第156話 英霊の慰霊祭の準備
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あらすじです。
嘗ての二百年前に世界の守護者であった魔王ディオスの事実が広まり、ディオスは…
ルクセリア王国、エニグマの魔の手に落ちていたカイド王子とユリア王女の救出事件は、二人の救出という最良の結果にて幕を閉じた。
そして、それから一週間後、ロマリア帝国による。
ドラックール英霊祭という、慰霊祭を行う為に、世界中の王家へ参加をお願いした。
無論、二千年前に関係したアインデウスを受け継ぐ現アインデウスも参加するのは、当然であった。
だが、その前に、この一週間の間に大きな動きがあった。
ルクセリアのエニグマの収束もそうだが…アーリシアの北方、エルフの国、ノーディウス王国が、とある本をノーディウス王家から出版させる。
その題名は…
魔王ディオスの真実 ~汚名を背負ってでも世界に尽くした男~
アーリシアの国中でその本が出るや否や、一気に一億冊というヒットになった。
嘗てアーリシアを苦しめたとして、歴史に名が残っていた魔王ディオスこと、ディオス・ディヴァイアスは…実は、アーリシアを種族間で分断して混乱に陥れた者達と戦い、アーリシアを纏める為に、あえて汚名を被って死んだ事にして、後にアーリシアを混乱に陥れた者達の一味を追って世界を駆け巡り、アーリシアと同じく混沌とさせている一味と戦い、世界を守っていたと…。
そして、その手助けに万年皇帝、当時のアインデウスも協力していた事も…。
この本を発表や否や、多くの者達がアリストス共和帝国の皇帝、現皇帝でアインデウスを継承する現アインデウス皇帝に問うと、公的な取材の場で
「全て事実である。皆の者よ、今まで隠していてすまなかった」
そう謝罪した。
この本は、世界に広まって、二百年前の事実が覆された事に衝撃が走った。
連日、報道番組を持つ情報社は、この特集を大々的に行った。
なぜ、このような事実が明るみになったか…。
その理由は、本の最後のページにあった。
今、世界を騒がせているエニグマという組織が、実は…二百年前に世界を混沌にしようとした者達の後身だと分かった事。
そして、この世界に、世界を守護したディオス・ディヴァイアスの次世代が出現した事。
その世界の守護者の次世代、今代のディオスが出現した事で発表した…と。
それは、ディオス・グレンテルの事を示していた。
丁度、一週間の真ん中。
ディオスは屋敷に帰っていた。
ルクセリア王国のエニグマに関する情報と扱いは、頭にしているアリストスが指揮を執っているので、ディオスは必要とされていない。
対エニグマ機関、ザラシュストラの最高位長官、頭はアインデウスなのだ。
ディオスは、その下にいる。
上に言う事には逆らえない。仕方がないが…だが…徐々にエニグマの事が明るみになる。
何れ、エニグマが何なのか…分かる日も近いだろう。
そう、思いつつディオスは屋敷で、ロマリアとルクセリアの行う、大英霊祭の準備をしていると…その背中をジーと見つめる人物がいる。
それも複数、ユーリ、チズ、ココナの三人だ。
ディオスが後ろを振り向くと、三人は急いでドアの脇に隠れる。
「はぁ…」とディオスは溜息を吐き
「どうした?」
と、優しく尋ねる。
三人は戸惑いながら顔を出して
「その…」とユーリが本を取り出す。
それは、あのノーディウス王家から出た魔王ディオスの本だ。
「これって本当なんですか?」
ユーリが恐る恐る聞く。
ディオスは頭を掻いて
「ああ…事実だ」
チズが
「旦那様。魔王…。ディオス・ディヴァイアスと同じく、別の世界から…」
ディオスは肯き
「そうだ。オレは、この世界の出身ではない。別の場所から来た異邦だ」
ココナが
「本当に…」
と告げた次に
「何をしているんですか!」
レベッカが来た。
三人は戸惑いを見せるも、レベッカが
「どんな事があっても、旦那様は旦那様です。三人とも仕事がまだ、残っているでしょう」
三人は『はい…』と肯き、各々の仕事へ戻っていく。
レベッカにディオスが
「すまない。レベッカさん」
レベッカが深く溜息を吐き
「前に、旦那様が…自分がこの世界の住人でないとしたら…と言っておりました。わたくしは恥ずかしいです。その言葉を信じられなかったのですから…」
ディオスはフッと柔らかく笑み
「そんなもんさ。気にしなくていいよ」
レベッカがディオスの準備する部屋に入って
「わたくしも手伝います」
「すまない」
ディオスとレベッカで準備していると…
「奥様達は…」
そう、クリシュナやクレティアにゼリティアは知っているか…と。
ディオスは額を掻きながら
「三人とも、とっくの前から知っているよ。オレからバラした。疑いもせず、信じて受け入れてくれた」
「そうですか…」
レベッカは頷いた。
素晴らしい奥方達だと…。
ディオスが、準備を終えて待合にしている隣のフェニックス城砦町に来ると、視線がディオスに集中する。
ディオスは頭を掻く。
どことなく、遠慮がちで距離を取る町の人達。
ディオスは、待合のギルド食堂へ来ると、ナトゥムラがいた。
「よう。準備は終わったか?」
「ああ…」
ディオスは頷く。
そこへ、ヒロキが来て
「ディオスさん…」
その両手には、あの魔王ディオスの本があった。
ディオスは額を掻いて
「すまん。色々とウソをついていた。申し訳なかった」
ヒロキは頭を横に振り
「だって、何となくそうじゃないかなぁ…って気付いていた所があったから。何て言うか…その、勝手にオレ達が…勘違いを。いや、本当の事を言えば、どうして気付いてやれなかったんだろうって。みんな思って、申し訳なくて…」
ディオスはヒロキの肩を叩き
「いいんですよ。その辺りは自分も分かっていますから。また、帰って来たら一杯やりましょう」
「ああ…当然だ」
ヒロキは頷いた。
ディオスがナトゥムラと一緒に外に出ると、町の人達がいた。
町の人達の一人が
「その…気付いてやれなくて申し訳なかった。ディオスさん…」
ディオスは微笑み
「自分は、ディオス・グレンテル。ここに住んで生きている魔導士です。それだけです」
町の人達は笑み
「また…一杯やりましょうや」
ディオスは微笑み
「はい、是非」
ディオスは王都の飛空艇空港から飛空艇に乗り、ロマリアへ向かう。
ロマリアから、ルクセリアに行く魔導列車に乗る為に。
飛空艇の下部展望レストランから、過ぎていく大地を見ていると、ソフィアが来て
「ねぇ…どうして、アタシには本当の事を黙っていたの?」
ディオスは肩を竦め
「信じてくれたか?」
それを聞いてソフィアは項垂れる。
多分、信じなかっただろう。
「クレティアやクリシュナ、ゼリティアは…知っていたの?」
ディオスは肯き
「ああ…ずっと前にな。ほぼ、三人とも同じ頃に言ったかなぁ…」
「そう…」
と、ソフィアの口調は何処か寂しそうだった。
自分とディオスとの間に大きな溝がある気がして悲しかった。
だが、ソフィアは気張り胸を張って腕を組み
「でも、これでやっと、アンタがこの世界に対する知識がないのが分かったわ。これから、一般常識ってヤツを叩き込んでやるから」
「いや…必要ないのでは」
口答えするディオスにソフィアが背中を叩き
「アンタは、まだ! この世界ではビギナーなの! 分かった!」
「う、う…ん」
ディオスは、何か納得出来なかった。
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