第137話 北極へ
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あらすじです。
ヴァシロウスの事を後世に残す資料館が完成して、ディオスは家族や屋敷の女中達と共に、その資料館へ訪れる。ちょっとした羞恥プレイの晒されるも、ディオス達は満喫。
その後、何時ものリンスにあるアルマ―で食事だが…今回は違っていた。
その面子は、ディオス、曙光国の一清、サルダレスのユリシーグ、レギレル国のヴィクトール、アリストス共和帝国のマリウスだった。
ディオスが今いる場所は、ヴァシロウスの魔導石の山が鎮座する海が見える海岸である。
そう、港都市リンスの傍だ。
そこの直ぐ近くに五つのドーム状の大きな施設が建築されて、今日完成の日の目を見る。
施設の名前は、ヴァシロウス資料館。
ヴァシロウスに関する事を後世に残す為に建造された施設だ。
その完成と開館の為のテープカットにディオス達、家族が全員が呼ばれた。
無論、そこには屋敷の仲間であるレベッカにユーリ、チズ、ココナもいる。
ディオスは渋い顔をして、背後に家族と屋敷の仲間達に、沢山の観衆に見守られ、入口のテープを切った。
ワァァァァァァァァァァァァ
歓声が資料館全体を包む。
そして、目映いシャッターの嵐がディオスを包んだ。
ディオスは、切ったテープを持ちながら
何の放置プレーだ?
恥ずかしかった。
ヴァシロウス資料館の最初の来場者は、もちろん、ディオスである。
それは当然という空気が全体を包んでいた。
ディオスは、来館の入口に来ると、入場の切符なんて必要ないのに、切符を切る女性がいて、ディオスが自分だけに用意された入場の切符を切って貰う。
因みに、入場するには、入口にある魔導プレートの切符を買い、ゲートの入口を通るだけで十分なのだ。
最新じゃん!
と、ディオスは内心でツッコむ。
ディオスは家族と屋敷の仲間と共に最初の施設に入る。
そこは、ヴァシロウスの始まりと、その時の被害を示した資料館だ。
第一次ヴァシロウス降臨、死者、一億五千万人。
崩壊した建物や、被害にあった人々の写真や、その時の報道が流れている。
二番目の資料館、第二次ヴァシロウス降臨。
絶望的な風景の写真が沢山広がり、死者、一億人。
アーリシアの国々の軍隊の壊滅が記されている。
三番目の第三次ヴァシロウス降臨。
死者一億二千万人、被災者、三億六千万人
ここまで来ると、気分が完全に落ち込む。
四番目、もう止めに近い第四次ヴァシロウス降臨。
一番の大規模軍団、二千万が全滅した風景。
死者、二億人、被災者、五億人
この資料を見ているゼリティアの顔が悲しそうだった。
そして、最後の五番目。
入口には、どこで撮ったのか? ヴァシロウス殲滅部隊の旗艦の甲板で、堂々と構えるディオスとクレティアにクリシュナの三人の後ろ姿の写真が、デカデカとあった。
ハズい…とディオスは思う。
五番目のここは、希望が溢れてくるような音楽が鳴り響いていた。
ヴァシロウスの全長を示した図。
そして、自分が戦った全ての記録映像が流れる。
それを見てディオスはもっと恥ずかしくなる。
人に見せるものんじゃあないぞーーーー
そして、先へ進むと、ディオスがヴァシロウスを倒すに使用した魔法の解説が並んでいる。
更に先は、透明なドームのテラスだ。
その正面に、魔導石化した巨大なヴァシロウスの亡骸がある海が見える。
そう、ここで食事しながら、倒されたヴァシロウスの光景を見るのだ。
そして、このドーム型のテラスの真ん中には、ヴァシロウスを倒した後の、部隊の者達の声援に応えるディオスと、クレティアにクリシュナの三人の姿が立体映像で投影されている。
ディオスは額を抱える。
恥ずかしい、恥ずかしい、あああ! 穴があったら入りたい!
それを察して傍にいるクレティアとクリシュナにゼリティアは苦笑いだ。
外に出たディオスは、記者達の取材を受ける。
「どうですか! この施設の完成度は?」
ディオスは照れながら
「恥ずかしいです。ですが…素晴らしい施設だと思います。犠牲になった人達の事を忘れない為にも…」
記者達はウンウンと深く頷いていた。
こうして、羞恥プレイを終えたディオスは、何時ものように味噌汁が食べれるあの女将の店、アルマーに来た。
家族は付いてきていない。
何時もなら、妻達クレティア、クリシュナ、ゼリティア、子供達アイカ、ティリオ、リリーシャ、ゼティアの大所帯で来る。
前にもアリストスの子供達を連れて、ほとんど貸し切りにした事もあった。
だが、今回だけは、ディオス一人だ。
その理由は…
「来たか…」
一清がカウンターに座っていた。
その隣にはユリシーグもいる。
「待っていたぞディオス」
「すまん…」
と、ディオスは二人の下へ来る。
そして、後ろの常連達が食事をしている所へ
「皆さん…」
シーと人差し指を立て口に当てる。
常連達はニヤリと笑む。
そう、重要な話をするので、聞いた事は黙って欲しいという意味だ。
常連達は納得している。
ディオスは、色んな世界の情勢に関わっている。
それを知ってどこかにバラせば、自分の身が危険になる。
だが、それ以前に、自分達のアーリシアの大英雄を裏切るなんて真似は絶対にしない。
ここであった話は、死ぬまで持っていく。
それは優越感だ。自分達しか知らない世界を動かす情報を知っているという…。
ディオス達三人がいる店に、二名が来る。
一人はアリストスのマリウス。もう一人はレギレルのヴィクトールだった。
二人はディオスの開いている右に座る。
ディオスはマリウスとヴィクトールを見て
「まさか、二人は同門の師の元で学んだ仲とはなぁ…」
ヴィクトールはフッと笑み
「まあねぇ」
女将が、店のスープ料理を五人に出す。
ユリシーグがカウンターを滑らせてとある資料を四人の前に置く。
「これが前に、ディオスが寄越してくれたアフーリアの施設のデータを元に、判明した事だ」
四人は手にする。
マリウスが
「この情報…我らの方でも一致している」
一清が
「これが、そのデータを元に、調べた場所の様子だ」
他の四人に一清が持って来た資料を渡す。
一清は
「曙光国の高高度、精密探査天の目の探査によると…その資料にあった。北極の氷河地帯の下に、巨大な全長五キロにもなる円形の巨大施設があるのが分かった」
ユリシーグが
「我らの調査によって、この巨大施設がどこの国の施設でもないと、明白な回答が得られた。この施設の近くに位置するロマリアは、速効でこの施設を押さえたいと、言っている」
ディオスは
「マリウス、アリストスは? アインデウス皇帝は…どう?」
マリウスは渋い顔をして
「ディオスがもたらしたアフーリアの事があって、そっちの方を何とかするに力を入れている」
ディオスが鋭い顔をして
「じゃあ、この北極の事はオレ達がイニシアティブをとってもいいな」
マリウスが
「もう少し待て」
ドンとディオスはテーブルを叩き
「待てるかーーーー」
声を荒げる。
ディオスは威圧を込めて
「一清の資料を見たろう。曙光国のレアスキル持ちがいる漁村が襲撃され、ユグラシア大陸の各地区でも同じ事が起こっている。多くの人々が踏みにじられ、虐殺された。ガマンの限界だ」
ディオスの怒りの言葉に、常連客達は笑みがこぼれる。
そう、ディオスは犠牲者が出た事に怒りを噴出させている。
まさに、大英雄だと。
常連客は静かに見つめる。
マリウスが両手を翳しながら
「いいか、エニグマの事は。相当に慎重に行動しなければならない案件だ。大胆な行動をして世界にどんな影響があるか…その不安定要素の方が大きいんだぞ」
ディオスはフッと怪しげに笑み
「分かった。オレ等が対処した後、その施設の扱いや情報、その他諸々は、全部、お前のアインデウスの方へ渡してやる。それで十分だろう」
マリウスはグッとディオスを睨み
「そうやって、潰し回って後始末を、アインデウス皇帝陛下に押しつけるのか! ふざけるな!」
「ああ!」とディオスは声を荒げ「こっちがふざけんなだ! 何らかの国同士の対策機関や委員会も設けないで、静かにしてろって! お前達がそんなに消極的なら、オレ等はオレ等で勝手にやらせて貰うぞ」
マリウスがディオスを凝視して
「何度も言うが! エニグマの事は、とんでも無い事と通じているんだ! おいそれと、公開できないと、言っているだろうが!」
ケンカになりそうな雰囲気にヴィクトールが
「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
止めに入った。
ユリシーグが
「オレ達、サルダレスもアーリシア十二王国やロマリア帝国も、ディオスと同じ考えだ。それを止めるなら、アリストス共和帝国に…何らかの…」
マリウスが
「我々にそんな疑惑は一切無い! 本当に世界の影響を考えての事だ!」
ヴィクトールが
「マリウス。オレは…マリウスと同意見だ。あまり大きな衝撃は世界にとって…このアースガイアにとっても、劇毒だ。だが…父上が…レギレル王は…ディオスからもたらされた情報に同調の意を示している。他のアーリシアの国々もだ。それを止めようとしても…止められない状態だ」
マリウスは一清の方へ
「曙光国は? 汝の国はどういうつもりだ? 曙光国はアリストス共和帝国の同盟国だろう」
一清は、鋭い顔をして
「曙光国の政府は乗り気ではないが…。曙光国の財団関係は、乗り気だ。オレも曙光国にある財団やそういう者達にはエニグマとの因縁がある。今まで遅れを取ってきたが…ここで先手を打てるなら、極秘だが…喜んで力を貸すだろう」
マリウスは絶望したように頭を抱える。
そこへディオスが
「お前達が何を隠しているかは、どうでいい。だから、オレ達が対処した後をすればいい」
マリウスは、怒りの視線でディオスに
「ディオス、キサマは本当にエグい。最初から全員に根回しをして、そのようにさせる状態に追い込んでしまう。止める事なんて出来はしない。ただ、事後報告をするだけに…」
ディオスは一枚の資料をマリウスに渡す。
マリウスはそれを手にして
「エニグマに対する、特別対策機関及び委員会の設置に関する案か…」
ディオスはポツリ…
「頭にはお前達アリストスを据えてやる」
全てがそこに追い込まれるようにされている。
マリウスは項垂れると、その肩にヴィクトールが慰めるように手を置く。
ディオスが立ち上がると、一清、ユリシーグも立ち上がる。
ディオスが微笑みながらお代を置いて
「女将さん、ご馳走様」
女将は笑み
「また、家族で来ておくれ」
「ああ…」とディオスは微笑む。
ディオスが歩いて行くと、常連の初老の獣人の男が
「また、アンタにそっくりな男の子の顔を見せてくれよ」
「おう、また、来るよ。家族でね」
と、ディオスは答えて店から出て行った。
項垂れるマリウスに、女将がサービスの小鉢を出して
「まあ、大変だろうけど…」
マリウスは頭を振って
「本当にあの男は恐ろしい」
ディオスは、バルストランに帰国、そして屋敷に帰って来ると、ソフィアが多くの部下を連れてディオスの屋敷に来た。
ディオスは、ソフィアを前に
「ソフィア…」
と、呟くと、ソフィアはバンとディオスの肩を叩き
「さあ、存分にやって来なさい! アンタの屋敷や子供達、バルストランの守りは、アタシが何とかしてあげるから」
ディオスが編み出した強力な防衛システムが、この屋敷をバルストランをアーリシアを守ってくれる。
グランスヴァイン級魔法運用者達、超魔導兵器ゼウスリオン、集合意識超兵器エンペラード。
後顧の憂いはない。
「行ってくる」
と、ディオスは告げた次に妻達、クリシュナ、クレティア、ゼリティアの三人の前に立つ。
申し訳なさそうな顔でディオスが
「ごめん。こんな事になった。何時も屋敷に縛り付けるような事をして、君たちの自由を…」
クレティアがディオスの頬を抓み
「いいの。アタシ達はダーリンが大切にしている場所を守るのが仕事なの。だから、存分に外で働けるでしょう」
クリシュナが笑み
「そうよ。私達は犠牲になっているなんて思っていないから」
ゼリティアが微笑み
「夫殿、これが一段落ついたら、ゆっくりと過ごそうぞ」
ディオスは柔らかく笑み
「ああ…必ずだ」
約束をして、玄関に向かう、そこには同じく同行してくれるナトゥムラとスーギィがいた。
ナトゥムラがディオスの右に
「さあ、とっと終わらして、お姉ちゃん達と飲むぞ」
スーギィはディオスの左に
「全く、大事を持ち込んで、まあ…手伝ってやる」
ディオスは付いてきてくれる二人に感謝して
「ありがとうございます。ナトゥムラさん。スーギィさん」
三人は一路、ロマリアへ向かった。
アリストス共和帝国、アインデウス皇帝の世界樹城で、マリウスから報告を聞いたアインデウスは王座で額を抱えた。
「そうか…御苦労であったマリウス」
「は…」
と、マリウスに覇気が無い。
そこへディウゴスも来て
「アインデウス様…大変、心苦しいでしょうが…。止められません」
アインデウスは王座から立ち上がって
「ディウゴス。これ程までに世界の動きが激しかったのは何時くらいか…」
ディウゴスはお辞儀して
「わたくしが記憶している代でありますと…五千年前のディヴァスの時、以来かと」
アインデウスは腕を後ろで組み遠くを見つめ
「ディヴァスは、かなり…我に近付いた。という事は…ディオスも…」
ディウゴスは、眼鏡を外しキリリとした深紅の瞳を顕わに
「聖帝ディヴァスに届くか、若しくは…越えるやも知れません」
アインデウスはフーと息を吐き
「ディウゴス、こういう時こそ、急いで動く事は無い。慎重に行くぞ」
「は」とディウゴスは頭を下げた。
アインデウスは、遠くを鋭く見つめながら
ディヴァスは、ドッラークレス(超龍)まで来た。そして…ドラグラー(超龍帝)まで届く事はなかった。だが、ディオスは…。
一万と幾百年、幾代も経てついに我に届く存在が、現れるという事か…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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