第201話 ザラシュストラ監視委員会の面接
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あらすじです。
阿座に助けられた七海の殺された両親の葬式が行われる。親が亡くなった七海は、親戚達に拒絶され…
ディオスと通信で話し合うアインデウス。
「まさか…生体と…ゼウスインゴットが融合するなど…」
ディオスは額を小突き、困りながら
「本人は、自身が超魔導兵器と同じなら…自分と同じザラシュストラに入って、エニグマと戦いたいそうです」
アインデウスが目を渋くさせ
「理由があるのか…」
ディオスは淡々と、阿座が十年前に妹をエニグマのスキル能力者狩りで失った…と話す。
「そうか…」
と、アインデウスは手で顎を押さえ悩む。
ディオスは淡々と
「自分としては、貴重な存在です。ザラシュストラに入れば、それなりに詳しく調査が出来ますし、管理も容易だと思われるので、入れた方が無難だと思います」
アインデウスは鋭い目で
「だが…本人は、エニグマの復讐が目的なのだろう」
ディオスは頭を掻いて面倒クサそうに
「聞いた話の感じでは…ネオゼウスアームズの彼女達と同じような、雰囲気はあります」
アインデウスは額を押さえ
「復讐もそうだが、本心では自分のようなエニグマの犠牲者を出したくない…と」
「それを信じますか?」
ディオスは問う。
アインデウスは暫し目を閉じて
「その者と直接、話がしたい」
ディオスは肯き
「その方がいいでしょう」
「ただし、私一人ではない。ザラシュストラの監視委員会の者達も同席させる」
ディオスとアインデウスが話し合っている夜、阿座は用意された部屋で、大きめのベッドに一時の子となった七海を横に置いて、川の字で寝ていた。
阿座は天井を見上げて
「これから…どうなるんだ?」
と、告げた後、左にいる眠っている七海が、阿座にすり寄り
「パパ…ママ…」
亡くなった両親を呼んで眠る目に涙を零す。
その涙を阿座は拭ってやり、優しく七海を抱き締めた。
この子だけでも守らないと…。
そう、阿座は強く思った。
男の子は、成長すると男になる。子供と大人が共存したような未熟な状態が男だ。
そして、そこから更に成長するには、自分の命よりも大切な者を得なければならない。
それが出来て、初めて男から、大人になる。
男という未熟なままの野郎もいる。
だが、大半の男は、気持ちを込めた女性と結ばれ、子供を成して、大人になり父となる。
守る者を得た時こそ、人の本当の力が発揮される。
阿座は、自分より大切な命を得た事で、大人になりつつあった。
翌日、七海の両親の亡骸が入った棺を七海の両親の父方の兄が引き取りに来た。
それに、七海も付いて来るが、七海が心配なので阿座もついて行った。
七海の家で両親の葬式が始まる。喪主は、父親の方の祖父だ。母親の肉親である祖母は、入院中でムリだった。
しめやかに葬儀が行われ、喪服で七海と阿座も加わる。
七海が両親の棺を前に座っていると、阿座が
「大丈夫か?」
七海は黙って頷いた。
阿座は、七海の背を擦って労り
「ちょっと休もう…」
休める場所へ、七海を連れて行く途中、親戚達が集まっている部屋を通り掛かり
「どうするんだよ女の子」
「スキル狩りだったんだろう。預かったら…」
「私達も巻き込まれるなんて勘弁だよ」
「国の方にお願いしよう。あの娘は戦闘向きのスキル持ちだ。きっと大事に扱ってくれるよ」
「その方が良いかもなぁ…」
七海に関する冷たい話し合いが行われていた。
七海は俯いた。それを阿座は抱き締め
「さあ…行こう」
休める場所に七海を連れて行く。
そこで、ちょっとした軽食を一緒に食べ、後の葬式を終えた。
両親の遺骨が入った小棺箱を七海は受け取り、親戚達と話し合いが始まる。
七海に親戚の一番上の老人が
「七海ちゃん。みんなと話し合ったが…七海ちゃんがもし、再び同じように襲われた時に、ワシ等、守ってやれない。ここは…七海ちゃんの事を国に任せるしかないと思う…」
七海は静かに「うん…」と頷いた。
親戚の話し合いが終わって七海が家の外に出ると、阿座がいた。
「ああ…七海ちゃん。どうだった?」
七海は目からポロポロと涙を零して
「七海、一人ぼっちになった」
阿座は七海を抱え
「一人ぼっちじゃあないぞ。阿座お兄ちゃんがいる。一緒に暮らそうか…」
七海は涙を拭いながら
「お兄ちゃんは、死なない?」
阿座はフッと笑み
「ああ…」
ドクンと阿座のネオゼウスが脈動し
”ソウ…簡単ニ滅ブ事ハ無イ”
その言葉は、七海にも届いた。
阿座は得意げに笑み
「オレは、どうやら、凄い超魔導兵器らしい。だから、死なない。七海ちゃんを守れるし、どんな相手だって戦える。任せなさい」
七海は笑み「うん」と告げた後、阿座に抱き付いた。
その背中を阿座は優しくなでてあげた。
それから二日後、阿座がいる証人保護の洋風旅館が厳重な警備に包まれていた。
警備をするのは、ロマリア、アーリシア、アリストスのアインデウス直轄の兵隊達だった。その中に、ディオスの仲間達五人もいた。
信長が警備する洋風旅館を見て
「阿座って人…大丈夫かなぁ…」
隣にいるユリシーグが腕を組み
「さあなぁ…だが、悪いようにしないと思う」
信長がユリシーグを見て
「どうして?」
「面子は凄いが…それ程、頑固な人達ではないからだ」
ユリシーグは答えた。
阿座は洋風旅館のとある会議室で面接を受けていた。
両脇を、アインデウスの部下、ディウゴスとゴルートス、その後ろにアインデウスの長女リュートの部下達、曙光部隊が付いている。
その一同で守る机には、アインデウス、イルドラ、ライハド、バウワッハ、アルヴァルド、ナイトレイド連合帝国のシャードルの六人が並んで座っていた。
この六名が、対エニグマ機関ザラシュストラの監視委員会の責任委員である。
阿座は背筋が自然と伸びて正しい姿勢になる。
目の前で面接をする者達は、アリストス共和帝国の皇帝、ロマリア帝国の上皇と先代、アーリシアとその他の大陸に大きな影響を持つ財団の理事長、ナイトレイド連合帝国の次期皇帝のお目付役の将軍。
所謂、国家のトップにいる人達が、直接面接しているのだ。緊張するな!なんてムリだ。
緊張する阿座に、イルドラが
「そう、緊張するな。お主の事は、ディオスから報告を受けている」
「はい、お願いします」
と、イスに座っている阿座はお辞儀する。
シャードルが
「で…その身が、ネオゼウスの影響によってゼウスリオンと同等の超魔導兵器と…。それについてお主はどう思う?」
阿座は眉間を寄せ
「正直、困惑しています。全く自覚症状がないので…」
ライハドが魔導端末を持って
「この資料によると…君はザラシュストラに入りたいと…」
「はい」と阿座は頷く。
バウワッハが手を組み、それに顎を乗せ
「仇討ちかね。君は…十年前に、エニグマのスキル能力者狩りで妹を失っている。その気持ち、分からんではないが…。強い執念に引っ張られて、冷静さを失う可能性があるのではないかね?」
アインデウスが鋭く阿座を見つめ
「ザラシュストラの権限は凄まじい。ザラシュストラが発動すると、アリストス、ロマリア、ナイトレイド、アーリシア、ユグラシア中央、ザラシュストラと協定を結んでいる国々の全ての軍事力を行使する事が出来る。一つ間違えば、世界が破滅する。故に間違いは極刑に直結する。この重責を背負う覚悟はあるか?」
阿座はそれを聞いて黙ってしまう。
ザラシュストラに入り、力を行使して間違えば即死刑というとんでもない責務に言葉が出ない。
アルヴァルドが黙る阿座に
「もし、ダメだと諦めるなら、君には、それなりの安定した生活が出来る。君の特異体質の研究をする研究機関に属して貰い、君は技術開発を行うだけでいい。多少の制限はあるだろうが、日常に困る事は無いだろう」
阿座が
「そうなれば…どうなるんですか?」
アインデウスが
「君は、君自身だけ、その研究機関に来る事になる」
阿座はハッとして
「つまり、誰も…同行は出来ないと…」
「そうだ。君だけ、単独だ」
と、アインデウスは告げる。
阿座は暫し考え…
「やっぱり、ザラシュストラに入りたいです」
バウワッハが「理由は?」と問う。
阿座は
「守らなければいけない子いるんです。その子と離れる訳にはいかないんです」
シャードルが魔導端末を見ると、阿座が七海を預かっているのがあり
「七海ちゃんか…その子を政府が預かるとしたら…」
阿座は首を横に振り
「約束したんです。七海の傍にいてあげるって、その手を取ったんです。オレは、自分は…その覚悟を決めたんです」
ザラシュストラ監視委員会と阿座の視線だけの交わし合いが続き、アインデウスが
「分かった。これで面接を終えよう」
阿座が出て行った後、アインデウス達の後ろから姿を隠す魔法を解除してヴィルヘルムが姿を見せた。
イルドラが
「どうかの…ヴィルヘルム殿…」
ヴィルヘルムはフッと笑み
「ズッと真実を言っていましたぞ」
ヴィルヘルムは真実を見抜くジンを持っている。
そんなヴィルヘルムがフッと笑み
「ディオスと似たようなヤツだ。野心がなく守りたい者の為に戦う。なんとも納得するしかないシンプルな理由で生きている」
アルヴァルドが
「入り座るまでの立ち振る舞い、どうやら、相当に体を鍛えている努力肌の武人のようだ。そういうタイプは、しっかりとした所が多い。ワシとしては入れる事を進める」
そう告げた後、皆の視線がアインデウスに向けられる。
アインデウスはフッと笑み
「まあ、何か問題を起こせば、ディオスと一緒に対処すればいいか」
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