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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
トルキア共和国
19/1105

第18話 トルキア共和国 シャリカランのグランド・マスター

次話を読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりと楽しんでいってください。

あらすじです。


クリシュナのいた闇の組織のトップとディオスは、対面する。そのトップが告げた事にディオスは驚愕し…

トルキア共和国 シャリカランのグランド・マスター


 飛空艇はトルキア共和国の首都の側にある空港へ着陸する。

「こっちでありまーす」とカルラがガイドの旗振りのように先頭を行ってディオス達を案内する。


 ディオスとクレティア、クリシュナにそのクリシュナの腕に抱き付いているラーナ。

 

 トルキアまでの二日の道のり、ラーナは眠りから覚めては、クリシュナに抱き付き離れず。

 眠りの魔法で眠らされていた。

 因みに眠りの魔法は効果が切れて十二時間ぐらいは効かなくなるので、その起きている十二時間の間、ずっとラーナはクリシュナに付きっ切りだった。ご苦労様である。

 

 カルラは魔導車を手配して、ディオス達をとある場所へ連れてくる。

 そこは、元宮殿の跡地で観光の名所となっていた。

 その宮殿跡地の迷路をカルラは案内して、関係者以外しか入れない道に通すと、門のような壁に来た。

 その壁をカルラは何かの順序があるのか、様々な箇所をタッチすると、門のような壁が開いて地下へ通じるエレベータが出現する。

「こちらです」

 カルラがそこへディオス達を入れて、エレベータで下りる。ある程度、下りた所でエレベータが止まり、開くとそこには、明るいドームと沢山の机に作業している獣人や人族にオーガ族の者達がいた。


 ディオスは、全体を一望しながら

「一つ聞きたい。魔族はいないのか?」


 カルラは「はい」と肯き

「このトルキアを含めてユグラシア大陸中央は、主に獣人族が多く、次にオーガ族、人族となっています。魔族の方は本当に少ないのです」


「そうか…」


「まあ、レスラム教の教主が獣人族なので、獣人族には敬虔なレスラム教徒が多いですよ」


「ほう…」と唸るディオス。


「さあ、こちらです」

 カルラは奥へ案内する。



 如何ほどか通路を進むと、大きな扉とその脇を守る獣人の兵士達が見え、カルラがお辞儀して

「ディオス様とそのご一行をお連れしました」

 兵士達が顔を合わせ「入れ」と扉を押した。

 開いた扉の先は、大きなドームで壁一面に様々な絵が描かれている。


 扉から先に繋がる道、カーペットの先には絨毯が敷き詰めた場所があり、そこに座布団を引いて十数名の厳しい顔をした壮年の獣人とオーガ、人の一団が見える。

 その一団の中心、ロールにした大きな座布団に腰を凭れさせ、右肘を置いて頬杖する壮年の髭を蓄えた男性がいる。

 その服装は明らかに周囲のローブに身を包む他の者とは違う。

 白くゆったりとしていて装飾が施されたアラビア風の衣装が明らかにその場の長であるという雰囲気が出ている。

 その傍らに、白い長髪の目を閉じた獣人の女性がいる。その女性も白を基調としたアラビア風の衣装である。

 

 あれがグランド・マスターか…とディオスは思った次に、直感で同じだと感じる。そうグランド・マスターにも自分と同じ渦を感じるのだ。


 カルラがグランド・マスターの近くまで来て跪き

「グランド・マスター ディオス様をクリシュナ様と共にお連れしました」


「うむ…」とグランド・マスターは頷いた。


 その次に、クリシュナはラーナを連れたままカルラの隣に跪き、ラーナも離れてその隣で跪く。

 クリシュナは頭を下げ

「ただいま、帰還しました。グランド・マスター」


 グランド・マスターは肯き

「よくぞ、無事に戻った。疲れを十分癒やすが良い」


 クリシュナは傅いたまま

「一つ、お聞きしたい事がありますグランド・マスター」


「なんだ?」


「私はディオスの妻であります。もし、グランド・マスターが夫を使い捨てるような事に呼び寄せたのなら…。残念ですが…私は貴方様と組織の袂を別つ事になります」

と、クリシュナが鋭い視線を向ける。


 グランド・マスターの周囲にいる一団からザワザワと声が漏れる。

 今、何と…袂を別つと。あの最上位の暗殺者が…あの男の為に組織を裏切ると。

 そんなふざけた事が許されると思っているのか。


「黙れ!」とグランド・マスターが一団に放ち

「クリシュナ。ワシはそのようなつもりは一切無い。お前の言いたい事はよく分かった。肝に銘じておこう」


「は」とクリシュナは歯切れ良く答えた。


 グランド・マスターは、ディオスを見つめる。ディオスと視線が交差した次に

「皆の者、ディオス殿と話がしたい。下がってくれ」


 部下の一人が「しかし…グランド・マスター」と「下がれ」とグランドマスターは一喝した。


 ゾロゾロと出て行く一団、クリシュナも出て行くが、クレティアだけはディオスから離れない。

 

 グランド・マスターはクレティアを見て

「すまないが…下がってくれ」


「ああ…アタシは傍観しているだけだから、構わないで」

と、クレティアは笑む。どうやら、ディオスの護衛の為に残る気満々だ。


 ディオスがクレティアを抱き

「クレティア。ここは…」


「でも…」と渋るクレティアの左手にディオスは呪印を描く。


「これで、オレとグランド・マスターとの会話は聞こえる。もし、何かあった場合は…」


 クレティアはディオスに頬寄せ

「分かった。ダーリンも気をつけてね」

 クレティアはそこから去って行く。



 ドームの中にはディオスと、グランド・マスターにその側に座る白髪の獣人の女性だけの三人だ。

「その女性の方は…」とディオスは指摘すると


 グランド・マスターが

「気にするな…。まあ、この地方独特の風習で、重要な対面の話の際には正妻を側に置くという謂われのようなモノだ」


 ディオスは鼻息を荒げ

「そうですか…」

 恐らく、それはウソに思える。

 多分、こっちの何かを探る能力を持った女だ。


 そう警戒していると、グランド・マスターが「こっちに来い」と呼び寄せる。


 ディオスはグランド・マスターの一メータ目の前に座り

「どうも、お初にお目に掛かります。ディオス・グレンテルです」


「ワシはシャリカランの長、グランド・マスターのアルヴァルドだ」

 アルヴァルドの隣にいる白髪獣人の女性がお辞儀して

「アルヴァルドの正室、マハルヴァです」


 ディオスは、お辞儀して

「では、アルヴァルド様。今回はどのようなご用件で自分をお呼びしたのですか?」


「その前に、クリシュナとは、どういう関係だ…」


「はぁ…妻ですが…」


「形式的なモノではなくか…」


 ディオスは訝しい顔をする。何を言っているんだ? オレに用件があって、この対面にしたのではないのか?


「おい、キサマ…どうなんだ?」とアルヴァルドはディオスを睨む。


 ディオスは戸惑いながらも

「正真正銘の妻です」


「なのに…もう一人、妻がおるな…。さっきの残ろうとした金髪がそうであろう」


「はあ…彼女も自分の妻です」


「ほう…では、クリシュナはどちらだ? 正か側か?」


「はぁ…そんな区分など、ありません。どちらも大切な妻です」


「では、どのくらい愛しておるのだ?」


「それは…もう、命がけです」


「本当か?」


「は、はい」

 ディオスは疑問符が浮かび上がる。

 なんだ? 用件があるから来たのに、関係ないような事を聞かれているぞ。


「はぁ…」とアルヴァルドの隣にいるマハルヴァが溜息を漏らし

「旦那様、いい加減にしてください。これでは用件がちっとも進みません。娘のクリシュナの事は大丈夫です。ディオス様は本当にクリシュナを大事にしておりますから…」


 アルヴァルドはマハルヴァを見て

「もっとしっかりコイツの心を覗かんか! 絶対に怪しい所がある筈だ」


「もう…しっかりと覗いてそうだったのですよ」とマハルヴァは怒る。


 ディオスは、マハルヴァの力が心を覗く精神系かと思いつつも、マハルヴァが口にした(娘のクリシュナ)という単語が頭に残る。

 娘? 誰の? え…もしかして…。

 ディオスは額から脂汗が吹き出し、青ざめ

「ああ…もしかして…お、お義父様で…ありますか」


 アルヴァルドはもの凄い形相でディオスを睨み

「キサマに父呼ばわりされたくない」


 マハルヴァは苦笑いで

「ええ…そうです。クリシュナは旦那様の側室の子です」


 あ…とディオスは土下座して

「も、申し訳ありません」


「土下座するような事をしたのか!」とアルヴァルドはツッコム。


「あら…」とマハルヴァは口に手を当てて微笑み「そう…そんな事をしてクリシュナを口説いたの…。あらあら」


 アルヴァルドは、マハルヴァの肩を掴み

「どういう事だ、マハルヴァ。何をコイツから見た! 教えろ」


 マハルヴァは楽しそうに

「あらあら、どうしましょう…。でも、まあ、クリシュナは幸せそうだから言わないで置いた方がいいかも」


 アルヴァルドは土下座するディオスを睨みながらも

「面を上げろ。色々と問い詰めたい事があるが…まあ、今は置いてやろう」


「ありがとうございます」とディオスは顔を上げる。


「まずは、クリシュナの事だ。バルストランでの任務を与え、突如失踪、調べて分かった時には、お主の配下となり妻となっていた。間違いないな」


「は…はい、その通りです」

「バルストランの任務、王候補であったソフィア・グレンテール・バルストランの暗殺は、所謂、外交だった。ロマリア帝国は分かるな…」


「はい、ユグラシア大陸の広大な北部を支配する帝国です」


「そうだ。そのロマリア帝国は、この中央部の覇権を狙っていた。故に対抗策としてアリストス共和帝国との極秘の協定を結ぶ見返りに、現バルストラン王、ソフィアの暗殺を請け負った」


 ディオスは眉間を寄せる。クリシュナの暗殺を防ぎ、その後に街を空爆しようとしたのがアリストス共和帝国の戦艦飛空艇だったのか…。

 まあ、レオルトス王国で痛い目を見せたから、良いとしよう。


「だが…それは大きな間違いだった」とアルヴァルドは苦い顔をする


「間違いとは…」とディオスが問うと、

 

 マハルヴァが

「アリストス共和帝国の狙いは、アーリシアの混乱でした」


「アーリシアの混乱?」


「はい。アリストス共和帝国の狙いはこうでした。王が定まらない不安定なバルストランを王の候補者を殺す事で更に不安定にさせ、国が混乱している間に制圧。そして…そこを足がかりにアーリシアの覇権を…」


 アルヴァルドは静かにディオスを見つめ

「お主は、クリシュナと戦ったのであろう。

 それによって暗殺が防がれ、結果、バルストランは王を得て安定した。

 いや…その前に、お主がクリシュナの暗殺を止め、失敗した場合の保険としてアリストス共和帝国が寄越した空爆戦艦飛空挺艦隊を追い払った事によって、アリストス共和帝国は、バルストランから…アーリシアから手を引いた。

 つまり、お主はアーリシアの平和を守った事になる」

 

 ディオスは驚きの目線である。そんな、大きな流れになっていたなんて思いもしなかった。驚き、口を抑える。だが…

「待ってください。ソフィアの暗殺を狙った者はもう一つ別にもいます。教会の秘匿組織で…」


 アルヴァルドは鋭い視線で

「それは、恐らく…ロマリアの方だろう。ロマリアは密かに教会を浸食していた。

 その時の教会は、とある若き教皇の誕生が間近に迫っていた。

 ロマリアの息の掛かったな。ロマリアもアーリシアを狙っていた。

 故に…バルストランの混乱の為に王間近となったソフィアを狙った。そういう筋書きだ」


 マハルヴァが平静に

「バルストランでソフィア殿が王になった後…。教会で大きな動きがありました。若き教皇となる人物が突然に亡くなり、多くの教会関係者が教皇府から辞職して地方へ行きました。恐らく、内部でロマリマの影響を廃絶する為に…」


 ディオスはゾッとして

「じゃあ…全部、オレが防いでなかったら…」


 アルヴァルドはフッと皮肉に笑み

「アリストス共和帝国か、ロマリア帝国に、バルストランは呑み込まれ、アーリシアは崩壊していたかもしれんな…」


 ディオスは黙ってしまう。裏側にそんな複雑で大きな事情が隠れていたなんて、想像も出来なかった。

 ソフィアの暗殺は、精々、それが気に入らない者の犯行だと、思っていた。故に、ソフィアが王となったらそれも静かになるだろうと、考えていた。甘かった。

 巨大な陰謀が埋もれていたなんてツユとも思ってもいなかったのだ。

 

 アルヴァルドは黙るディオスを見つめ

「お前はバルストランの事と、アフーリア大陸のレオルトスの事も、解決させた。

 その手腕を見込んでだ。頼みがある。部下から聞いているだろうが…トルキアの隣国ラハマッドの事だ。

 ラハマッドで二つに割れている。政府軍とクーデター軍の内乱を、我らが推す政府軍の勝利で終えて欲しい」

 

 ディオスはアルヴァルドを見つめ

「理由は…?」


「元来、古くからある政府軍の方は共和制で、レスラム教とも緩やかに深く付き合っている。治世事態も、まあ…普通だったが…。ロマリアが暗躍して軍の一部を操りクーデターを起こした。つまり」


「つまり、ロマリアの排斥の為に政府側を勝利させよと…」

 ディオスが告げると、アルヴァルとは肯き

「その通りだ。クーデター側が勝つと…ラハマッドはロマリアの属国となってしまう。そうなれば、お主の国、バルストランにもアーリシア大陸にも多大な悪い影響をもたらす」


 アルヴァルドは顔を、ディオスに近づけ

「どうだ? やってくれるか? 報酬が欲しいなら望むモノを用意させる」


 ディオスは暫し黙った後

「分かりました。お受け致します」


「そうか…」


「その、報酬を望めるのでしたら…」


「なんだ?」


「クリシュナとの事を…認めて頂きたいと…」


 ピキっとアルヴァルドの眉間が強く寄った。怒りだ。


「う…」とディオスは身を引かせる。


「まあ…考えておいてやろう」とアルヴァルドは言葉を濁した。


「はは…」とディオスは頭を下げた次に「あの…一つお聞きしたいのですが…」


「何だ?」


「アルヴァルド様は、自分と同じ無限に魔力を供給する渦をお持ちの筈、自分に頼まなくても、その力を使えばアルヴァルド様のお力で解決できるのでは…」


 ふ…とアルヴァルドは溜息をつき

「気付いていたのか…」


「ええ…まあ」


「ワシはお主と違って気象を操る程の超魔法技法をもっておらん。ワシの魔力の使い方は身体能力を無限に高めるにしか使えん。確かにお前の言う通り、ワシが解決の乗り出すとしよう。だが、ワシの体は一つだけ、一個の軍を滅ぼしても、全体に広がる軍団には無力、広い布の一点を針一本で刺すのと同じだ。それにワシは、ここの長だ。長が勝手に動いては下の者が困る。責任者は、責任の取れる場所にいなければならない…という事だ。歯痒いがな…」


「ああ…」とディオスは納得する。多面的に力を使えるか、一点に力を使えるかの違いだ。兵器でいうなら、アルヴァルドは戦術兵器で、さしずめ自分は戦略兵器という事だ。

 ディオスは再び頭を下げ

「不躾な質問、失礼しました。では…どのように動きましょうか…」


 アルヴァルドは手を組み腹の上に置いて

「政府軍に対する案内や繋ぎは、ワシの部下に任せる。それに同行してくれ」


「分かりました」


「出立の期限は三日後だ。それまでこの街でゆるりと滞在するがよい」


 アルヴァルドはパンパンと手を叩くと、扉が開き部下達が顔を向ける。

「話し合いは終わった。皆、何時も通りにするがよい」


 部下達は一斉にドームの中へ戻る。その集団からクリシュナとクレティアが飛び出し直ぐにディオスの隣に座って

「大丈夫だった? ダーリン」

「アナタ、大丈夫?」

と、聞いて来る。ディオスは肯き


「大丈夫だ。話は聞いていたろう」


「まあ…」とクレティアは肩を竦め、クリシュナはアルヴァルドを見た。


 アルヴァルドは、直ぐにディオスへ駆け付けたクリシュナを哀愁深く見つめている。


 マハルヴァが両手を合わせ

「クリシュナ…。三人が、こっちにいる間は私の屋敷に滞在しなさいな」


「マハルヴァ様」とクリシュナは困惑する。


「積もる話もありますし、ね。クリシュナ」とマハルヴァは勧めてくる。


「アナタ…」とクリシュナはディオスを見る。


 ディオスは肯き「いいだろう」と了承する。


「マハルヴァ様、お願いします」とクリシュナた頼んだ。


「はいはい」とマハルヴァは嬉しそうにした。




 ディオス達三人は、マハルヴァの屋敷に来た。そこは白磁器の覆われた宮殿のような場所で、花々が咲き乱れる庭と水の流れがあり、乾燥気候のトルキアとは思えない程の様相を広げている。ディオスは手入れされた庭園を見つめ、その両脇には右にクレティア、左にクリシュナがいた。


「クリシュナ…」とディオスが「ここに来た事はあるか?」


 クリシュナは腕を組み「多少はね…」


 クレティアがクリシュナへ

「小さい頃、何処に住んでいたの?」


 クリシュナは懐かしそうな顔で

「この街の繁華街よ」


 ディオスは躊躇い気味に

「その…答えたくないなら、答えなくていい。母親は…どういう人だったんだ」


「そうね…」とクリシュナは溜息をした次に

「母親も同じ組織の暗殺者だった。組織の依頼がない場合は、繁華街にある自宅兼店で、特殊な魔法治療と整骨の商売をしていたわ。色々と武術の事に詳しいからね。その繋がりでそういう事を憶えて商売にしていたみたい」


「では、クリシュナの戦い方も…」とディオスは静かに問う。


「ええ…母親から習ったわ。それにこの血に流れる神格召喚のスキルも母親から受け継いだわ」


「どんな人だったんだ?」


「武人だから、厳しかったけど…優しくもあったわ。私を育てるのに必死だったかも、将来…組織に入るのは目に見えていたから」


「母親は…どこにいるんだ?」


「もう…この世にはいないわ」


 そこへマハルヴァが来て「私達の中でも一番強かった。クリシュナの母親シャルマは長生きすると思っていたけど…ね」


 ディオスは、マハルヴァを見て

「その…亡くなった原因は?」


 マハルヴァは複雑そうな顔で

 「七年前にロマリアとの小競り合いがあったの。そこへグランド・マスターの旦那様が出陣してそれに同行して、形勢はとても悪化して、何とかロマリアを退けたけど、シャルマは…最後は、旦那様の腕の中で息を引き取ったらしいわ」


 ディオスは眉間を寄せて苦しそうな顔で

「そうか…その…」


 クリシュナはディオスの手を取って

「いいのよ。話してもそんなに気にしていないから」


 仲よさげなディオスとクリシュナの姿にマハルヴァは微笑み

「でも、本当に良かった。旦那様は、シャルマの事があったからクリシュナを非常に気にされていたのよ。このまま組織に居させて良いものかって」

 マハルヴァは、重なるディオスとクリシュナの手を取って

「そんな事を旦那様が思っている時に、アナタに出会えて良かったわ。ちょっと顔は強面だけど、いい人だしね」


 んん…とディオスは唸り

「しかし、その…あまり、自分とクリシュナの事について歓迎されていないような…」


「男親なんてあんなものよ。娘はかわいいもんなの。組織を離れる切っ掛けになって安心はしているけど。娘を取られて悔しいと思っているだけだから」


「は、はぁ…」とディオスは顔を引き攣らせる。


「マハルヴァ様…」とクリシュナが「少し、出掛けておきたい場所があるので、よろしいでしょうか…」


「あら…何処へ?」


「夫とクレティアと共に、行きつけの武具屋へ参りたいのですが…」


「ああ…そう、じゅあ…帰って来る間にクリシュナが帰ってきたとの夫婦になった記念の宴の準備をしなくてはね」

と、マハルヴァは嬉しそうだった。




 ディオスはクレティアと共にクリシュナに導かれ、街を進む。乾燥気候なのか、頭にターバンと全身を覆うローブやゆったりしている中東風の服で日差しから身を守っている人達が多い。

 まあ…ターバンからは獣人族独特の獣耳が出ているが…。

 よーく見てみると、男性は顔を出しているのが多い。

 女性は上から下までローブで覆って顔が見えない程だ。

 この地方独特の男女別の服装だ。それ故に、クレティアやクリシュナも全身をローブで覆い隠している。


「アツい」とクレティアがぼやく。


「これを付けて」とクリシュナが小さな魔導石が付いたブレスレットを渡す。


「何コレ…」とクレティアは填めると、どことなく涼しい空気に包まれた。

「わぁ…いい、これ! 涼しい」

 喜ぶクレティア。


「これは風の魔導石を改良した風のシールドなの。アツくても涼しい風に包まれるから平気よ」


 ディオスは自分を指さし「オレは?」


「ごめんなさい。これ、女性用なの。男性は涼しい格好が出来るから、無しがここでの風習なの…」


「あ…そう…」



 クリシュナは二人を連れて街中を進む。

「行きつけの武具屋と言っていたが…。何を頼んだ?」

 ディオスが尋ねると


 クリシュナが

「前に、エンチャン系の魔導石の生成をお願いしたでしょう」


「ああ…確か…強力なシールドのような効果がある魔導石だったな」


 そう…数日前にケットウィンがディオスに寄越した資料にあった。エンチャン系の魔導石を生成する方法から、空間を曲げて形成するシールドの魔法がエンチャンされた魔導石をクリシュナの依頼で作ったのだ。何に使うかは、クリシュナから聞いていない。

 完成したらのお楽しみだった。


「それを上手く使って防護の巨壁を作れる装備をお願いしたのよ」

 クリシュナが話し立ち止まる。

「ここよ」とクリシュナが見上げた店は、看板も無く殺風景な店構えだった。

 その店にクリシュナが入る。

「お邪魔するわ…」


 店番をしている娘が「いらっしゃいませ…」と告げる。


 クリシュナは顔を布から出して

「こんにちは、おじいさんはいるかしら…」


 店番の娘は明るい顔をして

「クリシュナさん。暫くぶりです。おじいちゃんなら、店の奥で武器を作っていますよ」


「そう…じゃあ、お邪魔するわね」


「はい、どうぞ…」

 クリシュナは店の奥に行く。ディオスとクレティアはその場で立ち止まる。


 店番の娘がディオスを見つめる。

「何だ? 何か顔にでもついていますか?」

と、ディオスは尋ねると店番の娘が

「アナタが、クリシュナさんの旦那さんですか?」


「ああ…そうだが…」


「お手紙通りです。ちょっと表情が硬い強面ですが…。悪い人ではないようですね」


「んん…そうか」とディオスは微妙な感じであるが

「ここは、クリシュナの武具を作っている所なのか?」


「はい、武器の製造や整備といった。そういう事を専門に請け負っている武具屋です。クリシュナさんとは、母親の代から使って頂いているお得意様で、最近は旦那さんのいるそちらへ送っていますね」


「ああ…成る程…」

と、ディオスは納得する。クリシュナがどうやって武器調達をしているのか初めて知った。




 店の奥にいったクリシュナは、刃を研ぐ研ぎ場の所で剣を研いでいる獣人の職人老人に話しかける。

「ご無沙汰しています。ルヴィリットさん」


 職人の老人ルヴィリットは剣を研ぐのを止め

「その声…クリシュナか…」


「はい…」

 ルヴィリットはクリシュナに振り向く。

 その顔は職人だと言わんばかりに厳しい顔立ちだった。


 ルヴィリットは立ち上がり

「例の物は出来ている。それをワザワザ取りに来たのか…」


「こっちに戻る用事がありまして、それで…」


「そうか…」

 ルヴィリットは奥から四つの紅い短槍を持って来る。

「向こうでの生活はどうだ?」


 ルヴィリットの問いにクリシュナは照れくさそうに笑み

「とても、穏やかにすごしています。組織にいた事がウソみたいに…」


 その顔を見てルヴィリットは少し哀愁を顔に纏い

「そうか…そりゃあ良かった…」


 四つの紅い短槍をクリシュナに渡し

「まあ…なんだ。旦那を連れて来た時にワシの所まで来てくれよ」


「今、いますよ」


「何!」とルヴィリットの眉間が上がる。



 クレティアは店にある武器を物色していた。

「ああ…これ、いいかも」

と、クレティアは剣を取る。店番の娘が


「お目が高いですよお客さん。ウチで一番の業物ですよ」


「ねぇ…ダーリン…これ…」

 ディオスの前に持って来るクレティア


「ああ…そうだなぁ…まあ、買っても」

 鋭い視線をディオスは感じて、店の奥を見ると、職人の老人ルヴィリットが奥から

クリシュナを伴って現れる。


「あ、おじいちゃん」と店番の娘が近付く。


「ルビナ…ちょっと店を頼む」

と、ルヴィリットは言ってディオスに近付く。


「お前が、クリシュナの旦那か…」

 ルヴィリットは鋭い刺すような視線で見つめて来る。


「は…はい」とディオスは気圧され気味に答える。


「ワシはここの、主人じゃ。ちょっと来い」

 ルヴィリットが先頭を行く。

「はぁ…」とディオスはそれに続く。


「何かしら…」と心配になり、クリシュナが付いて行く。


「アタシも行こうぉっと」とクレティアも続く。



 ルヴィリットはディオスを酒場まで導き「邪魔するよ」とルヴィリットが入る。

 ディオスは呆然と見ていると、ルヴィリットが「早く、入らんか!」と呼ぶ。

「はぁ…」とディオスは続き、それにクリシュナとクレティアも続く。


 ルヴィリットはカウンターに座ると、その隣を叩き

「こっちに座れ」


「お、お邪魔します」とそこへディオスは座る。


 ルヴィリットは酒場のマスターに

「ファイヤーピリットを持ってこい」


 マスターは困り顔で

「ルヴィじいさん。年なんだから考えろよ。止めておけ…」


「いいから、持ってこい!」とルヴィリットは一喝した。


 マスターは呆れて「知らねぇぞ」とお酒を持ってくる。


「グラスは?」とマスターは尋ねると、ルヴィリットは「二つ」と二本指を立てる。


「待って!」とクリシュナが割って入り「ファイヤーピリットってもの凄く度数が高いお酒よ」

 止めに入るクリシュナを無視して、ルヴィリットは一つを自分にもう一つをディオスに置いた。

 

 それにクレティアは笑み

「ああ…どうするダーリン」

と、その口調はどこか、楽しげだ。


「止めて」とクリシュナが止めようとする。


 ルヴィリットは酒瓶の蓋を開け、ディオスに差し向ける。

「威勢がいいのは顔だけか! そんな男がクリシュナの夫とは、情けないぞ」


 ディオスは深呼吸してグラスを取って「いいえ」と酒瓶の口に合わせる。


「もう!」とクリシュナは唸り、クレティアはニヤニヤと笑っている。


 ルヴィリットはディオスに酒を注ぎ、自分のグラスにも酒を注ぐ。

 ディオスとルヴィリットは示し合わせたかの如く、同時にグラスを飲み干す。

 

 ぐおおおおおおお ディオスは無言で心の中で唸る。

 酒が通り抜けるとそこが燃えるように熱くなる。驚くべき度数のお酒が胃に入り燃える。

「はぁはぁはぁ」と息を荒げるディオス。


 ルヴィリットが次と言わんばかりにディオスのグラスに酒を注ぐ。そして、自分のグラスにも注いで、再び一気に飲む。ディオスも負けじと飲み干す。


 ルヴィリットはディオスに再び酒を注ぎながら

「ワシはなぁ…クリシュナの母親の代からのつき合いじゃ。クリシュナの事を店を任せている孫娘と同じように扱っている。そのクリシュナがある日、手紙で結婚して暮らしているという知らせを受けた」

 ルヴィリットは一気に飲む、ディオスも続いて飲む。

 そして、注ぎながらルヴィリットは

「正直、嬉しかった反面、寂しかったのもあるが…。文面からは幸せそうな感じを受けて安心もしている。だがなぁ…」

 ルヴィリットは飲み干す。ディオスも飲み干す。そして再び注がれる。

「この子は、組織のトップだった子じゃ。分かるな…。そう簡単に昔の事と縁など切れんのじゃ。それをお前は…」

と、ルヴィリットは飲み干す、ディオスも飲み干して


「分かっています。分かっていますが…オレは、クリシュナを…絶対に守っていきます」


「キサマに何が出来る! 若造が!」


「確かに若造です。だが、オレにだって出来る事はある! だから」


「話にならん。証明したいなら」

と、ルヴィリットは酒を注ぐ、ディオスはそれを受け取り飲み干し、ルヴィリットも自分のグラスに注いで飲み干す。

「小僧の意気込み、見せてみろ!」とルヴィリットは煽る。


 ディオスはグラスを差し向けて「まだ、まだ…だ」とそこへルヴィリットは酒を注ぐ。

 そうやって飲みの勝負が始まり、ルヴィリットとディオスは度数の高い酒を飲み干し合いして、その場景にクリシュナは呆れて額を抱え、クレティアはニヤニヤと楽しげに見ていた。


 昼ぐらいから始まった勝負は、午後半ばで、両者ダウンで終わり、ルヴィリットとディオスは道ばたで吐き戻していた。ディオスの背をクレティアが擦りながら

「ダーリン。男らしかったよ」

 

 ディオスは右手を挙げて親指を立てたが「オオ…」と吐いた。


 ルヴィリットにはクリシュナが付いて背中を擦り

「もう…なんで、あんな事をしたの?」


 ご立腹だが、ルヴィリットは

「そりゃ…心配じゃからの…」

と、口にした後、吐いた。


 ルヴィリットの店に戻り、ルヴィリットはフラフラとしながら店に入りながら

「小僧、これからも根性みせていけよ。だから…頼んだぞ」


「はい…」とディオスは告げるが、その姿はクレティアに肩を抱かれて立つのがやっとだ。


「はぁ…全く」とクリシュナは腹を立てて腰に手を当てディオスに


「アナタも、あんな煽りなんかに乗らないでよ」


「ず、ずみまぜん」と謝るディオス。


「いいじゃんクリシュナ。ねぇ…ダーリン」とクレティアだけは楽しげだ。


 はぁ…とクリシュナは溜息を漏らし「帰りましょう」とクレティアと共にくたばるディオスの肩を持って帰路を進んだ。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

次話もあります。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


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