 ええ…どんな自信過剰なの?

 と失笑している。


 サルヴァルはポンポンと装置を叩きながら

「大丈夫ですよ。ウィザード級が万人束になっても壊れない装置ですから…。むしろ…壊す方が無理ですよ。どうぞ、全力でやってください。壊れませんけど」

 サルヴァルはちょっと失笑ぽい。


「はぁ…」とディオスは冷静だ。


 それを見たクレティアがムスッとして苛立ち、ディオスに近付いて耳打ちする。

「潰しちゃえダーリン」


 ディオスはサルヴァルへ

「壊しても弁償はしませんから」


 サルヴァルと検査者集団は、クク…と笑いを堪えている。

「ええ…。請求しませんとも、壊せるならね」

と、サルヴァルは自身ありげに言い放った。


「じゃあ…」

 ディオスは、検査子の鉄球に右手を置いて

 全力でいってやる!

 自分の内にある魔力の渦と直結させ、魔力を放出させた瞬間。


 キイいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ ガァァァァァァァァ

 部屋を埋め尽くす検査装置が激しく震動して、部屋を震動させて己を崩壊させながら爆ぜた。


 検査技師達とサルヴァルは驚き部屋の隅に逃げて、ディオスは壊れた巨大装置の前にいる。


「だから、言ったでしょう」

と、ディオスはサルヴァルと検査技師達に呆れて告げた。


 検査技師達は、壊れた装置の群がり原因を調べる。

 

 サルヴァルが

「どうだ…?」


「装置の不具合ではありません。完全に許容オーバーで壊れました」


 サルヴァルと検査技師達は、驚愕の視線でディオスを見つめる。


 ディオスは「フン」と鼻息を荒げ「でしょう」


 サルヴァルと検査技師達は肯き合い、サルヴァルが

「ディオスさん。次の検査の準備が整うまで、こちらでご休憩をしてください」

と、サルヴァルはディオス達を客間へ案内した。

 そこで、ディオス達は、出される紅茶やお菓子を食べて適当にしていると、ドアがノックされサルヴァルが

「次の検査の準備が整いましたので…」


「やれやれ」とディオスはクレティアとクリシュナを連れて客間を出ると、今度は大きなホールへ通された。

 そのホールには沢山の魔族や人族、オーガ族や獣人族の白衣を着た者達が一斉にホールを埋め尽くす程に並び、その全ての者達がディオスは鋭く見ていた。


 良い感じがしないなぁ…とディオスは思うもサルヴァルは

「こちらです」

と、ディオスをホールの中心にある席へ導いた。背もたれがある座り心地が良さそうな席をサルヴァルは手で示し

「こちらに座っているだけで構いません」


「はぁ…」とディオスは席に座る。

 深く背もたれに背を載せると、ホールを埋める白衣の一団から様々なコロ走行付きの検査装置が運ばれ、あっという間にディオスの周囲を機械で埋める。


 クレティアが訝しい顔で

「アタシ等、旦那のそばにいても問題ないよね」


 サルヴァルは肯き「問題ありません」


 ディオスの周囲を埋める機械から繋がれた吸盤を持って来る白衣達は

「すみませんが。腕を捲ってこれを付けさせてください」


 クリシュナが疑い

「何か、痛みや薬品を投与する装置ではないでしょうね?」


 白衣達は首を横に振り

「これは、ディオス様の魔力の特性を測る機械です。何も痛みも薬品も使いませんから」 

 

 クリシュナはディオスへ視線を向ける。

 ディオスは頷く。


「どうぞ…」

と、ディオスは両腕を捲る。


 そこに幾つもの線が繋がった吸盤が付いて、イスにも何かの接続をしてディオスの周りの機械が忙しなく動く。


 検査される間、ディオスは、まあ…確かに痛みはないな…と思っていると、機械を操作する白衣の集団が魔導石の画面に釘付けになっている。

 そこにサルヴァルを始めホールにいた全員が集中して画面を見入る。


 そして…一人が

「ヘキサゴン・マテリアルのシンギラリティに相違ありません」


 ディオスがそれを耳にして

「なんですかそれ?」

と、尋ねるが、白衣達は「シンギラリティだ」「シンギラリティだ」と口々に伝播させた。 


 サルヴァルがディオスの元に来て

「ディオス様…。検査が終わった後、当大学院の学院長が面談をしますので…。少々、残って頂きませんか?」


「はぁ?」

 ディオスは苛立った顔をすると、サルヴァルが両手を握り締め

「お願いします。ディオス様…」

 必死にお願いするので、


「はぁ…まあ…良いですが」

 ディオスは了承した。



 何がなんだか分からず、ディオスはクリシュナとクレティアを連れて学院長室まで来た。

「もう…何がなんだ?」

と、ディオスは愚痴り零し学院長室のドアをノックする。

「どうぞ」と奥から声がして「入ります」とディオスはドアを開けて入ると、正面の窓側の机に一人の壮年の男性が机に座って書類へサインしていた。彼がこのヴィクトリア魔法大学院の学院長オズワールだ。


 オズワールはサインを止めて、席を立ち「こちらへどうぞ」と机の正面にあるソファー席にディオス達を導く。


 ディオス達は一方へ座り、ディオスを真ん中に左のクリシュナ、右にクレティアと、その対面席にオズワールが座る。

「初めまして、当大学院の学院長をしておりますリオンティオン・オズワールです。よろしく」

 オズワールが握手に手を伸ばすと、ディオスは握手して

「ディオス・グレンテルです。両隣にいるのは妻のクレティアとクリシュナです」


「どうも、奥方様」

 オズワールは二人にも握手をすると、パンと両膝を叩いて

「では、まどろこっしい話は無しにして、本題に入ります。グレンデル様…当大学院への教授職として地位をご用意します」


「はぁ?」とディオスは顔を訝しくさせ

「ま、待ってください。いきなり来て教授職? 教授になれとはどういう事ですか?」


 オズワールは平然と

「グレンデル様は、当大学院が検査した所により、シンギラリティであると判明しました。それで」


「ちょっと待ってくれ。シンギラリティとは何ですか?」

 ディオスの問いにオズワールが

「これは失礼を…シンギラリティとは特異点という意味です。魔力に関する特異点」


 ディオスはビクッとする。

 魔力に関する特異点という言葉を聞いて直ぐに思いついたのが…自分の内にある魔力を無限供給する渦の事だ。ディオスは顔を鋭くさせ

「もしかして…渦の事ですか?」


 オズワールは微笑み

「渦…ほぉ…確かにそれは当を得ている」


 要するにディオスでいう渦持ちを、ここではシンギラリティと呼んでいるのだ。


 ディオスは面倒クサそうな顔で

「そのシンギラリティとして分かって、どうして教授なんかになるのですか?」


 オズワールは顎に手を置き

「当、ヴィクトリア魔法大学院を作った初代学院長は、シンギラリティでした。かれこれ千年前でしょうか。この魔法大学院の学院長も私で六十代目になります。私はシンギラリティではありません。ですが、歴代の学院長にはシンギラリティの者を多く当用しております。これがどういう事か分かりますか?」


「つまり…魔力を無限供給できる者は、様々な魔導研究にて大きな成果を上げられる、ですか?」


「それもありますが…。これは慣例のような事であるのです。シンギラリティの者によって建てられた大学院には、シンギラリティが相応しいというね」


「たかが、慣例でしょう…」


「ええ…たかが、慣例です。ですが…我々はこの特殊体質の存在を手放す程、愚かではありません」


「ここに留める為に、オレを教授にすると…」


「待遇は超一級です。好きな研究をしたいだけ出来る。下に付ける者も好きなだけ我々が用意します。どうです…当大学院の教授になって頂けますかな」


「はぁ…」とディオスは呆れる。


 そんなディオスの袖をクレティアが引っ張り

「ねぇ…ダーリン。こういう事は…ねぇ。色々と相談が必要だろうし…」

 クレティアはゼリティアから、ディオスが引き抜かれないようにしてくれと頼まれている。


 クリシュナも

「ここは、クレティアの言う通りだと思うわ」

 同調している。


 ディオスはフッと笑み「こんなの決まっている」と口にして

「オズワール様。申し訳ありませんが、自分は今、バルストラン王の臣下です。それを放り出して、こっちに来るなんて考えていません。申し訳ありませんが…お断りします」


 オズワールはガクッと肩を落とし

「そうですか…。いや…残念です。何というか…そうだろうとは予感していました。当大学院の千年の歴史の中でシンギラリティを確保出来たのは、少数でして…その倍は見つかっているのですが…。こうして、招こうとしても、それなりに立場があるようで…」


「その…渦…いや、シンギラリティは他に何人か見つかっているのですか?」


「はい。私が学院長となった時からは二人ほど…。一人目は中年の方でユグラシア大陸中央におります。アルヴァルド・ミグラシア様と」


 ああ…クリシュナのお父様だと、ディオスは分かった。

 クリシュナは苦い顔をする。


「二人目が若い少年で、教会に勤めるユリシーグ・ガウハラ様です」


 ビクッとディオスは肩を震わせた。

 やべ…ソフィアの王選定の時に対決したガキだ。

 ディオスの顔が渋くなり、その顔を見て事情を知っているクレティアとクリシュナは口元だけに笑みを浮かべる。

「あの…」とディオスが「ユリシーグ・ガウハラは、最近?」


 オズワールが眉間を寄せ

「お知り合いなのですか?」


「ええ…ちょっと、別件で…関わることがありまして…」


「はぁ…お元気ですよ。最近、新たに魔法を憶えたいとして、当大学院に来ておりますよ」


 ディオスはオッと内心で唸り、生きていた! ちょっと安心した。


「ユリシーグ様は、すごく落ち込んでいましたね」


「え…それは…」とディオスは恐る恐る聞く。


「何でも教会で大きな動きがあって、巻き込まれて、それで落ち込んでしまい。同じ教会関係者の女性と共に、何処かで講義を受けているかもしれませんね」


 それを聞いて、やーべ…オレが原因か?とディオスは思ってしまう。


「ディオス様」とオズワールが「ディオス様の魔導士証明プレートをご提出して頂けませんか」


「ええ…ああ…はい」とディオスは魔導士の服の懐を探って魔導士プレートを差し出す。 オズワールは受け取り「おお…まだ、階級は刻まれていないと…」


「ええ…まあ…」

 魔力無限供給状態だから、どう階級を決めればいいんだ?とディオスは思っていた。


「ディオス様、魔導士の階級はご存じでしょうか…」


「ええ…下から、ナイトル、シルバリオン、ウィザードの三つでしたっけ」


「はい、そうです。ですが…実は最上位のウィザードの上の階級がございます。エルダー(大魔導士)という階級が…」


「エルダー ですか…」


「はい。このエルダーになるには魔力もそうですが…。魔法技能も最上位でなくてはなりません。それ故に、アーリシア大陸では現在、エルダーが四人しかおりません。ディオス様はどのような魔法技能をお持ちで?」


 ディオスは口が固くなり、クレティアが肘で小突いて

「いいなさいよ。気象をコントロール出来る魔法技があるって」


 オズワールがそれを聞いて目を見開き

「え…気象を操作できるのですか?」


「その…」とディオスは濁そうとすると、クリシュナが

「この人は、大規模気象魔法を使えます。それもかなりの強力な魔法で、台風を起こしたり、竜巻で大地をめちゃめちゃにしたり、遙か上空にある低温を招来させて一面を凍りづけにしたり、あと、熱核魔法グランスヴァインも放てます」


 ディオスが顔を青ざめてクリシュナの袖を引っ張り

「クリシュナ。そんなにオーバーに言わなくていいから」

「オーバーじゃあないでしょう。事実でしょう」


「はははは」とオズワールは笑い

「そうですかそうですか。現在、気象に関係する魔法はデオローンしかありません。その魔法陣をご提出してください。確実にエルダーとして認定されますので…是非」


「はぁ…分かりました」


「ディオス様、では…当大学院では魔法の技能向上の為の勉学滞在という事で…」


 ディオスは暫し考え、過ぎったのが…自分の渦の内にいるあの存在だった。

 もしかしたら…色々と分かるかも…。

「あの…自分でもシンギラリティについて調べて欲しい事があるので…」


「分かりました。そちらの方も協力します」


「では、そういう事で」とディオスはお辞儀して、オズワールもお辞儀して


「こちらこそ…。その…もし、気が変わりましたら是非に…」


「いえいえ、その気はありませんから」


「はぁ…そうですか…」



 オズワールとの面談も終わった頃には夕方だった。


 ディオス達は帰りの魔導車タクシーの中で

「なんか…色々あったなぁ…」

と、呟くディオス。


「そうね…」と頷く隣のクレティア。


 隣のクリシュナは外を見ながら

「住む場所に戻ったら、荷物を広げないと…」


 ディオスは肯き

「夕食が遅れそうだな…。先に取って置くか」


「賛成ーーー」とクレティアは挙手して「運転手さん。何処か美味しいお店に行ってよ」


「あいよ」と運転手は返事をした。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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