第142話 覚悟を決めた者
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
玲奈と信長、玲奈が助かると信じる信長だが…それは…
信長は、奇跡を信じて疑わなかった。
絶対に玲奈は助かる。絶対に玲奈は生き続けられる。
そう願い続けて玲奈の世話をした。
玲奈が気をつかって、休みを提案する。
「何時も悪いわ…。だから、休んでよ」
信長は微笑み
「じゃあ!」
玲奈をつれて何時もの海の上にある養殖場の釣り堀に車イスの玲奈と共に来た。
天気は快晴、潮風が気持ち良い。
信長は玲奈を隣に、一緒に釣りをする。
「もう…」
と、玲奈は呆れる。
「お!」
信長の釣り竿に引きが入る。
信長は器用に引いたり押したりして、魚と格闘しながら
「ねぇ…どうして? こんなに助けてくるの?」
と、玲奈は釣りで必死の信長に呼び掛ける。
「あ…」
魚が離れて信長は残念そうな顔になる。
玲奈は聞いていないと思っていたが…
「そんなの、気付けよ…」
信長がポツリと告げる背中。
玲奈は、フッと微笑む。
そう、信長は玲奈が好きなのだ。
好きな女の子の為に色んな事が出来る。幸せな事はない。
見返り、そんなの始めから貰っている。
玲奈の嬉しそうな笑顔と、生きているという事実だけで、十分、おつりが来る。
二匹のタイを釣り、信長は玲奈の車イスを押して帰り道を進む。
そして、「喉が渇いたなぁ…なんか、買ってくる」と信長が車イスを屋根の下に置いてブレーキを掛ける。
信長が離れた後、玲奈は、後ろのある家から声が聞こえる。
「玲奈ちゃん、もたないって…」
「そんな…だって奥さん…旦那さんも…」
「本当に惨いことを…」
玲奈はそれを聞いて俯く。
そこへ、信長が帰ってくる。
「どれがいい?」
二つの飲み物を見せる。
玲奈は微笑み
「そうだなぁ…」
と、自分の好きな方を手にして
「ありがとう…」
信長は照れくさそうに
「いいさ」
玲奈の家で、信長が釣り上げたタイが夕食に並ぶ。
玲奈の母親、妹の玲愛、信長、玲奈の四人で楽しげな晩餐が始まる。
楽しげな話し声が響き渡る。
妹の手を借りて玲奈は風呂を終えて、眠る寸前
お願いです。神様…もう少し、もう少しだけ…
そうして、数日が過ぎる。
信長は何時ものように玲奈を車イスに乗せて色んな場所へ行く。
とにかく、玲奈がここに行こうとするなら、何でもした。
信長が、玲奈の腕を見る。
少しづつ少しづつ、腕が細くなってくる。
黙った信長に玲奈が
「どうしたの?」
「ああ…何でもない」
と、信長は笑う。それは気のせいだ…と言い聞かせて。
日差しは強い、だけど日陰に入るとすごしやすい。
休みながら、玲奈を運ぶ信長。
その歩には、願いがこもっていた。
必ず、良くなる。絶対に!
だが…玲奈は起き上がれなくなる。
誰かの力を借りないと体が起こせない。
持つ力も無く。誰かに食べさせて貰うしかない。
それでも、玲奈は世話をしてくれる信長に微笑む。
「ありがとう…」
信長の瞳から涙が溢れる。
「そんなのいいんだよ! そんなのいいんだ!」
お礼を言うのは自分だ。
何時も感謝をくれる。それだけで十分、もう十分なんだ。
信長は玲奈に縋る。
「お願いだ。生きてくれ。オレの為に生きてくれ。どんな事があっても、どんな事をしてもいいから、生きてくれ。頼む…」
信長は泣きながら、玲奈の膝に抱き付き願い乞う。
玲奈は優しくその背を撫でる。
玲奈の命は尽きる寸前だ。
本来なら魚をさばく工場の仕事に行く母親も、学校があるはずの妹も傍にいる。
信長もそばにいる。
横になる玲奈のそばに誰か居続ける。
玲奈を一人にしない為に。
玲奈は息をするのも苦しそうだ。
医師が毎日来る。助ける為ではない。痛みを緩和する薬を点滴する為に。
そして…玲奈が不意に
「ねぇ…外に…行きたい…」
その願いを叶える為に信長は玲奈を車イスに乗せて様とするが、玲奈が
「だっこで…」
信長は玲奈を抱える。
その体重はもう、灯火のように軽すぎる。
信長は玲奈を抱えて海岸に来る。
夕日が綺麗な海岸線。穏やかな砂浜。寄せては引く綺麗な音を奏でる打ち寄せ。
か細い玲奈が
「ねえ…信長…ありがとう」
信長が
「ああああああああああ!」
玲奈を抱えて泣き挙げ句。
自分は何も出来なかった。ただ…玲奈が衰弱するのを見つめるしかなかった。
好きな女の子一人さえ救えない、なんてちっぽけなんだ…と。
玲奈は感謝していた。
本当に何でもしてくれた。もう、感謝しかない。
ただ、心残りなのが、尽くしてくれた信長に何も残せない事だけ…。
玲奈は一番大切にしてくれた男の子の腕のぬくもりに包まれながら
光が見えた。そう、もう…時間なのだ。
「ありがとう…」
と、最後に告げて、玲奈の体から力が抜ける。
「玲奈、玲奈ーーーーーーー」
玲奈はこの世界を去った。
「う、うあああああ! があああああああ、あああああああああ」
信長は涙して叫ぶ。その声が綺麗な夕日の海に広がる。
信長の腕の中で命が消えていく、ぬくもりが小さくなっていく。
玲奈の魂は、空へ昇ったのだ。
それを聞いた村の人達が駆け付け、信長が涙する理由を察する。
そして、帽子を取って頭を下げて冥福を祈る。
玲奈の家でお葬式が始まる。
葬儀の最中、母親と妹はずっと泣いていた。
玲奈の友達も来て涙する。
村人の大人達が弔問に訪れ、粛々と進んだ。
信長は現実が受け止められなくて、茫然自失になっていた。
そして、人に勧められて休憩していると…魔導端末のネットを見ている人がいた。
その人が見ている情報は
「我は、アリストス共和帝国、皇帝、アインデウスである。
今日、ここに集まって頂いた理由は、ここに…王国連合による、さる機関を立ち上げを宣言する為である。
我が後ろにいる、アーリシア十二国王達、ロマリア皇帝、アフーリア王、ナイトレイド連合皇帝。
この王国達が集結して、世界を破滅に追いやる存在に宣戦布告する為だ。
諸君達も提供された情報によって周知の通り、エニグマという巨大な非合法組織がこのアースガイアを滅ぼそうと画策している。
我ら王国連合は今、ここに宣言する。
そのような非道、外道を許す事無く、鉄槌を下す!
その鉄槌であるザラシュストラ(超越者)を結成する!」
記者会見の会場は、信じられない程の熱気に包まれた。
そして、その会場へアインデウスが降り立ち、傍観者としていたアーリシアの大英雄、ディオス・グレンテルを引っ張りだし、手を取って掲げ熱気を更にアップさせた。
ディオスは巻き込まれたが、後悔はない。
最初から戦うと決めていた。その視線は鋭く力強い。
「戦うぞーーーーーー」
ディオスが大声で叫んだ。
会場は制御不能な、超熱気になった。
それは、エニグマに対するディオスの宣戦布告だった。
こうして、この世界の王国達が集結して結成された対エニグマ機関、ザラシュストラの始まりが世界に広がる。
それを見た信長の目に火が灯る。
玲奈の葬式を終えて、信長は直ぐに家をひっくり返してディオスから貰った連絡のプレートを手にした。
そして、それを握り閉め
「おれは…」
ディオスは熱気のザラシュストラ発起会場を後にして、帰りの飛空艇のベッドであの、死者と会話する平原にいた。
目の前には玲奈がいた。
”こんにちは”
それでディオスは察した。玲奈は亡くなったのだ。
「どうしたんですか?」
ディオスの問いに、亡き玲奈は
”信長の事、お願いします”
「一つ…彼の、信長くんの事は?」
”好きでした。でも、信長には伝えないでください。縛りたくないから”
「分かりました」
ディオスは夢から戻ると、飛空艇の窓から到着の朝日が見えた。
ディオスが屋敷に帰ると、玄関に出迎えたレベッカが
「旦那様…お帰りなさいませ。その…」
と、レベッカは複雑な顔をしている。
玄関の広間のソファーの所にクレティアとクリシュナが立っていて、その二人が挟むソファーに信長がいた。
「ただいま…」
と、ディオスが入ると、クレティアとクリシュナが
「ああ…お帰りダーリン」
「アナタ、お帰りなさい」
と、チョッと困った顔をしている。
ソファーにいる信長は立ち上がり、ディオスの前に来た。
ディオスは信長の瞳を見た。
もの凄く力強く輝いて燃えている。
それで、もう分かった。覚悟は完了している。
信長は直ぐに正座して、ディオスに土下座する。
「お願いです。オレも一緒に戦わせてください!」
ディオスは額を床にこすりつける信長に跪き
「理由は? 復讐か?」
信長は顔を上げ
「違います。オレの、玲奈のように奪う連中から、オレ達のような人達を出さない為に、守る為に!」
信長はディオスの腕に掴みかかり
「雑用でも、何でもします。一生、下っ端でも構いません!」
ディオスは頭を振った。
もう、この子は、命の先を決めたのだ。
ディオスは信長の掴む手を取り、一緒に立たせ
「クレティア、クリシュナ。この子を一緒に訓練させるぞ」
クリシュナは額を抱え、クレティアは嬉しそうに笑う。
信長はそれを聞いて
「本当にありがとうございます」
感謝しかない。
ディオスが
「覚悟しろ。もう、逃げられんぞ。一ヶ月後。君は…守護神の如きバケモノになる。分かるな…」
信長は力強く肯き
「はい、楽しみで仕方ないです」
ディオスと妻達による鬼のような特訓が始まる。
午前中は、ディオスと共に体力作り、午後は、ディオスが魔導石の生成と、魔法の設計があるので、クレティアとクリシュナが信長に実戦の訓練を施す。
「おら! へばってんじゃねぇぞーーーーーー」
クレティアの鬼のような声が響く。
お互いに木刀を持っての実戦である。
剣聖であるクレティアに、ただの少年が敵うはずなく、ボコボコにされる。
それでも信長は喰らい付く。
それが二時間続き、次にクリシュナの徒手の実戦組み手。
何度も何度も信長は投げられ、蹲るも、その襟をクリシュナが掴み
「さあ、立つ!」
その鬼迫は凄まじい。
ディオスは、隠れてそれを見て
「殺されるんじゃないか?」
ちょっと不安になる。
信長は全く目が死んでいない。むしろ、輝いている。
夜、ボコボコの信長に、クレティアとクリシュナが回復を促す術を施す。
それを終えたクレティアとクリシュナにディオスが
「なぁ…ちょっとは手加減を…」
クレティアは首を横に振り
「大丈夫よ。あの子、ちょっと特殊だからこれくらいがいいの」
クリシュナが
「それに、あの子の気迫が凄いから、こっちも答えようと過激になってしまうの」
「ああ…うむ…」
と、ディオスは微妙な顔をする。
クレティアが
「ダーリン、あの子は気持ちがもう、違うの。気持ちが違うなら体が変わる。そして、行動が変わる。行動が変わると運命が変わる。悪しき宿命を壊せる。そういう事」
クリシュナはそれに同意して頷く。
それを聞いてディオスは、もの凄く思い当たる節があった。
そう、自分に子供が出来た時に、考えが180°変わった事を過ぎらせた。
翌日、ディオスは信長の体を魔法で調べる。
筋肉の密度や、神経が急速に発達している。
どうして?
と思った次に、信長の胸部にあるメタルコアが過ぎった。
確か、信長くんは、エニグマの改造で半分兵器のような状態だ。
その改造の力で…身体に変化が始まっているのか…。
三日目、その急速な変化が目に見えて来た。
クレティアの繰り出す剣戟の動きに対応し始めた。
クリシュナの徒手攻撃にも同じだ。
敵うといえば、まだまだ、だが…それなりに動けるようになっていた。
そして、その日は、ゼリティアもいて、信長に槍術の指南をする。
ゼリティアが槍の組み手を信長にすると、信長は対応している。
それを隠れて見ていたディオスに、同じく隠れて寄るココナが
「旦那様も、一緒にやった方が…。追い越されますよ」
「う…」
と、ディオスは唸った。
信長の基礎が固まった頃に、ディオスが信長に体内生成魔法で、信長の体内に魔法の回路を生成させる。
そして、バルストラン王都の武家大公のヴォルドルへ、信長が出向くようになった。
ディオスは、二歳半のティリオとリリーシャ、ゼティアもジュリアと遊びたいので、良く行くようになり、ヴォルドルの城邸には出向く事が多くなった。
ディオスが、アイカと子供達の迎えでヴォルドル邸へ入ると、修練所でヴァンスボルトが信長の相手をしてくれている。
「まだまだ!」
ヴァンスボルトが吼え
「おおおおおお!」
信長は向かって行く。
お互いに木刀での実戦訓練。
マジで気合いが違う。
ティリオとリリーシャ、ゼティアの三人をアイカと一緒に連れてくるディオス。
途中で水を飲んでいるヴァンスボルトに会って
「ああ…ヴァンスボルトさん」
「おお…ディオス殿…」
「すいません。家で預かっている子の面倒を見て貰って」
ヴァンスボルトは微笑み
「いや…久しぶりにあんなに熱い少年を見ました。良い少年を抱えている。つい、相手をするにムキになってしまう」
「本当にすいません」
「いいんですよ。一緒にいる若者達にも良い影響を与えますから」
夜、屋敷の庭先で信長は習った事の復習をして体を動かしていた。
そこへディオスが来て
「今日はもう、終わりだ。休むのも訓練だぞ」
「ああ…すいません。終わります」
信長は汗を拭って屋敷へ戻る時
「なぁ…信長くん。このまま順調にいけば、君の実力は、おそらく、ウィザード級魔導士が数人束になっても敵わないくらいになるだろう。まあ、そのぐらいで十分といえば十分かもしれない」
ディオスの言葉、ウィザード級魔導士が数人束の実力は、重装備の巨人機、ゴーレムと互角に戦えるという事だ。つまり、ガン○ムだ。
信長が少し考える。そして、ディオスを見る。
行けるなら、ディオスさんと同じレベルに…
と、過ぎるが、それはムリか…とフッと笑む。
それをディオスが察して
「君がその気なら、オレと同じシンギラリティ級になれるとしたら?」
「え…」
信長は驚きの瞳を向ける。
ディオスは真剣な顔で
「マジな話だ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございます。