第13話 レオルトス王国 内戦 集落
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
ディオスはレオルトス王国へ来る。そこで内戦に巻き込まれる村人を発見、その時、ディオスは…
レオルトス王国 内戦、集落
ディオスは、クレティアとクリシュナを連れて王都の側にある空港に来ていた。
三人を乗せるの飛空艇は、ゼリティアが手配してくれた。
その飛空艇の搭乗口にゼリティアが立っていて「準備は?」と問う。
ディオスは両手に持つ鞄を掲げ
「それなりの装備は持って来た。大丈夫だ」
「そうか…なら、来い」
ゼリティアが先頭の案内としてディオス達を乗せる飛空艇へ入れる。
飛空艇の個室で、ゼリティアとディオス達三人と集まり、ゼリティアがテーブルに地図を広げ
「ルートを説明する。大凡、三日後にレオルトス王国の隣国バハトリア共和国に到着する。本来なら内戦状態のレオルトス王国には、飛空艇は着陸できないが…、極秘にレオルトス王国とバハトリア共和国の国境線上に着陸して、その後…下ろした魔導トラックで近くの集落まで向かい情報を得よ。何分、情報が不足している。現地で情報を得て行動し、王立軍と合流、分かったな」
「了解した」とディオスは頷く。
ゼリティアは扇子で顔を隠し笑みながら
「まあ、何じゃ。お主の実力を過信はしておらぬが…成るべく、早くに帰ってこい。まだまだ、お主が生成する魔導石が欲しいからな」
「いらぬ、ご迷惑を掛けるゼリティア殿」とディオスは頭を下げる。
「では、お三方…武運を期待するぞ」
ゼリティアはソフィアからの親書を差し出す。
それをディオスは受け取り懐にしまった。
ゼリティアが降りていった後、ディオス達を乗せた飛空艇は空へ昇り出発した。
飛空艇が出発して数時間、下部にある展望室でディオスは席に座って外の風景を見ていると「ダーリン」とクレティアが隣に座る。
「どうした?」
ディオスが尋ねると、クレティアは気恥ずかしそうに
「その…ありがとうね。王の臣下まで下りようとしてまで手伝ってくれるなんて」
ディオスはフッと笑み
「クレティア…。オレは…お前がオレを頼ってくれて正直、嬉しかった。なんだ…大切な相手から頼りにされるというは、嬉しいモノだな」
「そうだよ。だから、ダーリン…頼りにしているよ」
クレティアがはにかみ気味に笑む。
「ああ…任せろ」
ディオスとクレティアは微笑みを向け合うと
「何をしているの二人とも」
クリシュナが来た。その両手にはグラス三つとワインが一瓶。
クリシュナは空いているディオスの左に座ると「はい」とグラスをディオス、クレティアに渡して
「さあ、一杯やりましょう。クレティアの凱旋と、この戦いの勝利を願って」
「いいね!」とクレティアはグラスを傾け、それにクリシュナは注ぐ。
「さあ、アナタも…」
クリシュナはディオスのグラスにワインを注ぐ。
ディオスはグラスを掲げ
「では、この度の作戦の成功を…乾杯」
『乾杯』とクレティアとクリシュナは同時に呼びかける。
飛空艇は予定通りのコースを進み、三日後の昼にポイントに到着して、着陸する。
飛空艇の下部格納庫ゲートから一台の魔導トラックが下りて、その脇に簡易鎧に武装したディオスとクリシュナにクレティアの三人がいた。
「では、ご武運を…」と乗員がお辞儀して飛空艇に戻り、飛空挺は空へ戻る。
「さて…」とディオスは地図を広げる。
国境線上の上にいて、レオルトス王国に一番近い人がいる場所は…と探す。
クレティアがトラックの運転席に乗り
「ダーリン、クリシュナ。直ぐそばに道があるからそれを伝っていけば、村か町に出るから。そこで情報収集しよう」
「そうだな…その方が早そうだ」とディオスは地図をしまい、クリシュナと共にトラックに乗って出発する。
トラックは暫し、道のない草原を走ると、開けた道に出た。その道を上り続け人のいる場所を目指す。山に入り森の中を進んでいくと、ドンと爆発音が響いた。
「え…」とクレティアはブレーキをする。
ディオスとクリシュナは顔を鋭くさせ、トラックから降りると、周囲を警戒する。
道の先、そこから複数の煙が見える。
そして、ドンドンと爆発音がそこから響く。
「どういう事だ…」とディオスは鋭く煙と爆発音がする場所を睨むと、道を必死に走って逃げてくる姉妹の姿が見えた。
その後ろには、一騎の魔法を使う騎士が。魔導騎士の姿は、鎧の如きケンタウロスの胴体の魔導操車に跨がり姉妹を追い詰めていた。
姉妹、姉のアリアは妹のマリアを必死に庇い抱きながら道を逃げ、その後ろを魔導操車に乗る魔導騎士と兵士二名が、追い立てるように攻撃している。
「ハァハァハァ」と姉のアリアと妹のマリアは息を荒げる。
そして、二人が道の小石に躓き転がると、魔導騎士が
「もう、追いかけっこは終わりかなぁ…」
残虐な笑みを浮かべる。
「お願いします。助けてください」
姉のアリアは命乞いをする。
「どうしようかな…」と魔導騎士は姉の品定めをする。その顔はゲスそのモノだ。
「貧相で、楽しみがいもないから」
魔導騎士は剣を抜き、姉のアリアの腕を切りつける。
「キャアアア」痛みに叫ぶ姉のアリアを舌なめずりで魔導騎士は見つめ
「良い声で泣くね…じゃあ」
魔導騎士は剣を掲げ雷の魔法を貯める。
「じゃあ、もっと言い声で鳴いてくれ」
姉のアリアは妹マリアを守ろうと抱き抱える。そこへ、ディオスがベクトの瞬間移動で現れる。
「何をしている!」
ディオスの声には怒気が篭もっている。
「な、なんだ。キサマは!」
魔導騎士は突然、現れたディオスに驚き引くも
「キサマ…助けたという事は、王立軍だな!」
ディオスは右腕から血を流す姉のアリアを見て
「一つ聞く、彼女達はお前達に何かしたのか?」
「はぁ? 何を言っているんだ? 何をしたかなんて関係ない。コイツ等は王立軍の領土にいる。王立軍の奴らだから、蹂躙されて当然」
「ほう…」
ディオスの沸点が頂点に達した。
つまり、コイツ等はクズか…。
ディオスの全身から圧し潰さんばかりの威圧が放たれる。
その圧力に魔導騎士は怯え
「逆らうか、ならばし」
と、次を言う前に
”グラビティフィールド”
ディオスが魔法を唱え、魔導騎士は魔導操車ごと、地面に埋め込む。
ジワリジワリと高重力の圧力に全身を潰される魔導騎士は「がぁ」と鈍い断末魔を放って平らに圧縮され道になった。
「ヒィィィィィ」と付き従っていた兵士二人は恐怖にて脱兎した。
ディオスは、姉妹の二人に近付き屈み
「大丈夫か…」
と、声を掛ける。
「あ…アナタ様は…」と姉のアリアはディオスを見つめる。そこへ
「ダーリンーーー」とクレティアとクリシュナが来た。
クリシュナがケガをした姉を見て、包帯をバックから取り出し、傷を消毒して巻く。
傷の処置をされながら姉のアリアが
「お願いです。村を、助けてください」
クレティアが「どうしたの」と跪き
「村が宰相軍に襲われて…」とアリアは泣き出す。
ディオスは顔を鋭くさせ
「クリシュナ、この子達を…」
「分かったわ」
「クレティア」とディオスはクレティアに手を伸ばし
「了解! ダーリン」
クレティアはディオスの右に飛びつき密着して
「行くぞ」
と、ディオスはベクトの瞬間移動を連続使用して村があるであろう煙の元へ行った。
村では、制圧が完了したのか、村人が一カ所に集められ兵士達に囲われていた。
その間、兵士や魔導騎士が、村の家々を漁り強奪を繰り返していた。
そこへ、先程逃げて来た兵士達が駆け付け
「隊長ーーーー」
隊長の魔導騎士は「どうした?」と尋ねる。
「た、大変です。魔導操車に乗った魔導騎士の一人が…やられました」
「なんだと!」
「隊長!」
別の兵士が村の開けた先を指さす。
「んん…」と隊長は見つめると、そこにはこちらに歩いてくるディオスとクレティアの姿があった。
ディオスとクレティアは、全ての前に止まると、隊長が
「キサマ等、何者だ!」
ディオスは隊長を睨む。隊長はディオスの威圧に身を引かせ、唾を飲んだ。
「お前達こそ、何をやっている!」
隊長は睨み返しながら
「討伐だ! 王立軍の拠点を破壊しているのだ!」
「はぁぁぁぁ」とディオスは唸る。それには完全な怒りが入っている。
「どこが拠点だ。普通の村人しかいないではないか」
ディオスの強い威圧に、隊長はビビりながらも
「王立軍の領土にいる奴らなど、死んで当然。それがどうした!」
クレティアは怒りで顔を歪める。
「クソ野郎が…」
その言葉に全くの同意だとディオスは
「分かった。もういい、お前等…死ね」
隊長は剣を取り
「アイツ等を殺せーーーー」
兵士達が剣を抜いてディオス達に向かって来る。
ディオスはフッと嘲笑い
”グラビティフィールド”
向かって来た兵士達十名が魔法によって地面にメリ込み、一瞬で圧殺された。
「な!」と驚く隊長。
クレティアはスキル
”アクセラレーション”
を発動、一瞬で村人を囲む兵士達に迫り、疾風の如く兵士達を切り倒した。
「オノレーーーーー」
隊長は魔導操車に乗り、他の魔導騎士の魔導操車達を連れてディオスに突撃する。
ディオスへ三騎の魔導操車が迫り、他の二騎はディオスに向かって魔法を連射する。
炎の弾頭魔法は、ディオスに衝突する寸前、力の方向を変える魔法レド・ゾルによって左右に流れ地面に埋まる。
「ダァァァァァァ」
魔導操車三騎の突きがディオスを襲うも、ディオスに大槍の先が触れた瞬間、粉々に砕け散る。高震動の魔法エンテマイトを纏っていた。
ディオスはエンテマイトを纏ったまま魔導操車に触れた瞬間、数トンはあろうという魔導操車がちり紙の如く吹き飛び、三騎が纏まりながら不様に転がる。
引っ繰り返った魔導操車から隊長が這い出て
「お、お前は何なんだ…」
ディオスは右手の平をそこに向け
「地獄で考えるんだな」
”バハ・フレア”
右手から光線が飛び、纏まり引っ繰り返った三騎に接触し三騎を包み込む火球、フレアとなって呑み込んで爆発した。
燃える魔導操車三騎の横を悠然とディオスは歩き通り、残った兵士と魔導騎士の操車は、全く敵わないディオスに怯え
「逃げろーーーーーーー」
全力で退却した。
その後ろ姿にフン!と息を荒げるクレティア。
ディオスは静かに見つめていると、開放された村人の村長が
「た、助けて頂き感謝します。貴方様は…」
ディオスはお辞儀して
「礼には及びません。王立軍側の者です」
「おおお…」と村長は感嘆の声を漏らす。
その後、クリシュナを呼びに行き、村へ姉妹のアリアとアリスを返した後、村長宅で
「情報が欲しいのですが…。提供して頂けませんか?」
ディオスは尋ねた。
その数時間前、別の村では王立軍がいた。
「クソ!」と豪腕の騎士が地面を殴る。ヴァルドは駆け付けた村の現状に悔やんでいた。
村は焼き払われ、多くの村人が殺され、死体が転がっている。ヴァルドの率いる兵士達は、必死に村の家を周り生き残りを探す。
ヴァルドの側に一人の士官が近付き
「ヴァルド様…どうやら…」
ヴァルドは拳を握り締め
「我々は、幾つこの惨状を見なければならないのだ…」
「ヴァルド様が悪い訳ではありません。宰相軍が悪いのです」
ヴァルドは眼を瞑りながら
「なぁ、リカルド…」
「はい…」
「オレは、誰かを守りたいを思って強くなってきた。誇れる騎士に、戦士にと日々、幼少の頃から鍛錬してきた。それが我がヴァンス・ウォルト家の矜持だった。なのにこの体たらくはなんだ! オレは悔しくて悔しくて堪らん」
「ヴァルド様、今は耐える時です。必ず、光明は見えます」
「リカルド、村に生き残りがいないか探索に必要な人数を残して別の村にいくぞ」
「いけません! 戦力を分散するなど!」
「こうしている間にも、何処かが蹂躙されているかもしれん。オレはそれを放って置く事が出来ん」
「ヴァルド様…」
「行くぞ!」
「は!」
ヴァルドは探索の人数を残して別の村に向かう。だが、その足は馬である。
陸戦用の魔導車や魔導操車ではない。貧相な備品だった。
ディオスは村長の家で、村長からの情報を聞いていた。
「成る程…」
テーブルに広げられた地図を村長を指さし
「おそらく、もう…近くにあった町は宰相軍に落とされたと…」
ディオスは右手を顎にあて見つめる。レオルトス王国は今、王立軍と王を排斥した宰相軍との間で戦闘となっている。
国の三分の二が宰相軍に取られ、残りの三分の一が王を立てる王立軍だ。
宰相軍の勢いが強く、王立軍は押されこの村まで被害が来たという事だ。
村長は額を抱え
「宰相が裏切るまで、代々王が収めるこの国はとても豊かで良かったのですが。相当、各地は荒れているらしく国として崩壊寸前な現状です」
ディオスは、これは…早く決着がつかなければ、この国は復興さえ怪しいと感じる。
「情報、ありがとうございます。王立軍の拠点はここにあるのですね」
拠点のある部分の地図を指さし
「はい、そうです」
「分かりました。では、我々はそこに行きますので」
「どうか、お気を付けて」
村長とディオスは握手を交わすと
「ダーリン!」
クレティアが扉を勢いよく開き、ディオスに近付きながら
「大変だよ。妙な兵団だ近付いている」
「分かった。直ぐに行く」
ディオスはクレティアに連れられ、クリシュナがいる村の開けた入口に来る。クリシュナが人差し指と親指をくっつけて眼鏡にして遠見の魔法を使っている。
「あそこ」とクリシュナが指さすと、小さくだが一団が見える。
ディオスは同じく遠見の魔法を使い一団を見る。武装した兵士と移動手段に馬を使う軍団。
「数はそんなにいないな。さっき逃げた連中の援軍か?」
クリティアも同じく遠見の魔法で見つめ
「でも、さっきの連中は魔導車や魔導操車を持っていたんだよ。魔導車の時代に今時、馬なんて…」
と、疑問を持って見つめていると、一団の先頭にいる男を見て
「あれ…もしかして…ああーーーーー」
クレティアは、いきなり走り出して一団に向かう。
「お、おい!」
ディオスはその後を追い、クリシュナも続く。
村に迫る一団は、王立軍のヴァルドの兵団だった。
ヴァルドは、近付くクレティアの姿を発見し、驚きに顔を染め
「ま、まさかーー」
急いで馬を駆けさせる。
クレティアは手を振りながら
「おーーーい。おーーーい。ヴァルド兄ーーーーーー」
ヴァルドは、ある程度近付いた所で馬を下りて、クレティアに駆け付け
「そんな、まさか! クレティアーーーー」
クレティアはヴァルドに飛びついた。
「うあぁああああああ ヴァルド兄!」
ヴァルドはクレティアを抱き締め
「クレティア! 良かった! 生きていたのかぁぁ」
再会する兄と妹、その様子からディオスは味方と判断してゆっくりと二人に近付く。
「ヴァルド兄! ヴァルド兄!」
クレティアは喜びながら抱き締め
「クレティア…。良かった。本当に凄く心配したんだぞ。王都で行方不明となった時は生きた心地がしなかったが…」
お互いを労る兄妹に、ディオスが
「クレティア…説明をしてくれないか?」
クレティアは涙を拭い
「紹介するね。アタシのお兄ちゃん。ヴァルド、母親は違うけど…アタシの家の長男なんだ」
ディオスはお辞儀して
「初めまして、ヴァルド殿、ディオス・グレンテルという者です」
左隣にいるクリシュナもお辞儀して
「妻のクリシュナです」
「そして…」とクレティアはディオスの右腕に抱き付き
「アタシの旦那様でもあるんだよ」
ヴァルドは眼を大きく見開いて驚き
「な、クレティアの旦那…」
「不肖ながらですが…」
とディオスは呟く。
ん…とヴァルドは戸惑いながら
「ディオス・グレンテル殿、貴公は何をしにここへ?」
「妻のクレティアの呼びかけに応じて王立軍の援護に参りました」
ヴァルドは村にあった魔導操車の残骸を見て驚愕する。
「これを貴公がやったのか…」
「少々、お見苦しいですが…」
ディオスは頷く。
ディオスの右にいるクレティアが自慢げに
「凄いでしょう。ダーリンは、なんたってドラゴン三体を一瞬で消滅させられるくらい凄い魔導士なんだよ」
ヴァルドは困惑する。魔導操車はかなりの戦闘力がある。
現代の世界でいう戦車と同じ戦闘力と防御力を誇っている。
魔導操車を破壊出来るのはウィザード級魔導士の中でもかなりの高位者に限られる。
だが、それも一対一の場合だ。
それを複数の魔導操車を相手にこれ程までに圧勝する魔導士など、いない。
いや…見た事がない。
「貴殿は一体…?」
ディオスは右手を胸に当て
「バルストラン共和王国。ソフィア・グレンテール・バルストラン王、直属臣下の魔導士でございます。王より、レオルトス王に向けて親書を携えております」
「おおお…」
ヴァルドは納得する。
王には強力な魔導士が仕える場合が多い。
つまり、このディオスは、そういう部類の、王の懐刀の魔導士なのだ。
ヴァルドは畏まり
「ディオス殿…村を救って頂き感謝する」
ディオスは笑み
「そう、畏まらないでください。当然の事をしたまですし、アナタはクレティアの兄なのです。自分にとっても義兄でありますから」
「だが…それでも感謝する」
そこへ周囲の斥候に行っていたクリシュナが来てディオスに耳打ちする。
「ねえ、今…」
ヴァルドの部下も来て
「ヴァルド様…大変な事に…」
「何だ?」
「…連中が、宰相軍の連中が魔獣を率いてこちらに向かっています」
数時間前、ディオスが倒した部隊の生き残り逃げた兵士が、拠点にしている町に戻りそこの軍団長アルストに
「なぁぁぁに、やられただと!」
唸るアルストに兵士が畏まり
「はい。信じられない程の強力な魔法によって一瞬で…」
アルストは深くイスに腰掛け
「厄介だな…。恐らく、我らを襲ったという事は王立軍の者か…」
アルストは、怪しげな笑みを浮かべ
「そうか…なら…キッチリ皆殺しにしておかないといけないなぁ…」
立ち上がったアルストは声を張り
「魔獣を起こせ、今からその者の討伐に向かう」
「は!」と側にいた兵士が駆けて行く。
アルストは舌なめずりして
「少々、暇だったのでいい退屈しのぎになる。魔獣で嬲り殺して餌にしてくれるわ」
夕暮れの村の入口でヴァルドは馬に乗り兵団を連れ
「クレティア。生きて帰ってくれてよかった。ディオス殿」
ヴァルドの横にはディオスと右にクレティア、左にクリシュナの三人がいた。
ディオスがヴァルドに
「ヴァルド殿、どうするつもりか?」
ヴァルドは剣を抜き構え
「迫り来る宰相軍と戦う」
クレティアが出て
「無理だよヴァルド兄。アタシ達と共闘して倒そう」
ヴァルドは首を横に振り
「ダメだ。今ここで戦力を分散すれば、追撃があった場合に対処が出来ず、村は全滅する。ディオス殿。どうか、この村をお守りください」
ディオスはヴァルドを見つめ
「死ぬ気ですか?」
ヴァルドはフッと笑み
「大丈夫です。必ず生きて帰って来ます。ですから…」
ヴァルドは馬を向けて
「では、後で」と去り際に「ディオス殿、クレティアの事、よろしくお願い致します」
兵団を連れて向かった。
背を向けて遠くなるヴァルドの兵団にクリシュナが
「死ぬ気かもしれいわ…」
クレティアがディオスの手を握り願う顔で
「ダーリン」
「分かっている。クリシュナ…」
クリシュナは笑み
「私一人で大丈夫よ。アナタから供給される膨大な魔力のお陰で、神格を自在に操れるもの。村一つくらい守ってみせるわ」
「クレティア。バレないように後を付けて行こう。ヴァルド殿で片がつけばそれで良し。もし、ダメだった場合は…」
「了解だよ。ダーリン」
兵士を連れたヴァルドは広い平原に到着すると、その前方から巨大な複数の影が近付く。
その影は魔獣だった。
青く五メータの高さがある紫色の獅子の如き魔獣十体が巨体を揺らして進撃する。
魔獣とは、魔物を人工的に改造して作った魔導生命兵器である。
その強力な力と残虐さ故に、戦では禁忌とされていたが、どうやらここでは通じない。
魔獣の一団の先頭の魔獣に乗るアルストが「止まれーーー」と号令を掛けて進軍を制する。
数メータの距離で魔獣の軍とヴァルドの兵団が睨み合う。
アルストが魔獣から下りると、ヴァルドの顔を見て
「これはこれは、かの有名な剣の館の武家であります。ヴァルド・ヴァンス・ウォルトではありませんか」
その口調には嘲笑いが混じっている。
ヴァルドは剣の切っ先をアルストに向け怒りを顕わに
「久しいな! アルスト・ボーエン! ここであったが百年目、キサマに殺された父上とアランディア母上、メルテル母上の仇を取らさせて貰う!」
アルストは「くく…はぁはははははははーーー」と高笑いして
「いやはや、本当に親子そろって俺様に殺されに来るなんて、つくづく、運命とは面白いなぁ、ヴァルドよ…」
「その減らず口を、叩き切ってくれるわ!」
ヴァルドは剣を構える。
アルストは同情のような嘲りのような顔で
「お前の父も二人の母親も実に、呆気なく死んださ。オレの魔獣で父親は圧し潰され、二人の母親は引き裂かれ魔獣の餌になったさ。何がぁぁぁ剣の館の達人達だ。オレの魔獣に手も足も出なくて、殺されたんだからなぁ」
ヴァルドは怒りに震え
「それ以上、父上も! 二人の母上達を! 侮辱する事は許さん!」
アルストは肩を竦め呆れ笑みながら
「そうだな、オレの情けだ。黙ってその場に座れ、抵抗するな。そうすれば楽に死なせてやる」
ヴァルドは「おおおおおお、掛かれーーーーー」と号令を出して突撃した。
兵士達も「おおおおおおおお!」雄叫び続き突進する。
「やれやれ」とアルストは嘲笑いを見せ。
「魔獣を三体向けろ。十分だ」
魔獣に乗っている操者が全員下り、命令通りに動く。
魔獣三体対兵団五十名のぶつかり合い。兵団は三つに分かれ魔獣三体を挟み込むも、魔獣が分かれた兵団に突進、巨腕で薙ぎ払い、人や馬が塵ゴミの如く飛ぶ。
ヴァルドは「く!」と唸りスキルを発動
”アクセラレーション”
超加速して、魔獣を切り抜け、アルストに切り掛かる。
「覚悟!」
だが、アルストを守る魔獣が超加速したヴァルドを巨腕で弾き飛ばし、兵団と戦っている魔獣達の元へ戻す。
「残念だったなぁ」とアルストは嘲笑う。
クソ! ヴァルドは悔しさに打ち震えるも、兵団を薙ぎ払う魔獣を倒すべく、剣を振るうも、魔獣の強靱過ぎる皮膚には剣が突き刺さらない。
「魔導士がいれば…」
兵団に魔導士はいない。歩兵や剣を使う騎士ばかり、兵団は魔獣に圧され後退する。
ヴァルドは魔獣に掴まれ、地面に叩き付けられ転がる。
健闘虚しく、兵団に絶望が覆う。魔獣三体を前に、兵団は止まり動かない。
「何だ。もう終わりか?」
退屈そうなアルスト。
ヴァルドは体を起こしながら
「キサマ…この後、どうするつもりだ…」
「どうする? お前等を皆殺しにして、村を全滅させる。我らに逆らったヤツ等は全て惨殺だ」
「ふ…」とヴァルドは笑み「ならば、覚悟して置くんだな、その村には信じられない程に強大な魔導士がいる。必ず、キサマを地獄へ送るぞ」
「減らず口を…」とアルストは右手を挙げ「殺せ!」
魔獣の巨腕が、ヴァルドを潰そうと迫る。
「後は頼んだぞ…クレティア」
だが、潰されはしなかった。
”アクセラレーション”
超加速したクレティアがヴァルドを抱えその場から持ち出した。
そして、ベクトの瞬間移動でディオスが後退した兵団の前に仁王立ちする。
アルストは、簡易な鎧に魔導士のローブを纏うディオスを見つめ
「キサマ…何者だ?」
そう告げ終わった頃に、後退した兵団へクレティアがヴァルドを運んだ。
「クレティア、ディオス殿…」とヴァルドは呆然とする。
ヴァルドを抱えるクレティアが楽しげにウインクして
「この後は任せてよ、ヴァルド兄」
ディオスは一歩前に出て、三体の魔獣を睨む。
魔獣達が、一歩退く。
ディオスから放たれる尋常ではない鬼迫に圧された。
アルストは引いた魔獣に「何?」と驚く。
魔獣が怯えた。それ程までにディオスは強いという事を魔獣達が本能で察している。
アルストはディオスを指さし
「お前は、何者だ」
ディオスは不愉快だという顔で
「キサマに名乗る名前があるというのか? この腐れ外道が…」
「ほう…よくもまあ、口が回る。後悔する事になるぞ」
「どうしても名前が欲しいなら、ディオス…それだけだ」
アルストはフッと笑み
「ほう…ディオス。お前もメッキか。オレはそういう名前の自称強いですという魔導士を幾人も葬って来た。ハッタリ野郎が…魔獣達よ。そいつを殺せ!」
魔獣達は恐怖する本能よりも、命令を遵守する事が優先の為、三体の魔獣達は一斉にディオスに襲い掛かる。
ディオスは「ふ…」と鼻で笑う。
「ディオス殿、三体同時では無茶だーーー」
ヴァルドが叫ぶ。
”グラビティフィールド・アビス”
ディオスが魔法陣を展開、呪文を唱えた瞬間、三体の魔獣が地面に伏した。ズンと地面を揺らして巨体が地面に沈み、その巨体が見る見る小さく折り込まれ潰れた。
「な!」「な…」「ああ…」
アルスト、ヴァルド、アルストに付き従う魔獣の操者達が驚愕で固まる。
潰れた魔獣達の間を通り過ぎながらディオスは
「オレはもう…怒りで沸点が飛んでしまった。言い度胸だキサマ。さっき、言っていたな。村人を皆殺しにすると…あの村は、平和を願う人々しかない穏やかな村だ。
そして、オレの妻のクレティアの父と母達を冒涜して殺した。
キサマがどれほど、クソ外道なのがよーく分かった。だから、慈悲などない。今度は、キサマが蹂躙されて殺される様を見るんだ」
ディオスはゆっくりとアルスト達に迫る。
アルストは他の部下へ「何をしている。残りの魔獣をアイツに向けろ!」
「行けーーー」魔獣の操者達は、ディオスに向けて魔獣を放つ。
七体の魔獣がディオスに迫る。ディオスは右手を向けて
”セブンズ・グランギル・カディンギル”
魔法陣と魔法を唱えた。
ディオスの右手から巨大な、魔獣を包み込む程の光りの奔流が七つ放たれ、魔獣を呑み込んで消滅させてしまった。
たった一つの魔法で七体の魔獣が消滅し、呆然となるアルスト
「そんなバカな…」
ディオスはアルストを睨む見て
「さあ、お前の番だ」
「ひぃ!」とアルストは怯える。
「アルスト様!」部下の操者達がアルストに縋ると、アルストは懐から魔導石のマジックアイテムを取り出し
「キサマにはこれを使うに値する」
ディオスは立ち止まりアルストのマジックアイテムを見る。
なんだアレは? 何かのアイテムか? この場で…。
アルストはマジックアイテムを掲げ
「出でよ。三頭のドラゴン、ケルベロス!」
アルストの手からマジックアイテムが打ち上がり、魔法陣を形成する。
アレは、召喚の魔法陣?
ディオスは警戒すると、夕闇に上がった魔法陣から巨大な三十メータの三つ首のドラゴンが出現し、地面を揺らす。
「はぁはははははははーーーーー」
アルストは勝ち誇った高笑いして
「喜べ、オレが作り出した最高傑作の最強の魔獣だぁぁぁ。その生け贄、第一号になる栄誉を与えてやる。やれーーーー」
三つ首のドラゴンケルベロスが三つの顎門から光線の咆吼を放つ。
ディオスは平然と冷静に右手をケルベロスに向け
”グランギル・カディンギル・バベル”
魔法を唱えた。
それはケルベロスの咆吼と同時だった。
強力な光線の螺旋がディオスの右手から放たれ、ケルベロスの光線咆吼と衝突、その光線咆吼を押し返してケルベロスに衝突、光りの螺旋にケルベロスは呑み込まれ上半身が消失、下半身が残り、地面に伏して、死んだ魔物の如く魔導石化する。
「最高傑作がなんだって…最低な駄作の間違いではないのか」
と、ディオスは滑稽だと不快な顔をする。
「あああ…」アルストは呆然とする。
ヴァルドは、驚愕に包まれ「なぁ、クレティア…俺は夢でも見ているのか?」
その隣にいるクレティアは自慢げに笑み
「残念、現実だよヴァルド兄。だから、言ったでしょう。ダーリンは凄いって」
ディオスは再びアルストに歩み出し
「さて…どの魔法で終わらせてやろうか…」
尋常ならざる鬼迫がアルスト達に迫る。
アルストは恐怖に染まり
「ま、待って欲しいディオス、いや…ディオス様。私達を、いや、私だけでも結構です。生かしてくれるなら、どんな報酬でも」
フッとディオスは嘲笑い
「報酬で、どうにかなるレベルと思っているのか。さあ、鏖殺の時間だ」
アルストはクソ!と恐怖に狂い、背中にあった信号弾を放つ。
信号弾は赤色で天高く光り明滅する。
「終わりだ。キサマも、お前の仲間も何もかも終わりだぁぁぁぁぁ」
アルストは叫ぶ。
「何だと…」とディオスは顔を顰めると、自分の左の遠くから地響きが迫る。
アルストはその方向を指さし
「町にいた全部部隊をここに呼び寄せた。その数、魔導騎士や魔導操車、兵士も合わせて一万。キサマ等全員、蹂躙されろ」
ディオス達の遠くから一万の兵達が迫る。
「ダーリン!」とクレティアが駆け付ける。
ディオスは、一万の兵達を見つめる。土煙が嵐のようだ。
ヴァルドも来て
「逃げよう。ディオス殿…クレティア!」
ディオスは二人から一歩前に出て
「たかが、一万程度だろう」
と、平然と冷静に告げて魔法陣を展開させる。
その魔法陣は通常の一面の魔法陣ではない、幾つもの魔法陣が多段的に重なり複雑な図形を描く。
幾つも魔法陣を練ったディオスは魔法を発動させる。
”アース・グラディウス・インパクト”
ディオスの足下から地面に亀裂が入り隆起、それが向かって来る一万の軍勢に到達、爆発的に広がり、一万の軍勢の先陣が地面の亀裂と隆起に呑み込まれる。
”タイフーン・ディストラクト”
先陣が崩壊した一万の軍勢の上空に低気圧と積乱雲が発生し空から無数の竜巻と雷が降り注ぎ、後陣の軍勢をかき回して撃滅する。
二種類の気象と大地を天変地異に変える魔法にて一万の軍勢は全滅した。
ヴァルドは、呆然と万の軍勢が滅んだ様に呑み込まれ思考停止する。
クレティアはディオスの左腕に抱き付き「流石、ダーリン」と喜んでいる。
アルストは、自分に背を向けるディオスを睨み、小刀を手に息を殺してディオスへ突き刺そうとする。
”グラビティフィールド”
ディオスは魔法を唱えていた。
「ひぎゅ」と不様な悲鳴を漏らしてアルストは高重力に潰され死んだ。その間際、ディオスはアルストを横目で見ていた。その視線は何とも冷徹で冷たい。
そうか…最初からこうなると…とアルストは絶命した。
アルストの部下達は一目散に逃げていた。
アルストも同じように逃げれば見逃されただろう。その後は知らないが…。
ディオスにはアルストがそうしないと分かっていた。
必ず隙を見せれば襲うだろうと…それがクズ外道の考えだ。
一連を見ていたクレティアは
「ダーリンってあくどい」
「嫌か…」とディオスは尋ねると
「そこが、また、いいのよ」
クレティアはディオスに頬ずりした。
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