第168話 バルストランでの政治 前編
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あらすじです。
ディオスは聖帝として面倒な事に巻き込まれそうなので、バルストランで大きな政党、自由国民党のトップ、ギレンと接触して…
ゼリティアの城邸、オルディナイト城邸のテラスでバウワッハと、ギレンがお茶会をしていた。
「はははは…」
と、楽しげなバウワッハの声がする。
ギレンは気軽な感じで、紅茶を口にする。
バウワッハが
「しかし、お前も大変だなぁ…」
ギレンは俯き加減で
「まあ…なぁ…」
二人は長年の友人だ。
一時期、バウワッハは評議員をした事があった。
その縁でギレンと出会い、ぶつかり合ったりもしたが、気が合い、バウワッハがオルディナイト理事長になって評議員を辞めても、こうしてギレンとお茶をしたり、酒を飲み合っていたりしている。
その出会った当時の二人のあだ名は、激高火山のバウワッハ。カミソリのギレンだ。
理論派で正論で繰り出す二人に、周囲は戦々恐々する程だった。
そんな苛烈な時期がウソのように、今の二人は仏のようだ。
そして、今のお茶会、ギレンを心配するバウワッハ。
その理由は、ここ最近の自由国民党のスキャンダルである。
まず、とある貴族出身者の女性評議員による、秘書暴行事件。
バッチリ、その暴言と暴行する様子を収めた動画が撮られていて、今、警察隊も動いて捜査している。
評議員は、任期中に余程の事が無い限り逮捕されない。
そういう評議員特権がある。
まあ、独裁政治を防ぐ為に講じられた処置だが…。
例外として逮捕される事案がある。
殺人、強姦、詐欺
この三つに該当すると、逮捕される。
まあ、それ以外では…何とも…任期中は逮捕されないが…。
問題を起こした評議員は、その進退で責任を取る。
政治に携わる者の進退とは、辞任だ。
今回のその貴族の女性評議員の問題は…その進退を決しなければならなかった。
そして、何より貴族だ。
貴族は、礼節、秩序、名誉を重んじる。
それに外れた者、間違いを犯した同じ貴族に対して厳しい。
貴族としての面を汚した者は、一生、表に出る事無く、家の置物になる。
それがこの世界の貴族のチタン合金より硬い鉄の掟だ。
まあ、この事件は、貴族の女性評議員であり、自由国民党で、女性を守ると前面に出ていた評議員だったので、面白いようにスキャンダルが広がり、今や国内外に響き渡っていた。
このスキャンダルで、終わりならまだ…良かった。
だが…終わりではなかった。
何を焦ったのか…というより、この時期、新たな王都の都議会選挙の時だったので、このスキャンダルを払拭して、何とかしようと奮起した別の女性評議員、貴族ではないが…こんな事を、街頭応援演説で言ってしまった。
”アーリシア統合軍は、自由国民党を応援しています!”
そう、実はこの女性評議員は、バルストランで軍の文民統制をする軍省庁の大臣なのだ。
それを聞いた周囲が
はぁ? 何を言っているんだ? 軍が国の何処かの政党に荷担するなんて、内政干渉だろう?
アーリシア統合軍、アーリシア大陸全体の軍の要が、内政干渉するのか!
これが報道された後、アーリシア統合軍を任されているレディアンが記者会見で
「アーリシア統合軍は、アーリシアの民の為の軍隊だ。それを何処かの一部の政党を応援するなど、文民統制の観点からして問題がある。我々、アーリシア統合軍は、絶対に内政干渉をしない!」
またしてもスキャンダルを出してしまい。
自由国民党は、バルストラン王都の王都議会選挙で不利に立たされてしまう。
そして、ギレンを労るバウワッハ
「ギレン、ここでなら、愚痴を言っても構わんぞ。ワシとお前の仲だろう…」
ギレンはバウワッハの心使いに感謝して
「すまんな。こうして、お前と喋って楽しくお茶をしているだけで、楽になる」
バウワッハが申し訳なさそうな顔で
「そう…その、忙しい所…申し訳ないが…。実は孫息子が政治に関わりたいと…申してなぁ…」
ギレンは、バウワッハの孫息子という言葉に
はて…バウワッハには、長女のゼルティオナと、次女のゼルティアラ、亡き息子のレオルだったか…。孫息子とは…ゼルティオナとゼルティアラの…あれ?
二人には娘達しか…。
首を傾げているギレンにバウワッハが
「入ってこい…」
と、孫息子を呼ぶ。
入って来たのは…
「どうも、お久しぶりですギレン評議会議長」
ディオスだった。
ギレンは「あ!」と声にしてしまった。確かに孫娘のゼリティアと結ばれたので孫息子だ。
ディオスは微笑み
「ギレン様。お約束…まだ、有効でしょうか?」
ギレンは驚きで瞬きした後、フッと嬉しそうに笑み
「ええ…無論ですぞ。聖帝様」
ディオスは照れくさそうに
「すいません。聖帝なんて呼ばれるようになって、色々と面倒な事になり、もっとバルストランとの繋がりが必要になりました。是非とも、政治という世界の力で、自分をもっとバルストランに結びつけてください」
ギレンはフフフ…と嬉しげに笑み
「勿論です。そのお望み…叶えましょう」
バウワッハが
「という事だ。頼むぞギレン」
「任せろ」
ギレンは力強く頷いた。
その二日後、自由国民党の評議員全員が集まり集会をするホール。
そこには、多くのマスコミが入っていた。
本来なら、評議員とその秘書だけで行われる集会に、マスコミがいるのは、今までのスキャンダルの影響だ。
そして、その集会に王都議会選挙に出る候補者もいた。
その一人、凜とした三十代後半の人族の男性が、となりの同じく王都議会候補の小太りの魔族の男性と共に話している。
人族の男性、ダルファンが
「全く、スキャンダルに対するパフォーマンスですか!」
小太りの魔族の男性、スディーラが
「いいじゃないか。イメージ戦略も政治の内だ」
真面目のダルファンが
「普段から、しっかりしていないから、こんなスキャンダルが起こるんだ」
世渡りが上手いスディーラが
「仕方ないだろう。仲間内で、仲間を裁けるヤツなんていない。良いとこも黒いとこもあるのが政党さ」
フン、とダルファンが息を荒げる。
集会はスムーズに進み、そして、最後のギレン評議会議長の挨拶が来た。
だが、その挨拶が始まる前に、オルディナイト系の評議員達が席を立ち、ギレンのいる壇上へ上がる。
男女混合の十数名のオルディナイトの人達は、どこか嬉しそうな顔だ。
ギレンが壇上のマイクを持ち
「では、私からの言葉の前に、皆に紹介したい人物がいる」
ギレンの後ろにいるオルディナイトの人達が、壇上の袖に行き、その人物を連れてくる。
その人物が出て来て一歩を踏み出した瞬間、会場がざわめく。
そう、ディオスが悠然と歩いて現れた。
ダルファンとスディーラが驚愕して身を乗り出し、実は二人は前に、ディオスに自由国民党から出て欲しいと頼んだ者達の一人だった。
テーブル席にいる評議員達、その周囲の壁で取材するマスコミ達が、一斉に視線をディオスに向ける。
ディオス・グレンテル。
バルストラン共和王国の国王ソフィアの臣下にして
アーリシアの大悪獣ヴァシロウスを倒した英雄。
そして、アーリシアを纏め、アーリシアの大英雄となり
様々な世界での問題解決の手腕を買われ、現在、エニグマという国を超えて暗躍する組織の討伐を行う機関、ザラシュストラの最高執行官で、アリストス共和帝国アインデウス皇帝と通じる。
さらに、五千年前と同様に世界の奇跡、天麒馬に選ばれて聖帝となった。
最も、この世界アースガイアで注目の熱い男が目の前に現れた。
ギレンの隣に来たディオスは真っ直ぐな瞳をホール全体に向ける。
その後ろには、もの凄く嬉しげなオルディナイトの人達がいる。
ギレンが息を整え
「んん…では、紹介しよう。ディオス・グレンテル殿だ。彼は、次回、評議員になる為に我ら自由国民党に来てくれた。皆の者、よろしく頼む」
ディオスは全体へ頭を下げた。
パチパチと自然と拍手が沸き起こり、全体が熱気に包まれる。
ギレンがマイクをディオスに渡すと、ディオスはお辞儀して受け取り、その拍手の嵐が止むまで、周囲にお辞儀をし続け、十分程度過ぎて静かになり
「ええ…初めまして、ディオス・グレンテルです。このような高い場所より、失礼します。自分は、もっとバルストランの為に働きたいと、バルストランに根付く自由国民党に参りました。皆様、どうか…皆様の持っているお力と教えを、自分にも…よろしくお願いします」
と、ディオスは再び頭を下げると、またしても嵐のような拍手が評議員達から広がった。
その光景は、マスコミを通じてバルストランに、世界に広がった。
その夜、王宮にて緊急の記者会見があった。
ソフィアが会見場に出て
「では、皆様に報告する事があります」
そう告げると、舞台へゼリティアとレディアンが上がってきた。
ソフィアは
「わたくしの王位もあと、十数年です。ですから、わたくしの後の王としてゼリティアと、その次の王としてレディアンを指名しました。皆様、よろしくお願いします」
記者会見のフラッシュが激しく焚かれた。
このディオスが、自由国民党から出るという話と、ゼリティアが次期王であるダブルの会見情報によって、バルストランはちょっとしたお祭りになった。
ゼリティアが王となりディオスは評議会議長に、それはソフィアの前の王と妻のような、王府と議会政治による、双璧によってバルストランが鉄壁に守られた歴史の再来として、それを祝うカーニバルが各地で催される。
でも…やっぱり、世の中にはこれを良しと思わない人もいるのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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