第192話 彼女達の決意 その一
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
奈々とディオス達が、テーブルを囲んで話し合う。とんでもない事を告げる奈々、その説得に苦労するディオス。明日は…?
ディオスは自分がいる旅館の広めの一等客室へ奈々を入れた。
奈々は大人しく、広い八畳の居間のテーブルの前に正座する。
その対面には、ゼリティアが同じ浴衣で座っている。
ジーとゼリティアは奈々を凝視する。
そこへ、ディオスは泊まっている客室にあるお茶を持って来た。
それを奈々の前に、次にゼリティアとその隣に座る自分の場所に置いた。
「ありがとうございます」
と、奈々は頭を下げる。
ディオスはゼリティアの隣、奈々の対面に座り
「ええ…どうして、ここに来たんだい?」
目的を尋ねつつ、ディオスはお茶を飲んで緊張を解そうとする。
そこへ、奈々が
「ディオス・グレンテル様! 私は、アナタの妻に為りに来ました」
ぶーーーーーーー
ディオスはお茶を飲みながら吹いて、それが口にしていた湯飲みに反射して顔に掛かる。
「え?」
ディオスは狼狽する。
どうして、そうなる!
ディオスは、顔を拭こうとタオルを探すと
「ほら…夫殿」
ゼリティアが脇にあるタオルを手にしてディオスの吹いて濡れた顔を拭いてくれる。
甲斐甲斐しくしてくれるゼリティアをディオスは見る。
全く動じている様子がない。平静だ。
どうして、こんな爆弾発言をした子が目の前にいるのに平気なの?
自分の妻の凄まじい胆力を垣間見た。
ゼリティアは、何も焦っていない。
ディオスの力はよーーーーく知っている。
だから、クレティアとクリシュナ共に、常々、こういう事態について語っていた。
何時か、絶対に、夫の四人目の妻として名乗りを上げる者がいるだろう。
それが本当に夫を愛しての事なら…分からないでもない。
だが、夫の地位と名誉に途轍もない力を欲しての、欲深い事なら…許さない。
ゼリティアは淡々と
「お主の名は? どのような者だ?」
奈々は一礼して
「和豪 奈々です。曙光国の婦女特別スキル部隊に勤めています」
「んん…」
ゼリティアは唸る。
曙光国がディオスを引き込む為の色香か?
あくまでもゼリティアは冷静である。
だが、ディオスは…。
あれ? 和豪? 一清と同じ名字だよなぁ…。
そう言えば…どことなく…髪の色や…目付きが…一清と…。
ディオスは尋ねる。
「和豪って名字…。もしかして、和豪財閥の関係者…?」
奈々は肯き
「和豪財閥の社長が父です」
ピンポーン。正解! 一清の娘だった。
「ごめんちょっと…」
と、ディオスは席を外して隣の魔導通信機がある部屋へ行く。
速効で、この世界王族会議の事でまだ、伊勢に残っているだろう一清に連絡する。
「あ…もしもし、一清、君に娘が、どうしてか分からないけど…、オレの所にきて、オレの嫁になるなんて、訳の分からない事を言っているが…」
……………
『すまん。直ぐに行く!』
と、一清の焦る声が聞こえた。
ディオスは魔導通信機を切ると、隣の部屋から大声が聞こえる。
「お願いです! 何でもします! ですから、わたくしもディオス様の妻に!」
奈々の声
「どうしてじゃ? 何故にそのように焦っておる」
ゼリティアの声
ディオスは居間に戻る。
「なんだ? 大声を上げて…」
ゼリティアが
「何故に夫殿の妻になりたいのか…その理由を聞いておる」
奈々が
「わたくしは、ディオス様を愛している故にです!」
ディオスは、必死すぎる奈々の態度が、何かを隠しているように見える。
対面に座るディオスが
「それは本当なのか?」
「はい!」と奈々は頷く。
ディオスは首を傾げ
「では、トゥルーベルを使って証明出来るかい」
奈々が、え…という顔をして黙る。
ディオスは腕を組み
「自分は、数年前に色香術にて迷惑を被った事がある。だから、そういう女性の真意が本当か、確かめたくなる。失礼とは思っている。だが、君の意思が本当なら、そういう確かめをしても問題はないだろう」
奈々はゼリティアを見る。
ゼリティアは首を傾げ
「妾達は、そうなっても何の問題もない。本気で夫を愛している。それで夫への愛を証明出来るなら、喜んでやるぞ」
奈々は俯く。
「う…う…」
口にしない。どうやら本心は別にあるようだ。そこに奈々の懐にある小型魔導通信機がコールする。
奈々はそれを無視していると、ディオスが
「出ても構わんぞ」
「失礼します」
と奈々は、小型魔導通信機の魔導端末のプレートを手にする。
コールを押して出て、プレートの上に、相手の小型立体映像が出た。洋子だ。
『あなた、どこにいるのよ! 一緒に温泉に入った後、突然、消えちゃって…綾妃も心配しているわよ』
「すまない。すこし取り込んだ事があって」
『はぁ? 謹慎の休暇中に何をやっているのよ』
ディオスは小型立体映像の洋子を見て
あれ? どこかで見た事が…
何か見た事がある気がする。
そして、奈々を見る。
そして、洋子の通信に綾妃が入って
『なにやってんだよ。奈々!』
それでディオスの記憶が繋がった。
「あ! あの時、人質になった!」
そうシェルブリットに捕まって人質にされた女性だった。
ディオスの声に洋子が
『誰か傍にいるの?』
「いや…これは」
と、奈々が戸惑っていると、ディオスが奈々の隣に来て端末のカメラに自分を撮す。
『アナタは…』
と、洋子が戸惑っていると、ディオスが
「ディオス・グレンテルという者だ」
『え? えええ…。ディオス…はぁぁぁぁぁぁ』
驚く洋子がいた。
数分後、居間のテーブルには、奈々の両脇には洋子と綾妃が座る。
ディオスが二人を呼んだ。
ディオスは三人を前に、隣にゼリティアを…と、湯飲みのお茶を飲みながら
「オレの記憶が正しいなら、三日前の伊勢の戦いの時に、三人は、オレとエニグマのヤツの戦いに割り込んだよなぁ…」
奈々は俯き、洋子が
「申し訳ありません。連れがこんな事を…」
頭を下げる。
ディオスは平静な視線で
「理由を聞かせて貰えるとありがたいが…」
洋子から、自分達三人が、弟や妹、兄をエニグマのスキル能力者狩りで亡くした事を聞いた。
「はぁ…」とディオスは頭を掻く。
成る程…理由は、分かった。エニグマに対する仇討ちか…。
それで、オレの所にどんな事をしても行きたいと…。
何とも覚悟完了している奈々に呆れのような驚きが混じった気持ちが過ぎる。
ゼリティアも本当の所を聞いて渋い顔をする。
力を欲する為に、夫の、ディオスの嫁になりたい等…ふざけている。
そう思っていた。
そこに客室のドアがノックされ
「オレだ。一清だ」
奈々の父親登場である。
ディオスは、一清がいるドアに行き、一清を入れると、奈々を見た一清が
「奈々…何をやっているんだ…」
その口調は鋭く重い。
奈々は黙って動かない。
一清は娘の腕を取り
「こんなバカな事をして! 帰るぞ! 部隊に問い合わせしたら、謹慎中だと聞いた。少しは頭を冷やせ」
奈々は、父親の腕を振りほどきディオスに
「ディオス様。貴方様がわたくしに…その素晴らしいお力を伝授して頂けるなら…。この自分、不肖ながら。褥を共にする覚悟があります」
ガクッとディオスは項垂れる。
アホか!
そう思っていると父親の一清が、奈々の頬を叩いた。
「何をバカな事を言っているんだ!」
めちゃくちゃな修羅場がそこにあった。
洋子と綾妃は、戦き狼狽して、父親の一清は怒り心頭、ゼリティアは呆れ笑み。
ディオスは、アホか…と頭を抱える。
奈々はディオスの右に来て座り、ディオスの右手を取って
「お願いします! 自分に…。どんな事でもします」
奈々の目は真剣そのモノだった。
一清が奈々の所に来て、奈々をディオスから離し
「このバカ娘が!」
奈々の頬を何度も叩いた。
ディオスは立ち上がり、一清の肩に手を置いて
「待った。娘の顔を傷つけるなんて、やるもんじゃない」
叩かれて青と黒の髪が乱れる奈々にディオスが近付き
ああ…全く。オレが折れるしかないじゃないか…。
「ええ…奈々…くん」
と、ディオスが奈々の肩に手を置き
「一応、テストをする。それで合格なら…自分がいる…対エニグマ機関に入る事になるだろう。そうなれば、君に色んな、自分の術式を授ける事が出来る」
奈々は瞳を広げ
「本当ですか!」
「ああ…約束する」
と、ディオスは頷いた。
それに、洋子が
「あの…私も…そのテストに加えて…貰っても…」
綾妃が
「アタシも…受けてみたい」
ディオスが頭を掻き
「いいだろう」
洋子と綾妃が奈々の傍に来て
「やったわね! 奈々」
「やったぜ!」
喜ぶ洋子と綾妃に、満足げな笑みをする奈々。
一清がディオスに
「すまん。本当にすまん…」
ディオスは一清を横見して
「テストだから、それの合否で、成れるか成れないか…決める。落ちる可能性もある。だが、こうでもしないと、あの子は納得しないだろう」
ゼリティアが来て
「夫殿、本当に良いのか?」
ディオスは肩を竦め
「まずは、テストだ…。そういう事だ」
ディオスは、奈々と洋子に綾妃のテストを行う。
それは…苛烈な試験でもあった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。