第153話 魔王ディオスの真実
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
暴かれるアーヴィングの真実、そして、それは魔王ディオスの真実にも通じていた。
漆黒の翼を使ってマッドハッターは、本陣がある巨大施設へ向かう。
そこは、高度八千メートルだった。
リーレシアとルクセリアとの堺、魔物が多く発生する平原の空、その空が大きく歪み、そこからゴルドのディスティニーアークと同じタイプの五千メートルのベイゴマ型円盤式超巨大戦艦が出現する。
空間を歪めて姿を隠していたのだ。
ここは超古代遺跡が多いリーレシアの傍なので、飛空艇が通る事は無い。
このような超巨大戦艦を隠すには打って付けだった。
マッドハッターは直ぐに、第二のディスティニーアークへ帰還して、急いで中央に行く。
影で作った魔獣に乗るアーヴィングは、不可視を解除したディスティニーアークを見て
「まさか…」
と、驚き急いで向かった。
その遠方にはディオス達を乗せた戦艦グルファクシが迫っていた。
ディオスは、現れたエニグマの施設を額に手を当て見つめ
「正体見えたり」
ディウゴスが
「では、後の攻撃の誘導は…」
「お願いします」
と、ディオスは頷く。
ナトゥムラがフェンリル神式を展開、巨狼神となり
「おい、行くぞ!」
と、呼び掛ける。
「ああ…」とディオスに、信長とユリシーグの三人はその巨狼神の背に乗ってマッドハッターのディスティニーアークへ向かった。
巨狼神の喰らい尽くす力によって、ディスティニーアークの装甲に穴を開け、内部に潜入した。
マッドハッターは、ディスティニーアークの中央にいる。
そこは幾つもの黒い円筒が立ち並ぶ不気味な場所だった。
そこにある中央操作場でマッドハッターがコンソールを操作していると…
「マリファス」
アーヴィングが来た。
マッドハッターは操作をしながら
「アーヴィング、今すぐ、ここから…このルクセリアから脱出する準備をしろ」
アーヴィングが
「なぁ…マリファス、オレは…死んだのか?」
マッドハッターはコンソールを操作する手を止めて、アーヴィングを見る。
「答えてくれマリファス!」
マッドハッターの本名を叫ぶアーヴィングに、マッドハッターは渋い顔をしていると…
「オレも、是非、聞きたいなぁ…」
ディオスと、ナトゥムラ、信長、ユリシーグの四人も来た。
アーヴィングの後ろにいる宿敵四人を見つめるマッドハッターは
「キサマ等…」
と、悔しそうだった。
アーヴィングが願うようにマッドハッターを見つめている。
マッドハッターは、痛そうに目を瞑り、とあるコンソールのスイッチを押した。
周囲にある黒い円筒が下がり、中にあったモノを露出させる。
それは、培養槽に浮かぶアーヴィング達だった。
アーヴィングはそれを見て
「あああ! あああああああ」
その場に座り込んでしまった。
ディオスはそれを見て思った。
最悪な展開だぜ。
マッドハッターが語る。
「アーヴィング。私は七十年前、お前が民意私兵団の弾丸によって胸部を打たれ頭部が飛んだ場所にいた。私は、その飛んだお前の頭部を仮死状態で保存出来る装置に入れて、持ち帰った」
淡々とマッドハッターが独白する。
「お前の仮死状態の首から、幾つものお前の複製を作り、使えるように改造して使っていた。だが…どうしてだか…どれも短命だった。
そこで、十年前に…仮死状態だったお前の頭部に、体の大半を元に戻す再生医療と、強化する改造を施した。
操り易いように、記憶の改ざんもした」
アーヴィングが
「オレの…七十年間もあるマリファスとすごした記憶は…」
マッドハッターはアーヴィングを見つめ
「複製達の記憶を、お前に統合した」
アーヴィングが
「じゃあ…オレが信じていた復讐も、意義も何もかも、ウソだっていうのかよ!」
マッドハッターは瞳を閉じて
「すまなかった。許してくれとは言わん。だが…すまなかった」
ディオスは最悪な茶番に、呆れてしまう。
「はぁ…」
と、ディオスは溜息を漏らすと、ドンドンと連続する攻撃音と震動が響く。
外では、ディウゴスが仲間に連絡して、マッドハッターのディスティニーアークを攻撃させていた。
ディスティニーアークを覆う大軍隊、その中にブエナでの戦闘を終えたゼウスリオン達もいた。
アルミリアスがゼウスリオンで攻撃しながら
「生きてここから出られると思うなーーーー」
怒りが篭もっていた。
更にアーリシアからも援軍も届き、ロマリア、アリストス、アーリシアの超巨大軍団に包囲されてディスティニーアークはタコ殴りにされる。
ディスティニーアークの中央で、攻撃の太鼓を聞くディオスが
「で、だ…。どうする? 投降するか? それとも…?」
マッドハッターは、僅かにコンソールを操作する。僅かな移動する慣性を感じる。
ディオスは呆れ笑み
「逃げられると思っているのか?」
マッドハッターはディオスを睨み。
「キサマは、本当に苛立つ男だ。あの時、殺しておけばよかった」
「あ、そう…」とディオスは嘲笑う。
マッドハッターは睨みながら
「お前を見ていると、二百年前に、我らの先陣を滅ぼした男を思い出す」
ディオスが渋い顔をして
「二百年前?」
マッドハッターは睨み笑み
「そうだ。二百年前に! お前と同じように別の場所からこの世界に渡ってきた。あの男、ディオス・ディヴァイアス! 魔王ディオスのようになぁ!」
ディオスの胸部には、中の事態を逐次伝える小型の魔導通信ピンが挟まっていた。
マッドハッターの言葉が、事態の解決に当たっている軍隊達全員、ロマリアの皇帝の間にいる全員、アーリシアの各関係する軍隊達や十二国王族の全員、アリストスではアインデウス達に通信で伝わっている。
その報告をバルストランでは、ディオスの家族を守ろうとソフィア達が、ディオスの屋敷に集まって聞いていた。
ソフィアはそれを聞いて驚きに顔を染めていた。
同じく傍で聞いているクリシュナ、クレティア、ゼリティアの妻達は渋い顔をしていた。
ディスティニーアークにてマッドハッターの言葉が続く。
「二百年前、我らの最初の前身が、この世界に降り立ち、世界を混沌とされる活動を開始した。
その時に、アーリシアの各種族との争いを煽り、アーリシアで種族間戦争を勃発させた。
事態は上手く回り、前身達の思いの通りに進んでいた時、あの男が、後に魔王ディオスと呼ばれる、ディオス・ディヴァイアスが接触した。
当時、人族側で絶大な力を見せていたヤツは、我々にとある提案を持ちかけた。
アーリシアを巨大帝国にして、世界に対して覇権を取ろう…となぁ。
さらなる混沌を望んでいた前身達は、それに乗った。
アーリシアは、魔王ディオスによって統一され、種族間隔離政策が開始。
アーリシアは巨大な帝国となって、世界の蹂躙を開始する予定だった。
だが…魔王ディオスは!
我らの前身達が自分に集中した時、一斉蜂起がアーリシアの各地で勃発した。
そうだ!
魔王ディオスは、始めから、アインデウスと通じて、前身達が姿を現して集中した頃合いを見て、アーリシアにいた前身達の殲滅を画策していたのだよ!
隔離政策も、種族間の憎しみの熱を冷まし、考えさせる手段だった!
一斉蜂起したアーリシアの者達と、魔王ディオス達に挟まれて、アーリシアにいた前身達は殲滅された。
その後、魔王ディオスという汚名を自分に着せて、死んだ事にして、元の十二王国へ戻りアーリシアを纏めさせ、多くの仲間と共に、世界に散らばる前身達の殲滅を行い続けたんだよ!」
マッドハッターから聞かされる証言にナトゥムラは驚愕していた。
それはユリシーグも、信長も同じだったが…ディオスだけは違った。
「やっぱりな」
と、ディオスは鋭く笑む。
そう、前から思っていた事だった。
魔王ディオスが、どこか仕組まれた事にように思えたからだ。
まるで、そう今のエニグマと戦う状況の為に作られたように、思えて仕方なかった。
マッドハッターはディオスを指さし叫ぶ。
「本当にムカつく! お前の両脇にいる連中、お前の妻達、お前の味方する全て、その全てが魔王ディオスの血族達であり、嘗て二百年前に、協力した者達の子孫だからだぁぁぁぁ
ああ! ふざけんなだ!
戦闘系に特化したスキルの十二支族、神格召喚、アクセラレーション、絶対両断剣、神操りの舞、他にも他にも!
アーリシアとアフーリアのレオルトスに渡った戦闘系スキルの子孫達の始祖は、魔王ディオスなんだからなぁ!
我らの前身を殲滅した男の子孫が!
その男と同じく現れた男、キサマをサポートしている!
オルディナイトもその血族の一つなんだからなぁぁぁぁぁぁ」
ナトゥムラの拳に力が入る。
ああ…オレは、嘗て世界を混沌に落とした連中と戦った祖先達の導きによって、今、再び世界を混沌から守る男に出会った。
これ程に、誇りだと思う事なんてない。
マッドハッターは両手を威圧に広げ
「だが、我らの前身もただ、殲滅されはしない。魔王ディオスを殺す為に、あるモノを作った。分かるか?」
ディオスは笑み
「ヴァシロウスだろう」
「正解だ!」
マッドハッターが両手を高く伸ばし
「死に値するダメージを与える事が出来た」
ディオスは目を閉じる。
ヴァシロウスが現れた初期に、賢明に戦った大魔導士がいた。その人物は赤髪で初老、当時のオルディナイト女性大公と結婚した男性だった。
ディオスはフッと笑み。
そうか…その人が自分に魔王なんて汚名を着せて自分を死んだ事にさせても、世界の混沌と戦った人だったのだ。
自分の妻達、クレティア、クリシュナ、ゼリティアは、本当は世界の為に戦った、オレと同じくこの世界にきた男の子孫だった。
ディオスの体に見えないが、強く暖かい力が漲る。
マッドハッターは続ける。
「魔王ディオスは、死に際に、とある予言を残した。
自分の子供達から数世代後に、必ず、自分と同じようにこの世界に渡ってくる者がいる。
その者は、自分より更に前に行く者だ。
そして、その時に必ず、再び世界を混沌にする者達が復活している。
その者は、強大な力と恐るべき英知を持って、必ず、再び復活した混沌を倒す。
子供達よ、必ず、その者と傍にあり続け、世界の混沌を払え。
それまで、我の事はアーリシアを纏める為の悪として使いなさい…となぁ…
ははははははははは!
その予言の者、それは、お前だよ! ディオス・グレンテル」
その通信を聞いていたエルフの国ノーディウス王宮では、全員が涙に包まれていた。
そう、ノヴァリアス王も、世界を守護した魔王ディオスの子供だった。
ノヴァリアスは涙して天を見上げ
「これで、我らがお父様の遺言として守っていた全ての秘密を公開出来る」
魔王ディオスではない。
世界の守護者、ディオス・ディヴァイアスの歴史を開かせる。
辛かった。どれだけ、真実でない事を貫くのが苦しかったか…。
だが、その苦しみが終わった。
世界を混沌とする者達の後身、エニグマがディオスの正体を明かしてくれたのだから。
マッドハッターの告発にディオスは一歩前に出た。
空気が震えた。世界が震撼した。
世界の守護者が再び降臨したのだ。
通信を聞いていた全ての者達の心に光が灯る。
伝説が始まると告げていた。
ディオスは力強く笑み
「オレはそれを背負わないといけないなぁ…。なぜだか分かるか? オレは…もう…来た別の世界の住人じゃない。ディオス・グレンテル。この世界の住人だ。
オレは! 子や妻達、家族、友、仲間、それに繋がる全てを守る!
それが! オレの意思だぁぁぁぁ」
ディオスの後ろに朧気に、人が出現する。
亡き魔導士、嘗ての二百年前の守護者、ディオス・ディヴァイアスの魂である。
ナトゥムラと信長、ユリシーグはそれを見た。
マッドハッターも見た。
ディオス・ディヴァイアスの魂が、ディオスの肩に手を置く。
ディオスはそれを察した。
右肩にある世界守護者の魂の手に、自分の左手を置いた。
”ありがとう。頼んだよ”
そう、ディオスに告げ、嘗て汚名まで背負って世界を守った先人が、今のディオスに願いを託した。
グッとディオスは握り、そして、マッドハッターを指さす。
「さあ、能書きは終わったか! キサマ等を倒す時間の始まりだ!」
高らかに宣言した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話は完成次第あげます。
ありがとうございました。