第163話 マリファスとアーヴィングのその後、後編
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あらすじです。
マリファスとアーヴィングの処遇が決まり…
マリファスは、ヴァハと双子の兄のジュンハに、後ろをジェイルと、完全包囲されている。
マリファスは、頭を抱えて怯えていた。
その目の前には、この世界で得た妻と娘の家がある。
数分後、リュートと一緒に妻のファーティマと、両親が出てきた。
ファーティマは泣き、母親に肩を抱かれていた。
父親は、苦しそうな顔をしていた。
リュートが
「入れ…」
と、マリファスに促した。
マリファスは、完全に自失して、為すがままだった。
家のテーブルに、マリファスと両脇を、ヴァハとジュンハ、正面に怒りを浮かべる妻の父親と、隣に俯いている妻のファーティマ。母親は、娘と一緒に別の部屋にいる。
ファーティマが
「本当なの…アナタ…」
マリファスは、俯いて動かない。
知られて欲しくなった。こんな事なら、死刑になった方がマシだ。
父親が
「どうして…そんな事をした!」
語尾が鋭い。
マリファスの両脇にいる、ヴァハとジュンハは、挟んでいるマリファスを横見する。
マリファスは、黙ったまま喋らない。
ヴァハが
「自分の口から言った方がいいんじゃないのか? それから漏れる情報を防ぐ為に、オレ達がいる訳だし…」
ファーティマが
「アナタ…教えて…」
と、瞳から涙を零していた。
マリファスは焦燥した顔を上げ、全てを話した。
それを聞いた、父親とファーティマは、絶句した。
「なんと…」と父親は、口を押さえて驚愕する。
その部屋の壁にいるリュートが
「こういう事です。ですから…何処かに口外するのは…」
父親はショックのあまり、頭を振り「すまん…」と、気持ちを落ち着けようと外に出た。
ファーティマが残され
「あの…夫は…どうなるのですか?」
と、リュートに質問する。
夫の結末は、想像に難くない。だが…もし、望めるなら…。
リュートはキッパリと
「極刑を望む国が多いです」
ファーティマは、想像通りに言葉を失う。
「何とか…できませんか?」
その言葉は無責任だ。マリファスがした事は重罪である。許される事は出来ない。
リュートが淡々と
「ですが、死刑にしては、この男に利用価値が無くなる。さっきの話の通り、この男は将来におけるワイルドカードです。ですから、死刑にするより、この男が持っている技術と資産を世界の、アースガイアの為に罪の贖罪として有効利用する事にしました」
ファーティマは、僅かにホッとしてしまった。
どんな形でさえ、夫が助かるのだから。
リュートは続ける。
「つきましては、この男の身柄を拘束し続ける場所として、ここを使わせて貰います」
ファーティマは驚きを見せる。
リュートが背後にいるヤドーに
「おい…あれを…」
「うむ」とヤドーは懐から銀色に輝くプーリーが幾つも重なったベルトを二つ取り出し、一つをマリファスの首に掛けると、それが締まって、マリファスの首の皮膚と同化した。
マリファスは、フッと皮肉に笑む。
自分を一生拘束する、首輪なのだ。
そして、別の一つをファーティマの首に填めると、同じく締まって首と同化した。
リュートが
「これで、この男は貴女から逃れる事は出来ない。半径二百メートル以上、離れると。この男の首にある同化した拘束具から、男の神経に麻痺させる魔法を放って動けなくして、更に、貴女の同化した首輪から、常に男の位置が知らされている。どこに逃げようとも、分かる仕様です」
リュートは、マリファスの後ろに来て
「更に、天の目で絶えず、キサマを監視している。定期的にお前の様子を見に、我々が出向く。キサマは一生、ここに縛られて人生を終える。その間、キサマが持っている英知、資産を贖罪として提供してもらう」
ヤドーが
「キサマは、この世界の多くの投資会社や銀行に多額の金貨を所有している。キサマを死刑にすると、その金貨の運用が出来なくなってしまう。それは非常に勿体ない。ので…生かして、その莫大な資産運用を行い、世界の為に使わせて貰う」
ヴァハが
「お前には、この先、地獄しか待っていない。ここで、この女性に一生、監視され、持っている能力とお金をタダで使われ続ける。ああ…残酷だね」
マリファスがそれを聞いて
「甘ちゃんが…」
そう、生かされた。しかも、死ぬまで妻達の傍に居続けられる。
こんな甘ちゃんな裁定があるだろうか…。
リュートが
「ディオス・グレンテルからの伝言だ。お前がやった事を噛み締めて、罪の意識に一生、苛まれてくれ…とな」
リュート達、ドラゴニックフォース、曙光部隊はマリファスを所定の処置にして、帰還へ向かう。
その曙光部隊が乗る護送魔導車へ、ファーティマはお辞儀を続けた。
一人、部屋にいるマリファスに、見送りを終えたファーティマが来て
「アナタ…」
と、夫マリファスの手を握り、娘のいる部屋に連れてくる。
八歳の娘が
「お父さん…」
と、マリファスを見上げる。
マリファスは跪き、娘のアヴァリアと同じ視線になり
「ああ…どうした?」
「もう、どこにも行かないってホント?」
「ああ…もう、何処にも行かない…」
アヴァリアは嬉しそうに微笑み
「よかった。何時もお母さん、お父さんの心配ばかりをしていたから」
マリファスは、娘アヴァリアを抱き締め
「ああ…本当にすまなかった。ごめんな…」
娘を抱き締めてマリファスは涙した。
そして、本心から嬉しかった。
生きて妻と娘に会えて、暮らしていけると思ったら、安心して涙した。
護送車の中で、鋭いカズイルが
「全く、なんて大甘な裁断だよ」
と、グスグス言っている。
リュートが
「コレも、我が父、アインデウス皇帝の指示だ」
ヴァハが
「こんな事なら死刑の方が良かった…って思っているかもよ」
ジュンハが
「罪の意識が無いのに死刑にした所で、それはタダの排斥と同じだ」
ヤドーが
「まあ、アインデウス様の考えは、来たるべき時に、使うカードとしての保管と、アイツに通じる協力者達に、アイツ一人に全てを押しつけて、協力していた者達には甘い裁定をした。
つまりだ。罪を押しつけて、そいつを死刑にしたら、逃れた連中は、罪が払われたと思って間違いをするやもしれん。
だが…死刑にされず、生き残っていれば、そういう連中には、負い目としての楔にもなる。これもまた…酸いも甘いも苦いも辛いも知り尽くす万年皇帝のお考えなのだろう」
カズイルが
「面倒クセ…」
そう、告げて話を締めた。
アーヴィングは、ロマリアの嘗ての自分の家があった領地に帰ってきた。
そこは復興して、焼かれた屋敷の場所に、新しい屋敷が建ち、年数が過ぎていた。
アーヴィングは頭を抱える。
なんてバカだったんだろう。
早く、ここに帰って来たら、早くに全てが分かった筈だったのに…。
屋敷の玄関には、アリミアとその家族がいた。
アリミアが
「さあ…兄さん…」
アーヴィングを中へ入れた。
そして、母親が横になっているベッドにアーヴィングを案内する。
アーヴィングが部屋に入ると、ベッドに寝ている白髪の老婆がいた。
もう、百歳越えしている母親に、アーヴィングは近づき
「母さん…」
母親は、アーヴィングを見て
「ああ…アーヴィン…」
と息子の愛称を告げて手を伸ばす。
その手をアーヴィングが握り
「ごめんよ。母さん…オレ…帰って来るのが…」
母親はしわくちゃな顔に微笑みを浮かべ
「いいのよ。お帰りなさい…」
「母さん」
と、アーヴィングは母親が握ってくれる両手に額を当て、涙した。
アーヴィングはここに帰還を果たしたのだ。
バルストラン、ディオスの屋敷では、子供達が来て五日頃、ディオスは、書斎でアリストスから来たエニグマ、マッドハッターことマリファスと、アーヴィングの処遇についての報告に目を通していた。
マリファスは、死刑も検討されたが…その持っている技術と、膨大な資産を世界の為に使う事で一生の贖罪とするオチで…。
アーヴィングは、マリファスに利用されていたという事で、多少の監視はあるも、それなりに自由なオチで決まった。
ディオスはフッと笑み
マリファスとアーヴィングの、出生についての資料を見る。
アーヴィングは、まあ…分かるとして、マリファスは全くの白紙である。
「ほぅ…何か隠さないとマズイ事でもあるのか?」
と、ディオスは邪推するも、まあ…いいか…と報告書を机に置いた。
そして、手を組み、あの聖帝降臨祭の時に、アインデウスが言っていた言葉を思い返す。
あと、一つ、エニグマの強大な柱が残り一つとなった。
それが、取り払われた時に、我らが秘密にしているエニグマに関する全ての話を、皆に話すと誓う。
その言葉が信じられるか?どうかは、置いといて、エニグマの強大な主柱は、残り一つとなった事に、ディオスは怪しく笑む。
あと、一つで潰せる。覚悟しやがれ、エニグマ。
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