第184話 和豪 奈々 十年前
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あらすじです。
十年前、和豪財閥、和豪 一清の娘の奈々と、息子の聖司に襲い掛かった悲劇…
和豪 奈々、現在の年齢は16。
母親の青髪と、父親の一清の黒髪を受け継いだ何処か鋭い刀のような少女である。
彼女には、とある思いがあった。
それは…復讐だ。
時を遡ること十年前。事件が起こる前日。
一清は、和豪財閥の会長で父親の和正と、次男坊で和豪財閥のゴーレム開発機関の部長をしている京一に、その下で三男坊の清正とで、一清の自宅で家族の暖かな飲み会をしていた。
和正が
「もう…一清に和豪の代を譲ってもいいな」
父親が太鼓判を押す。
一清は、チィと舌打ちして
「まだ、待ってくれよ父さん。オレはまだ…和豪の社長になって五年だぞ。それは周囲の反発がある」
三男坊の清正が
「それなら、その根回しを自分がやるから…心配しなくていいよ。一清兄さん」
次男坊の京一が
「ああ…兄さんはしっかりしているから、安心だ。もう…父さんに楽をさせたら」
一清が
「おい、まさか…オレに押しつけて…お前達は…好き勝手やるつもりだろう」
京一と清正は顔を見合わせ、笑い合い
「どうでしょう?」
と、清正は告げる。
そこへ
「皆さん、お造りを持って来ましたよ」
青の清流の如き長髪の和服洋装の女性、一清の妻が料理の乗ったお盆を持って一同の場に入る。
「すいません。青葉お義姉さん」
京一は頭を下げる。
妻の青葉の後ろには、十歳の黒髪の男の子と、当時6歳だった奈々がいた。
男の子は長男の聖司、奈々はその四つ下の妹だ。
京一は、聖司と奈々を見つけると、膝を曲げ座り
「おいで…」
と、両手を聖司と奈々に向ける。
聖司は照れくさそうに、京一に抱っこされると、奈々が
「ああ! お兄ちゃんばかりズルい」
と、京一に抱っこをねだると、清正が奈々を抱っこしてくれる。
「ほら…奈々ちゃん」
「わーーーい」
と、奈々は嬉しがる。
母親の青葉が
「ほんと、二人は子供が好きよね。いい加減、独身なんて止めて、結婚したら」
京一と清正は微妙な顔をする。
和正が
「そうだぞ! いい加減、独身の根無し草はよくない!」
京一が
「その…良い人がいればね…」
と、誤魔化すが…
一清が
「良い人なんて、世の中にごまんといるぞ。自分がしたくない理由を探すのは止めろ」
清正が
「一清兄さん。色々とタイミングがあるんだよ」
フォローする。
そこへ
「もう…始まっているかしら?」
和正の妻、藍子が、四男坊で18の優一朗と、長女で最年少の15の涼音と共に来た。
和正が
「藍子…お前からも京一と清正にいってやってくれ。早く家庭を持て…と」
藍子がフッと笑み
「京一、清正、世の中には確かに仕事が大事なんて殿方がいるのは、認めます。でも、仕事なんて、人生の中で一部なんですよ。人は生きて、誰かと結ばれて、繋がって、次の結び目を作り暮らしていく。それが人生というモノなんですよ。分かってますか?」
京一と清正は、母親からの説教から逃れる為に
「さあ、おじちゃんと一緒においしいモノを食べよう」
と、京一はかわいい甥っ子の聖司を持っていき
清正が
「さあ、奈々ちゃんも、一緒に食べよう」
同じく可愛い姪っ子を抱えて京一と一緒に世話をして逃げる。
「全く」と母親の藍子は呆れた。
四男坊の優一朗と、長女で最年少の涼音はそれを見て微笑んだ。
多くなった飲み会は、何時の間にか家族の食事会となり、更に
「おーーい」
と、和正の弟、次男で曙光国の軍部の統幕本部に勤める正人夫妻と
「賑やかにやっているか?」
と、和正の弟で、三男坊で曙光国の治安機関に勤める仁志夫妻も入った。
大きくなった親族の食事会。
それは当然の如く、独身の良い年の二人、京一と清正に、早く結婚しろ! とか… 良い人がいないのか! とか… よくある親戚の風景が広がっていた。
そんな当たり前の親戚達の食事会が過ぎて、夜、治安機関に勤める仁志が
「こんな楽しい場でいうのもなんだが…。一清、青葉さん。スキル能力者狩りが、この国で三件も起こった」
青葉が
「私は、戦闘系のスキル、八岐大蛇をもっていますので…」
仁志は首を横に振り
「そのスキル能力者狩りのターゲットは、戦闘系のスキルだった」
一清が
「本当ですか? 仁志おじさん」
「うむ」と仁志は頷く。
和正が
「という事は…護衛を…」
「一清と、青葉さん。聖司くんと奈々ちゃんに、護衛を付けさせて貰うぞ」
それから一清達の住む邸宅に、仁志からの機関から来た護衛が来る。
スーツ姿だが…その下には、簡易的な魔導鎧が見えた。
一清は出社し、それに護衛が付いて
「じゃあ、いってくる」
と、妻の青葉を抱き締める。
「いってらっしゃい」
昼過ぎ、青葉は、戦闘系スキルの講師として、特別スキル持ちの士官学校へ行く予定があった。
この場合、子供達は、一清の母親、藍子の屋敷に預けるのだが…。
何時、何処で襲撃されるか分からない。
護衛達で固められている邸宅に置いた方が無難として、護衛にお願いして、青葉は数名の護衛と共に、スキル専用士官学校へ行った。
邸宅は、護衛に包まれている。
子供達の相手も護衛の男性と女性がしてくれている。
これを襲撃しようなんて無意味な筈だが…とある者達には…。
午後三時くらいだった。
庭にいる護衛達が、庭を回っていると、背後に何かが通過した気配がした。
「なんだ?」
と、振り向いた次に、振り向いた護衛と、その周囲にいた仲間が吹き飛んだ。
強烈な打撃と斬撃に、五人が重傷となった。
その五人が倒れている場に、空間からしみ出すように姿が現れる。
シェルブリットだ。
「け…」とシェルブリットが悪態を付き、指を鳴らした瞬間、庭の上から姿を隠す光学迷彩を解除したジェット輸送機が着陸する。
庭を潰して着陸すると、輸送部の口が開き、そこから、鋼のドクロむき出しの人型ゴーレム兵士達が、人造人型兵器が溢れ出し一気に邸宅に広がった。
邸宅は大惨事になる。
応戦する護衛達
人造人型兵器達も持っている銃で対抗。
簡易的魔導鎧を装備している護衛達は、その力で人造人型兵器の弾丸から守られる。
だが、攻撃が効かないと分かった人造人型兵器達は、護衛に取り付き、自爆して護衛を倒す。
シェルブリットの軍勢、人造人型兵器達の数の力に、護衛達は押されて後退、邸宅から逃れようとするも、行く先、全てに敵の人造人型兵器が現れ、とある部屋に逃げ込む。
そこで、子供達を隠せる場所に、護衛達は隠し、最後の応戦を開始するも…虚しく皆殺しにされた。
子供達が隠れている場所、そこは掛け軸の裏にあるチョットした長方形の収納だった。
聖司と奈々が抱き合って入れるそこに、二人は隠れていたが…
聖司がそこから出て
「奈々、絶対に出てはダメだよ」
聖司は、助けを呼ぼうと窓から出ようとしたが…荷物で塞がれた扉が粉砕され、そこにシェルブリットがいた。
冷徹に十歳の聖司を見下ろすシェルブリット。
聖司は、母親と父親に約束していた。
スキルを使わないの誓いを、妹を守る為に破り
”八岐大蛇”
聖司の背後から、9つの武器の化身である龍が現れ、シェルブリットを襲うも…。
シェルブリットは、右手にする機械仕掛けの大剣で、その9つの武龍を一刀両断して粉砕。
「あ!」
聖司が驚いた次に、聖司の胸に機械仕掛けの大剣の切っ先を刺し、聖司の首が飛んだ。
転がる聖司の首、血が溢れ出す聖司の体。
奈々は、それを掛け軸の破れた僅かな隙間から見ていた。
恐怖に怯え、声を出さないように奈々は口を押さえて震えていた。
シェルブリットは、吹き飛んだ聖司の首を、とある液体が入った保管庫のケースに入れた後、部屋の周囲を見回す。
そして、掛け軸に手を伸ばす。
ゆっくりとシェルブリットの魔の手が、奈々の隠れる場所に迫る。
だが…
「キサマーーーーー」
生きていた護衛の一人が、シェルブリットに襲い掛かる。
シェルブリットは呆れた顔をして、その護衛を機械仕掛けの大剣で切り裂いた。
シェルブリットは、頭を傾げると立体映像のタイマーが出た。
もう、カウントが終わっている。
「時間だな…」
シェルブリットは、そこから去っていた。
この恐怖を奈々は一生忘れる事はない。
妻より先に一清が邸宅に帰ってくると、護衛達の緊急信号で治安機関の仲間者達が、邸宅を包囲していた。
一清は、その者達をかき分け、一気に聖司が殺された部屋に来る。
応援に駆け付けた者達が、首のない聖司の遺体を…搬送する寸前だった。
「あああああああーーーーー」
一清は、聖司の遺体に駆け付け、抱き締めて泣いた。世界が壊れる程、泣いた。
大切な息子の死に、世界を呪う如く泣いた。
その傍には、駆け付けた仲間達に保護されていた奈々がいた。
その日以来、奈々の家族は壊れてしまった。
無気力になった父親、泣き続ける母親。
それを見つめるしかない奈々。
息子夫婦を助ける為に、母親の藍子と親戚達が傍にいてくれた。
惨劇のあった邸宅は元通りに修復されるも家族は、壊れたままだった。
父親、一清は復讐鬼と化した。
息子を惨殺したエニグマを、絶対に許さない!
その原動力が、父親、一清を立ち直らせた。
妻の青葉は、それを黙って見ているしか出来なかった。
毎日毎日、父親の一清は、亡くなった息子の仏前で成仏と、復讐を誓うお経を読んでいた。
奈々は…家族を殺し壊したエニグマの復讐の為に、己を刃と化す事を決めた。
母親の指導の下、受け継いだスキル、八岐大蛇を磨き、14の年に女学中等部の成績優秀にだけに与えられる特別推薦枠を勝ち取り、迷わずにスキル専用士官学校へ入学した。
そして、そこで仲間と出会う。
同じ、戦闘系スキルを持ち、同じ時期にエニグマのスキル能力者狩りで兄弟姉妹を殺された二人と出会った。
二十歳の火笠 洋子 同年輩の鷹柿 綾妃
彼女達は誓った、妹を、兄を、弟を、殺したエニグマを必ず倒すと…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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ありがとうございました。