第155話 祈りと絆の歴史
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あらすじです。
目覚めた大怨霊達に、ディオス達は様々な事をするも…
復活した大怨霊の軍団を、ナトゥムラの巨狼に乗って空か見下ろすディオス達。
巨狼の背に乗っているディオスへ
『グレンテル様。どうやら、事態は最悪な方向へ向いてしまいましたね』
ディウゴスの通信が入る。
「ディウゴスさん。攻撃してくれませんか?」
『ふ…効くかどうか、分かりません。二千年前の大怨霊初期の時に、大量の魔導物量をぶつけても、その攻撃が呑み込まれて無効化しました。その当時よりかは…魔導兵器は進歩していますが…』
「でも…やってみる価値はあると思います」
『そうですね。分かりました。やってみましょう』
ディウゴスの伝令によって、ディスティニーアークに対処していた大軍勢が、復活した大怨霊達に向かって魔導砲の先を向け、一斉に攻撃を開始した。
空を魔導砲撃で染め上げ、攻撃が迫る。
それに大怨霊達は、集結、そして、二万の怨霊軍勢から、漆黒の朧気な千メータの龍のような何かが噴出して、その顎門から漆黒のブレスを放ち、空を染めてしまった攻撃の蒼穹を消した。
ディオスはそれを見て
「うわぁ…」
と、顔を引き攣らせる。
そして、巨狼の核であるナトゥムラに抱えられるマッドハッターに
「おい、マッドハッター。何か、対応策はあるか?」
マッドハッターは渋顔をして
「復活しか、考えていなかった。それ以外は…」
ディオスは頭を振って
「はぁ…対応策は無しか、それなら…」
ディオスは飛翔魔法で、巨狼から降りて、通信する。
「全軍、復活した大怨霊から数キロの距離を取れ」
ディオスの通信で、合同の巨大軍勢が大怨霊から五キロ程度の距離を取る。
それを確認したディオス。
ディオス達は、大怨霊から一キロ程度の距離だ。
ディオスは、とある魔法を発動させる。
”クワイトロール・アブソリュート・フィールド”
二万の大怨霊達から数百メータ離れた間隔で、大怨霊達の周囲を強力な空間防壁で囲んだ。
ナトゥムラが真っ青になって
「お前…まさか…」
ディオスは淡々と
「全部隊に通達、防御壁を張れ」
ユリシーグと信長は焦り、急いで二人して乗っている巨狼の前に強力な防壁を張る。
ディオスはとある魔法陣を展開する。
ディオスを中心として、二メータ前後の立体魔法陣が展開される。
右手を閉じ込めた大怨霊達に向けるディオス。
「滅尽終炎魔法」
そう、ディオスが開発した。魔王ディオスが作った極大殲滅魔法バルド・フレアを越えるフレアの魔法を発動させる。
”ノヴァブレイク・フレア”
閉じ込めた大怨霊達の頭上数百メートルに光が収束する。それが、圧縮爆発、圧縮爆発、と連続崩壊と空間による超圧縮を繰り返して、超新星爆発を再現した。
摂氏数億度に近いフレアの爆発が、大怨霊の軍団を包む。
その威力を外へ与えないように、強力な空間防壁で防ぐも、その余波が漏れ、周囲に暴威を振りまく。
宇宙に向かって、光のジェットが飛ぶ。
エニグマを倒す為に集まった世界の軍団は、その余波から身を守る為に、防壁を展開、必死に堪え、ナトゥムラも何とか巨狼神の力と、信長にユリシーグの防壁に守られ、その場に止まり、ディオスは自身にあるシンギラリティの魔力を大放出させ、軽々とその場に浮かぶ。
全員が圧倒的する光景に終わったと思ったが…爆発の光と衝撃波が終わり、現れたのは…さっきと同じ大怨霊達が、漆黒の巨大龍を放ってその力を呑み込んで中和している場景だった。
そう、大怨霊達は無事だった。
「クソ!」
と、ディオスは悪態を吐き、大怨霊の軍団をそのまま閉じ込めようと強大な空間防壁を展開したままにするも、それさえも浸食中和して、穴を開けて大怨霊の軍団は出て行った。
ディウゴスが通信で
『やはり、アインデウス様に、二千年前のように…』
と、ディオスに告げた後、大怨霊の軍団が移動速度を早めた。
「マズイ! 侵攻先にいる人達の避難を!」
ディオスが叫んだ。
大怨霊の軍団達は、時速五十キロ程度の速度で、とある場所に向かう。
その方角はロマリアだ。
大怨霊の軍団達は、嘗てロマリアに進攻したルートをなぞって、ロマリアの首都モルドスへ向かう。
その道は、今やロマリアとルクセリアと繋ぐ大きな街道で、民間人の家々が多くある。
ディオスは、神格二式で飛翔して、魔法攻撃を大怨霊の軍団に浴びせて、自分へ向けようとするも、攻撃する魔法攻撃は全て呑み込まれて消え、そして、最悪な事に、街道へ入ってしまった。
ロマリアとルクセリア、アーリシアの軍隊が、街道にいる民間人の避難を行う。
メイン街道の住宅の住民避難が、間に合わない。
クソ!と、ディオスが苛立ち、最悪が来た。
大怨霊が、避難をしている住人と、それを手伝う軍人に接触する。
呑み込まれるか、殺される!
だが、驚くべき事に、大怨霊達がその一団を避けた。
「え?」
戸惑うディオス。
そう、驚くべき事に、大怨霊達は、住民や避難を手伝う軍人達を避けてくれる。
それに怯えて攻撃する者に、大怨霊は迫るも、手を上げて無抵抗になると、何も無かったかの如く避ける。
ディオスはそれを見て考えていると、その浮いている場に、グルファクシが来た。
その甲板にディウゴスがいて
「どうしましょう。アインデウス様が使える大封印は、周囲を大きく巻き込みます。住民がいては…それに巻き込まれてしまい…」
ディオスは、ジーと住民や何もしない軍人達を避ける大怨霊達を観察して
もしかして…彼らは…。でも…いや、これしか…。
「グレンテル様!」
ディウゴスが呼ぶ。
ディオスは
「ロマリアへ、ライドル皇帝に通信します」
ロマリアの皇帝城の皇帝の間で事態を見ていたライドルに、ディオスがとある事を告げる。
それを聞いたライドルが
「本当にそれが…出来るのか? 二千年も我らを…ロマリアを恨んでいた御霊達だぞ」
ディオスは通信で
『でも、やってみる価値はあると思います』
ライドルが迷っていると、同じくその場にいて通信を聞いていた先代皇帝ライハドが
「ライドル! やってみようぞ!」
「よし!」とライドルは覚悟を決めた。
数時間後、大怨霊の軍団の進軍の先に多くの軍人達が並ぶ。
彼らには共通点がある。どちらかの片親がルクセリア出身だ。
そして、その一団の先頭にライドルとライハドの乗せた小型飛空艇が着地、ライドルとライハド、そして、ライドルの五人の妻達で、ルクセリア王家の出の南方がいる。
更に遠くからフェンリルの神式に乗せられ、超音速で到着したディオス達一団も来た。
ディオス、イルドラ、ナトゥムラとそれに捕まるマッドハッター、アーヴィング、ユリシーグ、信長、その全員がライドルとライハドに近付く。
ディオスが
「もう少しで…来ます」
「分かった」とライドルが肯き、ナトゥムラに捕まるマッドハッターを睨んだ。
マッドハッターは目をそらした。
こうして、ロマリア皇家の上皇から先代皇帝、現皇帝と三人が揃い、そして、ルクセリアと縁深い軍人達の一団は、彼ら…大怨霊の軍団を待つ。
地響きが正面から迫る。
「来た…」とディオスが告げた数百メータ先、大怨霊の軍団が進攻してくる。
イルドラ、ライハド、ライドルの三人が並び、後ろに皆を背にする。
その傍にディオス達が、もしもの時の為に構える。
迫る、大怨霊の軍団。そして、その歩が遅くなる。
やがて、歩く程度になり、ディオスが用意した者達の前、十メータ先で止まった。
大怨霊の軍団から刺すような視線が、ディオス達に向けられる。
ディオスの思った通り、この大怨霊達には明確な意思がある。
漆黒の朧に包まれ、赤く血走るような瞳をしている大怨霊達が、ディオス達を凝視している。
彼ら怨霊達を見たイルドラが、突如その場に跪き、ライハドもライドルも同じように跪く。
それに、えええええ!とディオスは驚き、まだ驚きは続く。
イルドラ達は自分達が情けなかった。
二千年間、封印された彼ら大怨霊達の慰霊を行ってきたので、その怒りが収まっていると勘違いしていた所があったのを気付き、イルドラとライハドにライドルは、彼らに向かって土下座した。
皇帝一族、三代の土下座、そして、三人は面を上げ両手を握り合わせイルドラが
「君、受けたもう」
それに、ライハド、ライドルが続き
「君、受けたもう」
と、二人して言葉して怨霊達に祈りを向ける。
その後、背後にいる者達も同じく跪き土下座して、同じく両手を握り合わせ
”君、受けたもう、君、受けたもう、君、受けたもう”
貴方達の気持ちを全て受け止めると、呟き続ける。
ディオス達は驚きで戸惑っていると、一機のゼウスリオンが到着する。
それはアルミリアスのゼウスリオンだった。
そのゼウスリオンからアルミリアス、カイド、ユリアの三人が降りて、ライドル達の隣に並んで跪き、同じく怨霊達に向かって祈りを捧げる。
君、受けたもう。君、受けたもう。君、受けたもう。
君、受けたもう。君、受けたもう。君、受けたもう。
君、受けたもう。君、受けたもう。君、受けたもう。
そう、大怨霊達の気持ちを全て受け止めると、祈りを捧げた。
その場の驚くべき雰囲気に、ディオス達は驚き続ける。
大怨霊達は、ライドル達を通して、ロマリアとルクセリアの歴史を視る。
二千年前、自分のやった事を後悔したロマリア女帝は、深く反省し、ルクセリアとの共存を始めた。
ロマリア皇家と、ルクセリア王家の交互に繰り返される絆の歴史。
さらに、ロマリアの民とルクセリアの民が、お互いに力を合わせて、お互いの国を良くしていく日々、そして、お互いの絆が結ばれ、何度も何度も、お互いが結ばれる歴史を繰り返す。
そして、ロマリアにもルクセリアにも、両国が絶対に分かつ事が出来ない絆が二千年も紡がれる。
その歴史の証である、ライドル達の後ろにいる軍人達。
彼らの血には、嘗て大怨霊と化した兵士達の血族がいた。
怨霊達の息子や娘が子孫が、絆を通じてロマリアと結ばれ、ルクセリアを救い、ロマリアを支えた歴史。
大怨霊達の憎しみに燃える瞳から涙が溢れる。
ディオスはその変化に気付いた。
「やった!」
そう、大怨霊達を説得出来た。
大怨霊達が流す涙が、己を覆う大怨霊の力を消してしまう。
涙からヒビが入り、漆黒のおぞましい外装が剥がれた。
そこには、白銀と輝く魔導鎧を纏う英霊達がいた。
その英霊達が割れて一人の男が出てくる。
二千年前、大怨霊を行ったドラックールだ。
兵士の英霊とは違う、豪華な白銀の魔導鎧に包まれるドラックールは、祈るカイドとユリアの傍へ近付き、カイドとユリアはドラックールを見上げ、ドラックールは跪き、二人の肩に手を置いて微笑んだ。
祖先の微笑み、それだけでカイドとユリアは涙した。
そして、祖先ドラックールは立ち上がり、ライドルの前に来ると、腰にある剣を抜いた。
ディオスは構える。
何かやるつもりか!
そうではない。黄金に輝く装飾が施されたルクセリア王家の神器の剣を、両手に乗せて跪き、ライドルに差し出す。
ライドルは瞳から大粒の涙を零しながら両手を差し出す。
その両手に、ルクセリア王家の神器の黄金剣をドラックールは乗せて
”ありがとう…”
それを、その場にいた全員が聞いた。
それをライドルに渡すと、ドラックールは空へ昇る。
それに、英霊達も続く。
もう、彼らは大怨霊ではない。
この世界、ロマリアとルクセリアを見守る英霊となって天へ帰ったのだ。
ライドルは涙して頭を下げ、イルドラとライハドも同じく感謝して涙していた。
空に昇る英霊、ドラックールがディオスを見て微笑む。
ディオスもそれに気付いて微笑む。
”ありがとう。聖帝よ”
「え?」
と、ディオスは驚き背筋がビクッとした。
光の空へ英霊達は帰って行った。
それをアリストスの世界樹城で見たアインデウスは、英霊達の事を思い王座で祈った。
「これからも、世界を見守ってくれ…」
マッドハッターは、頭を振った
「負けた…はは…」
そう、完全に敗北した。この世界の絆に敗北したのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話は完成次第あげます。
ありがとうございました。