第141話 事態の終わり
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
ディスティニーアークでの事が終わり、ディオスはアインデウスに呼び出される。それはディオスの力が暴走した事についてだ。
ディオスはナトゥムラと共に、冬眠の氷にいるゴルドの隣にいるアルディルを凝視する。
ディオスとアルディルは暫し睨み合う。
アルディルが
「御苦労様、後は約束通り、私達が全てを貰うから…」
その目線に鋭さがある。
ディオスはフンと鼻息を出して
「分かっているだろうなぁ…約束を…」
アルディルは眉間を寄せて
「ええ…守るは、ちゃんと…約束はね。でも…あくまでも…私達が指揮して動かす。これが絶対」
ディオスは苛立ちの顔で
「まあ…立ち上がるなら、なんでもいい」
そう、何でもいい。
事実、そういう組織が出来るという事で十分、後でどうとでも操作できる。
ディオスが、このディスティニーアークの事態の後にアインデウスに約束した事とは…エニグマに関して世界的に対処する機関を設立する事だ。
その見返りに、このディスティニーアークの全てを差し出すのだ。
アルディルが
「後…アインデウス様がお前にお話があるそうよ。まあ…思い当たる節はあるでしょうけど…」
ディオスは鋭く苛立った顔をした。
そして、空に大きな空間転移のトンネルが空いてそこから、アインデウスの巨城式飛空艇が姿を現した。
ディオスは、ディウゴスに連れられて、巨城式飛空艇の中を進み。
アインデウスがいる主のホールへ来る。
そこには、アインデウスの部下達が数名と、アインデウスが鋭い視線で腕を組んで待ち構えていた。
「こちらです…」
ディウゴスが、ディオスをアインデウスの前に連れて来る。
ディオスはアインデウスの前に跪こうとしたが
「そんな形式じみた挨拶はいい!」
アインデウスの口調はどこか鋭い。
「はい…」
と、ディオスは項垂れながら立ち上がり、アインデウスが
「お前がどうして、私の前にいるか…分かっているなぁ…」
ディオスはションボリと俯く。
そう、憶えていた。
自分の内にある存在と意識を一致させ、それを召喚し、エニグマの巨大施設ディスティニーアークを、その発動する寸前の巨大魔法を粉砕しても、まだ、怒りが収まらず、力を暴走させようとした事を…。
「申し訳ございません」
ディオスは頭を下げる。
アインデウスは、ふーーーと深い溜息を吐き
「お前の解放しようとした力で、世界が滅ぶ寸前だった。分かるな」
「はい…」
と、ディオスは頷く。
アインデウスが眉間を押さえながら
「ディオス、お前は…理性が強い、思考型の人間だと思っていた」
「すいません。本当にすいません」
謝り続けるディオスに、アインデウスが
「何か、激高するような事があったのか?」
ディオスは痛そうに目を瞑り
「エニグマの施設で…人体改造された子供を見て…。それで…もう…許せなくて…」
ディオスの言葉にアインデウスが、項垂れる。
「はぁ…そうか…。その言葉を聞いて私はお前の気持ちが分かる。私も確かにそのような事を見せられば、理性を保つ事は難しいだろう。だが、ディオス…お前は…通常のこの世界の人とは違う部分がある。分かるな…」
ディオスの脳裏にシンギラリティや、今回で呼び出した飛んでも無い存在が過ぎる。
まさか、あんなバケモノを自分の内に飼っていたなんて、思いもしなかった。
ディオスは
「あの…自分の内にある。アレは何なのでしょうか?」
アインデウスは渋い顔をして
「名は、ドッラークレス(超龍)という存在だ。詳しくは言えないが…神よりの世界より、まだ上位の世界の存在達の一つの極だ」
ディオスはその言葉を聞いて、眉間を寄せ
「神よりの世界より、まだ上位の存在…」
「そうだ…」
アインデウスは頷き
「ディオス。もっとしっかりと知りたいなら…暫し待て。何れだが…お前に語る時が来るだろう。それまで待ってくれないか…」
ディオスの中で激しく、それを知りたい気持ちに駆られるも、呑み込んで
「分かりました。ですが…また…今回の事のような」
「心配するな」
と、アインデウスは告げて手を叩くと、ディオスが来た通路から、クレティアとクリシュナにゼリティアの三人が白姫アルディニアに連れられる。
「ダーリン」
と、クレティアは苛立っている。
「アナタ…」
と、クリシュナは呆れている。
「夫殿!」
と、ゼリティアはディオスから貰った扇子で、ディオスの額を小突いた。
そう、事情は分かっているだろう。
アインデウス達と一緒に来たのなら。
「ごめん」とディオスは謝って項垂れる。
クレティアが額を抱え
「ナトゥムラさんや、スーギィさんが傍にいるから、大丈夫だと思っていたのに…」
クリシュナが腕を組み
「ホント…全く、これじゃあ、私達の内、誰かが何時も傍にいないとダメじゃない」
ゼリティアは右に項垂れつつ
「本当じゃ。夫殿は本当に…」
「はい、すいません」
もう、謝るしかないディオス。
マジで、迷惑を掛けて申し訳ない。
アインデウスが「ザミエル」と赤姫を呼ぶと、赤姫ザミエルが両手に載る赤い宝箱を持って現れる。
それをアインデウスが取って
「ディオス、これを…」
ディオスの前に差し出し、宝箱が開くと…そこには、四つの指輪がある。
指輪は、白と黒の陰陽の紋が入ったモノで、どこか魔導具のようなアイテムの感じがある。
アインデウスが
「これは双極の指輪というモノで、これを填めた男女はお互いの力をお互いに使う事が出来る。繋げるマジックアイテムだ」
ディオスはそれで察した。
「ああ…つまり、妻達にストッパーになって貰うって事ですか…」
「そうだ」とアインデウスは肯き自分の左手を見せ
「私も、妻達と共に同じモノを付けている」
そう、アインデウスも同じ力を持っているという事だ。
アインデウスの傍にいる白姫、赤姫、黒姫も同時に左手を挙げて同じ陰陽の指輪、双極の指輪を見せる。
「これを付けると一生外れない。指と同化してしまう。例え、指輪をした薬指が何らかで無くなっても、その体にはその効力が残る」
「成る程」
と、ディオスは直ぐに指輪を手にして、左手の薬指に填める。
全く迷いがない。
この指輪をしたら、一生妻達の尻に敷かれるだろう。
別にいいかなぁ…何時も、いい感じで尻に敷いてくれるし…。
ディオスは直ぐに、別の三つの指輪を握り、クレティアとクリシュナにゼリティアの三人へ向ける。
「はい、一生、オレを尻に敷いてください」
そう告げたディオスの顔はちょっと嬉しそうだ。
クレティアとクリシュナにゼリティアは、フッと笑み
「はいはい。ダーリン」
と、クレティアは手にして左手の薬指へ
「本当、どうしようもないわねぇ」
と、クリシュナも同じく。
「はぁ…そういう潔い所が妾のお気に入りでもある」
と、ゼリティアも…。
三人は左手の薬指に填めると、皮膚と指輪が一体化した。
ディオスは、自分の指と一体化した指輪を見て
また一つ…彼女達との絆が出来たなぁ…。
そう、思い嬉しかった。
その後、エニグマの壊れた施設、ディスティニーアークの残骸は、アインデウス達の指揮の下で回収と、情報採取の作業が行われる。
多くの調査労力が国々から提供され、全ての事の真相が発表されるのは二ヶ月後になりそうだ。
そして、ディオスがアインデウス達と約束した通りの、エニグマ対策機関の設置に関する準備も国々で調整が始まった。
そこはロマリアの首都モルドスにある巨大病院の部屋で、崎島 信長が目を覚ます。
「あ…ここは?」
信長がベッドから体を起こすと、直ぐに看護士が来て
「ああ…大丈夫ですか?」
信長は瞬きしながら
「ここは…何処ですか?」
看護士が
「ロマリアのモルドスにある病院ですよ。今…先生を呼んできます」
信長は医師に検査される。検査魔法を受けながら不意に胸部にある、あの金属コアが見えた。
信長は辛そうな顔で
「夢じゃあないんだ…」
医師の検査が終わった後、そこへディオスが現れる。
「やあ…」
と、信長に呼び掛ける。
信長は、ジーとディオスの顔を見つめ、何処かで…と
ディオスが信長のいるベッドの脇にあるイスに座り
「自分の名は、ディオス・グレンテル」
「あ、アーリシアの…」
「まあ、そのあだ名は、置いといて、説明する」
ディオスは信長に、信長がエニグマという組織に捕まり、人体改造されていた事、そして、自分達が、その施設に踏み込んで信長を助けた事を話した。
「これが概要だ」
と、ディオスは信長を見ると、信長は項垂れ、服の下にある金属コアを見て
「これは…外せないんですか?」
ディオスは渋い顔をして
「その、すまない。洗脳とか、君の意識を奪う機能は壊してあるが…それを、外す技術は、ない…ハッキリ言う。相当、君の体を浸食している。体の三十%がそれに浸食されている君は今…半分兵器のような状態だ。だが、普段の生活をするには困らない」
信長は項垂れつつ、顔を上げ
「あの…玲奈は? オレと同じように改造された女の子がいるんです」
ディオスは痛そうな顔をして
「来るかい…」
信長を玲奈がいるベッドへ連れて行く。
そこは、集中治療室だった。
玲奈は、様々な機器に接続され何とか生きている。
それを見て信長は
「そんな…玲奈が…」
ディオスは
「彼女は、君以上に浸食され改造されていた。意識が戻るか…いや、その前に…」
「ああ…あ…」
信長は、玲奈が見える窓に凭れ掛かって滑り床に伏した。
そこへ
「信長くん…」
玲奈の妹、玲愛と母親がいた。
「おばさん。玲愛ちゃん」
と、信長が二人に近付く。
三人は互いにいたわり合い。そして…
「ディオスさん…」
信長が
「玲奈の傍にいても…」
「ああ…いってやれ」
と、ディオスは頷いた。
信長達三人は、意識が戻らない玲奈の手を握る。
その場景を見てディオスは、いたたまれなくなり去ろうとしたが、玲奈が意識を取り戻した。
「ああ…信長…母さん…玲愛…」
「お姉ちゃん!」
「玲奈!」
母親と妹はホッとした。
信長もうれし涙を零す。
だが、これで終わりではない。
直ぐに、医師が母親と玲愛の二人を説明する部屋に呼んだ。
医師が、玲奈の体を透視した魔法図を見せて
「残念ですが…彼女の体は持ちません」
母親と妹の瞳から光が消えた。
玲奈の浸食により改造は凄まじく、信長の二倍近い六十%が浸食、脳にまで及んでいた。
悪い部分を切り取り、そこを臓器再生医療で何とかすれば?と母親が聞くも。
医師が彼女の体をそのまま全て複製したとしても、脳まで浸食が及んでいるので、それが原因で死亡すると。
もう…手の施しようがないと…。
残酷な宣告、彼女は後…二ヶ月しか保たない…と。
嗚咽を上げて泣く母親。
それをドア越しにディオスと信長は聞いていた。
ディオスは隣にいる信長を見ると、信長は声を押し殺して泣いていた。
玲奈は改造の後遺症で、立つ事が出来ないし、体の力も思うように入らない。
その介助を信長が積極的にした。
何処かへ行く時は、信長が車イスを出し、食事も上手く運べない場合は、信長が手伝う。
献身的な介護をした。
玲奈は、信長と同じく一週間で退院した。
信長自身は全く問題がなかった。むしろ、改造された事によって驚異的な身体能力を得ていた。
一方、玲奈は酷すぎる改造の所為で、寿命がほとんどない。故に、最後を好きにさせるという事での、最後の退院だ。
信長は、玲奈を車イスに乗せて、妹と母親も付き添い曙光国へ帰る途中、ディオスが
「これを…何か手助けが必要なら遠慮無く言ってくれ」
そう、自分の連絡先のプレートを信長に渡した。
「ありがとうございます」
と、信長は受け取って、玲奈と共に曙光国の故郷の漁村へ帰った。
帰国した玲奈は、早速、父親の墓参りをした。
あれから、自分達が攫われてから一ヶ月が経っていた。
初夏が近付き、暑くなってくる時期、信長は玲奈を車イスに乗せて、色んな所へ行く。
玲奈の行きたい所へとにかく、動いた。
信長は、諦めていない。
絶対に神様の奇跡がある。
こうして、楽しく過ごしていれば、絶対に…。
神様は不幸なんて望んでいない。
信長は小さい頃に、神格召喚のスキルを暴走させて、神格を降臨させた時に、感じたのだ。
神は暖かい。そう、人の願いを叶えたいと、人を見守りたいという神の意志を感じたのだ。
だから、絶対に、見捨てるなんてしない。
信長は献身的に玲奈の世話をする。
「ありがとう。信長…」
お礼をいう玲奈に信長は微笑み
「いいんだよ。幼なじみだし、同じ酷い目にあった仲間だろう」
だけど…やっぱり、残酷さは世界に備わっているのだ。
徐々にだが…玲奈の体は衰弱していた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。