第190話 シェルブリットの遺言
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両腕を失ったシェルブリットは、輸送戦艦モードのダイダロスで治療を受けていた。
魔法陣を四方に囲み浮かぶ回復液の水球の中でシェルブリットは、包まれて浮かぶ。
このアースガイアの魔法と、自分達の技術が合わさって出来たマッドハッターが開発した再生治療装置にいると、シェルブリットの失った両腕の再生が始まった。
最初に腕の人体ネットワークが構築され、それに神経節が再構築、次に血管と骨、筋肉、リンパ、と細胞が加わり、最後に…身体を強化して、様々な能力を付加する、自分達の技術の結晶である…メタトロン(極小機械群)が浸透構築される。
その傍には赤髪の十歳の女の子がいた。
装置の調節を行っている。
装置に繋がる魔導端末が浮かぶ場所で少女、澪は魔力を通じてコントロールしていると、そこに仮面を装備したアズナブルが来る。
「やあ…散々だったね」
回復液に浮かぶシェルブリットが、アズナブルを凝視して
「何だ?」
アズナブルは首を傾げ
「今回の損失は、君が持っている物量に比べれば大した事ではない…本来、君の目的はこの世界の裏で暗躍して、ゴルドとマッドハッターの援助をしつつ、二人の行動が結実したら、君の持っている圧倒的物量で、世界を蹂躙する…予定だったので?」
シェルブリットは鋭い顔をして
「流れが変わった。ゴルドもマッドハッターも捕まり、将来の最悪な一手に成りかねない。このまま、事態が変わるのを待っても、この世界は絶対に変わらない。何故か分かるか?」
アズナブルは口元の笑みで
「その考え、是非ご教授して欲しい」
シェルブリットは
「お前は、この世界で十数年程度しか過ごしていないから分からないだろうが…。
この世界はなぁ…オレ達の世界の様に劣化しないんだよ。
オレ等の世界は、時間が経つにつれ…組織も人も腐っていく。
だから、革命やら変革やら、バカな事をする。
だが、この世界は違う。組織も人も腐らずに、その考えを保持、継承して高める」
アズナブルは苦笑して
「耳がいたい」
シェルブリットは淡々と
「オレ等の世界は、一万年前から何も進歩していない。オレ等、人類文明はナノマシンの完成をもって、全く進歩しなくなった。
当然だろう、この世の中の人間が抱える問題は、全てナノマシン技術のお陰で解決するようになった。病気、住居、食料、技術その他の全てが人間の欲に答えられるようになって、一切の文明の進歩は終わった」
アズナブルは腕を組み
「つまり…我々、ホモサピエンスは…進化が止まった種という事かね…」
シェルブリットは鋭い顔で
「オレ達だけじゃあねぇ。他惑星出身の知性種もだ。
だが、進歩した瞬間があった。千年前にアインデウスが、この世界の独立自治を約束させて、提供した高次元波動収束炉が、オレ等の世界に新たな進歩をもたらした。だが…それも一時よ」
アズナブルは真剣な顔で
「それの帰結は?」
シェルブリットは渋い顔で
「正直、本国の連中も誰も、この世界を取り戻したいなんて思ってもいないんだよ」
アズナブルは口元に皮肉を浮かべる。
「はは…確かに…そうだろう…とは思っていた。要するに、この世界で生まれるパテントが欲しいだけ。それだけなのだろうなぁ…と」
シェルブリットは冷たい視線で
「要するに、政治家のパフォーマンスで、この世界を取り戻すなんて言っているだけで、誰もそんな事なんて望んでいないんだよ」
アズナブルは額を掻いて
「だから、ゴルドやマッドハッター、君のような…自滅願望が強い連中が、派遣された…と、死にたがりが来る。要するに屍を晒しにこの世界に来た…。そういう事だろう」
シェルブリットは睨むような視線で
「オレ等は男だ。男は死に場所を決めてこそ輝く。生命の原理として、女が上で男は下だ。だからこそ、生命の原理より下の人の原理でこそ男は、死に場所を求める。それだ男の本懐だ」
「やれやれ」とアズナブルは首を振り「つき合ってられない。私は私、独自の動きをする。君とはここでお別れだ。楽しかったよカズマくん…」
シェルブリットは本当の名前を言われて苛立った顔をして
「うるせぇ…」
アズナブルは背を向け
「では…ご健勝をお祈りいたします、よ」
シェルブリットが最後に
「五十年もこの世界で過ごしたオレの遺言だ。
この世界は、オレ等の世界とは違う。なぜだか分かるか?
そう、この世界にはアインデウスがいる。
文字通りアインデウス(始祖神)がいるからだ。
お前も何れ分かる。
この世界の強大な力を、劣化しないこの世界の恐ろしさを…
オレ等、サルから離れられなかったホモサピエンスより進化した。
この世界に生きるネオインテリジェントスピーシーズ達をな…」
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