第138話 エニグマの施設
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
ディオス達は北極へ来ていた。目的はエニグマの巨大施設への潜入である。
ロマリア帝国首都モルドルの皇帝城では、ライドルが王座に座って、映し出される立体画面を、左右の跡継ぎの座に座るヴェルオルムとアルミリアスと共に睨み見ていた。
立体画面には吹雪荒れる氷原が広がっている。
立体画面から音声で
「もう少しで、目的の場所から十キロ地点に到着します」
ライドルはギュッと両手を握り合わせて
「やっとだ。エニグマの奴らに、一矢報いる事が出来るぞ!」
そう、北極では、ロマリア北方軍とその北方を治める二つの大公の三者合同軍が、北極で発見したエニグマの施設へ向かっていた。
その軍勢、百万の兵士。
三十艦近い戦艦飛空艇と、膨大な数の雪原を移動する雪原用大型装甲トラック戦車で移動する大軍隊があった。
その軍団の中に、ディオスとナトゥムラ、スーギィ、ユリシーグ、サルダレスの数名も同行していた。
ディオスは、乗車している雪原用大型トラック戦車の運搬部のイスに座り、静かに気持ちを鋭くさせていた。
エニグマの施設に潜入するのだ。
どんな事が待ち受けているか…。
その全てに対応する為に、脳内で戦いのシュミレーションをしていると、ナトゥムラが暖かいチョコの飲み物を持って来て
「早くから、そんなに気張っていると、疲れるぞ」
ディオスはフッと笑み、暖かいチョコの飲み物を貰って
「はは…ついなぁ…」
一口飲む。
マジ美味い。
と、おいしさを噛み締めていた。
更に、ナトゥムラが美味そうな携帯ケーキのパックをディオスに渡し
「ほら、お前は、腹を膨らませて置け。いい時に、お前のスゲー加護が切れると困るからよ」
それもディオスは貰い
「ああ…ありがとう。ナトゥムラさん」
ロマリアの強大な襲撃軍勢を、同じくバルストランでは、ディオスの屋敷の広間で見つめるソフィア。
その傍にはマフィーリア、カメリア、ヴァンスボルト、レディアンと将軍達もいた。
ディオスの屋敷は大量の指令系統の装備が持ち込まれ、本陣と化していた。
その本陣には、ディオスが開発した簡易型ゼウスリオン、レディアンとゼリティア用の二機が並び、屋敷の玄関前にはエンペラードも設置されている。
ソフィアは座りながらカメリアに
「アーリシア十二国、アリストス、ロマリア、アフーリアのレオルトス、ナイトレイドの同時刻軍演習の状態はどう?」
カメリアが眼鏡を上げ
「順調です。国々は、時間通りの同時刻軍演習を順調にこなしています」
「よし」とソフィアは頷く。
世界中の包括的大規模破壊魔法の運用制限条約に加盟している国々が、同じ日、同じ時間に大規模な合同同時軍演習を行うという、異例の事態を起こした。
これは、カモフラージュで、本命は、ディオスがロマリアの軍隊と共に制圧するエニグマの施設への強襲の囮に世界中を巻き込んだ。
それ程までに、エニグマの施設は脅威なのだ。
全長五キロの超巨大施設。
どんな脅威が世界を襲撃するか分からない。
その為の保険でもあり、囮でもある。
こんな凄まじい作戦に良く、国々は同意したものだが…。
これはディオスの普段からの世界平和を行っている功績によるものだ。
このディオスの北極の様子は、世界中の協力してくれた王達や、政府高官達に通信されている。
それにはアインデウスもいた。
世界樹城の王座で、臣下達と共にディオスの行いを映す立体画面を見つめるアインデウスは
「全く、ディオスの影響力がこれ程とは…」
ゴルートスが
「アインデウス様…これは恐ろしい事ですな」
アインデウスはフッと笑み
「いや、むしろ…頼もしいくらいだ」
ディオス達の乗った雪原大型トラック戦車が止まる。
ディオス達のいる部屋にヴィスヴォッチが入り
「ポイントに到着した」
ディオス達はイスから立ち上がって、ヴィスヴォッチを先頭に通路を歩く。
全長百五十メータの雪原用大型トラック戦車の中を進みディオスに、通路のカプセル室にいるロマリアの兵士達が
「アーリシアの大英雄! 期待してますぜ!」
ディオスは右腕に力こぶを作って
「任せろ!」
外に出る為に、極低温の世界でも活動出来る魔導鎧を装着するディオス達、合計十名が装着を終えると、ヴィスヴォッチが
「では、外に出るぞ」
ゲート開放ボタンを押して、後部に出るゲートを開放した。
外の-40℃近い極低温の冷気が入るが、極低温用魔導鎧のお陰で全く問題ない。
ヴィスヴォッチを先頭に、ディオス、ナトゥムラ、スーギィ、ユリシーグ、サルダレスの者達五人。
着実に全てが凍る吹雪の中を進む。
その見ている視界も、各国達のトップに送られる。
この雪原用装備のお陰で、吹雪でも視界が良好、普通なら真っ白な筈が、魔導レーダーの反応を視覚化する頭部甲冑のお陰で、昼間の澄み渡った平原のようだ。
さらに、クレパスや氷の薄い場所を探査する魔導レーダー装置によって、的確に危険地帯を避けて進める。
正直、ディオスの力の加護を使えば、この程度の吹雪の歩みなど、飛んでいけばいいが、エニグマの施設が近いので、目立つ事をして発見されるのは、よろしくない。
ディオス達が移動する距離、四キロ程度。
まあ、この装備なら、軽々とこなせるだろう。
先頭を行くヴィスヴォッチが止まる。
「どうした?」
後ろにいるディオスが呼び掛ける。
ヴィスヴォッチが膝を崩し
「はぁ…やっぱりな」
「はぁ?」とディオスは首を傾げる。
ヴィスヴォッチは、方向を変え
「こっちに来てくれ」
ヴィスヴォッチの誘導で、数メートル動き、とあるクレパスの裂け目に来る。
「降りるぞ」
ヴィスヴォッチは、飛行アシスト機能によって、クレパスに降りる。
それにディオス達も続く。
ヴィスヴォッチが、クレパスの僅かに開いている隙間に入ると、そこにディオス達も続く。
降り立ったそこは、氷が大きな円状に切削された通路だった。
「これは…」
と、ディオスが魔導車が余裕で通れる氷のトンネルをマジマジと見つめる。
ナトゥムラが
「成る程…こういう通路があっちこっちにあるんだなぁ…」
ディオスは納得した。
「ああ…そうか、こんな永久凍土の世界だ。色々と運搬するに、氷のトンネルを幾つも作ってあるんだなぁ…」
ヴィスヴォッチが、氷のトンネルにある魔導車のタイヤの轍に触れて
「おそらく…十年ほど前に、掘られたのだろう。上に穴が開いたので、放棄されたように見える」
ディオスが
「警戒とかは?」
ヴィスヴォッチは
「こんなど寒い極地に基地があるなんて、誰も想像なんてしていない。来る事もないだろうから…碌な警備はしていないはず」
ユリシーグが
「悠々と敵地まで行けるな。吹雪の中は装備があるとはいえ、しんどかったから。ちょうどいい」
ディオス達は氷のトンネルを進み、目的の場所を目指す。
そして、大きなドームに出て、その先に巨大な金属の壁が見えた。
そう、その金属の壁こそ、エニグマの巨大基地なのだ。
ディオス達は周囲にある氷の壁やトンネルの残骸に身を隠して壁の様子を窺う。
ヴィスヴォッチが
「あそこが本命だ。そこから…恐らく…」
その傍いるディオスは、壁の何処かに接続端子がないか探していると…隣にいるユリシーグが
「ディオス…あそこ」
ユリシーグが指さす場所、壁の下部、氷の床との間に、それっぽい基板を見つけた。
ディオスが動こうとしたが、ユリシーグが
「ここはオレ達に任せろ」
ユリシーグは仲間の者達に視線を送ると、仲間は肯き、小型のラジコンヘリのよう物体を取り出し、それを見えない魔法でコーティングして、基板の方へ飛ばした。
隠した小型ラジコンヘリのそれは、見つかることなく、基板に接触すると基板を特殊な端子で浸食して接続する。
物体を飛ばしたサルダレスの仲間が、魔導端末を操作して小型の装置を経由してシステムにハッキング。
金属の壁が迫り落ちて中への入口を開く。
ディオスはサポートの加護を仲間達にエンチャンする。
”スケルトン・シールド”
術を掛けられた者同士しか見えない不可視のフィールドを、全員に纏わせる。
更にスーギィにスキルから呼び寄せる神格の神式を伝授させている。
”イリュージョン・ナイトメア”
スキルからの、神格バロールを自身にエンチャンさせた後、バロールの認識阻害のフィールドも自身を合わせて全員に纏わせる。
これにより、あらゆるセンサーがディオス達を探知出来ない。
物理的、魔法的にも不可視となったディオス達は、開いた入口から中へ入る。
金属の通路を進むディオス達、まあ、自分達以外は全く分からないので、余裕がある。
ナトゥムラが通路の金属を触って
「なんだ? 金属っぽいセラミックのような感じがするぞ」
この世界の住人は、魔力を送ってその物質がどんなモノか当てられる。
ディオスも同じく触って魔力を送り、部材を調べる。
「確かに…見た事もない材料だ」
その内に、ユリシーグが
「あれ、なんだ?」
丁度、お腹の真ん中の高さで凹んだ壁の部分を見つける。
ディオスが来て、探査魔法で調べると
「何かの回路装置がある…もしかして…」
と、懐の魔導収納から、特注の魔導端末を取り出し、壁にある端子の部分に特殊な魔導端子粘土を付ける。
この魔導端子粘土、便利な道具で、超古代遺跡なんかにある規格が合わない端子を、使う端末の端子に変えてくるモノだ。
魔導端末粘土は、ディオスの端末の端子に装置の端末を作り替え、ディオスはそれに接続して情報を取り出す。
「おお…どうやら、案内板のような装置らしい。この施設内の大体の構造が分かるぞ」
それにサルダレスの者達も近づき、ディオスの繋げている端子に自分達の魔導端末の端子を繋げて施設の構造を見る。
ディオス達の端末に映る全長五キロの施設の構造は、数百近いブロックが組み合わさった構造だ。
ディオスは多重ブロック構造を見ながら
「成る程…個々のブロックで個々の状態を管理、それをネットワーク化して、中心にある中央で一括管理しているのか…」
スーギィが
「中央に行けば大体の事が分かるのか…」
ユリシーグが
「その前に色々と通りそうだな」
ディオスが
「先を急ごう。早く、一斉掃射の大号令も出したいし」
ディオス達は先を進み、中央まで行く直通のカーゴのような乗り物に乗る。
鉄柵のカーゴがディオス達を乗せて進む。
ディオスは鉄柵に手を置いて
「まあ、五キロもの巨大施設だ。これが普通の移動だろう」
その内、サルダレスの一人が
「皆さん。どうやら、何かの大きなブロックを通過するようですが…」
ナトゥムラが
「戦艦飛空艇でも置いてあるのか?」
全員を乗せたカーゴが、数十メートルもの高さがあるブロックに入った。
そこで全員が絶句した。
そこは、全長三十メートルの人工筋肉むき出しの巨人が釣られる巨大空間だった。
「おいおい…」
ナトゥムラが驚愕の声を漏らす。
全員を乗せたカーゴが筋肉むき出しの巨人が並ぶ直線を進む。
全員が釘付けで、ディオスが巨人の胸部下、鳩尾にある半球体の中の液体に浮かんでいる存在に絶句した。
嘗て人だった何かだった。
全身が何かの回路に浸食され、コンピュータの基板のようにされた姿に、ディオスはう…と口を押さえた。
そう、人間を部品化した姿だった。
シューティア教という宗教関係のスーギィが拳を堅く握りしめ
「なんという、冒涜を…」
そして、その中には子供もいた。
ディオスが飛翔魔法で飛び出そうとしたが、その肩をユリシーグが掴み
「もう…ああ…なってしまっては…」
そう、助ける事は出来ない。
恐らく人間としての生命さえ無いだろう。
ディオスは
「アアアアアアアアーーーー」
怒りの悲鳴を上げた。
その声は、同じ不可視の者達しか届かない。
その怒りの悲鳴に、全員が項垂れた。
そこが一キロ前後続いた後、今度は普通の天井の場所に来た。
最悪な光景のミュージアムは、更に最悪となった。
そこは、人を基板装置に改造する現場だった。
幾つもの円筒の水槽に浮かぶ、基板化した人達。
どれもが、悲痛な顔をしていた。
実は、ディオス達が侵入して見ている光景を中継で、今回の作戦に参加してくれた王国のトップ達にも見せていた。
ロマリアでは、ライドルが余りに酷い光景に絶句して額を抱え、ヴェルオルムは怒りで眉が歪み、アルミリアスは見ている事が出来なかった。
バルストランでは、ディオスの屋敷でソフィアが仲間と共に見ていた。
ソフィアは頭を抱え、マフィーリアは
「むごい、こんな事が許されていたとは…」
施設でカーゴに乗って進むディオス達、ディオスはカーゴの鉄柵に拳を叩き付けている。
怒りでのぼせ上がっていた。
そこへナトゥムラが来て、ディオスの殴る拳を取って
「今は、その怒りを取って置け、後で必ず…」
ディオスは怒りに震えながら頷いた。
アズナブル達がいる場所、とある室内、そこは…絵画や調度品に覆われた文明的な広い室内である。
大窓の向こうには、ちょっとした庭園が広がり、その天井は青の人工照明で照らされている。
その部屋のソファーで編み物をするララーナ。
その少し離れた大きなソファーで寝そべるレイドは、何かの端末を操作していた。
「ハァ! 全く…のぼせ上がりやがって」
と、レイドの見ているのは、世界の多くの場所で行われる各国々の同時刻大規模軍事演習の報道だった。
苛立つレイドにララーナが
「いいじゃない。こういう時は大人しくしているのが肝心よ」
レイドが、端末を何処かへ投げる。端末は床に落ちる前に、僅かに床に浮かんで落ちる力を相殺した。
レイドは腕組みして枕に
「何時、終わるんだ? ええ? この世界は、あのディオス・グレンテル野郎の所為で纏まりつつある。ディオスの野郎が生きている限り続くぞ」
ララーナはフッと笑み
「いいじゃない。所詮、ディオスはこの世界の平均寿命と同じ百年しか生きられない。私達のような人類は、この世界でいうなら長寿のエルフのように二百年も生きられる。私達の寿命の尺度からすれば、ほんのチョットの間よ」
レイドは、は!と悪態を吐いて
「それじゃあ、同じ寿命ベースのアズナブル様、お父様が死んでからしか行動が起こせないじゃあないか!」
ララーナは手を止め
「レイド…。私達はお父様の子なの。たとえ、お父様が死んでも、その後を受け継げばいい。私達が生きている限り、お父様の意思は生きるわ」
「はぁ!」とレイドは呆れた声を漏らして体を横にする。
そして、レイドがパチンと指を鳴らすと、投げた端末がレイドの元へ飛んで来て戻り、レイドは端末を見る。
まあ、動いている軍隊の内訳でも見てみようと…。
そこへアズナブルが来た。仮面を付けていない素顔である。
アズナブルはララーナの傍に来て隣のソファーに座り
「長い休暇だ。存分に養生して置け。何時、流れが変わるか分からないからなぁ」
「はい」とララーナは微笑み。
レイドはソッポを向いている。
アズナブルは、レイドが動けない事に苛立っているのを察した。
ララーナは答えないレイドに
「レイド…」
と、レイドの呼び掛けると、レイドが体を起こした。
レイドは必死に端末を操作して
「なんだコレ? ええ?」
アズナブルが
「どうしたレイド?」
レイドがアズナブルの所へ行き
「これを…」
端末の情報を見せた。
それは、ロマリアで演習で動いている軍隊の内訳である。
「これが何か?」
アズナブルが問うとレイドが
「ロマリアで動いている軍団の、北方に関する軍団の活動が全く載っていません」
アズナブルが
「警備では?」
レイドが首を横に振り
「それにしても、おかしいです。ロマリア北方軍と北方の二つの大公軍、総勢100万がごっそり、その動きを載せていないんです」
「何?」
と、アズナブルの背筋が冷たくなる。嫌な予感がする。
ララーナが裁縫を止めて、手を叩き端末を呼び、情報の調査をする。
「は…」と、ララーナは息を飲んだ。
「アズナブル様…北極の方へ、今までにない量の国々の探査衛星、天の目が集中しています」
アズナブルの瞳が驚愕に染まる。
北極には、ゴルドの根城とするディスティニーアークがある。
「まさか!」
アズナブルは、直ぐに右手を回す。
アズナブルの右手には、様々な場所と通信を繋げる生体機構装置が一体化している。
急いで、ゴルドとの通信を繋げる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。