第164話 教主達の聖遺物 前編
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あらすじです。
ディオスは、夏の休暇で家族でアルヴァルドの宮殿に来ていた。そこで、アルヴァルドが…
ディオスは、トルキアのアルヴァルドの宮殿にいた。
夕暮れ、客間の広間で、絨毯のパーティーの席でディオスは左にいるアルヴァルドからお酌されていた。
「まあ…気にするな…。別段に色々と変わる訳ではない」
アルヴァルドからお酌を受けるディオス。
「はぁ…何で…」
ディオスは、落ち込んでいた。
それを周囲にいる妻達や、宴に参加している者達は微妙な笑みをする。
ディオスが落ち込んでいる理由、それは…。
夏の休暇で、アルヴァルドの元へ訪れたディオス達家族、ディオスにクリシュナ、クレティア、ゼリティア、十人の子供達、家族をみんなつれてアルヴァルドの宮殿に来て、アルヴァルド達に遊んで貰う。
そんな時、アルヴァルドが
「のぉ…ディオス。お前と面会したいという者がいるが…」
ディオスは戸惑いを向け
「政府関係ですか?」
「いいや」とアルヴァルドは首を横に振り「我らの祭主様達だ」
「祭主?」
レスラム教には、シューティア教のように、聖職者を纏めるトップという教皇がいない。
その代わりに、各地区の宗派を纏める祭主なる人物が沢山いる。
その祭主達が、集まりレスラム教の色んな行事を決めたり、教義の解釈、研究を話し合ったりする。
因みに、レスラム教、暗部であるシャリカランは、その祭主達を守ったり、レスラム教総本山の守護をしていた組織が発端らしい。
現在もその守護の仕事があり、それは圧倒的に数が多い末端が行い、その上のエリートとされる者は、レスラム教に害を加える組織や人物の調査が主になり、クリシュナのような暗殺という、諸々の闇に関する事は、トップ機密で全体の数%しかない。
その最も重要である数%の任務をこなしていたクリシュナは、トップエリートという事だ。
マジ、クリシュナは凄い!
ディオスは常々、思う。
アルヴァルドの手配で、飛空艇に乗ってとある国に来る。
トルキアの隣、レスラレム王国。
そう、レスラムという言葉が入っているこの国は、レスラム教の総本山がある。
そこは、レスラレムの王都の中心にして、王宮の隣にある山形の宮殿。
その山形の宮殿が総本山である。
レスラレム王国の国王が、アルヴァルドとディオスに付いて来たクリシュナとクレティア、ゼリティアの四人を迎える。
子供達は、アルヴァルドの宮殿にて、アルヴァルドの妻達や息子達の嫁、娘達が相手をしてくれている。
ターバン姿の獣人の王を前に、ディオスは首を傾げる。
なんで、国王みずから、出迎えを?
そうする理由が全く分からなかった。
国王はアルヴァルドと握手した後、ディオスの前に来て
「ようこそ、聖帝様」
「はぁ…どうも…」
と、ディオスは国王と握手すると、国王がディオスの右腕を見つめ
「その…右腕にある…」
「ああ…」
ディオスは右腕の袖を捲り
「これですか?」
聖帝の聖印を見せる。
国王は「んん…」と低く唸った後「では、こちらへ」
特別な魔導車でディオス達をレスラム教の総本山へ送る。
山形のレスラム教、総本山を見上げるディオス。
不意に、右腕の聖印が疼き、無意識に右腕を押さえた。
それを見たアルヴァルドとクリシュナは鋭い視線になる。
ディオスは、総本山の中へ入る。
そこは、岩山をそのまま宮殿に変えた場所らしく、所々、荒削りな岩肌が見えた。
ディオスはそれを見ながら
「なんで、こんな所が総本山なんだ?」
その問いにクリシュナが
「ここには、嘗て二千年前に、レスラム教を起こした教主の聖遺物が眠っているのよ」
ディオスは、右にいるクリシュナを見つめ
「聖遺物…?」
クリシュナは肯き
「槍の聖遺物、カシリウスよ。教主たる獣人の男性は、その聖遺物を使って、このユグラシア中央の問題と立ち向かい解決していったわ。そして、レスラム教を起こしたのよ」
ディオスの中に嫌な予感が過ぎる。
「クリシュナ、クレティア、ゼリティア…帰らないか?」
ディオスの周りにいるクリシュナとクレティアにゼリティアは、ディオスを見つめる。
ゼリティアが
「なぜじゃ?」
ディオスは疼く聖印の右腕を押さえながら
「いや、オレは…レスラム教徒じゃあないから…」
クレティアが
「それはアタシも同じだけど…」
ゼリティアも
「妾もじゃ」
クリシュナが、ディオスの押さえる右腕を見て
「疼くの?」
ディオスは黙ってクリシュナから視線を逸らした。
クリシュナとクレティアにゼリティアは、互いにアイコンタクトして、クリシュナが右腕、クレティアが左腕、ゼリティアが背中を…とディオスを強制的に歩ませる。
ディオスは妻達に押されて、イヤイヤ、歩を進まされる。
岩山の総本山の宮殿内を進み昇るディオス達、そして、大きなホールに出た。
そこには、レスラム教各地区の祭主達がいた。
皆、中東特有のターバン姿で髭を蓄える老年の獣人達、ザ・祭主、みたいな人達はディオスを凝視する。
その奥には、岩山の中腹だろうか、その岩肌部分に垂直に突き刺さる黄金に輝く槍が見えた。
ディオスは真っ青になり
「なぁ…クリシュナ…。あの…多分、奥にあるのが、聖遺物で、もし…それを抜いたら…何か…」
クリシュナが
「そうね、教主しか扱えないから、あのまま、岩肌に刺さったまま、誰も抜いた事がないのよ」
「やっぱり、帰る」
と、ディオスが告げた次に、ドクンと何かが脈動した音が聖遺物の槍から響く。
そして、ディオスの右腕にある聖印から黄金の光が漏れ、それに呼応するように聖遺物の槍が黄金に光る。
完璧に共鳴している。
それを見てクリシュナが、ディオスの右腕を引っ張り
「さあ、アナタ!」
聖遺物の槍まで掛かっている橋までディオスを運ぶ。
ディオスは、本当にイヤイヤ、引っ張られる。
そう、呼ばれた理由はこれだ。聖遺物を抜けるかどうか?
ディオスは、無理矢理に槍の刺さるそこまでこさせられた。
明らかに槍が共鳴している。
それを固唾を呑んで見つめる祭主達。
ディオスの右にいるクリシュナが
「アナタ…分かっているわよね」
ディオスは顔を背け下を向いている。
「やる!」とクリシュナが放つ。
渋々、ディオスは槍の柄を右手で掴む。
それに
「持ったフリをして、滑らせるなんてダメよ」
と、クリシュナはディオスの心を見抜いていた。
エスパーのように自分の心を見透かす妻に、ディオスは項垂れて、言われるまましっかりと槍の柄を握り、グッと引き上げた。
それは、もう…簡単に刺さっていたのがウソのように抜けたが、直ぐに、ディオスは戻し刺して
「こういう遺物は、封印されているのが、正解なんだ。だから」
と、能書きを言っている間に、槍が刺さっていた岩が砕けて、戻すべき場所が消えた。
そう、この聖遺物は自分を固定した力を解除したのだ。
もう、収まる必要はないという事だ。
ディオスは、解放された聖遺物の槍を右手に握ったまま、左手で目元を押さえた。
もう…ダメだ…。
その後、見事に解放された聖遺物は、レスラム教が預かるとして、とあるレスラム教に代々継承される秘密を聞いた。
レスラム教、シューティア教、フツ教は、立ち上げた三人が兄弟姉妹という事だ。
シューティア教は、母親が精霊の眷属に通じている長女。
レスラム教は、母親が獣人の戦士だった者からの長男。
フツ教は、オーガ族の王族の女性が母親で、その長男から。
その三人の母親達は、とある男性と婚姻していた。
その男の右腕には、ディオスと同じ聖印のようなモノがあったらしい。
二千年前のその時分は、魔物が大量に発生していた時期らしく、五千年前の聖帝のように、魔物から人々を守っていた事と、乱れた国々を纏め上げていたらしい。
それが終わって、現在、ディオスは凹んでアルヴァルドの宮殿の宴にいた。
アルヴァルドが
「まあ、面倒な事だが…。我らの教義の聖遺物がお前によって解放された。という事は…他のシューティア教とフツ教からも…」
ディオスはガクッと項垂れ
「似たようなモノがあるのですね」
「ああ…」
と、アルヴァルドは頷いた。
ディオスは内心で
なんで! こんな面倒な事に巻き込まれるんだ?
己の運命を呪った。
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