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第1話 始まりへ 始動

初めて読んででいただきありがとうございます。

あらすじ

突如、光に包まれた勇志郎は、知らぬ人物、貴族ダグラスに助けられて、その屋敷で過ごすとその食客エルフのソフィアがいて、優志郞はソフィアと共に日々を過ごす。

これが、最初の一歩であった。

始まりへ



 男は熱帯の密林の枝をかき分けながら走る。

本社からの重要案件という出張で渡された仕事に、国際条約で譲渡禁止の兵器の設計図が入っていた。

 男は大手財閥のサラリーマンで、使い勝手が良かった事が災いして生け贄にされた。


 出張の待ち合わせをして、遭遇した相手は武装していて、無理矢理に車に乗せられ、密林の奥地に来るとそこは、完全な兵器工場だった。

 明らかにブラックだったのは明白、データを渡し工場の人物達が手持ちのノートパソコンで、データをチェックしているそこに、とある材料を作り出す特殊な遠心分離機と、その素材を使った特別な起爆装置の設計図が見えた次に、両脇にいた兵士が発砲、何とか辺りを散らして密林の中へ逃げた。


「はぁはぁ、クソ…」

 大凡、何となく察しがついた。重要なディスクを渡した瞬間、自分は始末される手筈だった。

 証言者が少ない程、後でなんとでも誤魔化せる。


「川を探さないと…」

 川の下流には必ず町がある。男は川辺を探して行く当てもなく密林を彷徨い、開けた場所に到着したそこは、遺跡だった。

 締め殺すように木の根が古びた遺跡の建物に巻き付き、ジワジワと遺跡を破壊する。

 まるで今の自分の状況を表しているかのようだ。

「水…」

 男は遺跡の中を彷徨い水を求めた。だが…


 肩の脇を銃弾が抜けた。

 背後を見ると、あのアサルトライフルを持つ兵士が、男に向かって発砲する。


「クソォォォォォォォ」

 男は必死に逃げるも、背後からの射撃で腹部に被弾、その場に仰け反るも、被弾した左脇腹を押さえながら、走り出した。

「クソ、クソ、クソ、クソ」

 それしか言葉がない。

 オレは、何でこんな事に巻き込まれたんだろう。走馬燈のように今までが過ぎる。運が悪いのだろうか。誰かに恨まれたのだろうか。脳内はその原因を必死に検索するが、答えが出る事もなく。男は倒れた。


 倒れたそこは、遺跡の中心だった。

 円形の広場で中央に大きな丸い岩が鎮座して、その前にお供え用の祭壇がある。

 男は右腕だけを動かし、祭壇の下に来る。

 腹部から流れる血は、祭壇を染め、その出血量からして命が危ういのは必至である。

「クソ…もっと、上手くやれば良かった。もっと…もっと…」

 後悔に包まれる中、男の目から輝きが消えそうになる。


 男は今世の最後になろう空を見るが、そこには空ではなく穴が開いていた。空に突如として現れた孔から何かが男を覗き、笑った。その空の孔から膨大な量の光が降り注ぎ、男と遺跡を呑み込み、男は何かの奔流に遊ばれながら意識が閉じた。


 暗闇の中、男は闇に微睡みながら、奇妙な光景を見る。闇の中で光る赤い瞳がある。その目が瞬きもしないで男を見つめている。

 

 これが死後の世界、なんて虚しいだろう。

 ただ、自分は見つめられているだけ、これが永遠になるのか? そう、感じていると赤い瞳が揺らぐ、上下左右に揺らめきながら男に近付いて来る。

 男が知覚する距離感では直ぐに来ると思っていたが、なかなか来ない。

 

 周囲の闇が唐突に亀裂して、闇から黄金色の空間に変わり、亀裂した闇が纏まり赤い瞳と一緒になってうねりとなった。

 

 そして男は、驚愕する。迫っていた赤い瞳とそのうねりは自分が思っていたより遙かに巨大な存在だ。それが男に向かって突進してくる。

 

 うああああ! 男は、反射的に腕を組み守ろうとした。

「アアアアアーーーー」

 男は叫びながら暴れる。


「落ち着きたまえ」


 男は、誰かに押さえられてベッドに寝ていた。

 叫び終わった男は、意識を収束させ辺りを見渡す。

 そこはベッドの一室だ。


「ここは…?」と男は視線を動かしていると、自分を抑えるタキシードの男に視線が合わさる。


「落ち着いたかね」

 タキシードの男は苦笑して、男から離れ

「君の名は?」

 タキシードの男が尋ねる。

 

 男は額を押さえながら「杉田 勇志郎と…言います」


 男は首を傾げて

「スギタ ユウシロウ… ここにはない珍しい名前だね」


「ここは何処ですか?」

 勇志郎は戸惑いながらタキシードの男に尋ねる。


 男は微笑み

「ああ…ここは、私の屋敷だ。私は屋敷の主、アルフォード・ダグラスだ」


 勇志郎は体を起こし

「私はどうしてここに…?」


 男…ダグラスは優志郞を落ち着けようとベッドに押して戻して

「キミは遺跡で倒れていたんだよ。いや…驚いた。保護地区の遺跡のど真ん中で君が血を流して倒れていてね。急いで医者やヒーラーを手配した」

 

 勇志郎は思考を整理する。確か…追われていてジャングルの遺跡に迷い込み、その後に撃たれて…と

「あの…追っ手は…」


「追っ手?」

 ダグラスは首を傾げ不思議そうな顔で

「誰かに追われているのかね?」


「ええ…まあ…」

 勇志郎は躊躇い気味に呟く。

 

 ダグラスは右手で顎を擦りながら

「特に追っ手とかはいなかったが…。何、心配するな渡しはしないから、安心してくれ」


「…すいません。ありがとうございます」

 勇志郎は再び、体をベッドに寝かせて天井を見る。

 どうやら、追っ手からは逃げられたらしい。後はどう、帰国するか…だ。色々と帰るプランを思案すると、トントンとドアがノックされる。


「ダグラスさん」とドアの向こうから女の声が「食事を持って来たけど…」


「ああ…丁度よかった。入ってくれ」

 ドアが開き勇志郎の視線も自然とドアに向かう。

「入るわね」と入ってきた女に、勇志郎は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

 女の髪は銀の長髪、その長髪からは尖った耳の先端が突きだし、瞳は金色、何より服装が傾いている。銀でドレスを基調としたチャイナ服のような服装だった。

 

 ダグラスに女が近付く。

「ありがとうソフィア」

 女の名で礼を告げるダグラス。


 ソフィアは、勇志郎に金色の双眸を向け

「なに、まるで人を幽霊か何かと間違えているような視線は、失礼よ」


 勇志郎は、救いを求めるようにダグラスへ向くとそれをダグラスが察して

「君は、エルフを見た事がないのかね?」


「エルフ?」

 その言葉に勇志郎の頭は混乱する。その単語はRPGや本、ゲームでしか聞いた事がない単語だから。

「ここは何処ですか?」と勇志郎は恐る恐る聞く。


 ソフィアは肩を竦め

「ここは、ダグラスさんの屋敷よ」


「はい」とダグラスは微笑む。


 勇志郎は首を振り「いいえ。この土地の名前です」


 ソフィアが首を傾げながら

「ここはルートリア地方よ」


「国は?」


 ソフィアは訝しそうに

「バルストラン共和王国」


 優志郞は驚愕の目で

「南米のベネズエラではなく…」


「ナンベイ? ベネズエラ?」

 ソフィアはダグラスを見ると、ダグラスは困った顔をして

「私も知りませんが…」

 

 勇志郎は、自分の顔をつねってみるも痛みがある。

 夢じゃあない。生きている感触もある。

 つまり、来てしまった。自分がさっきまでいた南米ではなく、世界が違う異世界に

「ウソだろう…」



 その後、勇志郎は積極的に起き上がり屋敷を散策する。屋敷の周りを覆う森はジャングルではなく、針葉樹の松や杉といったヨーロッパ地方に多い木々である。

 まだ、体が治っていないので、屋敷からは出られないが、屋敷にある本を読む事は許可された。

 書籍庫の本を手にすると、愕然とする。そこには今まで見た事もない文字があった。

「すいません…」

 勇志郎は書斎にいるダグラスを訪ね。

「文字が読めないのですが…」


「ああ…そうですか…」とダグラスは暫し考えた次に「では、彼女に頼みましょう」

 ダグラスはソフィアの自室へ勇志郎は案内し

「ソフィア…」


「何ですかダグラスさん?」


「彼に文字を教えてあげてください」


「はぁ?」とソフィアは訝しい顔をする。


「彼、勇志郎くんはここの文字が分からないそうなので…」


「え、でも…言葉、喋れているし…私が教えなくても、ダグラスさんが…」


「まあまあ、これも貴女の将来には必要な事ですから」


 ソフィアは銀髪の頭を掻き

「ああ…もう分かりました」

 渋々と引き受けると、自室の席に勇志郎を座らせ

「じゅあ、何が分からないの?」

 ちょっと苛立った態度で勇志郎の右に立つ。


 勇志郎は本を開き、文字列を指さし

「これが何て読むのか…」


「ああ…これは鳥よ。鳥が空を飛ぶ時に…」

 ソフィアは文字列を言葉にして読む。


「じゃあ、これは一文字で何て…」

と、勇志郎はソフィアに尋ねて行くと、ソフィアがソレを音読みする。それが頭の中にスラスラと入ってくる。次の時には、文字を見ただけでそれがどんな読みか分かり、ソフィアも勇志郎の異常な学習の高さに驚き、


「これはこう読んで、アレはこう読むの」

 ソフィアが教える僅か一時間の間に、文法と文字の音を全て理解する。

 明くる日には、勇志郎は読み書き出来るまでになった。

「アンタ、何なの…」

 ソフィアは勇志郎の学習能力に驚嘆し、引いてしまう。

 

 文字が分かるようになった勇志郎は、書籍庫で一人、本を読み漁る。その数、日に十数冊、一週間の間、ベッドと書籍庫を往復して過ごす。

 そんな姿をソフィアは隠れて観察する。勇志郎の本を読み、何かを得ようとする姿に鬼気迫るモノを感じて言葉が掛けづらい。

 その間に、勇志郎の傷は癒えて行く。もし自分がいた世界なら、全治一ヶ月は掛かるであろう銃創がこの世界では、一週間で治療が完了しそうになる。それはヒーラーという回復の魔法を使っているからだ。

 ダグラスが、毎日ヒーラーを手配してくれる。

 始めは勇志郎は魔法という存在に驚いたが、書籍庫に篭もり、この世界の知識を吸収し、この世界には魔法という自分のいた世界にはない力がある事を学習した。

 ある程度の知識が勇志郎の頭の中に入る頃には、傷の治療の終わり、外に出られる位になる。

 窓辺で外を見ている勇志郎にダグラスが

「外に出てみたいですか?」

 

 勇志郎は「ええ…まあ」と頷く。


「そうですか…」


 ダグラスは勇志郎とソフィアを、魔導の大型車に乗せ屋敷から数キロ離れている町へ向かう。舗装されていない土の道を進む魔導車。

 魔導車のメータを凝視する勇志郎。自分のいた世界ではガソリンで走る車が、ここでは魔法の力が篭もった魔導石を動力として走っている。

 他にも外の風景を見れば、魔導石の結晶が突起している耕耘機や小型農機が畑に転がっている。


 外ばかり見ている勇志郎に、後部座席に座るソフィアが

「何がそんなに珍しいの?」


 勇志郎は視線を鋭くさせ

「色々だ」

 淡々と告げる。


「そう…」

 ソフィアはここ最近の勇志郎の変化に戸惑う。始めは何処か純朴そうな青年が、療養中に文字を一日で憶え、次々と膨大な量の知識を屋敷の書籍庫で獲得している間に、純朴さが抜け得体の知れない鋭い何かに変わった。何がそこまで彼を変化させたのか分からないが、見た目と大きく違う老成された雰囲気を纏う彼にどうして接すれば良いか悩んでいた。


 


 町に到着して車を駐車し降りた町の真ん中、そこにはヨーロッパ風の建物が並び、そこを行き交う人々や、多種族がいた。額から一本角が出ているオーガ族、頭頂部側面に獣耳を生やす獣人族、羊の角の頭頂部から生えている魔族、無論だが人族もいる。


「いや…今日は人が多いなぁ」

 紳士服のダグラスが微笑む。


 勇志郎は改めて自分が生まれて来た世界とは違う異世界に来た事を痛感する。


 呆然としている勇志郎に、ソフィアが

「ボーとしてどうしたの?」


 勇志郎はソフィアを横見して

「いや何でも無い」

 異世界に来た感傷をしまい込んだ。


 勇志郎のいるこの異世界の場所は、アーリシア大陸バルストラン共和王国のルートリア地方にあるバランという町だ。特にここは二つの隣国と接する山間の町で、そこから様々な種族が交流をしている。


 ダグラスが「こっちに行ってみましょうか」と先頭を取る。その後をソフィア、勇志郎と続き、ウインドショッピングを楽しむが、勇志郎だけは静かに町の風景を見つめていた。


 そんな勇志郎を気にしてソフィアが

「ちょっと、ボーとしていないでアンタも何か興味をもって楽しみなさいよ」

 

 勇志郎はフッと口だけが笑み

「十分、好奇心をもって楽しんでいるから心配するな」


「そうには見えないんだけど…」

 ソフィアは腰に手を当て胸を張る。


「ソフィア、良いじゃないですか。人それぞれに楽しみ方があるんですから、勇志郎を責めないで」

 ダグラスが呆れ笑み。


「だって」とソフィアは勇志郎の顔を覗き込み「こいつ、ポーカーフェイスで何を考えているか分からないんだもん」


 勇志郎は自分の顔を右手でなぞり

「そんなに表情に出ていないのか。内心ではかなり驚いているつもりだが…」

そう確かに色々と驚いているが…そうなれば成る程、冷静さが際立ち冷めているのだ。

 オレはこんな性格だったか? 自分でも変化した質に気付くも、まあいいか…受け入れてしまう。

 

 ソフィアは勇志郎の両頬を抓み

「その固い顔を何とか解しなさいよ!!!!!」

 

 フンと勇志郎は鼻で笑い

「解すと言われても、こうだから仕方ない」


「アンタ、アタシより年下なんだから、言う事を聞くのが道理でしょう」


「年下?」勇志郎の眉間が持ち上がる。

 なぜなら、ソフィアは明らかに勇志郎より若い、いや…十代半ばの少女の顔立ちなのだ。


「はいはい止めなさい」とダグラスは勇志郎の頬からソフィアの指を離す。


 ソフィアは胸を張り

「そうよ、私はこれでも三十代なんだから」


 ?????と勇志郎は混乱すると、ダグラスが

「エルフ族は長寿なんですよ。まあ…エルフでいうなら三十代はまだ、十代半ばの年頃ですけどね」


 フンと再び勇志郎は鼻で笑い

「なんだ、オレより年下じゃあないか」


「ム…」とソフィアの頬が膨れ「アンタは精々、二十四くらいでしょうが! 三十年も生きているアタシの方がアンタより知識や経験は豊富なのよ」


「二十七だ」と勇志郎は淡々と告げる。


「たかが、三つくらいズレただけでしょう」


「経験豊富ねぇ…」

 勇志郎は肩を竦めて、微笑する。それには嘲笑が混じっていた。


「ムキーーーー ムカつく」

 ソフィアは勇志郎に飛びつき頬を強く抓り引っ張る。


「小娘が」と勇志郎はソフィアを引き剥がそうとアイアンクローする。


「止めなさいって二人とも」

 ダグラスが二人の間に入り仲裁する。


「フン」とソフィアはソッポを向き、勇志郎は平静とポーカーフェイスである。


 ダグラスは、やれやれと頭を振ると露店の一つに目を向ける。

「二人とも、アレを試してみませんか?」

 ダグラスが指さす先には、三メータ程の長さがあるメモリが並んだ温度計のような装置だった。

 さーさ、みんな、これで魔力試しといきましょうやい、測定機の一番上にある鐘を鳴らした人には、豪華な景品があるよ。

と、オーガ族の人が呼び込みをしていた。


 ニヤリとソフィアは怪しく笑み

「ねぇ、アレで私の凄さを見せてあげる」

 意気揚々とソフィアは測定機の方へ歩む。

 その行動が子供っぽいと勇志郎は呆れる。


「行きましょう。付き合うのもレディに対する礼儀ですよ」

 ダグラスが肩を叩く。


 何処がレディなんだ?と思いつつ、勇志郎はダグラスと共にソフィアの後を追う。


 露店の測定機の前では、次々と測定機の検査球体の棒に触れる人々にソフィア達が混じり順番待ちをする。

 測定機のメモリの棒が上がるが、一番上の鐘には殆ど届かない。大体が真ん中くらいかその少し下でメモリが止まる。

「はい次ね」と受付のオーガの人が裁いていく。

 

 ソフィアの番になり、オーガの人にお金を渡して

「見てなさいよ」

 検査球体の棒にソフィアは手を置いた。メモリの棒が勢い良く昇り真ん中のラインを超えて、まだ昇る。周囲がどよめく、メモリの棒が鐘に届きそうになる。

「いけーーー」

 ソフィアが声を張る。後もう少しだった。メモリの棒が鐘を鳴らす寸前で止まった。

 

 あああ…と周囲から残念な声が漏れる。

 

 ソフィアは項垂れる。自分の魔力なら届くと思っていたからだ。


 ダグラスが手を叩き

「凄いですよソフィア、最高記録ですよ」


「ああ…」と残念そうにソフィアは二人の下に来て「行けると思ったのに…」


 勇志郎はソフィアを見つめ

「魔力が高いのか?」


「はぁ! 当たり前でしょう。アタシはウィザード級の魔導士なのよ。当然でしょう」


「ふ…ん」と頷く勇志郎にダグラスが


「勇志郎、貴方も試しては?」


「はぁ?」

 

 ソフィアがニヤリと笑み

「そうよ。やって来なさいよ。そしてアタシの凄さを実感するの」

 勇志郎の背をソフィアが押す。


「やれやれ」

 勇志郎は渋々、検査球体の前に立ち、お金を渡して

 まあ…こっちの人間じゃあないから、何も反応しないかも。

 そう思いつつ手を置いた瞬間、測定のメモリの棒が爆音を放ちロケットの如く飛び出し、メモリの最上部にある鐘を突き破って遙か空へ消えた。

「え…」と勇志郎は固まる。その場を見ていた観衆も何があったのか分からず無言で固まる。

 暫し、気まずい空気が辺りを支配したが、勇志郎が手を球体から離し

「装置、使いすぎて故障したみたいですね」


「ああ…そうみたいだね」とオーガの人も頷く。

 

 何だ、使いすぎて故障したのか…。びっくりした…。

 周囲からそんな声が漏れる。


「すいません」と勇志郎が謝るその後頭部をソフィアが叩き


「アンタ、どうしてそんなに運が悪いのよ」


「いや、オレの所為ではない。機械の故障だ」

 

 ソフィアもオーガの人の謝り

「すいません。コイツのバカの所為で」


「いや、良いですって。どうやら、装置を酷使し過ぎたみたいだから」


 勇志郎は困惑して困り顔で周囲を見ると、ダグラスの顔が僅かに悲哀に似た色を纏っていた。それは装置を壊して困った感じではなく、何処か遠くを見つめながらだ。


 ダグラスは懐から多くの金貨を出し

「すいません。連れの所為でご迷惑を。これで…」


 オーガの人に渡し

「いいえ、そんな…ありがとうございます」


「行きますよ」とダグラスは歩み出し、その背にソフィアと勇志郎も続く。


「ありがとうございますダグラスさん」

 ソフィアがダグラスの背に告げる。


「いいんですよ」とダグラスは微笑みを見せる。


「ほら、アンタも礼を言う」

と、ソフィアは勇志郎の手を抓る。


「ああ…すいません。ダグラスさん」


「構いませんよ。勇志郎」


 勇志郎はダグラスが僅かに見せた悲哀の感じに疑問を感じるも、無理に聞く事は良くないなと、その疑問を何時かの為に封印した。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
うわー。ベネズエラからとんでもないところに来ちゃいましたね。 早くもソフィアと仲良くなれそうですね(笑 楽しみです♪
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