第171話 初恋メーター事件 中篇
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あらすじです。
早速、直っていた初恋メーターという魔導アイテムを使うディオス。それによって…
翌日、ディオスは朝食後にケットウィンと話す。
隣にケットウィンと、ディオスは軽く喋りながら
「そういえば、これ…やっぱり修理出来ませんでしたよ」
と、ディオスは初恋メーターを見せる。
そう、実は装置を持って夜中、クリシュナとクレティアにゼリティアの三人を見るも、何も変化は無かった。
壊れたままだと、ディオスは思っていた。
「そうですか…」
残念そうなケットウィン。
ディオスが
「何か、初恋メーターの初恋で、昔の初恋の相手を思い出しました」
ケットウィンが
「どんな方ですか?」
「その…十五の時です。自分は室内でやるスポーツのバスケットっていう部活に入っていて、そのコートの隣の部屋が格闘技室で、空手という徒手拳の部があって、そこの同年輩の女の子に惚れていました。可愛かったし、人気もありましたから。まあ…チョッと話したりしましたけどね。どうせ…相手には、知り合い程度の認識しかなかった筈ですよ」
「成る程…」
と、ケットウィンが微笑む。
ディオスが照れくさそうに笑んでいると、ケットウィンの背後に靄が掛かり、それが実像になり具現化した。
その具現化した人物は、ケットウィンの妻のチョコタンだった。
ディオスが
「ケットウィンさん…後ろ…」
「え? 何もいませんよ」
ケットウィンは後ろを見る。
見えていないのだ。ディオスは何度も瞬きさせ、そのチョコタンの霞みを凝視する。
そして
「ケットウィンさん…もしかして、ケットウィンさんの初恋って奥さんですか?」
「えええ!」とケットウィンは戸惑い、ヒソヒソ話で「その…どうして、分かったんですか?」
「ああ…いや、その…ケットウィンさん、奥さんを前にすると何時も嬉しそうなので…」
ケットウィンは苦笑いしながら
「ええ…まあ、小さい頃から…ね」
「ははは…」
ディオスは笑って誤魔化して右手にある初恋メーターをチラ見した。
どうやら、直っていたようだ。
でも…どうして…昨晩、妻達には…。
ディオスは、ハッとした。
発動条件があるのか…。
そう、さっき自分の初恋をバラした後に、見えた。
恐らく、相手にその意識を持たせて、思考の中にある初恋の相手をこの装置は投影するのだろう。
そして、ディオスは別に試す。
今度は、ダグラスだ。
まず、ウソの初恋の話をする。好きだった初恋の相手が裁縫部にいて、チョッとしたモノを作って貰って嬉しかった。
なんて、ダグラスに話すと、ダグラスの背にケットウィンと同じく霞みが出て姿が具現化する。
それは、ダグラスの奥さんだった。
へぇ…ケットウィンさんと同じく初恋の相手と結婚したのか…。
「どうしたんですか? ディオス」
「ああ…いえ…何でもないです」
今度は、妻達、クリシュナにクレティアとゼリティアに試す。
帰りの二階建て魔導バスの二階にある広めの家族用スペースで、初恋の話は、ウソを言うとバレそうなので、本当の空手部の女の子の事を言った。
「へぇ…」とクレティアが「ダーリンってその頃から、格闘技系の女の子が好きだったんだ」
クレティアの背後に同じく霞が出る。
ディオスの予想では、クレティアはレオルトス王国の剣聖だ。
剣の師匠とか、それ関係の武人とか、もしくは、兄上のヴァルドか、フィリティ陛下かなぁ…。
そう予想したが、出て来たのは、ディオス、自分だった。
そう、自分が初恋だったのだ。
マジで…もう少し、経験豊富だと…思っていた。
今度は、ゼリティアを見る。
「ほぉ…」とゼリティアはディオスから貰った扇子で口元を隠して、チョッと驚いていた。
その背に霞みが出て来た。
今度こそ、どんな人物か分かる。
大貴族で、燃える赤髪の美貌の令嬢、それなら、相手なんて引く手数多だろう。
しかし、出たのは…自分だった。
クレティアと同じだ。
ウソーーーーん
そして、クリシュナを見る。余裕の大人の笑みをするクリシュナの背後に、霞みが出る。
レジプトの時に、クリシュナとつき合っていた男性と会った。
今度こそ、チャンと出てくるだろう。
しかーーーし、出て来たのは自分、ディオスだった。
え? 何で?
ディオスはクリシュナに
「なぁ…クリシュナは…こういう初恋の話って…。稚拙だろう。何というか…クリシュナはその…男女の色恋沙汰には、機敏そうに思えるから」
クリシュナは余裕の顔で
「まあ…義理で付き合った相手もいたわね。組織としての繋がりとして、どうしても無下に出来なかった事もあったからね」
ディオスは顔を引き攣らせる。
レジプトのアヴァルの付き合ってきた事は義理だったんだ…。
ディオスにおかしな挙動が見えたクレティアが
「ねぇ…ダーリン。どうしたの? 何か…変じゃない」
ディオスは苦笑いをして
「自分の初恋バラして、ちょっと恥ずかしくなった」
それに妻達は、フフフ…と余裕の笑みを見せた。
ディオスは内心で
やべーーーー このアイテム。やべーーよーーーー
バルストランの王都に戻った後、チョット書類作業が王宮であったので、ディオスは来て、夕暮れとなる。
帰って来たのが、だいたい昼過ぎ、そこから昼食を取って、王宮に来て書類の、アーリシア統合軍に、ディオスが授かったエルディオンをどのように組み込む案が記載された計画書の手直しだ。
「はぁ…終わった」とディオスは帰ろうとしたが
その背にナトゥムラが近付き、ディオスの肩を抱いて
「よう、ディオスっちゃん。今夜は、一杯行こうぜ!」
「ええ…」とディオスは渋い顔をする。
後少しで、アリストスに六人子供達が帰ってしまう。
出来るだけ傍にいた。
「その…子供が…」
と、ディオスは渋ると
ナトゥムラが
「大丈夫、嫁さん達に許可、取っているから!」
クソ!と内心でディオスは舌打ちした。
結局、夜のお姉さん達がいるナトゥムラ行きつけの店へ行く事になった。
店内で、ソファー席に座りディオスとナトゥムラは、両脇にお姉さん達を付かせ、ナトゥムラは饒舌に喋る。
「マジで、ルクセリアのあの時は、ビビったわ! こいつ、とんでも威力の大破壊魔法をぶっ放しやがってよぉ…。焦ったわ」
「フフフ…」とディオスは苦笑いだ。
女の子が「それ見たーーい」と告げる。
ナトゥムラが
「止めて置け! 国が消えるぜ!」
とにかく、虚勢を張るナトゥムラ、ディオスはそれを聞きながら両隣の女の子達と談笑する。
ディオスの右にいる獣人の女の子が
「へぇ…そんなの作っているんだ」
ディオスは首を傾げ
「別に秘密じゃあないから…。でも、素材がねぇ…。貰えないから、劣化板しか作れなくて…」
ディオスの話は、あの聖剣と聖槍より取り出したデータから作る予定の疑似ドッラークレスのアクルカン『仮面装備』の話だ。
左の魔族の女の子が
「どうにかして、貰えないの?」
ディオスはお酒を口にして
「んん…アインデウス皇帝様の一門しか製造出来ないし…。どう生成しているかも…分からない。加工する技術はあっても、素材が作れないようじゃあ…意味ないしね」
右の獣人の女の子が
「なんか、聖帝様って色々と自由に出来ると思っていた」
ディオスはフッと笑み
「そんな事ないさ。色々とやるには、色んな人と共同でしないと何も出来ないし、それに根回しの許可がいる。かなり、強い縛りはあるさ」
そうして、夜が更け、夜中の十二時、何時ものようにナトゥムラを魔導タクシーに乗せて、屋敷まで送っていく。
もう、このパターンがお決まりだ。
次のお決まりパターンは…。
「ナトゥムラさんを、連れてきました」
ディオスは、インターフォンに声を掛ける。
『ああ…何時もすいません』
そう、ナトゥムラの奥さんアージャの声。
そして、屋敷に入ると…怒って仁王立ちしているアージャ。
「ああ…コレは! ディオスが!」
何時もの様にナトゥムラは、ディオスを指さし、自分が誘っていないと言い訳する。
ディオスは、ス…と静かにナトゥムラからフェイドアウト。
「アナターーーー」
アージャがスキルでナトゥムラに斬り掛かり
「ぎやあああああああ」
叫んで逃げるナトゥムラ。
「はぁ…」とディオスは溜息を漏らし、何時ものやり取りを静観する。
そして、十分後、ナトゥムラは妻のアージャに平謝りして、終了。
ナトゥムラとアージャに、お茶をご馳走になる。
お茶のソファー席で、ディオスが
「そうだ。ナトゥムラさんって初恋は何時ですか?」
ディオスは、自分の初恋の話を切り出し、ナトゥムラの初恋の相手を、初恋メーターで調べる。
ナトゥムラは自慢げな顔で
「オレはモテまくったから、沢山の女達の初恋になったぜ」
アージャが「はいはい」と呆れ気味だ。
ディオスは紅茶を飲んでいると、ナトゥムラの背後のあの霞が見えた。
誰だ? ああ…アージャさんか…。
ここでも、初恋の相手が嫁さんだ。
アージャは?
アージャもナトゥムラが初恋の相手だ。
へぇ…貴族って初恋同士で結ばれるのかなぁ…。
ディオスが
「ナトゥムラさんと、奥さんの出会いって…」
アージャが
「まあ、幼馴染みですよ。大抵の貴族みたいに、お互いが親の口約束で許嫁になった間柄ですけどね」
「へぇ…」
ディオスは頷く。
やっぱり、傍にいると好きになりやすいのかもしれないなぁ…。
付き合いも長いだろうし、まあ…惚れた腫れたより、お互いの信頼が夫婦には大事だよね。
ディオスは
「じゃあ、ナトゥムラさんの初恋は、奥さんのアージャさんですね」
ナトゥムラは紅茶を噴き出し
「お前、何、言ってんだよ!」
アージャが
「あら、アタシじゃあ不満なの?」
「ええ…いや…その」
と、ナトゥムラは小さくなった。
奥さんには誰も敵わないのだ。
ほのぼのした感じで、夜の紅茶会は過ぎていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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