第165話 教主達の聖遺物 中篇
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
聖遺物の事を調べるディオスと、それを見つめるアルヴァルドの二人。終始和やかに会話して
夜、闇の戸張が深くなった頃、ディオスはアルヴァルドとサシで飲んでいた。
ディオスが
「その…お父様…すいません。ウソを…」
アルヴァルドは、杯を飲み干し
「分かっておった。マハルヴァは心を読む。お前が、自分の出自を隠していた理由も、分かる。別の世界から来ました…。確かに信じられんだろう。お前が言っても怪しまれると…そう、考えるのもムリはない」
そう、ディオスの事を察してワザと、ウソを呑み込んでくれていたのだ。
ディオスは頭を下げ
「ありがとうございます。もう、これでウソはありません」
フッとアルヴァルドは笑み、ディオスの一献を向け
「帰れるのか?」
ディオスは貰いながら
「そのような痕跡がありません。もう…」
「そうか、お前が良く、父親と母親に兄弟達に、家族を見せてやりたいと言っていたな。辛かろう…」
ディオスは杯を飲み干し
「はい、家族を持って余計に、父や母の事が…」
アルヴァルドがディオスの肩を抱き
「なぁ…ディオス。お前とは血は繋がっていない。だが…お前はワシにとって息子だ。だから…限界な事があって逃げたくなったら、ここに来い。ここはお前の家でもあるんだ。なぁ…に、心配するな。ワシが守ってやる。だから、ムリはするなよ」
それを聞いてディオスの瞳から涙が溢れて
「はい…お父さん…」
「んん!」と、アルヴァルドは優しくディオスの抱く肩を撫でた。
そして、ディオスは自分が抜いた聖遺物の槍カシリウスがどんなモノか調べに来た。
カシリウスを握り、ディオスは注意深く観察する。
黄金の表面、使われている素材は…
ディオスは、魔導収納から、分子程度の大きさまで見える顕微鏡を取り出し、表面を見ると、黄金と白金の分子が規則正しく配列されている。
分子サイズでの加工がされた集合体?
ディオスが調べてる後ろにアルヴァルドがいて
「のぉ…ディオス。お主は、出自の世界では何をしていたのだ?」
ディオスはカシリウスを調べながら
「朝日重工という会社で。そこの技術部の営業コンサルタントをしていました」
アルヴァルドは首を傾げ
「営業コンサルタントとは?」
ディオスが
「要するに、色んな企業や、学者が持っている特許や技術を調べて、会社にとって必要なら、買収、及び合併、共同研究にと…繋げる仕事をしていました」
「どういう縁で、そのような所に?」
「……元は、大学で材料工学を専攻していましたが…。
オレのいた大学は…まあ、この世界のように学問を習いたい人や、研究したい人の為の、本当の意味での学問の場所ではなく、同年代が集められ、只単に、勉強という名の遊びをしている…意味があるのか無いのか、分からない所でした。
無論、真剣に学問や研究をしている人達もいましたが…。そんなの極少数。
まあ、オレがいた場所は材料の研究をしていた研究所で、そこで、研究の手伝いをしていたんですが…。
航空関係の材料の研究をしたいとして、航空の専門学校へ留学し…そこでの専門学校の縁で、航空技術関係をしている朝日重工に入社しました。青田買いってヤツです。
材料技術関係の仕事をすると思ったんですが…。
何をどう違ったのか…営業に回され、技術特許のコンサルタントを…」
それを聞いたアルヴァルドが
「何か、お主の出自の世界は、無駄が多いなぁ…」
ディオスはフッと笑み
「その通りだと思います。決められる自由があるのに、皆、やりたくもない仕事で生きて、生活の為に収入を得て、生きる意味を考える暇さえ与えられない。
みんな、何かに自ら縛られて…。
まるで、巨大な機械仕掛けのような場所でしたね。
まあ、そこ以外で自由な国や場所もありましたが…。
でも、そうならない。
やがて、もう…システムが行き詰まっていて、変えないといけないのに…
変えようとしない。
気付けば、手遅れ、それがオレがいた日本という国でした。
良いところもありますよ。
秩序を重んじる。みんな…まあ、多くが親切で、凜とした国でした」
アルヴァルドが肯きながら
「成る程、お前が筋や、秩序を重んじる考えが強いのはそこの部分があるからか…」
「でしょうね」
ディオスは肯定した。
ディオスが、カシリウスを魔法の探査に掛けていると、アルヴァルドが
「その、お前がいた会社は、強かったのか? 重工と名が付いているなら、それなりの力がある筈だ」
ディオスは、探査魔法を使いながらフッと笑み
「まあ、大企業っていえば、大企業でしたが…業績は悪化していました。
大きな不況が短期間に二回も来て、会社の経営はジワジワと悪化して、そして…とんでもない事をやりました。
不法組織に、グランスヴァイン級魔法の威力がある物理攻撃爆弾の製造装置と設計図のデータを売りました。
その運び役として、オレが…。
その渡した連中から逃げていた最中に、この世界に来ました」
アルヴァルドは悲しそうな顔をして
「そうか…難儀だな」
ディオスはフッと笑み
「でも、オレとしては、この世界に来れて得でした」
ディオスの微笑む様子に、アルヴァルドは、少し気分が救われた。
ディオスが
「でも、どうなったんだろうなぁ…。会社はクソでしたが…オレの上司で課長だった。
日暮 祐治さんて人なんですけど…。
その人、朝日重工の会長の孫で社長の息子なんですけど…
ただのボンボン御曹司じゃあなかった。
もの凄く法律に詳しいし、何より、仕事が出来て、仕事では鬼でしたけど、他はとても優しくて、お世話になっていました。
もしかしたら、今頃は、上でのさばっている会長と社長を蹴落として、朝日重工を立て直しているかもしれませんね」
「そうか…そうだといいなぁ」
と、アルヴァルドの言葉に
「はい」
素直にディオスは頷いた。
そして、聖遺物の調査を終えて
「なんだろうコレ…」
「どうした?」
アルヴァルドが隣に来る。
ディオスの両手には、魔法のデータの集合体がある。
それを見てディオスが
「何かの効力を発揮する装置のようです。まあ、色々と奇跡を起こしていたというなら、この聖遺物がその力を発動するキーになっていたとしても、おかしくはありませんが…」
アルヴァルドもデータを見つめながら
「何なのか…分かるか?」
ディオスは首を傾げ
「専属的な部分があるので…もう少し、サンプルが…」
「なら、何れ、シューティア教やフツ教から、似たような事を頼まれるだろうから…」
「そうですね」
その各宗教にある聖遺物のサンプルが必要だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。